「京都」と一致するもの

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 『ミロクローゼ』で山田孝之とタッグを組み、独自の世界観を強烈に印象付けた石橋義正監督の12年ぶりとなる最新作『唄う六人の女』が、2023年10月27日(金)より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランド他全国ロードショーされる。
 父親の訃報を受け、山奥の生家に帰った萱島(竹野内豊)は、幼少期に両親が離婚して以来疎遠だった父親が、毎日山で何かを探していたことを近所の人から聞く。父から相続した山を買うために訪れた東京の開発業者、宇和島(山田孝之)との契約を済ませ、宇和島に最寄り駅まで送ってもらう途中、事故に遭ってしまう。ふたりが目覚めると、森の奥で六人のミステリアスな女性たちに監禁されてしまい…。
ふたりの男を森の中で監禁する六人の女性たちを演じるのは、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈。それぞれの魅力を活かし、艶っぽさやスリリングさを感じさせると同時に、身体表現の美しさにも心を奪われる。女性たちの正体は?そしてその狙いは何なのか。京都府南丹市の原生林をはじめ、豊かな自然の森の中で繰り広げられる壮大なミステリーだ。
濡れる女を演じたアオイヤマダさん、見つめる女を演じた桃果さんにお話を伺った。
 

■セリフがない役にワクワク、ドキドキ(桃果)

  大好きな石橋義正ワールドで、自ら挑みたい役を直訴

(アオイヤマダ)

――――ホラーの要素が強いのかと思いきや、観終わると実写版ジブリではと思わせる壮大なテーマを感じました。おふたりのオファーをいただいたときのことや脚本を読んで、どのように解釈したかを教えてください。
桃果:最初からセリフがない役だと伺い、ずっとどういうことなのか考えていたので、脚本を読み、六人の女たちが皆セリフをしゃべらないことに、むしろワクワクする感覚がありました。現場に入る前は、セリフがない分、表情や仕草で伝えなければとドキドキしましたね。
 
アオイヤマダ:普段ダンサーとして活動しており、日常的に体を動かして表現しているので、言葉がないことにはあまり抵抗はなかったです。わたしは石橋義正ワールドが大好きで、オファーをいただいたときは、やらせてくださいと即答したのですが、一方で何か壁にぶち当たりたい気持ちがありました。どんな役があるのかを監督に聞くと、水で泳ぐ役があることを知り、「どうしてもやらせてください。水に潜らせてください」と自分からお願いしました。水に慣れた人にオファーする方が、演出側もリスクは少ないと思うのですが、石橋監督に特訓をさせてほしいとお願いし、大阪のプールで指導の先生をつけてもらい、通って水中での練習を重ね、本番に挑みました。
 
――――アオイヤマダさんが石橋ワールドを好きになったきっかけは?
アオイヤマダ:『バミリオン・プレジャー・ナイト』をYoutubeで拝見したとき、そこに『唄う六人の女』があり、わたしはその世界観が大好きでした。ちょっと毒があり、今の世の中でNGすれすれの表現を恐れずにやる反骨精神や、人間が本来持っている欲のようなものを常に映している作品で、音楽もいい。だから、『唄う六人の女』が長編映画化されるとは、一体どういうことになるのかと驚き、期待を胸に今回演じさせていただきました。実際に完成した映画は、観終わると素直に自然と向き合える作品になっていると感じました。わたしが好きだと思う石橋義正ワールドとは違うけれど、おっしゃったように実写版ジブリとも言える、自然と人との関係について考える壮大な世界観になっていますね。
 
 
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■特殊なキャラクターを演じる上で、インスピレーションを得たものは?

――――唄う六人の女のひとりとして、どのように役作りを行ったのですか?
桃果:セリフがない特殊なキャラクターという設定だったので、どれぐらい感情を持てばいいのか悩みながら撮影に挑んだのですが、山田孝之さんが演じる宇和島とのシーンで、宇和島が何か話すと、どうしても表情で反応してしまうんです。石橋監督からは、とにかく相手をひたすら見つめ、瞬きもこらえて表情には出さないようにとの演出がありました。宇和島に対して興味は持っているけれど、細かな感情は持たないように心がけました。
 
アオイヤマダ:濡れる女という特殊なキャラクターなので、その気持ちがわかるのだろうかと撮影前はいろいろ考えていたのですが、撮影で山田孝之さんと初対面だったのでご挨拶し、ちょっと緊張した雰囲気が流れた瞬間、わたしの手にバッタが止まったんです。人間はいきなり距離を詰められると拒絶してしまうけれど、虫は人間に対して距離感がなく、勝手に体にまとわりつくことだってある。いきなり距離感ゼロの感じが、竹野内豊さんとの初めて一緒に演じるシーンで役立ちました。だから、撮影中はバッタだけでなく、実際に森にいた生き物たちからインスピレーションをいただいていましたね。普通に生活していたらタブーとされることを一度取り払い、どのようにアクションを起こすかを集中して考え、役に反映させていきました。
 
――――アオイヤマダさんの場合、日頃ダンサーとして活動する中で、いろいろなものからインスピレーションを得ることが習慣づいているのでは?
アオイヤマダ:わたしが踊っているときに好きなのは、地位や権威、肩書きが全て外れる瞬間です。踊ることでその空気、空間だけが移動している。そこに魅力を感じているので、バッタからインスピレーションを得たのも、日頃の習慣と言えるかもしれません。
 
――――濡れる女が水中で美しい動きを見せるシーンは、本作の大きな見どころです。
アオイヤマダ:水中では重力がないのでなんでもできるけれど、物理的に呼吸ができない。陸の上で踊るときは呼吸を意識しないと体が堅くなってしまうのですが、水中で呼吸を止めながら伸び伸び動くことは、実際難しいんです。それに加えて、「死ぬかも」と常に思いながら動いていることが、逆に「生きたい」につながるのです。生と死の間で踊るというのも、わたしにとっては貴重な経験でした。
 
――――桃果さんが演じる「見つめる女」は、山田孝之さんが演じる宇和島とのハードなシーンもありましたね。
桃果:わたしはお芝居をする上で、ハードなシーンでも手加減はあまりされたくないし、むしろ「来るなら来い!」ぐらいのタイプなんです。実際、そのシーンでちょっと擦り傷ができたとき、その傷を山田さんが見たら少し気にしてしまうかなと思い、こっそり傷口を洗っていたのですが、結局山田さんに気づかれ、絆創膏をいただきました。(笑)。それぐらい山田さんも本気で向かってきてくださったので、わたしもすごく演じがいがありましたし、いい経験になりました。
 
 
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■森での撮影で感じた自然の力

――――京都府南丹市の森の中での撮影でしたが、撮影を通して、どんなインスピレーションを得たのでしょうか?
桃果:通常、撮影ではキツいと思うことも多いのですが、森の中で撮影している間、すごく楽しかったんです。ストレスもなく、むしろ癒される感じで、自然があるから、自分たち人間も生きられると思いますね。あと、わたしは虫が大嫌いだったのですが、見つめる女を演じながら、森の生き物や虫と向き合うようにしていたんです。おかげで、虫に対する苦手意識が減りました。
 
アオイヤマダ:わたしは長野県生まれで、幼少期は家の近くには川があり、虫とも遊ぶような自然の中で育ちました。でも15歳で上京してから、自分のことに一生懸命で自然のことは他人事になっていたんです。今回、森の中の撮影で、わたし自身が元気になり、やる気もでて、何かに取り組もうと前向きな気持ちになりました。それはやはり自然の力なんです。自然というと漠然としてしまいますが、周りの環境に目を向けられるようになると、周りの人にも目を向けることができ、優しい気持ちになれる。これからもそういうことは大事にしていきたいですね。
 
――――石橋監督にもふたりの森での撮影の感想をぜひお伝えしたいですね。
アオイヤマダ:石橋監督の作る世界観を掴む上で、監督自身のことを理解したいという思いがあり、でもどこかずっと腑に落ちていない部分があったんです。昔から女性を艶っぽく描くのが特徴だと思っていたのですが、打ち上げのとき、いつから女性へ関心を持ったのかをお聞きすると「3歳です」と即答されて(笑)。でもこの答えを聞いて、わたしの中で、全ての点が繋がりました。3歳から女性像を俯瞰してみることができておられたのかと。
 

 

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■六人の女、それぞれの美に衝撃(桃果)

 思いやりのある世界観を描く(アオイヤマダ)

――――ありがとうございました。最後に、唄う六人の女というのはどんな存在と言えるでしょうか。
桃果:現場でご一緒する機会はあまりなかったのですが、完成した作品を観ると、みなさんそれぞれのエロスや女性らしさがあり、それぞれの美を描いていて、わたしは衝撃を受けました。
アオイヤマダ:わたしは思いやりを持つことだと思うんです。自然対人間という二者択一にするのではなく、思いやりがあれば、自然や人間とコミュニケーションを取り続けられるのではないでしょうか。石橋監督ご自身が思いやりがある方なので、そういう世界観を描けるのだと思います。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『唄う六人の女』(2023年 日本 113分)
監督・脚本:石橋義正
出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈 
2023年10月27日(金)より大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランド他全国ロードショー
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
© 2023「唄う六⼈の⼥」製作委員会
 

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これまで日常に潜むグレーゾーンに光を当ててきた森達也監督が自身初の劇映画を監督した作品『福田村事件』。

本作で10月4日に開幕した第28回釜山国際映画祭に主演の井浦新・田中麗奈、そして向里祐香、プロデューサーであり脚本の井上淳一がレッドカーペットとオープニングセレモニーに出席した。


4名はシックでありながらも品のある存在感あるブラックコーデで統一感ある衣装を身にまといながら、とても和やかな雰囲気に包まれつつも終始笑顔でフォトコールに応じるなど、現地メディアと観客からの歓迎に笑顔で応えた。


また、セレモニーの翌日(10月5日)は、井浦、田中、向里は釜山国際映画祭と世界的ファッション誌「マリ・クレール」が共同主催をするマリ・クレール アジア・スター・アワード(BIFF with Marie Claire Asia Star Awards)にも参加し、井浦新はアジアで活躍するスターを表彰する「アジア・スター賞」受賞、向里祐香は今後のアジアでの活躍が期待される俳優に送られる「フェイス・オブ・アジア賞」受賞をした。


fukudamura-pusan-500-1.jpg本作はコンペティション部門の一つであるニューカレンツ部門に選出され、主演の井浦新・田中麗奈、そして向里祐香がレッドカーペットとオープニングセレモニーに参加。監督を務めた森達也はクロージングに参加をする予定だ。

つきましては、以下にて3名のコメントもお送りいたします。


◇井浦新コメント

fukudamura-pusan-iura-240-1.jpgのサムネイル画像

韓国を始めアジアやヨーロッパの映画人が集まり、クオリティの高い良質な映画がセレクトされる釜山国際映画祭。今回は5年ぶり5回目の参加になりました。たくさんの観客もそうですし、開催期間中は街が映画愛に溢れるこの映画祭が大好きです。映画祭の運営サイドも観客サイドにも、映画や文化への成熟された深い深い愛情を感じます。 釜山国際映画祭のmarie claire ASIA STAR AWARDS 2023では、錚々たる韓国の俳優陣の中で、映画【福田村事件】で共演をしている向里祐香さんが【FACE OF ASIA】賞を、そして私は【ASIA STAR】賞とW受賞でいただくことができました。


『福田村事件』はクラウドファンディングによってご支援を賜り、参加している各俳優の事務所が出資して下さり。映画作りのプロたちが集まって作り上げた自主制作映画です。小さな小さな映画ですが、大切なテーマ性と大きな大きなひとりひとりの人間力で作り上げました。このような映画が、国境を超えて素直な目で観ていただき評価されることは、大変光栄です。 個人賞ではありますが、この賞はクラウドファンディングで支えて下さった皆さん、いつもサポートしてくれている事務所の皆さん、そして勇気をくれる仲間たちと大切な家族の皆んなで頂くことができた受賞だと思っています。

 

田中麗奈コメント

今回、由緒ある釜山国際映画祭のレッドカーペットを歩くことができ、大変光栄でした。現地の方だけではなく世界中から映画を愛す皆さんが集まって映画祭の開幕を祝う姿はとてもエネルギッシュで印象的でした。関係者だけではなく、観客全てが映画人という空間はとても素敵な事だと思います。

『福田村事件』が韓国の方々にどのように感じていただけるのか不安もあるのですが、どんな意見でも伺えれば嬉しいですし、またそれを日本の皆さんとも共有出来たら、とても意義のある事になるのではないかと思います。日本での上映もまだまだ続くので、まだご覧になってない方も是非劇場で観てくださると幸いです。

 

fukudamura-pusan-yuka-240-1.jpg向里祐香コメント

『福田村事件』という作品が国内だけでなく海外でも評価して頂けて本当に光栄ですし、そのような作品に携われた事を有り難く感じております。1人でも多くの方に、この作品が届きますように。

また賞を頂くのは今回が初めてで、それも国内ではなく海外の韓国でアワードを頂けるなんて想像もしておりませんでした。FACE OF ASIAに相応しい役者でいられるように、これからもお芝居と誠実に付き合って行こうと思います。


 


<作品情報>

『福田村事件』(2023 日本 136分)
監督:森達也
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明他
2023年9 月1日(金)よりシネ・リーブル梅田、第七藝術劇場、MOVIX堺、京都シネマ、京都みなみ会館、9月8 日(金)よりシネ・リーブル神戸、元町映画館、シネ・ピピア、以降出町座で順次公開
公式サイト→https://www.fukudamura1923.jp/
(C) 「福田村事件」プロジェクト2023  


(オフィシャル・レポートより) 

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『ミロクローゼ』の石橋義正監督が10年ぶりに山田孝之とタッグを組んだ最新作『唄う六人の女』が、10月27日(金)より大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、OSシネマズ神戸ハーバーランド他全国ロードショーされる。


W主演の竹野内豊と山田が、森の中で六人の女性たちに監禁される男を演じる本作。個性豊かな六人の女を演じる水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈が、森の中でそれぞれの魅力を活かし、ふたりの男と不思議な体験を繰り広げる。京都府南丹市の原生林をはじめ、豊かな自然の森の中で繰り広げられる壮大なミステリーだ。

 本作の石橋義正監督山田孝之さんが語った本作への想いをご紹介したい。

 


■人間の嫌な部分を際立たせる役(山田)

―――10年ぶりに新作を作るに至った経緯は?

石橋監督:前作以降は、舞台や展覧会活動をしていたのですが、5年前から本作のシナリオに着手しました。ある程度それが出来上がった段階で、山田孝之さんに見てもらい、そこから1年ほどかけてシナリオを修正し、撮影に臨んだわけです。


utau6-9.16kakomi-yamadai-240.JPG山田:石橋監督と本当にしばらくぶりにお会いして、新作を山田さんと竹野内さんにお願いしたいとオファーされた数日後に、竹野内さんとバッタリお会いしたんです。もともとご近所に住んでいたのにそれまで全くお会いすることなかったので、これはご縁があるということなのかなと思い、出演を正式に決めました。人間の欲がとても強く出ている役で、欲を追いすぎるとこうなるという象徴にならなければいけなかった。人間の嫌な部分を際立たせ、そこを痛感してもらう必要がありました。


―――山田さんはプロデューサーも担当されていますね。

山田:撮影をしているときは芝居をするだけですが、映画ができあがってから、どんなイベントをやるか、どういう打ち出し方をしているかは、いつも通り監督と話し合いながらやっています。今回はロケ地である京都府南丹市の自然の中で上映しましたし、屋内で上映するときも自然を感じてほしいと思っていたところ、香りを使ってはどうかという提案をいただき、特別イベントとして現在進めているところです。


■山田さんは、オリジナルを作ることが難しい中、実現のため力を貸してくれた(石橋)

―――実際に10年ぶりに映画でタッグを組んでの感想は?

石橋監督:『ミロクローゼ』は全然違うキャラクターを一人三役で演じわけてくださいました。演技だけでなく、多彩なパフォーマンスを要求される中で、殺陣のシーンも僕が思っていたイメージを超える動きをやってくれました。山田さんでなければ絶対に作れない作品でした。今回も、ファンタジーの中でリアリティーを持たせるためには、山田さんの鬼気迫る演技が活きているし、企画段階から本作が実現するように尽力いただいた。普通にタッグを組むという部分だけでなく、オリジナルを作ることが難しい中で、それを実現できるように力を貸してくださっていることに、本当に感謝しているし、山田さんしかできなかったことだと思います。


―――山田さんや竹野内さんへはどんなディレクションをしたのですか?

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石橋監督:山田さんに説明はしましたが、あとは自分で考えて役を作ってくださいました。竹野内さんとは、時間をかけてこの映画のテーマをお話しさせていただく時間を作りました。共感していただいたからこそ、ひとつひとつの萱島の心情や精神的な状態を説明しました。シナリオを読むだけではわからないような、わたしの中で設定している裏テーマやさまざまなレイヤーがあるので、どのレイヤーを伝えると演者にとっていいのかを考えて、竹野内さんに伝えました。撮影中も竹野内さんとやりとりを多く重ねましたね。


―――『唄う六人の女』というタイトルですが、女たちはしゃべらないのが印象的でした。

石橋監督:声を全く発しない方が、逆に強いメッセージになり、伝わるのではないかと思いました。もう一つは本作を音楽劇にしたかったんです。劇伴は40曲ほど作りましたし、夜の儀式のシーンでは、自分で劇伴を作り、編集をしたりと同時進行し、その後プロの方にアレンジしてもらう形をとりました。自分の記憶に残っている映画は音楽が非常に重要なので、今回の作品もそうしたいと思いました。


■最初は昔話みたいな映画にしたかった(石橋)

―――ファンタジーであり、とても寓話的だと思いましたが、何かインスピレーションを受けた昔話などがあれば教えてください。

石橋監督:最初のプランを考えるときに、何か懐かしさがある昔話みたいな映画にしたいというアイデアはありました。「食わず女房」という昔話があるんですよ。よく働く女と結婚したのだけど、全然食べない。おかしいなと思って外出したふりをして天井裏から覗くと、女の頭が割れて、そこが口になってご飯を山盛り食べていた。そんな話なんだけど、見た目とのギャップという意味で、ひょっとしたらこの作品に影響しているかもしれませんね(笑)


utau6-main-550.jpg―――原生林での撮影についてや、それを経てより自然に対してどんな考えを抱くようになったのかを教えてください。

石橋監督:最初、東京でもそれっぽく撮れるのではと思いましたが、実際に芦生の森に入ってみると、そんな撮り方では絶対に伝わらないと感じました。芦生の森に入ったときの感動や、気持ちを伝えて撮影をお願いしたときの感動が、すごく作品に影響しているし、そのことをスタッフと共有しなければいけないと思いました。現在、本作を漫画化していますが、著者にも丸一日芦生の森へ一緒に入ってもらい、いろんなところを回りました。やはり五感で感じないとわからないですから。森は空気がきれいで気持ちいい一方で、何が起こるかわからない緊張感がある。ヒルに噛まれるかもしれないし、そういうことも含めて生き物とともにいるのが森なんです。

 

(江口 由美)


『唄う六人の女』

(2023年 日本 112分)
監督・脚本:石橋義正
出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈
制作協力:and pictures
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
(C) 2023「唄う六人の女」製作委員会
公式サイト:https://www.six-singing-women.jp/

2023年10月27日(金)~全国のTOHOシネマズ系、大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ OSシネマズ神戸ハーバーランド  他全国ロードショー

 


 

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10 月 14 日(土)より、京都文化博物館で開催する「ぴあフィルムフェスティバルin 京都 2023」のプログラムが決定しました。9 月 22 日(金)に各賞が発表されたばかりの、自主映画コンペティション「PFF アワード 2023」の入選 22 作品に加え、招待作品部門「イカすぜ!70~80 年代」の 6企画 20 作品を一挙上映する 8 日間です。
 



◎映画祭「ぴあフィルムフェスティバル in 京都 2023」

■日程:2023 年 10 月 14 日(土)~22 日(日) ※月曜休館

■会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)

【公式サイト】https://pff.jp/45th/kyoto/
 



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【コンペティション「PFF アワード 2023」】

 

 

557 本の応募作から選ばれた、22 作品を一挙上映します。

現在、京都芸術大学に在学中で、審査員特別賞を受賞した『鳥籠』立花遼監督や、大阪芸術大学&立命館大学出身で大阪在住の『ハーフタイム』張曜元監督ら、入選監督も来場予定です。

また、観客の皆さんに投票いただく「京都観客賞」を実施します。ぜひ投票してください!

 

 

投票はこちら⇒(https://pff.jp/45th/award/competition.html


【招待作品部門「イカすぜ!70~80 年代」】

① 大森一樹監督再発見 

   10/14(土) 11:30~/14:00~、
   10/15(日) 11:00~

京都府立医科大学在学中に制作し、一躍その名を轟かせた『暗くなるまで待てない!』をはじめ、貴重な自主映画時代の 8 ミリ&16 ミリの全 9 作品を 3 プログラムに分けて上映します。貴重な 70 年代の京都の街並みを背景にした作品も含まれています。

かつて大森監督の助監督をつとめた緒方明監督が、東京開催に続きすべての回で、アフタートーク。貴重なエピソードを披露します。さらに、15 日(日)のプログラムには、大森監督自主映画時代の主演俳優である、南浮泰造さんに来場いただき、緒方監督との対談が実現します。


② 斎藤久志監督再発見

10/14(土) 17:00~

斎藤久志監督のプログラムでは、自主映画時代から斎藤監督作品に出演し、現在は京都芸術大学で教鞭をとる鈴木卓爾監督が来場。秘蔵映像&数々のエピソードで、斎藤久志監督の映画術をお話いただきます。

 

 

③ 日比野幸子プロデューサー再発見

10/17(火) 15:00~
10/19(木) 15:00~

PFF スタート時から審査員として参加した日比野幸子さんは、海外へとその視点を拡げ、80 年代にはまだ誰も注目していなかったアジアや東欧の新鋭を紹介し続けました。今回は、ホウ・シャオシェン監督、イ・チャンホ監督の 2 作品を紹介します。

 

④ 山中瑶子『あみこ』への道

10/17(火) 18:00~
10/18(水) 15:00~/18:00~

東京でも好評を博した、山中瑶子監督のプログラムを京都でも実施!『あみこ』+『おやすみ、また向こう岸で』の山中監督トーク回に加え、山中監督が衝撃を受けた 2 作品を上映します。

 

⑤ 鶴岡慧子監督セレクト

10/15(日) 13:45~

早逝したバーバラ・ローデン監督の初長編作品に衝撃を受けた鶴岡監督が、デビュー作の創作について伝えます。現在、神戸芸術工科大学で助教を務める鶴岡慧子監督の初長編である PFF グランプリ作品『くじらのまち』も同時上映!

 

⑥ 驚異の傑作!

10/20(金) 15:00~

山川直人監督&石井聰亙監督による、70~80 年代を代表する伝説の自主映画を 2 本立て上映。8 ミリ作品を修正したデジタル版での上映です。

 


【チケット情報】

10 月 3 日(火)朝 10 時より、チケットぴあにて発売!(P コード:553-389)

<PFF アワード> 一般(シニア含む):1,000 円/障がい者・友の会:500 円/学生:500 円

<招待作品部門> 一般(シニア含む):1,500 円/障がい者・友の会:1,000 円/学生:500 円
 


(オフィシャル・リリースより)

 
 
 
 


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【日時】9月19日(火) 舞台挨拶/19:00

【場所】伝承ホール(渋谷区桜丘町23-21渋谷区文化総合センター大和田6F)

【登壇者】倉悠貴、芋生悠、成田凌、前田弘二監督 



変わり者のトワと、変わり者の園子。二人にしか分からない世界。

二人にしか分からなくていい関係を作り出すラブストーリー。

 

『まともじゃないのは君も一緒』の監督・前田弘二と脚本・高田亮が贈る〈おかしな二人の物語〉第二弾『こいびとのみつけかた』が、10月27日(金)より、新宿シネマカリテほか全国公開となります。


koibitonomitukekata-pos.jpgコンビニで働く女の人・園子に片想いをしている植木屋でトワは、毎日植木屋で働きながら、彼女がどんな人か想像している。なんとか話したいと思った彼がついに思いついたのは、木の葉をコンビニの前から自分がいる場所まで並べて、彼女を誘うことだった。二人は言葉を交わすようになり、周囲にはよく理解できない会話で仲を深めていくのだが、園子にはトワにうまく言い出せないことがあり…。


世の中に馴染めない、ちょっぴりエキセントリックな2人が繰り広げる、〈可笑しくピュア〉なラブストーリー。

世の中の〈普通〉に馴染めない、おかしな二人のおかしな会話の応酬で繰り広げる『まともじゃないのは君も一緒』の監督・前⽥弘⼆×脚本・⾼⽥亮コンビの最新作。主演に『夏、至るころ』(20)、『OUT』(23)と主演作が続く倉悠貴、ヒロインに『ソワレ』(20)、『ひらいて』(21)の芋生悠を迎え、成田凌、宇野祥平らが脇を固める。また、川瀬陽太、奥野瑛太、高田里穂、松井愛莉らも名を連ねる。


映画『こいびとのみつけかた』の完成披露上映イベントが9月19日(火)、都内で開催され、主演の倉悠貴、ヒロインを務めた芋生悠、共演の成田凌、前田弘二監督が上映前の舞台挨拶に登壇した。


成田さんが主演を務めた『まともじゃないのは君も一緒』に続いて、前田監督と脚本家の高田亮のコンビによる本作だが、企画の成り立ちについて、前田監督は「『まとも――』の初号試写を見て、(成田さんと)『もう1回やりたいね』と盛り上がって、ちょっとメロドラマな静かな空気で、変わり者の2人の話ができないか? というところから始まりました」と明かす。


koibitonomitukekata-550.jpg『まとも――』にも出演していた倉さんは、本作で主人公のトワを演じたが、前田監督からのオファーについて「前田さんから『どうしても撮りたい映画があるんだ。倉くんにピッタリだと思うんだよね』とおっしゃっていただいて、そんな熱量をいただけると思っていなくて、脚本を読んだら面白くて『ぜひお願いします!』と言いました」と明かし、倉さんの事務所の先輩でもある成田さんは「倉が主演と聞いて、自分もテンションが上がって、勝手に嬉しかったのを覚えています」と明かす。ヒロインの園子を演じた芋生さんは、故郷の熊本の復興チャリティイベントを通じて前田監督と面識があったことを明かし「(監督の)映画が好きだったし、前田さんも好きだったので嬉しかったです」とふり返る。


koibitonomitukekata-500-2.jpg倉さんと芋生さんは初共演となったが、倉さんは「ゆるかったですよね、雰囲気が(笑)」と述懐し、芋生さんも「2人のシーンがひたすら楽しかったです」と笑顔を見せる。成田さんも現場の様子について「監督が柔らかい方なので、現場はほっこりするし、しかも主演が倉となると、それは優しい、優しい空間だなと。ほこほこした気持ちでいました。素晴らしい空気感でした。『良いもの見ているな』という感じでした」と同意する。前田監督は、今回の俳優陣について「理想のキャスティングでした」とニッコリ。「トワと園子の話ですけど、この2人なら間違いないと思ってお願いしたら、想像以上に素敵でした」と倉さん、芋生さんが醸し出す空気感、関係性を絶賛する。


劇中、トワと園子がそれぞれ、ピアノの弾き語りを披露するシーンがあるが、実際に倉さん、芋生さんが練習を重ねて本番でも自ら演奏&歌唱し、一発OKが出たという。芋生さんは「曲が良いんですよね」と頷き、倉さんは歌詞についても「一見、シュールですけど、芯を食っていて、メッセージ性があります」と語り「グッとくるシーンになっています」と自信をのぞかせていた。

 

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改めて、本作で描かれる、“変わり者”の登場人物たちの人間模様や、メッセージについて、前田監督は「『こいびとのみつけかた』とあるように、恋の話ではあるけど、母性の話でもあるなと思ったし、つらい現実からの逃避の話でもあると思います。世の中、おかしなことばかり起きていて、つらい現実に対してとかいろんなメッセージが詰まってて『いま撮らなきゃダメだな』と思い『どうしても撮りたい』とプロデューサーに頭下げて撮りました」と語る。


成田さんは「監督も高田さんも、いろんなこと考えるなぁ…というのが率直なところです。こんなことばっかり考えて、生きているんだなと(笑)。(トワと園子は)変わり者の2人かもしれませんが、倉くんはわりと普段から変わっているので(笑)、すごくなじんでたと思います。変わり者を演じようとすると限界があると思うけど、浮かずになじんでいて素晴らしかったと思います」と大絶賛(?)。


koibitonomitukekata-500-4.jpgちなみに成田さんは、自身が間近で見た、倉さんの変わり者エピソードとして「2人で鉄板焼きを食ったんですよ。(鉄板焼きは)自分のテリトリーがあるじゃないですか? 先輩(成田さん)が一生懸命、もやしとかを作っていたんですけど、しゃべりながら、普通に(倉さんが)俺のテリトリーから食べ始めて…。これは変わってますよね? 先輩が大切に育てていたもやしを…。これは僕がなめられているのか(笑)?」と明かし、会場は笑いに包まれていた。


最後にこれから映画を観る観客を前に、前田監督は「この映画が、みなさんのガス抜き、厳しい日常の中での筆休みになってくれたら」とアピール。成田さんも「つらいことがあっても、毎日は進んでいくわけで、変わっていても、変わってなくても、毎日、同じ時間があるんだなと思います。単純に、いま思っているのは、みなさん、いまからこの映画を観られるのが羨ましいなと。素敵な映画ができましたんで、ぜひ楽しんでください」と呼びかける。


koibitonomitukekata-500-1.jpg芋生さんは「夫婦とはこうあるべきとか、友達や恋人はこうあるべきとか、そういう形にとらわれず、生きづらさを感じている人たちが、自由にいろんな形を変えて、人と関わることができたらいいなと思いますし、その当事者を取り巻く周りの人たちの目線がもっと温かくなってくれたら良いなと思っています。そういうことが感じられる映画になっていると思います」と力強く語る。


そして、倉さんは「僕にとって、この映画は宝物のような映画になりました。自信をもって素敵な作品と言えます! 誰と観ても、どんな年齢、性別の人とでも楽しめる映画です。観終わった後、温かい気持ちで帰れることを望んでいます」と語り、会場は再び温かい拍手に包まれた。
 


◆監督:前田弘二 脚本:高田亮  音楽:モリコネン
◆出演:悠貴 芋生悠 成田凌 宇野祥平 川瀬陽太 奥野瑛太 高田里穂 松井愛莉
◆2023年/日本/99分/5.1ch/スタンダード 
◆©JOKER FILMS INC. 
◆公式サイト:http://koimitsu.com
◆制作プロダクション:ジョーカーフィルムズ、ポトフ 
◆企画・製作・配給:ジョーカーフィルムズ

2023年10月27日(金)~新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、出町座、シネ・リーブル神戸 ほか全国公開


(オフィシャル・レポートより)

 
 
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 『クリスマス・ストーリー』(2008)、『あの頃エッフェル塔の下で』(2016)など監督作が高い評価を得ているフランスのアルノー・デプレシャン監督最新作『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』が、シネ・リーブル梅田、京都シネマで絶賛公開中。シネ・リーブル神戸でも9月22日から上映される。
 舞台女優の姉、アリスを演じるのは、デフレシャン監督初期代表作『そして僕は恋をする』にも出演のフランスを代表する女優、マリオン・コティヤール。詩人の弟、ルイを演じるのは、ジャック・ドワイヨン、エリック・ロメールからフランソワ・オゾン、グザヴィエ・ドラン、ミア・ハンセン=ラヴら名監督からのオファーが絶えず、『クリスマス・ストーリー』にも出演のメルヴィル・プポー。このふたりが演じる姉弟の葛藤ぶりやぶつかり合い、事故に遭い命が危ぶまれる両親たちが若い頃二人にもたらした影響など、他人事とは思えない、デプレシャン流家族物語だ。
 9月18日(月・祝)、シネ・リーブル梅田で、上映後に行われたアルノー・デプレシャン監督ティーチインの模様をご紹介したい。(司会は配給ムヴィオラ代表の武井みゆきさん、通訳はアンスティチュ・フランセ日本映画主任の坂本安美さん)
 

 

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■メルヴィル・プポーとマリオン・コティヤールのキャスティング秘話

本編後にルイ役のメルヴィル・プポーより、日本滞在時に、新宿ゴールデン街のバー、ラ・ジュテでデプレシャン監督と語り合ったことが本作に繋がったと思い出深く語った動画メッセージが上映されたティーチイン。その後登壇したアルノー・デプレシャン監督は来日経験は何度かあるものの、初めて大阪を訪れることができたことを喜び、「今まで東京に閉じ込められていたが、はじめて解き放たれた」と観客に向けて、ユーモアを交えながらご挨拶された。
 
 本作はなんといってもメルヴィル・プポーとマリオン・コティヤールのキャスティングが魅力だが、デプレシャン監督は「メルヴィルは、エリック・ロメールの代表作『夏物語』
で完璧な美青年だったが、年月と共に人間的にも深みが増し、今回は幼い息子を亡くすという役を演じてもらった。ルイはたくさんの弱点を持つ人間で、アル中だし、暴力的で粗野だけれど、全ての弱点が彼を魅了的にしている。ルイを演じるにあたっては、ジャック・ニコルソンの『ファイブ・イージー・ピーセス』を参考にしたそうだ」とメルヴィル起用の狙いを解説。
 
さらにマリオン・コティヤールについては、「アリスは、暗い感情を抱く女性だが、映画で彼女をジャッジするのではなく、解放したいと思った。そういう感情を演じられるフランスの女優を探し、マリオンに脚本を読んでもらったら、『彼女に何が起こったの?』と聞かれたので、『それはこの映画の中で君が探求することだ』と。マリオンはどんな役でも、その役を享受する力を持っているし、信じがたいほど複雑な人間をすごくシンプルに演じることができる女優です」と複雑な内面を持つアリス役オファーの裏側を明かした。
 
 
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■映画の力で故郷、ルーベを再発見

 
 観客とのQ&Aでは、まずデプレシャン監督の出身地であり、本作の舞台にもなっているルーベはどんな意味がある場所なのかという質問が寄せられた。デプレシャン監督いわく、フランス北部のルーベは、もっとも貧しく、朽ちて、荒れた暮らしをしている人が多かったという。若い頃にパリへ出たときは、パリジャンになろうとしてルーベの訛りを捨てようとした時期もあったという。監督デビュー作の『二十歳の死』で自然とその地に戻ったデプレシャン監督。そこには映画の力があったのだそうだ。
「見捨てられたような朽ちている場所でも、魔法のように輝く場所にできる。『クリスマス・ストーリー』では、雪が降り、街が輝いたし、本作でルイが空を飛ぶシーンがあるが、空からルーベを眺めることで、私自身もこの場所を再発見できたのです」
 
 
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■詩人のルイは影のような存在だが、どこかで姉に挑戦を挑んでいる

 
 詩人の観客から、アリスに向けてルイが彼女に宛てた手紙をポエトリーリーディングのように読むシーンもあるが、詩人をどんな存在として描いているのかという質問も寄せられた。デプレシャン監督は「アリスは著名な女優だが、詩人は秘められた、影のような存在。ルイも詩人の生活を続けるため、教師をしながら田舎に住んでいる。最初にルイが姉、アリスへの手紙をカメラ目線で読むシーンがあるが、あのシーンを作るのがとても大事で、どこか姉をからかい、恋い焦がれている、もしくは挑戦を挑んでいるようでもあるメルヴィンの演技は素晴らしかった」とその存在の意味を説明。ちなみに、ルイが最後に学校で生徒たちに読んで聞かせる詩は、監督の友人でもある詩人、ピーター・ギズィのもので、評価はされているものの、彼は他の詩人同様目立つ存在ではないが、ある日、有名画家のジャスパー・ジョーンズから突然、詩に対するお礼として絵が送られてきたという、突然評価されたルイの境遇と重なるエピソードも披露した。
 
 映画のタイトルが示す通り、憎しみ合う姉弟の物語だが、「どうしてあそこまで確執を持つ設定にしたのか」という質問にはデプレシャン監督が、ふたりの関係を表すシーンを示しながら説明。「アリスが楽屋で、自傷行為を行い『弟が(著書で)わたしの名前を盗んだ』と叫ぶシーンがあるが、アリスとルイは強烈な競争関係であるし、あまりにも愛し合っているからこそ憎み合うのか、親を取り合う子どものような姉弟関係と言える。ふたりは大人のふりをしているけれど、不幸な子どものようであり、逆に最後はようやくふたりとも大人になったから、子どものような気持ちになれたのでは」。さらに映画監督には2種類あり、ロベール・ブレッソンのように自分の映画しか興味がない人と、自分のように映画における影響を隠すことなく見せる人がいるとし、「映画は人間をより良いものにすると信じています。舞台に上りたがらない女優を描くとなれば、ジョン・カサヴェテスの『オープニング・ナイト』を想起しないではいられないでしょう。また、ルイが空を飛ぶシーンは、メルヴィルからシャガールのように飛ぶのかと聞かれたので、『マトリックス』のようにと伝えたんです」
 
 
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 家族だからこそ、自分の奥底にある感情をかき乱されてしまう。そんな愛と憎しみの間で苦しんでいるきょうだいは、決してアリスとルイだけではないだろう。両親の事故が、長年会うことも口を聞くこともなかったふたりを引き寄せていく、凝縮された家族の物語。お互いに気持ちがボロボロになり、人間臭さを滲ませるふたりだが、デプレシャン監督は決してそんなふたりを見捨てない優しさがあった。
(江口由美)
 
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<作品情報>
『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』“FRERE ET SOEUR”
(2022年 フランス 110分)
監督・脚本:アルノー・デプレシャン  脚本:ジュリー・ペール
出演:マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポー、ゴルシフテ・ファラハニ、パトリック・ティムシット、バンジャマン・シクスー
公開中:シネ・リーブル梅田、京都シネマ、9/22(金)〜シネ・リーブル神戸にて
(C) 2022 Why Not Productions - Arte France Cinema
 
<特集上映>映画批評月間 フランス映画の現在をめぐってvol.5 アルノー・デプレシャンとともに
アルノー・デプレシャン レトロスペクティブ
10/27(金)〜出町座
10/28(土)〜シネ・ヌーヴォ
 
 

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(左から、山田孝之、桃果、石橋義正監督、武田玲奈、アオイヤマダ)
 

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日時:2023年9月16日(土)16:20~
場所:るり渓高原
  (るり渓温泉 ポテポテ広場=京都府南丹市園部町大河内広谷 1-14)

ゲスト:石橋義正監督、山田孝之、アオイヤマダ、武田玲奈、桃果


 



石橋義正監督10年ぶりの最新作『唄う六人の女』のロケ地となった京都府南丹市にて、9月16日にONE NANTAN CINEMA FESTAが開催され、同作の世界初上映を前に、石橋義正監督、出演の山田孝之さん、武田玲奈さん、アオイヤマダさん、桃果さんが登壇し、スペシャルトークを開催した。


★自然とどう生きていくかがテーマ(石橋監督)

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(南丹市の西村良平市長から特産物詰め合わせの贈呈を受ける石橋義正監督(左))


京都出身で、現在も京都市立芸術大学で教鞭をとっている石橋監督は、南丹市美山町の芦生原生林で撮影、映画を撮ることになったきっかけについて、「自ら作りたいと思った作品をできるだけたくさんの人に見て伝えるには映像というメディアがふさわしいと思い、オリジナル脚本の映画を作りました。京都はものづくりに携わる人たちがすごく多いので、クリエイティブなことに対することへの理解が高い。(保護されている場所だが)原生林で撮影したいとお願いし、特別に許可を取りました」と明かした。


utau6-9.16bu-di-2.JPG原生林での撮影や南丹市の自然の中で、今回挑んだテーマは「自然」。そのテーマについて聞かれると、「自然とどう生きていくかがテーマで、ずっと悩んでいました。人間とは何のために生まれてきたのか。今も答えを探している最中で、その気持ちをこの映画にぶつけました。人間は自然のサークルからはみ出し、生きていくと自然破壊をしてしまうが、なぜこういうことになるのに生まれてきたのか。その理由は共生進化で、時間はかかるかもしれないが、前向きにみんなで考えていくべきではないかと思ったんです」と語った石橋監督。


12年前の前作『ミロクローゼ』で、一人三役の難役をフルパワーで演じた山田に対し、絶大な信頼を寄せていたそうで「ファンタジックな映画でリアリティーを持たせるために山田さんに演じてもらいたかった。見事に演技もアクションも素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました」と本作での演技を絶賛した。


utau6-9.16bu.yamada-2.jpg自分の感覚と全く違う役に「撮影に入るまですごく憂鬱だった」(山田)

一方、映画の企画段階からオファーを受け、撮影後もプロモーション企画などに尽力している山田は「脚本を読んだとき、面白いし、伝えなければいけないメッセージが深いと思いました。撮影に入るまですごく憂鬱で、今回は、この人(宇和島)にはなりたくないという気持ちがすごくあった。自分の感覚と全く違い、自然の中で感謝するという気持ちを全部捨てて、憎たらしいという気持ちに持っていくのがしんどかったが、そこを全力でやらなければ(作品のメッセージが)伝わらない。いざ撮影に入ったら、ちゃんと仕事をしたと思います」と本作の鍵となる役を演じたときの葛藤を表現した。


utau6-9.16bu.takeda-3.jpg■  自然の中で撮影できるのが楽しみだった(武田)

 いろんなことを考えずに見つめる演技(桃果)

 石橋監督の作品出演を自ら熱望(アオイヤマダ)

石橋監督が「6人それぞれの個性が必要なので、お客さまにこの人のことが頭から離れないという魅力を出していただける人にオファーした」と語った、唄う女たちを演じた3人は、

「自然のあるところに育ったので、自然の中で撮影できるのが楽しみでした。どんな感じの役になるのか掴みきれなかったけれど、不安ながらもワクワクしながら撮影に臨みました」(武田)
 

 

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「セリフがない役ははじめて。どんな風にできあがるのかワクワクしました。撮影では、セリフがないことを忘れるぐらい綺麗に撮っていただきました。純粋で無垢で少女のような役だったので、その場で起きたこと、興味を感じ取り、いろんなことを考えずに見つめることを心がけました」(桃果)
 

 

 

 

 


 

 

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石橋義正監督の作品が大好きで、新作を作るときき、ぜひ出演したいと思いました。鮎が美味しかったので、夫にお土産で鮎の佃煮を買って帰りました。今日はそれを入れたお弁当をプリントしたワンピースを着てきました」(アオイヤマダ)

 

とそれぞれの撮影時のエピソードを披露。

 


芦生の森の風景は今でも心の中に(竹野内)

豊かな南丹市の自然の中での撮影は、登壇したみなさんにとって宝のような時間になったようで、石橋監督は「早く撮影が終わると、ゆっくりと美山の景色を日頃飲まない日本酒を飲みながら、ゆっくり考えることができたのは、とても貴重な時間でした」と語れば、山田も「宿の横に川があって、日中鮎を獲っているので食べさせてもらうと、本当に美味しかった。都会の方で食べるのとは味が違う」と絶賛。アオイヤマダは竹野内豊が撮影中に人生で初めて頭皮が動いたと話していたことを披露しながら、自然の中にいることの効果を語り、笑いを誘う一幕もあった。そんな竹野内からもサプライズで動画メッセージが到着。「森での撮影を、毎日穏やかに取り組むことができました。子供の頃は自然の中で遊んでいたので、芦生の森の風景は今でも心の中に残っています」と撮影時の思い出と芦生の森への思いを明かした。

utau6-sub1-takenouchi-500-1.jpg最後に、

「思いやりを感じる作品です。自然と人間をわけるのではなく、何に対しても思いやりを持てばコミュニケーションを取り続けられると思います」(アオイヤマダ)

「全身でこの映画を自然とともに感じていただけたら嬉しいです」(武田)

「自然があるからこそ人がいると思っているので、そういう大切さを改めて感じ取っていただければ」(桃果)

「スタッフ、キャストももう一度再認識しなければという気持ちで作ったので、まずは見ていただきたいという気持ちがあります。こういう映画があると伝えていただきたい。そこから人間たちはそれぞれの役割を考えていくのではないか。そういうきっかけになればと思います」(山田)

「世界初の上映会を、素直に楽しんで、最後までゆっくりと観ていただければと思います」(石橋監督)

と、心地よい風や、虫の音が聞こえる自然の中での世界初上映に向け、観客にメッセージを送った。


撮影した自然の中で、世界初上映を行う新しい形の映画の楽しみ方は、映画の新しい可能性をも感じさせる。わたしたちは自然の中でより感性が豊かになれることにも気づかせてくれる。それだけにこの自然をなくさないためにはどうすれば良いのかを静かに問う石橋監督の最新作。サスペンスやアクション、そして唄う六人の女たちの幻想的な美しさや身体表現にも注目したい。
 


utau6-9.16bu-hajime-2.JPG舞台挨拶も終わろうかという時に突然、「山田さんのSP」と名乗る男が登場! SPというより、むしろ怪しさ全開の男の正体は……YouTuberのはじめしゃちょー”!!!

「今夜は山田さんを無事に家まで送り届けます!」とミッションを口にすると「いやいや、今日は家に帰んないし…」と山田。お二人とも普段から仲良しとのことで、こんな山奥まで応援に来てくれたのでした。


<作品紹介>

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『唄う六人の女』

(2023年 日本 112分)
監督・脚本:石橋義正
出演:竹野内豊、山田孝之、水川あさみ、アオイヤマダ、服部樹咲、萩原みのり、桃果、武田玲奈
制作協力:and pictures
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
(C) 2023「唄う六人の女」製作委員会
公式サイト:https://www.six-singing-women.jp/

2023年10月27日(金)~全国のTOHOシネマズ系、大阪ステーションシティシネマ、京都シネマ OSシネマズ神戸ハーバーランド  他全国ロードショー


(江口 由美)

 
 
 

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日時:2023年8月24日(木)豊中市先行上映会

場所:豊中市立文化芸術センター

ゲスト:山田洋次監督、北山雅康(巡査役)*敬称略



吉永小百合と大泉洋の親子役が話題を呼ぶ山田洋次監督の最新作

母親の恋愛に戸惑う中年息子の人生崖っぷち物語。

 

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『男はつらいよ』シリーズや『家族』『幸せの黄色いハンカチ』など時代に翻弄されながらも愛情をもって生きる市井の人々を描いては、日本の家族の在り方を問い続けてきた山田洋次監督。『たそがれ清兵衛』や『武士の一分』などの時代劇でも、武家社会の理不尽さに抗う人々を清廉に描いてきた。正に日本映画界を代表する巨匠の1人である。そんな山田監督は今年92歳を迎え、監督作90作品目となる『こんにちは、母さん』が9月1日に公開される。サラリーマンの宿命ともいうべきリストラ問題や家族の崩壊に悩む中年息子と、日々素直な気持ちで一所懸命に生きる母親の姿を通して新たな家族の情景を活写して魅了する。


東京は下町を舞台に、吉永小百合が珍しく老齢の母親を演じ、その息子役に今や超人気俳優の大泉洋をキャスティング。もうそれだけで話題になる作品である。公開を前に豊中市立文化芸術センターで開催された先行上映会に、山田洋次監督と山田組の常連俳優の北山雅康が舞台挨拶で登壇し、撮影現場の様子や今回新たに加わった俳優について語った。山田監督は、観客の入りを気にしてか登壇前に舞台袖から会場をちょっとのぞき込み、超満員の熱気に驚くお茶目な一面を見せていた。


konnichiwakasan-550.jpg吉永小百合については「顔立ちだけでなく人間として品格のある女優」と評し、今回山田組に初出演となる大泉洋を「主演スターとして通用する実力派俳優」と絶賛、宮藤官九郎については「監督としても俳優としても一流の宮藤官九郎君が脇役を快く引き受けてくれて、僕の注文にも誠実に応えてくれた」と好感を示し、現場でもムードメーカーだったYOUについては「とても楽しい人、是枝監督の言う通り、監督の意図を理解して演技してくれる人だった」と大絶賛。キャスティングの妙にも大満足のご様子。


老齢の母親の恋愛に戸惑う中年息子の物語に新たなキャラクターが加わった今回の作品は、これまでの山田組の盤石さを感じさせる懐かしさと、次世代へのエールが込められた人間讃歌に満ち溢れているようだ。戦中派の監督が少なくなった今、山田洋次監督の時代の変化を反映しながら人々の心の変容を映し出す作品と、それを丁寧に語る言葉を聴くことができたとても貴重な舞台挨拶となった。
 


〈以下、舞台挨拶の詳細〉

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――最初のご挨拶

山田監督:テレビでこの暑さのことを“危険な暑さ”と言っていましたが、この危険な暑さの中を僕の映画を観に来て下さるなんて、しかもこんなに沢山の方に来て頂けるなんて、ホント日本中いろんな所へ行ってますが、こんな超満員になるのは初めてですよ。びっくりしてます。本当にありがとうございます。


――監督作90作品目ということですが?

山田監督:数が多いというのは決して自慢じゃありませんよ。ただ沢山作ったというだけでね。巨匠と言われる人たちはそんなに沢山作るもんではないんです。


konnichiwakasan-bu-yamada-240-1.jpg――今回は山田監督作品に初出演という方が多かったですね。大泉洋さんに宮藤官九郎さん、YOUさんなど…中でも大泉洋さんは今や大人気で超売れっ子ですが、起用された理由は?

山田監督:テレビや映画などで彼の演技は観てましたけど、力のある大した役者さんだと思いました。主演スターとして通用する数少ないスターの1人ですね。

――大泉洋さんが出てくるだけで明るくなったのでは?

山田監督:そこは大事なところですね。パアッと明るくなる。明るくならない俳優も沢山いますからね(笑)。吉永小百合さんがいて、息子は誰がいいか?…息子が決まらないとこの企画は進まないのでね。僕は早い時期から息子は大泉洋がいいと思っていたんです。


――宮藤官九郎さん、YOUさんについては?

山田監督:宮藤官九郎という人は喜劇の監督としても役者としても一流の人で、そんな人が脇役として登場してくれるのかと思っていたら、「喜んでやります!」と言ってくれたので嬉しかった。ああいう形で参加してくれて、現場でもとても真面目というか、僕の注文に誠実に応えてくれてとても好感を持ちました。

YOUさんは変幻自在の人だと思っていたら、一緒に仕事していてとても楽しい人でした。どんな注文でもどんどんこなして消化してくれる人なんです。是枝監督が撮影を見に来てくれたことがあって、YOUさんは是枝監督によって見い出された俳優さんですから、「YOUちゃんはいい役者だね」と言うと、是枝監督が、「彼女は監督が自分に何を要求しているのか、よく理解できる役者ですよ」と言っていました。それは僕にもよく理解できましたね


konnichiwakasan-bu-kitayama-240-1.jpg北山:YOUさんはとてもいいムードメーカーでしたよ。YOUさんが居ると、監督も皆が和やかな雰囲気なってましたね。

(ここで突然自己紹介が始まって…)すみません!私は向島の巡査役を演じてました北山雅康と申します。今日はようこそお出で下さいました。ありがとうございます!(笑いと拍手)僕は『男はつらいよ』シリーズで「とらや」の店員で三平役をやらせて頂いてから山田監督作品に出させて頂いてますので、山田監督とは35年もお世話になっております。

山田監督:北山君は大阪に来ると急に関西訛りになるんですよ(笑)。

北山:もうダメです。堰を切ったように関西弁が出るんです。出身が京都なもんで。


――撮影現場で大変だったことは?

北山:皆さんお気付きですか?私は向島の巡査役で出ていたんですよ。特に、[言問橋(ことといばし)]のシーンは大変だったんですよ!あそこは向島と浅草を繋ぐ橋でして、普段から交通量の多い所なんです。そこを「ちょっと待って下さいね」と通行止めしながらの撮影でした。

山田監督:夕景をワンカットで撮ろうと180度以内の通行を止めなきゃいけなかったんです。

北山:終いには怒り出す通行人の方もおられて、私が巡査の格好で立ってるもんですから「お前巡査やろ、なんとかしろ!」と怒られて、エライ目に遭いました(笑)。「あの人に言うて下さい、あの人に!」と本物の巡査の方を指差してましたわ。カメラが私たちを捉えて撮って下さる時、監督はモニターの前におられるのが普通なんですが、山田監督はカメラと一緒に動いておられました。


――共演者との印象は?

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北山:やはり吉永小百合さんですね。わたしにとっても憧れの女優さんです。吉永さんが演じておられる神崎福江さんのお宅へ訪ねるシーンもありましたので、初めてゆっくりとご一緒させて頂いたのですが、普段からピリッとしたオーラのある方ですよね。福江さん役で皆さんと和やかに話しておられても、やはり他の女優さんとは違いますよね。是非、本物の吉永小百合さんに会って頂きたいです。(拍手)


――山田監督からご覧になって吉永さんの魅力とは?

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山田監督:う~ん、(少し間をおいて)品の良さというと常識的な言い方になりますが、とにかく品がいい、顔立ちだけでなく、人間としてね。とても真面目な方で、世界の問題とか人類の課題とかにも関心を持って勉強もよくされています。特にあの人は原爆反対に明確な意思を持って取り組んおられるし、非常に知的な人で、人間としてしっかりとした人ですね。バカバカしい冗談を言ってゲタゲタ笑うようなタイプではないんですけど、女性として立派な人だと思いますね。


――そんな吉永さんが演じられた“お母さんの恋”について?

konnichiwakasan-500-3.jpg山田監督:「お母さんが恋をしたらどう思う?」と40~50代の中年男に聞くと、みんな顔をしかめます(笑)。「とんでもねえよ」とか「イヤだよ」とかね。確かにお父さんが生きている場合はとんでもないことですが、「お母さんが独りだったら?」、「それでもイヤだよ」って言うんです。一人の女性として恋をしてもいいと理屈では解っていても、イヤなようです。女性と男性では受け止め方も違うようですが、はやり母親に対して神聖視しているというか、聖なる存在なんですよ、母親は。恋をするということはどうしてもセックスと繋がっていて、母親を女として考えたくないというのが、息子たちの本音のようです。でもそれはしょうがないことなんです。それを超えて人間は生きていく訳ですから、男の子は諦めるしかないんです(笑)。

――これを見ている中年男性は、少し大らかな気持ちでいて欲しいですね。

山田監督:そう思います。


――山田監督は91作目の構想とかはおありですか?

山田監督:終わったばかりで今はあまり考えられませんね。でも、監督になってから60年以上になりますが、いつも2つや3つはやりたい構想は持っているもんなんですよ。それが漬物みたいなもんで、そろそろ食べ頃かなと出してみる。今でもいくつかの企画は持っています。できたら実現したいなと思っていますが、いつかは僕にも限界が来るでしょうから、ここでは言えませんね。

――それは楽しみですよね?北山さんは次はどんな役で出たいですか?

北山:私ね、現場に1週間位居るような役しかないんですよ。次の作品ではもう少し長く現場に居られるようにして頂きたいなと思ってます。

――今回の息子役のような?

北山:とんでもない!そこまで言ったら怒られてしまいます。ご辞退いたします(笑)。


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(長内繁樹豊中市長(左)も加わっての記念撮影)


――ここで山田監督にお願いがあるのですが、次回作では是非この豊中市でロケをして頂きたいなと思っているのですが?(場内から拍手が沸き上がる)

山田監督:「わたくし、生まれも育ちも、豊中は岡町という所でございます!」(笑) 私が生まれた家がまだ残っているんですよ。あの家を映すようなロケーションができたらいいなと思っています。

――楽しみです~!(観客からも拍手!)是非よろしくお願いいたします!
 


『こんにちは、母さん』

(2023年 日本 110分)
監督:山田洋次
原作:永井愛
脚本:山田洋次、朝原雄三 
音楽:千住明
出演:吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、YOU、桂元萌、宮藤官九郎、田中泯、寺尾聡他

公式サイト: https://movies.shochiku.co.jp/konnichiha-kasan/

2023年9月1日()より全国ロードショー
 


 

(河田真喜子)

 

 
 
 
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『A』『A2』『i 新聞記者ドキュメント』と社会派ドキュメンタリーを撮り続けてきた森達也監督による初の長編劇映画『福田村事件』が、関東大震災からちょうど100年となる2023年9 月1日(金)よりシネ・リーブル梅田、第七藝術劇場、MOVIX堺、京都シネマ、京都みなみ会館、9月8 日(金)よりシネ・リーブル神戸、元町映画館、シネ・ピピア、以降出町座で順次公開される。
 福田村事件とは、関東大震災発生から6日後の1923年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村(現在の千葉県野田市)で、自警団を含む100人以上の村人たちにより香川から訪れた薬売りの行商団15人のうち幼児や妊婦を含む9人が虐殺された事件。歴史の闇に葬り去られていた事件を群像劇として構築。大災害時のフェイクニュースが引き金となった虐殺や、その後戦争に突き進んでいく日本の市井の人々の姿を通して、現在に通じる報道のあり方や集団と個の問題や浮き彫りにする必見作だ。
 本作の森達也監督にお話を伺った。
 

 
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―――関東大震災後、今まであまり一般的に知られていなかった福田村事件を描くにあたり、特に注力した点は?
森:戦争でも普通の事件でも、感情移入がしやすい被害者側を主軸に描く作品が圧倒的に多いです。でも加害者にも一人ひとりにもそれまでの時間があり、その行為に至る経緯がある。事件だけを切り取れば凶悪なモンスターになってしまうので、加害者の日常や喜怒哀楽をきちんと描きたいという気持ちで臨みました。
 
―――今回、フィクションを監督しましたが、ドキュメンタリーとの違いはありましたか?
森:ドキュメンタリーもフィクションもカットを組み合わせるモンタージュですから、その部分は同じです。ドキュメンタリーは撮影後にラッシュを見ながらモンタージュとストーリーを考えるけれど、フィクションは先にストーリー、つまりモンタージュを考えてから撮影するので、順番が違うだけ。ただドキュメンタリーは現実に規定されてしまうけれど、自分の想像をはるかに上回ることが起きるんです。フィクションは宇宙人を登場させることもできるけれど、自分の想像の範囲内のことしか作れない。それぞれ一長一短がありますね。そこはある程度想像がついていたので驚きはしなかったですが、こんなに大所帯で撮影をしたのは初めてで、それは大変でした。
 

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■20年前に知った福田村事件、映画化までの道のり

―――福田村事件を映画化しようと思ったきっかけは?
森:20年前に新聞で、千葉県野田市に慰霊碑を作る動きが始まったという小さな記事を読んだんです。それだけでは詳細がわからなくて、野田市に行って話を聞いたり郷土資料館で調べたりして、ほぼ資料はなかったのだけど何とか福田村事件のアウトラインを知り、テレビの報道特集枠で取り上げられないかと各局に企画を持っていきましたが、「これは無理でしょう」と検討の余地もなかった。その後に著書「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」(03)で、章をひとつ使って事件のことを書きましたが、映像化については棚上げ状態となっていたんです。『FAKE』(16)を撮った後、次はフィクションで福田村事件なら撮れるのではないかと考えて、簡単なシノプシスを書いて映画会社を回った時期もあります。でもやっぱり駄目でした。
その後に、やはり映画化を考えていた荒井晴彦さんたちに出会う。彼らが事件を知った理由は、「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」を読んで事件を知ったミュージシャンの中川五郎さんが作った曲「1923年福田村の虐殺」を、たまたま聴いたことがきっかけだと後で知りました。偶然なのか必然なのか、ぐるりと廻って繋がったという感覚です。
 
―――福田村事件で犠牲になった行商団の中には、生き残り、地元に戻った方もおられますが、関係者の方に話を聞くことはできたのでしょうか?
森:シナリオを書くためのリサーチで香川県へ行ったときに、生き残って戻られた行商団の方のご遺族と面会することができました。その方も3年前ぐらいに、はじめてこの事件のことを知ったそうです。僕に話してくれたのは、日ごろ祖父は何も語らなかったけれど、たまに縁側でお酒を飲みながら泣いていることがあり、子ども心ながら「なぜ、じいちゃんは泣いているんだろう」と思っていたそうです。今から思えば、事件のことを思い出していたのだろうと語ってくれました。
 
―――井浦新さんが演じる澤田と田中麗奈さんが演じる妻の静子は、日本統治下の京城から故郷の福田村に戻ってきたという設定で、オリジナリティーを感じました。
森:加害者と被害者に加え、もう一つの視点が欲しいと考え、触媒となる存在として澤田夫妻を加えました。井浦さんをはじめ、俳優のみなさんは脚本から人物像を深く理解して撮影に臨んでくれたので、僕からは何も言うことがないぐらいの素晴らしい演技でした。
 
―――排他的な村社会で生きる人たちとは一線を画し、他人と対等な関係を築こうとする静子の立ち振る舞いは、性的な部分も含めてとても新鮮ですね。
森:ちょっと破天荒にしすぎたかな(笑)田中さんにはとにかく無邪気になってとお願いしました。大の字で寝そべったりするところも、日頃の田中さんとは違うかもしれないけれど。オファーをしてからしばらく脚本を読み込み、熟考した上で出演を決めてくれました。
 
―――行商団が被害に遭うことは史実でわかっていますが、そこにいたるまでの道中で彼らがどのような日々を紡いでいたか、彼らの生きた証がしっかり描かれていました。
森:映画では表立って出していませんが、行商団員の設定をそれぞれ作り、年齢や、どういう場所で育ったかを俳優たちへ事前に伝えていました。昨年8月、コロナの感染者がまだ多かった時期の撮影だったので、撮影中に俳優たちとコミュニケーションを取ることは難しかったけれど、行商団のリーダー、沼部を演じた永山瑛太さんは工夫して団員役の俳優たちとコミュニケーションを取ってくれ、そのおかげでアットホームな雰囲気が作れていたと思います。また部落問題についてもそれぞれが学び、個々人で慰霊碑にも訪れていたそうなので、これも僕から何かあえて教えたりする必要はなかったです。
 
 
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■女性の優秀さを映画の中でもっと描くべき

―――関東大震災後の朝鮮人虐殺を報道しようと上司に直訴する記者が女性であることも、大正という時代を考えるとあえてそうした意図を感じましたが。
森:記者だけでなく、村や行商団の女性たちの立ち位置も意識しました。基本、戦争や虐殺などは男性の文法であるけれど、子を持つ女性も自衛の意識は強い。また一方で、女性のほうが集団の熱狂に安易に巻き込まれないと感じるときもあるので、そうした複雑さを映画の中で描きたいと思いました。
 木竜麻生さんが演じた女性記者、恩田の上司である旧世代の代表のような砂田(ピエール瀧)は、この時代の少し前に実在していたリベラル系反権力主義の平民新聞に在籍経験があるという設定を、僕自身は考えています。平民新聞が政府の弾圧を受けながらどんどん部数を減らしてしまった経緯を知っているので、下手に権力に逆らうとそれと同じことが起きてしまうという恐れを砂田は抱いている。そういう矛盾を抱えた存在に対して、青臭いけど活気のある若い女性記者を対比させたかった。本作の前に、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんの活動にフォーカスした『i 新聞記者ドキュメント』を撮っていたので、望月さんの印象が残っていたのかもしれません。
 
―――恩田が上司に立ち向かっていく姿は、権力の前でもひるまない望月さんに重なりますね。
森:ドキュメンタリーの世界でも、『教育と愛国』の斉加尚代さんや『ハマのドン』の松原文枝さん、『標的の村』の三上智恵さんに『ちむりぐさ』の平良いずみさんなど、最近は女性監督が優れた作品をたくさん作っています。今のジェンダーの流れというよりも、女性の優秀さをもっと作品の中にも取り入れなくてはいけないという想いがありました。ここは小声で言うけれど、生きものとしては、多分女性の方が男性より優秀だと思っています。
 
 
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■村の中の異物的存在

―――一方、村の権力闘争とは無縁のところにいる船頭の倉蔵を演じた東出さんも、見事な役作りをされていました。
森:企画が始まってすぐに、「森が監督するなら役は何でもいいから、出させてください」と申し出てくれたのが東出さんでした。日に焼けた体作りだけでなく、和船の漕ぎ方も習いに行き、免許も取ったそうです。この作品の東出さんはものすごくいいと思いますよ。
 
―――なんでもやると出演を希望した東出さんを船頭役にキャスティングした理由は?
森:船頭は村の異物と捉えています。彼の不倫相手である咲江(コムアイ)も他の村から嫁いでいるので村の異物的な存在で、異物だからこそ最後の虐殺のシーンでは他の村人たちとは違う動きをするわけです。東出さんは背が高すぎることも含めて、存在するだけでその異物感が漂っていますから、彼がいいんじゃないかなと。
 
―――船頭が仕事をしている舟の上は、村とは少し離れ、どこかファンタジックな空間になっていますね。
森:それはあると思います。村人は百姓だから地に足をつけているけれど、倉蔵は田畑を持っていないから舟の上で自由でいられる。一方で財産がないということも意味するわけです。
 
 
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■加害者をしっかり描くことで見えてくること

―――関東大震災後の大虐殺は歴史的なことが積み重なり、負のうねりになっていることがよくわかります。
森:100年前のような大虐殺はさすがに起こらないと思いますが、ヘイトクライムやヘイトスピーチは今も日常的に起こっています。今回は加害者の日常や喜怒哀楽をしっかり描きたかったので、それだけの時間設定は必要になるし、加害者の人たちの日常の喜びや悲しみも全て描くことが重要でした。
 
―――行商団へ処刑を求めた人たちの描写から、当時の大義名分が浮かび上がりますね。
森:自衛や防衛を大義にすることは今も同じです。プーチンはウクライナに侵攻した理由を、ウクライナがNATOに加盟すればロシアの安全保証が脅かされることと、ウクライナ東部にいるロシア系住民を虐殺から保護するという大義名分を掲げました。かつての大日本帝国も、侵略の大義はアジアの解放です。アメリカがベトナム戦争に介入した理由は、共産主義は放置すれば際限なく隣国に感染するというドミノ理論を信じたから。世界中の軍隊の存在理由は自衛や防衛です。本音と建て前はともかくとして、自衛意識の高揚は気をつけなければいけないと思っています。
 
―――豊原功補さんが演じた村長の葛藤も後半にかけて増していきます。
森:当時は大正デモクラシーの時代ですが、結局国家と世論に負けて、軍国主義に走ってしまうわけで、それはデモクラシーやリベラルの弱さです。人権や平等などへの意識は理論ですから、怖いとか危ないなどの情念に負けてしまう。村長の存在は、時代のメタファーにもなると思います。
 
―――森さんがドキュメンタリー『A』『A2』で長年とらえ続けてきた問題と重なる部分があるのでしょうか?
森:強く意識してきたわけではないけれど、『i 新聞記者ドキュメント』もしかり、集団と個というのが僕の大きなテーマなので、きっと繋がっているのでしょうね。個が集団となったとき、どうしても同調圧力に負けてしまうし、暴走が始まったら誰も止められない。
 
 
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■映画の存在意義とは?

―――韓国をはじめ、海外では実在の事件を素早くフィクション映画にして世に問うという実録ものは数も多く力作が多いですね。
森:最近の韓国は、自分たちの負の歴史をしっかりエンターテイメント作品にして世に送り出している。ナチスやホロコーストの映画は、ひとつのジャンルのように毎年量産されています。ハリウッドも先住民虐殺や黒人差別をはじめ、自分たちの負の歴史を映画にしている。そうした視点で見れば、日本だけが取り残されているような印象を持ちます。負の歴史の映画はほぼない。
 
―――本作公開で、日本からもようやく負の歴史に真正面から切り込むフィクションが現れたと言えるのでは?
森:僕が若いころに観た『ソルジャー・ブルー』はアメリカ先住民の虐殺を彼ら側から描いていて、正義の騎兵隊がいかに残虐な存在だったかを提示した。他にも一連のアメリカン・ニューシネマを観ながら、視点で世界は変わることをとても強く実感したし、今も影響を受けていると思います。映画で多くを学べたと思う。権力と世相に迎合する映画ばかりでは発見がない。負の歴史や新たな視点を教えてくれる映画は、もっと増えてもいいのでは、と思っています。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『福田村事件』(2023 日本 136分)
監督:森達也
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧、水道橋博士、豊原功補、柄本明他
9 月1日(金)よりシネ・リーブル梅田、第七藝術劇場、MOVIX堺、京都シネマ、京都みなみ会館、9月8 日(金)よりシネ・リーブル神戸、元町映画館、シネ・ピピア、以降出町座で順次公開
(C) 「福田村事件」プロジェクト2023
 
 
 
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W主演、磯山さやかと吉橋航也の素の表情がたっぷり、「ドキュメンタリーのようなコメディに」『愛のこむらがえり』舞台挨拶
(2023.7.1シネ・リーブル梅田)
登壇者:磯山さやか、吉橋航也、高橋正弥監督 
 
生田斗真主演『渇水』も絶賛公開中の高橋正弥監督によるハートフルコメディ『愛のこむらがえり』がシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都にて6月30日(金)から絶賛公開中だ。18年ぶりの主演映画となる磯山さやかと、劇団東京乾電池に所属の吉橋航也がW主演で、映画監督の夢を諦められない男と、彼を支えるパートナーで、元スクリプターの奮闘ぶりを、映画業界の内情を交えて描く大人のコメディだ。
 
上映後の舞台挨拶では、磯山さやか、吉橋航也、高橋正弥監督の3人が登壇し、観客から大きな拍手が沸き起こった。朝からハイヒールが司会するテレビ番組に出演してきたという磯山は、たこ焼き以外のグルメを紹介。2年前、大阪の新歌舞伎座で上演された柄本明、藤原竜也主演の『てにあまる』に演出助手として来阪したという高橋も近所の名物店での思い出を明かした。さらに20代から30代前後まで阪本順治監督の助手も務めたという高橋監督は、最初の監督作も大阪舞台の作品だったそうで、新世界は馴染深い場所とお好み役をよく食べていた頃のエピソードを披露した。
 
 
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主人公の香織は太陽のように明るく笑顔が素敵なヒロインなので、数多くの俳優から磯山を指名したという高橋監督。一方、香織と長年生活を共にしながら、スタッフでくすぶり続けている浩平は、一見頼りなく情けないところもあるが、ひたむきにがんばるところが吉原本人のキャラクターにあっているとオファーの経緯を明かした。
18年ぶりの主演作のオファーを受けた時は「ある番組のドッキリではないかとずっとドキドキしていた」という磯山。脚本が届いたときに『愛のこむらがえり』というタイトルを見て、絶妙に疑わしかったというが、高橋監督から手紙が届き、徐々に実感が湧いてきたという。
高橋も初の主演に、「いけるという気持ちと、やばいという気持ちが波のように襲ってきた」。そこで心の支えになったのは、柄本明の妻、角替和枝からもらった「映画に主演するようになったら大事なことは、がんばらないこと」というアドバイスだったという。ただ、がんばらないでおこうと思って臨んだ初日に、柄本からメールで「がんばれ」とメッセージがきて、どっちなんだ!と悩んだことで、逆に緊張しなくて済んだと明かし、とにかく撮影中は楽しかったと笑顔で振り返った。
 
 
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東京の舞台挨拶に間に合わなかったというオーダースーツを身にまとっていることを明かされた高橋。「そういうところも浩平っぽい」と磯山からツッコミが入る一幕も。そんなふたりの様子に高橋監督は「コメディっぽく撮っているつもりが、ドキュメンタリーのようだ」と撮影を振り返り、「(加藤正人の)オリジナル脚本だったので自分からリクエストして追加することはなかったが、浩平のように失敗しながら育ってきたので、そういう部分を自分の中に取り込みながら撮影ができた」。さらに、「映画業界の話というより、香織と浩平というふたりの話なので、家の中で言い合いになるところや、後半の山場など見ていただきたい」と力を込めた。
 
「この作品は、監督良し、脚本良し、キャスト良しの、映画界の三冠王です。打率(興行収入)を稼ぐためにも、コツコツと出塁(映画館に足を運んで)していただいければ。心があったまったり、頑張ろうとか、応援しようと思ってもらえたら嬉しいです」(磯山)
「今、うまくいっていない人もいっぱいいると思いますが、あとひと足掻きだけしたいと思ってもらえれば」(吉原)
「関西のお笑いとは違う感じですが、面白かったら周りの方に広めてもらえればうれしいです」(高橋監督)
と、映画の魅力を呼びかけた。
 夢を追いかけ続けることについて、それをサポートすることについてと、ミドルエイジに切実な問題を突きつけながらも、信じて動くことの大事さも伝わってくる等身大コメディ。W主演のふたりのひたむきだけど、肩肘のはらない自然体の演技も魅力的だ。
 (江口由美)
 

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<作品情報>
『愛のこむらがえり』
(2023年 日本 108分)
監督:高橋正弥 
出演:磯山さやか 吉橋航也
篠井英介 菜 葉 菜 京野ことみ しゅはまはるみ 和田雅成
伊藤武雄 小西貴大 前迫莉亜 藤丸 千 川村那月
浅田美代子 菅原大吉 / 品川 徹 吉行和子 / 柄本 明 
6月30日(金)からシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、アップリンク京都にて絶賛公開中
公式サイト→https://aikomu-movie.com/
(C) 『愛のこむらがえり』フィルムパートナーズ
 
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