オムニバス形式で10年後の自国を描く「十年」プロジェクト。そのタイ版であり、『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクンが統括を務めた『十年 Ten Years Thailand』が、現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で10月28日に上映され、プロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんが登壇した。
15年に香港で公開され、5人の若手映画監督が10年後の香港を描くオムニバス映画『十年』が国を超えて、大きな反響を巻き起こし、日本、タイ、台湾の国際的プロジェクトとなった。日本版『十年 Ten Years Japan』が11月3日全国ロードショーされるのを始め、いずれかの『十年』を見て刺激を受けた国の映画作家が、その国なりのオムニバスを作る動きも見られており、さらに国際的な広がりを見せているプロジェクトとなっている。タイ版は、アーティット・アッサラット監督が、写真展が表現の自由が制限される様子を描いた「Sunset」、ウィシット・サーサナティアン監督が、猫人間に支配された社会を描いた「Catopia」、美術家のチュラヤーンノン・シリポンが、女性の独裁者が君臨する世界を描いた「Planetarium」、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が銅像の立つ工事中の公園と、そこで休息し語り合う人々を描いた「Song of the City」の4本からなるオムニバスだ。
インディーズ映画のプロデューサーとして働いていたパオシーチャルーンさん。本プロジェクトは、タイで政治的な問題が勃発し、芸術の表現の自由に疑問を感じた人たちと共に「フィルムズ フォー フリー」プロジェクトを始めたことがきっかけだったという。「その後、香港映画の『十年』が上映され、それも政治的な状況を反映していたので、ぜひ『十年』タイ版を作りたいということで、同プロジェクトを発展させる形でスタートしました」とその経緯を説明。香港、日本共に若手監督が起用されているが、タイ版は名匠、アピチャッポン・ウィーラセタクンも統括兼監督として加わっていることについては、「タイのインディーズ映画の価値観をもっと高めたいということで始めたプロジェクトなので、4人の監督は様々な年代、多様な個性を持った方に依頼したいと思い、この4人に選びました」と、独自の事情があることを明かした。
現在タイでは12月公開予定だそうだが、タイのマスコミからも本当に予定通りに公開できるのか興味を持って見られている状態だという。パオシーチャルーンさんは、「この作品はタイでは絶対上映させなければいけないと思っています。私たちの『十年 Ten Years Thailand』はとてもチャレンジングな企画ですが、制作の過程ではタイの憲法に照らし合わせながら、検閲が入るギリギリのところに触れないように配慮しました。上映できないということは考えていません。日本の皆さんもタイで上映できるように応援してください」と日本の観客に呼びかけた。
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品では、公園に元タイ首相のソリット・タナラット氏の銅像が置かれ、ずっと銅像が映されるのが印象的だが、「アビチャッポン監督からみなさんに伝えて欲しいと言われたのは、あの銅像は意図的に使っているということです。未来は現在、過去から繋がっているので、その繋がりを過去に建てられたもの(銅像)を使って示しました」とその真意が語られた。最後に、「タイでは、映画はメディアであり、社会に影響を与えるものとみなされています。タイのメジャー系映画館のマネージャーから電話をいただき、ぜひ上映して欲しいと言われています。来年、選挙を控えているので、社会的な問題も捉えていきたいという狙いがあるのだと思います」と、タイ国内での公開に向けての良い動きがあることを付け加え、国内公開に向けての強い決意を新たにした。
『十年 Ten Years Thailand』は11月2日(金)15:50から2回目の上映が予定されている(残席あり)。上映後にはプロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんのQ&Aも開催予定だ。
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)