『名探偵ゴッド・アイ』《冬の香港・中国エンターテイメント映画まつり①》
『名探偵ゴッド・アイ』《冬の香港・中国エンターテイメント映画まつり①》
『息もできない』で一躍脚光を浴び、日本でも大人気となった韓国の女優キム・コッピ。彼女が出演した、日本人監督2作品『蒼白者 A Pale Woman』、『クソすばらしいこの世界』が大阪、京都、神戸で11月2日(土)から8日(金)まで同時多発1週限定公開される。CO2助成作品に選ばれ、大阪アジアン映画祭でジャパンプレミア上映された常本琢招監督のクラッシックな香り漂うロワール・ロマンス『蒼白者 A Pale Woman』。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に正式出品された朝倉加葉子監督デビュー作のスラッシャー・ホラー『クソすばらしいこの世界』。作品のテイストは真逆だが、犯罪の陰に漂うテーマや人種間のあつれきを時には激しく、時にはナチュラルに作品に盛り込んだ稀有な二本立てだ。いずれの作品もキム・コッピの可憐さから妖艶さまで、その魅力を存分に堪能でき、『蒼白者 A Pale Woman』では日本語、『クソすばらしいこの世界』は英語とキム・コッピが第二外国語をしゃべるところも、映画のカギとなっている。
両作品当日連続鑑賞で3000円となるお得な「キム・コッピ割」も実施。
さらに『クソすばらしいこの世界』朝倉加葉子監督、大畠奈菜子、『蒼白者 A Pale Woman』常本琢招監督、宮田亜紀さんの舞台あいさつも各劇場で開催予定だ。(京都みなみ会館は『クソすばらしいこの世界』朝倉加葉子監督のみ)。
『蒼白者 A Pale Woman』
(2012年 日本 1時間30分)
監督・原案:常本琢招
出演:キム・コッピ、忍成修吾、中川安奈、宮田亜紀、長宗我部陽子、木村啓介、渡辺譲
舞台挨拶:元町映画館:11月2日(土)18:00の回、第七藝術劇場:11月2日(土)20:40の回、京都みなみ会館:11月3日(日)18:45の回
登壇者:常本琢招監督、宮田亜紀
(C)ZEBKEN TSUNEMOTO-KE
韓国で暮らしていたキム(キム・コッビ)は、祖母亡き後、闇社会のフィクサー平山の後妻となった母フミ(中川安奈)の家に戻ってきた。キムの目的はただ一つ、かつて一緒に住み、ピアニストとしての才能に恵まれた少年シュウ(忍成修吾)が、今や母の愛人となり闇社会の住人となっているところから救い出すことだった。ある事故がきっかけで片耳が聞こえなくなったシュウは、ピアニストの夢を捨て、汚れた仕事に手を染めていたが、捨て身でシュウを救おうとするキムの姿を見て、少しずつ心境に変化が訪れるのだった。
20代で作った処女作がPFF入選、30代はオリジナルビデオの世界で注目を浴び、40代はテレビの世界で活躍してきた『蜘蛛の国の女王』『アナボウ』の常本琢招監督が、キム・コッピをはじめ、『ヘヴンズ ストーリー』の忍成修吾、『CURE キュア』の中川安奈、『先生を流産させる会』の宮田亜紀ら豪華キャストを集結させて撮りあげた、大阪舞台のロワール・ロマンス。愛する男を救うため、危険を顧みず突き進む女性像をキム・コッピが熱演。母親役のフミ演じる中川安奈は、久々の映画出演となったがその圧倒的な存在感で、作品を大いに盛り上げる。一方、夢挫折し、自分を見失い彷徨うような影をみせるシュウを演じる忍成修吾の苦悩に満ちた表情がなんとも色っぽく、魅力的だ。商店街の様々な表情や、海辺の朝など、観光地ではない大阪の何気ない風景が映り込み、独特の風情を感じる点も非常に新鮮。観終わったとき、「一途な愛」が心に残ることだろう。
『クソすばらしいこの世界』
(2013年 日本 1時間18分)
監督・脚本:朝倉加葉子
出演:キム・コッピ、北村昭博、大畠奈菜子、しじみ他
舞台挨拶:第七藝術劇場:11月2日(土)18:35の回/元町映画館:11月2日(土)19:50の回/京都みなみ会館:11月3日(日)20:35の回
登壇者:朝倉加葉子監督、大畠奈菜子(京都みなみ会館は朝倉加葉子監督のみ)
(C)2013 KING RECORDS
日本人留学生に誘われ、男女グループでロサンゼルス郊外の田舎町のコテージでキャンプすることになった韓国人留学生アジュン(キム・コッピ)。誘ってくれた友人以外は、英語を理解せず、日本語で話してばかりでアジェンは孤立してしまう。英語の勉強は建前で、酒やドラッグに興じてばか騒ぎをする日本人留学生たちに呆れ果て、一人で家に帰ろうと決意するが・・・。
山の中のコテージという孤立したシチュエーションで、斧で人間を切り刻む残虐な殺人鬼と死闘を繰り広げる中にも、一ひねりした展開があり、ただのホラーに収まらない奥行きを感じる。「黄人!」と罵声を連発する白人の犯人に訪れる思わぬ展開や、女性脚本家らしい反撃の決め台詞など、クスリと笑わせてくれる場面も。血まみれのキム・コッピが怖すぎる、日本語、英語、韓国語が入り混じった異色ボーダレスホラーだ。
『キャプテン・フィリップス』
10月25日(金)に閉幕した第26回東京国際映画祭。最終日にコンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。今年の東京サクラグランプリに輝いたのは、審査委員長のチェン・カイコー氏が、「最高賞には、卓越した完成度を求めました。情熱と魅力にあふれ、本物の人間の絆を、生き生きとしたエネルギッシュな演技で描いたこの作品に、審査委員は満場一致で決めました」とコメントしたスウェーデン映画『ウィ・アー・ザ・ベスト!』が受賞。また、観客賞にはキム・ギドク氏が脚本を担当した韓国映画『レッドファミリー』が受賞した。以下本年度の受賞結果と受賞コメントを紹介したい。
<受賞結果および受賞コメント>
コンペティション
東京サクラグランプリ東京都知事賞『ウィ・アー・ザ・ベスト!』(監督:ルーカス・ムーディソン)
受賞コメント:「思いもよらない受賞なので驚いています。東京国際映画祭に参加できるだけでも光栄ですので、本当に感無量です。私の妻であるココが、この原作を書きました」
・審査員特別賞『ルールを曲げろ』(監督:ベーナム・ベーザディ)
受賞コメント:「この賞を、イランの若者、アーティストやレッドラインを超える勇気ある人々に捧げます」
・最優秀監督賞ベネディクト・エルリングソン(『馬々と人間たち』)
受賞コメント:(トロフィーを頭の上に掲げ「重要な賞です。これは私だけでなく、クルー、スタッフ、ミュージシャン、出演者、そして馬たちのものです。馬たちに言いたいのは、ヒヒーン!」
・最優秀女優賞ユージン・ドミンゴ(『ある理髪師の物語』)
受賞コメント:「緊張しています。思いも寄らない受賞で、賞金もいただけるなんて!この賞をとても重要な方と共有したいと思います。皆さん、信じられないかもしれませんが、実は私は喜劇役者なんです。電気も電話もないみじめな気持ちになるような現場の撮影に私を呼んでくださった、本作品の監督であるジュン・ロブレス・ラナさんに感謝します」
・最優秀男優賞ワン・ジンチュン(『オルドス警察日記』)
受賞コメント:「監督が頑張ってくださったおかげで、この賞を手にしています。私は、家族を愛し、友人を愛し、映画を愛しています。翼をいただいた気分です。世界を照らす翼です」
・最優秀芸術貢献賞『エンプティ・アワーズ』(監督:アーロン・フェルナンデス)
受賞コメント:(ビデオメッセージで)「コンニチハ!先ほど素晴らしいニュースをいただきました。本当に嬉しいです。今回の受賞には、特別な意味があります。製作チームが初めて受賞した賞だからです。東京で私の代わりにお酒を飲んで祝ってください!」
・観客賞『レッド・ファミリー』(監督:イ・ジュヒョン)
受賞コメント:「キム・ギドク氏の素晴らしい脚本とここにいる素晴らしい俳優に感謝します。作品からのメッセージが観客に伝わっていると感じていましたが、この賞がそれを証明してくれました」
アジアの未来
作品賞『今日から明日へ』(監督:ヤン・フイロン)
受賞コメント:「ありがとうございます」
・スペシャル・メンション『祖谷物語-おくのひと-』(監督:蔦哲一朗)
日本映画スプラッシュ
作品賞『FORMA』(監督:坂本あゆみ)
受賞コメント:「このような賞をいただき胸がいっぱいで言葉が出ません。6年前に製作を始めたのですが、体調を崩したりと、6年もかかって作りました」
(TIFF2013プレスリリースより抜粋)
写真左よりジュン・ロブレス・ラナ監督、ユージン・ドミンゴさん、ペルシ・インタランプロデューサー
『ある理髪師の物語』(2013年 フィリピン 2時間)
監督・脚本:ジュン・ロブレス・ラナ
出演:ユージン・ドミンゴ、エディ・ガルシア、アイザ・カルサド、グラディス・レイエス
昨年のTIFFで「アジアの風部門」スペシャル・メンション賞を受賞した『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督と、TIFF2011『浄化槽の貴婦人』のユージン・ドミンゴが、70年代のフィリピンを舞台に田舎で暮らす未亡人女性の自立と目覚めを描く『ある理髪師の物語』。マルコス政権下で反乱軍の摘発が頻繁に行われ、戒厳令が敷かれる中、理髪師の夫に先立たれた妻が村の女友達と共に、様々な偏見や社会矛盾に立ち向かう様をゆったりとした時間の流れの中、しなやかに、時には強く表現する感動作だ。
特筆すべきは、今までコメディー作品や舞台でキャリアを重ねてきたユージン・ドミンゴが初めてシリアスな長編ドラマの主人公メリルーを演じたことだ。夫の言うことを聞くしかなかった控えめな主婦から、男社会の理髪師の世界に足を踏み入れ、次第にその腕前を認められていく自立の様子を芯の強い表情で魅せる。抑制し続けた感情を爆発させ、怒りを解き放ち、政府に反旗を翻すメリルーの決意の表情は、物語が終わった後も心に残り、最優秀女優賞にふさわしい見事な演技だった。
今年コンペティション部門に選出された同作は、ワールドプレミア上映され、観客から大喝采を浴びた。上映後のQ&Aも本作の狙いについて熱く語るジュン・ロブレス・ラナ監督や、茶目っ気たっぷりにキャスティングの経緯を語るユージン・ドミンゴさんの軽快トークで大いに盛り上がった。一部記者会見の模様を交え、翌日に行われた独占インタビューと合わせて、ご紹介したい。
(ワールドプレミア上映後のQ&A)
━━━最初のご挨拶
ジュン・ロブレス・ラナ監督(以下監督):みなさん、こんばんは。本日は私の作品を観に来てくださって、本当にありがとうございます。昨年も東京国際映画祭に参加させていただき、また今年も戻ってくることができたのは信じられない思いです。コンペで上映していただくことができて、大変光栄に思います。
ユージン・ドミンゴ(以下ドミンゴ):みなさん、こんばんは。お越しいただきましてありがとうございます。本日この作品を観に来てくださったフィリピンの方、本当にありがとうございます。この作品はフィリピンの皆さんのために作った作品です。そして、初めてみなさんと共に初めてこの作品を観ることができて、大変うれしく思っています。本当に胸がいっぱいです。日本は天気が穏やかで、過ごしやすく大好きです。
ペルシ・インタランプロデューサー:みなさん、こんばんは。本日は私達の作品を観に来てくださってありがとうございます。プレミアという形でみなさんもはじめてこの作品を観ていただくことになったわけですが、先ほど皆さんのリアクションを拝見させていただいて、大変ワクワクしました。ありがとうございました。
━━━なぜ、今70年代を描こうとしたのか、この作品の背景を教えてください。
監督:こちらの作品はトリロジーとなっており、昨年上映させていただいた『ブワカウ』と一連となる作品になっています。これらの作品は「孤立」を表現しています。それぞれが「死」ばかり考えているような作品になっていました。『ある理髪師の物語』では70年代、一般的に期待されていた女性像が描かれていたと思うのですが、現在私が手がけている3作目は14歳の孤児が主人公で、自分の父親が実は神父だと分かり、唯一残された家族を辿りるため自分も宗教の道に入っていく様子が描かれています。それぞれの作品ではアイデンティティーや自由、セクシュアリティーを扱っています。本作の時代背景(70年代)はフィリピンの歴史でも激動の時代で、40年経った今でも当時の問題は今でも残っていることをごらんいただきたいと考え、この作品を作りました。
━━━メリルー役にキャスティングされた経緯は?
ドミンゴ:私がキャスティングされるまでの話は多分45分ぐらいかかると思いますが、みなさんお付き合いいただけますか?私は主にコメディー映画に出演していたのですが、あるときプロデューサーから作品の話があり、監督が『ブワカウ』のジュン・ロブレス・ラナ監督と教えてくれました。ただその時はもっとギャラを払ってくれるメジャースタジオでの5つぐらいの作品に関わっていたので、全く脚本を読む余裕がありませんでした。それから1~2年経った時、主役女優をまだオーディションしていると聞き、連絡を入れると「脚本を読んでみないか」とメールで送ってくれたんです。しかし何度送ってもらってもメールが開かず、5回ぐらい送ってもらい、やっとメールが開き、ようやく読み始めることができました。
読んでみると、皆さんが映画をご覧になっていたときのリアクションと同様に、マリルーが市長を刺したとき、私も叫びましたし、市長の妻が飛び降りたときも、思わず叫んでしまいました。読み終わったときには拍手をして、監督に電話をかけたんです。「国にとっても、女性にとっても、普遍的なメッセージを含んだ素晴らしい作品です」と伝えました。その後に、メールで「私のことを採用したかったのでは?」と送ると、「受けてくれるんですか?」と言われ、やっとこの役を私が演じることになりました。なかなか意志の疎通ができていなかったのですが、やっと作品として出来上がり、みなさんにこのような形でご覧いただくのは夢が実現したように思います。私のようなコメディーをメインにした女優がこのようなドラマの長編作品で主演し、素晴らしい役を得て、本当に楽しかったです。
━━━この映画は75年の設定ですが、脚本を書くに当たり参考にしたことや、このような物語を描いた理由は?
監督:この時代は私にとって非常に関心が高く、私の家族もとても身近に感じている時代です。というのも、私の母方の兄弟が、解放軍に関わっていたこともあり、この問題はニュースで見るものではなく、家族が実際に体験したことでした。戒厳令も私たちが人事のように見ていたのではなく、実際に体験したことです。その政変の結果どういうことが起こったかが、とても重要でした。
ただそれら私の政治的な背景はあくまでもバックグラウンドでしかなく、私はこの作品の中で、ある一人の女性が70年代に女性としての期待値に縛られ、彼女がいろいろと苦しみながら最終的に自分の意見を言えるようになることを伝えたかったのです。この作品は女性がどうやって社会の中で自分の場所を見いだしていくのかという問題に触れていますし、映画の中でそれ以外の家族の問題や、反乱軍の問題は当時だけの問題ではなく、今でも私たちは同じような問題に直面しています。そういうことをお伝えしたかったわけです。
━━━脚本以外に、この作品に出演したかった動機はありますか?
ドミンゴ:女優として本当にその脚本と恋に落ちなければいけないと思いますし、監督やそのビジョンを信頼し、理解しなければいけないと思います。今回この作品は目標も明確で、女優であるということ以上に女性であり、フィリピン人であるということで託されている「全ての女性は愛されるべきで、尊敬されるべきだ」というメッセージに本当に共感しました。
━━━ラストに「マリルー・ディアス=アバヤに捧げる」とありましたが、マリルー・ディアス=アバヤさんについて教えてください。
監督:マリルー・ディアス=アバヤさんはフィリピン映画界の大巨匠で、昨年惜しくも亡くなってしまったのですが、私が23,4歳の頃はじめて書いた脚本を彼女が取り上げてくれ、自らプロデューサー兼監督作として世に送り出してくれました。ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映され、私の映画人生の第一歩を作って下さった方なのです。心からの敬意を表して本作のヒロインの名前をマリルー・ディアス=アバヤさんにちなんでつけさせていただきました。
翌日に行われた単独インタビューでは、主にユージン・ドミンゴさんに本作の脚本で一番感銘を受けた点や、マリルーの役作り、感動的なラストシーンの秘話などについてお話を伺った。
━━━なぜ70年代の田舎を舞台にしたのですか?
ジュン・ロブレス・ラナ監督(以下監督):この作品は3部作の一つで昨年TIFFで上映した『ブワカウ』を含め、全ての作品は田舎を舞台にしています。私は田舎の町に感銘を受けており、人生がシンプルで、複雑さがないところにすごく興味があるので物語の背景に使っています。そういう背景の上で、町の中での人々の対立をもっと深堀してみたかったのです。70年代を舞台にしたのは現状を反映していると考えているからです。政治的腐敗や家族の避妊の問題は、今でも同じ問題に直面していると思い、取り上げています。
━━━最初は主人に尽くすことしかできなかった主人公マリルーが、困難を乗り越え、自立し、声を上げるまでの姿を見事に演じていましたが、どのようにしてマリルーという女性像を作り上げていったのですか?
ユージン・ドミンゴ(以下ドミンゴ):いただいた素材を100%信用していたので、私自身はそんなに準備をせず、与えられた環境の中で合わせていきました。あまり準備をしてしまうのは、女優にとってはマイナス面もあります。自分は女性であり、女性としての経験もあり、人間としての強さもあります。それを脚本に合わせていく作業をしていきました。あとは監督からの指示をもとにキャラクターを作り上げていった訳です。後は自分の持っている感情や、いろいろなワークショップやディスカッションといった活動を通じてよりキャラクターを膨らませていきました。
━━━女性たちそれぞれが対面する問題を丁寧に描き、協力してして声を上げるまでの群像劇のようにも見えましたが、脚本を書く際に心掛けたことは?
監督:ある小さな町の理髪店を営んでいる女性が、苦しんで、最終的に自分の声を見つけるストーリーですが、その中で自分の周りにいる女性たちが、それぞれの強さを見つけるために協力しあうことも描いています。私にとって一番重要なのは、「メッセージからではなく、物語からスタートする」ということです。物語がしっかりしていれば、それ以外のことは後からついてきます。その中のキャラクターも深く描くことができますし、観客にも説得力のあるストーリーを作ることができるでしょう。私自身は「監督ができるストーリーテラー」だと思っています。ストーリーをとある枠組みの中で提示できる監督だと思っているので、まずしっかりとした物語を作るところからこのプロジェクトを開始しました。
━━━ドミンゴさんが監督からこの役を依頼され、シナリオを読んだとき一番心動かされた部分は?
ドミンゴ:何年もの間、テレビや他の作品でコメディーを演じていますが、ある日「もっと他の役もしてみたい」と思うようになっていました。自分が女性としても女優としても成熟してきているので、例えばフィリピンを代表するような国民的ヒロインの自伝的なものをやりたいと思っていたのです。スペインからのフィリピン解放運動で反乱軍に手を差し伸べ、国民的ヒロインとなったメルチョラ・アキノは、まさにマリルー的人物です。彼女については既に描かれている映画があり、その時は残念ながら私にはオファーをいただかなかったので、何かそういう機会を求めていました。この脚本を読んだとき、「まさに現在のヒロインだ」と感じ、この役をぜひやりたいと思ったのです。
━━━ラストシーンで「我が名はルース」と生まれ変わったような表情を見せながら宣言するメリルーの姿が目に焼き付きました。どんな気持ちでこのシーンを演じたのですか?
ドミンゴ:本当のことを言っていいですか?ラストシーンに革命派のリーダー役で出ていただいているフィリピンの大女優ノラ・ノーラさんは、私にとって子供のころからの憧れの大スターで私の中の永遠のアイコンなんです。彼女と一緒の撮影現場で映画に出ることができるだけで胸がいっぱいの表情になってしまいました。
━━━ぜひやりたい役を演じることができた『ある理髪師の物語は、ユージンさんのキャリアにとってどんな位置づけになるのでしょうか?
ドミンゴ:撮影中にいくつかのシーンをラフで見たとき監督に言ったのは、「これが私の最後の作品になってもいい!」。たった数シーンを見ただけで、本当にそう思えたのです。
(江口由美)
『ある愛へと続く旅』
『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』(2013年 フランス=スイス 1時間50分)
監督:アルノー・ラリユー、ジャン=マリー・ラリユー
出演:マチュー・アマルリック、カリン・ヴィアール、マイウェン、サラ・フォレスティエ、ドゥニ・ポダリデス他
第26回東京国際映画祭コンペティション部門作品に選出されたマチュー・アマルリック主演の新作『ラヴ・イズ・パーフェクト・クライム』。男女が山中で奇妙な再会を果たす『運命のつくりかた』(02)をはじめ、マチュー・アマルリックと数々の作品を生み出してきたラリユー兄弟が、再びスイスとフランス国境近い雪山を舞台に編み上げたフィルム・ノワールだ。マチュー・アマルリック扮する文学部教授マルクを中心に、常にマルクを注視している同居の妹マリアンヌ(カリン・ヴィアール)、失踪した教え子の若き母親アンナ(マイウェン)、個人授業をせがむ女学生アニー(サラ・フォレスティエ)ら女性たちの思惑や、愛が絡まる様子を大自然と共に描写。若い学生とその場だけの情事を重ねていた男の闇の部分や真の愛を知るまでを、マチュー・アマルリックが大人のユーモアを盛り込みながら熱演している。サスペンスである一方、雪山や大学キャンパスの白い風景が印象的な切なく美しいラブストーリーにも映る。
マチュー・アマルリック氏の緊急来日が映画祭開会直前に決定したにも関わらず、40代半ば男のフェロモンで次々と女性を虜にしていく主人公像そのままに、フランス俳優の中でも人気・実力共にトップクラスのマチュー・アマルリックを一目見ようと、満席の観客が熱い拍手や「ブラボー!」という歓声でその登場を温かく迎えた。私たちの声を代弁してくれているかのような、矢田部東京国際映画祭コンペティション部門プログラミング・ディレクターの歓迎の言葉ではじまったQ&Aの模様を、一部記者会見の内容も交えながらご紹介したい。
(最初のご挨拶)
マチュー・アマルリック氏(以下アマルリック):こうして東京に戻ってくる機会を与えていただき、ありがとうございました。私にとってはまさしく狂気の沙汰でした。10日前、私の監督作を作り始めたばかりですから、日本にくるなんて思いもかけませんでした。
―――ラリユー兄弟作品は個性的ですが、他の監督とラリユー兄弟の一番の違いは?
アマルリック:兄弟で作るというのは非常に大きな力で、二人ともピレネー山脈の熊のような山の男たちなのです。兄のジャン=マリーは割とよく話しますし、社交的で俳優たちの世話をします。一方、弟のアルノーの方は静かであまり語らず、黙々とフレームワークをし、遠くからすべてを見ています。映画というのは様々なディテールが重要で、それが積み重なるものです。特に兄弟がいることで、一人は非常に具体的な仕事をし、もう一人は遠くでフレームワークをしながら映画が持つべき魂の鼓動を忘れずにいることができるので、素晴らしい組み合わせだと思います。
―――ラリユー監督作品出演にあたり、他の監督とは違う心構えで臨んでいるのですか?
アマルリック:二人がいることによって、無意識のものを表現する勇気を与えてくれ、慎みを忘れてすべてをさらけ出すことができるのです。女性でも男性でも裸になっていくしかないという風に、自分を表現していけます。また風景と人間が一体化して、ヘドニズム(快楽の世界)を怖がらずに作り上げることができるようになります。それはジャン・ルノアールの系譜にいることができる監督だからでしょう。
―――ラリユー兄弟の『運命のつくりかた』でも途中から山が舞台となり、本作も山が舞台になっていますが、マチュー・アマルリックさんからみてラリユー兄弟の山に対する特別な想いは感じられましたか?
アマルリック:ラリユー兄弟は、ピレネーという山の近く(ルルド)で育ちました。祖父がアマチュアで山の中で動物を撮って、二人は映画作りを覚えたようです。二人はいつも「顔と景色」といつも言っています。今回はフィリップ・ジアンの小説を映画化しましたが、作品中で小説にはない場面もあります。主人公マルクが行う文学部の授業で「母親のことを書くとき、ある景色に例えなさい」というくだりがあります。心理描写ではなく、ある場所や景色を語るようにというセリフは、彼らが付け加えた部分です。これは日本の文化にも近いのではないでしょうか。
―――本作は裸になるシーンも多かったですが、オファーが来たとき抵抗感はなかったですか?
アマルリック:3、4回ラリユー兄弟の作品に出演していますが、裸というのは彼らの性質の一部のようなもので、自然に演じています。本作については女性の方が裸になる率が多かったのではないでしょうか。他のラリユー兄弟作品に比べても多いと思います。
―――脚本を読んだとき、主人公マルクをどういう人物と理解して演じたのですか?
アマルリック:マルクは自分で自分が分からないのです。記憶に穴が空いていたり、覚えていないところがあります。また、深い溝である愛情になるべく近づかないようにして、なるべく若い女性と肉体的な関係しか持たないようにしていたのです。でも何かが彼を変え、この溝に落ちていく話だと考えています。
―――女性にモテモテの役でしたが、ユーモアがあるのもその一因に見えました。演技の中に自然なユーモアを取り入れるため、何か習慣的にやっていることはありますか?
アマルリック:ラリユー兄弟は世界や人生の見方が非常にヘドニズム的ですね。深刻なことやスキャンダラスなことも、彼らにかかると自然な感じに表現されます。そこから彼ら独特のユーモアが生まれてきます。例えば本作でも主人公と妹の関係は何か深刻なものがあるのですが、ラリユー兄弟にかかるとそれがとても優しく表現されていきます。そういった監督からにじみ出るユーモアがあるのです。
―――ブラックなフィルム・ノワール作品で大変楽しく拝見しました。自身が監督される次回作『La chambre bleue』について教えてください。
アマルリック:ラリユー兄弟の本作は、他の彼らの作品に比べてもフィルム・ノワールなものになっています。特に、カラヴァッジョの音楽がフィルム・ノワール効果をより高めていますし、カリン・ヴィアールら女優陣がとても面白がって演じており、ユーモアもプラスされていたと思います。もう一つは、シナリオがよく書かれていたことです。特に作品の中で言葉が非常に重要でした。自然発生的にセリフを言うことは絶対になく、シナリオのセリフをしっかり覚えて、よどまずに言うことが我々俳優にも求められました。次回作は、ジョルジュ・シムノンの小説の映画化で、7月に2週間撮影を終え、11月にも2週間撮影予定です。情熱や肉体的に二人が惹かれあったり、死人も出るような映画です。
―――監督と俳優の境界線を設けているのですか?
アマルリック:友人の監督たちが私に映画に出るよう声をかけて、連れていくから出演しているのですが、私が朝起きて何を考えるかというと、自分の監督作品についてです。俳優として友達の監督の映画に出演し、監督のしていることを見ることも勉強になります。私にとっては演技をしているというより、彼らが働いている様子を見ているという感じです。それはアルノー・デプレシャンやラリユー兄弟でもそうですね。そうやって、彼らの作品に出演していると、どんどん自分の脚本を書く時間がなくなってしまいます。短い時間で自分の作品を作らざるを得なくなりますが、それもそんなに悪くないなと思います。あまりにも深刻に考えすぎたり、特別なものを作るというのではなく、「時間がこれぐらいしかないから」と思って作るぐらいがちょうどいいのかもしれません。
(最後のご挨拶)
アマルリック:ラリユー兄弟から、「みなさんにご挨拶を伝えてほしい」とのことです。私とラリュー兄弟は10年前『運命のつくり方』で一緒に来日し、そのときには1ヶ月ぐらい日本に滞在したので今回来れなかったのはとても残念だと語っていました。この作品の中には色々考えさせるところがあるのではないかと思います。大島渚や黒沢清の作品を思わせるブラックな要素があるフィルム・ノワールです。そして心をぐっと捉えるようなところがあると思います。是非日本で劇場公開されればうれしいです。
(江口由美)
『小さいおうち』特製香り袋プレゼント
■ 松竹提供
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■ 締切:2014年1月25日(土)
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2014年1月25日(土) ~全国ロードショー
山田洋次監督が挑む、新しい世界―――
小さいおうちに封印された”秘密”が、60年の時を経て紐解かれていく
昭和11年。田舎から出てきた純真な娘・タキ(黒木華)は、東京郊外に建つ少しモダンな、赤い三角屋根の小さなお家で、女中として働きはじめた。そこには、若く美しい奥様・時子(松たか子)と旦那様・雅樹(片岡孝太郎)、そして可愛いお坊ちゃまが、穏やかに暮らしていた。しかしある日、一人の青年・板倉(吉岡秀隆)が現れ、奥様の心があやしく傾いていく。タキは、複雑な思いを胸に、その行方を見つめ続けるが――。それから60数年後の現代。晩年のタキ(倍賞千恵子)が大学ノートに綴った自叙伝には、“小さいおうち”で過ごした日々の記憶が記されていた。遺されたノートを読んだ親類の健史(妻夫木聡)は、秘められ続けてきた思いもよらない真実に辿り着く。
出演:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子
原作:中島京子「小さいおうち」(文春文庫刊)
監督:山田洋次 脚本:山田洋次・平松恵美子
音楽:久石譲
製作:「小さいおうち」製作委員会
制作・配給:松竹株式会社
(C)2014「小さいおうち」製作委員会
2014年1月25日(土)~全国ロードショー
公式サイト :http://www.chiisai-ouchi.jp/
『ゼロ・グラビティ』
『グランド・イリュージョン』