原題 | THE FINAL LESSON |
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制作年・国 | 2015年 フランス |
上映時間 | 1時間46分 |
原作 | ノエル・シャトル著『最期の教え 92歳のパリジェンヌ』青土社刊 |
監督 | パスカル・プザドゥー |
出演 | マルト・ヴィラロンガ、サンドリーヌ・ボネール、アントワーヌ・デュレリ、ジル・コーエン、グレゴアール・モンタナ、ザビーネ・パコラ他 |
公開日、上映劇場 | 2016年10月29日(土)~シネスイッチ銀座、11月5日(土)~シネ・リーブル梅田、11月12日(土)~京都シネマ、シネ・リーブル神戸他全国順次公開 |
受賞歴 | フランス映画祭2016観客賞 |
★最期まで自分らしく。闘い続けた母が家族に遺したものとは?
今年の元旦の新聞全面広告で、樹木希林さんの姿と共に「死ぬときぐらい好きにさせてよ」というキャッチコピーが書かれていたのを観た方はいるだろうか?今の時代の“死”を考えさせられるこの言葉が頭から離れずにいたのだが、本作を観て、これぞ主人公、92歳のマドレーヌの気持ちを端的に表していると唸った。リオネル・ジョスパン仏元首相の母の実話を基に、母の決断と家族の葛藤、そして“その日”が来るまでのかけがえのない日々を描いたヒューマンドラマ。社会と様々な闘いを続けてきたマドレーヌが、自分らしくいられる間に死にたいと願い、闘う姿は、線香花火が落ちる間際にひと際輝きを放つがごとく、生命力に溢れている。
マドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)92歳の誕生日パーティー。家族が集まり、「100歳まで!」とキリのいい数字が書かれた横断幕の下スピーチを求められた彼女から飛び出したのは、「2か月後、私は逝きます」という人生終えます宣言だった。母の突然の言葉をなんとか撤回させようと、娘ディアーヌ(サンドリーヌ・ボネール)、息子ピエール(アントワーヌ・デュレリ)は説得にあたるが、マドレーヌと気持ちがすれ違うばかり。お手伝いのヴィクリア(ザビーネ・パコラ)だけは、マドレーヌの終活を「棺桶まで自分で閉めるつもり?」とツッコミながら温かく見守っていた。そんなある日、マドレーヌが風呂場で倒れ、入院してしまう…。
助産婦として働き続け、社会運動にも積極的に参加し、気概のあるマドレーヌ。そんな母の子どもであるディアーヌとピエールの“最後の願い”の受け入れ方の違いは非常に興味深い。入院中の母の姿を見て、母の願いを叶えようと決意するディアーヌと、たとえ寝たきりになろうが生きるべき、生きてほしいと願うピエール。更にはおばあちゃん大好きな孫、マックス(グレゴアール・モンタナ)の心も揺れに揺れる。いつかは別れると分かっていても簡単に受け入れられない「死」。そんな議論の中、アフリカがルーツのヴィクトリアは独特の死生観を持ち、マドレーヌを抱いてアフリカの子守歌を歌う。「死」という普遍的なテーマを、様々な立場の視点で描くことが本作の狙いでもあるとパスカル・プザドゥー監督は語っていたが、生き方同様、死に方も人生の集大成。個性が現れて当然、そして受け止め方も一様ではないと改めて思う。
レストラン開業準備を進める夫を横目に、母が最期の瞬間までにやりたいことを共にし、知らなかった母の過去に触れ、改めて母の生き様を胸に刻むディアーヌ。母から譲り受けた赤いワンピースでレストラン開業パーティーに出たものの、夫と喧嘩し飛び出してしまう。そんなディアーヌが病院の看護師のバイクで誘われたのは、なんと陸上トラック。そして裸足になり、赤いワンピース姿のまま激走する!走りながら、そして走った後、色々なことを考えて頭一杯になっていたディアーヌの晴れやかな表情に、支える側の気分転換も大事と囁かれた気分になる。私のお気に入りのシーンだ。
マドレーヌが入院中、同室の老男性と人生について語っているときに流れたジルベール・ベコーの名曲『そして今は』の力強さは、身体は衰えても、しなやかに我が道を行く彼女たちへの応援歌のように効いている。そして何よりも、92歳マドレーヌの老いをリアルに、そして情熱的な性質を自然に演じ、内なる葛藤を観客に共有させてくれたマルト・ヴィラロンガの演技に、大きな拍手を送りたい。尊厳死をテーマとする作品が増えている中、尊厳死が認められない国で実行する物語は珍しく、だからこそ様々な問題を考えるきっかけとなる作品。しかも、後ろ向きではなく、どこか前向きな気持ちで考えようと思える。それは、原題の“THE FINAL LESSON”が示す通り、人生最後で最大の教示をマドレーヌから与えてもらったように感じるからだろう。
(江口由美)
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