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心の占領をコメディーで描く『テルアビブ・オン・ファイア』サメフ・ゾアビ監督、出演ヤニブ・ビトンさんが登壇@TIFF2018

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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品であり、かつ特集「イスラエル映画の現在2018」作品のルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作映画『テルアビブ・オン・ファイア』が上映され、サメフ・ゾアビ監督、検問所のアッシを演じたヤニブ・ビトンさんが記者会見で、作品の狙いを語った。
 
 
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<あらすじ>
67年の第三次中東戦争を題材にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作インターンをしているサラムは、毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、検問所の主任アッシと知り合い、「テルアビブ・オン・ファイア」のスタッフであることを知られてしまう。アッシは、ドラマの大ファンの妻に自慢したいがために、サラムのIDカードを取り上げ、ドラマの脚本に関わることになる。アッシの脚本案で、サラムは正式にドラマの脚本家となるものの、ドラマの結末にアッシとスポンサーが不満を抱き・・・。
 
パレスチナ人で、現在テレアビブに在住のゾアビ監督は、作品のアイデアについて「コメディーですが、とてもパーソナルな映画です。わたしも主人公サラムと同様にアラブ社会とは少し隔離されている場所にすみ、毎日のようにイスラエル人と共存しなければなりません。そして、常に自分自身の声を模索している。そういうシチュエーションからサラム役が生まれました。アーティストとしては自分なりに違う視点で描いているつもりですが、見ている方から政治よりの内容に見られてしまうのが、自分の中でのジレンマです。この作品はコメディーですが、コメディーに込められたジョークが二の次です。僕にとっては、コメディーが成立しているシチュエーションを皆さんにわかっていただきたいのです」
 
個性的でチャーミングな部分もある検問所の主任アッシを演じたヤニブ・ビトンさんは、テルアビブ在住のイスラエル人。主に舞台やテレビで活動し、映画出演は本作が2本目だという。ビトンさんは、この役を射止めたときのことを回想し、「僕はオーディションでこの役を得ましたが、その前に脚本の一部や作品に対するメモを読ませていただきました。この作品はコメディーで、パレスチナとイスラエルの問題を本格的コメディーとして描いた映画は今までなかったので、とても興味を持ちました。政治的な視点や、様々なシチュエーション、キャラクターに本当に共感できました。これまで色々なオーディションを受けましたが、一番やりたいと思った役ですし、ベストのパフォーマンスができたと思います。映画ではユダヤ人たちの歴史を、皮肉を込めて演じました」と役柄同様、表情豊かに語った。
 
 
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作品中でアッシが、サラムに美味しいフムスを要求し、フムスを作る場面や、食べる場面が度々登場するが、フムスに込めた意味についてゾアビ監督は、「フムスは政治的な意味も込められています。ある種のメタファーです。元々、パレスチナ人の食べ物で、イスラエル人がパレスチナを占拠したとき、我々の文化も取り入れていったのです。フムスは土地も象徴しています。我々のアイデンティティがフムスだとすれば、それをイスラエル人に取られてしまった訳です。コメディー的な見所としては、劇中で、誰のフムスが美味しいかを議論します。なぜかイスラエル人はフムスが好きです。僕も、母も作りますが、ビトンさんはいつも美味しいレストランがあるから食べに行こうというのですが、僕たちにしてみればフムスは家で作るものです」と、フムスに込めた深い意味を説明。ビトンさんも、「イスラエル人は美食家を装うのが好きですが、卵を入れたり、レモンをかけたりします。ただ、この映画の中で、食べなければいけなかったフムスは本当に不味かったです」と笑いを誘った。
 
イスラエルでは来年3月公開が決まっているという『テルアビブ・オン・ファイア』。最後に、ゾアビ監督は、「占領は実際に行われており、我々パレスチナ人は国もなければ市民権もなく、若い世代の将来もありません。それは深刻なことです。でも実際に占領されていることを描く必要はなく、それより、日々我々が受けている精神的な占領を描きたかったのです。アッシが結婚式の結末にしようとするのは、イスラエルのイデオロギーを押し付けようとしていることを象徴しています。ただ、それ以上の将来は見えません。精神的な占領は両方持っていることですし、オスロ合意の先に何があるのか見ることができないのです。オスロ合意の状況は僕にとっては全然うまくいっていないし、パレスチナ人は今だに自分たちの声がないのです。コメディーは悲劇を描くのに適していると思い作りましたが、この映画が答えよりも多くの質問を出して欲しいと思います」と本作に込めた政治的意図を明かし、議論のきっかけとなることを望んだ。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)