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『永い言い訳』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本 
上映時間 2時間04分 PG-12
原作 西川美和(『永い言い訳』文藝春秋刊)
監督 脚本・監督: 西川美和
出演 本木雅弘/竹原ピストル 藤田健心 白鳥玉季 堀内敬子/池松壮亮 黒木華 山田真歩/深津絵里
公開日、上映劇場 2016年10月14日(金)~全国ロードショー

 

失って初めて気付く家族のありがたさと、愛情を注げる幸せと

 

この夏、心を捉えて放さなかった映画がある。“妻が死んでも涙すら流せない”男が、他人の家族との交流を通して、亡くなった妻の愛の深さや自分自身を見つめ直していく映画『永い言い訳』である。西川美和監督の『夢売るふたり』以来4年ぶりとなる新作は、自意識は強いが自分自身を見失いがちな現代人を反映しているようだ。心の奥底で迷いながら生きる術を見出そうともがく有様を描いた、直木賞候補にもなった自著の同名小説を映画化。西川美和監督の鋭い洞察力と的確な人物描写に惹き込まれながら、主人公が葛藤の末に体得した穏やかな表情に希望を抱ける傑作である。


nagaiiiwake-pos.jpg冒頭映し出される中年夫婦。夫の髪に手慣れた手付きでハサミを入れる妻。妻はただ普段通りに振る舞っているだけなのに、妻の過去の言動や物言いに逐一文句を付ける夫。妻を疎ましく思い、冷ややかな夫婦関係を如実に表している。このシーンだけでも、我が家の夫婦の会話をモデルにしているのでは?と思えるほどのリアルさに心を鷲掴みにされた。どうやら、ワイドショーなどでコメンテーターとして活躍している小説家の夫・幸夫(本木雅弘)だが、売れない頃は美容師をしている妻・夏子(深津絵里)が支えてきたらしい。合意の上で子供を作らなかったと言っているが、歪んだ自意識と自己嫌悪からくる夫の意向が強かったようだ。


妻が旅行に出掛けた途端、愛人(黒木華)を家に引き入れる幸夫。翌朝、愛人とTVのニュースでバス事故の映像を見ていても気付かず、その後警察からの電話で妻の事故死を知る。警察で、妻が誰とどこへ出掛け、前夜何を食べたか、何を着ていたか?などと訊ねられても何ひとつ答えられない。いかに妻に無関心だったことか。(ここでも強く共感してしまった!)悲劇の小説家として世間の注目を集めるが、葬儀でも泣けない幸夫。マネージャー(池松壮亮)の視線の先にある幸夫の様子を捉えた映像がまた怖い。妻を亡くした悲しみより体裁を気にする様子や、徐々に感情のコントロールが利かなくなっていく様子など、幸夫の変化を鋭く捉えている。


nagaiiiwake-500-3.jpg同じく事故で亡くなった妻の親友の家族と出会う。「幸夫くん!」と気安く呼ばれ最初は戸惑うが、幸夫とは対照的に妻の死を嘆き続ける父親の陽一(竹原ピストル)と、悲しみを堪える健気な小6の息子・真平(藤田健心)、そして天真爛漫な幼稚園年長組の娘・灯(白鳥玉季)と関わっていくうちに、今まで得られなかった家庭の温もりを知る。時折、灯が発する大人には言えない“ズバリ”な言葉が笑いを誘う。幸男は妻の死後、愛人にも愛想つかされ、やる気を失い荒れ放題になった自宅より、陽一ら家族の住む団地の方に自分の居場所を見出すようになる。幸夫とは対照的な愚直なトラック運転手を演じた竹原ピストルがいい味を出している。


nagaiiiwake-500-1.jpg西川監督は、「災害や不慮の事故などで後悔の残る別れ方をした人々」の心情に基づいて本作の物語を思い付いたそうだ。主演の本木雅弘は、「自意識の度合いは恐ろしく高いのに、健全な範囲での自信に欠けている幸夫」の役を、「身の丈に合った役柄」と感じたらしい。西川監督も、「人間の愛すべき弱さをたっぷり持った方で、心の脆さや強がり、どうしようもなさをすべてぶつけてくれた」と本木を大絶賛。妻役の深津絵里は、冒頭登場しただけで、後は遺影としてその存在感を示していく。「観客に謎を残す余白のある女優」という監督の言葉通り、深津絵里が居るだけでその場の関係性が理解できてしまうから不思議だ。


nagaiiiwake-500-2.jpgいつも当たり前のように存在している家族。失って初めてその存在の大きさに気付く。疎ましくても、面倒くさくても、自分が素でいられ、甘えることができ、誰よりも心配してくれる家族。何より、自分が愛情を注げる対象がいること自体が幸せなことなのだ。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://nagai-iiwake.com/

(C) 2016 「永い言い訳」製作委員会