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マチュー・アマルリック緊急来日!満席の観客を前に、ラリユー兄弟最新作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』を語る@TIFF2013

love is1.JPG~マチュー・アマルリックの魅力全開!大自然を舞台に愛が交錯するフィルム・ノワール~

 

『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』(2013年 フランス=スイス 1時間50分)
監督:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー
出演:マチュー・アマルリック、カリン・ヴィアール、マイウェン、サラ・フォレスティエ、ドゥニ・ポダリデス他

C0012_main_LL.jpg 第26回東京国際映画祭コンペティション部門作品に選出されたマチュー・アマルリック主演の新作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』。男女が山中で奇妙な再会を果たす『運命のつくりかた』(02)をはじめ、マチュー・アマルリックと数々の作品を生み出してきたラリユー兄弟が、再びスイスとフランス国境近い雪山を舞台に編み上げたフィルム・ノワールだ。マチュー・アマルリック扮する文学部教授マルクを中心に、常にマルクを注視している同居の妹マリアンヌ(カリン・ヴィアール)、失踪した教え子の若き母親アンナ(マイウェン)、個人授業をせがむ女学生アニー(サラ・フォレスティエ)ら女性たちの思惑や、愛が絡まる様子を大自然と共に描写。若い学生とその場だけの情事を重ねていた男の闇の部分や真の愛を知るまでを、マチュー・アマルリックが大人のユーモアを盛り込みながら熱演している。サスペンスである一方、雪山や大学キャンパスの白い風景が印象的な切なく美しいラブストーリーにも映る。


 マチュー・アマルリック氏の緊急来日が映画祭開会直前に決定したにも関わらず、40代半ば男のフェロモンで次々と女性を虜にしていく主人公像そのままに、フランス俳優の中でも人気・実力共にトップクラスのマチュー・アマルリックを一目見ようと、満席の観客が熱い拍手や「ブラボー!」という歓声でその登場を温かく迎えた。私たちの声を代弁してくれているかのような、矢田部東京国際映画祭コンペティション部門プログラミング・ディレクターの歓迎の言葉ではじまったQ&Aの模様を、一部記者会見の内容も交えながらご紹介したい。


(最初のご挨拶)
マチュー・アマルリック氏(以下アマルリック):こうして東京に戻ってくる機会を与えていただき、ありがとうございました。私にとってはまさしく狂気の沙汰でした。10日前、私の監督作を作り始めたばかりですから、日本にくるなんて思いもかけませんでした。

 

love is2.JPG―――ラリユー兄弟作品は個性的ですが、他の監督とラリユー兄弟の一番の違いは?
アマルリック:兄弟で作るというのは非常に大きな力で、二人ともピレネー山脈の熊のような山の男たちなのです。兄のジャン=マリーは割とよく話しますし、社交的で俳優たちの世話をします。一方、弟のアルノーの方は静かであまり語らず、黙々とフレームワークをし、遠くからすべてを見ています。映画というのは様々なディテールが重要で、それが積み重なるものです。特に兄弟がいることで、一人は非常に具体的な仕事をし、もう一人は遠くでフレームワークをしながら映画が持つべき魂の鼓動を忘れずにいることができるので、素晴らしい組み合わせだと思います。

 

―――ラリユー監督作品出演にあたり、他の監督とは違う心構えで臨んでいるのですか?
アマルリック:二人がいることによって、無意識のものを表現する勇気を与えてくれ、慎みを忘れてすべてをさらけ出すことができるのです。女性でも男性でも裸になっていくしかないという風に、自分を表現していけます。また風景と人間が一体化して、ヘドニズム(快楽の世界)を怖がらずに作り上げることができるようになります。それはジャン・ルノアールの系譜にいることができる監督だからでしょう。

 

love is3.JPG―――ラリユー兄弟の『運命のつくりかた』でも途中から山が舞台となり、本作も山が舞台になっていますが、マチュー・アマルリックさんからみてラリユー兄弟の山に対する特別な想いは感じられましたか?
 アマルリック:ラリユー兄弟は、ピレネーという山の近く(ルルド)で育ちました。祖父がアマチュアで山の中で動物を撮って、二人は映画作りを覚えたようです。二人はいつも「顔と景色」といつも言っています。今回はフィリップ・ジアンの小説を映画化しましたが、作品中で小説にはない場面もあります。主人公マルクが行う文学部の授業で「母親のことを書くとき、ある景色に例えなさい」というくだりがあります。心理描写ではなく、ある場所や景色を語るようにというセリフは、彼らが付け加えた部分です。これは日本の文化にも近いのではないでしょうか。

  

 

―――本作は裸になるシーンも多かったですが、オファーが来たとき抵抗感はなかったですか?  
アマルリック:3、4回ラリユー兄弟の作品に出演していますが、裸というのは彼らの性質の一部のようなもので、自然に演じています。本作については女性の方が裸になる率が多かったのではないでしょうか。他のラリユー兄弟作品に比べても多いと思います。

 

love is4.JPG―――脚本を読んだとき、主人公マルクをどういう人物と理解して演じたのですか?
アマルリック:マルクは自分で自分が分からないのです。記憶に穴が空いていたり、覚えていないところがあります。また、深い溝である愛情になるべく近づかないようにして、なるべく若い女性と肉体的な関係しか持たないようにしていたのです。でも何かが彼を変え、この溝に落ちていく話だと考えています。

 

―――女性にモテモテの役でしたが、ユーモアがあるのもその一因に見えました。演技の中に自然なユーモアを取り入れるため、何か習慣的にやっていることはありますか?
アマルリック:ラリユー兄弟は世界や人生の見方が非常にヘドニズム的ですね。深刻なことやスキャンダラスなことも、彼らにかかると自然な感じに表現されます。そこから彼ら独特のユーモアが生まれてきます。例えば本作でも主人公と妹の関係は何か深刻なものがあるのですが、ラリユー兄弟にかかるとそれがとても優しく表現されていきます。そういった監督からにじみ出るユーモアがあるのです。

 

  

love is6.JPG―――ブラックなフィルム・ノワール作品で大変楽しく拝見しました。自身が監督される次回作『La chambre bleue』について教えてください。  
アマルリック:ラリユー兄弟の本作は、他の彼らの作品に比べてもフィルム・ノワールなものになっています。特に、カラヴァッジョの音楽がフィルム・ノワール効果をより高めていますし、カリン・ヴィアールら女優陣がとても面白がって演じており、ユーモアもプラスされていたと思います。もう一つは、シナリオがよく書かれていたことです。特に作品の中で言葉が非常に重要でした。自然発生的にセリフを言うことは絶対になく、シナリオのセリフをしっかり覚えて、よどまずに言うことが我々俳優にも求められました。次回作は、ジョルジュ・シムノンの小説の映画化で、7月に2週間撮影を終え、11月にも2週間撮影予定です。情熱や肉体的に二人が惹かれあったり、死人も出るような映画です。

 

―――監督と俳優の境界線を設けているのですか?
アマルリック:友人の監督たちが私に映画に出るよう声をかけて、連れていくから出演しているのですが、私が朝起きて何を考えるかというと、自分の監督作品についてです。俳優として友達の監督の映画に出演し、監督のしていることを見ることも勉強になります。私にとっては演技をしているというより、彼らが働いている様子を見ているという感じです。それはアルノー・デプレシャンやラリユー兄弟でもそうですね。そうやって、彼らの作品に出演していると、どんどん自分の脚本を書く時間がなくなってしまいます。短い時間で自分の作品を作らざるを得なくなりますが、それもそんなに悪くないなと思います。あまりにも深刻に考えすぎたり、特別なものを作るというのではなく、「時間がこれぐらいしかないから」と思って作るぐらいがちょうどいいのかもしれません。

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(最後のご挨拶)
アマルリック:ラリユー兄弟から、「みなさんにご挨拶を伝えてほしい」とのことです。私とラリュー兄弟は10年前『運命のつくり方』で一緒に来日し、そのときには1ヶ月ぐらい日本に滞在したので今回来れなかったのはとても残念だと語っていました。この作品の中には色々考えさせるところがあるのではないかと思います。大島渚や黒沢清の作品を思わせるブラックな要素があるフィルム・ノワールです。そして心をぐっと捉えるようなところがあると思います。是非日本で劇場公開されればうれしいです。

(江口由美)