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『母の身終い』

 
       

 

mijimai-550.jpg『母の身終(みじま)い』

 

       
作品データ
原題 Quelques heures de printemps 
制作年・国 2012年 フランス 
上映時間 1時間48分
監督 監督:ステファヌ・ブリゼ(『愛されるために、ここにいる』)  脚本:フロレンス・ヴィニョン、ステファヌ・ブリゼ
出演 ヴァンサン・ランドン(『すべて彼女のために』『君を想って海をゆく』)、エレーヌ・ヴァンサン(『人生は長く静かな河』『ぼくのバラ色の人生』)、エマニュエル・セニエ(『潜水服は蝶の夢を見る』『危険なプロット』)、オリヴィエ・ペリエ(『神々と男たち』)
公開日、上映劇場 2014年1月11日(土)~梅田ガーデンシネマ、1月18日(土)~京都シネマ、2月1日(土)~元町映画館 他全国順次公開

 


~怒りや悲しみをのり越えて救われる親子の情愛~


 

mijimai-4.jpg 本作は『フランス映画祭2013』上映作の中で最も衝撃的で感動的な作品だった。『危険なプロット』や『タイピスト!』『わたしはロランス』『黒いスーツを着た男』等の注目作が多い中、全くノーマークで見てノックアウトされてしまったのだ。年老いた母親と48歳の息子との確執を、緊迫した臨場感あふれる映像で語りかけて秀逸。肉親だからこそ素直に優しい言葉が言えない。口を開けばケンカばかり。何がこの親子をそうしたのか? 自らの最期を独断で決めた母の覚悟とは? 親子に和解は訪れるのか?


mijimai-3.jpg 【STORY】
   アラン(ヴァンサン・ランドン)は48歳にもなって家族もなければ職もない。おまけに薬物密輸の罪で18か月服役し、今は実家で母親のイヴェット(エレーヌ・ヴァンサン)に食べさせてもらいながら職探しの日々。せっかく就いた廃品分別の仕事もすぐに辞めてしまう。根気がなく、だらしないアラン。生真面目なイヴェットはそんな息子に苛立ちを隠せない。アランも面会に一度も来なかった冷たい母親にイラついている。口を開けば大声で怒鳴り合うふたり。

 ある日、アランはボーリング場で知り合ったクレメンス(エマニュエル・セニエ)という魅力的な女性と知り合い愛情を感じるが、職業を訊かれ答えられなかったことから気まずくなって別れてしまう。イヴェットはアランが服役した頃から脳腫瘍を患い、余命幾ばくもないことを自覚していた。専門医でも手の施しようがなく、このままでは自分自身を失い激痛に襲われる。そこで、スイスの自殺幇助をしてくれる団体と契約を結ぶ。そんな母親の病状を知りながらも激昂して「さっさと死ね!」と言って家出してしまうアラン。唯一ふたりの状況を理解する隣人のラルエットさんは、アランを優しく諭す。いよいよイヴェットの旅立ちの日は迫ってくる。

 


 

mijimai-2.jpg  確執を抱えた親子の様子を淡々と描いているようで、実に計算されたシーン作りが成されている。アランが食事しているそばからパンくずを掻き集めたり、犬の散歩から帰ってきたアランに犬の足を拭いたかと怒鳴ったり、またクロスやリネン類にアイロンをかけて丁寧に折り畳む様子など、イヴェットの几帳面で潔癖症な性格がよく分かる。アランにとって実家とはいえ、母親が守ってきた家に居候する身。イヴェットは、アランがタバコを吸ったりだらしなく食事したりすることにも我慢がならないが、それより、いい歳をして不甲斐ない息子が心配で堪らないのだ。ふたりが別々の部屋で食事するシーンが面白い。ふたりが交互に愛犬を呼び合うものだから、犬も行ったり来たり。しまいには、家出したアランを呼び戻すために犠牲を強いられるような羽目にも……イヴェットの切羽詰まった状況がひしひしと伝わってくる。

 スイスから自殺幇助の会の人が二人面談に訪れたシーンが見事だ。左右にアランとイヴェットが、協会の二人は正面と背中向きに座る。協会の人の質問に淡々と答えるイヴェット。その中で「幸せな人生でしたか?」と訊かれ、しばらく間をおいて「人それぞれよ」と答える。イヴェットの正面には息子アランの顔が……勝手な夫に虐げられ何も自分で決められない人生を歩んできた母親の苦悩がにじむ。自分の最期ぐらいは自分の意志で決める。それがイヴェットに残された唯一の自由な生き方なのだから。

 

mijimai-6.jpg  アランは母親の覚悟と同時に母親の人生を初めて知る。母親の愛を感じられずに生きてきたアランにとってそれは衝撃的なことだった。だが、頑なな母親を少しは理解でき、彼自身も明らかに変わっていった。母親に付き添いスイスへと向かう車中でも語り合うことはない。親子だもの、お互い愛おしく思う気持ちがない訳がない。もっと語り合いたかったに違いない。 胸が張り裂けるような思いで迎えた最期。その時二人が見せた姿が目に焼き付いて離れない。思い出す度に目頭が熱くなってくる。

 この映画を見て、安楽死や尊厳死にばかり注目する人もいるだろう。だが、そのことよりも、確執を抱え気持ちを素直に表現できない親子が、怒りや悲しみをのり越え、心がどのように救済されるのか、その様子を見守ってほしい。この映画は、最も身近な家族の情愛を描いているが、これほど普遍的で共感しやすいテーマはない。誰にでも身に覚えのあることを、ステファヌ・ブリゼ監督とフランスの名優たちによって歴然と見せつけられたようで、心の奥底をかき乱される思いがした。

 

(河田 真喜子

公式サイト⇒ http://www.hahanomijimai.com/

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