『ある愛へと続く旅』
「AI」と一致するもの
~マチュー・アマルリックの魅力全開!大自然を舞台に愛が交錯するフィルム・ノワール~
『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』(2013年 フランス=スイス 1時間50分)
監督:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー
出演:マチュー・アマルリック、カリン・ヴィアール、マイウェン、サラ・フォレスティエ、ドゥニ・ポダリデス他
第26回東京国際映画祭コンペティション部門作品に選出されたマチュー・アマルリック主演の新作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』。男女が山中で奇妙な再会を果たす『運命のつくりかた』(02)をはじめ、マチュー・アマルリックと数々の作品を生み出してきたラリユー兄弟が、再びスイスとフランス国境近い雪山を舞台に編み上げたフィルム・ノワールだ。マチュー・アマルリック扮する文学部教授マルクを中心に、常にマルクを注視している同居の妹マリアンヌ(カリン・ヴィアール)、失踪した教え子の若き母親アンナ(マイウェン)、個人授業をせがむ女学生アニー(サラ・フォレスティエ)ら女性たちの思惑や、愛が絡まる様子を大自然と共に描写。若い学生とその場だけの情事を重ねていた男の闇の部分や真の愛を知るまでを、マチュー・アマルリックが大人のユーモアを盛り込みながら熱演している。サスペンスである一方、雪山や大学キャンパスの白い風景が印象的な切なく美しいラブストーリーにも映る。
マチュー・アマルリック氏の緊急来日が映画祭開会直前に決定したにも関わらず、40代半ば男のフェロモンで次々と女性を虜にしていく主人公像そのままに、フランス俳優の中でも人気・実力共にトップクラスのマチュー・アマルリックを一目見ようと、満席の観客が熱い拍手や「ブラボー!」という歓声でその登場を温かく迎えた。私たちの声を代弁してくれているかのような、矢田部東京国際映画祭コンペティション部門プログラミング・ディレクターの歓迎の言葉ではじまったQ&Aの模様を、一部記者会見の内容も交えながらご紹介したい。
(最初のご挨拶)
マチュー・アマルリック氏(以下アマルリック):こうして東京に戻ってくる機会を与えていただき、ありがとうございました。私にとってはまさしく狂気の沙汰でした。10日前、私の監督作を作り始めたばかりですから、日本にくるなんて思いもかけませんでした。
―――ラリユー兄弟作品は個性的ですが、他の監督とラリユー兄弟の一番の違いは?
アマルリック:兄弟で作るというのは非常に大きな力で、二人ともピレネー山脈の熊のような山の男たちなのです。兄のジャン=マリーは割とよく話しますし、社交的で俳優たちの世話をします。一方、弟のアルノーの方は静かであまり語らず、黙々とフレームワークをし、遠くからすべてを見ています。映画というのは様々なディテールが重要で、それが積み重なるものです。特に兄弟がいることで、一人は非常に具体的な仕事をし、もう一人は遠くでフレームワークをしながら映画が持つべき魂の鼓動を忘れずにいることができるので、素晴らしい組み合わせだと思います。
―――ラリユー監督作品出演にあたり、他の監督とは違う心構えで臨んでいるのですか?
アマルリック:二人がいることによって、無意識のものを表現する勇気を与えてくれ、慎みを忘れてすべてをさらけ出すことができるのです。女性でも男性でも裸になっていくしかないという風に、自分を表現していけます。また風景と人間が一体化して、ヘドニズム(快楽の世界)を怖がらずに作り上げることができるようになります。それはジャン・ルノアールの系譜にいることができる監督だからでしょう。
―――ラリユー兄弟の『運命のつくりかた』でも途中から山が舞台となり、本作も山が舞台になっていますが、マチュー・アマルリックさんからみてラリユー兄弟の山に対する特別な想いは感じられましたか?
アマルリック:ラリユー兄弟は、ピレネーという山の近く(ルルド)で育ちました。祖父がアマチュアで山の中で動物を撮って、二人は映画作りを覚えたようです。二人はいつも「顔と景色」といつも言っています。今回はフィリップ・ジアンの小説を映画化しましたが、作品中で小説にはない場面もあります。主人公マルクが行う文学部の授業で「母親のことを書くとき、ある景色に例えなさい」というくだりがあります。心理描写ではなく、ある場所や景色を語るようにというセリフは、彼らが付け加えた部分です。これは日本の文化にも近いのではないでしょうか。
―――本作は裸になるシーンも多かったですが、オファーが来たとき抵抗感はなかったですか?
アマルリック:3、4回ラリユー兄弟の作品に出演していますが、裸というのは彼らの性質の一部のようなもので、自然に演じています。本作については女性の方が裸になる率が多かったのではないでしょうか。他のラリユー兄弟作品に比べても多いと思います。
―――脚本を読んだとき、主人公マルクをどういう人物と理解して演じたのですか?
アマルリック:マルクは自分で自分が分からないのです。記憶に穴が空いていたり、覚えていないところがあります。また、深い溝である愛情になるべく近づかないようにして、なるべく若い女性と肉体的な関係しか持たないようにしていたのです。でも何かが彼を変え、この溝に落ちていく話だと考えています。
―――女性にモテモテの役でしたが、ユーモアがあるのもその一因に見えました。演技の中に自然なユーモアを取り入れるため、何か習慣的にやっていることはありますか?
アマルリック:ラリユー兄弟は世界や人生の見方が非常にヘドニズム的ですね。深刻なことやスキャンダラスなことも、彼らにかかると自然な感じに表現されます。そこから彼ら独特のユーモアが生まれてきます。例えば本作でも主人公と妹の関係は何か深刻なものがあるのですが、ラリユー兄弟にかかるとそれがとても優しく表現されていきます。そういった監督からにじみ出るユーモアがあるのです。
―――ブラックなフィルム・ノワール作品で大変楽しく拝見しました。自身が監督される次回作『La chambre bleue』について教えてください。
アマルリック:ラリユー兄弟の本作は、他の彼らの作品に比べてもフィルム・ノワールなものになっています。特に、カラヴァッジョの音楽がフィルム・ノワール効果をより高めていますし、カリン・ヴィアールら女優陣がとても面白がって演じており、ユーモアもプラスされていたと思います。もう一つは、シナリオがよく書かれていたことです。特に作品の中で言葉が非常に重要でした。自然発生的にセリフを言うことは絶対になく、シナリオのセリフをしっかり覚えて、よどまずに言うことが我々俳優にも求められました。次回作は、ジョルジュ・シムノンの小説の映画化で、7月に2週間撮影を終え、11月にも2週間撮影予定です。情熱や肉体的に二人が惹かれあったり、死人も出るような映画です。
―――監督と俳優の境界線を設けているのですか?
アマルリック:友人の監督たちが私に映画に出るよう声をかけて、連れていくから出演しているのですが、私が朝起きて何を考えるかというと、自分の監督作品についてです。俳優として友達の監督の映画に出演し、監督のしていることを見ることも勉強になります。私にとっては演技をしているというより、彼らが働いている様子を見ているという感じです。それはアルノー・デプレシャンやラリユー兄弟でもそうですね。そうやって、彼らの作品に出演していると、どんどん自分の脚本を書く時間がなくなってしまいます。短い時間で自分の作品を作らざるを得なくなりますが、それもそんなに悪くないなと思います。あまりにも深刻に考えすぎたり、特別なものを作るというのではなく、「時間がこれぐらいしかないから」と思って作るぐらいがちょうどいいのかもしれません。
(最後のご挨拶)
アマルリック:ラリユー兄弟から、「みなさんにご挨拶を伝えてほしい」とのことです。私とラリュー兄弟は10年前『運命のつくり方』で一緒に来日し、そのときには1ヶ月ぐらい日本に滞在したので今回来れなかったのはとても残念だと語っていました。この作品の中には色々考えさせるところがあるのではないかと思います。大島渚や黒沢清の作品を思わせるブラックな要素があるフィルム・ノワールです。そして心をぐっと捉えるようなところがあると思います。是非日本で劇場公開されればうれしいです。
(江口由美)
『小さいおうち』特製香り袋プレゼント
■ 松竹提供
■ 募集人員: 3名様
■ 締切:2014年1月25日(土)
★公式サイト⇒ http://www.chiisai-ouchi.jp/
2014年1月25日(土) ~全国ロードショー
山田洋次監督が挑む、新しい世界―――
小さいおうちに封印された”秘密”が、60年の時を経て紐解かれていく
昭和11年。田舎から出てきた純真な娘・タキ(黒木華)は、東京郊外に建つ少しモダンな、赤い三角屋根の小さなお家で、女中として働きはじめた。そこには、若く美しい奥様・時子(松たか子)と旦那様・雅樹(片岡孝太郎)、そして可愛いお坊ちゃまが、穏やかに暮らしていた。しかしある日、一人の青年・板倉(吉岡秀隆)が現れ、奥様の心があやしく傾いていく。タキは、複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続けるが――。それから60数年後の現代。晩年のタキ(倍賞千恵子)が大学ノートに綴った自叙伝には、“小さいおうち”で過ごした日々の記憶が記されていた。遺されたノートを読んだ親類の健史(妻夫木聡)は、秘められ続けてきた思いもよらない真実に辿り着く。
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子
原作:中島京子「小さいおうち」(文春文庫刊)
監督:山田洋次 脚本:山田洋次・平松恵美子
音楽:久石譲
製作:「小さいおうち」製作委員会
制作・配給:松竹株式会社
(C)2014「小さいおうち」製作委員会
2014年1月25日(土)~全国ロードショー
公式サイト :http://www.chiisai-ouchi.jp/
『ゼロ・グラビティ』
『グランド・イリュージョン』
『中島みゆき「夜会VOL.17 2/2」劇場版』鑑賞券プレゼント!
■ 11月9日(土)より、イオンシネマ、梅田ブルク7 ほか全国公開!
(公開劇場⇒ こちら)
■ 募集人数:5組10名様
■ 締切:2013年11月3日(日)
★公式サイト⇒ http://www.yakai-movie.jp/index.html
『中島みゆき「夜会VOL.17 2/2」劇場版』
コンサートでもない、演劇でもない、ミュージカルでもない「言葉の実験劇場」として1989年よりスタートし、2000年以降は不定期に開催されている「夜会」。従来のコンサートツアーとは違い、東京・大阪のみで開催されていることから、チケットは即完売、ファンの間では、プレミアム化し、「夜会を知らずして、中島みゆきを語るなかれ」とまで言われるほどの伝説の舞台として、知られている。今回上演される演目は、過去17回開催されている「夜会」の中でも、もっとも人気の高い作品「2/2(にぶんのに)」。楽曲・ストーリーがすべて中島みゆきのオリジナル作品であり、今まで2回上演され、2005年に映画化、小説化もされている。そして今回3度目の再演となる、最新公演「2/2」の模様を収めた「夜会VOL.17 2/2」が、ファンの熱い声援に応え、ついに全国の映画館で上映されることになった。
幸せになろうとするたびに見えない何かに妨害されてしまう、見えない何かとは…
上田莉花の務めるその中堅出版社の美術誌編集部は、このところ、もっと客受けの良い路線へと方針変更を余儀なくされている。しかし、日本画家の矢沢圭が仕上げて来たのは、地味な竹の絵だった。気まずい書き直し依頼の担当を任命された莉花だが、圭の絵を支持しながらも流れには逆らえない。どこかちぐはぐな、奇妙な弱さを、圭は鋭く見抜いてしまったのかもしれない。「何に対して怯えているんだ」その気掛かりは、2人の距離が狭(せば)まるにつれて、現実のものとなっていく。
圭のアトリエを訪れた、莉花。嵐の深夜、鏡の中から、誰かが莉花を見つめている。
圭を愛することを自分の幸福として生きたい、そう願う気持がつのればつのるほど、“それ”は莉花の中から、凶悪な力を増大させながら正体を顕(あらわ)して来た。「ココカラ遠ク消エテシマエ、何モカモ失ッテシマエ」自分を操(あやつ)る何かが自分の中に居ることに絶望した莉花は、圭のもとを去り、仕事も辞め、住まいも引き払い、傷心旅行に旅立ったベトナムで、過失から帰国できなくなったことをきっかけに、自らの過去や見えない何かの正体を知る物語。
いつでも人生これから!『くじけないで』“親子”記者会見
ゲスト:八千草薫(81歳)、武田鉄矢(64歳)、深川栄洋監督(37歳)
2013年10月11日(金)(ウェスティンホテル大阪にて)
(2013年 日本 2時間8分)
原作:柴田トヨ 「くじけないで」「百歳」(飛鳥新社刊)
監督・脚本: 深川栄洋 『60歳のラブレター』『神様のカルテ』
出演:八千草薫、武田鉄矢、伊藤蘭、檀れい、芦田愛菜、上地雄輔、ピエール瀧、鈴木瑞穂
2013年11月16日(土)~全国ロードショー
公式サイト⇒ http://kujikenaide.jp
(C)2013「くじけないで」製作委員会
~90歳を過ぎて輝きを増したトヨさんの人生~
八千草薫58年ぶりの主演映画『くじけないで』は、90歳を過ぎてから詩を書き始めた柴田トヨさんの物語。激動の時代を生きてきたトヨさんからの慈愛に満ちた言葉の贈り物は、忘れてしまった思い出や、失ってしまった感情を呼び起こし、心に優しさと潤いをもたらしてくれる。
トヨさんの若い頃を檀れいが、子供の頃を芦田愛菜が演じている。明治、大正、昭和の激動期を生き抜いたひとりの女性の生き様を、八千草薫のたおやかさで穏やかに優しく描いて心に沁みる。定職にも就かず、短気で競馬好きで子供のような性格のトヨさんの一人息子:健一を武田鉄矢が頼りなく演じ笑いを誘う。健一のしっかり者の女房:静子に伊藤欄が扮し、老いたトヨさんと健一を支える。
11月16日の公開を前に、八千草薫、武田鉄矢、深川栄洋監督の記者会見が大阪市内で行われた。主演映画こそ58年ぶりだが、TVドラマや映画出演は多く、特に近年映画での活躍が目立ってきている八千草薫。80歳を過ぎて、50代後半から100歳近くまでを演じ分けるのは肉体的にもきついものがあったと思うが、それを感じさせない繊細な演技に、改めて大女優のキャリアを感じさせた。そんな立派な母親に付いてきた(?)という感じの武田鉄矢だったが、柴田トヨさんの詩にある「いつでも人生これから!」というメッセージをしっかりと伝えてくれた。また、常に八千草薫を気遣う深川栄洋監督の様子から、まるで三世代親子が会見しているようだった。
(最初のご挨拶)(敬称略)
八千草:本日はおいでくださりありがとうございます。5月に撮影が終わり何ケ月か経ちましたが、その時の想いがずっと残っています。
武田:久しぶりに取り組んだ映画です。静かな物語が進行する中で自分に演じられるものに挑戦した映画でもあります。八千草さんはファイト満々で、いろんなことを勉強させて頂きました。
深川監督:この映画は詩集が原作になった珍しい映画で、初めてやる作業でしたが、とても楽しかったです。詩から誕生した映画はとても意味深いと思いますので、是非劇場でご確認ください。
――― 柴田トヨを演じるにあたり難しかったところは?
八千草:最初90歳過ぎた役は無理かなと思いました。でも、トヨさんの詩を繰り返し読んでいる内にやっぱりトヨさんは素敵な方だと思えて、また登場人物すべてが愛情深く、温かくて、今の世の中こんな気持ちになれることは少なくなってきたので、これは出演しなければと思ったのです。自然に年老いて見せることが難しかったですね。息子が詩を書くことを勧めてくれるまでは何もすることがなかったので辛かったのですが、詩を書き始めてからは楽しかったです。私にとっても、とてもありがたい経験でした。
――― 息子の健一役は、母親に心配かけたり、周りに迷惑をかけたりする役でしたが、特に気を付けた部分は?
武田:健一は庶民的で砂粒みたいな人。その人の手触り、戸惑い、怒り、楽しみと、小さな人が抱く様々なものをどう演じるか……今は大きなことを言うのが流行っているのか、大義を掲げている時代ですが、今日どうやって食べるのか、母親をどうやって喜ばせるのかと、小さなことに悩む人を表現するのが難しかったです。
――― 初めて脚本も担当されましたが?
深川監督:ゼロから書いたのは初めてです。客観性が持てなくなるので止めた方がいいと思ったのですが、この映画の構成が頭にパッと浮かんできたので、これは自分でやるしかないかなと。そのため、スタッフを違う方向へ導いてしまったり、役者さんを苦しめたり、皆さんにご迷惑をかけることになったのですが、どうしても自分の手で作りたかったのです。それが正解かどうかは、これからご覧になる方が決めて下さることでしょう。
――― 様々な映画を撮ってこられて、今までとは違うと感じることは?
深川監督:自分の知らない世代の映画を作るのは『60歳のラブレター』で経験済みですが、私の祖父母や両親などに訊きながらゼロから書いていると、柴田家を描きつつも、いつの間にか深川家のお話になっていきました。この映画を家族が見て、「恥ずかしくて見ておられん」と言ってました(笑)。
――― キャスティングについて?
深川監督:トヨさん自身は、八千草薫さんのファンで、『相棒』が好きと聞いていましたが、詩のイメージから可愛らしく観音様のような八千草さんしかいないと思いました。本当に受けて頂いて良かった! 武田さんは、何もいいところのない小学生のような健一の役をやれる人と言えば、武田さんが浮かんできたのです。瞬発力を持ったエネルギーの塊のような役を武田さんに演じて頂ければと。まるで動物園で面白い動物を見ているような感覚で、物語にいろんな楽しみが生まれてくるのではと思いました(笑)。
――― 58年ぶりの主演映画ですが?
八千草:それはあまり意識していませんでした。『蝶々夫人』が終わってから結婚して女優を辞めようと思っていたら、菊田和夫先生が、外国の女優さんは結婚しても女優業を続けていると言われ、TVドラマに出演したり、最近では映画に出演することが多くなりました。ゆっくりとした仕事が好きなものですから、今回も深川監督は「こうしなさい」というような言い方ではなく、いろんな言葉を返して頂きました。もっともっとお話を伺いたいと思うような楽しいお仕事でした。
――― トヨさんの詩の魅力について?
八千草:トヨさんの詩で、「あたし本当は…」と始まるところあります。人間は長く生きていると、「本当は…」と言って何も言えなくなることがあります。苦しいことや悲しいことを明るく変えてしまう特徴が好きです。「息子が夫とそっくりの顔でテレビを見ている、何だか得した気分」などと、明るくさせて下さる詩です。
――― 60歳を過ぎて、アイドルのプロデュースを始められたが、いくつになってもやることは?
武田:どんな額縁を持って世界を見るかが大切だと思います。私は最近フライングフィッシュを始めたのですが、これがまた下手くそで全く釣れません。6回釣りに行って、1匹も釣れない! 周りはみんな釣れているのに、自分だけが釣れないなんて…1? 終いには私の近くで魚を放流して下さったのですが、それでも釣れない! もう皆さん大爆笑でしたよ。ひとり下手がいることでこれ程皆さんを楽しませられるのか…世の中上手な人ばかりじゃ面白くない、下手な奴もいるから面白い。老いも若きもいろんな人がいるから面白い、とつくづく思いました。新しい事を始めるのに遅すぎるということはないと思います。
――― 最近のネット炎上については?
武田:ネットには全く興味がありませんね。最近「恨み」に関連する言葉多くなってきましたね。柴田トヨさんの詩をオススメします。人を傷付けないよう、思いやりのある言葉を使い分ける必要がありますね。
(最後に)
八千草:武田さんの仰る通りです。この映画は、息子やお嫁さんや夫や両親と、家族がいっぱい出てきます。みんなの思いやりを強く感じました。家族は一番安心できて、心を許してもらえるところだと思います。是非多くの方に見て頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
いつになくスローテンポ!? 武田鉄矢さんも深川栄洋監督もMCも、皆が八千草薫さんのたおやかなテンポに合わせるかのように、ゆったりと、穏やかに、ひとつひとつ言葉を選びながら話していた。「いつでも人生これから」と謳った柴田トヨさんは 今年の1月、映画の完成を待たずに101歳で亡くなられた。トヨさんも“美人さん”だったようだが、日本人が一番“大和なでしこ”と思う女優:八千草薫さんに演じてもらってさぞかし喜んでおられることだろう。(ちなみに、“日本男子”と思う男優は高倉健だそうだ) 80歳を超えても優しい微笑みを絶やさず、慈愛に満ちた眼差しで周囲を和ませる八千草薫さんは、まるで観音様のようだった。(拝)
(河田 真喜子)
(写真:第2回記者会見ゲスト 左より『ほとりの朔子』深田晃司監督、主演二階堂ふみ、フェスティバル・ミューズ栗山千明、『捨てがたき人々』榊英雄監督)
今やアジア最大級の国際映画祭へと成長した東京国際映画祭(TIFF)。昨年25回を迎え、今年は次の25年に向けて、部門構成を刷新し、さらに若く新しい才能を世界に送り出す機能を備えた映画祭として、新しい一歩を踏み出す。フェスティバル・ミューズに女優栗山千明さんを迎え、コンペティション部門の審査委員長にチェン・カイコー監督、国際審査委員に寺島しのぶさんが就任と、映画祭開催前から話題を集めている。
■コンペティション部門
TIFFの看板ともいえるコンペティション部門では、「東京 サクラ グランプリ」受賞作品である一昨年の『最強のふたり』、昨年の『もうひとりの息子』が劇場公開で観客から大きな支持を得ているように、注目作のワールドプレミア、アジアプレミア上映を目撃できる貴重な機会だ。今年も魅力的なラインナップが出揃った。日本からは『歓待』でTIFF2010「日本映画・ある視点」部門作品賞に輝いた深田晃司監督と杉野希妃プロデューサーコンビが、二階堂ふみ、鶴田真由、太賀、古舘寛治等を迎えて贈る社会派青春夏物語『ほとりの朔子』、ジョージ秋山の原作を主演に大森南朋を迎えて榊英雄監督が撮りあげた人間の本質と欲望を描く『捨てがたき人々』の2本が選出されている。
イギリスからは、『ソーシャル・ネットワーク』のジェシー・アイゼンバーグ主演、文豪ドストエフスキーの原作を近未来的設定に置き換えた、シュールで哲学的な新感覚スリラー『ザ・ダブル/分身』が登場。スウェーデンからは青春映画に定評のあるルーカス・ムーディソン監督が、80年代初頭を舞台に、思春期の衝動に駆られてパンクバンドを始める女子中学生の弾けるような日々を活写した『ウィ・アー・ザ・ベスト!』。
そして、フィリピンから選出されたのは、フィリピン版『マンマ・ミーア』の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(OAFF2013上映)で下町の母をパワフルに演じたユージン・ドミンゴ主演のワールドプレミア作品『ある理髪師の物語』。昨年「アジアの風」部門で上映された『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督がユージン・ドミンゴと組んで時代の荒波と闘う女性たちの姿を描く注目作だ。
■ワールドシネマ部門
昨年までの「ワールドシネマ」部門をリニューアルした「ワールドフォーカス」部門では、世界各国の映画祭受賞作や話題作、あるいは有名監督の日本で紹介されていない新作にフォーカスを当て、従来の欧米作品だけではなくアジアの有力作品もこの部門にてラインナップされている。
現在劇場公開中の『わたしはロランス』で高い評価を得ているグザヴィエ・ドラン監督が、自身主演で初のスリラーにチャレンジ。本年のヴェネチア映画祭国際批評家連盟賞を受賞したカナダ、フランス合作の最新作『トム・アット・ザ・ファーム』がいち早く上映される。
また、香港からは、『密告・者』のダンデ・ラム監督が放つ総合格闘技アクション・ドラマ『激戦』が登場。ニック・チョン、エディ・ポンの若手人気俳優による熱い男たちの闘いを堪能したい。
更に、【台湾電影ルネッサンス2013 】と題して近年活況が著しい台湾映画より、久々の新作で復活を果たしたベテラン監督から注目すべきニューウェーブまで、台湾映画の今が垣間見える作品を特集上映する。今年の台北映画祭でグランプリを獲得した、『四枚目の似顔絵』チョン・モンハン監督の最新作『失魂』をはじめ、『27℃ ― 世界一のパン』、『高雄ダンサー』、『Together』がラインナップ。さらに台湾ニューウェーブの記念碑的オムニバス『坊やの人形』(ホウ・シャオセン監督、ワン・レン監督、ツォン・チュアンシアン監督)のデジタルリストア版も上映される。
■アジアの未来部門
昨年まで数々の秀作を特集上映と共に紹介してきた「アジアの風部門」を発展させ、今年から新部門「アジアの未来」部門が誕生。長編映画2本目までのアジア新鋭監督の作品を一挙紹介するコンペティション部門となった。ワールド・プレミアとなるヤン・フィロン監督(中国)の『今日から明日へ』をはじめ、アジア映画の新潮流をいち早く発見できる機会となるだろう。
■特別招待部門
「日本映画・ある視点」部門がリニューアルした「日本映画・スプラッシュ」部門では海外進出を狙う日本のインディペンデント作品を、監督のキャリアを問わずに紹介。そしておなじみの「特別招待作品」では、オープニングにトム・ハンクス最新作『キャプテン・フィリップス』、クロージングに三谷幸喜の最新作『清州会議』と話題性十分の作品が勢揃いし、映画祭を大いに盛り上げる。中でも、テオ・アンゲロプロス監督の遺作となった『エレニの帰郷』をいち早くスクリーンで観ることができるのは、映画祭ならではの楽しみだろう。東京が映画色に染まる9日間。日頃劇場でなかなか触れる機会のない、国際色豊かな世界の最新映画をぜひ楽しんで!
第26回東京国際映画祭公式サイト http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/
『夜明け前、朝焼け中』馬場良馬 平田裕一郎 高崎翔太、窪田将治監督インタビュー
(2013年 日本 1時間30分)
監督・脚本・編集:窪田将治
出演:馬場良馬、八神蓮、平田裕一郎、高崎翔太、肘井美佳、草野康太、川野直輝他
2013年11月2日(土)~新宿バルト9、11月16日(土)~梅田ブルク7(1週間限定公開)他全国順次公開
公式サイト⇒http://www.faith-pictures.com/
(C)2013「夜明け前 朝焼け中」製作委員会
馬場:この作品がみんなで「朝焼けに向かっていく」きっかけの一つとしてあればいいな。
平田:本当に終わったあと笑顔になれている作品。
高崎:何も考えないで観て、展開することを一つ一つ感じてほしい。
びっくりするぐらいイケメン揃い!爽やか青春ストーリーかと思いきや、すっきり気分になれるのはオープニングとエンディングだけで、あとは微妙な空気が支配するひと癖もふた癖もある異色群像劇、『夜明け前、朝焼け中』が11月2日(土)より新宿バルト9、11月16日(土)より梅田ブルク7で公開される。
監督は、前作『僕の中のオトコの娘』で、女装を楽しむ男子、女装娘(じょそこ)をテーマにマイノリティーの世界で自分らしさを取り戻す異色青春ストーリーを描いた窪田将治。今作では結成10年をなんとしても成功させたい、売れない劇団「フラッシュバック」のメンバーのすれ違いや葛藤をリアルに盛り込みながら、とんでもない事件に巻き込まれ、一世一代の大芝居を打つ様子をオール若手キャストで描いている。
『CRAZY-ISM クレイジズム』(11)に続き、窪田作品二度目の主演を務める馬場良馬をはじめ、八神蓮、平田裕一郎、高崎翔太とミュージカル『テニスの王子様』で女性に大人気の若手俳優陣が分裂寸前の劇団員をそれぞれの持ち味で熱演。窪田組常連俳優の草野康太、川野直輝が『僕の中のオトコの娘』とは全く違う、意外性のある役どころで物語に独特の間やユーモアを加えている。
公開に先がけて9月28日に大阪で開催された完成試写会&トークイベントでは、女性ファンが大集結!残暑厳しい大阪が更なる熱気に包まれた。トークイベント登壇前に控室にて馬場良馬 平田裕一郎 高崎翔太、窪田将治監督に独占インタビューを敢行。楽屋トークのようなにぎやかな雰囲気の中、本作の撮影秘話や見どころを語ってもらった。
━━━前作はマイノリティーへの応援歌ということで、女装娘をテーマにした作品でしたが、本作企画の狙いやテーマは?
窪田将治監督(以下監督):今回は僕自身もそうですが、「追い込まれないと、人間なかなかやらないよね」というところからスタートしました。本当はコツコツやっていかないと、上手くいかないのだけれど、本作の登場人物たちは「なあなあ」でやっていて、「もっとちゃんとやらないといけないよ」というのが一つのテーマとしてあります。
出演している役者も、今回は皆若い役者ばかりで、僕と同い年の草野さんが一番上なんです。「一緒にコツコツやっていこう」という、若手に対してだけでなく、作り手や自分に対する戒めに近いですね。『夜明け前、朝焼け中』というタイトルも、「日が昇るのか昇らないのか分からないけれど、一歩ずつやるしかない」というところに重きを置いています。今回の脚本は、人生でもっとも短い期間で書いているんですよ。
━━━具体的にはどれぐらいで書き上げたのですか?
監督:5日間です。もう5日間で書くことは二度とないと思います(笑)やりたいことがはっきり決まっていて、中盤から全く違う話にしようと決めていたので、あとは逆算だけだったから早く書けたのでしょう。
━━━この脚本を初めて読まれたときの感想は?
馬場:僕も役者をやっているので、泰介が感じている葛藤がよく分かりました。泰介自身30歳で僕と同じなので、台本を読んでいて自分に問いかけられている部分が大きかったです。そういった意味では、今の僕にしかできない役だなと思ったし、今現在の僕がやりたいと思っている役で、いつも以上にワクワクと興奮しました。
高崎:途中で構成がガラッと変わるところがワクワクしましたし、実際に演じた後に観ても同じ気持ちになりました。(バラバラだった劇団員が)団結して本番中にトラブルが起こるというのが普通の台本だと思っていたら、この作品は途中でガラッと変わるので、ああいう形もあるのかと思いましたね。
平田:何のストレスもなく、謎解きのような「どうなるんだろう」というところもさっと読めたのですが、後で残るんですよね。普通のリアルな僕たちが役者として演じているところも、ワクワクして読めました。演じていても楽しかったし、できあがった作品を観ても楽しかったです。先ほど監督が5日間で書いたと聞いて、ビックリしました。
━━━窪田組常連俳優陣のキワモノぶりも楽しかったです。特に合宿所の管理人役をされた草野さんは、実は黒幕だったり、何か中盤の事件に絡んでくるのかと思いきや、ただの変わり者の管理人で終わっていましたね。
監督:最初は劇団員が現場を撮られたテープを取り戻そうと合宿所から帰った後に、草野さん演じる合宿所のおじさんが、ヤクザ事務所へ「おまえら、掘り起こしてたぞ、あいつ」と電話するのを入れようかと思ったんです。でも、それはちょっと狙いすぎの気がして、逆に「結局いなくても別によかった」という感じが面白いのではと感じて今の形にしました。草野さんはそういう「いなくても別にいい」役も得意ですから。
━━━馬場さんは、ずっとストレスを抱えて葛藤する、笑うシーンのほどんどない役でしたが、そういう役は珍しいのでは?
馬場:特に今回は男性キャストが元々顔見知りの人が多かったんです。僕一人その中でぶすっとしてなければいけなかったので、撮影中も少し距離感がありました。特に車の運転をしているシーンで、僕はぶすっとした顔で実際に運転をしているのですが、後部座席ではいつカメラが回っているか分からないので常に盛り上がっていて、「もうやめてくれ~っ」て気持ちになったことはありました(笑)でも基本は楽しかったですね。
━━━本作で窪田監督作品に主演するのは2度目ですが、窪田組の印象は?
馬場:初めて主演をさせていただいた『CRAZY-ISM クレイジズム』で、窪田監督と初めてお仕事をさせていただきました。「ちゃんと芝居をする」ことを初めて頭で理解させてくれた方だったので、僕にとって芝居の恩師みたいなものであり、揺るぎないです。だから『僕の中のオトコの娘』の時も、窪田監督にお願いしてチョイ役で出していただきましたが、それぐらい慕っています。窪田監督は愛があり、お芝居以外の人間的なことや大人としての振る舞いも教えてくださるので、そういった意味でも人生の大先輩で師匠ですね。早く師匠に恩返しができればいいなと思っています。
━━━高崎さんは、男性キャラクターの中で一番年下でありながら、一番成長していく役でしたが、役作りはどのようにされましたか?
高崎:成長する役なので、映画一本を通してのテンションの変わり方に気をつけて演じました。テンションの移り変わりがすごく繊細なので、考えていることがうまくできなくて、へこんだりもしました。等身大で演じた感はありますね。
━━━平田さんは劇団きっての色男で、女の子に言い寄られると断れない、優柔不断男子を演じましたが、ご自身の役をどう感じましたか?
平田:今の子たちってあんな感じがしませんか?悪気もなく二股をかけたり、誘われると断れなかったり。ふわっとした感じだけれど、お芝居が好きで10年やめないで続けていたり。看板女優と付き合っているけれど、そちらにはバレないように別の女優と付き合うわけで、女たらしというか、なんかすごいですよね(笑)。もともと(劇団員男子役の)4人は知り合いだったので、(高崎)翔太は一番年下だけど締めるところは締めてくれるし、馬場さんはやはりリーダーらしく締めてくれるし、王子(八神漣)はふわふわしていて、僕はマイペースなので、コンビネーションとしては良かったです。
馬場:窪田組はみんな気を遣ってくださるので、毎回現場の雰囲気はいいのですが、特に今回は劇団の合宿という設定で、山梨で泊まり込みで撮影をしていたので、そういう意味では本当の合宿みたな感じで取り組め、すごく一体感があったと思いますね。
━━━一番好きなシーンはどこですか?
馬場:(高崎)翔太演じる圭吾に自分の今置かれている状況をカミングアウトするシーンがあります。「俺ももう30歳だし、先がない」と言っているところは、もちろん泰介として演じてはいるのですが、僕にとってもリアルな瞬間で、あそこはすごく演じていて気持ち良かったです。自分の気持ちの中でもすっと入ったお芝居で、印象的でした。僕も30歳目前で「これからどうしよう」と考えはじめることがありますからね。
高崎:劇団が一度団結を取り戻した後の切り替えが、やはりワクワクしましたね。何が起こるか、くるぞ、くるぞといった感じが好きですね。
平田:僕は雪の中でキャッチボールをしているシーンが好きです。後々思うと、キャッチボールしている人たち皆の心情が少しずつ出ている気がします。「台本が出来ていないから(稽古できないのは)仕方ないじゃないか」というのも本心だし、周りの人たちも「皆がやるなら・・・」と思っている。泰介が「ちゃんとやろう」と言っている気持ちも分かるけれど、俺らに言うなよという感じですよね。寂れた体育館の裏で、真っ白な雪の中というシチュエーションも好きでしたね。
━━━最後に、一言ずつメッセージをお願いします。
監督:逆説的な感じですが、「コツコツ、ちゃんとやった方がいいよ」ということが一つのメッセージです。とは言っても、追い込まれた人間は何でもできるから、「本当にやる人間はやるので、そんなに心配をすることはないよ」という部分もあります。この作品を観て笑ってもらえばうれしいし、スカッとしてもらってもうれしいです。僕の作品をご存じの方には、「いつも血がドバドバ出るけれど、今回はそうでもないよ」と言いたいですね。
馬場:泰介は30歳手前で色々と悩んでいますが、この社会、特に恵まれている日本だからこそ何かもがいてやりたいけれど、今の現状に満足してしまう。そんな風に大小かかわらず、誰しも抱えている問題を描いているのかなと思います。この映画を観て、やる気になったり、何かのきっかけになればいいですね。みんなが「朝焼けに向かっていく」きっかけの一つとして、この作品があればいいなと、すごく思います。
高崎:何も考えずに観てほしいなと思います。そこで展開していくことを、一つ一つ感じとってくれたら、最後はスカッとすると思います。その後に思い返してみると、「最初はあんなにドロドロしてたな」とか「ピンチもあったな」とか「でも頑張ったな」と、何か感じてもらえたらうれしいですね。
平田:本当に終わったあと笑顔になれている作品だと思います。
(江口由美)
『あの頃、君を追いかけた』