原題 | BEYOND BEAUTY, TAIWAN FROM ABOVE |
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制作年・国 | 2013年 台湾 |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | ・撮影:チー・ポーリン 製作総指揮:ホウ・シャオシェン |
出演 | ナレーション:ウー・ニエンジョン(中国語版)、西島秀俊(日本語版) |
公開日、上映劇場 | 2014年12月20日(土)~シネマート新宿、シネマート六本木、シネマート心斎橋他全国順次公開 |
~美しき空撮ドキュメンタリーが綴る台湾の大自然、破壊の傷跡、そして未来~
台湾から、全編空撮の大ヒットドキュメンタリー映画が届いた。ホウ・シャオシェンが製作総指揮を務め、元台湾の「國道新建工程局」職員として、長年航空写真を撮り続けてきたチー・ポーリンが、環境破壊された台湾の姿を今こそ映画で観てもらいたいと企画から資金集めに奔走。その結果、台湾ドキュメンタリー映画史上最高の3億3500万円もの製作費を投入し、3年以上の歳月をかけて完成させた渾身のデビュー作だ。
全編空撮というだけでも稀有だが、その映像の美しさに冒頭から心奪われてしまう。『セデック・バレ』で音楽を担当したリッキー・ホーによる時には交響曲のように優雅で、時には郷愁を感じさせる素朴な音楽が、本当に鳥になって台湾を俯瞰しているような気分にさせてくれる。だが、本当に示したいのは単に自然にあふれた美しい姿だけではなかった。人々の手によって田畑が耕され、海辺には漁港ができ、次第に開発が進み、工場からの汚染水流出、山を切り開いた宅地開発、景勝地への道路建設と自然を脅かす要因が増えてくる。まさに他人事ではないドキュメンタリーでもある。
『上から見る台湾』というタイトルで上映された第9回大阪アジアン映画祭では、台湾で大ヒット中という前評判もあり、前売り完売の人気ぶりだった本作。チー・ポーリン監督は上映後のQ&Aで「ホウ・シャオシェンプロデューサーの提案で、最初の脚本を白紙にし、フィルムからナレーションを起こした」と語っている。その日本語版ナレーションには、本作に深く共感したという人気俳優西島秀俊が参加。映し出されるありのままの自然に示唆深い言葉を投げかけるのだ。
年々激しさを増す異常気象による自然災害の脅威、工場排水による自然破壊、それらと隣り合わせで生活をしている市民たち。俯瞰してみることで、身近に迫る危機が鮮やかに映し出される。だが、本作はとても映画的な趣向が凝らされており、単なる警告で終わるのではなく、心震わされる力強い未来への賛歌やメッセージが、隠れフィクションとして挿入されている。美しき田園に刻まれた力強い足跡たち。台湾原住民合唱団の子どもたちが、台湾最高峰の玉山山頂で手拍子をしながら合唱する「拍手歌」。空撮だから表現できるダイナミックさと、今を生きる台湾の人々にそっと肉薄する姿勢で、自然と共生する人間の姿を最後にスクリーンに留めている。それは、万国共通の課題を提示しているかのように思えた。
(江口由美)
(C) Taiwan Aerial Imaging, Inc.