「AI」と一致するもの

french2014-pos.jpg『フランス映画祭2014』を見終えて(7/1現在の感想)*随時追加予定


  今年のフランス映画祭は、新作11本、フランソワ・トリュフォー監督作『暗くなるまでこの恋を』の旧作1本、計12本が上映された。記者会見でゲスト監督たちが述べたように、性描写や暴力描写が間接的な表現に止まっていることが大きな特徴といえる。それまで必ずといってもいいくらい性描写があったのが影を潜めている。それより、フランス特有のウィットに富んだ脚本で、夫婦や親子や恋人など、身近な人間関係を優しく描いた作品が多く、とても楽しく過ごせた映画祭だった。そんな中特筆すべきは、ドキュメンタリー映画『バベルの学校』。多民族国家フランスならではの社会状況を凝縮したような学校で、多くの事情を抱えて生きる外国からきた生徒を、気長に優しく受け入れ、彼らの言葉に耳を傾ける先生の寛大さに感動する。
自由・平等・友愛の国フランスならではのヒューマンドラマの数々を、是非関西でもお楽しみ下さい。
(河田 真喜子)

★シネ・リーブル梅田(7/2(水)~7/6(日))⇒ こちら

★京都シネマ(7/5(土)~11(金))&同志社大学寒梅館(7/3(木))⇒ こちら


【新作だけの感想】(勝手にオススメ順!)


 ★《観客賞受賞作》
『バツイチは恋のはじまり』Fly Me to the Moon
*(2014年9月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開) 

 いや~涙が出る程笑った!ダニー・ブーンがコメディアン本領発揮!クール・ビューティも破顔、こんなダイアン・クルーガー見たことない!

batuichi-1.jpg 家系的に必ず1度目の結婚に失敗するというジンクスを抱えたイザベルが、10年も同棲している恋人との結婚を成功させるため、誰でもいいから虚偽結婚してバツイチになろうと選んだ相手がツアーガイドのジャン=イヴだった。ところが、中々離婚できずに悪戦苦闘するという物語。お話に無理があるだろうと思ってと見たら、とんでもない!パリからデンマークへ、さらにケニアやモスクワとワールドワイドのロケも成功。

 特に、ケニアでのライオンのシーンや歯科診療室でのシーン、脱毛のシーンは傑作!行く先々で繰り広げられる二人の珍道中を見ているうちに、いつしか自分にとっての本当の幸せとは何かを考えさせられる。イザベルのどんな嫌がらせにも寛大に応えるジャン=イヴの一途さがいい。何と言っても、「気持ち良く心の底から笑えるのが一番」というダニー・ブーンの品のいいコメディセンスが最大限に活かされた傑作コメディ!


 
間奏曲はパリで』La Ritournelle

*(フランスでも6月に公開されたばかりの新作。こんなに面白い作品なので、来年くらい公開されるのでは?)


 またもやクール・ビューティの登場。とても還暦を迎えているとは思えないイザベル・ユペール。現在公開中の『ヴィオレッタ』でも、スリムでゴージャスなヴィンテージファッションを着こなし猛母を怪演。今回は彼女にしては珍しく、ノルマンディーで夫と酪農を営んでいる田舎のおばさん役を演じている。主人公のブリジットは、パリから遊びに来た若者に「綺麗だ」と言われ、ついその気になり、夫に嘘をついてアヴァンチュールを求めてひとりパリへ行く。そこでイザベル主演作『ボヴァリー夫人』(‘91)を思い出したが、本作ではヒロインは破滅へとは向かわない。

kannsoukyoku-1.jpg ちょっと皮肉屋の夫グザヴィエを演じたジャン=ピエール・ダルッサンがまたいい!『キリマンジャロに降る雪』や『ル・アーブルの靴みがき』などでもそうだったが、飄々としながらも滋味深い包容力を感じさせる。妻を追ってパリへ行き、妻が男と一緒だと知って、パリの学校でトランポリンを学ぶ息子を訪ねる。酪農を継がず軽業師のようなことをする息子をバカにしていたグザヴィエだったが、初めて見る息子のパフォーマンスに心を射抜かれる。階段から落ちては起き上がるというトランポリンを使ったステージだったが、そのアーティスティックで美しいパフォーマンスに、グザヴィエ同様、見ているこちらもハッとするほどの感動を覚える。その時のグザヴィエの表情がいい!

 夫婦をはじめ息子やパリで出会う人物など、それぞれの関係性をウィットに富んだ会話で綴られていく物語に感服!そのよく練られた脚本を書いたマルク・フィトゥシ監督の才能に感謝したくなるほど、幸せな気分になれる作品だ。


 
グレートデイズ! -夢に挑んだ父と子

ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム 』Geronimo

友よ、さらばと言おう 』Mea Culpa 

イヴ・サンローラン 』Yves Saint Laurent

『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers  

バベルの学校 』La Cour de Babel

『素顔のルル』Lulu, femme nue

スザンヌ 』Suzanne
 

 


 

Fly Me to the Moon(英題) 』『邦題「バツイチは恋のはじまり」』Un plan parfait

監督:パスカル・ショメイユ
出演:ダイアン・クルーガー、ダニー・ブーン、アリス・ポル、ロベール・プラニョル
2012/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch
配給:ファントム・フィルム
*2014年9月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開
©2012 SPLENDIDO QUAD CINEMA / TF1 FILMS PRODUCTION / SCOPE PICTURES / LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI / CHAOCRP DISTRIBUTION / YEARDAWN

間奏曲はパリで』La Ritournelle

監督:マルク・フィトゥシ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ピエール・ダルッサン、ピオ・マルマイ
2013/フランス/99分/ビスタ/5.1ch
© DR

バベルの学校 』La Cour de Babel

監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:ブリジット・セルヴォー二
2013/フランス/89分/ビスタ/5.1ch
配給:ユナイテッド・ピープル
*2014年末から2015年年始公開
© Pyramide Films
ある教師の人生最後のクラスに集まったのは国籍がバラバラの学生たち...
出会い、そして別れ。国境を超えた仲間愛が凝縮した感動のドキュメンタリー。

 

グレートデイズ! -夢に挑んだ父と子

監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー、ファビアン・エロー
2014/フランス/90分/ビスタ/5.1ch
配給:ギャガ
提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ
※2014年8月29日(金)より、TOHOシネマズ 日本橋、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
© 2014 NORD-OUEST FILMS - PATHÉ PRODUCTION - RHÔNE-ALPES CINÉMA

『最強のふたり』の感動再び!失業中の父と、車いすの息子。
凸凹親子が挑むのは、最も過酷なトライアスロン最高峰"アイアンマンレース"!

 

イヴ・サンローラン 』Yves Saint Laurent

監督:ジャリル・レスペール
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルボン、ローラ・スメット
2014/フランス/106分/シネマスコープ/5.1ch
配給:KADOKAWA
*2014年9月6日(土)より、角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他 全国ロードショー
© WY productions - SND - Cinéfrance 1888 - Herodiade - Umedia
<受賞歴>
2014年ベルリン国際映画祭 パノラマ部門オープニング作品

今年、創刊25周年を迎えるインターナショナルな女性誌「ELLE JAPON」は、"モード界の帝王"の「光と影」に迫るファッショナブルな話題作をお届けします。
時代を変えた、伝説のファッションデザイナー、イヴ・サンローラン。
華麗なるキャリアを築いた人生の喝采と孤独を描いた感動作

 

ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム 』Geronimo

監督:トニー・ガトリフ
出演:セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア
2014/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch
© Film du Losange
<受賞歴>
2014年 カンヌ国際映画祭 特別招待作品

トニー・ガトリフ流『ロミオとジュリエット』『ウエスト•サイド•ストーリー』!
エネルギーあふれる恋愛劇をフランス公開にさきがけて上映!

 

友よ、さらばと言おう 』Mea Culpa

監督:フレッド・カヴァイエ
出演:ヴァンサン・ランドン、ジル・ルルーシュ
2014/フランス/90分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
*2014年8月1日(金)より、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
© Thomas Brémond © copyright Gaumont - LGM Cinéma

『すべて彼女のために』『この愛のために撃て』のフレッド・カヴァイエ最新作。
二人の刑事が過去と向き合いながら、家族を守るために激走する。

 

 『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

監督:ジャン=ポール・サロメ
出演:フランソワ・ダミアン、ジェラルディン・ナカシュ、リュシアン・ジャン=バティスト
2013/フランス、ベルギー/105分/ビスタ/5.1ch
© Diaphana Films

フランソワ・ダミアン(『タンゴ・リブレ』)とジェラルディン・ナカシュ(『プレイヤー』)の絶妙なかけあいでおくる、ジャン=ポール・サロメ監督初のコメディ!

  

2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers

監督: セバスチャン・ベベデール
出演: ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィラー、バスティアン・ブイヨン、オドレイ・バスティアン
2013/フランス/90分/スタンダード/5.1ch

<受賞歴>
2013年 トリノ国際映画祭 審査員特別賞
2013年 Cinessonne(エソンヌ県ヨーロッパ映画祭) 観客賞

フレンチ・ニュー・ウェーヴの傑作!
注目度NO.1の若手俳優V・マケーニュ(『女っ気なし』)が期待通りの好演!

『素顔のルル』Lulu, femme nue

監督:ソルヴェイグ・アンスパック
出演:カリン・ヴィアール、ブリ・ラネール、クロード・ジャンサック
2013/フランス/87分/シネマスコープ/5.1ch
<受賞歴>
2013年サルラ映画祭(フランス) 女優賞
 © Isabelle Razavet - Arturo Mio

スザンヌ 』Suzanne

監督:カテル・キレヴェレ
出演:サラ・フォレスティエ、フランソワ・ダミアン、アデル・エネル
2013/フランス/94分/ビスタ/5.1ch
『アデル、ブルーは熱い色』のアブデラティフ・ケシシュ監督が『身をかわして』で見出した若き才能、サラ・フォレスティエの演技が見るものを魅了する

 

 

parkland-550.jpg『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』

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『あいときぼうのまち』菅乃廣監督、井上淳一さん、大島葉子さんインタビュー
(2013年 日本 2時間6分)
監督:菅乃廣 
脚本:井上淳一
出演:夏樹陽子、勝野洋、千葉美紅、黒田耕平、瀬田直、大島葉子 ほか
2014年6月28日(土)~テアトル梅田、今夏京都シネマ、元町映画館他全国順次公開
※テアトル梅田公開初日、菅乃廣監督、千葉美紅さん、夏樹陽子さん、黒田耕平さん舞台挨拶予定
※大阪アジアン映画祭2014メモリアル3.11部門入選
 ドイツ・フランクフルトNippon Connection2014 Nippon Visions部門公式出品作品
(C) 「あいときぼうのまち」映画製作プロジェクト
 

~70年、4世代から浮かび上がる原発を背負わされた福島の闘い、そして未来~

 
1945年、福島県石川町で行われていた学徒動員によるウラン鉱石採掘から、1966年福島県双葉町での原発建設反対運動による町民同士の軋轢と運動の終焉、そして2011年福島県南相馬市に押し寄せた東日本大震災による津波と原発事故による肉親の死、東京への避難生活・・・。4世代70年に渡って描かれる原子力エネルギーをめぐる抵抗と翻弄の歴史の中で、抵抗する人もいれば、従う人もいる。震災後様々な形で3.11が映画の題材となっているが、福島の人々や変わりゆく街を真摯に見つめているのが印象的な『あいときぼうのまち』は、過去から現在への流れが体感できる野心作だ。監督は福島県出身の菅乃廣。脚本は『戦争と一人の女』で監督デビューを果たした井上淳一。夏樹陽子、勝野洋をはじめ、『戦争と一人の女』にも出演している大島葉子も井上作品で再び出演を果たしている。
 
3月の大阪アジアン映画祭2014メモリアル3.11部門上映でも好評を博した本作の菅乃廣監督、井上淳一さん、大島葉子さんがキャンペーンで来阪し、70年に渡る福島と原発の歴史を描く本作の企画~脚本が出来上がるまでの経緯や、福島原発問題を扱った作品に役者として出演することの意味、タイトルに込めた狙いについてお話を伺った。
 

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―――企画のきっかけは?
菅乃:2011年福島第一原発の1号機、3号機が爆発する事故が起き、僕はその映像をテレビで観ていました。僕は福島県二本松市出身ですが、大学以降はずっと東京に住んでおり、故郷を捨てたような感じになっていたのです。でも、爆発の映像を観て、福島に対する思いが強くなりました。故郷を舞台にした映画を作りたいと考えたとき、原発の問題を避けて通ることはできません。それが今回の『あいときぼうのまち』に繋がっていきました。
 
―――「これを映画にしなければ」と感じたのでは、いつですか?
菅乃:爆発の映像を観てすぐですね。本格的に動き始めたのは2011年の夏です。最初は1970年ぐらいに書かれた『原発ジプシー』という原発労働者を題材にした本を原作にと考え、今回脚本を担当していただいた井上さんに相談しました。色々検討した結果、今回はオリジナル脚本で行く方向性となったのです。
 
―――1945年から2012年まで、70年弱という非常に長いスパンで、福島の4つの時代を取り上げ、脚本にしようと考えた理由は?
井上:3.11を経験して、モノを表現する人は皆、これからは3.11後を意識しなければと思ったはずです。ただ実際には苦労しました。原作と考えていた『原発ジプシー』は原発労働の詳細を描いているので、原発の中でロケができないとなると、セットを作らなければなりません。台詞にも書きましたが、「原発は最新技術で作られているけれど、やっていることは格差社会の底辺の人による人海戦術」なのです。このままではそのテーマが立ち上がってこないので、一旦ふりだしに戻りました。
 

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―――なるほど、原作から離れて、オリジナル脚本が立ち上がるまでに、紆余曲折があったのですね。

井上:最初は現在だけを描こうと思っていましたが、本当にこれが福島の人に届くのか、被災者目線に立っているのかと考えたとき、立ちすくんでしまったのです。そのとき、たまたま新聞で読んでいたウラン開発の記事を目にし、車で福島まで行ったときのことを思い出しました。そこで、東京と福島は地続きであることに改めて気づいたわけです。津波被害も、ほんのちょっとの高低さで建物が残っている場所もあれば、全て流された場所もあり、そこにいたのが僕でもおかしくはなかった。ウラン採掘の石川町に寄った時も、土地だけでなく時間も地続きなのだと思ったのです。ウラン採掘の問題を取り入れることで、他の3.11を扱った映画と差別化を図れるし、ドキュメンタリーにはないフィクションの視点を獲得できるのではないかと考えました。また監督からは、66年原発反対運動が潰れていく様も描いてみてはとアドバイスをいただいたのです。そうすれば、全体的なテーマとして、国家及び国家的な政策によって蹂躙(じゅうりん)された命や尊厳を奪われた人たちの歴史が描けるのではないか。そういう発想で書き上げていきました。

―――時代をクロスさせるような作りにした狙いは?
井上:我々が描くべきものは人間です。10年ぐらい前からメキシコの脚本家、ギジェルモ・アリアガ(『バベル』脚本を担当)は時制を入れ替えて書いています。ある時期から、ふつうの時間軸だけではこの世の中を捉えられないと、世界中の作家が感じたのだと思います。福島の被災者といっても色々あるわけで、それらを含めて包括的にやるためには、時間軸を入れ替えるしかなかったのです。
 

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―――現在の東京が舞台の場面では、井上さんご自身を投影した役もあるそうですね。
井上:僕は被災地ボランティアに行かず、募金をしてしまうとそこで完結してしまうような気がして、それもできずにいました。「絆」、「がんばろう」、「一人じゃない」という言葉への嫌悪と相まって、何もできずに半年経ち、現地を見に行くことしかできない。カッコつけて言えば、そういう自分を、「引き受けて」書くことしかできないのです。僕を誰に重ねたかといえば、福島から避難して東京で暮らしている高校生、怜が渋谷で出会った募金詐欺の「俺はライターだ」と言う男です。何もしていないように見えて、僕の視点はあそこなんですよ。だから怜は彼だけに「死ねばいいのに」とむき出しの言葉を投げつけられるのです。そういう意味でいえば、僕がしたのは福島のことを書きながら、福島から今の日本を映すことを書いているのです。
 
―――怜と募金詐欺の沢田は、「うそなんでしょ」という言葉をお互いに投げあう姿が現在の若者たちを象徴しているようにも見えました。
井上:家族全部死んだというのは嘘だけど、ほかのことはたぶん彼女が体験してきたことなんですよね。嘘に任せるから本当が言えるという部分が人間にはあると思います。僕はいつも書くときに、本当か嘘かを考えます。その中で人は揺れるのではないのでしょうか。
 

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―――本作にオファーされたときや脚本を読まれたとき、大島さんはどんな感想をもたれましたか?
大島:作品を観ている人は役者を観ているので、出演するということは責任を持たなければいけないと思い、しっかり脚本を読んだ上でお受けしました。私も(表現者としての)責任があるということを口実に、震災後何も行動を起こさなかったのです。自分の中で「何かしなければ」と思いつつも、何もできなかった。でも、今回この脚本をいただいて、ここで一歩何か話せるのではないか。参加することによって、私も何かできるのではないかと思いました。
 
―――実際に出演されて、ご自身の中で変化はありましたか?
大島:3.11以降は福島を題材にした作品がたくさん作られており、原発を題材にして撮ることに対して、それに便乗しているのではないかと悪く言う声もたくさん耳に入ってくるので、それを知った上で自分で何かをすることに覚悟は要りました。また、周りの役者仲間は福島での撮影を断っている方もいらっしゃるのは事実です。でも、自分がどういうふうに福島にかかわっていきたいかという意味で、この作品に参加することがいいきっかけになりました。参加してよかったと思っています。
 
―――大島さんは、愛子の母役(原発建設による土地買収に最後まで応じなかった夫と娘を残して家を出てしまう)を演じています。登場シーンは少ないですが、最後に夫に対して「ごめんなさい」と言うのがとても印象的でした。
大島:自分に対して、夫に対して、娘に対して、そして全てに対しての「ごめんなさい」だと思っています。家を出ざるを得なかった彼女の行動は必ずしも悪いことではないと思います。自分がその時代に暮らしていて、その立場であれば家を出たかもしれない。だけど、そういう自分に対しての葛藤もあり、娘にも「自分のところに来てもいいのよ」と声をかければ、夫の本心を聞いてやっと全てを口に出して謝ることができたのです。とても感情的に難しい役でした。
 

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―――原発誘致に反対して土地売却の話を断りつづける家族、仕事での被ばくによるガンで息子を亡くした家族、3.11後の東京で祖母を津波で亡くした責任を感じながら生きている少女など、それぞれの時代のむしろマイノリティーになっている人々を描いていると捉えることもできますね。
大島:本当に個人的な自分の中のことを客観的に出す。ここに出てくる登場人物ではなくても皆それぞれ持っている事実で、たまたまそれを象徴的に全部の中で描かれているという意味では、私はそれは特別なことではないと思います。
菅乃:2011年の被災があり、その後に福島ナンバーでコンビニに入ろうとしたら断られたり、福島から東京に避難してきたら学校で色々言われたりしたという話を聞きました。3月11日を境に、福島というだけで差別される人間になってしまったのかと思うとすごくショックで、自分が難民になったような気持ちがしたのが、今回の映画の一番の動機につながるところです。今までふつうに過ごしていたのに、いつの間にか差別される人間になってしまったという思いがずっとあります。誰でも何かのきっかけで差別のような待遇を受け、理不尽な思いを受けるのではないか。物語の中にも若干そういう匂いが出ればいいかなと思っています。
井上:原発事故後、いまだに故郷に帰れない人が20万人もいる中で、彼らのことを考えることなく、平然となかったように原発稼働を押し進めることが僕には分からないのです。まるで子どものように「訳がわからない」と感じることが、僕がマイノリティーに仮託したり、彼らを描いてしまうことなのだと思います。そして、それをマイノリティー的視点というのならば、その視点こそが、危うい方向に突き進んでいく世の中をギリギリつなぎとめる水際の闘いができるのではないでしょうか。
 
―――最後に、『あいときぼうのまち』というタイトルに込めた想いを教えてください。
井上:大島渚さんは、デビュー作で階級差は決して埋まらないという話を書き、最初は『鳩を売る少年』というタイトルにしました。地味だからと『怒りの町』に変更したけれどそれも却下され、最終的には『愛と悲しみの街』で会社と合意したら、翌朝刷りあがってきた台本には『愛と希望の街』と書かれていて、愕然としたそうです。結果的に、大島さんは愛も希望もない街としかとれないような作品に仕上げたということが頭にありました。それでどうしてもこのタイトルを付けたかったのです。大島さんの作品から55年たち、階級差や愛と希望のなさがより見えにくくなっているので、ひらがなにしたら見えるのではないか。また、こういうインディーズ映画はなかなか世間には届かないので、大島さんのタイトルで響いてもらえるのではないか。そして、大島さんが亡くなった今、大島さんの椅子は空いているので、誰か座りにいかなければ席そのものがなくなってしまう。そういう意味も込めています。社会的には愛も希望もないけれど、個人個人については愛と希望をもってほしいし、これからを生きる怜には愛と希望を持ってほしいと思って脚本を書きました。
(江口由美)
 

HER-550.jpg『her/世界でひとつの彼女』

『ダイバージェント』オリジナル ①Tシャツ or ②キーチェーン(5種で1セット) プレゼント!

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(①ABNEGATION(無欲)②AMITY(平和)③DAUNTLESS(勇敢)④ERUDITE(博学)⑤CANDOR(高潔)の5種類入り)

■ 締切:2014年7月20日(日)

★公式サイト⇒ http://divergent.jp/

2014年7月11日(金)~TOHOシネマズ有楽座、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、なんばパークスシネマ、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都、ほか全国ロードショー!


 『ダイバージェント』

最終戦争から100年後の近未来―
人生の全ては、たった一度の“性格診断”で決まる。
 

全米No.1メガヒット、
2014年全米SNS期待の映画ランキングNo.1、
原作シリーズは1,900万部を突破した世界的ベストセラー、
2014年最大級の近未来SFアクションがついに上陸!!

divergent-550.jpg近未来―。人類は、たった一度の性格診断テストにより、5つの共同体(ファクション)に振り分けられた:勇気ある者が集う【勇敢】(ドーントレス)、正直者が集う【高潔】(キャンダー)、思いやりのある者が集う【無欲】(アブネゲーション)、優しい者が集う【平和】(アミティー)、知的な者が集う【博学】(エリュダイト)。
しかし、この5つに該当しない性格を持つ者が出現。それは“異端者(ダイバージェント)”と呼ばれ、その未知なる力をめぐって強大な陰謀が動き始める―。

(DIVERGENT 2014年 アメリカ 2時間19分)
原作:ベロニカ・ロス「ダイバージェント 異端者」(株式会社KADOKAWA刊)
監督:ニール・バーガー
出演:シャイリーン・ウッドリー、テオ・ジェームズ、アシュレイ・ジャッド、レイ・スティーブンソン、ゾーイ・クラヴィッツ、マイルス・テラー、トニー・ゴールドウィン、マギー・Q、ケイト・ウィンスレット脚本:エバン・ドーハティ、バネッサ・テイラー
2014年7月11日(金)~TOHOシネマズ有楽座他 全国ロードショー

公式サイト⇒ http://divergent.jp/
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『トークバック 沈黙を破る女たち』坂上香監督インタビュー

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(2013年 日本 1時間59分)
監督・製作・編集:坂上香 
2014年5月24日(土)~第七藝術劇場、京都シネマ
2014年7月26日(土)~神戸アートビレッジセンターにて公開
公式サイトはコチラ
※第七藝術劇場、京都シネマで上映後ワークショップ、トークイベントを開催
<第七藝術劇場>
5/24(土)12:15の回上映後、「映画を観た後、小さなスポットライトーわたしにも」
坂上香監督×倉田めばさん(NPO大阪ダルクセンター長/パフォーマー)
5/25(日)12:15の回上映後、「映画トークバックをトークする」ファシリテーター坂上香監督
<京都シネマ>
5/24(土)10:40の回上映後、レベッカ・ジェニスン(京都精華大学教授)x 坂上香監督
5/25(日)10:40の回上映後、レベッカ・ジェニスン(京都精華大学教授)x 坂上香監督
5/26(月)10:40の回上映後、岡野八代(同志社大学教授)×坂上香監督

 

~偏見、差別に負けない!どん底の人生をみつめ直し、声を上げる女たちの逞しさ~

 
 色とりどりのフェイスペインティングをほどこした女たちが、自らの詩を時には厳かに、時にはドンドンとリズムを刻みながら演じ、魂のこもったパフォーマンスで観客を魅了する。HIV、レイプ、薬物依存症、虐待と壮絶な事実が内在する詩には、観客の前で自らの境遇を宣言するだけでなく、それを乗り越えて生きようとする力がみなぎっている。
サンフランシスコの女性刑務所で活動中の「メデア・プロジェクト」(演劇ワークショップ)に出会ったドキュメンタリー映像監督の坂上香が、8年間にわたりメデア・プロジェクトに密着。メンバーであるHIV陽性女性たちへのインタビューを通じて、彼女たちが強いられてきた沈黙と、その奥にある誰にも語れなかった過去を振り返り、自分自身に向き合う姿を映し出す。我々や社会が持つ偏見がいかに当事者を沈黙の闇に押し込めているかを痛感する一方、彼女たちが自らの過去に向き合う姿は誰しも生きていくうえで乗り越えなければならない壁であり、傷だらけになりながら向き合う彼女たちに勇気すらもらっている気がするのだ。
 
 キャンペーンで来阪した坂上香監督に、メデア・プロジェクトに出会ったきっかけや、メデアメンバーにインタビューすることで感じとったこと、また作品中登場するトークバック(上演後キャストと観客が質疑応答を行う)を映画製作過程で行うワーク・イン・プログレスを取り入れていることについてお話を伺った。

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■様々な境界線を越えていく演劇ワークショップ「メデア・プロジェクト」の魅力とは

 
━━━メデア・プロジェクトに出会ったきっかけは?
10年前に作った『ライファーズ 終身刑を終えて』で男性受刑者に向けての「語るプログラム」を撮影しました。語り合うということはすごく大切ですが、語るだけでは十分ではない部分やもっと違うノンバーバルコミュニケーションもあります。また、受刑者が出所したときに、世の中が「あいつらはずっとダメだ」という目で見続けると、彼らもそれに反抗したり傷ついてしまいます。彼らも変わらなければいけないけれど、同時に彼らが変われる可能性を社会に知らせる何かが必要です。2005~2006年ごろ様々な表現形態を探しているうちにこのメデア・プロジェクトにたどりきました。受刑者が演劇を刑務所の中だけではなく、刑務所外でも上演したり、受刑者と一般の人たちが対話する場を持つのです。また劇が終わればトークバックが行われるなど、境界線をどんどん越えていくのが面白く、そういった革新的な活動をしているところは他にありませんでした。境界線をどんどん越えて色々な会話ができていくことが、日本の社会に必要なのではないかとずっと感じていたので、取材をしたいと思いました。実際、取材をお願いした当初は相手にしてもらえず、映像記録ボランティアとして活動し始め、映画の撮影許可がでるまで4年かかりました。
 
━━━演劇ワークショップ、メデア・プロジェクトのアプローチについて教えてください。
メデアのアプローチは演劇療法やアートセラピーなどの心理療法なのか、いわゆるアートなのか、もしくはサウンドデモのようにアートを使った社会運動なのか。代表のローデッサに、この3つの分類の中でメデアは何にあてはまるのかを聞いてみると「その一つ一つでもないし、すべてが含まれるものでもある」と答えたのです。全てを否定しないし、かといってアートセラピーのように一つに特化した目的でやっているわけではない。でもしっかりとやっていけば全てにつながるはずだというのが彼女の信念で、面白いと思いました。境界線をあえて越えることをやっていることに惹かれたのです。本当に時間をかけてやっているプロジェクトなので、結果的にはどれにでもあてはまることを取材しながら実感しました。
 
━━━HIV患者でもあるメデアメンバーの取材をするに至るまで、大変だったことは?
HIV陽性者のメンバーとは直接なかなかコンタクトをとらせてもらえず、しかも一人一人と連絡しようとするとローデッサを介さなければなりませんでした。個別にアプローチするのに時間がかかり、劇のリハーサルの時に話すぐらいしかできなかったのです。ようやく演劇の撮影に入ったときに個別にインタビューをお願いすると、皆HIVであることを家族や友人に言っていないので、家で撮影させてくれませんでした。結局カサンドラ以外は、私たちの滞在していたホテルに来てもらい撮影をする形で、彼女たちの家まで迎えに行き、撮影が終わったら家まで送ることを繰り返しました。待ち合わせをしても、その場に現れない人もおり、インタビューされたくなかった人もいたと思います。他の皆インタビューを受けているので自分だけイヤとは言えなかったのでしょう。
 

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━━━インタビューをすることで、劇やリハーサル風景だけでは見えない各メンバーの内面に肉薄し、彼女たちの痛みや克服する姿が浮き彫りにされていました。
リハーサルで詩を聞くことはできますが、彼女たちの細かいところは見えません。もっと知りたいことを彼女たちに直接ぶつけることで見えてくることがたくさんありました。私にとってインタビューは宝物です。また最初はしゃべってくれないことでも、出会ってから3年後には、もっと私との関係性ができてきました。かつて養育放棄をし、何度も逮捕歴があるカサンドラやカサンドラの娘さん等はもっと突っ込んだ話をしてくれました。
 
2012年アメリカへロケハンに行ったとき、オーストリア出身のマルレネから「この数年でいろいろあったのよ」と声をかけられました。親にもやっとHIVに感染したことを告白できたと報告してくれました。彼女は育ちが良く、「メデアのみんなは壮絶な体験をしているけれど、私は子供時代も恵まれているし、本当にラッキーだったと思う。皆本当によく生き延びてきたと感動したわ。」と言っていたのですが、実は彼女自身もひどい性暴力に遭っていたことを思い出したというのです。リハーサルの休み時間に後でゆっくり撮りたいとお願いしたら、結局はかなり具体的に話をしてくれました。詩も書いたというので、詩を読んでもらい、映画でもその場面を使っています。それだけ性暴力は意識していなくても色々な人に問題が起こっているのではないでしょうか。
 

 

■心を鬼にしてDV夫を追い出したカサンドラ、その勇気をメッセージとして映画に残す。

 
━━━人に言えないような辛い目に遭ってしまうと、自分の記憶に蓋をしてしまい、再び過去に向き合うことは相当精神的に厳しい作業ですね。
メデアでは仲間がいることが大きいと思います。演劇を作るプロセスを見ているときからそう感じていましたが、3年後にインタビューして確信に変わりましたね。特にカサンドラは、彼女がHIVであることを認めてくれる人と再婚しましたが、夫からDV被害を受け、別れることを決断したことはすごいと思っています。私はDVの被害者たちを支援する活動もしているのですが、どうしても加害しながら最後には謝ってなし崩し的になるような男との関係を断ち切れないことが多いのです。でもカサンドラは心を鬼にして夫を追い出したのです。これはメッセージとして映画に残したいと思いました。
 
 

■「死んだお姉さんの存在をみんなに知ってもらうために、私は演劇をやりたい」デボラが詩を書き、みんなの前で読むのを見て、私の中で彼女との距離が縮まった。

 
━━━他に今回取材したメンバーの中で、印象的だったエピソードを教えてください。
言語障害のデボラは、何を考えているかわからないという点で、私にとっては今回取材したメンバーの中で一番距離を感じていました。でも結果的に、一番変化が目に見える形で現れた人だったのです。
 
━━━曾祖母から祖母、母と脈々と自分に流れる血に誇りを持つ詩をデボラがリハーサルで朗読するシーンで、彼女を突き動かしている原動力はここにあるのかと衝撃を受けました。
デボラは売春をしているときに仲介人と付き合っていたときがあり、ボコボコにされて血だらけになっても付き合い続けていたそうです。お姉さんも同じ仲介人と付き合い、二人ともAIDSに感染しました。お姉さんは亡くなってしまったのですが、「死んだお姉さんの存在をみんなに知ってもらうために、私は演劇をやりたい」という思いが強いのです。私は最初、その気持ちが分からなかったのですが、デボラが詩を書き、みんなの前で読むのを見て、私の中で彼女との距離が縮まりました。映画のシーン以外でも、(先祖が)奴隷となっていたときの話や、自分とお姉さんの関係、お姉さんの死を看取ったときのことを皆の前で語ったのです。お姉さんが死の間際に薬物を止めて、生き直そうとしていた姿に感動し、自分もまじめに生きようとしている話を詩にしたり、それらを介してデボラに親近感が沸きましたし、もっとデボラのことを知りたいと思うようになりました。
 

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━━━上演後観客と行われたトークバックでは、彼女たちの勇気あるパフォーマンスに様々な反応が生まれていましたね。
最初に黒人の男性が手をあげて「HIVの女性の友達がいるのだけれど、まだ誰にも言えていないので、この演劇はそういう人たちに力を与えるはずだ」と発言しました。その後何人かが発言した後に、黒人男性の隣にいた女性(映画でも登場)が手をあげて「子供を産みたいと言ったあなたへ、私は子供を産めなかったけれど、あなたへエールを送りたい」と語ったのです。実は手をあげて発言した女性こそ、男性が最初に語ったHIVのことを誰にも言えない友人の女性で、終わった後ハグしながら泣いていました。代弁したつもりが、その本人が声を上げたわけです。その後も2人ぐらいの男性が次々に今まで誰にも言っていない病気のことを告白しました。本当に奇跡が起こっていましたね。
 
 

■「映画を媒介にして自分のことを話してくれた」当事者の人たちの声を映画に反映させるワーク・イン・プログレス(WIP)に手ごたえ

 

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━━━本作は、ワーク・イン・プログレス(※WIP)を取り入れていますが、なぜWIPを取り入れようと思われたのですか?※編集中の作品を限定的に公開して、そこで出た意見を作品に反映させる試み
前作の『ライファーズ 終身刑を終えて』は薬物依存の元受刑者や当事者の話だったのですが、上映しているときに一番ビビッドに反応するのは、まさにそういう状況にある人たちでした。当事者の人たちの声を本作にも反映させたいという思いは当初からあったのですが、どうすればいいのか分からなかったのです。これはアメリカのことだし、アメリカの映画に日本の人たちの声を直接投影できません。悩んでいるときに、薬物依存症者の回復施設「ダルク」の一つであるNPO法人「女性ダルク」代表の上岡陽江さんがファンドレイジングのイベントに来場し、私たちの2分間スピーチを聞いてくださったのです。最初は「これはアメリカのことでしょ。日本では無理よ」と言われたのですが、最後に「10年後でもいいから、私たちもこれをやりたい。できる社会にしたい。私たちにも手伝わせてほしい」と申し出てくれました。その当時から10万円出資していただければ市民プロデューサーになれる制度を作っており、WIPも頭にあったのですが、どうやって展開すればいいのか分からなかったのです。上岡さんが非常に積極的に働きかけてくれたおかげで、当事者の人たちにプロデューサーになってもらえれば、どんなに力強いだろうと思えてきました。
 
━━━なるほど、試行錯誤しながらWIPを取り入れる道筋が見えてきた訳ですね。
最終的にはWIPという試写にして、ダルクの方に観てもらい、声を上げてもらう場にしたのです。私はダルクの人たちと色々活動をしているのですが、映画でのHIV陽性者のメンバーと同じように、なかなか自分たちと違う人のいる場所に行く自信がなく、ましてやそういった場所で発言などできません。ですから、彼女たちが一番しゃべりやすい環境は何だろうと考え、ダルクに私たちが行き、白板にプロジェクターで映像を映し出して、居間でくつろぎながら観るという試写をやりました。予想しない反応がたくさん返ってきましたね。
 

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━━━具体的にはどういった場面で反応が大きかったですか?
カサンドラの2歳半の孫が出てくる場面は、話した言葉を訳していなかったのですが、「坂上さん、あの子今何て言っているんですか?」とあちらこちらから声が上がりました。なぜそこで反応したのか聞いてみると、ダルクの皆さんは大体お子さんがいらっしゃるけれど、子どもが小さいときは覚せい剤や薬物で刑務所に入ったり、中毒状態になっていたりと色々トラブルに巻き込まれており、子どもをきちんと育てることができなかったのです。乳児院に行ったり、祖母に預けたりといった形で育っていることが多いので、子どもに対する罪悪感があり、その年頃の子どもが何を考えていたのかをすごく知りたいのです。『トークバック』は、自分たちが歩んできたのと同じケースの人が登場する映画なので、まさに置かれている状況がぴったりなのです。
 
━━━上演後のトークバックのような効果もあったのでしょうか?
ダルクの皆さんは日頃あまりしゃべらない方が多く、個人個人のことをあまりよく知らなかったのですが、映画を媒介にして自分のことを話してくれました。例えば、「英語のスラングを聞いたのは久しぶり」とアメリカで3年ぐらい暮らしていたことを語り始めたり、子ども時代のことを思いだして語ったり、墓まで持っていこうとしていたことまで語り始めたりされるので、こちらが衝撃を受けるぐらいでした。映像を観るだけではなく、ツールにしたいという想いはどこかであったのですが、映画を介して対話ができ、その人の内面が見えたり、逆に私に質問してきてくれたりといった双方向のコミュニケーションが取れました。今回ほど試写の段階からそれがビビッドに反応が伝わることは今までなかったので、この手法でやれると思いました。
 
━━━これからご覧になる皆さんに、メッセージをお願いします。
沈黙が強いられている現在の社会で、何が私たちを沈黙させているか、私たちも他人に沈黙を強いているかもしれないということを考えるきっかけになると思います。今までなら言わなかったことも、この映画を見て「言ってもいいのだ」と声を上げる背中を押せたらうれしいです。(江口由美)
 

setouchi-550.jpg『瀬戸内海賊物語』大森研一監督インタビュー

(2014年 日本 1時間56分)
監督:大森研一
出演:柴田杏花、井澤柾樹、葵わかな、大前喬一、内藤剛志、石田えり、小泉孝太郎、中村玉緒

2014年5月24日(土)~香川、愛媛、徳島で先行公開。
5月31日(土)~全国ロードショー

公式サイト⇒ http://setokai.jp/
(C)2014「瀬戸内海賊物語」製作委員会


  

~故郷に捧げる村上水軍の伝説~


  瀬戸内海の美しい海を背景に、少女が島の危機を救うため、1本の笛を手がかりに伝説の海賊・村上水軍の財宝を探す歴史アドベンチャー。小豆島の「エンジェルロード脚本賞」グランプリを受賞した愛媛出身の大森研一監督が自らメガホンを取った。

【物語】
戦国時代、いくつもの水軍が活躍していた中で最強と言われた村上水軍は、織田信長を撃退し、豊臣秀吉にも屈することのない“海のサムライ”たち。彼らを束ねたのが海賊大将軍・村上武吉だった。

  時は現代、武吉の血を引く少女・村上楓(柴田杏花)は代々伝わる醤油屋を営む父(内藤剛志)母・春子(石田えり)と暮らしていた。楓が夢中になっていたのは、村上水軍の埋蔵金探し。仲間たちと少々無茶な冒険も楽しんでいた。

setouchi-3.jpg  その頃、大人たちの間では島と本土を結ぶフェリーが廃止されるという大問題が持ち上がる。「村上水軍の財宝を見つければフェリーを直せる」。そう考えた楓たちは蔵の奥から古びた笛を発見する。その笛は英雄・武吉が12歳の息子の船出に与えた「初陣の笛」。そこには埋蔵金のありかを示す手がかりが隠されていた。祖母(中村玉緒)に励まされた楓は“水軍レース”のエース愛子(葵わかな)に教わり船操縦の猛特訓を受ける。財宝の場所は激しい潮流を超えたところだった…。


   
  大森研一監督インタビュー(2014年5月20日)

 
 小豆島の瀬戸内国際こども映画祭エンジェルロード脚本賞」のグランプリに選ばれた(11年)『瀬戸内海賊物語』の映画が完成、24日からご当地・香川、愛媛、徳島3県で先行公開後、31日から全国公開される。これが長編第3作になる大森研一監督(38)に全編故郷・愛媛で撮影した映画への思いを聞いた。

setouchi-d-2.jpg―― 愛媛出身の監督には思い入れも大きかった?
「ええ、この話はもう20年近く前から構想していた。「エンジェルロード脚本賞」は瀬戸内海や子供たちが主役などの決まりがあったが、ばく然と考えていた村上水軍の話、ハリウッド映画『グーニーズ』(85年)を参考にした“宝探し”の話が出来ていて、それをそのまま脚本にした。選ばれた脚本はほとんど変えず映画にした」。

―― 導入部に登場する村上水軍は今年「村上海賊の娘」(著者・和田竜)が本屋大賞になり、大河ドラマ「軍師官兵衛」にも登場して今話題の的に。
「村上水軍については小中学校のころから本などは読んでいた。歴史的な資料はあまり残っていない。映画には冒頭部分に出てくるだけですが、瀬戸内の広大な海、特有の潮流など、瀬戸内海独特の風景がふんだん。そこを見ていただければ。瀬戸内海国立公園80周年記念映画でもありますから」。

―― ロケハンにはかなり時間を割いた?
「シナ(リオ)ハンも含めて半年かけました。その間、実家に泊まって腰を落ち着けてロケ場所を探した。CGの場面を除いたら、ロケ撮影で瀬戸内を思う存分撮れた」。

―― 最近有名になった村上水軍だが、全国的にはあまり知らていない。地元では、高知県の坂本龍馬のような位置にあるのか?
「相当以前に映画になったと聞いたが、龍馬ほどは…。だけど今治には村上水軍博物館もあり、最近はお客さんが増えている。しまなみ街道の島のいくつか、海の上でも撮影しましたが、舟に乗って見学に寄ってくる人は皆さん、村上さんばかり。ここには村上水軍がまだ生きている、と痛感した」。

―― 監督が見てほしいところは?
「瀬戸内海の複雑な潮流ですね。映画でも少年たちが苦労して渡るヤマ場です。今は潮流を体験出来る観光コースも人気になっている。子供たちが大きな問題と受け止めるフェリーの廃止についても、実際に起こっていることですからね。歴史と現実が一体になったドラマです」。

―― アメリカではプレミア上映されたとか。
「昨年12月にハリウッドで行われたLA Eiga Festで上映して『グーニーズ』のスタッフも駆けつけてくれて喜んでもらった。この映画をヒットさせて、続編を作りたい、と今から構想してます」。

setouchi-2.jpg―― 主役の柴田杏花がいきいきしている。抜てきの決め手は?
「オーディションして、演技テストしましたが、彼女はなんといっても目力(ちから)ですね。地味に見えるが、軸がぶれない、と強く感じた。ふだんは元気で活発だけど、清楚で大人しい。オーディションの時は他の審査員から反対されて、プレッシャーを感じたが、押し通して正解だった。結果見てくれ、です」。

―― 監督は大阪芸術大学出身だが、最初は映画志望じゃなかった。
「ええ、建築学科だった。絵を描くのが好きだったので、図面を描く建築を選んだ。同期に熊切(和嘉)監督がいて、隣で撮影していたのが映画との出会いです。映画は高校時代から好きだったんですが。2年で転部出来るのを知らず、気づいた時は3年になってました。卒業後は建築関係の業界紙に入って、記者をやりました」。

―― 映画監督になるまで遠回りした感がある?
「建築から映画の道だとそう見えるかもしれないけど、今は全部無駄になっていないと思う。この映画でも、美術デザインやれてよかったし、自分で脚本書くのにライター経験が生きる」。

―― 最後に目標にしたい好きな映画を。
「うーん、『グーニーズ』ばかり言って来たけど、1本選ぶのは無理なんで3本。『ダーティ・ダンシング』、『バクダッドカフェ』、日本映画だと『ルパン三世 カリオストロの城』ですね」。

  【聞き手・安永五郎】

 

utukusii-e-550.jpg『美しい絵の崩壊』

K2-550.jpg『K2~初登頂の真実~』

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