「京都」と一致するもの

 

2001年に始まり、毎年春の恒例イベントとして今年で24回目の開催となる

「イタリア映画祭2024」の開催が決定いたしました。あわせて上映作品のラインナップを発表いたします。

 

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今年も例年どおり、東京会場は有楽町朝日ホール大阪会場はABCホールの2拠点での開催となる。東京では日本未公開新作13本と旧作1本の計14本、大阪では新作7本が上映予定。アカデミー賞®国際長編映画賞ノミネート作品やヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作、『オッペンハイマー』などハリウッド超大作を押さえてイタリア国内で大ヒットとなった超話題作など、最新のイタリア映画界を盛り上げるバラエティーに富んだ作品が取り揃えられている。


注目の作品は、『ゴモラ』(08)、『ドッグマン』(18)のマッテオ・ガッローネの最新作『僕はキャプテン』。ふたりのセネガル人青年が貧困から逃れるためにヨーロッパを目指して砂漠や地中海を超えて旅をする壮大な物語で、昨年の第80回ヴェネチア国際映画際で銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞、さらにアカデミー賞®国際長編映画賞ノミネートも果たした注目作。さらに、戦後イタリアの家父長制度や女性の権利をテーマに描き、国内で2023年No.1の初週興行成績を叩きだし、歴代のイタリア映画興行収入トップ10に入った超話題作『まだ明日がある』や、第2次世界大戦時に英雄として称えられた潜水艦艦長の実話を基にした人間ドラマで、第80回ヴェネチア国際映画祭でオープニングを飾った『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』など、どれも見逃せない作品ばかり。


さらに戦後イタリア映画を牽引し、数々の傑作を放ってきた巨匠監督パオロ・タヴィアーニが2月29日に92歳で逝去したことを追悼し、兄ヴォットリオ・タヴィアーニと共に監督を務めた『父 パードレ・パドローネ』(1977)の上映も決定。第30回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した永遠の名作がデジタルリマスターで蘇る。


今回の上映作品14本中5本が女性監督作品、また4本は俳優監督の作品となっており、イタリア映画界が新しい才能で活気づいている様子が見て取れるラインナップとなっている。巨匠から若手まで、多種多様な14作品が一堂に会し、最新のイタリア映画の今を映画で垣間見ることのできる貴重な機会となっている。
 


東京会場

会期: 5月1日(水)~5月6日(月・祝)

会場:有楽町朝日ホール(東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11階)

主催:朝日新聞社、イタリア文化会館、チネチッタ/特別後援:イタリア共和国大統領/後援:イタリア大使館 

 

※チケットは4月6日(土)12:00からあさチケ(https://l-tike.com/st1/asahi-id-top-29)にて発売。

(システムの都合上、座席を選択して購入ができるのは、4月7日(日) 0:00からになります。)

<前売券(オンライン)>1回券:一般1,500円/学生1,200円

<当日券(オンライン)>1回券:一般1,900円/学生1,600円

<当日券(会場販売)>1回券:一般2,200円/学生1,900円

 

大阪会場

会期5月18日(土)5月19日(日)

会場:ABCホール(大阪府大阪市福島区福島1-1-30)

※チケットは4月13日(土)12:00からあさチケ(https://l-tike.com/st1/asahi-id-top-29)にて発売。

主催:朝日新聞社、イタリア文化会館-大阪、チネチッタ 特別後援:イタリア共和国大統領/後援:イタリア大使館、イタリア領事館

(システムの都合上、座席を選択して購入ができるのは、4月14日(日) 0:00からになります。)

<前売券>1回券:一般1,400円/学生1,100円

<当日券>1回券:一般1,800円/学生1,500円

 

イタリア映画祭2024 公式サイト https://www.asahi.com/italia/2024/ 
           公式twitter:@italianfilmfes


上映作品ラインナップ▼

A.『人生の最初の日』2023)121分

監督:パオロ・ジェノヴェーゼ

出演:トニ・セルヴィッロ、ヴァレリオ・マスタンドレア、マルゲリータ・ブイ

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世界20カ国以上でリメイクされた『おとなの事情』をはじめ、ストーリーテリングの巧みさには定評があるジェノヴェーゼ監督の新作は、人生に絶望した人々が再生できるかを問いかけるドラマで、セルヴィッロ、マスタンドレア、ブイら超豪華キャストが集結。1人の男と2人の女、そして1人の少年。年齢も経験も異なる4人がどん底に突き落とされたまさにその時、自分たちがいない世界はどうなるかを知ることができる1週間の時間を与えてくれる謎めいた男に出会う。
 


B.『アモーレの最後の夜』(2023)124分

監督:アンドレア・ディ・ステファノ
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、リンダ・カリーディ

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俳優としても活躍するディ・ステファノの監督3作目は、イタリア映画界を代表する俳優の一人であるファヴィーノを主演に迎えたクライムサスペンスで、ベルリン国際映画祭特別部門でプレミア上映された。35年間のキャリアの中で、銃を撃ったことは一度もなく、実直な警察官のフランコ・アモーレは、定年退職を翌日に控えていた。祝福するために妻や同僚、友人、親戚などが集うパーティーが開かれる。めでたい夜になるはずが、彼の人生において最も長く、困難な夜が訪れることになる。
 


C.『美しい夏』(2023)110分

監督:ラウラ・ルケッティ
出演:イーレ・ヤラ・ヴィアネッロ、デヴァ・カッセル

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イタリア文学界を代表するストレーガ賞を受賞したチェーザレ・パヴェーゼの小説をラウラ・ルケッティ監督が映画化した長編2作目で、第2次世界大戦が始まる直前の2人の女性をめぐる青春物語。1938年、田舎からトリノに引っ越してきて洋裁店で働くジーニアは、年上でモデルのアメリアと運命的な出会いを果たす。官能的なアメリアに導かれてめくるめく芸術家の世界に分け入るジーニアは、新しい自分を見いだしていく。ロカルノ国際映画祭のピアッツァ・グランデ部門でプレミア上映。
 


D. 『僕はキャプテン』(2023)121分

監督:マッテオ・ガッローネ
出演:セイドゥ・サール、 ムスタファ・ファル

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巨匠ガッローネ(『ゴモラ』)が放つ渾身の一作は、セネガルの青年2人がアフリカを縦断し、ヨーロッパを目指す壮大な旅の物語。セイドゥとムッサは、豊かな生活を求めて親族に知られることなく、ダカールを離れる。しかし、彼らを待ち受けていたのは想像を超える数々の困難だった。いわば現代版オデュッセイアの本作は、ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)やマルチェッロ・マストロヤンニ賞(若手俳優賞)などを受賞、アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた。
 


 

E. 『ルボ』Lubo (2023)180分

監督:ジョルジョ・ディリッティ
出演:フランツ・ロゴフスキ、クリストフ・セルメ、ヴァレンティーナ・ベッレ

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ディリッティ(『やがて来たる者へ』)の長編5作目は、第2次世界大戦下のスイスで移動型生活集団のイェニッシュを襲った悲劇をベースに創作された大作。1939年、大道芸人のルボはドイツ軍の侵攻を防ぐため、スイス軍に招集される。その直後、優生学の原理に基づく国家の再教育プログラムの一環として3人の子供は連れ去られ、それを止めようとした妻は殺されてしまう。主演は、国際的な活躍がめざましいドイツのフランツ・ロゴフスキ。ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品。
 


F. 『そう言ったでしょ』(2023)100分

監督:ジネヴラ・エルカン
出演:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、ヴァレリア・ゴリーノ、アルバ・ロルヴァケル

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豪華キャストを迎えたエルカンの長編2作目は、異常気象で冬に50度に達するローマを舞台に、様々な問題を抱える人々を描くディストピア的群像劇。わずかなファンにしがみつく元ポルノスターと彼女に夫を寝取られた妻。元ヘロイン中毒の神父とアメリカから亡き母の遺灰を持ってやって来るその妹。アルコール中毒と闘いながら幼い息子の親権を取り戻そうと必死な女性とその元恋人。世界が終末に向かっていくような中で、人々は避けてきた個々の問題に向き合わざるをえなくなる。
 


G. 『あなたのために生まれてきた』(2023)113分

監督:ファビオ・モッロ
出演:ピエルルイージ・ジガンテ、テレーザ・サポナンジェロ

 

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実話を基に同性愛者が親権を得るために闘う姿を描くモッロの監督5作目は、現在における家族の形を問いかける心温まるドラマ。カトリック教徒で情熱的なルカは、障害者施設でボランティアをしているゲイのナポリ人。子供を迎えいれて、パートナーと共に親になることを望むルカだが、ゲイの独身者やカップルには養子縁組は認められていなかった。生まれて間もなく病院に置き去りにされたダウン症児アルバの親になるために、ルカは奮闘する。

 


H. 『まだ明日がある』(2023)113分

監督:パオラ・コルテッレージ
出演:パオラ・コルテッレージ、 ヴァレリオ・マスタンドレア

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人気コメディエンヌのコルテッレージが監督業に初挑戦。取りあげたテーマは、家庭内虐待と女性の権利で、戦後のローマで夫からの虐待に苦しむ主婦を本人が演じている。デリアは、イヴァーノの妻で3児の母。イヴァーノは、時には辛辣な言葉で、時には暴力で一家の大黒柱が誰なのかを皆に思い知らせていた。娘の幸せだけを願っていたデリアに謎めいた手紙が届き、彼女の人生が変わる。本国ではハリウッドの大作を押しのけて、2023年の興行収入ランキングのトップに立つ大ヒットを記録した。
 


I 『ヴォラーレ』 (2023)100分

監督:マルゲリータ・ブイ
出演:マルゲリータ・ブイ、アンナ・ボナユート

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イタリアの大女優マルゲリータ・ブイが監督デビュー。主演も兼ねて、自身の公私を色濃く反映したコメディーを作り上げた。韓国行きの飛行機にさえ乗れれば、国際的な成功も夢ではないスター俳優のアンナビーだが、致命的な弱点があった。それは、飛行機恐怖症。娘も海外留学を決意。そこで、航空会社が運営する恐怖症を克服するための特別レッスンに申し込む。レッスンで出会ったのは、問題は共有するけれども、経歴も年齢も様々な人々。はたして彼女は恐怖を克服できるのだろうか?
 


J.『信頼』(2024)136分

監督:ダニエーレ・ルケッティ
出演:エリオ・ジェルマーノ、ピラル・フォリアーティ、ヴィットリア・プッチーニ

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ダニエーレ・ルケッティ監督は、『靴ひものロンド』に続いて重鎮ドメニコ・スタルノーネのベストセラー小説から、スリリングな心理ドラマを仕立てた。教え子たちから慕われる高校教師ピエトロは、かつての教え子テレーザとの間に愛を見出す。彼女の提案で、互いの知られざる秘密を打ち明けようと提案する。その秘密とは、公になればその人の人生が壊れてしまうような衝撃的な秘密だった。主演は、ルケッティ作品に4度目の出演となるジェルマーノ。音楽はレディオヘッドのトム・ヨーク。
 


K.『グローリア!』(2024)106分

監督:マルゲリータ・ヴィカーリオ
出演:ガラテーア・ベッルージ、カルロッタ・ガンバ

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シンガーソングライターで女優でもあるヴィカーリオの初監督作は、歴史に埋もれた無数の女性音楽家を頌える、ポップで躍動感あふれるミュージカルドラマ。時は1800年、ヴェネチア近郊の孤児院。無口で孤独なメイドのテレーザが、音楽によって現実を作り変えることができる非凡な才能の持ち主ということは、誰も知る由もなかった。新教皇の訪問に際し音楽会が開かれることになったことから、その才能が開花する。ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された。
 


L.『別の世界』(2024)114分

監督:リッカルド・ミラーニ
出演:アントニオ・アルバネーゼ、ヴィルジニア・ラッファエーレ

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イタリア喜劇を牽引するヒットメーカー、ミラーニ監督が最新作で主演に迎えたのは、『環状線の猫のように』などでおなじみのアルバネーゼ。これで5度目となる息の合ったタッグが、都会と田舎のギャップで笑いを誘う。長年ローマで小学校教師を務めてきたミケーレは、大都会での暮らしに嫌気が差していた。希望が叶い、新たに赴任することになったのはアブルッツォ州の小さな村。ローマからそれほど離れていないのに、雪が降りしきる極寒のその地は全くの別世界で、日々の生活に悪戦苦闘する。
 


[オープニング作品]

X. 『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』(2023)122分

監督:エドアルド・デ・アンジェリス
出演:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、マッシミリアーノ・ロッシ

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2023年ヴェネチア国際映画祭オープニング作品。1940年10月、イタリア海軍の潜水艦長サルヴァトーレ・トーダロは大西洋を航行中、撃沈させたベルギーの武装商船の乗組員たちを救助し、最寄りの安全な港まで運んでいく決断を下す。艦内に彼らのスペースを割くために、彼は敵軍から見える水面を3日間航行することを余儀なくされ、自分と部下の命を危険にさらすことに―。実話を基に製作。2024年夏全国公開予定。
 


[特別上映]

Y. 『父 パードレ・パドローネ』(1977)114分

監督:パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
出演:オメロ・アントヌッティ、サヴェリオ・マルコーニ

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羊飼いから後に言語学者になったガヴィーノ・レッダの自伝をタヴィアーニ兄弟が映画化。監督の代表作の一つであり、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。舞台は、封建的な家父長制の残る1940年代のサルデーニャ島。羊飼いのエフィシオは息子のガヴィーノが通う小学校に押しかけ、授業を放り出させ、牧草地で牛の世話をさせる。文盲でサルデーニャ語の知識しかないガヴィーノは、やがて厳しい生活から自分を解放するための探求に乗り出す。デジタルリストア版で上映。
 


《イタリア映画祭2024》

東京会場/5月1日(水)より有楽町朝日ホールにて開催

大阪会場/5月18日(土)よりABCホールにて開催


(オフィシャル・リリースより)

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 ノルウェーの青春音楽ロードムービー『ロスバンド』で知られるクリスティアン・ロー監督のスウェーデンを舞台にした最新作『リトル・エッラ』が、4月5日より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、シネマート心斎橋、アップリンク京都で公開中、4月20日より元町映画館、以降全国順次公開される。スウェーデンの街やファッション。フードのカラフルさだけでなく、個性豊かな登場人物が次々登場し、人種、ジェンダーの壁を軽やかに超えて、最後はそれぞれが、かけがえのない友情や愛情に気づく。ぜひ親子でご覧いただきたい、ハートウォーミングな作品だ。本作の公開を記念し、来日したクリスティアン・ロー監督にお話を伺った。
 
<ストーリー>
人と仲良くするのが苦手なエッラが、唯一仲良くできるのは、おじさんで“永遠の親友”であるトミーだけ。両親が休暇で出かけている間、トミーと過ごすのを楽しみにしていたエッラだったが、オランダからトミーの恋人スティーブがやってきて、夢の1週間は悪夢へと変わる。親友を取り戻したいエッラは転校生オットーの力を借りてスティーブを追い出すための作戦に出るのだが…
 

 

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■最高の児童映画があるスウェーデンで、子どもの映画を撮れたのは本当に光栄

―――まず、監督は今までどんな映画に影響を受けたのかを教えてください。
ロー監督:『ロスバンド』も『リトル・エッラ』もインスピレーションを受けたのは『リトル・ミス・サンシャイン』です。また『ロスバンド』は『セッション』にもインスピレーションを受けました。自分が小さい頃は『グーニーズ』やアストリッド・リンドグレーンの作品が大好きで、特に「長くつ下のピッピ」がお気に入りでした。『リトル・エッラ』ではおばあちゃん役のインゲル・ニルセンさんが、テレビシリーズに出演していたので、彼女に演じてもらうのは素晴らしいことでした。小さい頃から、スウェーデンの児童映画は最高のものだと思っていたので、自分がスウェーデンの子どもの映画を撮ることができたのは、本当に光栄だと思っています。
 日本の映画ではジブリ作品が大好きで『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』がお気に入りです。今回は妻子と来日していますが、三鷹の森ジブリ美術館にも行きました。
 
―――ロー監督はノルウェーのご出身ですが、今回隣国のスウェーデンで撮影され、新たな発見や文化の違いはありましたか?
ロー監督:実はノルウェーとスウェーデンはとても似ている国で、言語も非常に似ているのですが、わずかに違うのが、スウェーデンにはフィーカというコーヒーブレイクがあります。映画でもモンスターケーキを食べるシーンが出てきましたが、ああいうお菓子を食べながらコーヒーを飲むんです。昼休み以外にも、スウェーデンでは、みんなフィーカのお休みを取ろうとすることすることが多かった。わたしはノルウェーではとてもスピーディーに仕事をするタイプなのですが、スウェーデンではフィーカの休みに引きずられ、撮影もいつものようにテキパキとはいかなかったですね。
 
 
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■嫉妬という感情やおじさんとの友情を軸に、オリジナルの“いたずら”を加えて

―――本作は、スウェーデン出身の絵本作家ピア・リンデンバウムさんの『リトルズラタンと大好きなおじさん(未訳)』が原作ですが、一番心惹かれた点や、映画化するにあたり大事にした点を教えてください。
ロー監督:この絵本は素晴らしいと読む前から噂を耳にしていましたが、実際映画化の企画が立ち上がってから読んでみると、嫉妬という感情について描かれているのが素晴らしいと思いました。この感情は全ての人間が持つもので、そこを描くことにとてもやりがいを感じました。あとは絵本で描かれているおじさんとの友情についても素晴らしいと思いました。絵本のスタイルを大事にする一方、原作はたった30ページしかなかったので、映画化するにあたっては大幅に要素を付け加えることが必要でした。例えばカーチェイスのシーンを付け加えましたし、エッラと友達になりたがり、スティーブ追い出し作戦に協力してくれる転校生のオットーは新たに作り出したキャラクターです。そして、あとはユーモアが必要でした。映画化においては、エッラが繰り出すさまざまないたずらを付け加えています。
 
―――なるほど。エッラのいたずらは、ほとんど監督が考えたのですか?
ロー監督:原作ではスティーブの靴の上に塩を振るシーンはありましたが、付け加えたのはネズミとか、コーヒーに塩を入れるシーン。そしてスティーブの髪を刈り上げるシーンですね(笑)。
 
―――エッラのいたずらを受け止める大人たちの寛容さにも驚きました。日本では人に迷惑をかけないように、大人がすぐ叱ることが多いのですが、ノルウェーやスウェーデンでは子どもに対してどのように接しているのですか?
ロー監督:映画の中のトミーは非常に我慢強いですよね(笑)。わたしたちの文化は叱りつけるというよりは、もう少し穏やかに子どもと話をするという文化かもしれません。ただ、トミーほど(いたずらをされ続けても)寛容でいられるかは難しいですね。
 
 
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―――多様性が違和感なく伝わってきて、見終わってとても幸せな気持ちになれます。
ロー監督:わたしも『リトル・エッラ』の原作者であるピア・リンデンバウムさんが大好きで、トミーおじさんに男性の恋人がいることがごく自然に描かれていたので、映画の中でも活かしたいと思いました。
 
―――前作の『ロスバンド』でも、不器用な子どもを主人公にした作品を作られていますが、ご自身の作家性についてどのように捉えておられますか?
ロー監督:第一に若い観客を非常に大事にしているし、彼らが好きですね。若い観客が受ける映画体験は非常に強いものがありますから。わたしは少し疎外感を覚えている登場人物を描く傾向があります。わたしも小学校の時、自分の居場所はここにはないと感じていました。『ロスバンド』でも4人のキャラクターがそれぞれ、さまざまな葛藤を抱えていますが、一緒にバンドを組み、友達として乗り越えていくことを描きました。『リトル・エッラ』も友情について描いた作品だと思っています。
 
 
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■子どもたちがさまざまな芸術家と触れるノルウェーの教育事業「カルチャースクールリュックサック」

―――若い観客を大事にした映画づくりは本当に大切で、日本のミニシアター界でも若い観客を育てるのが喫急の課題であり、大事なのは学生時代に映画を見る体験だと思っています。スウェーデンでは児童映画の秀作も多いということで映画が教育の中に根ざしているのではと思ったのですが、ノルウェーでは映画を教育に取り入れたプロジェクトはあるのですか?
ロー監督:ノルウェーの小中学校では、(国からの予算で運営され、芸術家にも報酬が支払われる)カルチャースクールリュックサックという取り組みがあります。子どもたちがさまざまな分野の芸術家たちに出会える機会を作るというもので、『リトル・エッラ』もいろいろな街の映画館で上映し、地元の小中学生が観客として訪れ、監督とのQ&Aの時間や話し合いの時間を設けています。子どもたちにとってさまざまな芸術家に直接出会える体験は非常に大切だと思います。高校ではメディア学科があり、大学は僕の出身地、リレハンメルに国立の映画大学があります。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『リトル・エッラ』 “LILL-ZLATAN OCH MORBROR RARING”
(2022年 スウェーデン・ノルウェー 81分)
監督:クリスティアン・ロー  
出演:アグネス・コリアンデル、シーモン・J・ベリエル、ティボール・ルーカス 他
現在、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、シネマート心斎橋、アップリンク京都で公開中、4月20日より元町映画館、以降全国順次公開
(C) 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS
 
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 ノルウェーを舞台にした青春音楽ロードムービー『ロスバンド』で知られるクリスティアン・ロー監督のスウェーデンを舞台にした最新作『リトル・エッラ』が、4月5日より全国公開中だ。公開を記念して、4月7日にシネマート心斎橋にてクリスティアン・ロー監督が登壇し、北欧ビンテージショップFukuyaオーナーの三田陽子さんが聞き手を務める舞台挨拶が開催された。その模様をご紹介したい。
 
 
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<ストーリー>
人と仲良くするのが苦手なエッラが、唯一仲良くできるのは、おじさんで“永遠の親友”であるトミーだけ。両親が休暇で出かけている間、トミーと過ごすのを楽しみにしていたエッラだったが、オランダからトミーの恋人スティーブがやってきて、夢の1週間は悪夢へと変わる。親友を取り戻したいエッラは転校生オットーの力を借りてスティーブを追い出すための作戦に出るのだが…
 

 

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―――エッラの大好きな叔父のトミーとスティーブは同性カップルですが、映画の中で特別ではなく、普通のこととして描かれています。日本は性の多様性について保守的で、日本映画では同性同士の恋愛部分がフューチャーされがちですが、監督は意図的に(ニュートラルに)描いているのですか?
ロー監督:原作絵本で大好きだったのは、トミーとスティーブの関係性です。同性同士であっても愛は愛であり、その点が素晴らしい。世界の中で同性の人を愛するのはごく自然だと思っています。エッラにとって、大好きなトミーおじさんを奪ってしまう人は、どちらの性でも関係ありません。その点も素晴らしいと思いました。
 
―――物語のキーとなる「友とは人生の庭に咲く花」という言葉は原作に登場しませんが、どのようなところから引用したのですか?
ロー監督:脚本家の一人、サラ・シューが見つけた言葉です。彼女の引用元はわかりませんが、この映画のメッセージに大変適した言葉だと思います。
 
 
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―――エッラは友達がおらず、母型の叔父が遊んでくれたことが、わたし自身の境遇と重なり感情移入しましたが、監督自身の子ども時代の体験をエッラの描写に反映させた点はありますか?
ロー監督:わたし自身、小さいときに大のお気に入りのおじさんがいました。面白いことに原作者にも大変お気に入りのおじさんがおり、それをもとにこの絵本を描いたそうです。また、転校生のオットーは原作にはないキャラクターですが、彼の中に自分の体験や感情を込めた部分があります。
 
―――『リトル・エッラ』には北欧料理が多く登場します。ポークパンケーキやユニークなお菓子が出てきますが、監督は映画の中で食べ物をどのような役割と捉えているのですか?
ロー監督:『リトル・エッラ』で食べ物はいろいろな役割を果たしてくれました。ポークパンケーキは非常に伝統的なスウェーデン料理ですが、エッラにとってはつまらない食べ物です。一方、トミーは人生でワクワクすることが大好きです。フィーカと呼ばれるスウェーデン人が大事にしているコーヒーと大事なおやつを食べる習慣を大事にしており、そこでモンスターケーキを食べることも大事にしています。ノルウェーとスウェーデンは隣国ですが、ちょっとした違いがあるんです。スウェーデンにはランチ休憩以外でもフィーカの伝統があるので、ノルウェーで仕事をすると一生懸命働き、体重が減るのですが、今回、スウェーデンで撮影したので、体重が増えてしまいました(笑)。
 
 
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―――最後に、原作でも登場する三つ子の兄弟は、(CGではなく)本物の三つ子だそうですね。
ロー監督:実は彼らは俳優ではなく、大工さんたちなんです。Youtube動画を探していたとき、三つ子株式会社という面白いYoutube動画をアップしていて見つけました。映画でとても上手に演じてくれましたよ。
(江口由美)
 

<作品情報>
『リトル・エッラ』 “LILL-ZLATAN OCH MORBROR RARING”
(2022年 スウェーデン・ノルウェー 81分)
監督:クリスティアン・ロー  
出演:アグネス・コリアンデル、シーモン・J・ベリエル、ティボール・ルーカス 他
現在、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、シネマート心斎橋、アップリンク京都で公開中、4月20日より元町映画館、以降全国順次公開
(C) 2022 Snowcloud Films AB & Filmbin AS
 

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【日 程】 3月9日(土)上映後舞台挨拶

【会 場】 渋谷ホワイトシネクイント(東京都渋谷区宇田川町15−1 渋谷パルコ8階)

【登壇者】 富田健太郎、森山未來、さとうほなみ、小泉今日子、マヒトゥ・ザ・ピーポー監督



3月9日(土)渋谷ホワイトシネクイントにて、映画『i ai』(読み:アイアイ)の公開記念舞台挨拶が行われ、主演の富田健太郎、共演の森山未來、さとうほなみ、小泉今日子、そしてマヒトゥ・ザ・ピーポーが登壇した。


aiai-main-500.jpgGEZANのフロントマンで、音楽以外でも小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催など多岐にわたる活動で、唯一無二の世界を作り上げるマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務め、第35回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出品され話題を呼んだ映画『i ai』は、マヒト監督の実体験をもとに、主人公のバンドマン・コウと、コウが憧れるヒー兄、そして仲間たちが音楽と共に過ごした日々を綴った青春映画。


2021年夏に撮影し、ようやく迎えた劇場公開の感想を訊かれたマヒト監督は、「3年間、自分たちの中で大事にしてきたものは、羽ばたいていく。親鳥のような、いってらっしゃいっていう気持ちで、本当に嬉しいです」と笑顔。3,500人の大規模オーディションから抜擢され、映画初主演を務めた富田は、満員の客席を見て、「この景色を忘れないと思います。『i ai』に出逢えたことは宝物です」と喜びを噛み締めた。


iai-bu-500-3.jpg本作はクラウドファンディングで製作を開始し、当初より「共犯者になってください」と呼びかけていたマヒト監督。「自分ひとりの書いた脚本から始まったものなんですけど、いろんな人の力やエネルギーが重なって、立体的に組み上がっていく過程を撮影中の現場でも見ていました。映画は完結しているんですけど、それがお客さんの前に手渡されて、その人の中の血に溶けてこれから始まっていくんだなとも同時に思っています」と今後に期待を込めた。


aiai-making-240-1.jpgマヒト監督の「共犯者」としてこの映画に参加した役者陣。出演理由について森山は、「台本という名前もまだつけてあげられない状態というか、私小説的な、純文学的な状態のものをマヒトから受け取ったときに、こんなにピュアに届けたい言葉がある、伝えたいことがあるということに特化した物の書き方に久しぶりに出会った感覚があって」と振り返ると、「まだ脚本にはなっていないけど、これをどうやったら(映画に)できるだろう?というところから始まったんですけど、そのうちに、直筆の赤い手紙をいただいて。でも、そこに何が書いてあったか内容は思い出せないんですよね」と笑いながら明かした。続けて、「地元が神戸なんですけど、この作品が神戸であり明石の作品であるということは、海と空の話でもある。それは血として違う海で撮るというのは僕の中ではなかった」と断言。「やっぱり瀬戸内海特有の色味や霞みというのは、太平洋にも日本海にもない。それを撮れないなら、参加できないと言いました」と撮影地へのこだわりを見せた。


aiai-koizumi-240.jpg小泉は、「私はカメラマンの佐内(正史)さんとも昔から何度もお仕事していて、佐内さんもマヒトくんも独特の自分の言葉を持っていて、写真を撮ったり、音楽を作ったりして表現しているんだけど、そんな2人が組んだときにどんなことが起こるんだろうって。2人のセンスは元々好きなので、これはプラスしかないんじゃないか、すごい良い化学反応が起こるんじゃないだろうかと思い参加しました」と説明。

 

主人公コウや仲間たちが集うライブハウスの店長を演じた小泉。その役どころについて「ライブハウスに夢や憧れをもって集う若者たちは今でもたくさんいると思うんですけど、その中で音楽を生業にして生きていけるひとって本当にすごく少ないと思うんですよね。でもそういう人たちが置いていった夢の“墓守”のようなそんな気持ちで演じさせていただいた」と明かした。


aiai-satou-240.jpg一方ヒー兄の恋人るり姉役で、ほないこか名義でミュージシャンとしても活動するさとうは、「私も10年以上バンドをやっていて、売れない時期とかライブハウスでやっていた時もあるし、色々な人が諦めて会社員になったりだとか、もうバンドをやっていなかったりとか、そういう人たちの魂も込めて、ライブハウスにはあるもんだろうな」と吐露。


マヒト監督が紡ぐ詩的な“ことば”と映像美が魅力の本作。小泉は「本当に、30年ぐらいの時間の中で一番好きな日本映画でした」と話すと、森山は「この体験、色彩、音。映画館で体験するために作られたもの。この空間設計だからこそ、届く言葉。劇場に足を運んでもらうことに、こんなに意味のある映画はないと思います」と呼びかけた。


aiai-tomita-240.jpg最後に観客に向けて、富田が「僕はコウとして生きることができて幸せでしたし、この『i ai』という大きな赤い風船がどこまでも飛んでほしいと思っていますし、僕は心から信じています。この映画を皆さんとどこまでも飛ばしていきたいなと思っています」と語り、マヒト監督は「『i ai』は“別れ”が真ん中にあるお話だと思うんですけど、“生きる”についての話だと思うんですよね。みんなが当事者の話で、必ず訪れる自分の大切な人だったりとか、自分自身もまたこの世界からいなくなるときがくる。誰ひとり部外者がいないストーリーで、映画が終わったあともずっと続いていくものだと思うんで、これからもよろしくお願いします。これからもというか、これからがよろしくお願いします」とメッセージを送り、締め括った。
 


【STORY­­】
兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。


出演:富田健太郎 / さとうほなみ 堀家一希
    イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ
         吹越 満 /永山瑛太 / 小泉今日子 / 森山未來
監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影: 佐内正史  劇中画: 新井英樹
主題歌: GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー: 平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
製作プロダクション:スタジオブルー  配給::パルコ
©STUDIO BLUE(2022年/日本/118分/カラー/DCP/5.1ch)
■公式サイト:https://i-ai.jp 
■公式X:https://x.com/iai_2024
■公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/

2024年3月8日(金)~渋谷ホワイトシネクイント、シネ・リーブル神戸、3月22日(金)~大阪ステーションシティシネマ、アップリンク京都 ほか全国公開!


オフィシャル・レポートより

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2024年3月3日、ホテルエルセラーン大阪のエルセラーンホールにて《おおさかシネマフェスティバル2024》が開催された。午後の表彰式では、90歳を迎えた映画伝道師の浜村淳が総合司会を務め司会の簫秀華や受賞者と絶妙な掛け合いをみせ、今年も笑いの絶えない式となった。俳優部門を中心に受賞者の主なコメントをご紹介したい。


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★主演女優賞:松岡茉優『愛にイナズマ』

(浜村から『ちはやふる』の演技を褒められ)『ちはやふる』と『愛にイナズマ』はプロデューサーが同じ。折村花子のキレ具合や泥臭さに共感しながら演じていた。映画を観て、悔しい想いや理不尽な目に遭った思い出を話してくださる方がたくさんいるとわかった。映画を観て、花子に熱いエールをもらってほしい。

 

 

★主演男優賞:鈴木亮平『エゴイスト』
      
(ビデオメッセージにて)

『エゴイスト』は、愛とエゴの話で、私にとっては人間ってなんと素晴らしいのかと思える人間賛歌の映画。大阪で映画を撮ることがあれば、ぜひ協力していただきたい。

 

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★助演男優賞:磯村勇斗『月』 

17歳で役者をやりたくて友達同士で映画を作り、それがきっかけでこの業界を目指し、小劇場活動時代に今の事務所に声をかけられた。『月』という作品は非常に難解で、社会的テーマが強いので、どういう風に届くのかと思っていたが、みなさんの心や脳内に届いていることを実感している。

 

 

★助演女優賞:中村久美『高野豆腐店の春』

いい人しか出て来ない映画。相手が藤竜也さんなので、素晴らしいなと思ってそのままの気持ちで、やらせていただいた。俳優歴45年で初めて賞をいただいた。三原監督と藤竜也さんのタッグ3本目で、最小限の日程、人数で大急ぎで撮り、和気藹々とした信頼のもとで作り上げた映画です。

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★新人男優賞:黒川想矢『怪物』

大阪でも映画『怪物』を好きな人がたくさんいるとは知っていたが、このような賞をいただけて、嬉しい。『怪物』に出る前まではこのような奇跡を起こすことはできなかったので、是枝組や映画『怪物』に感謝している。

 

 

 

 

 

cinefes2024-hiiragi-240-1.jpg★新人男優賞:柊木陽太『怪物』

出身が京都で、関西で受賞できるのはすごく嬉しい。本当にありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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★新人女優賞:サリngROCK『BAD LANDS バッド・ランズ』

演劇も映画も、すべての要素が掛け算になっていて、この賞を私に撮らせてくださった作品への賞だと思っている。

(サリngROCKさんは自身で立ち上げられた劇団《突撃金魚》で脚本・演出を手掛けておられ、俳優としての映画出演は初めて。)

 

 

 

 

 

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★新人女優賞:中野有紗『PERFECT DAYS』

何もかもが初めて、外国の監督で不安でしたが、言葉の壁を超えて心が通じ合うものがあった。(ヴィム・ヴェンダース監督は)ありのままの私を受け入れ、私そのままでいさせてくれた。初めての映画でこのような素晴らしい賞をいただくことができたのは『PERFECT DAYS』チームのみなさんのおかげ。観てくださった方の心や記憶に残る演技ができればと思っている。

 

 

 

 

 

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★監督賞:石井裕也『月』

いつも見ることのない、見ようとしない世界を描いているので、どう広く、深く見せるかに一番苦労した。いろんな大変なこともありましたが、作ることができて今は本当に良かった。


 

 

 

 

 



cinefes2024-hamamura-500-1.jpg武部好伸(作家・エッセイスト)のコメント

御大・浜村淳さんのアドリブ感と(状況を鑑みない)マイペース感にますます拍車がかかり、それを巧みに(必死に?)フォローする簫秀華(しょうしゅうか)さん。2人の息の合った絶妙なる司会ぶりに会場は常に笑いの渦。こんな飾りっ気のない映画祭は他にはありません。受賞者にもこの雰囲気が伝染し、皆さん、リラックスムードに。主演女優賞の松岡茉優さんと浜村さんの掛け合いは漫才そのものでした。これが「おおさかシネマフェスティバル」の醍醐味! いやぁ、ええ塩梅でした。


河田真喜子(シネルフレ編集長)のコメント
浜村淳さんの暴走を止められるのは簫秀華さんしかいない! 今年も浜村さんのハチャメチャぶりに振り回される授賞式となったが、簫さんが冷や汗かきながら浜村さんを止める度に会場からは爆笑が沸き起こる。大阪のお客さんは優しい!浜村さんの予測不能な行動に大いに笑って喜んで下さるのだから…大阪ならではの授賞式だろう。(簫さん、今年もお疲れ様でした!)
今年は実行委員長の高橋聰氏が体調不良で登壇されなかった。長年、関西独自の映画祭を要として率いて来られ、映画関係者や業界人、さらには映画祭のファンからも慕われているお方だ。今後も多くの方々に映画への情熱の火を灯し続けて頂きたいと願わずにおられない。
 

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 井上淳一(『福田村事件』製作・共同脚本)が脚本・監督を務める『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が2024年3月15日(金)よりシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ、3月16日(土)より第七藝術劇場ほか全国ロードショーされる。
 
 『止められるか、俺たちを』(白石和彌監督)に続き、若松孝二監督を演じる井浦新をはじめ、シネマスコーレ初代支配人の木全純治を話題作への出演が続く東出昌大、映画監督への夢を断ち切れない大学生アルバイト、金本法子を芋生悠、シネマスコーレで若松監督と出会い、弟子入りを志願する井上淳一を杉田雷麟が熱演。80年代半ば、VHSの普及で映画館への客足が遠のき始めた時期に、特色のある編成と、それまで自主上映するしかなかったインディペント映画を育てる場として、新しい映画館(ミニシアター)を作り上げるまで、運営する木全と井上や金本らの青春物語がクロスする。
 来阪した井上淳一監督、出演の芋生悠さん、杉田雷麟さんにお話を伺った。
 

 
――――前作から10年後のシネマスコーレ誕生の舞台裏と、井上さんを含むそこに集う人たちの群像劇を撮ったいきさつは?
井上:『止められるか、俺たちを2』を作ろうなんて一度も思ったことがありませんでした。コロナ禍のシネマスコーレを追ったドキュメンタリー『シネマスコーレを解剖する。』のパンフレットに「スコーレを作る時の話だったら、止め俺2ができるんじゃないか。タイトルは『止められるか、木全を』で」と100%冗談で書いたら、スコーレ界隈から「面白いから本当に作ってほしい」と声が上がって、助成金(ARTS for the future! 2)を使って、1千万円ぐらいで撮れるんじゃないかと思い始めた。でも、木全さんの話だけじゃもたなくて、仕方なく自分のことを書くしかなかった。さすがに「取り返しのつかないことになるかも」と思ったけど、逆に構想何年でいつか自伝をやりたいみたいな感じじゃなかったのが良かったのかもしれません。
 
 
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■井浦さん、東出さんの厳しい目があったからこそ書けた脚本(井上)

――――なるほど、当初からの狙いではなかったんですね。
井上:最初は1千万で作れる規模のものを考えていて、第一稿はお金のかかりそうな撮影シーンとかを全部、木全さんと井上のインタビューの中で語るというふうにしていた。そしたらそれを読んだ東出さんから「(前作が)好きなので、それを超える熱量、かつ新しい地平にどうすれば辿り着くのか、想像の羽を大きく羽ばたかせながらこの台本に向き合い続けたいと思います」というメールが来た。ということは面白くないということじゃないですか。それでこれはヤバいと本気になった。
 
――――どんな改変を加えたのですか?
井上:まずインタビューで語らせていたところを全部シーンにしていった。もう製作費のことを考えるのはやめよう、こんなことを書いて撮れるかな?という自分の演出力を考えるのもやめよう、まずは面白いシナリオを書こうと。他には、例えば金本はお姉さんキャラで、一緒にスコーレでバイトするのは後輩だった。それが、スコーレの常連だった田中俊介さんが出たいと言ってくれたんだけど、役がなくて、その後輩を先輩にすることが思いついた。それで金本と一度ネている設定にして、金本より先に就職という問題に直面するようにした。それで、物語にも幅が出来たし、金本にも陰影が加わった。そうやってキャスティングで豊かになったところも多い。撮影の蔦井孝洋も「面白いホンだけど、傑作になるには何かが足りない」と言い続けてくれたし、東出さんもだけど、(井浦)新さんもいろいろ言ってくれたし。スタッフ、キャストの厳しい目がなければ、シナリオでここまで粘れなかったかもしれません。
 
――――ちなみに、井浦さんからはどんなご指摘があったのですか?
井上:やはり何かが足りないと言っていて、ある時、この時期の若松さんって、淋しかったんじゃないかと思ったんです。前作の登場人物たちはアラフォーになり、みんな売れて離れていった。盟友の足立正生さんは日本赤軍と合流してアラブに行ったまま。そこに子ども世代の僕が言ったわけですが、一緒に闘うという感じじゃなかったと思うんです。それでそのことを書いて、新さんにLINEしたんです。そしたら「それに気づいたのなら、脚本に書いて下さい。ただ僕は古いアルバムさえ用意してもらえたら、やることは分かっていますが」と返信が。しかし、そこは僕も脚本家としても意地がありますから、それで書いたのが、若松プロの事務所で井上が目覚めると若松さんが静かに電話しているシーンです。いいシーンになったと思っています。あと、新さんとクレジットの話になったことがあるんです。そしたら新さんが「この映画のトップは芋生さんだ」と。この映画の中で一番変わるのは金本なんです。そういう意味では主役は金本と言っても過言ではない。それを新さんは読み取っていた。さすがだなと思いました。
 
――――シナリオ段階での密なやりとりの結果は、作品を見れば分かりますね。
井上:東出さんもクランクイン直前まで、どう演じるべきか悩んでいたと思います。木全さんって、ドラマの基本である「対立と葛藤」がないんですよ。本人は「ないんじゃなくて、しないんだ」と言っていますが、とにかく悩みを見せないし、怒らない。だから芝居場を作れないんです。東出さんも撮影前に木全さんにはじめて会った時、「ガーッと怒ったりしないんですか」とか訊いていたけど、木全さんは「ないない」としか言わない。最初は木全さんが主役のつもりだったので、東出さんにも主役オファーだったんですよ。だから僕は降りられても文句は言えないなと思っていた。でも、たぶんシフトチェンジして、若い二人をサポートする触媒のような存在を見事に演じてくれた。東出さんはスゴいですよ。外見はあんなに違うのに、木全さんにしか見えないし。
 
 
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■井上さんの脚本に信頼を寄せ、オファーを快諾(杉田)

――――杉田雷麟さんは若松監督に弟子入りする頃の井上さんを演じていますが、いつ頃オファーされたのですか?
杉田:『福田村事件』の撮影前です。
 
井上:『福田村事件』のオーディションで500人近い俳優さんに会ったのですが、杉田さんが来た時に別の惑星から違う生き物が来たかと思うくらいオーラがあって、驚きました。これは僕だけでなく、みんな言っていた。僕は福田村のオーディションなのに「ラッキー、井上が来た!」と一人で喜んでた。雷麟くんは10代から売れているのに、何も余分なものが付いていない感じと、どこか今の自分に満足できていない感じがものすごく良くて、『福田村事件』で役が決まる前に、本作の出演をオファーしました。
 
――――監督本人役というのはプレッシャーがありましたか?
杉田:『福田村事件』のラストシーンで脚本の改訂を巡っていろいろな意見がありましたが、僕と井上さんは同じ意見だったし、こういう差し込み(脚本)を書く人なんだと信頼が厚くなりました。井上さんが書く脚本なら、僕はなんの心配も要らないと思ったし、演じるにあたり最初は緊張しましたが、あとは僕が演じてみなさんにどう思っていただけるかなと。それだけでしたね。
 
――――井上監督と同世代なので、80年代地方都市の高校生映画デートとその後のエピソードがリアルかつ面白かったです。
杉田:あのシーン、ダサくていいですよね(笑)。僕も演じた井上のようなダサい部分があるんですよ。相手の興味の有無など気にせず、自分の知識をひけらかしてしまうとか。演じていて恥ずかしくなって来たりして…。
 
井上:僕、ほとんど演出してないんですけど、あのシーンだけは「映画の知識をひけらかすところから、すでに口説きに入ってるからね」と言いました。そんなこと、上手くいくわけないのに、ずっと勘違いしてきた。もう自虐というか、カミングアウトというか、ごめんなさいという感じで。でも、自分のことだといいですよね。どれだけダサく書いても、誰にも怒られない(笑)。前作は遠慮してないと言いながら、どこかでやっぱり遠慮してましたから。
 
 
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■インディーズ映画に育ててもらったので金本役で恩返しがしたい(芋生)

――――なるほど(笑)。それでは、芋生悠さんのキャスティング理由は?
井上:『37セカンズ』から芋生さんのファンだったんです。あの映画、後半で脳性麻痺の主人公が対まで双子のお姉さんを探しに行くんですけど、それまでがあまりに良かったんで、変なお姉さんが出てきたら台無しじゃないかと不安だった。そしたら、出てきたのが芋生さんで。もうこれしかないっていうくらいピッタリで、3シーンだけなのに圧倒的な存在感だった。僕、誰だろうって、映画館出た途端に検索しましたからね。それ以来、芋生さんとはいつか仕事したいと思ってきたんです。
 
芋生:映画館や映画愛の話なので、これはやりたいと強く感じました。いままでインディーズ映画に育ててもらったので、金本役を演じることで映画に恩返しができるのではないか。そう思ったんです。今、自分で脚本・監督した短編映画も撮り終わったばかりですが、全部実費で挑んだので、気がついたらすごくお金がかかってびっくりしています。
 
井上:映画を作るときはしっかりしたプロデューサーがいないと、お金がいくらあっても足りない(笑)。芋生さんは、寂しげで何かが足りないというイメージの役が多いけれど、『37セカンズ』のようにきちんと自分の足で立って、強くて、そんな人がちゃんと最後に笑えるような話にしようというイメージがありました。
 
 
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■コロナ禍の批判に対するカウンターになるのではないか(井上)

――――芋生さんがおっしゃるようにミニシアターの日々の運営のこと、特に立ち上げ時の苦労が細かに描かれているのも胸アツな部分です。やりたいプログラムと動員力のあるプログラムの乖離とか、潰さないように運営する苦労もたっぷり描かれていますね。
井上:映画も同じで、この企画をやりたいけれどお客さんは来るのかとか、インディーズでもそこを外して考えられないし、逆にそれがあるからこそ鍛えられる部分も間違いなくある。コロナ禍で、「SAVE the CINEMA」や「ミニシアター押しかけトーク隊」(荒井晴彦、森達也、白石和彌、井上淳一の4人が全国の映画館を応援するため行ったオンライントーク)という活動をやったのですが、その時に「映画の作り手なら、ヒットする映画を作って、ちゃんと客を入れることがミニシアターへの最大の応援なんじゃないか」という声を聞きました。何もしない人に言われたくないし、それが出来たら苦労しないとは思ったけれど、その批判はある意味当たっている。ミニシアターはコロナで危機になったわけではなくて、その前から苦しかった。だから、ミニシアターの映画を作ることでもしミニシアターに貢献できたら、その批判に対するカウンターになるのではないかと思いました。なので、お客さんが来ないとホントにシャレにならないんですが(笑)。
 
――――確かに時代が変わっても変わらないものが写っている一方で、若松監督と井上さんとの師弟関係は、映画関連の学校で映画作りを学ぶことが主流な今ではなかなか得られない体験ですね。叱り飛ばされる事も度々ですが、師弟関係を疑似体験した気分です。
杉田:(若松監督に弟子入りするなら)僕は自分では根性がある方だと思うので、続くと思います。理不尽に怒られたら、逆に突っかかるタイプなので。元々サッカーや、ボクシングはプロになろうと思ってやっていたぐらいですし。
 
芋生:わたしも空手10年ぐらいやっていますが、それは根性ありますね。
 
井上:あの頃って、今よりもう少し人と人との距離が近かったというか、ガンガン人の絶対防衛ラインに踏み込んできたし、踏み込まれてきた。今はお互いに手探りというか、ちょっと慎重になり過ぎてる気がするんですよね。それで救われている人もいると思うから、単純に昔は良かったとは言いたくないけど、それでももう少し「幅」や「余白」みたいなものはあってもいいかなという気はするんですよ。それを若松さんとの関係で描きたかったというのはあるかな。
 
芋生:『青春ジャック〜』で井浦さん、東出さんや井上さんなど本当にいい先輩に出会えたし、スタッフのみなさんも本当に熱くて、繋がっている感じがして、すごく嬉しかったですよ。撮影から帰ってきても、「ああ、幸せだったな」と思うぐらい、本当に楽しかった。
 
 

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■競い合っていた方が相乗効果でよくなることを井浦さんは知っていた(芋生)

――――若松監督を演じた井浦さんの、魂が乗り移ったような演技も熱かったですし、名古屋でミニシアターという当時他がやっていないことに着手し、みんなで映画を作り上映して来た熱というものも伝わってきましたね。
芋生:井浦さんが撮影前に、私と杉田さんを呼んで「この二人にかかっているから」と。
 
杉田:僕も撮影前日に「この映画は、明日の芝居にかかっているから」と井浦さんに言われました。当日もずっと現場にいて、自分の出番は終わっているのに、写真を撮ったり、最後の屋上のシーンもいらっしゃいました。
 
井上:映画の中でも、僕の初監督作が若松さんにジャックされていくシーンがありますが、今回も若松さんに見守られている気分ですよ。若松さんじゃなくて、新さん演じる若松さんなんですけど。でも、僕、本番中に新さんが雷麟くんに「井上!」と怒鳴るシーンで「ハイッ!」って返事しちゃいましたからね(笑)。本番中なのにスタッフが笑うからなんだろうと思ったら、僕が返事していたという。『福田村事件』でもそうだったけど、新さんは座長として、本当に現場全体を見てくれている。あそこまでの人はなかなかいないんじゃないかな。本当に若松さんがいるみたいでした。
 
芋生:現場全体を見て、私と杉田さんはバチバチした関係の役だけれど、競い合っていた方が相乗効果でよくなることを、井浦さんは知っていたんでしょうね。最初はハッと思ったけれど、ありがたかったです。東出さんも面倒をよく見てくださいましたし、木全さんぶりが見事でした。
 

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■ミニシアターへの応援歌みたいな作品(杉田)

――――ミニシアター黎明期からインディペンデント映画を上映する場所として育っていく過程を紐解くという意味でも、意義のある作品ですね。
井上:この映画で若松プロの事務所として撮影したのは、名演小劇場の事務所なんですよ。その時はまさか名演が3ヶ月後に閉館するとは思ってもみなかった。昨年は名古屋シネマテークも閉館したし(ナゴヤキネマ・ノイとして2024年4月に再始動)、ミニシアターの危機は終わっていない。むしろ、これからだと思う。だからこそ、この映画に限らず、本当にミニシアターに映画を観に行って欲しい。
 
杉田:図々しいかもしれませんが、ミニシアターへの応援歌みたいな作品ですから。やはりミニシアターの空間が好きですし、スタッフが手書きで感想を書いたり一つ一つの作品に愛をもって、送り出してくれている気がします。
 
芋生:だからこそ(ヒットするように)私たちも頑張らなくてはと思います。
 
井上:ガザで虐殺が続いていますが、例えばそんな時にガザのドキュメンタリーや劇映画を上映できるのはミニシアターだけなんです。シネコンでは絶対にかからない。沖縄の映画も福島の映画もシネコンではかからない。そういう意味で大袈裟でなくミニシアターは「表現の自由の最前線」なんです。若松さんがそこまで考えて、シネマスコーレを作ったわけじゃないだろうけど、若松さんの蒔いた種が少しずつ開いてる気がするんですよ。だから、絶対になくしてはいけない。
 
――――そして芋生さんや杉田さんが演じた映画や映画館に魅せられた若者たちの青春映画としても末長く愛される作品なのではないかと思います。
井上:TikTokが日常に入りこんでいる今の若者たちの青春はたぶん書けないけれど、まさかこんな手があったかと自分でも驚いたんです。パンフレットに寄稿してくれた人たちがなぜかみんな自分の青春時代のことを書いているんですよ。誰もが最初から何者かであったわけではなく、何かになりたい、なろうとした時期があったはず。この映画は、誰にでもあるそういう柔らかい部分にふれる映画になっているみたいなんですよ。青春を描くというのはこういうことなんだなと自分でも驚いています。
 
杉田:ひたむきに若松監督を追いかける井上が羨ましく思いましたが、今の時代でも似たようなことはできるんじゃないかと思っています。
 
芋生:金本はずっとメラメラと燃え続けているけれど、ずっと空回りしていて、生きるために表現は絶対に必要な人だと思うのです。そういうもがく姿は共感する部分があり、青春しているなと感じました。私は今、女性の監督とご一緒することが多いんです。映画監督の吉田奈津美さんと仲がいいのですが、撮影時に川向こうでカメラマンと吉田さんが意見をぶつけ合っているのが聞こえてきて、本当にたくましい。ドラマの現場だと女性の方が多いぐらいだし、時代は変わってきています。金本みたいな人が頑張ってくれた結果が今に繋がっているのだとしたら、そのときに諦めないでくれて、ありがとうと言いたいですね。
(江口由美)
 

<作品情報>
『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(2023年 日本 119分) 
脚本・監督:井上淳一
出演:井浦 新 東出昌大 芋生 悠 杉田雷麟 コムアイ 田中俊介 向里祐香 成田 浬 吉岡睦雄 大⻄信満 タモト清嵐 山崎⻯太郎 田中偉登 髙橋雄祐 碧木愛莉 笹岡ひなり
有森也実 田中要次 田口トモロヲ 門脇 ⻨ 田中麗奈 竹中直人
2024年3月15日(金)よりシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ、3月16日(土)より第七藝術劇場ほか全国ロードショー
©若松プロダクション
 

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毎月シネマ歌舞伎を映画館で上映する《月イチ歌舞伎》、2024年も上映決定!

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今回、新作としてラインナップに入るのは、大人気ゲーム「刀剣乱舞ONLINE」の初の歌舞伎化作品として昨年 新橋演舞場で上演され話題をさらった『刀剣乱舞 月刀剣縁桐(とうけんらんぶ つきのつるぎえにしのきりのは)』。 審神者(さにわ)と呼ばれるプレイヤーが刀剣の付喪神(つくもがみ)である刀剣男士を成長させ、歴史改変を企む時間遡行軍(じかんそこうぐん)との戦いに挑むというゲームの世界観をそのままに、二役の演じ分けや 義太夫を用いた場面など、古典的な演出も加わり歌舞伎ならではの作品に。今期月イチ歌舞伎の 1 作目として、スタートを華々しく盛り上げます。


2024月イチ-ぢいさんばあさん.jpg2 本目の新作は、片岡仁左衛門、坂東玉三郎が共演した『ぢいさんばあさん』(2010 年 2 月歌舞伎座公演を撮影)。 歌舞伎界のゴールデンコンビによる、悲劇によって引き 裂かれても変わることのない夫婦愛を描いた名作を 2025 年 1 月に上映致します。


2024月イチ-三人吉三 ポスター.jpgその他、勘九郎、七之助、松也によるコクーン歌舞伎の舞台を撮影した NEW シネマ歌舞伎『三人吉三』や、 仁左衛門と玉三郎の配役で 36 年ぶりに上演され評判をとった『桜姫東文章』など、バラエティに富んだラ インナップで計 11 作品を上映


また、シネマ歌舞伎の次はぜひ劇場で生の舞台を体験していただきたいという思いを込めて、歌舞伎座 のチケットほか、歌舞伎関連グッズが当たるキャンペーンを開催。

 

 

 

★シネマ歌舞伎公式 HP:https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/


 


【上映映画館】大阪ステーションシティシネマ(新作のみ上映)、なんばパークスシネマ、MOVIX 京都ほか

【鑑賞料金】 各作品 一般 2,200 円 / 学生・小児 1,500 円 ※『京鹿子娘二人道成寺』のみ 1,200 円均一
      ◎お得な特別鑑賞券【ムビチケカード】3 枚セット 5,700 円 上映映画館ほか、
歌舞伎座、新橋演舞場、大阪松竹座、南座ほかにてにて2/9(金)より発売 


(オフィシャル・リリースより)

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ダイアン・キートン、リチャード・ギア、スーザン・サランドン、エマ・ロバーツ、ルーク・ブレイシー、ウィリアム・H・メイシーら豪華キャストが集結したロマンティック&ヒューマン・コメディ『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』3月8日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国公開いたします。


本作は不器用な大人たちの“幸せ探し”を描いた感動作。6人の主人公による、最高の人生の見つけ方をユーモアと感動を交え綴るのは、『クイズ・ショウ』でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞作品賞にノミネートされ、ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞したマイケル・ジェイコブス監督。ニューヨークタイムズから「観た後に愛する人たちと語り合いたくなる、楽しくて完璧な脚本」と評された。その脚本に惚れ込んだオスカー俳優のダイアン・キートンスーザン・サランドンウィリアム・H・メイシーリチャード・ギア、ジュリア・ロバーツの姪エマ・ロバーツルーク・ブレイシーら豪華俳優陣が奇跡の共演。ニューヨークを舞台に最高にお洒落でチャーミングな6人が、愛と人生のアンサンブルを奏でます。観る者を心地良い世界へといざなってくれる、極上の音楽にも大注目!!


ミシェル(ロバーツ)は交際中のアレン(ブレイシー)との結婚を望む一方、煮え切らないアレン。2人は親たちの経験から結婚生活について学ぼうと、両家顔合わせのディナーの席を設ける。だが驚いたことに、互いの両親はすでに顔なじみだった。なんとお互いの配偶者同士で不倫をしていたのだ!厳しい状況に追い込まれた親たちは、子供たちに自分たちの不倫を隠しながら、配偶者の愛人と正面対決を図る。だがある事をきっかけに6人の運命は予測不可能の展開に…。
 



「映画を見たあと観客が愛する人たちと語り合えるような作品になることを願っています」

マイケル・ジェイコブス監督オフィシャルインタビュー

 

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この映画は私が20歳の頃に書いた脚本がもとになっています。まだ人生経験が乏しい時に書いたんですが、それを60代になった自分の視点で書き直しました。脚本を書き上げるうえで分かったのは、“愛してる”という言葉は簡単に言えるのに、その言葉に責任を負うのはなんて難しいんだろうということです。


700話以上のテレビドラマ、ブロードウェイでの2人芝居、オフブロードウェイでの1人芝居、そして作品賞にノミネートされた映画の脚本を書いたあと、僕が人生で重きを置いていることを題材に脚本を書きたいと思いました。僕は38年間結婚生活を続けています。妻と共に人生を歩んでいく中で、どんな苦難を経験しても、別れようと思ったことは一度もありません。同時に、夫婦の絆が固く見えた友人夫婦が離婚していく様子もたくさん見てきました。夫が妻に失望し、妻が夫に「人生を台なしにされた」と愚痴をこぼす。間違った決断や破滅した人生の物語を聞いているうちに、「これはコメディ作品のテーマになる」と常々思っていました。そして、やっと脚本にできるほど十分な人生経験を積んだのです。


脚本はキャスティングする前に書き上げました。特定の俳優を想定して書いたつもりはなくて、このような幸運に恵まれるとは思ってもみませんでした。


aboutlife-500-1.jpg本作品の脚本の執筆中、登場人物たちや彼らが感じるフラストレーションについて理解が深まると、笑いが込み上げてくるようになりました。彼らが感じるフラストレーションは、人生の終わりが見え始めた年齢に近づいたことで、これからをどう生きるかという疑問から生じたものであるからです。結婚の価値や、なぜ我々がこんな失態をおかしてしまうのかを探るうえで、リアルなだけでなく普遍的に共感を覚えるようなシーンが次々と浮かんできました。登場人物たちが陥った状況に大笑いし、時に涙を流し、そして物語に入り込んだ瞬間が最も印象深いです。『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』には現実と創作のバランスをうまく取ったコメディになってほしい。恋愛と結婚を題材に、恋愛と結婚のどちらが勝つか期待しながら、映画を見たあと観客が愛する人たちと語り合えるような作品になることを願っています。


【作品情報】

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監督・脚本:マイケル・ジェイコブス
製作:ジョナサン・モンテパレ『ボーンズ アンド オール』
音楽:レスリー・バーバー『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
撮影:ティム・サーステッド『リトル・ミス・サンシャイン』
編集:エリカ・フリード「セヴェランス」
出演:ダイアン・キートン、リチャード・ギア、スーザン・サランドン、エマ・ロバーツ、ルーク・ブレイシー、ウィリアム・H・メイシー
2023/英語/95分/原題:Maybe I Do/字幕翻訳:長夏実
配給:AMGエンタテインメント
© 2023. FIFTH SEASON, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://aboutlife-movie.jp

 

2024年3月8日(金)~新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA 、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、kino cinéma神戸国際 ほか全国順次ロードショー


(オフィシャル・レポートより)


『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』

クイーン・コンシェルジュで本作字幕監修者の吉田聡志氏と

音楽ライターで「クイーンは何を歌っているのか?」著者の朝日順子氏

アフタートークレポート
 

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伝説のバンド《クイーン》ボーカル フレディ・マーキュリー、

語り継がれる本当の姿


2018年に公開された『ボヘミアン・ラプソディ』以降若い世代を巻き込み人気が再燃したクイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーについて語られたイギリス発の最新ドキュメンタリー『フレディ・マーキュリー The Show Must Go On』が2月16日(金)より世界に先駆け日本初公開されました


本作は、名曲「ボヘミアン・ラプソディ」誕生秘話とフレディをはじめブライアン・メイらクイーンのメンバーのインタビューを収録、その後音楽界に与えた影響などを考察したドキュメンタリー映画です。その公開記念トークショーが、2月17日(土)14時30分の回上映終了後に行われました。登壇者にはクイーン・コンシェルジュで本作字幕監修を務めた吉田聡志氏と音楽ライターで「クイーンは何を歌っているのか?」著者の朝日順子氏を迎え、2月のクイーン来日公演に纏わる話やロンドンのサザビーズオークションで見たフレディ・マーキュリーが愛した日本の品々や衣装のことなど、本作同様リアルな視点でフレディ・マーキュリーそしてクイーンというバンドについてお2人に語っていただきました!!
 


日時:2月17日(土) 14時30分の回上映後 

登壇者:吉田聡志(クイーン・コンシェルジュ)、朝日順子(音楽ライター・翻訳者)(敬称略)

場所:新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3丁目15番15号)



――クイーンの来日公演はいかがでしたか?

朝日順子:まだ興奮冷めやらない感じですが、私は前回よりずっと良かったなと思いました。アダム・ランバートの魅力が最大限に引き出されていて、ソウルフルな感じとか。前回はメドレー形式もあったんですが、今回はじっくり聞かせる感じでアダムありがとうと思いました。

吉田聡志:本当に素晴らしいショーで、お金もかけているし、パフォーマンスも素晴らしい。クイーンのファンを50年やっていて良かったなって。その中でも今回はナンバーワンかもしれない。本当に感動しました。


freddie-pos.jpg――吉田さんは今回本作の字幕監修として関わっていただいて、1975年の初来日からずっとクイーンを追いかけていらっしゃるということですが映画の感想をお聞かせください。

吉田:クイーンの特にフレディってあまり簡単な人じゃなくて、取材するのも難しいし、インタビューも嫌いと言われていますが、それなのにフレディが信頼している4人の方が主に出てきて大げさでもなく、そのままフレディのことを素直に語ってくれている、その真実性が今回の映画で関わらせていただいて強く感じた点ですね。


――朝日さんは今回パンフレットに寄稿していただいていますが、映画の感想や気になる言い回しなどありましたか?

朝日:最後のフレディの来日公演にギリギリ間に合って中3の時に見ましたが、80年代からファンになったので、今回映画『ボヘミアンラプソディ』の映画のブームから割と悲劇のヒーローみたいに祀り上げられる傾向があって、特に海外メディアだとスキャンダラスに書く感じがしたのですが、この映画は悲劇のヒーローに祀り上げるのではなく、クイーンデビュー直後から知っている人たちがコメントし、丁寧に虚像じゃない部分、それと本人の部分とフレディが演じた部分をそれぞれどうやって彼が演じる部分を作り上げていったのかっていうことと、実際のフレディはこういう人なんだという証言をすごく丁寧に説明していて好感が持てました。


――クイーンが長い間ヒット曲を出し続けていたという秘訣は何だったのでしょうか?

吉田:曲がいいのはもちろんですが、初期のプロデューサーのロイトマス・ウェイカーが言った有名な話で、クイーンのサウンドは一つだけれど作曲家が4人いる。とてもバンドとしては強力な武器があるわけですよね。4人4様それぞれ個性が強くて、かつ得意なサウンドとかもあって、だから特徴的にはヒット曲はいっぱいあるけれど、同じようなヒット曲というものがあまりない。これは本当にクイーンならではというか最大の強みだと思いますね。


――クイーンといったらフレディ・マーキュリーという印象がすごく強かったのですが、全米でナンバーワンを取った2曲のうちの1曲はフレディの曲ではないですよね?

吉田:ライブでも大盛り上がりの「地獄への道連れ」はジョンの曲ですからね。フレディはもちろん「愛という名の欲望」を出しましたけど、そういった意味でもロジャーの代表曲も「レディオ・ガガ」もあるし、ブライアンは言わずもがなたくさん代表曲があるしということで、本当に4人それぞれがヒット曲を持っているっていうのがすごいなと思いますね。


freddie-550.jpg――その中でフレディ・マーキュリーといえば、音楽的にもしくは歌詞の面でどういった特徴を持っている方だったのでしょうか?

朝日:フレディに限らず4人ともすごくインテリで、割と俯瞰してというか自分たちをスーパースターとしてそこに入りすぎず、エンターテイナーに徹することができました。その中でもフレディは特にプロとしてエンターテイナーに徹することができたというのが歌詞にもすごく表れていて、だけどそれを誰も分からないような歌詞にはせず、万人が分かるように提供する。そこは自分たちがエンターテイナーだという自覚のもとに立っているから今でも世界ナンバーワンバンドであるのは、歌詞の分かり易さというのがすごく大きいとは思います。


――4人ともインテリだったという話ですが、音楽にもそういった面は表れていたのですか?

吉田:有名な話だとフレディ・マーキュリーが最初にミュージックライフのアンケートに答えてくれた時、4人とも共通して好きな人は2人いて、ジミ・ヘンドリックスとジョン・レノンは4人ともすごく好きなんですが、フレディはジミ・ヘンと同列のところにパガニーニって書いてあるんですよ。この人はきっと幼少からクラシックをやっていたし、クラシックとかジャズとかロックとかジャンルとか関係なくて、自分に刺激のあるものは全部取り入れて音楽を作って演奏していたから結果的に「ボヘミアンラプソディ」のような誰にも作れないすごい完成度の曲ができちゃったのかなと思ったことはあるけど、逆に歌詞の世界もあのバンドは4人4様ですよね。


freddie-500-2.jpg――今回のタイトル「The Show Must Go Onという曲のタイトルですが、こちらの「The Show Must Go Onの歌詞について何かフレディの思いなど感じるものはございますか?

朝日:これはブライアンとフレディがテーマを考え、フレディの病が進み、すごく大変な時にブライアンがフレディの思いを代弁して書いた歌詞ですが、「The Show Must Go On」という表現はエンターテインメント業界の用語で、何があっても出し物を続けなきゃいけないという言葉で、古くからサーカスの団長が叫ぶような、何があっても例えば猛獣が逃げ出してもショーを続けなきゃいけない、エンターテインメント業界の用語なんです。


この曲の歌詞の内容が大変なことが起こっているけれど動乱も剥がれ落ちそうになるけれども、微笑みは絶対絶やさず何があってもショーを続ける。どんなことがあってもショーを続けるぞみたいな。それがこの映画のストーリーにものすごくリンクしていて、いろんなことがあったけれども、最後の最後まで他のメンバー3人に支えられながら、創作活動を続けたフレディ・マーキュリーの生き様というのがこのタイトルに現れているんですよね。
 

――これはフレディ自身ではなくてブライアンがフレディの気持ちを考えて作ったということなんですね?
朝日:そうなんです。何度も確認してあまりにリンクしているので。歌も難しいですよね、ボーカルが。これ大丈夫って聞いて、スタジオでフレディは大丈夫最善を尽くすと言って、ウォッカを飲んで煽って歌い切ったという壮絶な曲なので、ぜひ家に帰られたらみなさまに聴いていただきたいなと思います。


――この頃には、もうフレディの具合が悪いということはファンの間では噂になっていたと思のですが、この曲を初めて聴かれた時のお気持ちは?

吉田:それはよく覚えていますね。ライブエイドでもう一回一致団結するじゃないですか、その後「カインドオブマジック」が出て、とてつもなくでかいマジックツアーっていうのをヨーロッパでやって、なんで日本には来てくれないんだろうって思って、悶々としていて、その次にメンバーがソロに入ってクイーンのアルバムはいつ出るんだろうと思っていたら、「ミラクル」というアルバムがようやく出て、PVはどんどん出ていくのにライブが発表されなかったんですよね。


ミラクルのツアーをやったら絶対盛り上がるし、日本ではマジックツアーが見られなかったから今か今かと待っていてもツアーが発表されない。これはなんかおかしいぞと言っているうちに、PVに出てくるフレディがなぜかモノクロだったり、なぜか頬がこけていたり、髭が生えていたりと容姿が変わっていった時に、僕らファンが見ても最近おかしくないみたいな話が出始めて、そうこうしているうちに「イニュエンド」が届いて、随分早いな「ミラクル」からの間がと思ったら、「ミラクル」の後すぐレコーディングに入っているんですよね。とにかくフレディは1曲でも多く曲を残したかったんだ。

1曲でもクイーンで歌いたかったんだというのが少しして分かって、いい意味ですごく重たい作品だと感じましたね。特に「The Show Must Go On」は。フレディがフレディ・マーキュリーであるための理由として、この曲なのかなというふうに感じたので、ある意味重く受け止めた思い出があります。

 

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――映画の中でもライブエイドを取り上げていると思いますが、その前にクイーンが解散するのではないかという噂が立っていたそうですが?

朝日:85年の時は解散する最後のライブだよと噂されていて、最後だと思って見に行きました。80年代は割と日本ではメディアの露出も少なく、ファンにとっては日陰の身というか、だから今のクイーンのブームが死ぬほど嬉しくて、80年代のファンとしては見たことのないブームで、70年代のブームを体験してないので、ここ数年間すごく嬉しいんです。


――その頃ちょうど、ライブエイドでフレディはクイーンで歌いたいと決意したのではないかとありましたが、再び結束したということがその頃の曲の歌詞か何かに現れるものはありましたか?

朝日:ミラクルというアルバムは、パーティーっていう最初の曲も含め、久しぶりにみんなでスタジオに集まって、わいわいガヤガヤ、最高だねみたいな、またやるぞっていう。アルバムジャケットも団結力を現しているんです。

吉田:来日公演を見に行った方は思ったと思うんですが、メニューの中に「I Want It All」があるじゃないですか。ミラクルから唯一選ばれている曲で、これはあくまでも僕の想像ですが、フレディがあの時ツアーをやれていれば、あの曲は1曲目じゃなかったと思うんだよね。

すごくハードでリフもかっこいい曲だけど、ただ残念ながらミラクルのツアーがなかったことで、ミラクルの楽曲はクイーンでは生演奏ができなかったんですよね。


――映画の中で初期にフレディがクイーンのビジュアルを白黒にこだわっていたという話がありましたが、これには何か意味があったのですか?

吉田:当時、75年日本に来た時、白鷺っていう衣装を着ていた。皆さんよくご存知ですよね。これはザンドラ・ローズっていう女性デザイナーで、イギリスのコシノジュンコさんみたいな人がいるのですが、彼女がデザインしたものでフレディが直接頼んだんですが、元々のデザインはブライダルかなんかの衣装なんだよね。
白と黒にこだわったというのは、これは初期のインタビューですが照明です。当時からステージングにすごくこだわっていたクイーンが、最初から照明のオペレーターとかも専門の人を雇っていく中で照明に一番映える衣装だというと、結果として黒と白なんですって。だから照明って消えてつくところが一番大事で、消えた時に真っ黒に暗転するには黒だし、いろんな照明が当たるのに綺麗なのは白だしということで、白と黒にこだわるという話がありました。


――フレディ・マーキュリーといえばもう一つとても印象的なレオタードのような衣装がありますが、あのような衣装を初めてご覧になった時、ファンとしてはどういうお気持ちでしたか?

朝日:強烈だなと思いましたが、8月にロンドンでサザビーズのオークションに合わせて一般公開されたフレディの遺品の展示を見たら、大量にあのもじもじ君みたいなボディースがあって、それを間近で見ると、すごく素敵でオートクチュールみたいな。手仕事で作られた繊細な感じがして、あ、こんな素敵だったんだ、ごめんなさい、と思いました。実物を見ると、全然印象が違いました。

吉田:慣れって怖いなと思ったんですよ。最初見たとき、あれだけ格好悪いと思った衣装が、フレディが1ミリも恥ずかしがらずにどうだっていい感じで、ステージで着ているのに慣れてくると、こんなにこの衣装が似合う人は世界にフレディしかいないとだんだん思えてきて、最後にはなんて格好がいいんだみたいな。


――朝日さんのお話にもあった、サザビーズのオークションについて。フレディ・マーキュリーはお買い物がとても好きだったっていうことですが、日本でもかなり買い物をされていたのですか?

朝日:割と新しい大正時代の日本の版画で、朱色と暗っぽい色の2色使いの地味な版画があって、ロックスターのオタクって、割と成金趣味の金ピカなんですが、フレディの品々は、こんな趣味が良かったんだという、渋いのもたくさんあるし、すごくセンスが良くてびっくりしました。

吉田:僕はね1匹だけ、あれ、1匹じゃない、狙っていたのが猫なんですよ。猫の小物をいっぱい持っているっていう話をずっと聞いていたけど、本当かなと思っていて、ガードマンの伊丹さんに色々話を聞いた時、骨董品の猫とか探して、買っていたよと言っていたから、本当かなって言ったら、いましたね、猫ね。招き猫の古いのが、20匹ぐらいいたかな。


――その他吉田さんから見たクイーンの日本の聖地とは?

吉田:今回の来日では、ブライアンが妙に張り切っていて、インスタ上がりまくっていたじゃないですか。東京は浅草とスカイツリーとか。本当にブライアンが楽しんでいていいなと思ったんですけど、聖地巡りをして、東京はもちろん東京タワーとか、あとフレディがお忍びで86年に行った有名な栗田美術館ですね。恐らくフレディのガーデンロッジの庭は、ここからインスパイアされたんじゃないかと思われる、小松川植物園だったかな。ゆかりの地をいろいろ巡って、あの、リポートをしているので、お休みの日に、一日クイーンのゆかりの地を巡りたいという方は、ぜひガイドブックとしてこの本をご利用ください。

 

――朝日さんはクイーンの聖地巡りをしたことは日本ではありますか?
朝日:「日本ではないんですけど、イギリスに行ってきて、ロンドンだけじゃなくてリバプールもクイーンの聖地があるのでおすすめです。」


――最後にメッセージ

朝日:映画の中に2人おすすめのコメンテーターの方がいて、ロージーさんという人は、クイーンはデビューした直後からずっとイギリスのマスコミに酷評されていたのですが、ロージーさんだけは最初から寄り添った人で重要人物なんです。ポール・ガンバチーニさんは長年イギリスのラジオ業界で活躍しているんですが、70年代の初期はローリングストーン紙のイギリスの派遣員としてすごい大物を大量にインタビューしていて、だから70年代の音楽にはすごく精通された方でその2人がコメントしているってのすごくいいなと思いました。

吉田:来日の感動がまた違った角度から深くなったんじゃないかなと思っております。この映画をはじめ、これからクイーン関連の色々なイベントの予定もありますので、クイーンコンシェルジュとしては皆さんにどうやったら楽しんでいただけるかと考えております。

 


CREDIT

監督・脚本・編集:フィンレイ・ボールド 
製作:ブライアン・アベック 
編集:ジョーダン・ヒル、ダニエル・ウィンター 
音響:クリスチャン・タント 
出演:カシミラ・クック、ポール・ガンバッチーニ、ロージー・ホライド、ミック・ロック、ポール・ワッツ
2023年/イギリス/49分/カラー/1.85:1/5.1ch/
英語/原題「FREDDIE」/字幕監修:吉田聡志(MUSIC LIFE CLUB)
協力: MUSIC LIFE CLUB 
配給:NEGA/配給・宣伝協力:アップリンク
©Entertain Me Productions Ltd 2023.


(オフィシャル・レポートより)

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