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『愛を積むひと』

 
       

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作品データ
制作年・国 2015年 日本 
上映時間 2時間5分
原作 エドワード・ムーニー・Jr.『石を積むひと』小学館文庫刊
監督 朝原雄三
出演 佐藤浩市、樋口可南子、北川景子、野村周平、杉咲華、森崎博之、佐戸井けん太、岡田義徳、吉田羊、柄本明
公開日、上映劇場 2015年6月20日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、シネ・リーブル神戸、OSシネマズ神戸ハーバーランド、MOVIXあまがさき、MOVIX京都他全国ロードショー
 
 

~先立つ妻が石塀づくりに委ねた夫の未来~

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北海道美瑛町を舞台にした物語というだけで、私の心はぐらりと動いた。夏がくる度に、夏季休暇をしっかりとり、富良野の北側にあり、まだあまり観光客が来ることのなかった美瑛や隣町の美馬牛に滞在しては、一日中自転車をこぎながら、自然の中にいることを楽しんでいた若き日のことを久しぶりに思い出したのだ。まるで絵画のような畑や、遠くで見守るかのようにそびえる雪を頂きにたたえた山々は、本当に見飽きることがない。エドワード・ムーニー・Jrの『石を積むひと』を原作にした本作では、そんな美しい北海道の大自然の中で第二の人生を歩み始めた夫婦に起こる出来事が描かれていく。東京から妻の意思に導かれるかのように、美瑛の地にやってきた夫婦が、どんな形でその地に根を下ろしていくのか。どちらかが先に旅立った後も続く夫婦の絆は、とても深く、そして尊い。
 
 
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仕事一筋だった夫、篤史を演じるのは、佐藤浩市。人生にくたびれ気味の白髪姿に驚かされる。引っ越してきたものの、仕事をしなくていい今となってはやることがなく、リフレッシュするどころか、ますます老け込みそうな勢い。退職後の夫のこんな姿に嫌気が刺す妻の気持ちがよく分かる。樋口可南子演じる妻、良子は、笑顔で自然豊かな美瑛での生活を楽しむ一方、篤史にあるお願いごとをする。それは、長年の夢であった石塀づくりだった。一人で作ることは決してできないと分かって頼む良子の本当の狙いは、自分が亡き後一人になってしまう篤史の生きがいづくりであり、人脈づくりでもあったのだ。
 
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地道に一つずつ石を積み重ねる作業を手伝うことになった青年、徹(野村周平)と徹の彼女、紗英(杉咲花)。親子ほどの年の差がある彼らとの交流は、夫を残して去らねばならない良子にとっては希望であったに違いない。そして、長年仲たがいをしたままの娘の聡子(北川景子)と和解するきっかけになるのではと願ったことだろう。物語は、良子亡き後、憔悴しきってしまう篤史が再び生きる意欲を取り戻すまでが描かれるが、そこには自分が死んだ後の篤史のことを考えて生前に手の限りを尽くした良子の気持ちが散りばめられている。7年ぶりの映画出演となった樋口可南子が、自分の病の辛さを決して表に出すことなく、最後まで夫と村人たちをつなぐ役目に徹する妻を穏やかに演じ、悲劇ではなく未来につなぐ物語となった。夫婦もいつかは一人になる時がくる。そして、そんな「第二の人生」が始まって初めて気づく伴侶への愛も、きっとあるのだ。(江口由美)
 
公式サイト⇒http://ai-tsumu.jp/
(C) 2015「愛を積むひと」製作委員会