原題 | A Thousand Times Good Night |
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制作年・国 | 2013年 ノルウェー・アイルランド・スウェーデン |
上映時間 | 1時間58分 |
監督 | 監督:エーリク・ポッペ『卵の番人』 音楽:アルマン・アマール『オーケストラ!』 |
出演 | ジュリエット・ビノシュ、ニコライ・コスター=ワルドー、ローリン・キャニー、ラリー・マレン・ジュニア |
公開日、上映劇場 | 2014年12月13日(土)~角川シネマ有楽町、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、ほか全国ロードショー |
~母として、妻として、人間としての真価を問う感動作!~
暗闇の中、一筋の光が不安げな瞳を浮かび上がらせる冒頭シーン。我々が芸能人や政治家などのくだらないスキャンダルに目を向けている間、世界に見捨てられた国々ではいとも簡単に多くの人々の命が奪われている。そんな現実を撮影した1枚の写真に一人でも多くの人の関心が集まれば、他者への寛容を示してくれたら、その1枚の写真は一筋の光になり得るということを、冒頭から訴えかけてくる。
主人公の報道カメラマンを演じたのは、出演作にハズレなしのジュリエット・ビノシュ(50歳)。信頼できる数少ない女優のひとりだ。スクール水着が初々しい『存在の耐えられない軽さ』(88)の頃の人懐っこい笑顔は今でも変わらない。すべてを包み込むような優しい眼差しも、世界中の子供たちに「おやすみなさい」と言えるような平和な世界を願う本作の主人公にぴったし。仕事と家庭の狭間で悩む女性像というだけではなく、自らの行動の意味をシビアに捉え、さらに変化していく女性を体現したジュリエット・ビノシュの演技は、真に迫るものがある。
【STORY】
アフガニスタンの首都カブール。墓穴の中に横たわる女性が起き上がり、清めの儀式の後、体に爆弾ベルトが巻き付けられ、事件は起こる。その過程を撮影しようと躊躇なくシャッターを押し続ける報道カメラマンのレベッカ(ジュリエット・ビノシュ)。彼女も自爆テロの巻き添えで重傷を負い、ドバイの病院で目を覚ます。アイルランドから迎えに来ていた夫(ニコライ・コスター=ワルドー)は、心配を通り越して不機嫌な様子。自宅では二人の娘が迎えてくれたが、長女のステフ(ローリン・キャニー)も夫と同じ表情をしていた。そう、いつもレベッカの無事な帰りを待つ家族にとって今回の事件は、心配の限界を越えるほど堪らないことだったのだ。
理解してくれていたはずの夫も堪忍袋の緒が切れ、思春期のステフも家族に心配をかけ続ける母親の危険な仕事の意味を理解できずにいた。そんな矢先、レベッカはケニアの難民キャンプをステフと一緒に訪れる機会を得て、ようやく母娘は理解し合えるようになる。ところが、安全だと言われていた難民キャンプがテロリストに襲撃される。そこでステフの懇願も聞かず、無謀にもテロリストの方へ駆け寄って撮影してしまったレベッカ。その写真のお蔭で国連が動き、より強固な安全策が取られることになったのだが、またしても耐えがたい苦痛を家族に与えた責任を夫に責められ、夫婦関係は完全に壊れてしまう。
荒涼とした紛争地域から緑豊かな平和な自宅に戻っても、怒りが沸々とこみあげてきて、レベッカが落ち着くことはない。常に緊張状態の戦場の方が落ち着くという『ハート・ロッカー』(09)の主人公と似たところがある。ステフがレベッカに問いかける言葉のひとつひとつが本作の核心を突いて、素晴らしい。
若い頃から世界の不条理に怒りを感じていたレベッカは、写真を撮ることで冷静になれたという。悲しんでいる人々にカメラを向けることは、彼らがそれを望んでいるからだという。「紛争地域の子供たちは私の母を必要としている、私よりも。」というステフの発表会でのスピーチを聴いて、再びアフガニスタンへ赴くレベッカ。そこには、もう冷静にカメラを向けられない、彼女には耐えられない情景が待っていた。
それが何を意味するのか、あなたの心にもレベッカの心情が映るはずです。
かつて報道カメラマンだったエーリク・ポッペ監督の経験に基づいて作られた物語だが、主人公を男性ではなく女性に置き換えたところに、より人間としての深層に触れるものがあるように感じた。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.oyasumi-movie.jp
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PHOTO (c) Paradox/Terje Bringedal