「AI」と一致するもの

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喪失は失った後が長く、一生付き合っていくもの。
『永い言い訳』西川美和監督インタビュー
 
『蛇イチゴ』(03)、『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)と、コンスタントに優れたオリジナル脚本による作品を作り続けている西川美和監督。4年ぶりの最新作『永い言い訳』は、『おくりびと』(08)以来7年ぶりの主演となる本木雅弘と初めてタッグを組み、歪んだ自意識を持つ売れっ子小説家、衣笠幸夫が妻の事故死をきっかけに、改めて妻のことを知り、大きすぎる名前(鉄人の異名を持つ元広島カープの名選手、衣笠祥雄と同姓同名)の自分を受け入れ、そして生きる姿を丁寧に描いている。
 
同じく事故で妻を失った正反対の性格の陽一(竹原ピストル)やその家族とのふれあいを通じ、被害者同士がいつしか疑似家族のようになる姿や、亡くなった後に知る妻の真実に動揺する姿など、簡単に言い表せない複雑な心境を本木らが体現。スーパー16ミリで撮影された映像の豊かなニュアンスを味わい、かつ観終わっても後々カウンターパンチのようにじんわりと効いてくるヒューマンドラマだ。本作の西川美和監督に、本木さんに託した主人公幸夫の狙いや、現場のエピソード、撮影面のこだわりについて、お話を伺った。
 

■崩壊がクライマックスではなく、崩壊が前提の話を作る。 

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―――理不尽な別れの後、それでも生きていかなければいけない人々の物語ですが、なぜこのタイミングで、この物語を描こうとしたのですか?
西川監督:アイデア自体は東日本大震災の年の暮れぐらいに思いついていました。ただ振り返ってみると、今までは一見平穏な関係性やうまくいっているものが、何かのきっかけでほころびはじめ、本質がむき出しになり、最終的には崩壊する。でもその崩壊が、もしかすれば新しいスタートかもしれないという物語を作ってきました。でも崩壊のその後が、崩壊に向かうプロセス以上に困難なのではないか。年齢を重ねるごとにその思いが強くなってきました。震災以前にも、私自身も色々な人との別れがありましたが、自分の人生がそれで終わりではなく、失った後が非常に長いのです。喪失は、克服すると簡単にいえるものではなく、一生付き合っていくもの。だから、崩壊がクライマックスではなく、崩壊が前提の話を作ろうと思いました。
 
―――曲がった自意識や弱さを持つ主人公幸夫に監督ご自身を投影させたとのことですが、なぜあえて主人公を男性にした
西川監督:私は男性の主人公を書くことが多いのですが、今回特に自分自身の実感も含めて、思い切って色々なことを告白していかなければいけないと思っていました。その際に女性を主人公にすると、私の生き写しのようになってしまい、逆に少し躊躇してしまう。「これは監督、あなた自身の話ですよね」と言われるのは恥ずかしいのです。そこで、いい格好をしたり、良く見せようとしないために、異性の仮面を借ります。その方がむしろ大胆に切り込め、主人公もいじめられますから(笑)。私の”恥”を本木さんに演じていただきました。
 
 
 

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■顔がいいがために自意識が肥大する気の毒な男を、本木さんにはコミカルに演じてもらいたかった。

―――幸夫役は最初から本木さんと決めていたそうですが、その理由は?
西川監督:周防正行監督の『シコふんじゃった。』(92)を見させていただいた時から、若い頃の本木さんは華のある二枚目にも関わらず、クールさだけではない、どこかコミカルで、困難に立ち向かって七転八倒する主人公がよく似合う方だと感じていました。そういう意味で、溌剌とした二枚目の活劇が書ければいつかご一緒したいと思っていました。今回は、「顔が良すぎるところが幸夫の運の尽き」。つまりもっと平凡な容貌なら楽に生きられたかもしれないのに、幸か不幸か綺麗な容貌に生まれついたばっかりに、外見とは裏腹な中身の平凡さや醜さとのギャップにつまずき、ますます自意識が肥大してしまった気の毒な男の話でしたから、二枚目に演じてもらわなければならない。そして、本木さんにもう一度、若い頃のコミカルさを演じてもらいたかったのです。
 
―――本作の撮影は一年にも及んだそうですが、本木さんとどのように幸夫を作り上げていったのですか?
西川監督:本木さん自身の性格が本当に幸夫とダブっていて、それこそ虚実ない交ぜになるというか、映画の中の登場人物が、本当に私にあれやこれやと毎日質問してきている感じです。「あなたのことばかり、見ている訳にはいかないですよ」と思いながら(笑)。でもこれだけ人間の隠しておきたい欠点のようなものを前面に出さなければならない役でしたから、そういう新しいものに挑戦している興奮もあるかと思います。きっとご本人はしんどいところもあったでしょう。私は本木さんの中の”本木さんらしさ”が出れば、この映画はすごく真実味のあるものになると思っていました。
 
―――本木さんご自身も、幸夫に似ていると感じていたのでしょうか?
西川監督:本木さん曰く「私自身は幸夫よりもっとねじくれていて、救いようのないパーソナリティ。でも映画はどんなにねじ曲がった主人公であろうと、どこかお客様にエールを送ってもらいながら見ていただかなくてはならないもの」。だから、どの程度自分を見せればいいのかを悩みながら、演じてくださっていました。
 
 
 
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■自分以上にこの作品のことを心配してくれている人間がいるということに、深いところで支えられた。

―――自分をさらけ出すさじ加減が難しい役に挑まれたのですね。
西川監督:私も色々な俳優の方と仕事をしてきましたし、どの主演俳優からも助けらてきましたが、撮影期間が長かったこともあって、中でも本木さんとは本当によく話し合いました。主演俳優が監督以上に作品に熱中し、我が事のように悩み、七転八倒してくれるというのは、監督にとってこれほど孤独から解放されることはない。自分以上にこの作品のことを心配してくれている人間がいるということに、深いところで支えられてきたと思います。
 
―――深津絵里さん演じる妻、夏子は冒頭しか登場しませんが、夏子の言うことなすことを、幸夫が否定的な言葉で返し、夫婦関係を浮かび上がらせています。その会話の機微に惹きこまれましたが、どころからアイデアを得ているのですか?
西川監督:両親が不仲ですからね(笑)。相手を傷つけようとする言葉ではなかったはずが、一度ボタンをかけ違えるとゴロゴロ転がり続ける夫婦の会話を子どもの頃から見てきたからではないでしょうか。男女のコミュニケーションのかけ違え方のパターンを会得した気がします。でも、根底には甘えがあるでしょう。相手はずっとここにいてくれるし、どれだけ傷つけても自分の味方に違いない。そう思っているから、幸夫はあのような言葉を言い放つことができる。その日常が何かの力で奪われるという想像力を働かさない人間の性質が出ればと思い、書きました。
 
 

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■カメラが回っていないところでの出演者たちの気持ちの繋がり、子どもたちとの関係性に嘘がなかった。

―――夏子と一緒に事故で亡くなった友人、ゆきの夫陽一を演じる竹原ピストルさんも、はまり役でした。幸夫とは正反対のキャラクターとして登場し、本木さんが心血を注いだ幸夫を受け止めるような演技が光っています。
西川監督:実生活でも本木さんとは真反対の生き方、性格の人を探しました。竹原さんと本木さんは外見的にもその人生も全然違いますし、地球の裏側に連れていっても全然違うように見える人が良かったのです。竹原さんとお会いすると、実際は大宮陽一よりもずっと繊細で言語的。そして、人も羨むような魂のストレートさがある方でした。本木さんが「今まで培ってきた技術では太刀打ちできない、どうしよう!?」と思うような人がいいなと思っていましたし、実際そういう面もありましたが、一番良かったのは本当に水と油のようでありながら、本木さんが竹原さんのことを本当に眩しいと思い、憧れ、好きになってくれたことです。
 
―――中盤、幸夫と陽一一家が疑似家族のようになります。大事な家族を亡くして傷ついていながらも続く日常に、一時的とはいえ幸せと感じる瞬間を映し出していますね。
西川監督:子どもたちも含めて、本当に幸福感がある4人でした。ずっと4人で一緒にいるのではないかというぐらいでしたし、カメラが回っていないところでの出演者たちの気持ちの繋がり、子どもたちとの関係性に嘘がなかった。単に撮影だからセットにやってきて、仲が良さそうに芝居をし、カットがかかれば別々の部屋に収まるような雰囲気ではなかったんです。映画という作りものを越えたところで、こちらが指示したわけでもないのにキャストの皆さんが子どもたちも交えて親しみのある雰囲気を作ってくれていた。それがとても良かったと思います。
 
 
 
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■監督5作目で、本当にやりたいことを主張。スーパー16ミリのフィルム撮影を実現。

―――海辺で4人が水遊びをするシーンはファンタジーかと思うぐらい気持ちがほぐれる映像でした。今回は16ミリで撮影されていますが、その狙いは?
西川監督:今回は私にとって5作目になりますが、本当にやりたいことを「やりたい」と言ってみよう。当然お金がかかるので、色々なしがらみもありますが、しがらみを「しがらみだ」と思いこむ癖がだんだんついてしまっていたのです。しがらみを取り払う努力もせず、あると思いこもうとしている自分がいることに、キャリアを重ねながら気づいていたので、やりたいと思うことを一度主張してみよう。ダメなら別の方法を考えようと。
 
―――その「やりたいこと」が、16ミリのフィルム撮影だったのですね?
西川監督:3年前の当時はデジタルが台頭し、フィルム版が残らないのではないかと言われている時期でした。私のような作品ペース(3年で1作品)で制作している者からすれば、この機会を逃せば次回作の時にフィルムが世界から無くなっているかもしれないと思ったのです。当初から今回は長期間の撮影を想定していたので、人件費や機材費の問題を考えるとスーパー16ミリを使ったコンパクトな撮影体制をとり、小さなスタッフでしっかりスクラムを組み、長期間取り組んでいく。かつ子どもたちという予測不可能な行動をするキャストがおり、団地という狭い場所で撮らなければならない。今、撮れそうだからフィルムを回そうという時に、35ミリの40人という大所帯体制ではスタンバイに時間がかかり、撮りたいものを逃してしまいますから。今回は、撮りたいときにスッとカメラを構え、しかも手持ちができるものが最適でした。
 
―――今回西川監督は、長編ではじめて是枝監督作品の常連カメラマン、山崎裕さんを起用しています。
西川監督:私が映画界に入ったきっかけは是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)だったのですが、そのカメラマンがスーパー16ミリで撮影していた山崎さんでした。90年代のインディペンデント映画は、まだデジタル撮影が普及する前で、スーパー16ミリを使うことがとても多く、私にとってはとても馴染みのある機材だったのです。そして、山崎さんは私が初めて見たプロのカメラマンで、今まで身内のように親しくして来てもらいました。山崎さんは長くドキュメンタリーを撮っておられるので、今目の前で起きている物事に対してとても敏感でフットワークの軽い人。いざというときに、手持ちで自由に、カメラマンの直感で撮ってもらえる人がいいなと思い、山崎さんにオファーしました。
 
 
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―――本作では子どもの演出にもチャレンジされています。陽一の娘、灯の台詞は、重くなりがちなシーンをビシッと締め、観る者もハッとさせられましたが、台詞の演出はどのようにされたのですか?
西川監督:言わなければいけない台詞がある場面とない場面の段差がつかないように、心がけました。大人の俳優もそうですが、訓練された子役は、台詞があるとアドリブ部分との段差がついてしまいます。まだ演技なのか演技でないのか境目のない子どもの方が、より自由でいられます。灯役の白鳥玉季ちゃんは、自由に虚実を行き来していましたし、大人がびっくりするぐらいに全部状況を把握していました。でも、映画の現場は初めてですから、集中力が毎日必ず途切れてしまい、コンディションが悪くなればあちこちうろうろして、ただそこに座っているだけのお芝居もできない。これが子どもなんだと、私も実感しましたし、逆に「灯をちゃんと撮ろう」とチームが一丸となった気がします。

 

■人間の感情は複雑。人生経験を重ねれば重ねるほど、枠にはめられない感情が深くなる。

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―――幸夫がテレビカメラの前で嘆き悲しむふりをしたり、陽一の目に思わず涙があふれたり、陽一の息子、真平が泣きたくても涙が出なかったりと、「泣く」という行為が何度も描かれています。これらのシーンに込めた思いは?

西川監督:人間の感情は、本当はとても複雑です。人生経験を重ねれば重ねるほど、枠にはめられない感情が深くなっていくのですが、色々な状況下で”役割”を与えられます。あるべき感情を持たなければ人間的ではないと言われ、ますます窮屈になっていき、嘘の感情を露わにしなくてはいけない。本作は「妻が死んで一滴も涙を流せなかった男」という謳い文句ですが、それは悲しんでいないわけではないと私は思っています。いかに人間の感情が複雑で、自分自身のコントロールが効かない、御しがたいものであるかということも、私が描きたかったことの一つですし、悲しみの深さは涙の量で測られるものではない。私はそう思っています。

(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 
 
 
 

<作品情報>
『永い言い訳』(2016年 日本 2時間4分)
脚本・監督:西川美和 
原作:西川美和『永い言い訳』 (文春文庫刊) 
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里他
2016年10月14日(金)~TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
公式サイト⇒http://nagai-iiwake.com/ 
(C) 2016「永い言い訳」製作委員会
 

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宮沢りえ、「はっぴ姿には自信がある」余命2ヶ月の肝っ玉母ちゃんを熱演。
『湯を沸かすほどの熱い愛』先行上映会舞台挨拶
登壇者:中野量太監督、宮沢りえ(16.10.6 梅田ブルク7)
 
日本映画界にまた頼もしい才能が誕生した。前作『チチを撮りに』(12)が海外の映画祭でも高く評価された京都出身の中野量太監督。10月29日(土)に全国公開される最新作『湯を沸かすほどの熱い愛』で『紙の月』(14)の宮沢りえとタッグを組み、見事商業映画デビューを果たす。
 
 
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宮沢が演じるのは、余命2ヶ月の宣告を受けた幸野双葉。夫、一浩(オダギリジョー)が1年前に家を出た後、家業だった銭湯、幸の湯は休業状態。娘の安澄(杉咲花)が学校で問題を抱えているのを励ましながらつつましく暮らしていたが、残りわずかの人生で出来ることを考えた末、夫の所在を突き止めてその愛人の子ども共々連れ戻し、幸の湯を再開させることを決意する。いじめに遭っていた安澄に闘う勇気を与える双葉。だが死ぬまでに安澄に伝えなければならないことは、それだけではなかった…。
 
中野監督によるオリジナル脚本は、家族の物語に一筋縄ではいかない展開を盛り込み、命が限られた人間の葛藤や、過去の過ちに対する自責の念、弱い自分を克服しようと奮闘する姿を各キャラクターに託している。スクリーンから思わぬパワーが伝わってくる、まさに“湯を沸かすほどの熱い愛”に包まれた作品だ。
 
一般公開を前に10月6日(木)梅田ブルク7にて行われた先行上映会では、中野量太監督と、主演の宮沢りえが上映前の舞台挨拶で登壇。故郷への凱旋試写会となった中野監督と、中野監督の脚本に惚れ込んだという宮沢りえの同い年コンビが、作品への愛や、アツかった撮影現場を振り返るトークを繰り広げた。その模様をご紹介したい。
 

(最初のご挨拶) 

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宮沢:みなさん、暑い中お越しいただいておおきにです。この作品は同い年の中野量太監督と撮りました。同世代で、こんなに素晴らしい脚本を書く監督がいることを知ることができたのは、私の宝です。そしてこの物語の中で思いを交わしあった共演者のみんな、スタッフをすごく誇りに思いますし、そこで交わした思いは未だに私の中で熱を帯びている気がします。どうぞ、楽しんでください。 
 
中野監督:脚本、監督をしました中野量太です。僕は京都出身なので、こうして関西で試写会を開くことができ、とてもうれしいです。しかも理恵さんを連れて帰ってくることができました。映画のことを少しお話すると、面白い脚本を書けば映画が撮れるのではないかという気持ちで、全くのゼロベースで脚本を書きました。この話で一番重要な母親役を誰がやるかという時に、宮沢さんが脚本を読んでくれ、新人監督のしかもオリジナル脚本に出演すると言ってくれたのです。理恵さんが出演を快諾してくれたおかげで、この映画は一気に動き出しました。その後は、自分の思いを全部込めて、込めて映画を作り、いつの間にか理恵さんとこの場にいた感じです。(宮沢が「イエイ~」とハイタッチ)。楽しんでもらえればと思います。 
 

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―――なかなか日本映画でオリジナル脚本の作品は少ないですが、最初に読んだときの感想は? 
宮沢:大体作品をオファーされると、最初に自分が演じることを重ねながら脚本を読むのですが、この本は読み進めるうちに、どんどん双葉という役に自分の思いが入っていきました。タイトルにも含まれていますが、本当に衝撃的なラストシーンを読んだときには、心にも体にも鳥肌が立ちましたし、なかなかこんな作品に出会えないぞという気持ちがありました。 
 
ただ余命を宣告された女性の役なので、悲劇的に作ることもできれば、ドライに作ることもでき、そこは監督にお会いしてみないと分からない。私はあまりウェットな悲劇のヒロインにはなりたくなかったので、その気持ちが監督と共有できれば、ぜひ演じたいと思いました。監督と初めてお会いして、その気持ちが共有できたので、その場でOKしました。 
 
中野監督:代官山のツタヤでしたね。めちゃくちゃうれしかったし、何か強い縁があり、絶対この役は宮沢さんがやってくれると思っていましたから。でも、半分はダメかもと思っていましたよ。 
 
宮沢:そんな弱気な感じは全くなかったですよ!最初からかなり強気で・・・。 
 
中野監督:会って断られるほど辛いことはないですから。必死で思いを伝えました。そのときに宮沢さんが「双葉役は聖母になったら絶対にダメだよ。普通にそこら辺にいるお母ちゃんが余命2ヶ月で下した決断は、自分のことより家族をなんとかしたいという思いだよね」とおっしゃって。正にその部分を共有できたのが、とても良かったです。 
 
 
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―――宮沢さんが演じる双葉は、肝っ玉母ちゃん役でしたね。 
宮沢:幸の湯という銭湯の話ですが、はっぴを着ました。かなりはっぴ姿には自信があります。この物語の中で双葉を生きていたときには「これほどはっぴが似合う女はいないぞ」と鏡を見ながら思っていました。 
 
―――銭湯の掃除をするシーンもありましたが、実際に練習したそうですね。 
中野監督:一度は経験してほしかったので、ロケで使わせていただいた銭湯で練習しました。 
宮沢:カネヨンというパウダー状の洗剤を使って、その銭湯の方が「こうやってやるのよ!」と熱心に指導してくださり、すごく楽しかったです。 
 
 
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―――幸野家は父や娘のいる家族ですが、家族間の撮影中の感じはどうでしたか? 
宮沢:娘役の杉咲花ちゃんとは撮影に入る前に連絡先を交換しあい、撮影当日まで毎日作品とは関係のないことを交換しあっていました。そこでは敬語もやめて、お母ちゃんと呼んでもらうようにしたので、撮影に入る頃には密度の深い関係が出来ていて、親子役をするのにいいエネルギーになりました。 
 
夫役のオダギリジョーさんは、私がいつか共演してみたい俳優さんでしたし、脚本を読む力がとてもある方でした。役者は格好良く見られたいと、一瞬でも思ってしまうものですが、この物語の中のオダギリさんはダメ男です。そこに徹していて、最後はとても素敵になりますし、そのバランス感覚に感動しました。 
 
 
―――俳優は絶対格好いいシーンをやりたいものですが、オダギリさんとはどんなやりとりをしたのですか?
中野監督:オダギリさんに会ったその日から、「今回格好良かったら負けですからね」と言ったのですが、実際はやはり格好良くて。これが格好良く見えなくなるのは難しいなと思ったのですが、一歩間違えばただのダメ男をちゃんと憎めないダメ男に演じてくださったのは、オダギリさんの力です。
 
 
―――それでは、最後のご挨拶をお願いします。
中野監督:どんな作品か、まずは観てください。自信があります。宮沢りえさんも、とてもとてもいい演技をしてくれました。脚本を書いても、自分の想像を超える芝居はなかなかなくて、自分の頭の中で想像している方が面白いのですが、今回の映画は見事に僕の想像を超える芝居をしてくれるメンバーが集まり、何度も僕は現場でアツくなって、たまらない思いをしました。その思いがこの映画の中に映っていると思います。ぜひ、楽しんでください。
宮沢:この撮影で命に限りがあるということを覚悟した双葉という役を演じ、命があって、呼吸ができて、日常があるということは決して当たり前ではなく、奇跡の積み重ねです。そう思うと人と会ったり、暮らしたりすることがとても大事なことに思えました。そういうことがこの映画から滲んでほしいし、観て下さった方が、自分の持っている日常や愛する人や大切な人を、心から「大切」と思えるようなきっかけになればいいなと思います。どうぞ、楽しんでください。
 
(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 

<作品情報>
『湯を沸かすほどの熱い愛』
(2016年 日本 2時間5分)
脚本・監督:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼、松坂桃李、オダギリジョー
2016年10月29日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://atsui-ai.com/
(C) 2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
 

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本木雅弘って、「面倒くさい」男!?『永い言い訳』大阪舞台挨拶
登壇者:西川美和監督、本木雅弘
(16.10.5 TOHOシネマズ梅田別館アネックス)

 

~本木雅弘は、撮影後も自分の演技を監督に確認したがる「面倒くさい」男!?~

『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)とコンスタントにオリジナル脚本による優れた人間観察の作品を作り続けてきた西川美和監督。『おくりびと』以来7年ぶりの主演となる本木雅弘と初めてタッグを組んだ4年ぶりの最新作『永い言い訳』が10月14日からTOHOシネマズ梅田ほかで全国公開される。
 
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歪んだ自意識を持つ売れっ子小説家、衣笠幸夫(本木雅弘)が妻の事故死から再生するまでを、同じく事故で妻を失った正反対の性格の陽一(竹原ピストル)やその家族とのふれあいを絡めながら描写。スーパー16ミリで撮影された映像の豊かなニュアンスや、被害者同士がいつしか疑似家族のようになる関係性など、喪失感と共に、それでも生きていく人々を丁寧に綴ったヒューマンドラマだ。
 
TOHOシネマズ梅田別館アネックスで10月5日(火)に行われた先行試写会では、上映前に西川美和監督と主演の本木雅弘が登壇し、大ヒット祈願の舞台挨拶が行われた。
 

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主人公幸夫のキャラクターにちなんで今も引きずっているコンプレックスを聞かれた本木は、「数え切れないほどある。スポットライトを浴びているのに責められている気分だし、自信があるのかないのか自分でも所在がわからない。簡単に言えば自意識過剰。あまのじゃくのところも(幸夫に)似ている」。ただ、いざ演じるとなると「自然のままでというものではない。今まではコスチュームに助けられていたが、今回はお尻を見せる無防備さで、どれだけカメラの前でカメラを意識せずにいられるか努力した」と自らをさらけ出す新しいチャレンジに挑んだことを明かした。
 
一方、本木を起用した感想について西川監督は「タイトル通り、”言い訳の多い”方だった(笑)。二枚目だけどどこかコミカル。近年の役は近よりがたい雰囲気のものが多かったが、この撮影では色々な欠点を余すところなくさらけ出してくれ、人との垣根がない方だった。人として親近感を覚えた」。そんな本木の言い訳とは「いまだに『あのシーンはどこが悪かった?』、『本当はどう思っているの?』と聞いてくる。面倒くさいでしょ?」と西川監督が暴露し、会場は大爆笑。
 
 

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主人公の名前を往年の広島カープの名選手で鉄人の異名を持つ衣笠祥雄(きぬがささちお)と同姓同名にしていることについて、カープファンでも有名な西川監督は、「大きすぎる名前を背負った男という設定で、自分が生まれもったものを背負っていくことができない、いつまでも幼稚な男を描きたかった」とその意図を明かした。また共演した陽一役の竹原ピストルについて、本木は「この共演で初めて出会ったが、自分がしばらく出会うことのなかった魂の純粋さを持った人」と絶賛。「自分とは対比のある竹原さんと出会うことで、映画の中で幸夫を重ねることができた。今は僕の方が竹原さんに熱を上げていて、明日は竹原さんがライブをしている名古屋で舞台挨拶があるので、ライブに行ける!」と追っかけファンのように目を輝かせて語ると、西川監督も「お互いの持っていないものに対し、やわらかにリスペクトし合う関係」と映画にとてもいい効果を与えたことを付け加えた。
 

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本作は一年をかけて撮影されたが、季節の移り変わりをカメラに収めるだけでなく、関係者同士の絆が濃くなり、特に陽一の子ども、真平役の藤田健心君や、灯役の白鳥玉季ちゃんの一年間の成長ぶりは素晴らしかったと2人揃って絶賛。役柄では子どもがいない男を演じた本木が待ち時間に子役たちの遊び相手となって現場の雰囲気を作ったり、撮影終了後も竹原が「お父ちゃん」と呼ばれたエピソードを披露し、映画でも垣間見える疑似家族のような温かい関係は、撮影中の現場の雰囲気がそのまま映し出されたものであることを、西川監督がしみじみと語った。
 
最後の挨拶では、
「他のエンターテイメント映画と比べると、劇的な展開があるわけでもないけれど、その中に時間の積み重ねからしか分からないものを感じてもらえれば」(本木)
「耳よりの情報があります。4年ぶりの新作なので、何もかも丁寧に作りました。劇場で販売するパンフレットも特別寄稿で内田也哉子や小説家の長嶋有さんからの特別寄稿や、幸夫に扮した本木さんが撮影後幸夫に関して語るDVD、劇中のアニメ『ちゃぷちゃぷローリー』のシナリオ完全版もつけて1000円で販売しているので、是非もう一度公開後に劇場で鑑賞し、パンフを買って帰って幾通りにも楽しんでください。今日はありがとうございました」(西川監督)と熱弁を振るった。
 
7年ぶりの主演、しかも自らの欠点をさらけ出しての演技を全編に渡ってみせた本木雅弘はいつになく緊張の面持ちも見せながら、「(映画を見て)悪かったら、どこが悪かったとしっかり伝えて」と、本作にとことん向き合っていることを感じさせる舞台挨拶だった。西川監督も、観客の反応が楽しみで仕方がない様子。「大阪のお客さんは上映後のトークショーでも、まずは何も考えていなくても我先に手を上げ、一発ボケて場を和ませてくれる。本作でもまたQ&Aの機会をぜひ設けてほしい」と語ってくれた。観た後からじわじわとカウンターパンチのように効いてくる作品。鑑賞後は、誰かと家族や大事な人について語りたくなることだろう。
(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 

<作品情報>

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『永い言い訳』
(2016年 日本 2時間4分)
脚本・監督:西川美和 
原作:西川美和『永い言い訳』 (文藝春秋社)
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里他
2016年10月14日(金)~TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸他全国ロードショー
公式サイト⇒http://nagai-iiwake.com/
(C) 2016「永い言い訳」製作委員会
 
 

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山田孝之、本郷奏多をはじめ総勢8名が集結!『闇金ウシジマくん Part3』大阪舞台挨拶
(16.9.24 TOHOシネマズ梅田)
登壇者:山田孝之、本郷奏多、白石麻衣、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ、山口雅俊監督
 
「1日3割 (ヒサン )」「 10 日で 5割(トゴ )」 という非合法な金利で金を貸し付けるアウトローの金融屋「カウカウファイナンス」 社長のウシジマを山田孝之が演じ、2010年のテレビドラマ「Season1」から映画版までシリーズ化された『闇金ウシジマくん』。金と欲望に翻弄される人々の転落人生を時にはコミカルに、時にはハードに描きながら、社会の闇を映し出すエンターテイメントが、ついに完結!9月22日(木・祝)に『闇金ウシジマくん Part3』、10月22日(土)に『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』と2作連続公開される。
 
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『闇金ウシジマくん Part3』公開最初の週末となった24日(土)にTOHOシネマズ梅田で行われた舞台挨拶では、主演の山田孝之を筆頭に、本郷奏多、白石麻衣、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ、山口雅俊監督と総勢8名が登壇。司会が最上もがを呼び忘れるハプニングも笑いに変え、すっかり息の合ったカウカウファイナンスのメンバーと、本作が初参加の初々しい女優陣が加わった豪華ゲストを前に、映画を観たばかりの観客から大きな拍手が送られた。
 
 
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「みなさん、映画を観てくれてありがとうございます。1か月後ファイナルもありますので、そちらも観てください」と山田が連続作であることをアピール。本作が初参加となるアイドルの卵、麻生りな役の白石麻衣(乃木坂46)は「大人気の作品に携わることができ、本当に光栄です」と爽やかに挨拶。一方、カウカウファイナンスのメンバーとして常連メンバーでもある崎本はハスキーボイスで「どうも、綾野剛です!違うか~」と本作で共演している綾野のモノマネで一人ノリツッコミをみせ、山田から「面白くない!」と叱咤される場面も。企画、プロデュースも手がけた山口監督は「2度、3度観ていただくと、面白い発見があります」と挨拶した。
 
 

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この日で舞台挨拶キャンペーンツアーが3日目となる8人。午後一番に行われた大阪での舞台挨拶に続き、チームに分かれて夜までに福岡まで行くという強行スケジュールをこなす予定で、テンションが高い様子は舞台挨拶の端々に現れた。大阪・八尾出身のやべきょうすけは、合間合間で舞台の一番端の立ち位置から身を乗り出して盛り上げる一方、質問に一生懸命答えている本郷に、「うるさい!」と一喝される場面も。その後、やべが話しているときには山田と本郷がなんとマイクを分解して遊ぶというしっぺ返しを喰らわすあたりは、舞台挨拶を心から楽しんでいる様子が伺え、会場も大爆笑。「今までの舞台挨拶で一番ヤバイ」というやべに、山田は「楽しそうなのは(お客さんに)伝わっている」とさらりと答え、リアル「カウカウファイナンス」のような和やかさが表れていた。
 
 

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ネットビジネスの甘い言葉に誘惑されるフリーター、沢村を演じた本郷は、カリスマ実業家天生役の浜野謙太との共演について「浜野さんは天生役を研究し、ルックスから作り込んで演じていてカッコイイ俳優さんと尊敬していたが、役柄上周りに綺麗な女性がたくさんいるので、待ち時間女性に囲まれてとても楽しそうにしていた。そういうところも天生っぽいのかも」と冷静に分析。沢村が恋に落ちる相手役を演じた白石は「ウシジマくんらしくないラストシーンが好き」と言うと、山口監督はエンディングを撮影直前に変更し、台詞も全て変えたというエピソードを披露。本郷も自身の役どころの変遷を踏まえながら、現在のエンディングへの気持ちを語った。
 
 
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もう一つのエピソードの柱となるキャバクラ嬢につぎ込むサラリーマン役を演じた藤森慎吾の相手役(キャバクラ嬢、花蓮)を演じた筧は、「藤森さんはチャラ男のイメージがあったが、すごく真面目て芝居に対しても器用。台詞が変わってもすぐに対応されるし、現場でも楽しくお話できたので、溶け込みやすかった」と絶賛。カウカウファイナンスの心優しい受付嬢として本作からメンバー入りした最上は「まじめにお仕事をしました。すぐにお習字の時間があって」と、部屋に貼られている習字や絵は全て自筆であることを山口監督が紹介し、観客が驚く一幕もあった。

 
 

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司会から最後の質問として、1ヶ月お休みがあればとの問いに
「休みはいらない。やりたいことがあるので、打合せをしたい」(山田)
「休みはいらない。(絶対嘘というツッコミに)ゲームしてると思います」(本郷)
「おうちにいるのが好きだけど、1ヶ月休みがあるなら海外旅行に行きたい」(白石)
「スペインでパエリアを食べたい」(筧)
「多分いなくなって、絶対この世界(芸能界)に戻ってこない。今は2日以上休みがあると何をしていいか分からなくなるので打合せを入れてしまう」(最上)
「自転車で日本一周したい。昨日天神橋商店街のはしご酒が楽しかったので、旅先ではしご酒をしたい」(崎本)
「タイムラインに1ヶ月休みと打ち上げて、連絡が来た人と会っていきたい」(やべ)
と、それぞれのキャラクターの意外な一面が伺える回答に会場も湧いた。
 
 

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フォトセッションの後、檀上に戻らずステージ際に8人が腰をかけ、観客と同じ目線で山田が代表として「今日は観に来てくれてありがとうございます。1か月後、ウシジマの“さいご”を見届けてほしいと思います。(「イヤだ!」との声に)イヤだじゃないよ!“さいご”なんだよ!我慢しなさい!リターンズはないので、これで最後です。(「また来てね!」との声に)大阪に?用事があれば(笑)ありがとうございました」と終わりの挨拶を行った。終始、観客からの声がかかり、そのやりとりを楽しんでいるカウカウファイナンスの面々を見ていると、観客同様「さよなら」を言うのが辛くなりそうだが、その前にまずは本作と『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』を見届けよう。
(江口由美)
 

<作品情報>
『闇金ウシジマくん Part3』
(2016年 日本 2時間11分)
監督:山口雅俊
原作:真鍋昌平「闇金ウシジマくん」(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中)
脚本:福間正治、山口雅俊
出演山田孝之、綾野剛、本郷奏多、白石麻衣、藤森慎吾、筧美和子、最上もが、崎本大海、やべきょうすけ他
配給:東宝映像事業部=S・D・P
2016年9月22日(木・祝)~TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://ymkn-ushijima-movie.com/
©2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん3」製作委員会
 
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