「AI」と一致するもの

chiisaiouchi-550.jpg 『小さいおうち』

 

nanchatte-550.jpg『なんちゃって家族』

eva-550.jpg『エヴァの告白』

dakisimetai-550.jpg

 

bairoke-b550.jpg『バイロケーション』

 

bairoke-1.jpg (2014年 日本 1時間59分)
原作:法条遥(「バイロケーション」角川ホラー文庫)
監督・脚本:安里麻里
出演:水川あさみ 千賀健永(Kis-My-Ft2) 高田翔(ジャニーズJr.)、滝藤賢一 浅利陽介/酒井若菜/豊原功補 

  

 ★『バイロケーション 表』2014年1月18日(土)~角川シネマ新宿、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)ほか全国ロードショー 
   ★『バイロケーション 裏』2014年2月1日(土)~角川シネマ新宿、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)ほか全国ロードショー

   

公式サイト⇒ http://www.bairoke.jp/
(C)2014「バイロケーション」製作委員会

  


~もうひとりの自分が殺しにやって来る! 衝撃の結末2パターンの新感覚ホラー~


 

bairoke-2.jpg 突然、もうひとりの自分が目の前に現れ、自分を攻撃してきたらどうするだろう? 人間が相反する感情で精神的に引き裂かれた時に発生するもうひとりの自分のことをバイロケーション(通称:バイロケ)というらしい。しかもバイロケは、自分の近くに現れ、自分を敵視し、自分が傷つくと傷付き、凶暴化しやすく、鏡には映らない。新感覚ホラーの世界観で未体験の恐怖を植え付ける『バイロケーション』は、結末の違う2タイプ『バイロケーション 表』と『バイロケーション 裏』が同時期公開されることでも話題となっている。

 


【STORY】
画家を目指す忍(水川あさみ)は、最後のチャンスであるコンクール目指してキャンバスに向かって格闘していたが、思うような絵が描けず日々自分を追い詰めていた。そんなある日、階下に引っ越して来た高村勝(浅利陽介が)挨拶に訪れる。そこから忍の人生は大きく変わっていった。

bairoke-3.jpgその後高村と結婚した忍は、ある日スーパーのレジで偽札を使ったとして捕まる。すぐさま加納(滝藤賢一)という刑事が現れ、忍は訳の分からぬまま飯塚(豊原功補)が主催する会へ連れて行かれる。そこで初めてバイロケの存在について知り、同じようにバイロケに苦しめられている仲間と出会う。それからというもの、凶暴なバイロケに怯える日々が始まるが、忍の場合、飯塚が忍を特別にかばうある秘密が隠されていた。その秘密の鍵を握るのが加賀美(高田翔)という少年だった。

 


 

bairoke-b2.jpg 

本作で主役を務める水川あさみは、軽妙なコメディが似合うキャラを一変させ、攻撃的なもうひとりの自分と闘うエキセントリックな女性像を繊細に演じていた。本人も、「いろんな仕掛けがありとても見やすい映画」で、バイロケと対峙するシーンでは「想像を膨らませて演じたので感情的に繋がっているのか不安だったが、完成版を見て安心した」と。また、「自分と同じ格好をした人間が襲ってくるので恐怖は倍増」。さらに共演者については、「わけ合いあいと楽しく過ごせたが、滝藤賢一さんは特に凶暴な役柄だったので、顔、声、演技のすべてが恐かった」とも。そして、「ある意味ひとりの女性の物語なので、女性ならではの視点と心情に寄り添いながら見てもらって、驚いてもらえたら嬉しい」と締めくくった。

 

(河田 真喜子)

 

 

 

ender-550.jpg『エンダーのゲーム』

SFT-550.pngSFT西尾監督-2.jpg『ソウル・フラワー・トレイン』西尾孔志監督インタビュー

(2013年 日本 1時間30分)
監督: 西尾孔志
原作:ロビン西『ソウル・フラワー・トレイン』
出演:平田満、真凛、咲世子、大和田健介、駿河太郎、大谷澪他
2014年1月18日(土)~第七藝術劇場、2月22日(土)~京都みなみ会館、3月8日(土)~神戸アートビレッジセンター
※第七藝術劇場公開時の西尾監督、キャストによる舞台挨拶、ゲストを迎えてのトークショー(連日)詳細はコチラ

公式サイト⇒http://www.soulflowertrain.com/

(C) ロビン西 / エンターブレイン

 

 

~大阪を舞台に描く究極の「子離れ」物語。懐かしくてロックな人情喜劇!~

 大学に通う娘のもとを久しぶりに訪れる田舎の父親の素朴さと、いつまで経っても子どもの頃の娘の面影を胸に抱く親心が胸を打つと同時に、昭和堅気の父親像が非常に懐かしく思える。監督は本作が長編劇場デビュー作となる西尾孔志。漫画家、ロビン西の短編をもとに、父親が旅の途中で出会った少女あかねとの珍道中や、美しく成長した娘の真実を受け入れるまでの葛藤を、時には滑稽に、時には切なく活写している。大阪映画でおなじみの新世界をはじめ、日劇会館(旧作邦画専門の二本立て映画館)や、ストリップ劇場など、大阪で生まれ育った西尾監督が表現する大阪は、そこに住む多様な人たちの息吹が溢れているのだ。少年ナイフが歌う主題歌『Osaka Rock City』にのって、父親役の平田満をはじめ、真凛、咲世子と関西出身の新世代実力派俳優がみせる人情劇。いつの世も変わらぬ「子離れ」「親離れ」がロック感溢れるテイストで表現されていたのも新鮮だった。
 本作の西尾監督に、デビュー作を人情喜劇にした経緯や、平田満さん演じる父親役に込めた狙い、大阪を舞台に映画を撮るにあたって表現したいことについてお話を伺った。


■『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』のように、伝統的な日本映画のエンターテイメントをまた観たかった。


SFT-3.png―――『ソウル・フラワー・トレイン』は西尾監督の長編劇場デビュー作であり、大阪を舞台にした昔懐かしい人情喜劇になっていますが、このような作品にしようと考えたきっかけは?
『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』など、自分が20代の時は古臭くてあまり観ようと思わなかった作品を今観ると、面白いんです。プロの職人の仕事として良くできているし、もちろん尖った部分はありませんが、すごく安定して面白い。僕は10代のとき撮影所で働いていたことがありました。深作欣二さんや工藤栄一さんの現場でも働きましたが、両監督作品のような日本映画のエンターテイメントがすごく好きです。丹念に作られていて、決してチープではない。こういう作品を自分なりに継承したい、ああいうエンターテイメントがまた観たかった、そもそも寅さんのような人情喜劇を劇場デビュー作で撮る人は珍しいでしょう。僕は今までインディーズで映画を作っていたので、インディーズ=ちょっと尖った感性の映画というイメージがあるかと思いますが、逆に日本の伝統的なエンターテイメント映画を目指した人間喜劇にしました。

―――ロビン西さんの原作を映画化しようと思った理由は?
漫画関連イベントを手がけている巴山(はやま)君と芸術創造館勤務時代の上司の前田さんと僕との三人でALEWO企画というユニットを作りました。映画の西尾、漫画の巴山、演劇の前田というそれぞれの色分けができているユニットなので、それぞれの強みを生かした作品づくりを狙い、その第一弾は僕と巴山君の好きな漫画家ロビン西さんの作品で、大阪が舞台の『ソウル・フラワー・トレイン』にしようとすんなり決まった感じです。既にロビン西さんと交流のある巴山君と一緒に映画化のお願いをしにいき、快諾していただきました。

SFT-5.png―――今までの西尾監督作品も、女の子が可愛かったですが、今回は本当にどの女の子も魅力的でした。
女性キャストたちはルックスもすごくいいのですが、お芝居もうまいですね。配役の面では前田さんの役者関係の人脈を活かして、大手プロダクション所属の役者さんにオーディションを受けに来てもらうことができました。皆さん東京で活動している方ですが、オーディションの条件が「関西弁がしゃべれる人」ということで、関西出身者が揃いましたね。

 

■原作と映画の違いに注目!ロビン西さんの原作があるからこそできたオリジナルストーリー。


―――西尾監督は共同脚本も手がけていますが、原作と変えようとした部分もたくさんあったのでは?
原作は今絶版中なので、『ソウル・フラワー・トレイン』劇場用パンフレットに原作を全て掲載しています。パンフレットを見ていただければ、原作を映画でどういう風に変えたかという部分にかなり驚いていただけると思います。原作と映画の違いは注目して観ていただきたいですね。映画の半分はオリジナルストーリーですから。

―――なるほど。それは鑑賞後に原作も読みたくなりますね。具体的に、原作からどのようにして脚本を膨らませていったのですか?
ロビン西さんに、こういう風に変えていきたいという話をしたら面白いと思っていただき、僕と同じく脚本の上原さんとが何度か書き直したものを、二、三度ロビン西さんに見ていただき、意見をもらいました。原作者は普通映画化されるとき、脚本にはノータッチのケースが多いですが、今回はロビン西さんも一緒に作ってくださり、すごくこの映画を気に入ってくれています。東京で上映した際は、ゲストでもないのに後半毎日のように上映に来てくれましたし、原作者にそこまで気に入ってもらうのは、映画を作った者の冥利に尽きます。ロビン西さんの持っているテイストや、原作の空気はしっかり残しています。ロビン西さんの原作があるからこそ、ノリノリでオリジナル部分を膨らませた感じですね。

 

■父親のキャストイメージは「笠智衆」。父親役平田満さんのアイデアを取り入れた、子離れする親のラストシーン。


SFT-4.jpg―――クライマックスでストリッパーの娘を前にした平田満さん演じる父親の行動は、本当に勇気がありますね。あんな勇気を出せる父親はなかなかいないなと感動しました。
原作では様々な展開があった上で最後は色紙が家に飾ってあるんです。原作の肝の部分でもあるので脚本もそのまま使っていたのですが、平田さん自身が娘を持つ父親でもあるので、映画の父親の決断の気持ちが分かるからこそ、最後は子離れをしっかりしなければいけないのではないかと提案されました。「色紙を持って帰るということは、まだ子どもにこだわっているということなので、この色紙をどうにか処分できないでしょうか」とおっしゃってくださったので、それらの話を伺った上で僕が平田さんに提案したのは、船の上で捨てたのか忘れたのか分からないような曖昧な形で色紙を置いていく形でした。その色紙を風がさらって、もう戻らないような感じで表現しています。平田さんも脚本にアイデアを下さるような現場でしたね。

―――脚本にも平田さんはアイデアを出されたとのことですが、他に平田さん起用の決め手となった点や、平田さんが演じる父親像に託したことは?
父親は原作の通りの描写です。僕の中でこの作品のことを考えた時パッと頭に浮かんだのが小津安二郎の『東京物語』でした。本作も親が離れて暮らす子どもを訪ねていく話ですから、実はキャストイメージのところに「笠智衆」と書いていたんですよ(笑)。笠智衆さんがあの娘の姿にドタバタするというイメージが私の頭の中にあって、今ああいう頑固さと人としての純粋さを持った父親を誰が演じることができるかと考えたとき、平田満さんがピッタリはまりました。

 

■平成のじゃりんこチエ、花時計のストリップ劇場とダンサーたち、串カツ屋の在日コリアン客。大阪の下町を舞台に、多様な人間が住む均一的ではない魅力を描く。


SFT-2.png―――ナビゲーターのあかねというキャラクターは、大阪の子らしいイキイキとカラフルな感じが出ている部分とナイーブな部分の両面が見えていました。
大阪という場所でポジティブかつ行動力があって、しっかりしている子というと、昔でいえば「じゃりんこチエ」ですね。また山本政志監督の『てなもんやコネクション』(90)でもナビゲーターをやっているのは女の子なんです。あかね役を演じている真凛を見ていて「じゃりんこチエやっているなと」思っていました。

―――大阪映画だけあって、定番の大阪観光地を西尾監督流に入れ込んでいますが、地元の人間として逆に抵抗はなかったですか?
前半はべたべたな大阪観光ですよ。20代のときは大阪のベタベタな描写や大阪の観光地を撮るのを避けていたのですが、大阪以外の人からみればそんなこだわりは全く関係ないですよ。例えば『ローマの休日』で全くローマの観光地が映っていなかったら、つまらないじゃないですか。串カツ屋の「二度づけ禁止」なんて大阪では本当に当たり前のことなのですが、東京のお客様には「串カツ屋ってあんな感じなんですか?」と言われます。

―――確かに、登場人物は皆、人間くさいキャラクターですね。
例えばストリップ劇場の前の串カツ屋で劇場のことを紹介するお兄ちゃんも韓国人ですが、大阪の下町を描いて、日本人以外の人が出てこないのは不自然な気がします。在日コリアンの人を社会問題として取り上げるのではなく、普通に街で生きている人として登場するような話にしたかったんです。アジアの多様性や在日問題を掲げるのではなく、「アジア一のあじや!」みたいなしょうもないダジャレで終わらせたかった。その方が僕の知っている大阪の感じがでます。自分の周りに普通に多様な人間が住んでいる状況が、大阪の下町を舞台にすると描きやすいです。均一的ではない魅力ですね。

 

■もともと人間は愚かだけれど、そこが可愛いわけで、ダメな部分もいい部分も含めて肯定したい。


SFT西尾監督-1.jpg―――西尾監督が今までに影響を受けた監督は?
三人挙げると、一人目は黒沢清監督です。ハリウッド映画よりも予算が少ない日本映画にあって、ドラマチックに映画を語る術が非常に素晴らしいです。特にVシネマ時代のカット割りの影響をかなり受けていますし、今回も東京上映時ゲストに来ていただきましたが、「国際映画祭を狙ってアート的な映画を撮る若い人が増えているけれども、西尾君はジャンル映画を作る担い手になってください」と言ってくださいました。作品も含めて黒沢監督にすごく好意的に受け取ってもらえたのがうれしかったです。
二人目は林海象さんです。テレビドラマ『濱マイク』シリーズや『弥勒』(13)の監督もされていて、京都造形大学では私が講師、林さんは上司の学科長でした。映画を作るだけではなく、観客にどう届けるかといった上映まで含めた一つのエンターテイメントであることを教えてもらった気がします。
三人目は森崎東監督です。東京で森崎監督の特集上映が組まれる前年(08)に、京都造形大学で森崎東映画祭を学生と一緒に企画し、作品選定をさせてもらいました。森崎監督は日本の娯楽映画の担い手の一人であるわけですが、そこに描かれる人物像が一癖も二癖もあり、こちらの予想を裏切る複雑で入り組んだ人間であるところが、より感動を呼びます。

―――主題歌の『Osaka Rock City』や、登場人物の心情に寄り添うようなアコーディオンなど、音楽にも注目が集まる作品ですね。
少年ナイフ、赤犬のクスミヒデオさん、DODDODOさんと、今回はほとんど関西のミュージシャンの方ばかりです。僕がもともと大阪のライブハウスで音楽を聴くのが好きな人間なので、彼らと一緒に作品を作りたかったんですね。かんのとしこさんが弾いているアコーディオンのメロディーは、映画完成後にクスミヒデオさんが作曲してくださいました。クスミさんは今後も関西の映像音楽の重要なキーマンだと思います。ALEWO企画の前田さんが、かつての角川映画のように主題歌のある作品にしたいということで、大阪の映画だからロックテイストの曲を、少年ナイフさんにこの映画のために作っていただきました。今回、みなさんの音楽が本当によく映画にハマったと思います。

―――本作をどんな方に観ていただきたいですか?
この作品は映画を作っている学生や夢を追いかけている若い人と、そういう子どもを都会に送り込んでいる親御さんたちに見てほしいです。子どもがやっていることを認めるというのは、とても普遍的なことで、『ソウル・フラワー・トレイン』は子どもを一人の人格として認めて子離れをする話だと思います。30代後半以上の人たちの涙を誘うところもそこですね。また結構若いお客様から「久しぶりに実家に帰りたくなりました」と言ってもらい、うれしかったです。

―――最後に、これから大阪でどんな映画を撮っていきたいですか?
大阪に限りませんが、正義や悪、良識などある一辺倒の価値観に加担するようなことはしたくない。愚かな部分や汚らしい部分も含めて人間なのです。でもそういう部分はどんどん隠されてきているし、「人はこうでなくてはならない」とこだわっているから、逆に悪ぶることが受けたりします。もともと人間は愚かだけれど、そこが可愛いわけで、ダメな部分もいい部分も含めて肯定したい。色々な人がたくさんいるという状況が好きです。僕は、色々な人がいて、それぞれのペースで生きているのが街だと思っていますから。
(江口由美)

newworld-550.jpg『新しき世界』

 

mijimai-550.jpg『母の身終(みじま)い』

 

gakutaiusagi-550.jpg『楽隊のうさぎ』鈴木卓爾監督、磯田健一郎音楽監督インタビュー
(2013年 日本 1時間37分)
監督:鈴木卓爾 プロデューサー・監督補:越川道夫
音楽監督:磯田健一郎 
原作:中沢けい『楽隊のうさぎ』新潮文庫刊
出演:川崎航星、宮崎将、井浦新、鈴木砂羽、山田真歩他
2013年12月14日(土)~ユーロスペース、新宿武蔵野館、12月29日(土)~第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、2014年1月11日(土)~京都みなみ会館、2月8日(土)~神戸アートビレッジセンター他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.u-picc.com/gakutai/

(C) 2013『楽隊のうさぎ』製作委員会


~日々生徒たちと接しているところでしか台本も音楽も生まれてこない。
生徒たちとの「キャッチボール」から生まれた青春音楽映画~ 

gakutaiusagi-s3.jpg瑞々しい中学生たちが奏でる吹奏楽部の演奏は、決して完璧ではないけれど、心を打つ「音楽の力」がみなぎっている。中沢けいの人気小説『楽隊のうさぎ』を『ゲゲゲの女房』の鈴木卓爾監督が映画化。楽器の街、静岡県浜松市を舞台に、吹奏楽部員を一般の中・高校生からオーディションで募集し、映画のために一から作り上げられた花の木中吹奏楽部と、主人公克久の成長ぶりが、寄り添うような映像で綴られている。

主人公克久を吹奏楽部へと誘ううさぎ役に山田真歩、花の木中吹奏楽部顧問の和田勉役に宮崎将が扮し、ファンタスティックに、時には在りし日のゆったりとした吹奏楽部の雰囲気を醸し出しながら生徒たちに音の楽しさを伝えていく場面も微笑ましい。また、クライマックスの定期演奏会演奏曲『Flowering TREE』(オリジナル曲)をはじめ、克久が吹奏楽部を意識するきっかけになった勧誘演奏に『星条旗よ永遠なれ』、新入部員が入ったばかりで初見演奏させられた『ファランドール』、克久がコンクールメンバー落ちしたときの演奏曲『吹奏楽のための第一組曲』など、劇中の音楽シーンはすべて実際に部員たちが演奏した生音が使用されており、音楽映画として台詞同様彼らが奏でる音にも注目したい。

鈴木卓爾監督と音楽指導やオリジナル曲作曲を担当した磯田健一郎音楽監督に、青春音楽映画を実際の学生を集めて作り上げたプロセスや、意識したこと、音楽指導でのこだわりやオリジナル曲誕生秘話について話を伺った。


■試行錯誤を重ねた生徒たちとの撮影、音楽指導

gakutaiusagi-s1.jpg───今回は主役を含む中学生のキャストを全員オーディションで選び、一から花の木中学校吹奏楽部を作り上げました。今までの映画作りと違う点や、苦労した点は?
鈴木:今回の映画は、「浜松で映画を作りたい」という持ちかけがあったことから始まりました。吹奏楽部の物語なので、出演者はプロの俳優ではなくむしろ普段学校に通って、家で家族と暮らしている素人の学生さんたちに出演してもらえないかと考えました。プロの俳優さんは台本の流れを掴んで演技をしていきますが、10代の人たちが主人公の物語の場合、今しか映りようのない彼らという生々しいものを物語に入れたかったのです。しかし僕自身吹奏楽部の経験がなく、本作の重要な一面である音楽映画をどうやって作っていけばいいのか全くしらないままスタートしたので、彼らの生々しいものを、しかもアフレコではなく彼らが出した音を使いたいということがどれだけ大変かということを知りませんでした。生々しいものを撮るために、彼らにそこに居てもらうためにはどのように会話したり、監督として演出しなければいけないのか。その問題に突き当たりながら、スタッフみんなで作りました。

───磯田さんは、音楽監督として生徒たちの音楽指導や、オリジナルの楽曲も作られたそうですね。
磯田:オーディションで僕たちが選んだ子ども達は特に吹奏楽の経験は問わず、「『楽隊のうさぎ』に出演したい人は来てください」という条件で応募してくれた人の中から選んでいます。学年も経験もバラバラで、楽器の経験のない子もいました。最初の夏の撮影では普通の映画のアプローチを行っていました。しかし、実際に演奏をしている姿やしゃべっている顔、出ている音を使いたい。僕たちの実際目の前にいるイキイキとした子ども達を映像に撮りたいと越川プロデューサーに言われ、改めて夏の間撮影したラッシュを見ると、子どもたちが窮屈そうに見えて、僕たちが撮りたいものではないことに気づきました。そこで最初あった脚本は一度忘れて、一からやり直しました。

 

■原作とは違う展開を考えた理由と、映画版ならではの吹奏楽顧問「勉ちゃん」の造詣

gakutaiusagi-4.jpg───花の木中吹奏楽部を一から作るようなものだったのでしょうか?
磯田:どこにてもある普通の吹奏楽部を作る、もしくはそれに近付くようにやろうとしたのですが、8月の撮影ではまだ人間関係ができていませんでした。これではダメだと脚本が書きなおされる一方で、僕はオリジナル曲を書こうと思ったのです。原作では吹奏楽コンクールで全国大会に行く話になっていますが、それはやめました。震災の後に、子どもたちが他の子ども達に勝って喜び、自分たちは特別だと思うような物語を果たして紡いでいいのかという問題意識があったのです。普通の子ども達同士の有り様を撮ることは最初の撮影時点でも固まっていました。また吹奏楽部の顧問、森勉先生(以降勉ちゃん)の造詣も原作ではコンクールに一直線の猛烈型でしたが、映画ではひっくり返しています。

gakutaiusagi-3.jpg───吹奏楽部の熱血教師のイメージとは一線を画した、ふわりとした印象の勉ちゃんのキャラクターはユニークでしたね。
磯田:勉ちゃんは音楽が好きで、吹奏楽がずっと好きだったけど、一度やめてずっとチェロを弾いていた。学校の吹奏楽部の顧問になり、子どもたちが演奏しているのを見ている中で、また自分も子ども達の中に入りたくなるといった造詣にどんどんとしていきました。
鈴木:宮崎さんには磯田さんが子ども達と一緒に音楽室でやっているのを見てもらっていました。
磯田:宮崎さんは最初から必ず音楽室にいるんですよ。職員室でのシーンなどの出番が終わると、必ず音楽室にやってきて、ピアノの前で座っていました。誰も頼んでいないのに、ずっとその場にいたのです。

───練習をずっと宮崎さんがご覧になっていたということは、磯田さんが勉ちゃんのように指導されていたのかもしれませんね。
磯田:「僕自身が勉ちゃんだったらどうするだろうか」と思いながら、生徒たちの合奏やパート練習をやりはじめました。僕も吹奏楽の経験者として言いたいことや伝えたいことがいっぱいあったのですが、だんだんそれはどうでもよくなり、まずは音と戯れ、一緒に音楽で遊ぶということをやろうと思ったのです。学生時代指揮者だった経験を思い出しながら、「後はやってね」という風に生徒たちに投げかけました。すると、合奏の時に「チューバが音出てない!」と生徒たちが文句を言い始めたり、食事の時間になれば仲良しグループができて遊び始めるということがリアルに起こり始めました。学年や音楽キャリアを超えて本当に彼らが花の木中学校吹奏楽部になるのを感じながら、僕はオリジナル曲を脚本でいう「あて書き」していきました。

 

■生徒たちの生の言葉や練習の様子を台詞、オリジナル曲にフィードバック 

gakutaiusagi-s2.jpg───ティンパニーのドンという音から始まる曲はなかなかありません。「あて書き」とおっしゃった意味がよく分かります。 
磯田:最初に克久君の「ドン」というティンパニーの音を書くと、その後に何がくるかといえばファンファーレしかないのでトランペットや他のパーカッションを演奏する子の様子を想像しながら書いていきます。それを全部設計しながら練習するので、「こいつうまくなったな、ちょっと譜面変えて難しいことをさせてみよう」など、練習の様子を譜面にどんどんフィードバックさせていきました。同時に練習中生徒たちにさせた中から生まれた生の言葉を、シナリオにもフィードバックしていきました。こちらから投げたボールに対して、どう返すか。そういうキャッチボールを生徒たちと一緒にやるわけです。

───具体的にどういうやり方で生徒たちの生の言葉をフィードバックしていったのですか?
鈴木:コンクール出場メンバーから落ちて、廊下で落ち込む同級生に、「バーカ、がんばれ!」と同学年の女の子が声をかけていくシーンがありますが、台本の稽古ではなく、ワークショップのような形で投げかけた中から生まれました。「コンクールメンバー落ちして廊下に立っているよ。一人ずつ、声かけられるかどうかやってみようか」というシチュエーションだったのですが、越川プロデューサーから「触ることはやらないで」と言われて、悩んだ後に「バーカ、がんばれ!」という言葉が出た時はプロデューサーも涙目でした。冬のワークショップで出たその言葉を台本に入れ、翌年のゴールデンウィークの本番で使いました。
磯田: 「僕らはこういう方向で作りたいのだけどやってみて」と生徒たちに投げてみて、返ってきたことを拾い上げて、また投げ返す。それを全て撮ったのがこの映画です。僕の仕事で言えば、音楽シーンの演出だけでなく、吹奏楽部を作っていく中で、その奥にドラマがあるわけです。練習の前でふざけているときと、カメラが回り始めた時と同じテンションができなかったら、この映画はダメだということを僕たちは夏の撮影で学びました。どうやったら具体的に撮れるのか常に模索していましたね。
鈴木:自然さのある撮り方を考えたら、盗み撮りすることもできたでしょうが、それは意味ありません。僕らの前に、ちゃんと吹奏楽部があることが目標としてあり、日々接しているところでしか台本も何も生まれてこなかったのです。まさに生徒たちとのキャッチボールの応酬です。全体練習で集まれる限られた濃密な時間に、リハーサルも意識させない形で行っていました。僕が一番キャッチボールが下手だったので、他の皆さんに救ってもらって形にしていきました。 

gakutaiusagi-2.jpg───主役に選ばれた川崎航星君は映画初主演ですが、役作りや撮影での様子はいかがでしたか? 
鈴木:川崎君は、最初にオーディションで会ったときに克久にすごく重なる部分があって、自己主張はしないけれど、透明感があって、人の話やしぐさを見ていたんですね。満場一致で決まったのですが、最初に花の木中吹奏楽部で集まった時に「僕はどの役をすればいいですか?」と聞かれ、克久役と告げると主役ということでショックを受けていました。プレッシャーを感じていたのでしょうが、ご飯の時間などみんなと仲良くなっていくうちに、わざとふざけて皆を笑わせるようなキャラクターで、彼の笑顔がとても良かったんです。そんないい笑顔をする子が克久のような役をしようとするには、川崎君なりに演じているわけですよね。相当自覚的に自分を追い込んで、関係性を忘れないようにしながら、休憩時間にどれだけ弾けられるか。そんな調整を自分の中でしていたんじゃないでしょうか。
磯田:川崎君は音楽経験はなかったですが、独特の集中力がありました。今回彼にはリアルな吹奏楽感を出すために、僕が教えるのではなく、先輩役の子に教えてもらうようにしました。彼は元々持っているビートは正しくて、僕は1年半一緒にやってきた中で「おまえ、リズム感いいんだぞ。自覚してないだろ?」とだけ伝えて、後は指導は彼女たちに任せていました。定期演奏会の本番でティンパニーを叩くシーンの前に、こういう持ち方をすればいいというのだけは、プロのティンパニー奏者の指導を入れましたが、それ以外は全部自分で練習していましたね。演奏会のシーンは最後の撮影でしたが、日頃は表情を崩さない川崎君が滝のようにワーンと泣いて、相当自分を追い込んでやっていたんだと思います。

 

■『ベルリン 天使の詩』の天使のような、どこにでも偏在している「うさぎ」の存在

───この物語で山田真歩さん演じるうさぎの存在は、ファンタジーの要素を加える一方、主人公克久を音楽室に誘う重要な役割をはたしています。このうさぎに込めた想いやうさぎで表現しようとしたことは?
鈴木:原作小説に出てくるうさぎは、克久が公園で最初に見かけ、これから行く中学校が嫌だなと思っている克久の中に住み込んでいるような内なる存在でした。映画化するにあたって、ファンタジーは僕の映画的な嗜好として好きな場面でもあるので、俳優が演じ、音楽室の空間に同時に存在してほしかったのです。しかし、ファンタジーの枠組みの一方で、生々しいやりとりをしていかなければ、生徒たちを撮れないことに気付いたとき、うさぎの意味をきちんと捉えていかないと、子どもたちがきちんと映らなくなる危機を迎えました。越川プロデューサーに「『ベルリン 天使の詩』で、天使は人が思っていることをずっと寄り添って聞いている。あちこちにいる天使の一人がうさぎと重なるのかもしれないね」と言われハッとしました。克久自身にしか見えないという本作の枠組みはあるけれど、ティンパニーを教えてくれている園子先輩もひょっとしたら1年生のときに見えたかもしれない。どこにでも偏在している、一人一人を見守っている存在ではないかと、撮影後半に入って見つけていった感じです。克久にしか見えていないようなうさぎが、定期演奏会の前、誰もいない音楽室で、一人一人の椅子を触っていき、「うさぎが皆にもきっといるのだ」と暗示しています。うさぎ役の山田真歩さんは監督からも明確な指示もない中で、自分で動きを全部考え、現場でうさぎを完成させてくれました。

───最後に、これからご覧になるみなさんに一言お願いします。
鈴木:僕たちはこの映画という日常じゃないものを、普段学校に通っている子どもたちを集めて一緒に映画に参加した時間を共有しながら撮らせてもらうという形にしました。その中で彼らが森先生とやっている音楽は、世界中にそこだけのものです。また先生と彼らの音楽や、彼らの笑顔や彼らの時間というのは、彼らだけにある特別なものだと思うのです。そこでやっているものの中から特別なものをふと感じられる映画として、みなさんと出会えたらとてもうれしいと思います。
磯田:僕たちが子どもたちと一緒に過ごした時間が定着されていて、イキイキとした何かをご覧いただけたら、それが一番うれしいです。

(江口 由美)

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