「京都」と一致するもの

nocturnal-550.jpg『ノクターナルアニマルズ』トークイベント

第89回アカデミー賞®助演男優賞ノミネート(マイケル・シャノン)
第74回ゴールデングローブ賞助演男優賞(アーロン・テイラー=ジョンソン)
第73回ヴェネチア国際映画祭 審査員グランプリ 
他多数受賞!!

サイコパス俳優揃い踏み!ありえない程細かいディティール!
トム
フォードが如何に映画を愛しているかわかる!


<開催概要>
日程:10月12日(木)トークイベント20:30~21:00
会場:映画美学校試写室(東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS B1F)
登壇ゲスト:樋口毅宏氏(作家)、高橋ヨシキ氏(デザイナー・映画ライター)


nocturnal-ivent-500.jpg世界的ファッションデザイナーのトム・フォードが『シングルマン』(09)以来、7年ぶりに監督を務めた最新作『ノクターナル・アニマルズ』が11月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開致します。 公開に先立ち”13日の金曜日”の前夜、10月12日(木)映画美学校試写室(渋谷)にて、試写会上映後に樋口毅宏さん(作家)×高橋ヨシキさん(デザイナー・映画ライター)によるトークイベントが行われました。


主演にエイミー・アダムス(『メッセージ』)、ジェイク・ギレンホール(『ナイトクローラー』)の実力派の2人を迎えた本作は、第73回ヴェネチア国際映画祭で審査員グランプリ受賞をはじめ、脇を固める名優マイケル・シャノンが本年度アカデミー賞で助演男優賞にノミネート、アーロン・テイラー=ジョンソンが第74回ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞するなど、各国の映画祭で受賞を重ね、高い評価を受けています。


日本最速で行われた試写会は、緊張感に満ちていた。上映中張りつめて息を飲んでいた来場者は、エンドクレジット後に唖然茫然とした表情を見せていた。一体、今自分たちは何を見たのだろうか?という空気が漂う中、上映後に行われた作家の樋口毅宏さん、デザイナーで映画ライターの高橋ヨシキさんによるトークイベントでは、この映画が何を示しているのかを分かりやすく解説してくれた。さらに、作家の目線から、樋口さんはこの映画の複雑な構造について『インセプション』『トータルリコール』などを例に挙げて解説。高橋さんも、トム・フォードという人物や彼のこだわりの映像について語った。
 


 
nocturnal-500-1.jpg★サイコパス感半端ない!最も信頼できる俳優たちの名演は超一級!


イベントに登壇早々、作家の樋口毅宏さんは「みなさんどうでした?一言で伝えにくいもやもやの残る映画でしょう」と、映画を観終わったばかりで茫然とする来場者を気遣い、興奮と緊張の糸がほどけた表情を見回した。

「ジェイク・ギレンホールは最も信頼できる俳優の一人。観て損することはない、元のとれる俳優ですね。その他のキャストも金だけの映画に出ない実力派ばかり揃ったオールキャストだよね!ジェイクなんて『ブロークバック・マウンテン』、『ナイトクローラー』、『ゾディアック』と本当に素晴らしい、トチ狂ってる!」と興奮気味に語る樋口さんに、「マペットに似てますよね。セサミストリートのアーニーとバートの、バートの方。目元が特にね」と高橋ヨシキさん。会場を笑いに誘った。

その他のキャスティングについても樋口さんは「『キックアス』シリーズでひ弱なオタク役を演じて、『ノーウェア・ボーイひとりぼっちのあいつ』ではジョン・レノンを演じるアーロン・テイラー=ジョンソンが、まさかあんな役を演じるなんて!実生活ではいいお父さんのリベラルな良い奴が、ちょー嫌な悪役を見事に演じていますね!」と本作でゴールデングローブ賞を受賞したアーロン・テイラー=ジョンソンを大絶賛!

アーロンと並び存在感を放つ警察官役を演じたマイケル・シャノンはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。「彼もまた良い俳優だよね。『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』『THE ICEMAN 氷の処刑人』とかもそうだけど、彼もまたJ・ギレンホールと同じくサイコパスな演技が最高に似合う!今度から何か困ったことがあったら末期がんの警察に何か頼もうと思った」と本作がサイコパス演技の上手い名俳優ぞろいと熱弁を振るった。



nocturnal-500-4.jpg★理想を追い求めた女は小説世界に飲み込まれた


本作の主人公スーザン(エイミー・アダムス)は、理想を追い求めた結果、エドワード(ジェイク・ギレンホール)からハットン(アーミー・ハマー)に鞍替えし、金も名誉も手にいれた、アートギャラリーのオーナー。ある日彼女の元に元夫から、クオリティの高い、残忍な内容の小説が届いたところから物語がはじまる。

映画は現在のスーザンと、過去のスーザンとエドワードの出来事、そして小説を読むスーザンの頭の中のイメージが映像化された3部構造から成っている。「さらば雑司ヶ谷」で鮮烈なデビューを果たした樋口さんは「煌びやかな世界に身を置く女性が主人公。だけど夢の中の方がリアルだと感じることがある。そこにさらに元夫からのものすごい内容の小説が届くわけですよね。読み進めていくうちに、今自分が立っている場所は現実か虚構なのかもわからなくなってしまうんですよ」と映画で描かれる主人公の心情の構造を解説。

さらに「こういう不思議な構造は他にもあって、映画だと『インセプション』や『トータルリコール』やウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』とか、日本では江戸川乱歩が「うつし世はゆめ夜の夢こそまこと」と言ったこととかもありますね」と、似た構造を持つ映画などを紹介し「『ノクターナル・アニマルズ』が他と違うと思った部分は、小説の中に自分が飲み込まれてゆく、心を奪われていくという部分ですね」と目の前の現実と、心奪われる魅惑的な小説世界のバランスについて解説した。


nocturnal-500-3.jpg★ありえない程のディティールと伏線!気づいたらゾワっと鳥肌もの


本作の監督トム・フォードは、世界的に有名なファッションデザイナーであり、自身のブランドの立ち上げと同時に「FADE TO BLACK」という映画の制作会社を立ち上げた。デザイナーであり映画ライターの高橋さんは「世界最高のデザイナーは何をやってもうまい!ファションデザインしても良し、着こなしても良し、映画作っても良しのズルい奴!」と絶賛!

いくつもの伏線が張り巡らされている複雑な構造について問われると「彼は本当に映画が好きなんだと思う。前作の『シングルマン』もそうだけど『ノクターナル・アニマルズ』もかなりディテールにこだわっている部分が多い。ものすごく良く作られている。相当な数の映画を観て、すごく真面目に映画を作る人だと感じましたね。色んな映画を感じる部分はあるけれど、露骨な引用をしていないのも良いですね。デザイナーとしても超一級なだけに、映像へのこだわりはすごいなと感じました」と、監督の映画愛と映像や脚本への強いこだわりについて、監督の言葉を代弁するかのようにきめ細やかに解説した。

また前作との共通点については「『シングルマン』では主人公が生き甲斐をなくしていたけれど、突如目の前にイケメンが表れた時から、映像が色味をもち始めました。それと同じで『ノクターナル・アニマルズ』のスーザンは、生活は色をなくしているけれど、小説を読むとカラフルになる。どちらも生きる実感を帯びるととたんに映像が色鮮やかになるんですよね」と語った。
 


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★この映画を一言で表すと…


樋口さんは「どう表現すればいいのか困りますよね。でもものすごいものを観た感がある映画。あとは、何を着飾っていようが、どんな豪邸に住んでいようか、その物質とお前自身は何も関係ないぞ、と言われているような映画ですね。怒りと復讐を込めた小説とか、どんな本や映画を観るかで自分の価値は決まると思う」。

 

 

nocturnal-ivent-takahashi-240-1.jpg高橋さんは「この映画は色んな見方を楽しめるオープンエンディングな映画ですよね。解釈は観る人それぞれに委ねられているんですよ。だから人それぞれの感想があって良いと思います。それを踏まえての僕の解釈は、誰もが感じる罪悪感にまつわる映画だと思うんですよね。限りなくエイミー・アダムスの一人相撲に近い。若い時にした後悔を未だに乗り越えられないんですよね。その穴は物質では埋まらない。ぼく個人は罪悪感なんて捨てちまえと思うけど、そう簡単にいくわけじゃないのが辛いねという映画だと思ってます」と締めくくった。
 

 


『ノクターナル・アニマルズ』

【STORY】
経済的には恵まれながらも、夫との関係が上手くいかず満たされない日々を過ごすスーザンのもとに20年前に別れた元夫から送られてきた衝撃的な内容の小説が送られてくる。精神的弱さを軽蔑していたはずの元夫の送ってきた小説の中に、それまで触れたことのない非凡な才能を読み取り、再会を望むようになるスーザン。彼はなぜ小説を送ってきたのか。それはまだ残る愛なのか、それとも復讐なのか――。


脚本・監督:トム・フォード 
出演:エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール、マイケル・シャノン、アーロン・テイラー=ジョンソン、アイラ・フィッシャー、アーミー・ハマー、ローラ・リニー、アンドレア・ライズブロー、マイケル・シーン
原作:「ノクターナル・アニマルズ」(オースティン・ライト著/ハヤカワ文庫)
2016/アメリカ/116分/PG-12 /ユニバーサル作品 配給:ビターズ・エンド/パルコ 
(C)Universal Pictures  
公式サイト⇒ http://www.nocturnalanimals.jp/

2017年11月3日(金・祝)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、シネマート心斎橋、シネ・リーブル神戸、109シネマズHAT神戸、11月4日(土)~京都シネマ ほか全国ロードショー!


 (オフィシャル・レポートより)

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《京都国際映画祭2017》

~映画もアートもその他もぜんぶ~

NON STYLE登壇!井上がノーベル賞詩人の逃亡劇に共感⁉
 

 『NO』『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』を手掛けたチリ出身のパブロ・ラライン監督が祖国の英雄、パブロ・ネルーダの半生を描いた『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』が、11月11日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国ロードショーとなります。

この度、10月12日より開催中の京都国際映画祭2017にて特別招待作品として上映、NON STYLEのお二人が登壇するトークイベントが開催されました。


<イベント概要>

日時:10月13日(金) 10:00~場所:TOHOシネマズ二条
登壇者:NON STYLE 石田明、井上裕介  
司会:ロバータ


只今開催中の「京都国際映画祭2107」、2日目となる13日(金)に特別招待作品『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』が上映、上映前にNONSTYLE 石田明、井上裕介登壇のトークイベントが行われた。

MCロバータの呼び込みで盛大な拍手とともにNONSTYLEの石田明、井上裕介の二人が元気に登場!本作を見てお二人は詩が素敵、見ていて勉強になるので授業的な感じでも見られる、と映画を絶賛。

そして本イベントの登壇に抜擢された理由に関して、石田は、「司会のロバータさんはネルーダと名前が似てるからだよね。私、石田は大いなる愛、そして井上さんは逃亡者キャスティングですね。」と井上の昨年の井上の自動車事故に関して触れ、場を沸かせた。

また、本作の主人公ネルーダが政治家であり、ノーベル賞をも受賞した詩人であったことから、「日本でいうなら小泉純一郎や浜田幸一」とネルーダの多才さを讃えた。

SNSなどで愛の詩を投稿していた井上は、詩を学生時代から女性に送っていたそうだが、石田が「君は僕の単三電池です。だっけ?」と聞いたところ、井上は「バッテリーあんまり持たへんやんけ!」とNON STYLEお得意の井上イジリが炸裂。

喜劇もこなす主演のルイス・ニェッコをチリのビートたけしと多才さを例え、一方、執筆業もこなす石田に対して、自分の作品に主演してほしい人が誰か聞くと、真っ先に出た名前が、画になる男であるという理由で井上だった。それを聞いて井上は「ありがとうございます。吉本興業のキムタクです」とおどける。

サブタイトルの「大いなる愛の逃亡者」であることから、逃亡されたことはあるか、と井上に聞くと、電光石火の如く「なんやその質問!?」と昨年の事故のイジリに対して突っ込みを入れ、石田はネルーダにかけて「ニゲータ(逃げた)さん」と井上に対して愛称で呼び、会場は爆笑の渦に包まれた。井上は最後に事故のことを「気付かなかっただけなんです」と付け足して、イベントが終了となった。


neruda-main-550.jpg『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』

<STORY>
1948年、冷戦の影響はチリにも及び、上院議員で共産党員のパブロ・ネルーダ(ルイス・ニェッコ)の元にも共産党が非合法の扱いを受けるとの報告がきた。ネルーダは上院議会で政府を非難し、ビデラ大統領から弾劾されてしまう。大統領は警察官ペルショノー(ガエル・ガルシア・ベルナル)にネルーダの逮捕を命じ、ネルーダの危険な逃亡劇が始まる―。


監督:パブロ・ラライン『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』  
脚本:ギレルモ・カルデロン 
出演:ルイス・ニェッコ、メルセデス・モラーン、ガエル・ガルシア・ベルナル 他
原題:NERUDA
2016/チリ・アルゼンチン・フランス・スペイン/スペイン語/108分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:石井美智子/字幕監修:野谷文昭 
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
 ⒸFabula, FunnyBalloons, AZ Films, Setembro Cine, WilliesMovies, A.I.E. Santiago de Chile, 2016  

公式サイト⇒ http://neruda-movie.jp/


2017年11月11日(土)~新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA 、
12月9日(土)~シネ・リーブル梅田、以降京都シネマにて順次ロードショー!


(オフィシャル・レポートより)

ernesto-bu2-550-1.jpg『エルネスト』公開御礼舞台挨拶 inTOHOシネマズなんば

(2017年10月8日(日)TOHOシネマズなんばにて)
ゲスト:オダギリジョー(41歳)、阪本順治監督(59歳)



ernesto-500-1.jpg今の時代だからこそ、
純粋に一途に生きた名もなき青年に心を寄せてほしい。


 

1959年のキューバ革命の英雄のひとり、エルネスト・チェ・ゲバラ。そのファーストネーム「エルネスト」を戦闘名にもらったボリビア出身の日系二世のフレディ・前村・ウルタードという医学生がいた。故国ボリビアの圧政への抵抗運動にチェ・ゲバラと共に参戦し、25歳という若さで亡くなった。立派な医師を目指して懸命に努力していた若者が、武器を持って戦う。一体何が彼にそうさせたのか。どのような青春時代を過ごしていたのか。チェ・ゲバラ(39歳)、フレディ・前村(25歳) 没後50年、知られざる日系二世の青春に心を寄せることで見えてくるものとは――。


「混迷する世界情勢の中、生きる目的さえ見出せない若者が多い今だからこそ、フレディ・前村の青春映画を作る意味がある」とその制作動機を語った阪本順治監督。また、「滅多に出会えない役。役者としても人間としても大きな自信に繋がった」と語るオダギリジョー。二人は10月6日(金)に公開されたばかりの劇場で、満員の観客を前に公開御礼の舞台挨拶を行った。

詳細は以下の通りです。(敬称略)
 



―― 最初のご挨拶。
ernesto-bu2-joe-240-1.jpgオダギリ:今日は足を運んで下さってありがとうございます。難波ということでたこ焼きを用意して下さいました。監督さんも用意してもらったんですか?
阪本監督:あんたに用意してもらったものは僕にも用意してもらってます(笑)。
オダギリ:あ~そうか…たこ焼きを食べたからといって元気になった訳ではないのですが、今日は頑張ります。よろしくお願いします。

阪本監督:こんにちは。観る前ということであまりあれこれ話したくないのですが、3年間準備して、オダギリ君もいろんなことを準備して、やっと公開の日を迎えることができました。戦争映画でもないし戦闘シーンの多いアクション映画でもありません。ひとりの名もなき学生が武器を持つまでの5年間の学生生活を中心にした物語です。オダギリ君は凄い仕事をやってくれました。皆さん、楽しんで帰って下さい。今日はありがとうございます。


―― 青春映画だと感じて熱い想いがしましたが?
阪本監督:僕、青春映画撮ったことないんですが、恥ずかしいくらい真っ直ぐな話です。昨今このような世の中ですから、一筋に生きた人間を見てもらうのもまた新鮮かな、と思いました。


―― この映画がフレディ・前村を知るキッカケになったのは大きかったと思いますが、フレディに近付くアプローチは?
ernesto-bu2-joe-240-2.jpgオダギリ:数十秒じゃ語れないですね~(笑)。フレディの外見が僕のいとこに似ていることに気付いて、ある程度は見た目を似せられるのではと思いました。中身については、先ず日焼けをした方がいいと思って、生まれて初めて日焼けサロンへ行きました。会員にもなりました。ちょっと渋谷っぽい人間になれたような気がしました(笑)。


―― フレディ・前村さんと次第に溶け合っていくようで、フレディ像をしっかりと印象付けましたね?
オダギリ:ありがとうございます。僕が最初に登場するシーンからしっかり見ていないと、見失うとどれが僕だか分からなくなりますよ(笑)。


―― これからの役者人生に影響が?
オダギリ:役者としても人間としても、この役をのり越えられたことが自信に繋がったのは確かです。


―― オールスペイン語で大変だったのでは?
オダギリ:今日、京都の舞台挨拶に、日本在住のフレディのお兄さんの息子さんがいらして下さいました。まさかのことでしたが、とても嬉しかったです。そこで、「僕のスペイン語はどうでしたか?」とボリビアのベニ州出身の方にお聞きしたら、「合格だ!」と言って頂けたんで、安心しました。


ernesto-bu2-sakamoto-240-1.jpg―― 撮影中、いろいろご苦労もあったのでは?
阪本監督:キューバは5か国目ですが、いろんなことが覆っていく感じでした。オダギリ君も海外での撮影経験が多くて、「トラブっても沈まない、振り向かない、どうやって挽回していくか」と気持ちを作り直す技術を持ってましたから、何とか切り抜けていけました。社会主義国のキューバは物資不足で、しょっちゅう停電もしてました。ホテルの部屋では、5つのスタンドあったのですが、1個ずつ球切れしていって、「最後のひとつが切れると俺は勉強できないぞ!」とヒヤヒヤでした。撮影現場でも、いろんな物がなくて、なければ作る、代替品を捜してくる、と言った感じで、クリアしてました。


―― 実在の人物を描くのに難しかったことは?
阪本監督:フレディのご家族の方を傷付けたくないので、取材には時間をかけました。映画の最後に5人のおじいちゃんたちが出てきますが、彼等はフレディのご学友の方たちです。彼らの一人一人にフレディの人となりや、学生時代にどんなエピソードがあったのか、どういう恋愛をしたのか、実際のことを沢山盛り込んで作っていきました。


―― チェ・ゲバラが大阪に来ていたことは、この映画で初めて知りました。
阪本監督:チェ・ゲバラは、広島へ夜行列車で行く日に、堺のクボタ鉄工の見学をして、前日には愛知でトヨタの工場見学もしています。大阪に来て広島が近いと知った彼は、周りが止めるのも聞かず、他の予定をキャンセルして夜行列車で広島へ行ったんです。


ernesto-bu2-240-1.jpg―― 被爆地・広島を訪れたからこそ、その後のチェ・ゲバラが遺した言葉には重みがあるんですね。この映画を観て、改めて感じ入りました。 最後のご挨拶をお願いします。
オダギリ:この映画が、シネコンで色々なタイプの作品と肩を並べられることはとても意味があることですし、こういうタイプの作品が選べる現状が少しでも長引けばいいなと思っています。今は阪本監督をはじめ才能のある監督さんたちが作品を作りにくい状況ですので、それを少しでも打破するためにも、皆様にこの映画の宣伝をして頂きたいと思います。応援よろしくお願いします。

阪本監督:映画の最後の最後に、「マリー・前村・ウルタードさんに捧げます」とあるんですが、それは亡くなったフレディの姉のマリーさんのことです。3年前に彼女に会いに行った時に、「フレディは医者になって人を助けようとキューバへ行ったのに、武器を持って人を殺めるかもしれないようなことになって、その狭間できっと苦しんでいたことでしょう」と仰いました。母のローサさんは、キューバでチェ・ゲバラの奥さんに、「あなたの息子は事故や病気で死んだのではない。人々のために戦って死んだのだから泣く必要はない」と慰められたけど、お母さんは自分の息子を失った悲しみで泣き崩れてしまったらしいです。それを聴いて、名もなき医学生が武器を持つまでの過程がとても大事なのではと思って、この映画を作りました。誰かの息子であり、誰かの兄弟だった若者が、25歳という若さで死んでいった。できることなら、皆さんの心の中でフレディが生き続けられればいいなと思います。今日はありがとうございました。


(河田 真喜子)



『エルネスト』は、TOHOシネマズ(梅田・なんば・二条)、神戸国際松竹、京都シネマにて絶賛公開中です!

ernesto-pos.jpg■2017年 日本=キューバ合作 2時間4分 
■原案:マリー・前村・ウルタード、エクトル・ソラーレス・前村著『革命の侍~チェ・ゲバラの下で戦った日系2世フレディ前村の生涯』(長崎出版・09年/17年9月キノブックスより再刊)
■脚本・監督:阪本順治 (『顔』、『闇の子供たち』、『大鹿村騒動記』、『団地』)

■出演:オダギリ ジョー、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、永山絢斗
■2017年10月6日(金)~TOHOシネマズ梅田ほか全国公開中!
■公式サイト: http://www.ernesto.jp
■(C)2017“ERNESTO”FILM PARTNERS

★作品紹介⇒こちら
★阪本順治監督インタビュー⇒こちら
★舞台挨拶レポート(9/21)⇒こちら


 

historica-pos.jpghistrica-9.27.jpg今年も魅せます!『第9回 京都ヒストリカ国際映画祭』


時代劇ファン待望の、世界で唯一の“歴史映画の祭典!”

 

今年も時代劇ファンのための《京都ヒストリカ国際映画祭》(京都文化博物館にて)の季節がやってきました。関西で開催される国際映画祭の中でも最も充実したラインナップを誇り、日本の名作を発信するとともに、世界中から集められた日本初上映の新作も紹介されます。

また、連携企画の人材育成プログラム〈京都フィルムメーカーズラボ〉も今年で9年目となり、世界各国から選抜された若手が京都の松竹や東映の撮影所で学んだ成果をこの映画祭で発表する〈カムバックサーモン・プロジェクト〉もあります。映画創成期から多くの時代劇が作られてきた映画の聖地・京都から羽ばたいた若手映画人の成長を目にすることができます。

 
historica-近松物語.jpg今年の目玉は、巨匠・溝口健二監督代表作『近松物語』の4Kデジタル復元版の日本初上映と、19世末にリュミエール社が世界中で撮影したフィルムの4Kデジタル復元版をドキュメンタリーとしてまとめた『リュミエール!』の関西初上映でしょう。

『近松物語』では、女優・香川京子氏をゲストに迎えてのトークショーが開催されます。また、『リュミエール!』では、その復元を行ったカンヌ国際映画祭総代表ティエリー・フレモー氏のスペシャルトークショーも予定されています。

 
個人的に嬉しいのは、今年も西部劇『レフティ・ブラウンのバラード』や、ハンガリー映画『キンチェム 奇跡の競走馬』ブルガリア映画『エネミーズ』などの日本初上映作品が観られることです。現段階では一般公開が未定の作品を観られる貴重な機会です。お見逃しなきように!!!

 


★公式サイト⇒ http://historica-kyoto.com/

★上映作品紹介⇒ http://historica-kyoto.com/films/

★スケジュール⇒ http://historica-kyoto.com/schedule/

★チケット⇒ http://historica-kyoto.com/ticket/



【ヒストリカ・スペシャル】

historica-リュミエール!.jpg鮮烈な再デビュー、世界のミゾグチと映画のはじまり!

日本映画=京都映画120年記念プログラム。
4Kデジタル技術で蘇った映像美に圧倒されながら、近松物語の革命的再構築の手腕に驚き、そして、仏・リュミエール兄弟の120年前の作品に、その後の映像表現がすでに内包していることに驚く、貴重なプログラム。


【ヒストリカ・ワールド】

歴史を舞台に作られた新作を世界から厳選!

世界の新作歴史映画から国境や文化を超えた物語パワーを持った映画を厳選。
民族・文化を謳うもの、現在では語れないメッセージを歴史に託したもの、モダンに語り直された伝統の物語。いずれも極上の歴史エンタメです。


【ヒストリカ・フォーカス】

ディスカバー加藤泰。世界映画史に憤怒と慈愛を刻む巨眼の人・加藤泰を再発見!

際立ったスタイルと原初の映画のような歓びに満ちたカッティング。
世界が再発見すべき加藤泰だけが持つ引力を様々な視点を持つゲストと提示します。
封建・任侠の中での愛を描いた傑作を全作英字幕付きで。


【ヒストリカ・ネクスト】

2017年の話題作!気鋭の監督たちの"新しい時代劇"への挑戦!

海外の映画祭で高い評価を受け、逆輸入で日本公開された異色の時代劇と、
時代劇専門チャンネル・日本映画専門チャンネルが三宅監督とタッグを組んで製作した意欲作を上映。
気鋭の監督たちが今までの時代劇にとらわれない制作スタイルで生み出した"新しい時代劇"を感じてください。


【特別招待作品】

historica-silk-500.jpg上海の映画シーンを代表するベテラン監督と、名作映画の原作を手がけるイタリア現代文学の重鎮をお招きします。
歴史映画の現在を感じていただける豪華なプログラムをお楽しみください。

『シルク』 SILK
『海の上のピアニスト』原作者小説を映画化仏と幕末日本で織りなされる愛の物語
http://historica-kyoto.com/films/s_screening/silk/

『上海キング』 Lord of Shanghai
上海王よ、永遠に 魔都・上海が憎しみの炎で燃え上がる。
http://historica-kyoto.com/films/s_screening/lord-of-shanghai/



★【『シルク』の原作者アレッサンドロ・バリッコ氏のスペシャルトーク開催】
 
 (
開催日:11月1日(水)14:30~映画『シルク』上映後、京都文化博物館にて)


『海の上のピアニスト』の原作者でもあるバリッコ氏は、音楽学者でもあり、小説家、脚本家、監督というマルチな才能を発揮するイタリアの著名な芸術家です。映画化へのプロセスや映画『シルク』についてお話を伺える大変貴重な機会となることでしょう。多くの方のご来場をお待ちしております。


〈アレッサンドロ・バリッコ〉
historica-baricco-240.jpg1958年トリノ生まれ。トリノ大学哲学科およびトリノ音楽院ピアノ科を卒業。音楽評論研究に従事し、1988年に2つの評論エッセイを発表。1991年、処女小説『怒りの城』を発表、カンピエッロ・セレツィオーネ賞(伊)とメディシス賞(仏)を受賞。1993年出版の『洋・海』はベストセラーとなり、27ヶ国語に翻訳された。

1994年、トリノにストーリーテリングとパフォーマンスアートの学校「スクオラ・ホールデン」を共同設立。同年、独演脚本『ノヴェチェント』を出版。同作品はG.ヴァチスにより舞台化、G.トルナトーレにより『海の上のピアニスト』として映画化された。また、1996年発表の小説『絹』は、F. ジラールにより『シルク』として映画化された。2008年、映画『レクチャー21』では脚本および監督を務めた。


(河田 真喜子)

 

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historica-silk-500.jpg★『シルク』の原作者アレッサンドロ・バリッコ氏のスペシャルトーク開催★

  (開催日:11月1日(水)14:30~映画『シルク』上映後、京都文化博物館にて)


『海の上のピアニスト』の原作者でもあるバリッコ氏は、音楽学者でもあり、小説家、脚本家、監督というマルチな才能を発揮するイタリアの著名な芸術家です。映画化へのプロセスや映画『シルク』についてお話を伺える大変貴重な機会となることでしょう。多くの方のご来場をお待ちしております。


〈アレッサンドロ・バリッコ〉
historica-baricco-240.jpg1958年トリノ生まれ。トリノ大学哲学科およびトリノ音楽院ピアノ科を卒業。音楽評論研究に従事し、1988年に2つの評論エッセイを発表。1991年、処女小説『怒りの城』を発表、カンピエッロ・セレツィオーネ賞(伊)とメディシス賞(仏)を受賞。1993年出版の『洋・海』はベストセラーとなり、27ヶ国語に翻訳された。

1994年、トリノにストーリーテリングとパフォーマンスアートの学校「スクオラ・ホールデン」を共同設立。同年、独演脚本『ノヴェチェント』を出版。同作品はG.ヴァチスにより舞台化、G.トルナトーレにより『海の上のピアニスト』として映画化された。また、1996年発表の小説『絹』は、F. ジラールにより『シルク』として映画化された。2008年、映画『レクチャー21』では脚本および監督を務めた。


★『シルク』上映サイト⇒ http://historica-kyoto.com/films/s_screening/silk/ 

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太地町という小宇宙から世界で起きている対立を映し出す。
『おクジラさま ふたつの正義の物語』佐々木芽生監督インタビュー
 
第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作『ザ・コーヴ』で取り上げられ、一気に非難の的となった和歌山県太地町の捕鯨問題。前々作『ハーブ&ドロシー アートの世界の小さな巨人』(2010)の公開前から太地町で撮影を始めた佐々木芽生監督が、東日本大震災等で一時中断を余儀なくされながらも、2014年から撮影を再開。2016年釜山国際映画祭にて世界初上映された最新作『おクジラさま ふたつの正義の物語』が、いよいよ9月 30日から第七藝術劇場、今秋より京都シネマ、豊岡劇場にて順次公開される。
 
南国の香りが漂い、町中にクジラのモニュメントがある太地町の捕鯨の歴史は江戸時代まで遡る。国の制限のもと、今も伝統の追い込み漁を続けている太地町に訪れ、捕鯨反対運動を展開するシーシェパードのメンバーたちにもマイクを向け、長くアメリカに住み、ドキュメンタリーに携わってきた佐々木監督ならではの視点で、太地町に住む人たち、訪れる人たちの意見や暮らしぶりを丁寧に追っていく。佐々木監督の代弁者のような存在として、長年日本に住みながらAP通信記者活動をしてきたジェイ・アラバスター氏の太地町移住にも密着。太地の人々を取材するには、彼らと同じ場所に住み、話し合える関係性を作り上げようとするアラバスター氏の考えや行動の結果は、映画にもしっかりと映し出されている。対立から相互理解へ。文化や習慣の違いを超えることはできるのか。国レベルでは無理なことでも、個人レベルでは成し遂げることができるのではないか。捕鯨問題からはじまる本作から想起するものはあまりにも多く、そしてその問題について考えることが、道は長くても「他社との共存」に繋がるかもしれない。そんな希望を抱かせてくれる、意義深い作品だ。
 
本作の佐々木芽生監督に、世界と日本の動物愛護に関する認識のズレや、太地町から見える様々な対立が意味することについて、お話を伺った。
 

 


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■捕鯨の是非を問うのではなく、太地町を通して見える世界を見ていただきたい。

━━━奥が深い、凝縮されたテーマになっていますね。
色々な国際関係の縮図であり、会社や友人関係、夫婦関係の縮図にも見えます。太地町という小宇宙から、世界で起きている色々な問題、衝突や対立が映し出されるのではないかという思いがありました。捕鯨の是非を問うのではなく、太地町を通して見える世界を見ていただければと思っています。
 
━━━日本に長く滞在し、記者活動を続けてきたジェイ・アラバスターさんの存在が、作品のバランスを取る役目を果たしています。
どなたかが、アラバスターさんと私は合わせ鏡だと指摘されて、なるほどと思ったのですが、彼はアメリカ人でありながら日本に長く住んでいます。私は日本人でありながらアメリカに長く住んでいる訳で、二人ともこの捕鯨問題に関しては少し引いた目線で、同じような考えを持っています。色々話し合いましたし、同じような考え方を持っている人で、お互い共感する部分も大きかったので、この映画にも出演していただきました。
 
━━━初めてアラバスターさんとお会いになったのは、いつ頃ですか?
2014年の暮れごろだと思います。2010年から撮影を始めたものの、中断を余儀なくされ、再び撮影を再開すべく太地町に戻った時に出会ったのが、アラバスターさんでした。あの映画の中では主人公がいない、つまり寄り添える人がいなかったのです。でも、アラバスターさんのように、アメリカ人だけど太地町に引っ越し、町の人たちを理解しようとする人がいると、捕鯨賛成派、反対派とどちら側の人も彼に寄り添えます。主人公というよりは、映画のガイドであり、特に後半は彼に寄り添って物語が進んでいくので、その存在は大きかったです。
 
 
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■世界の流れは環境保護、動物愛護から動物の権利の問題へ

━━━佐々木監督ご自身は、捕鯨に対してどのような考え方をお持ちですか?
日本人だから捕鯨に賛成という訳ではなく、日本も悪いところがあります。情報発信のまずさは、伝統や文化を傘に、我らVS彼らのような二項対立の構図を作ってしまっています。映画の中にもありますが、鯨を全然食べないのに、「自分たちの文化を攻撃された」という見せ方をするので、それはけしからんという流れになってしまう訳です。今の世界の動きというのは、太地町で起きているイルカ漁の問題は環境保護ではなく、動物愛護、動物の権利の問題の象徴なのです。映画『ザ・コーヴ』によって、問題が大きな鯨からイルカにシフトしました。その後に太地町で起きていることは氷山の一角で、韓国での犬食やスペインの闘牛、フランスのフォアグラやイギリスの狐狩りなど、動物の問題だけでも世界中で色々な反対運動が起きています。特にアメリカでは、動物に残虐な扱いをしてはいけないという動物愛護や動物福祉の問題が、今は一歩踏み出して、動物の権利が問題になっています。つまり動物の本来の姿ではないような、動物園の檻に入れたり、芸をさせたりすることは動物の意思に反しているという考え方なのです。
 
━━━アメリカでは、水族館にイルカはいないそうですね。
アメリカもそうですし、ヨーロッパはもっと前からと聞いています。水族館でイルカのショーをやっているのは、世界中でも日本、中国、途上国、中東ぐらいで、先進国ではほぼやっていませんね。日本だけがその認識がなく、非常に遅れています。そういう色々な問題を踏まえた上で捕鯨の是非を議論するべきなのに、伝統だからと議論が進まない。捕鯨といっても、調査捕鯨もあれば、太地町のような小型鯨類を獲る沿岸捕鯨もありますが、それらも全部一緒に議論されていることにも疑問を感じます。
 
━━━撮りながら、両方の意見を聞いていると、作品の落としどころが難しくなってきたのでは?
何が真実か分からなくなってきます。もちろん、あんな小さな町が世界の批判のターゲットになってしまったという不運さに対し、私が太地町の人たちに同情的であることは変わらないです。ただ、イルカ漁存続の是非については、日本の法律で保障されていることなので、太地町の漁師を攻めることではありません。それを太地町だけに背負わせるのは、フェアじゃないと思います。

 

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■捕鯨問題で中立的と言いながら非常に偏っている日本のメディア

━━━そういう点では、この映画は中立的ですが、どういうお考えで作られたのでしょうか?
捕鯨の問題に関して、日本のメディアは中立的と言いながらも、非常に偏っています。「シーシェパードは悪だ」「お金儲けでやっている」「悪のシーシェパードがやってきて、日本の伝統を壊そうとしている」という描き方で、どちら側も偏っています。誰かを悪に仕立て上げ、善悪を付けても説得力がありません。私の中でもイルカ漁に関してどちらが良いのか判断しづらいです。海外の人たちの価値観と日本人の価値観は全然違いますから。
 
━━━「違う」ということを認識するという線引きがされている映画ですね。
そこが大事です。ただ中立という言葉は、私の中ではいかがわしい感じがして、使わないようにしています。その人の立ち位置によって中間地点はズレてしまいますから。シーシェパードにとっての中間地点と、太地町の人たちにとっての中間地点は全然違うので、あまり意味がありません。私は「バランスが取れた」という言い方をしています。
 
━━━『ザ・コーヴ』公開から7年経ちますが、シーシェパードの活動は依然として活発なのですか?
日本に抗議活動に来る人たちはいなくなりました。国内からはいなくなっている、活動家の人たちが入れなくなってはいますが、ネット上ではその勢いは衰えていません。保護活動家のリック・オルバリーさんは、日本に入国できないので9月1日の追い込み漁解禁日にはロンドンの日本大使館の前にいました。世界中の日本大使館や領事館前で抗議活動を行われています。オリンピックボイコットの話も出ていますし、本気で各国が抗議行動に出れば、大変なことになるのではないでしょうか。また、シー・シェパードは2014年からフェロー諸島で抗議活動を行っていました。ただ、相当地元で反発され、2年で活動できなくなったんです。フェロー諸島の人たちは英語で猛然とシーシェパードに反論しますから、シーシェパード側も地元の人の生の声を聞いて、このまま抗議し続けるのは難しいと判断したようですね。
 
━━━反論するという意味では、佐々木監督は撮影で訪れた際に、太地町の人たちとシーシェパードの人たちの間に入って、通訳する立場となっています。お互いの言い分を一心に受ける稀有な体験をした訳ですが。
こちらはドキュメンタリーを撮っている側なので当事者になってはいけないのですが、太地町の現場で日本語と英語両方を話せる人が本当に誰もいなかったので、必然的に当事者として引きずり込まれた状況でした。
 
━━━今回の取材で実際に騒動の最中にある太地町を訪れた感想は?
本当に風光明媚な町です。熊野の自然が豊かで、温暖な気候ですし、町の人たちは玄関に鍵もかけず、ピンポンを鳴らすこともなく、お家に入っていくような、とてもおおらかな町なのです。そこに外国人活動家やシーシェパードの人たちが来て、町がギスギスしてしまったのは本当に気の毒です。映画で黄色い帽子を被ったアラバスターさんが毎朝漁師さんに向かって「おはようございます」と挨拶するシーンが出てきますが、あの撮影の最中にアラバスターさんが帽子をなくしてしまったと言うのです。そして「きっと誰かが届けてくれる」と。驚いたのですが、案の定次の日に、彼の家の玄関奥の土間に黄色い帽子がぽんと置かれていました。何のメモ書きもないので、誰が届けてくれたか分からないのですが。また、アラバスターさんが帰宅した後冷蔵庫を開けると、大きな魚が入っていたこともあったそうです。そういう暖かさが太地町にはあるんですよね。

 

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■グローバルVSローカルという構図は世界共通。ネットにアクセスできないローカルの人の声はメディアに上らない。

―――本作を編集される頃はアメリカそういう雰囲気を感じながら、編集していたのですか?
昨年編集し終わる頃、アメリカではちょうど大統領選の最中でした。ブレグジット(イギリスのEU離脱)の国民投票を支えたのは、地方でグローバリズムに生活を脅かされている人たちです。トランプ氏に投票した人も、グローバリズムや移民は嫌だという地方の生活者が多かった訳で、グローバルVSローカルという構図は本当に世界共通なのだと痛感しました。昨年6月にブレグジットがあったとき、「本当に太地町で起きていることと同じだ」と思いました。なぜかと言えばローカルの人たちはSNSやYouTubeなどネットを使った発信をほとんどしません。ですから、彼らの声はメディアに上ってきづらいのです。彼らは情報弱者ですし、世界で何が起きているのか、そこに対して彼らの生活がどのような影響を受けるのか。また、その影響に対する意見や不安などをSNSにアクセスできない人たちは伝えることができない。太地町の人たちもそうですが、地方でネットやSNSにアクセスできない人たちの声はかき消されてしまう。国内でも届かないし、国境を越えて世界にもまず届きません。
 
―――映画でもアラバスターさんが町の人にネットでの発信方法を教えているシーンがありましたが、シーシェパードの動画も駆使したリアルタイムの発信力、拡散力の凄さ、それがために声を上げられない側が不利な状況に追い込まれている様もよく理解できました。情報発信力の向上がここまで切実な問題になっているんですね。
その危機感が日本には全然ないのかという気がします。特に英語での発信ですね。太地町では外国人を見ると受け入れがたい気持ちになってしまいますし、警察はパスポート番号を控えたりもするのですが、逆にこんな時だからこそ外国人を歓迎する方法はないかと思います。個人レベルの交流ができれば、太地町の味方をする外国人も増えるでしょうし、状況は変わるのではないでしょうか。
 
 
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■動物愛護の視点に立つ人、太地町の人、両方の世界観を表す『おクジラさま』

―――タイトルの『おクジラさま』には、どんな意味が込められていますか?
生類憐みの令で「お犬様」という言い方があったのですが、それに象徴されるように、日本では17世紀の終わりに犬や動物たちを人間もしくはそれ以上に愛護し、大切にすることを定めた法令が出されました。実はこの生類憐みの令は人類史上初めて動物愛護を定めた法律で、当時では世界最先端だった訳です。動物愛護の視点に立つ人からすれば、クジラは一つの象徴であり、1970年代以降は環境保護問題の象徴にもなっている神格化された「おクジラさま」ですし、太地町の人たちにとっては命を繋ぐための犠牲になってくれる、大事な「おクジラさま」で、感謝と畏敬の念を持っています。この二つの世界観が『おクジラさま』というタイトルに込められているのです。
 
―――『ハーブ&ドロシー』同様、本作も根底に流れているのは「人間賛歌」だそうですね。
「なぜ、わざわざこんなに違うものを作ったのですか?」と聞かれることもありますが、私の中ではそうでもないんです。テーマは捕鯨とアートと違うように見えますが、本当の根底にあるものは同じだと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『おクジラさま ふたつの正義の物語』
(2017年 日本・アメリカ 1時間36分)
監督:佐々木芽生
2017年9月 30日(土)~第七藝術劇場、10月28日(土)~豊岡劇場、今秋~京都シネマ他全国順次公開
公式サイト⇒http://okujirasama.com/
(c)「おクジラさま」プロジェクトチーム
 

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故郷と向き合うのは、髄の部分で自分に向き合うこと
『望郷』主演大東駿介さんインタビュー
 
湊かなえが故郷の因島を舞台に描いた連作短篇集『望郷』より「夢の国」「光の航路」を、デビュー作『ディア―ディア―』、今年公開の『ハローグッバイ』共に国際映画祭で高い評価を受けている菊地健雄監督が映画化。9月16日(土)より新宿武蔵野館、9月30日(土)よりテアトル梅田、京都シネマ、元町映画館ほか全国拡大上映される。
 
 
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古いしきたりを重んじる家庭に育ち、結婚後も島で暮らし続ける夢都子(貫地谷しほり)と、本土から転任で9年ぶりに島に戻ってきた中学校教師の航(大東駿介)。確執を抱えたまま生きる2組の親子が、真実を知り、未来に向かって歩むまでを二つの時代をクロスさせながら描いたヒューマンストーリー。故郷の光と闇、親子だからこそ抱く複雑な感情など、湊かなえらしい人間描写を、菊地健雄監督がさらに深く、そしてどこか温かく見つめ、役者の表情をつぶさに捉えて映し出す。
 
本作のプロデューサー辻村和也さんは本作の狙いについて、「同世代のスタッフ、本作品を共に作っていける監督、俳優をキャスティングすることを意識しました。作品の世界感を一番に考えた丁寧な作品を作り、映画ファンが多く集まるミニシアターにかけていくというのが最初に出していた方針でした」。菊地監督に関しては「助監督経験が豊富にあり、役者に芝居をつけることに定評がある事に加え、起用に作品制作に向き合えること。」また監督が動きやすいチーム編成にする事が絶対条件とも考えてました。、そして大東さんについては「演技力には定評がありながら、まだ重厚な作品で主演されるイメージがないため、そんな一面を見てみたかった」と起用の理由を語ってくれた。また、因島が舞台の全く独立した二つの話(「夢の国」「光の航路」)を、双方の主人公を同級生の設定にすることで、一つの作品になるような台本に仕上げたという。「石の十字架」で登場した十字架のある白綱山が重要なシーンで登場しているのも見どころだ。
 
キャンペーンで来阪した主演、大崎航役の大東駿介さんに、亡き父親と対峙する航役について、また初タッグとなった菊地監督との撮影についてお話を伺った。

 


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■菊地監督の島と故郷と人間を丁寧に描く姿に共感。「周りの筋肉は柔らかくて、骨だけむちゃくちゃしっかりしている感じ」が信頼感に。

―――『望郷』は『白ゆき姫殺人事件』以来の湊かなえ作品出演ですが、航役のオファーがあった時どんな印象を持ったのですか?
『望郷』は他の湊かなえさん作品とは世界観が違うとよく聞くのですが、僕はとても湊さんらしさが出ているという印象があります。湊さんの作品はミステリーでも人間性が際立っています。この『望郷』は、ミステリー要素がありながらも、菊地監督が島と故郷と人間を丁寧に描こうとされていたので、航役を是非演じたいと思いました。
 
―――菊地監督とは本作が初タッグとなりますが、一緒に仕事をして感じたことは?
菊地監督は細部まで見てくれ、信頼感があります。僕はよく現場で、信頼しあえる人間関係をどう構築していくかを考えます。映画を作る時は、毎回知らない人が集まって作っていくので、その中で信頼感はあるに越したことはない。もちろん仕事に対する熱意は、信頼を得る大きな材料ですが、ちょっとした方向性のズレが生じると衝突が生じてしまいます。菊地監督は、熱意もあり、その場で生まれて来るものに対しても柔軟なんです。逆にそれをキャッチして面白いと思ってくれる。偶発的なものも含めて、監督が描こうとしている人間や、島の現実と捉えてくれました。人を描くのに適した監督です。我がない訳ではなく、我の部分が映画の芯になる。周りの筋肉は柔らかくて、骨だけむちゃくちゃしっかりしている感じが、信頼感に繋がり、スタッフ、キャスト全員が菊地監督のためにいい作品を作ろうというスタンスになっていました。
 
―――菊地監督が曲げない部分というのは、どういう点ですか?
映画のビジョン、「こういう作品にしたい」という思いはしっかり持っていらっしゃいました。でも、こういう芝居をしてという押し付けは一切なかったですね。
 
―――菊地監督が大東さんらキャストを信頼していたのでしょうね。
僕も、衣装合わせで初めて監督に会った瞬間に信頼したんですよ。というのも僕は台本を読んで、この話は因島で撮れたらいいなと思っていたところ、監督が因島で撮りたいと強くおっしゃっていたと聞いたのです。その時点で僕は、この作品の芯を捉えている気がしました。それでいながら熱望した因島の撮影を終え、いざ出来上がった作品を見ると、島の風景はそこで育った人を構築する一部のパーツとなっていて、決して島を前面に押し出したりはしていない。『望郷』という作品にとって、因島はどういう存在なのか。あくまで湊かなえさんの『望郷』を映画化したという核から絶対にズレず、きちんと芯を捉えているところが凄いと思いました。

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■上京する時に感じていたこと、故郷に今感じることは『望郷』に似ている。

―――芯となるのは、「故郷との関係を描く」ということでしょうか?
因島は例え話で、僕も堺市出身、堺のことが大好きだけど、上京する時に感じていたことと、今感じることは『望郷』に似ています。堺のことは大好きなのだけど、本当に離れたかった。自分の未来はそこにはなかった。僕の中で、故郷はずっと居る場所ではなかったですね。役者になりたかったし、広い世界を見たかったので、最初は「やっと故郷を出れた」と思うのですが、結局いつも故郷のことを思い、故郷の居心地の良さを感じているんですよ。そことの比較で、少しずつ大人になっていっているのかなと。
 
―――航役を演じるにあたり、内面を掘り下げるために自らの故郷や父親との関係を振り返ったりもしたのですか?
もちろんこの台本を読んで自分と向き合うことが多く、父親や故郷について考えましたが、それで役を構築すると、結局航の話ではなく自分の話になってしまいます。内面を作るのは周りの人、兄弟や家族、育った環境が大きくあると思うのです。だから因島を自分の中に溶け込ませる作業、当たり前にその島にいることができる、ということもやっていきました。撮影中の空き時間は、とにかく因島で友達を増やし、路地裏もくまなく廻り、島の本当の声や、どういう時間が流れているのかをキャッチしましたね。
 

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■島の廃墟には栄えていた頃の活気が残っている。

―――映画でも沿岸部だけでなく、造船所跡など印象的な建物が登場し、因島の雰囲気が感じられました。
僕は廃墟や古い建物が好きで、よく写真を撮りに行きます。廃墟は人がいなくなった瞬間に時が止まる気がするけれど、止まってからの時間が廃墟に残っている。因島は造船が栄えた時期があり、その時の活気が建物に残っているんですよ。僕の知らない因島の時間がそこに流れていて、歩いているだけでも子どもの頃の航がいた時間を感じることができました。たまに実家に帰ると、今まであったスーパーがなくなっていて、結構ショックを受け、これが大人になっていくことかと思うのですが、この『望郷』でそういう喪失がきちんと描かれているのも菊地監督の凄いところです。
 
―――ちなみに今回初めて因島を訪れたとのことですが、島の印象は?
観光で行ったら、素直に色々楽しめると思うのですが、俳優という職業の辛いところで、役を与えられて行くと、なんとも思えないですね。十字架がたくさんある白綱山も、いつもならそういう場所が大好きなので写真を撮りまくると思うのですが、携帯を見ても一枚も写真がなくて。航にとっては当たり前の景色なので、写真を撮ろうという感覚が全くない。だから、今楽しみなのは因島に舞台挨拶に行って、「いい島やったな!」と言うこと(笑)。ただ、その分感じられる魅力は、島にいて落ち着くんですよ。自分の中でよそ者感がないので、故郷のように落ち着くし、路地裏を歩くだけでもホッとする。お呼ばれ感がないというのが、逆に言えばこの仕事の魅力かもしれませんね。
 
 
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■絶対的な存在感、父親であり教師としての存在を感じた緒方直人さんの芝居

―――父親役の緒方直人さんとは、共演シーンはほとんどありませんが、撮影現場をご覧になっていたそうですね。
緒方さんの芝居を見て、言葉に責任を持つというのは凄いなと思いました。台詞をちゃんと相手に届ける。それを当たり前に、自然にできるというのは経験値というより、器の大きさを感じます。親父の事は分からないという航が、それでも同じ先生という職業を目指してしまう絶対的な存在感であり父親像を、一役者として緒方さんに感じました。同時に思ったのは、台本を開いた時に父親と書かれていても、父親という役はないなと。父親も元々は一人の男で、父親以外の人生があるという当たり前のことを、緒方さんを見ていて感じました。父親芝居ではなく、教師としての存在がしっかりしている。緒方さんは教師として生徒に向き合っているだけですが、それが航の見ている親父なのかと思いました。緒方さんの力ですし、それをきちんと理解して切り取った菊地監督の力でもあります。
 
―――仲たがいしたまま亡くなった父親の真意をようやく知り、自殺未遂の生徒に語りかけながら、その目は遠くを見つめているシーンは、父親への気持ちも表現しています。どのような気持ちで演じたのですか?
親父がどういう人だったのかを航は理解できたと思うのです。いざ同じ問題に僕が向き合った時、僕も同じような気持ちになり、親父の偉大さを知りました。だから回想シーンで本当はその場にいなかった子ども時代の航が、親父に言われているんです。親父と同じ仕事を追いかけた時、初めて親父の言葉をもらえた。人はいつか死ぬけれど、覚えている人がいる限り、その人は永遠に死なないと思うのです。航は親父が死んだけれど、死んだのではなく、その瞬間に時間が止まったままで、親父の真実を知った瞬間に時間が動き出した。航の中で親父と共に生きていくのだろうという生命力を感じました。

 

■「死んだ親父の話をすることで、親父は生き続ける」~航の体験と重ねて

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―――父親の偉大さを知ったというのは、ご自身の体験にも重なったのですか?
今までインタビューで自分の親父の事を話したことはなかったのですが、この作品で話すようになりました。死んだ親父の話をすることで、親父は生き続けるのかと思うと、僕がこの作品に出会った意味はそういうところにもある気がします。
 
僕は小学校ぐらいから親父に会っていなくて、親父がどんな人なのか本当に分からなかった。航の気持ちがよく分かりました。3年前ぐらいに親父が見つかった時、僕は妙な意地を張って逢わなかったんです。その翌年、親父が亡くなったので結局合わずじまい。それから親父のことを親戚から聞くうちに、自分の中で今まで影だった親父に、人柄や温かさ、ぬくもりが見えてきて、生きていたときよりも温度を感じるようになりました。死んでからでも人は生きることを緒方さんの演技でも感じました。緒方さんに親父のぬくもりを感じ、それが自分の人生にも重なりました。自分も何かを乗り越えなければならない瞬間がくるような手法で撮ってくれ、人間の心理描写にこだわり抜いた菊地監督だからこそできたことだと思います。褒めすぎと思われるかもしれませんが(笑)。
 
―――最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。
湊かなえさんの原作を丁寧に映像化した作品です。『望郷』というタイトルの通り、皆さんそれぞれ故郷があると思うのですが、故郷と向き合うのは、髄の部分で自分に向き合うことではないかと感じます。この作品を観てくれた方が、ちょっと地元や実家に帰ろうかなと思ってもらえると、うれしいです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『望郷』(2017年 日本 1時間52分)
監督:菊地健雄
原作:湊かなえ「夢の国」「光の航路」(『望郷』文書文庫所収)
出演:貫地谷しほり、大東駿介、木村多江、緒方直人、森岡龍、浜野謙太、伊東蒼、川島鈴遥、片岡礼子、相島一之、白川和子他
主題歌:moumoon「光の影」(avex trax)
2017年9月16日(土)~新宿武蔵野館、9月30日(土)~テアトル梅田、京都シネマ、元町映画館ほか全国拡大上映
公式サイト⇒http://bokyo.jp/
(C) 2017 avex digital Inc.
 

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~占領軍に立ち向かった瀬長亀次郎を通して沖縄戦後史に目を向ける~

 
戦後アメリカ占領下の沖縄で米軍に挑んだ男、瀬長亀次郎の人生を通じて沖縄の戦後史を描いたドキュメンタリー映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』が、9月16日(土)より第七藝術劇場、元町映画館、9月23日(土)よりシネマート心斎橋、京都みなみ会館他にて全国順次公開される。
 
監督は、「筑紫哲也NEWS23」でキャスターを務め、精力的に沖縄取材に取り組んできた佐古忠彦。初監督作品となる本作では、不屈の精神で沖縄のためにその身を捧げ、今も沖縄で市民の支持を得続けている瀬長亀次郎の人生を、大量の資料や証言を基に編み上げた。
本土が戦後の復興と民主主義を手に入れる中、語られることのなかった沖縄戦後史も証言と共に明らかになっており、沖縄を改めて理解する手がかりとなることだろう。
 
本作の佐古忠彦監督に、沖縄取材を積み重ねる中で感じていたことや、瀬長亀次郎が沖縄の人々に与えた影響、戦後沖縄の辿ってきた歴史についてお話を伺った。
 

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■本土が知らなかった、沖縄にある不条理に、いつも取材の中で出会っていた。

━━━瀬長亀次郎さんをお知りになったきっかけは?
20年以上も沖縄へ取材で足を運ぶ中で、いつの間にか沖縄の戦後史に残る一人として、瀬長亀次郎というお名前は耳にしていました。沖縄の人たちにとても鮮烈な印象を残している人なので、いつかきちんと向き合いたいとずっと思っていたのですが、その機会がなかなか掴めなかった。戦時中の沖縄、そして今の基地問題は断片的に取り上げてはいましたが、今につながる歴史を体系的に取り上げるということが抜け落ちていたのです。ここにアプローチし、今の状況を理解するものに繋がればという思いがありました。
 
━━━95年に起きた沖縄米兵少女暴行事件が沖縄で取材をするきっかけになったそうですが、現地取材を続けていく中で実感したことは?
取材を積み重ねることで自分自身も沖縄のことを勉強していったのですが、本土が知らなかった、沖縄にある不条理にいつも取材の中で出会っていました。最初、焦点を当てたのは地位協定の不平等さでした。地位協定は安保条約に付随していますから、日本全国の基地がある町に適用されるものです。事件や事故があった時の補償問題など、どうしても基地が集中している沖縄で起こるケースが多く、本土の人たちがあまり感じないような不平等さ、理不尽さを味わっていることが、私も徐々に分かっていきました。
 
 
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■筑紫哲也さんが大事にした「自由の気風」。議論の大切さやメディアの果たす役割を追求する姿勢を学ぶ。

━━━これらの取材をしながら、佐古監督は10年間「筑紫哲也NEWS23」に出演しておられましたが、筑紫さんと一緒に仕事をする中で学んだことや、今でも胸に刻んでいることはありますか?
筑紫さんはあれこれ指示をする方ではなく、いつも後ろから見守って下さるタイプでしたが、私が沖縄取材をし、様々な特集を作る中で、5月15日(沖縄本土復帰記念日)や、6月23日(沖縄慰霊の日)など沖縄にとって節目となる日には、一緒に沖縄に出かけて中継をし、色々な経験を一緒に重ねてきました。
 
筑紫さんがよくおっしゃっていたのは「沖縄からこの日本が見える」。沖縄から色々な日本の矛盾が見える。それがあり続けるからこそ、私もずっと取材を続けていますし、筑紫さんにとっても私にとっても沖縄の存在は大きいです。物を考える原点になっています。
 
また、筑紫さんがいつも大事にしていた言葉の一つに「自由の気風」があります。「色々なことが自由に議論できなくなる世の中になると、何が起こるのかはこの国の歴史が証明している。自由の気風を絶対守っていかなければならない」と思われていた方でした。色々な考えがあっていいし、議論をむしろ楽しむぐらいの世の中を維持していかなければいけないとよくおっしゃっていました。私も自分がニュース番組を担当している時、相対する意見を持つゲストを招くこともよくありましたが、いかにご覧いただいている方に考える材料を多方面から提示できるか。それが私たちの役割です。そして、議論の大切さ、それができる社会であること、そのためにメディアが果たす役割は何なのか。それらを追求する姿勢が、筑紫さんを通して私の中に根付いたのではないかと思っています。
 

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■瀬長亀次郎さんを通して沖縄戦後史を見ると、今まで取材した点と点が繋がって線になる。

━━━瀬長亀次郎さんの人生を通して沖縄の戦後史を今、描こうとしたのはなぜですか?
ニュースでは、どうしてもその日起きたことを切り取るだけで、なぜこのようなことが起きるのかという全体像が見えません。特集として報道することもありますが、それでもどこまで伝えきれているのか不透明です。一面的な部分を見て、「また反対している」と批判的な声が出てきますが、よく考えてみれば本土は当たり前のように平和憲法を手に入れ、経済的な復興を遂げた訳です。でも一方で沖縄の戦後史に何があったのかは伝わっていません。本土の認識からすっぽり抜け落ちている部分ですが、そこに目を向ければ本土との溝や温度差が少しでも埋まることに繋がるのではないか。
 
そう考えた時、沖縄の戦後史の中で占領軍に立ち向かった瀬長亀次郎さんを通して戦後史を見ると、皆さんに伝えられることがあるのではないかと思いついたのです。今でも続く県民大会や翁長知事が誕生した後の空気を見ると、私が取材で見聞きしていた時代に似ているのかもしれない。実際にそういう話を現地で聞いたことがあり、点と点が繋がって線になっていく感覚がありました。
 
━━━瀬長亀次郎さんの取材を重ねる中で、新しい発見はありましたか?
亀次郎さんはたくさんの日記や資料を残していますが、それらを調べ、関係者に取材すると、こんなにエピソードが多い人だったんだと。調べれば調べるほど溢れてくるのですが、全部を映画に入れる訳にはいきませんから(笑)。亀次郎さんの存在感の大きさもどんどん分かってきましたし、いまだにそれは続いています。最初に沖縄で本作を公開した時、集まってこられた人の多さもしかりですし、頂いた感想も含めていかに亀次郎さんが愛され、今も求められている存在なのかを改めて意識しました。大昔の偉人という訳ではないにも関わらず、現在の人が教えを乞う訳ですから、稀有な存在だったと思います。
 
 
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■沖縄は戦争が終わって、平和も民主主義も来なかった。だからこそ声を上げ続けている。

━━━瀬長亀次郎さんは、アメリカの軍事占領下に置かれた沖縄で、率先して民主主義を求めて団結し闘う旗印になっていました。これが今につながる沖縄の活動の原点のように見えました。
平和憲法が手に入ることで、日本は軍国主義が終わり民主主義を手に入れた訳ですが、沖縄だけはあの戦争が終わっても平和も民主主義も来なかった。本土は民主主義を与えられたのですが、沖縄は自分たちで民主主義を獲得しなければならなかった。ひょっとすれば今も本当の意味で民主主義を獲得しておらず、だからこそ声を上げ続けているという面もあるでしょう。
 
━━━戦後、瀬長亀次郎さんらを筆頭に沖縄の人たちが声を上げ続けた歴史が、今の民主主義に対する思いの強さに受け継がれていますね。
自分たちの思いを公に言えないような時代に、明確な言葉で沖縄の主張を演説する亀次郎さんに人々は希望を託す訳です。家族で集会の場に出かけていくというのは、ある種はじめての政治参加であり、集会に行くこと自体が自分たちの意思表明になっていました。その頃から時が流れても、同じように県民大会が行われているのは沖縄以外にありません。そこで出てくるテーマは不条理なことばかりで、戦後から続いているのと変わりません。その一つ一つが沖縄でどこまで解決されているかを見つめると、また見えてくるものはあるのではないでしょうか。
 

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■亀次郎さんは、戦後早々から男女平等の実現に動く先進的な面を持っていた。

━━━取材では瀬長亀次郎さんの娘さんも登場し、在りし日の父のことを語っておられましたが、父親としての亀次郎さんはどんな素顔があったのでしょうか?
とても怖かったみたいですよ。よく怒られたそうなのですが、日記を見るとなぜ子どもたちを怒ったかが書かれていたそうで、亀次郎さんが亡くなってから日記を見て初めて自分が怒られた原因が分かったそうです。一方でとても家庭的な面があり、刑務所に収監された時からの習慣で、朝の5時から家族の洗濯物をしていたそうです。洗剤が残るともったいないから、家族に洗濯物の残りがないかと声をかけてと。なぜそのようにしていたかと言えば、奥様が雑貨のお店の仕事をされていたからで、自分も楽しくて(洗濯を)やっているのだから感謝しなくともよろしい、と日記に書いているのです。今でいう「女性が輝く社会」を目指す、とても先進的な面を持っていました。労働法の審議でも、男女平等を唱え、産前産後に二カ月の休暇を女性に与えるべきだと訴えていましたから。あんな昔に男女平等の実現に動いていたという意味でも、なかなかいない人だったのではないでしょうか
 

■ハイライトの国会での論戦、亀次郎さんの訴えは沖縄の思い。

━━━瀬長亀次郎さんが、衆議院議員に当選後、明瞭かつ的確に沖縄の主張と、政府の対応を当時の佐藤首相に問う論戦は、様々な思いが胸をよぎるシーンです。この論戦を盛り込んだ意図は?
あの論戦は、ある種本作のハイライトだと思っています。沖縄の思いを時の首相にぶつける。その首相は沖縄返還の立役者と言われていますが、密約をしていたことが後に明らかになっています。とても象徴的なシーンですし、あそこで訴えている言葉は沖縄の思いなので、絶対に入れたいと思いました。亀次郎さんが行った50年代の演説動画は残っていませんが、多分このような調子で民衆に訴えかけ、そしてアメリカにも向かって行ったと推測できるという思いもありました。また、首相もタジタジになりながらも主張の違いを認めた上で、誠意をもって答えているように見えたのです。今の政治との比較もできますし、古い話のように見えて、一つ一つのテーマに今日性があると思います。
 
━━━最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いいたします。
なぜ今沖縄がこのような状態なのか。それは歴史があるからなので、歴史を見ることで今が見えるという思いで制作しました。私たちの認識から抜け落ちていた沖縄の戦後史に目を向けることで、今ある状況、これからの沖縄やこの国の在り方も含めて、どうしていけばいいかを自分たちの問題として考えられるきっかけになればと思っています。
(江口由美)
 

<作品情報>
『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』
(2017年 日本 1時間47分)
監督:佐古忠彦
出演:瀬長亀次郎他
語り:山根基世、大杉漣
テーマ音楽:「Sacoo」作曲・演奏 坂本龍一
2017年9月16日(土)~第七藝術劇場、元町映画館、9月23日(土)~シネマート心斎橋、京都みなみ会館他全国順次公開
(C) TBSテレビ
 

asagakurumaeni-550.jpg『あさがくるまえに』カテル・キレヴェレ監督インタビュー
(2017年6月24日 大阪・九条のシネ・ヌーヴォにて)



「感情は言葉よりも雄弁」
臓器と共に移植される17歳・シモンの青春

 

是枝裕和監督の『誰も知らない』(2004年)や小津安二郎監督の『父ありき』(1942年)の世界観が、自分の描きたいものに似ているというフランス新進気鋭の女性監督カテル・キレヴェレ、37歳。脳死状態になった17歳のシモンをめぐる残された人々の再生を、移植タイムリミットの24時間の物語として描いた心に沁みる感動作『あさがくるまえに』を創り上げた。「言葉で説明するより、映像や俳優のエモーションで表現したい」と、リアルな映像と抒情性を巧みに融合させることができる、グザヴィエ・ドランやミア・ハンセン=ラブと並び期待される映像作家である。


asagakurumaeni-di-500-2.jpg突然最愛の息子を失う不幸に見まわれ、離れかけていた夫婦の絆を取り戻す両親。静かに横たわるシモンと両親の気持ちを尊重しようとする移植コーディネーターのトマ。若くもない自分が臓器提供を受けることに迷いを感じる二人の息子の母・クレール。この三者を結びつけるのはシモンの心臓。恋にトキメキ、大きな波のうねりにも挑み、あらゆる可能性を秘めた未来を生きようとしていたシモンの心臓は、強く逞しく活発に躍動していたのだ。「“生きたい!”という衝動に駆りたてられる力強さを表現したかった」と語る監督。


asagakurumaeni-500-2.jpg「映画は“生”を写し撮るものだから、死者より生きている者を描きたくて、残された人々に光を当てるストーリー展開にした」――― 臓器提供を決心し、シモンとの最後の別れをする両親や、心臓を摘出される直前のシモンに波の音を聴かせる医師のトマ、そして、感情を排除したようなオペ室の中で、人の生と死を司る儀式のような手術の模様を真上から捉えた映像など、“命の連携”の神々しさを表現。早朝、シモンが彼女の部屋の窓から抜け出す時のふと振り返ったその表情は、シモンの魂が別世界へ飛び立とうとするかのように、新たな息吹を観る者の心にも刻み込む。


asagakurumaeni-500-1.jpg「脚色は、原作を尊重しながらも自分らしい作品にしたかった。原作を超えていく難しさもあれば面白さもある」――― 映画化争奪戦となった話題のベストセラー小説を基に、キャラクターを生きる実力派俳優をキャスティングし、印象的な深みのある映像で残された者の心に寄り添うキレヴェレ監督。『聖少女アンナ』『スザンヌ』とオリジナル脚本で製作してきたが、長編3作目にして早くも普遍的テーマを打ち出せる実力が発揮された。その躍進ぶりについて、「私も人生と共に変化していく訳で、生きている経験が深みとなって出ているのかも。撮影監督と協議しながら撮っているので、一作毎に学べることも多い」。


asagakurumaeni-500-3.jpg「人生を描くためには、理性的に考えて決断する力が重要。様々な流れの中に身を置くことは多いが、必ずしも時系列に表現する必要はない。ひとつひとつの出来事を受け止める力や、情緒的な要素やミステリアスな人間関係を映画で表現していきたい」と、エモーションを秘めた思慮深さがキレヴェレ監督の特徴と言えよう。大胆な編集から繰り出される生命力あふれるタッチや、ひと目でキャラクターがどんな生き方をしている人物かを理解させる描写力と、その映像からは片時も目が離せなくなる。


     (河田 真喜子)


『あさがくるまえに』

◆Reparer les vivants 2016年 フランス・ベルギー 1時間44分(PG12)
◆監督:カテル・キレヴェレ
◆出演:タハール・ラヒム、エマニュエル・セニエ、アンヌ・ドルヴァル、ブリ・ラレーヌ、クウール・シェン、モニア・ショクリ
公式サイト: https://www.reallylikefilms.com/asakuru
◆(C)Les Films Pelleas, Les Films du Belier, Films Distribution / ReallyLikeFilms

◆2017年9月16日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、近日~京都シネマ、神戸アートビレッジセンター、シネピピア 他にて心揺さぶるロードショー!


【STORY】
asagakurumaeni-pos.jpgル・アーブルの早朝。恋する彼女と一夜を共にしたシモン(ギャバン・ヴェルデ)は、部屋の窓から抜け出して二人の友人と合流して車で海岸へ向かう。冷たいうねりもものともせず、血気盛んな若者はサーフィンに興じる。だが、その帰り自動車事故を起こし、シートベルトをしていなかったシモンだけが脳死状態となる。突然の悲報にうろたえる母親(エマニュエル・セニエ)は、ようやく連絡がついた別居中の夫(クール・シェン)と共に医師からシモンの脳死宣告を受ける。さらに、気持ちの整理のつかぬ内に、移植コーディネーターのトマ(タハール・ラヒム)から臓器提供の依頼を受けてショックを受ける。


「まだ生きている。心臓が動いている。今にも起きてきそう」。最愛の息子・シモンを抱きしめる父と母。臓器提供の承諾を受けて動き出す移植ネットワーク。その適合者はパリに住む音楽家のクレール(アンヌ・ドルヴァル)だった。2人の息子が心配する中、もう若くもない自分が貴重な移植を受けて良いものか、と弱りつつある心臓を危惧しながらも迷っていた。だが、かつての恋人・アンヌ(アリス・タグリオーニ)との再会がクレールの背中を押す。「生きたい!」と…。 

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瑛太、監督との禁酒の契りを破ったことを公開懺悔『リングサイド・ストーリー』大阪舞台挨拶
(17.9.7 大阪ステーションシティシネマ)
登壇者:佐藤江梨子、瑛太、武正晴監督  
 
『百年の恋』ではボクシングに没頭する女子を描いた武正晴監督が、佐藤江梨子、瑛太を迎え、プロレスや総合格闘技の舞台裏も交えながら描く『リングサイド・ストーリー』が10月14日(土)より全国ロードショーされる。瑛太演じる売れない俳優、ヒデオと、ヒデオを養うために全く興味がなかったプロレス団体で働く佐藤江梨子演じるカナコ。オーディションに落ち続けるヒデオと、プロレス界の魅力に触れ、どんどん輝いていくカナコの対比や、すれ違い、嫉妬などラブストーリーの要素を盛り込みながらも、夢に向かってひたむきに努力するレスラーたちの生の姿を捉え、活気溢れる仕上がりになっている。ヒデオのダイジェストビデオでは、バイプレーヤーならではのチョイ役がズラリと並び、瑛太の思わぬコスプレも楽しめる。ヒモ男となってしまったヒデオは再起できるのか。どこまでカナコは我慢できるのか。息ピッタリの主演二人の演技にも注目したい作品だ。
 
 
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全国ロードショーを前に、9月7日(木)大阪ステーションシティシネマにて行われた舞台挨拶付有料試写会では、上映前に武正晴監督、主演の佐藤江梨子、瑛太が登壇。挨拶では佐藤が、「こんばんは。今日は来ていただいて。有料ですみません。ありがとうございます」と有料ながらの来場に感謝の意を示すと、瑛太は「大阪に来れてうれしいです。ちなみに今日は有料で2000円だったんですよね。だからちょっと空席が・・・普段は1800円で映画を観るので、懺悔みたいなことは200円分でしたいと思います」と公開懺悔宣言。「撮影始まってから監督とお酒を飲むかという話をすると、監督は『願掛けのためにお酒を抜いている』。僕も1滴も飲まないと言ったのですが、2週間ぐらいするとだんだん気持ち悪くなって、2~3日休みがあった時にビール1本飲んじゃったんです。本当にすみませんでした!ちなみに東京の完成披露では言わなかったんです。大阪だけ!」と、序盤からトークも飛ばし気味に。武監督も「今日はたくさんの人にきていただき、ありがとうございます。ショックでしたが、なんとか立ち直りたいと思います」と挨拶し、大きな拍手が送られた。
 
 
 
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前日に東京・新宿FACEで行われた完成披露上映会では、黒潮“イケメン”二郎、武尊ら格闘家らも登壇したという話題に。佐藤は「バブリーでした。お客さんも無料でした。だからもっと人がいてたような気も・・・」と観客を笑わせると、瑛太は「アスリートと一緒は初めてですが、普段リングで闘っていらっしゃる方なので、挨拶も丁寧でしたね。(ファイトシーンも)考えていたけれど、誰にも言えずに終わりました」と和やかな雰囲気であったことを強調。武監督も「映画を上映する場所じゃなく、リングで普段プロレスを見る場所なんです。偶然3年前『百年の恋』の試合シーンを撮った場所なので、ビックリしました」とイベントとしてのスペシャル感があったことを語った。一方、映画館での上映はこの大阪が初めてということにも触れ、「一緒に観たい」と力強く宣言した。
 
 
今回、売れない俳優のヒデオと10年来同棲し、支え続けている主人公カナコを演じた佐藤は、その感想を聞かれると「あと何回主演を演じることができるんだろうと思い、すぐにオファーを受けました」。一方、過去の栄光に固執するヒデオを演じた瑛太は「ヒモ生活で、女性の視点から見たらダメな男と感じるかもしれませんが、男性から見れば映画全体的に割と共感できる部分があると思います」と、ヒデオの気持ちが分かる様子。
 
 
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そんな瑛太を佐藤は「ヒデオが乗り移った感じ。ステキで応援していました。役者魂がものすごく強い方」。瑛太は佐藤との芝居について「ヒデオとカナコの関係が一瞬で出来上がった感じ。それはサトエリさんが持っている母性、男をどこか見守ってくれる包容力のある方だなと。気持ちよくお芝居させていただきました」と称えた。また、本作はオリジナル脚本だが、『百円の恋』で脚本を担当した足立紳氏の夫婦のエピソードにインスピレーションを得たことも明かされた。
 
 

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最後は「私は中学3年間を大阪肥後橋に住んでいて、その時の進路の先生に進路を聞かれて『私は芸能人になる』と言うたんですよ。そうしたらポカンとした顔をして、これは絶対あかんと思ったのですが、先生に『もし私が芸能人になって大阪に来たら、謝りに来てください』と言うと、何年かしてある日舞台挨拶に出ていたら、進路指導の先生が『ちゃんと謝りに来ました』と。私はなんて大きな口を叩いたのかと、その時はごめんなさいと思ったのですが、この作品を見て、夢を目指して闘ったりすることはいいんじゃないかという気持ちになりました。ゆっくり観て行ってください」(佐藤) 
 
「僕は大好きな映画の一本になりました。今から観られる方々なので・・・この映画、始まったら物凄いことになっているので、面白かったらたくさんの人に伝えてください」(瑛太)
 
「タイトルは『リングサイド・ストーリー』となっていますが、『ヒデオとカナコのストーリー』だと思うので、そういうところも楽しんでください。出てくる人たちみんなが楽しいと思います」(武監督)
と挨拶し、映画館初上映となる今回の舞台挨拶を笑顔で締めくくった。
 
プロレス、総合格闘技の裏側が垣間見え、『百円の恋』男性版かと思いきや、 そう簡単にはいかないところがよりリアルな、ヒデオとカナコのラブストーリー。ダメ男につい尽してしまう女性、過去の栄光を捨てきれない男性は必見!そして夢の先に進みたい人にも、是非観て、楽しんでほしい。
(写真:河田真喜子 文:江口由美)
 

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<作品情報>
『リングサイド・ストーリー』
(2017年 日本 1時間44分)
監督:武正晴
出演:佐藤江梨子、瑛太、武藤敬司、黒潮“イケメン”二郎、武尊、田中要次、高橋和也、前野朋哉、近藤芳正、余貴美子
2017年10月14日(土)~大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、109シネマズHAT神戸他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://ringside.jp/
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