「AI」と一致するもの

 

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11月3日(土)の閉幕に先立ち、11月2日(金)六本木EXシアターにて第31回東京国際映画祭アウォードセレモニーが開催され、コンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。
 
 
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今年の東京グランプリに輝いたのは、最優秀脚本賞Presented by WOWOWとのW受賞となったフランス映画『アマンダ』。パリ暮らしの青年が、ある日公園で起きたテロで姉をなくし、残された姪っ子、アマンダの保護者になる道を選ぶか否かで葛藤する姿、母のいない日々を親戚に預けられながら懸命に生きようとするアマンダの姿を描いたヒューマンドラマだ。(来年初夏公開予定)
 
 
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審査員特別賞は、家族を養うためにある決断をした地主の父親が、次々に自分の大事なものを失う悲劇を、19世紀のデンマークの農地を舞台にリアリティ溢れるタッチで描いた骨太のデンマーク『氷の季節』が、最優秀男優賞(イェスパー・クリステンセン)とのW受賞となった。
 
 
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最優秀監督賞は、最優秀女優賞(ピーナ・トゥルコ)とW受賞となったイタリア映画『堕ちた希望』のエドアルド・デ・アンジェリス監督が受賞を果たした。
 
最優秀芸術貢献賞には、レイフ・ファインズ監督の『ホワイト・クロウ(原題)』(来年公開予定)が堂々の受賞。そして、注目の観客賞には、稲垣吾郎主演の阪本順治監督最新作『半世界』が選ばれた。
 
その他、受賞結果は以下の通り。
 

<コンペティション部門>

【東京グランプリ】『アマンダ(原題)』(ミカエル・アース監督)
 
【審査員特別賞】『氷の季節』(マイケル・ノアー監督)
 
【最優秀監督賞】エドアルド・デ・アンジェリス監督(『堕ちた希望』)
 
【最優秀男優賞】イェスパー・クリステンセン(『氷の季節』)
 
【最優秀女優賞】ピーナ・トゥルコ(『堕ちた希望』)
 
【最優秀脚本賞】『アマンダ(原題)』(脚本:ミカエル・アース、モード・アメリーヌ)
 
【最優秀芸術貢献賞】『ホワイト・クロウ(原題)』(レイフ・ファインズ監督)
 
【観客賞】『半世界』(阪本順治監督)
 
 

<日本映画スプラッシュ部門>

 
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【作品賞】
『鈴木家の嘘』(野尻克己監督)
 
【監督賞】
武正晴(『銃』)、田中征爾(『メランコリック』)
 

<アジアの未来部門>

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【作品賞】『はじめての別れ』(リナ・ワン監督)

【国際交流基金アジアセンター特別賞】ホアン・ホアン監督(『武術の孤児』)
 
 
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【東京ジェムストーン賞】木竜麻生(『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』)、リエン・ビン・ファット(『ソン・ランの響き』)、カレル・トレンブレイ(『蛍はいなくなった』)、村上虹郎(『銃』)
 
 

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

 

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《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》スペシャルトーク
中村扇雀、“美しさは武器!”『恋や恋なすな恋』

(2018年10月27日(土)京都歴史博物館にて)
ゲスト:中村扇雀 聞き手:飯星景子  (敬称略)



histrica-恋や恋なすな恋-500.jpg今年9月のベネチア国際映画祭でプレミア上映され世界を驚かせた『恋や恋なすな恋』(1962)4Kデジタルリマスター版が、《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》のオープニングを飾った。内田吐夢監督が歌舞伎の様式美と芝居を融合させ、さらにアニメーションや義太夫や清元など当時の名人たちを贅沢に配した極彩色豊かでファンタジックな平安絵巻。


ご存知、陰陽師・安倍晴明の伝説を物語った、陰陽師と狐の異類婚姻譚の浄瑠璃『葛の葉』と清元『保名』を基に依田義賢が脚本化。56年経った今でも、その優美さと斬新な映像美に圧倒され、また名場面「子別れ」のシーンでは、白狐の哀切極まりない姿に涙なくしては見られない名場面となっている。

『恋や恋なすな恋』
 

主演の安倍保名を演じるのは「銭形平次」で有名な大川橋蔵。六代目菊五郎の養子でもある大川橋蔵は、歌舞伎の舞台に立ちつつ映画界でも大活躍。生真面目ゆえに正気を失う保名の悲哀を全身全霊で表現し、清元『保名』の踊りもさすがである。そして、榊・葛の葉・白狐のおこんの三役を見事に演じきったのは、山田五十鈴の娘である瑳峨三智子。気品ある姫・榊、可憐で優しい葛の葉、そして葛の葉に化けた白狐役では妖艶さと母性愛あふれる演技で他を圧倒。
 



「恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」

中村扇雀、歌舞伎と映画の深い結びつきを語る

 

上映後のスペシャルトークに中村扇雀さんが登壇。10月27日は京都南座新開場記念のお練りが祇園界隈で開催され、扇雀さんも参加されていましたが、終了後当映画祭に駆けつけて下さいました。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-1.jpg映画を観た感想は?
「大川橋蔵さんの舞台をそのまま映像にするとは歌舞伎をよく理解してないと撮れないと思います。内田吐夢監督ならではの演出ですね。タイトルも清元の謡(うたい)から付けられたということで、とても驚きました。」


歌舞伎の女形について?
「独特な雰囲気の歌舞伎の女形を女優が演じることに興味津々でした。逆に歌舞伎の良さを気付かせてくれたように思います。」


大川橋蔵さんの『保名』について?
「私も早く『保名』を演じたいです。その時には七代目中村芝翫さんとこの映画の大川橋蔵さんをお手本にしたいと思います。阿倍保名の狂乱後の舞は、せつなさと色気が必要ですが、元々歌舞伎役者の橋蔵さん(六代目菊五郎の養子)だからできた役ですね。橋蔵さんは映画に出られるようになってからも舞台に立っておられ、歌舞伎と縁を切りたくなかったのでしょうねえ。大川橋蔵さんご自身が、演技力を発揮できる作品をと望んでおられたようです。」


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-3.jpg歌舞伎役者と映画俳優について?
「大正10年前後だと思いますが、二代目鴈治郎の青年歌舞伎では、初代鴈治郎の弟子たちの中に、市川歌右衛門さんや嵐寛十郎さんや長谷川一夫さんがおられまして、皆さん腰元として鴈治郎の後ろに座っていたそうです。錚々たる名優が腰元の格好で並んでおられたのですから、今思うと信じられない舞台ですよね。

関西では、父親の舞台を観て習おうとすると、「真似ばかりせんと、自分で工夫しろ!」とよく怒られます。江戸歌舞伎では、父の芸風に似てくると皆さんに褒められるのですが…。『藤十郎の恋』の長谷川一夫さんの舞台を観て、鳥肌が立ちました。衣装をお借りして、真似しました。


内田吐夢監督は歌舞伎ベースの映画を4本撮っておられ、アニメーションを使ったりして描写がとてもユニークですよね?
「映画はよく観ているのですが、「このために作ったのでは?」というようなセリフやシーンを見つけるのが楽しみなんです。でも、本作は全体にそれが散りばめられているようで、見所が多いですね。特に安名の描写が繊細で、発想も凄いし、斬新ですよね。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-2.jpg見所について?
文語体のセリフは、普通リアリティがなく分かりにくいのですが、本作では役者の演技力でリアルな感情を感じられます。よく、演じるにあたって、「その役の性根(お腹)が一番大事」と教えられました。心情がリアルに感じられる部分を参考にしております。

歌舞伎では『葛の葉の段』を演じられることが多いのですが、白狐の子別れのシーンが有名ですね。義太夫も清元も当時の名人が担当されていて、内田監督は盛り込みたい事をすべて叶えておられたように感じます。」


口筆書きについて?
「白狐が口に筆をくわえて障子に書くシーンがありますが、舞台でもよくやります。墨が流れないよう、紙を選んだり、いい墨汁に松脂を混ぜて作ったものを使ったりと工夫します。赤子が泣くので抱きかかえながら口にくわえて書かなければならないのです。」


山田五十鈴さんの娘の嵯峨三智子さんについて?
「美しいことは武器だなと思いました。山田五十鈴とはよくお食事をご一緒させて頂きました。私のことを「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」って呼ばれるものですから、「僕、男です!」といつも言い返していました(笑)。山田五十鈴さんは、お芝居も殺陣も踊りも和楽器演奏も何でもお出来になる方で、私は「山田五十鈴になりたい!」と思っていました。嵯峨三智子さんも母親に近づきたかったのはないのでしょうか。ところどころ、山田五十鈴さんを感じました。」
 


『恋や恋なすな恋』

『恋や恋なすな恋』

【あらすじ】
平安時代、月を射抜くような白矢雲がかかり、東国では平将門の乱が勃発、富士の山が火を噴き、都は騒然とした空気に包まれていた。そこで宮廷陰陽師の加茂保憲が急ぎ参内しようとするが暗殺されてしまう。保憲には安倍保名と芦屋道満という二人の弟子がいて、後継者には自らの名「保」を与え、また娘の榊と恋仲の保名をと考えていた。ところが、それを妬んだ道満と保憲の妻が共謀して保憲と榊を死に追いやり、秘伝の「金烏玉兎集」を奪おうとするが、怒りと悲しみのあまり正気を無くした保名に逆襲されてしまう。


一連の罪を着せられた保名は、「金烏玉兎集」を懐に面影を求めて野谷をさまよい、和泉の国で榊の妹の葛の葉に出会う。榊に瓜二つの葛の葉を見て「榊は生きていた!」と喜ぶ保名。ある日、狐狩りに遭遇した保名と葛の葉は、矢を射られた老婆を助ける。実はその老婆は信太森に住む白狐だった。白狐は助けられたことを恩義に感じ、孫娘のおこんに保名の保護を命じる。「決して、人間と情を交わすことなかれ」という狐の掟を伝えて…。その後、おこんは役人に襲われた保名を助け、葛の葉に化けて傷を癒し、子まで成す仲となる。狐の掟を破ってまでも保名を愛し、子供を慈しむおこん。親子三人幸せに暮らしていたところに、和泉の庄司夫妻と葛の葉が訪ね来て……。

おこんは、身を切られる思いで、「恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の 恨み葛の葉」と障子に書き置きして姿を消す。
 



1962(昭和37)年東映京都作品/109分・カラー
製作:大川博 企画:玉木潤一郎 脚本:依田義賢 
監督:内田吐夢 
出演:大川橋蔵(阿倍保名)、瑳峨三智子(榊の前・葛の葉・狐葛の葉)、宇佐美淳也(加茂保憲)、河原崎長一郎(櫻木の宮)、加藤嘉(庄司)、原健策(藤原仲平)、柳永二郎(藤原忠平)、日高澄子(後室)、毛利菊枝(狐の老婆)、松浦築枝(庄司の妻)、天野新二(芦屋道満)、山本麟一(悪右ヱ門)、明石潮(勅使)、高松錦之助(治部卿)、小沢栄太郎(岩倉治部大輔)、薄田研二(狐の老爺)、月形竜之介(小野好古)

©1962 TOEI COMPANY, LTD.

http://historica-kyoto.com/films/special/the-mad-fox/


(文・写真:河田 真喜子)

 

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自分の十年後はなんとなく予測できても、日本の十年後は?と問われると、少し悲観的な気持ちになってしまう人が多いのではないだろうか。超高齢化社会、バブル世代が還暦を迎えるような時代の日本は一体どうなるのか?
是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務め、新鋭映画監督5人により日本の十年後を描いたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が、11月3日(土・祝)からテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開される。
 
日本、タイ、台湾の三カ国による国際プロジェクトである『十年』。日本版では、徴兵制、AI教育、安楽死、放射能問題、デジタル遺産というテーマのもと、現在と同じように葛藤を抱えながら生きる大人や、体制に抗いながら自分の切り開こうとする子どもたちの姿が描かれる。5本のオムニバスの中から、AIが教育する十年後を描いた『いたずら同盟』の木下雄介監督にお話を伺った。
 

 

■自分と世界との距離感を映画で表現した初長編『水の花』。

―――木下監督は大学在学中に応募した作品がPFFの準グランプリを受賞、PFFスカラシップに選ばれ、05年に完全オリジナルの初長編『水の花』を撮っておられます。この作品も『いたずら同盟』と同様、子どもが主人公でしたね。
木下: 『水の花』は、主人公は中学生の女の子で、自分の親に対し、ある種憎しみのような感情を抱いています。大人の世界に対して拒絶していくのですが、「大人は判ってくれない」ことを判っていくラストになっています。当時、僕は24歳で、自主映画出身の自分が長編1本目を撮らせていただく中で、自分と世界との距離感を映画で表現していました。
 
―――その次は13年の短編『NOTHING UNUSUAL』ですが、かなり間が空いていますね。
木下: 『NOTHING UNUSUAL』はアップリンクさんの企画に関わらせていただいたものです。『水の花』以降、自分の中では映画をやっているつもりなのですが、脚本を書く時も自分の内側に入り込み、7年かけて、自分と自分の周りにいる若者の青春群像劇を書いていたのです。『NOTHING UNUSUAL』は、2ヶ月後に上映という超スピード制作で、日食が起こる日を舞台に、30歳近くになっても定職につかず、夢を目指している青春の終わりを描いた青春群像劇でした。『NOTHING UNUSUAL』を撮り終わり、もう一度映画を勉強したいという思いが強くなって、映像の仕事やテレビの仕事にも携わるようになったのです。今回の『十年』は、新たに映画を作りたいと動いていたタイミングで声をかけていただきました。
 
―――元になっている香港版の『十年』をご覧になった感想は?
木下: 香港版の場合は、中国政府が意識をする対象として共通にあり、怒りに満ちた映画になっています。実際に作品を撮っている時に雨傘革命が起こり、国全体がそのことを元に映画と向き合えたという部分では、羨ましさも感じました。
 
 

■AIと、教科化された道徳を組み合わせ、子どもたちがどのように生きるかを描く。

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―――今回、日本の「十年後」を描く企画を打診された時、どう感じましたか?
木下: 実は僕の子どもが産まれた三日後にこのお話をいただいたので、十年後だと我が子は10歳だなということはすぐに思い浮かびました。後、以前からAIを映画で描いてみたいと思っていたのです。道徳が教科化されますが、道徳は本来、国が指定したり、先生に価値基準を教えられたりしながら植え付けるべきものなのか。自ら行動し、間違えてもそこから行動を起こすことで、価値基準を知っていくものではないかと思うのです。そもそも善と悪の二つだけではないですから。一方で、国がまとめ上げやすい教育を、不完全な人間の大人ではなく、ありとあらゆるデータを持ち、子どものことをよく分かっているとされるAIが代わりに担ったらどうなるだろうか。その中で、子どもたちがどのように生きるかという映画にしていきました。
 
―――各自のこめかみに設置されたAIシステムが、将来日本を支える労働力になることを見越した個人の能力、才能を加味したアドバイスしますね。
木下: 少子高齢化で効率的に考えていくことを優先させた場合、AIが言う通り、ダイスケが野球選手になれないのは本当かもしれませんが、それでも自分のやりたい事を叶えるために頑張ろうとするのか。そこはこの作品で問われている部分です。
 
 

■システムの中の一員であることを自覚。その中で行動を起こすことの可能性を探る。

―――AIシステムが最後にバージョンアップするのには驚かされましたが、そのように描いた狙いは?
木下: 若い頃は、政治は嫌だと言っていても、大人になってしまうと、そのシステムの中に入ってしまうという認識を持っています。その中で、どのように、ジリジリとでも変えていけるか。そこを模索しているのが、今の自分の気運であり、『いたずら同盟』にも反映されています。僕もシステムの一員であることを自覚して、行動を起こしていけば、そのシステムを変化する可能性があるのではないか。そういう気持ちが込められています。
 
―――AIシステムが学習するという部分をポジティブに捉えているということですか?
木下: 子どもたちが老馬を放ったということは、一般的な価値基準から言えば悪いことかもしれませんが、そういう善悪の基準を超えた部分で、僕は子どもたちが取った行動の背中を押してあげたいし、僕の中では肯定的な行動なのです。ただAIが、馬の死を目の当たりにした時の子どもたちの悲しみや、そのことにより人生観が変わったということを理解するところまでいってしまう場合、道具という現在の概念を超えてしまうのではないか。そこもAIと向き合う上で考えていかねばならないことだと思っています。
 
―――是枝裕和監督が総合監修をされていますが、どんなアドバイスがあったのですか?
木下: 是枝監督には脚本も3回ぐらい見ていただきましたし、編集も3回ぐらいチェックしてくださいました。全作品そのように脚本、編集を見ておられます。是枝監督からは「木下君の脚本は長編の書き出し方をしているよ」等、観客を意識した上で脚本をどうしたらいいかという視点でのアドバイスを下さいましたし、同時に僕がやりたいことも汲み取って下さいました。NGを出すのではなく、うまく想像させるように、アドバイスをしていただいた感じですね。
 
 
 
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■『萌の朱雀』の時から感銘を受けていた國村隼に念願のオファー。

―――子どもたちを見守る大人として、親や先生以外に、國村隼さん演じる用務員が登場します。第三者的な大人が子どもを温かく見守り、この物語をうまく支えていますね。
木下: 國村隼さんが脚本をすごく読み解いて下さいました。どのような歴史があって、用務員の彼があそこにいるのかも考えて下さいました。馬を逃がそうとする子ども達の背中を押してあげるのは、國村さんの演じる用務員で、そこでの見事な高笑いも含め、本当に國村さんにやっていただいて良かったです。
 
―――國村さんに最初からオファーを考えていたのですか?
木下: 『萌の朱雀』で父親役を演じた國村さんの佇まいや、立ち振る舞いから溢れ出る悲しみに、見ていてすごく納得させられ、この短編にぜひ出演して欲しいとお願いしました。今回、服装もアイデアを出してくださったり、台風で撮影が延び、野外撮影が室内撮影に変わった時も、すれ違いざまに子どもに声をかけるシーンで、あえてセリフをなくして通り過ぎる演技にされ、僕の中でもすごく納得のいくシーンになりました。
 
 

■観客の「見たい」という欲求を引き出す設定と演出。

―――最初は別の方向を向いていた三人の子どもが、馬を逃すという共通の目的で一致団結しますが、どのようにキャラクターを設定していったのか教えて下さい。
木下: 良太が主軸にありつつ、マユと大輔の化学反応が、AIの測定しきれない部分になるので、三人のバランスは考えました。三人が立った時の見え方や、大輔のリーダー格だけど憎めない部分だとか。自分が想定したことと、役者の方自身が持っているものが融合してキャラクターができました。そこが、前作『水の花』との大きな違いですね。方法論としてもフィルムで、ワンシーンワンカットで撮りたいとか、僕の頭の中で、撮りたいものが全部出来上がっていました。今回は現場で皆さんと議論しましたし、夜の森のシーンは、光が木に当たると白んでしまうので、限られた時間帯をめがけて撮影しました。
 
―――夜の森のシーンは、本当に幻想的で美しかったです。
木下: 照明がギリギリで、本当に大変でした。昔から、あえて見えにくくすることを取り入れていました。観客が前のめりになって「見たい」という欲求を引き出したいんですね。どうなるのかと暗闇に目を凝らしていると、馬の胴体が見えてゾクッしたり美しいと感じる。そのような効果を出すために、カラーコーディネーターや撮影とすごく色々作業しました。
 
―――今回の撮影は、矢川健吾さん(『穴を掘る』監督)ですね。闇の中での撮影は見事でした。運動場で、駆けていく馬を子ども達が追いかけるシーンも爽快でした。
木下: 運動場のシーンは、矢川さんでなければ撮れないですね。人間が乗っていない馬は本当に動きが予測できないので、車だと小回りが効かず追いかけられない。自転車だとカメラの重みで揺れてしまう。最終的に学校のリヤカーをお借りして、スタッフで引きながら、矢川さんが荷台に乗って、撮影したんです。夕方のシーンですが、早朝に逆マジックアワーを撮り、本当に楽しかったですね。
 
 
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■オムニバスだからこそ、自分らしさがより明確に見える。

―――『水の花』はラストが海でしたが、今回は山に入って行きます。自然に還っていく感じがしますね。
木下: やはり自然が好きなんですね。『十年 Ten Years Japan』の中で、石川慶監督の「美しい国」は、太賀さんと木野花さんの二人の芝居に集中するのも方法論として面白かったです。僕の場合は、自然に飛び出して撮るのが好きだったり、馬や後半の森の絵が利いているなと思ったり、同じ条件で撮っている他の作品があるからこそ、自分らしさがより明確に見えてきますね。普遍的に根底にあるものを掬い取りたいし、それを映画として表現したい。この映画を撮れたから、そういうことの気付きになりました。
 
―――出来上がった『十年 Ten Years Japan』全体をご覧になって感じたことは?
木下: 香港版が怒りの感情が根底にあるとすれば、日本版は社会の中に生きて、もしかしたら加担してしまっているかもしれない人たちが、社会を憂い、問題意識を提示しています。最初周りから、「政治的問題を撮るんですね」と言われたのですが、政治というのは自分たちの身の回りにあるもので、自分たちの行動一つ一つが政治や経済に繋がっているということを、本作を見ていてハッと気付かされるのではないかと思います。映画をご覧になった皆さんが、少しずつ行動を変えると、それが十年後の未来を変えることに繋がるかもしれません。
 

■国際プロジェクトを通して、他者にも大事なものがあると理解し、分かり合いたい。

―――最後に『十年 Ten Years Japan』は、タイ、台湾との国際プロジェクトですが、その意義をどう感じておられますか?
木下: まず日本がアジアの一員であることを意識しなければいけないと思います。香港版を見たときに、香港の歴史や国の状況が分かりましたし、タイや台湾、日本もそれぞれの国の歴史、事情があります。自分に大事なものがあるように、他者にも大事なものがあると理解できた時、分かり合えるのだとすれば、映画を通してそれをやれるのは、いいことだと思います。
(江口由美)
 

<作品情報>
『十年 Ten Years Japan』(2018年 日本 99分)
監督:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
エグゼクティブプロデューサー:是枝裕和
主演:杉咲花、太賀、川口覚、池脇千鶴、國村隼
配給:フリーストーン
2018年11月3日(土)〜テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
※11月4日(日)シネ・リ-ブル梅田 10:00の回(上映後)、神戸国際松竹 13:30の回(上映後)、早川千絵監督、木下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監督による舞台挨拶あり。
 
公式サイト → http://tenyearsjapan.com/

© 2018 Ten Years Japan Film Partners

 

 

 


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『暁に祈れ
プレスシート&オリジナルステッカー プレゼント!

 

 

■提供:トランスフォーマー

■プレゼント数: 3名様

■締切:2018年12月8日(土)

公式サイト: http://transformer.co.jp/m/APBD/

 

公開日:2018年12月、シネ・リーブル梅田、12/8~MOVIX京都、順次シネ・リーブル神戸にて公開

 



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2017年カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門正式出品作品

ロッテントマト驚異の96%フレッシュ!(8/1付)

“地獄”と呼ばれた刑務所をムエタイで生き抜け 魂を揺さぶる真実の物語

 

本作は汚職・レイプ・殺人が蔓延する実在のタイの刑務所に服役し、ムエタイでのし上がっていったイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝ベストセラー小説がベースとなっており、ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督により映画化された。極限状態の中、孤立奮戦する主人公ビリーを演じたのは、ジェレミー・ソルニエ監督の『グリーンルーム』で注目され、映画祭を席巻したラブストーリー『きみへの距離、1万キロ』で主演を務めるなど演技とアクション、両方の才能を兼ね備えた新星、ジョー・コール。彼はボクサー役を務めるため何か月も肉体改造に励み、過酷な30日間の撮影に挑んだ。


役者の大半は現地タイ人の元囚人たちが起用されており、彼らの体験に基づいた迫真の演技により、観客はあたかもその場にいるような感覚に陥ってしまう。地獄に堕ちたアウトローが人間性をはく奪されながらも、ムエタイを通じて光を見出していく、監獄版「あしたのジョー」とも言うべき『暁に祈れ』は、ただのジャンル映画の枠には納まらない、パワフルな人間ドラマとして昇華している。


【STORY】
ボクサーのビリー・ムーアは、タイで自堕落な生活を過ごすうちに麻薬中毒者になってしまう。ある日、警察から家宅捜索を受けたビリーは逮捕され、タイで最も悪名高い刑務所に収容される。そこは殺人、レイプ、汚職が横行する、この世の地獄のような場所だった。死と隣り合わせの日々を過ごすビリーだったが、所内に設立されたムエタイ・クラブとの出会いが彼を変えていく。
 



監督・脚本:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』 
原作:ビリー・ムーア「A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons」
出演:ジョー・コール『グリーンルーム』「ピーキー・ブラインダーズ」、ポンチャノック・マブラン、ヴィタヤ・パンスリンガム『オンリー・ゴッド』 
2017年/イギリス・フランス/英語、タイ語/シネスコ/117分/原題:A Prayer Before Dawn /日本語字幕:ブレインウッズ
提供:ハピネット+トランスフォーマー
配給:トランスフォーマー R15+
© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS
公式サイト: http://transformer.co.jp/m/APBD/

2018年12月、シネ・リーブル梅田、12/8~MOVIX京都、順次シネ・リーブル神戸にて公開
 


(オフィシャル・リリースより)

 

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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、香港のフルーツ・チャン監督最新作『三人の夫』がコンペティション部門作品としてワールドプレミア上映された。娼婦を描いた『ドリアン・ドリアン』(00)『ハリウッド★ホンコン』(01)に続く、「売春トリロジー」の3作目となる本作。ボート生活を送る常人離れした性欲に苦しんでいる主人公、ムイと、彼女と暮らす年老いた父親、ムイの赤ちゃんの父親である老漁師、そしてムイに恋し、結婚した青年“メガネ”が織りなす物語は、夫との性生活に満足できず、元の船上売春婦に戻るムイと男たちの性描写の多さに驚かされる一方、常人離れしたオーラを放つムイに心を奪われる。また、フルーツ・チャン監督ならではの移りゆく香港の今を、色濃く映し出す要素として、先日全面開通したばかりの香港とマカオを結ぶ世界最長の海上大橋「港珠澳大橋」も登場。今後香港に大きな影響を与える象徴的存在となっている。

 

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フルーツ・チャン監督、脚本のラム・キートーさん、主演のクロエ・マーヤンが登壇して行われた記者会見では、まずセックスが止まらない女性を描いたことについて、「本来、性欲は男性のものですが、今回初めて性欲の強い女性を描きました。自分でも女性の性欲がどこまでいくのかわからず苦労しましたが、医者に聞くと、その欲は無尽蔵だと。満足するまではどこまでも止まらないと言われました」とチャン監督がその苦労を明かした。

 

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初主演作にして、チャン監督の指示により1ヶ月で13キロ増量して体当たりの演技を見せたクロエ・マーヤンさんは、「チャン監督には、肉感的で、被害者ではなく力強い女性像が求められました。初めて脚本を読んだのは、香港に到着し、クランクインした初日でした。読んだ時、これぞ長年待っていて、今まさにやりたい役だと思いました」と告白。脚本のラム・キートーさんが、「普段はあまりありませんが、フルーツ・チャン監督の売春トリロジーの撮り方は、監督が文字脚本を起こし、今回のようにキャスティング後に、マーヤンさんをイメージしてビジュアルに落としていきます」と、このシリーズならではの撮り方であることを説明した。

 

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精神的な危うさも含めて、素晴らしい演技を見せたマーヤンさんを抜擢したことについて、チャン監督は「中国においては、女性がセックスをメインにした映画を撮ることはある意味冒険で、とても難しいのです。実は10年前ぐらいに一度、マーヤンさんと出会っていたのですが、当時は私のイメージと合わずキャスティングしませんでした。今回この役を探すに当たり、あの時のマイヤンさんはどうだろう、かなりイメージが変わっていると勧めてくれた人がおり、実際お会いすると、この物語のイメージに近くなっていたので、キャスティングしました」とその経緯を明かすと、マーヤンさんも、「自分との対話という意味で、過去の自分やこれからの自分を考えた時、いま、一番これをやるべきだと思いました。とてもパワフルでした」とオファーを決意した時の心境を語った。さらに、一度脱ぐ演技をした後、そのイメージを払拭することの大変さを聞かれると「『ラスト、コーション』のタン・ウェイさんと共演したときに、その後ご苦労なさったと聞きました。でも共演した時は心穏やかな状態でいらっしゃいました。私自身も心配はしましたが、海に飛び込んだのなら、そのまま漂っていきたいと思っています」と晴れやかな表情で語った。最後に、香港での上映はできるものの、中国では上映できないことを明かしたフルーツ・チャン監督。「これが社会の暗黒面ですね」と表現の自由が犯されている状況を皮肉った。

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

(江口由美)

 

 

 
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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品であり、かつ特集「イスラエル映画の現在2018」作品のルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作映画『テルアビブ・オン・ファイア』が上映され、サメフ・ゾアビ監督、検問所のアッシを演じたヤニブ・ビトンさんが記者会見で、作品の狙いを語った。
 
 
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<あらすじ>
67年の第三次中東戦争を題材にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作インターンをしているサラムは、毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、検問所の主任アッシと知り合い、「テルアビブ・オン・ファイア」のスタッフであることを知られてしまう。アッシは、ドラマの大ファンの妻に自慢したいがために、サラムのIDカードを取り上げ、ドラマの脚本に関わることになる。アッシの脚本案で、サラムは正式にドラマの脚本家となるものの、ドラマの結末にアッシとスポンサーが不満を抱き・・・。
 
パレスチナ人で、現在テレアビブに在住のゾアビ監督は、作品のアイデアについて「コメディーですが、とてもパーソナルな映画です。わたしも主人公サラムと同様にアラブ社会とは少し隔離されている場所にすみ、毎日のようにイスラエル人と共存しなければなりません。そして、常に自分自身の声を模索している。そういうシチュエーションからサラム役が生まれました。アーティストとしては自分なりに違う視点で描いているつもりですが、見ている方から政治よりの内容に見られてしまうのが、自分の中でのジレンマです。この作品はコメディーですが、コメディーに込められたジョークが二の次です。僕にとっては、コメディーが成立しているシチュエーションを皆さんにわかっていただきたいのです」
 
個性的でチャーミングな部分もある検問所の主任アッシを演じたヤニブ・ビトンさんは、テルアビブ在住のイスラエル人。主に舞台やテレビで活動し、映画出演は本作が2本目だという。ビトンさんは、この役を射止めたときのことを回想し、「僕はオーディションでこの役を得ましたが、その前に脚本の一部や作品に対するメモを読ませていただきました。この作品はコメディーで、パレスチナとイスラエルの問題を本格的コメディーとして描いた映画は今までなかったので、とても興味を持ちました。政治的な視点や、様々なシチュエーション、キャラクターに本当に共感できました。これまで色々なオーディションを受けましたが、一番やりたいと思った役ですし、ベストのパフォーマンスができたと思います。映画ではユダヤ人たちの歴史を、皮肉を込めて演じました」と役柄同様、表情豊かに語った。
 
 
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作品中でアッシが、サラムに美味しいフムスを要求し、フムスを作る場面や、食べる場面が度々登場するが、フムスに込めた意味についてゾアビ監督は、「フムスは政治的な意味も込められています。ある種のメタファーです。元々、パレスチナ人の食べ物で、イスラエル人がパレスチナを占拠したとき、我々の文化も取り入れていったのです。フムスは土地も象徴しています。我々のアイデンティティがフムスだとすれば、それをイスラエル人に取られてしまった訳です。コメディー的な見所としては、劇中で、誰のフムスが美味しいかを議論します。なぜかイスラエル人はフムスが好きです。僕も、母も作りますが、ビトンさんはいつも美味しいレストランがあるから食べに行こうというのですが、僕たちにしてみればフムスは家で作るものです」と、フムスに込めた深い意味を説明。ビトンさんも、「イスラエル人は美食家を装うのが好きですが、卵を入れたり、レモンをかけたりします。ただ、この映画の中で、食べなければいけなかったフムスは本当に不味かったです」と笑いを誘った。
 
イスラエルでは来年3月公開が決まっているという『テルアビブ・オン・ファイア』。最後に、ゾアビ監督は、「占領は実際に行われており、我々パレスチナ人は国もなければ市民権もなく、若い世代の将来もありません。それは深刻なことです。でも実際に占領されていることを描く必要はなく、それより、日々我々が受けている精神的な占領を描きたかったのです。アッシが結婚式の結末にしようとするのは、イスラエルのイデオロギーを押し付けようとしていることを象徴しています。ただ、それ以上の将来は見えません。精神的な占領は両方持っていることですし、オスロ合意の先に何があるのか見ることができないのです。オスロ合意の状況は僕にとっては全然うまくいっていないし、パレスチナ人は今だに自分たちの声がないのです。コメディーは悲劇を描くのに適していると思い作りましたが、この映画が答えよりも多くの質問を出して欲しいと思います」と本作に込めた政治的意図を明かし、議論のきっかけとなることを望んだ。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 

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オムニバス形式で10年後の自国を描く「十年」プロジェクト。そのタイ版であり、『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクンが統括を務めた『十年 Ten Years Thailand』が、現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で10月28日に上映され、プロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんが登壇した。
 
15年に香港で公開され、5人の若手映画監督が10年後の香港を描くオムニバス映画『十年』が国を超えて、大きな反響を巻き起こし、日本、タイ、台湾の国際的プロジェクトとなった。日本版『十年 Ten Years Japan』が11月3日全国ロードショーされるのを始め、いずれかの『十年』を見て刺激を受けた国の映画作家が、その国なりのオムニバスを作る動きも見られており、さらに国際的な広がりを見せているプロジェクトとなっている。タイ版は、アーティット・アッサラット監督が、写真展が表現の自由が制限される様子を描いた「Sunset」、ウィシット・サーサナティアン監督が、猫人間に支配された社会を描いた「Catopia」、美術家のチュラヤーンノン・シリポンが、女性の独裁者が君臨する世界を描いた「Planetarium」、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が銅像の立つ工事中の公園と、そこで休息し語り合う人々を描いた「Song of the City」の4本からなるオムニバスだ。
 
 
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インディーズ映画のプロデューサーとして働いていたパオシーチャルーンさん。本プロジェクトは、タイで政治的な問題が勃発し、芸術の表現の自由に疑問を感じた人たちと共に「フィルムズ フォー フリー」プロジェクトを始めたことがきっかけだったという。「その後、香港映画の『十年』が上映され、それも政治的な状況を反映していたので、ぜひ『十年』タイ版を作りたいということで、同プロジェクトを発展させる形でスタートしました」とその経緯を説明。香港、日本共に若手監督が起用されているが、タイ版は名匠、アピチャッポン・ウィーラセタクンも統括兼監督として加わっていることについては、「タイのインディーズ映画の価値観をもっと高めたいということで始めたプロジェクトなので、4人の監督は様々な年代、多様な個性を持った方に依頼したいと思い、この4人に選びました」と、独自の事情があることを明かした。
 
現在タイでは12月公開予定だそうだが、タイのマスコミからも本当に予定通りに公開できるのか興味を持って見られている状態だという。パオシーチャルーンさんは、「この作品はタイでは絶対上映させなければいけないと思っています。私たちの『十年 Ten Years Thailand』はとてもチャレンジングな企画ですが、制作の過程ではタイの憲法に照らし合わせながら、検閲が入るギリギリのところに触れないように配慮しました。上映できないということは考えていません。日本の皆さんもタイで上映できるように応援してください」と日本の観客に呼びかけた。
 
 
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アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品では、公園に元タイ首相のソリット・タナラット氏の銅像が置かれ、ずっと銅像が映されるのが印象的だが、「アビチャッポン監督からみなさんに伝えて欲しいと言われたのは、あの銅像は意図的に使っているということです。未来は現在、過去から繋がっているので、その繋がりを過去に建てられたもの(銅像)を使って示しました」とその真意が語られた。最後に、「タイでは、映画はメディアであり、社会に影響を与えるものとみなされています。タイのメジャー系映画館のマネージャーから電話をいただき、ぜひ上映して欲しいと言われています。来年、選挙を控えているので、社会的な問題も捉えていきたいという狙いがあるのだと思います」と、タイ国内での公開に向けての良い動きがあることを付け加え、国内公開に向けての強い決意を新たにした。
 

『十年 Ten Years Thailand』は11月2日(金)15:50から2回目の上映が予定されている(残席あり)。上映後にはプロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんのQ&Aも開催予定だ。
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 

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「シンプルな歌、詩を通して、変革するインドネシアの悲劇を描く」
ガリン・ヌグロホ監督、出演アニサ・ヘルタミさん『めくるめく愛の詩』を語る@TIFF2018
 
1970年代から90年代までの激変を遂げたインドネシアを舞台に幼馴染の男女の一筋縄ではいかない恋と、彼らの家族の苦難を描いた『めくるめく愛の詩』が、現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で10月27日に上映され、ガリン・ヌグロホ監督と、ヒロイン、ユリアの母親を演じたアニサ・ヘルタミさんが登壇した。
 
スハルト独裁政権下の90年代から精力的な映画制作を行い、東京国際映画祭で長編デビュー作『一切れのパンの愛』(91)、07年には同映画祭の国際審査員を務めたガリン・ヌグロホ監督。カトリックを扱った『スギヤ』(12)、イスラム原理主義を扱った『目隠し』(11)ではインドネシアが直面している問題に鋭く切り込み、まさにインドネシアの巨匠と呼ばれる存在だ。「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #05 ラララ♪東南アジア」部門作品として上映された本作は、一転してミュージカル的要素を取り入れながら、経済的成長を遂げつつある時代に生まれ育った若者たちの姿を描いている。
 
 
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『めくるめく愛の詩』には自身の実体験や生い立ちをかなり反映したというヌグロホ監督は「今回描いた時代は、音楽、ファッションも美しく、ユニークなものがあるとても美しい時代でした。(ユリアと幼馴染の破天荒な)ルーミーのキャラクターも100%ではないけれど、僕自身の要素が入っていますし、映画の中の詩も自分で書いています」と自らの青春時代を回想するような物語でもあることを示唆。大学生になったルーミーが反政府行動を疑われ、連行されるくだりも「私が高校の頃、兄は大学に入りスハルト政権に反発していたので、大学から出られなかったのです。私が大学に食べ物を差し入れた経験があります。当時は裕福な学生は政権に反発させないように、いい大学に入れたり、政府が助成金を出してわざわざ海外留学させていました」。
一方、ヘルタミさんは、この脚本を読んで「音楽も詩も美しいし、監督はなんてロマンチストなのだろうと思いました」と印象を語ると、自身が演じた母親役については、「ただ美しいだけではありません。当時のインドネシアの女性は大変苦労をされています。映画でも腐って木から落ちたフルーツを一生懸命拾い、刻んだものを水に浸して、(ドリンクにして)市場で配ることで生計を立てるシーンがありますが、演じていても悲しかったですし、女性にとって大変な時代であったと実感しました」と当時のインドネシアの女性たちに思いを馳せた。
 
根底には時代の変化をどう感じて生きて行くかがテーマでもある本作。ヌグロホ監督は「時代の変化を象徴するために、様々なディテールを盛り込みました。テレビが普及することによるラジオ(ユリアの父の仕事)の衰退や、それぞれの時代の雑誌の変遷だけでなく、ルーミーの家族のレモネード工場閉鎖という経済的な困難を物語に取り入れています。60年代から90年代は、時代の変化が如実に人々の生活に影響してきたと思います。日常的な時代の変化を盛り込みながら、国全体の変化 政治の変化を加えながら、時代の変化を描いたつもりです。それと同時に、シンプルな歌、詩を通してその時代の悲劇や、時代の変化を乗り越えて生きていかなければならかった悲劇を描いています」と作品に込めた意図を明かした。ヘルタミさんも「この映画は決して恋人同士のラブストーリーだけではないと捉えています。物語の中で、インドネシアの変化を垣間見ることができる作品です。私の世代はアナログからデジタルに変換する時代や、97年にスハルト大統領による革命で民主主義政権に変わったことを体験しています。とても混沌とした時代を経て、私自身が育ったわけで、この映画でもそのようなインドネシアの変化を垣間見ることができると思います」と自身の体験を踏まえながら、映画で描かれているインドネシアの変化について語った。
 
 
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音楽映画的な見どころも大いにある本作。描かれた時代は70年代で映画ポスターや雑誌などは当時のものが使われている一方、音楽は50年代のものが中心となっているが、「50年代はインドネシアが独立した時代で、彼らの親御さんは50年代に生きた人たち。主人公たちは若いけれど、両親が好きな音楽が家でもかかっていました。それがある種の母親の視点であったり、ルーミーとユリアの視点にもなり、音楽で一つになるという風に、あえて両親の世代に当たる50年代の音楽を使いました。ちなみに映画の中で、ユリアの家を訪れ、様々な男性が彼女にアプローチをするシーンがありますが、ギターを弾いて愛を伝える男のくだりは私の父が母に対して実際に弾き語りをしたエピソードが元になっています」と、ここでもヌグロホ監督の個人的な体験が盛り込まれていることを明かした。
 
最後にイスラム圏でもあるインドネシアで、同時代の女性の進出について聞かれたヌグロホ監督は「9.11以降、インドネシアでもラジカリズムという言葉が使われるようになりました」と指摘。「それまではカバヤという民族衣装をつけ、伝統的な髪型をした女性が多かったのですが、テロということが人々の意識の中に入り、考え方が変わっていきました。『目隠し』という映画では若者がテロの団体に入って行く物語を描きましたが、なぜそういうことが起きたのか、私自身は映画を通して答えを見出し、提示したいと思っています」と、9.11以降の流れを含めながら、自身の映画制作の姿勢を熱弁。遅い時間のQ&Aだったが、観客から熱い拍手が送られた。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 

 

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『ここは退屈迎えにきて』
オリジナルメモパッドプレゼント!

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■提供:KADOKAWA

■プレゼント数: 3名様

■締切:2018年11月3日(土)

公式サイト: http://taikutsu.jp/

公開日:2018年10月19日(金)~全国ロードショー



 

 


 

主演:橋本愛×門脇麦×成田凌
監督:廣木隆一『ナミヤ雑貨店の奇蹟』×原作:山内マリコ「R-18文学賞」受賞

圧倒的共感を呼んだ傑作小説が、
名監督&新世代豪華キャストにより待望の映画化!

 

「R‐18文学賞」を受賞し2012年に小説が発売されるや紀伊國屋書店スタッフによる「キノベス!2013」にランクインし、詩的なタイトルが印象的な山内マリコの処女小説「ここは退屈迎えに来て」がついに映画化!


本作は、2004年の高校時代から2013年の現在まで、みんなの憧れの的だった「椎名くん」を柱にキャラクターを交差させながら描く、委託切ない群像劇。これまで本格派ヒューマンドラマから恋愛モノまで、登場人物の繊細な心の機微を紡ぎ出し、昨年公開された『ナミヤ雑貨店の奇蹟』をはじめ、本格派ヒューマンドラマから恋愛モノまで、数々の作品を手掛けてきた名匠・廣木隆一監督が、メガホンをとった。


kokotaikutu-500-2.jpg何者かになりたくて東京で就職したものの、10年経って何となく戻ってきた主人公「私」を演じるのは、『告白』(10)で脚光を浴び、『桐島、部活やめるってよ』(12)で第86回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞するなど、その透明感のある演技で日本映画界において高く評価される女優・橋本愛。元彼「椎名」を忘れられない「あたし」を演じるのは、『愛の渦』(14)やで体当たりの演技を見せ注目を浴び、その演技の幅は計り知れない若手実力派女優・門脇麦。そして青春時代にみんなが恋焦がれた、自らの退屈を埋めてくれるであろう「椎名くん」を『キセキ-あの日のソビト-』(17)での好演が記憶に新しい、独特の色気と存在感を放つ人気急上昇俳優・成田凌が演じている。そのほか、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、村上淳ら、出演作が後を絶たない実力派俳優陣が脇を固めることが発表され、ますます本作への期待が高まるばかりだ!

 


 

◆出演:橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、亀田侑樹、瀧内公美、片山友希、木崎絹子/マキタスポーツ、村上淳
◆原作:山内マリコ「ここは退屈迎えに来て」幻冬舎文庫◆監督:廣木隆一◆脚本:櫻井智也◆制作プロダクション:ダブ
◆コピーライト:© 2018「ここは退屈迎えに来て」製作委員会
◆配給:KADOKAWA

2018年10月19日(金)~ 全国ロードショー



 (プレスリリースより)

 

 
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