原題 | CHILD 44 |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 2時間17分 |
原作 | トム・ロブ・スミス |
監督 | 監督:ダニエル・エスピノーサ 製作者:リドリー・スコット |
出演 | トム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、パディ・コンシダイン |
公開日、上映劇場 | 2015年7月3日(金)~TOHOシネマズ みゆき座、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ西宮OS ほか全国順次ロードショー |
~粛清の嵐の中“転落反逆者”の逆襲~
究極のクライム・サスペンスは連続殺人。いたいけな子供を標的にするシリアルキラーなどは最も憎まれる極悪人だ。映画『チャイルド44』は旧ソ連で実際に起こった「アンドレイ・チカチーロ連続殺人事件」をモデルにした“このミステリーがすごい!”1位小説(トム・ロブ・スミス)の映画化。あまりの凄まじさに声を失う。
“スターリンの粛清”がどれほど恐ろしかったかは映画や小説で見聞きしていたが、かくも凄まじいとは、知らなかった…。連続少年殺人事件のミステリーではあるが、スターリン独裁政権下(1950年代)の非人間性、荒廃した社会情勢こそが“本当の主役”という社会派ミステリーでもある。 ウクライナの孤児院から脱走し、軍人に拾われたレオ(トム・ハーディ)は、第2次大戦中、ベルリン陥落に貢献し“戦争の英雄”に。国家保安省(MGB)のエリート捜査官に出世し妻ライーサ(ノオミ・ラパス)と豊かな生活を満喫していた。だがスターリンは「理想国家に殺人は存在しない」との建前を標語に掲げ、その標語の無理が捜査官を狂わせていく。
レオは容赦なく反体制活動家をスパイとして取り締まる優等生だが、ある時、戦友アレクセイの息子の遺体と対面する。アレクセイは「これは殺人だ」と騒ぐが“殺人のない理想国家”を信じるレオは戦友の訴えを握りつぶす。
一方、スパイ容疑で逮捕された“獣医”ブロツキーは拷問で“共犯者”を何人も自供。リストの中に、妻ライーサの顔写真があった。何かの間違いか“レオの宿敵”の仕業か? やむなく両親と相談すると「ライーサ一人か、私たち4人全員の命か」と難しい二者択一を迫る。なんと難儀な国なのか。“妻の妊娠“を聞いたレオは結局、ライーサの無罪を主張、あからさまな降格人事である「地方の民警」に左遷される。甘んじて受けたのは妻への愛のためだった…。
「スターリンの粛清」の恐怖はニキータ・ミハルコフ監督『太陽に灼かれて』(94年)で学んだ。ロシア革命の英雄コトフ大佐は愛妻と娘ナージャと田舎で静養していたが、そこへ妻を訪ねてかつての友人ドミトリがやってくる。明るい好青年ドミトリの正体は、スターリンの秘密警察、目的はコトフ大佐の逮捕だった…。
美しい田舎の風景の中、幼い娘ナージャのあどけない笑顔が、政治的陰謀のどす黒さを増幅していく。ミハルコフ監督はこの後、『戦火のナージャ』(10年)『遥かなる勝利へ』(11年)の3部作を残すが、どんな時代だったかは『太陽に~』でよく分かった。
デヴィッド・リーン監督が『ドクトル・ジバゴ』で高らかに謳いあげた革命の未来はどこへ行ったのか。『チャイルド~』は“反共プロパガンダ”なのか? 西欧社会とは異なった、苦悩するレオがユニークだ。権力者側として厳格に仕事してきた男に、ふと芽生えた疑問。それまで、疑うことなくセオリー通り仕事をこなしてきた。「目を付けられただけで有罪」。あとは「自白させるだけ」といった無茶苦茶なスパイ摘発に疑問を感じ、そのために出世コースを外れ、転落の道をたどることになるが、自ら信じた正義に目覚める。自由の国アメリカでも、不自由な共産主義ソ連でも“闘う主人公”の本質に変わりはなかった。
レオが多忙で、それまで夫婦の会話はほとんどなかったが、尋ねられてライーサは「(結婚は)MGBが怖かったから。断ったらどうなるか。生きるために必要だった」ときっぱり。レオへの怯えと「恐怖政治」が生んだ“偽りの夫婦”だったと知る。地位を投げうって地方に落ちたレオは違う。「君さえいれば、どんな境遇でも平気だ」と改めて、夫婦関係を再生すべく、連続少年殺人事件の解決を目指す。
地方都市ヴォリスクの民警署長ネステロフ将軍(ゲイリー・オールドマン)は、レオに「領域を荒らしたらただじゃおかん」と脅す。レオは中央(モスクワ)からマークされ、身動き取れない。公式には許されない連続殺人の証拠を求めて活動開始。ただ一人の“部下”ネステロフ将軍に証拠集めを指示する…。
凶悪な犯罪捜査はどこの国でもスリリングなものだが、強大な国家権力を敵に回した二人の捜査はまさしく“反体制活動”。捜査官の捜査が国からにらまれ、動くたびに追い詰められる。これほど困難な捜査活動が果たして実を結ぶのか。「周りはみんなスパイ」という当時のソ連社会の空気が伝わるようだ。「犯罪はない」という建前の裏で、殺人を犯し続ける真犯人、すべてを敵に回しても執念の追跡を続ける“再生夫婦”。この不自由さと、どんな困難にも打ち勝つ不屈の反逆精神はどこの国、どんな政治体制であっても、輝く“人間の強さ”に違いない。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://child44.gaga.ne.jp/
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