「AI」と一致するもの

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写真左より写真左より池松壮亮、高橋愛実、沖渡崇史、中村映里子、藤村駿プロデューサー、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、中川龍太郎監督
 
池松壮亮イチオシの新星、中川龍太郎監督がラフマニノフの旋律にのせて描く『愛の小さな歴史』舞台挨拶@TIFF2014
登壇者:中川龍太郎監督、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、藤村駿プロデューサー、中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮
 

~20代スタッフ、キャストの”情熱”がほとばしる!鮮烈で優しい”家族の再生”~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門作品としてワールドプレミア上映された中川龍太郎監督の『愛の小さな歴史』。詩人としても活動している中川監督が原作、脚本も担当し、プロデューサーやメインキャストも20代というまさに若手の力が結集した作品だ。
 
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幼い頃に父親からの虐待に遭い、母親亡き後親戚の家で孤独に生きてきた夏希(中村映里子)。唯一の家族である実の妹がクスリ漬けになっていることを知る借金取りの夏生(沖渡崇史)。夏希は父親(光石研)に復讐するため、夏生は妹(高橋愛実)を救うため、孤独に生きてきた2人が唯一の家族と同居し、短くて熱い夏が始まる。
 

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家族だからこその衝突はとことん激しく、でも家族だからこそ分かり合える部分はとことん優しく、役者たちの情熱がスクリーンから溢れだしてくる感じは、どちらかといえば自然体の演技やさらりとした演出が多い最近の若手が作る日本映画にはない、懐かしさすら覚える。感情がぶつかり合う一方で、ふと笑わせるような演出も施したり、ラフマニノフの調べにのせて詩的に綴ってみたり、硬軟合わせながら展開する物語に思わず入り込んでいくのだ。主演の中村映里子、沖渡崇史をはじめ、妹役の高橋愛実らの体当たりの演技や、父親役の光石研が過去の大きな過ちを犯してしまい、今では社会で何もできなくなった情けない男をこれ以上ないぐらいリアルに表現。怒りを高ぶらせる登場人物たちの中で、父親の元同僚役の池松壮亮は、少ない登場シーンながら作品の中で癒しや笑いを生み出し、心憎いばかりの存在感を放つ。
 
 

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10月28日の上映前には、中川龍太郎監督、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、藤村駿プロデューサー、そして出演者の中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮と総勢7人が登壇。満席の観客から大きな拍手で迎えられた。最初に「中川って誰?と思われるかもしれませんが、名前だけでも覚えてもらえれば。これからも映画を撮っていくので、よろしくお願いします」(中川監督)、「20代のスタッフ、若手の役者が頑張って作った映画が東京国際映画祭で上映されることはとても意味があること」(木ノ内)、「不器用で、ヘタクソで真っ直ぐな人間たちがぶつかる様を楽しんでもらえたら」(藤村)、「パッションがものすごい映画」(中村)、「若さあふれる映画。若さを楽しんで生きるということを考えてもらえれば」(沖渡)、「辛く悲しい中に希望がある」(高橋)、「(作品は)まだ観れていないけれど、(中川監督は)イチオシの監督です」(池松)とそれぞれが作品の見どころや印象を紹介しながら一言ずつ挨拶。
 
 

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司会の矢田部プログラムディレクターから、非常にタフな状況に置かれたヒロインを演じたときの心境を聞かれた中村は、「中川監督が本当に暑苦しいぐらいアツい人で、他のキャストのみなさんも情熱を持って本作に挑まれていたので、彼らに負けないように取り組みました。池松君が中川監督を紹介してくれたことがきっかけで、この映画に出演したのですが、池松君にがっかりされないようにがんばろうと思っていました」と緊張の面持ちで答えると、「緊張しすぎでしょ」と池松からフォローが。
 
 
 
 
 

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一方、本作の他にも様々な監督と組み、精力的に活動している池松は、中川監督の現場についての印象を聞かれ、「本作ともう1本、中川監督と一緒に撮ったのですが、4日ぐらいしか撮影していないので、あまり分かりません」と正直すぎる答えに観客も思わず大笑い。池松のコメントを受けて、中川監督は「池松君は気を遣ってそういう風に言ってくれたと思いますが、僕の現場は空気が悪いんです。皆、言いたいことがいっぱいあると思います」と自虐コメントで笑わせた後、「今も新作を撮っており、それと同時にこのように作品をみなさんに観ていただけるのが一番いいこと。前回の舞台挨拶でネタバレしてしまい矢田部さんに怒られたので、これぐらいにしておきます。どうもありがとうございます」と舞台挨拶を締めくくった。本作はもちろんのこと、まだまだ精力的に映画を撮っていくと宣言した中川監督の今後にも大いに期待したい。
 
 
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『愛の小さな歴史』
(2014年 日本 1時間20分)
監督:中川龍太郎
出演:中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮、光石研、中村朝佳他
 
第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)
 
第27回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
 

tensai-S-b-550.jpg福くん登場して、天才子役対決!?『天才スピヴェット』舞台挨拶レポート 《東京国際映画祭2014》
 

◆実施日:1027日(月) 
◆実施場所:TOHOシネマズ六本木ヒルズ2 SCREEN5 (港区六本木3-8-15
◆登壇者:鈴木福くん(10歳)
主演 カイル・キャトレット(12)、監督 ジャン=ピエール・ジュネ(61歳)


tensai-S-2.jpgフランス本国と日本で驚異の大ヒットを記録、観る者すべてを幸せにした『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ監督待望の最新作で、11月15日(土)よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開となる、映画『天才スピヴェット』。

1023()31()まで開催される第27回東京国際映画祭の“特別招待作品”への選出が決定し、 本映画祭にあわせて、ジャン=ピエール・ジュネ監督と共に本作で主演を務める天才子役カイル・キャトレット君が来日、 公式上映の前に、ジュネ監督とカイル君の舞台挨拶を実施。
また、特別ゲストとして日本の天才子役・鈴木福くんが二人の来日を祝し、会場に駆けつけました!

 


tensai-S-b-3.jpgジャン=ピエール・ジュネ監督と、自身が演じたスピヴェットの格好である燕尾服を着用し髪はオールバックでキメたカイル・キャトレット君が登場すると、会場は歓声に包まれ、カイル君の可愛らしい姿には「かわいいい~!」という声が挙がりました。主人公の10歳の天才少年を演じるカイル君は、6ヵ国語を操り、3年連続「総合格闘技の世界チャンピオン」の顔も持つ、正真正銘の天才少年! この日は、その6ヵ国語を使い分けた、華麗なる自己紹介を披露!

また、スピヴェットと同い歳の10歳の日本の天才子役代表として、二人の来日祝いに駆け付けた鈴木福君は、 カイル君と同じ、燕尾服姿&オールバックヘアーで登場!カイル君は、自身が得意とするカンフーも披露し、更なる天才ぶりをアピール、一方の福君もカイル君に特技のけん玉を披露!可愛らしい”天才子役対決”に会場からは歓声と拍手が送られました。

ジュネ監督は、二人の天才子役を前にイマジネーションが駆り立てられたようで、次回作は二人がけん玉とヌンチャクで闘う映画をつくると約束!福君の世界デビューを予感させると共に、天才子役二人の可愛らしさ、そしてジュネ監督の映画さながらの小粋でエスプリの聞いたトークに会場は大いに盛り上がりました。



MC:本日は第27回東京国際映画祭 特別招待作品「天才スピヴェット」上映にようこそお越し下さいました。
それでは、本日のゲストに登場していただきましょう!

<ジャン=ピエール・ジュネ監督、カイル・キャトレットくんが登場>

tensai-S-b-6.jpgジュネ監督:日本でこうやって上映できるのがとても嬉しいです。日本に私のファンが何名かいることは知ってるよ(笑)。僕はモンマルトルのカフェの近くに住んでいるんだ。なぜならば、日本人がこのカフェにあるものを食べにくるから!『アメリ』のポスターが貼ってあるんだけど、僕が座っていると邪魔って言われることもあるんだ(笑)。彼は(カイル君)は、見ての通りちょっと小さい。映画内ではアクションシーンがいくつかあるんだけど、スタントは全部自分でこなしたんだ。しかし、タフで疲れたとは決して言わないし、真の意味で俳優なんだよ!

カイル君:<【私はカイル・キャトレットです】を、英語・ロシア語・北京語・スペイン語・フランス語・日本語で披露。会場から歓声が!>

MC:6ヶ国語ですが?!すごいですね!ありがとうございました!それでは、ジュネ監督に質問です。本作は原作を気に入られて、映画化を決めたそうですが、ご自身初の3D作品となります。なぜ、本作を3Dで撮ろうと思ったのですか?

ジュネ監督:子供の頃、ビューマスターという3D映像がみれるおもちゃが好きだったんだ。
実はこの作品の脚本は元々3Dで撮るという前提だったし、実際とても合っていると思う。
今日はハジの方の席にもたくさんお客さんが座っているけど、3Dの効果というのは本来真ん中で得られるものだから、本当の効果が得られないかも・・・だから是非もう一度真ん中でみてほしいな!

MC:カイル君は今回ジュネ監督の作品に出演されてみていかがでしたか?

カイル君:楽しかったです!素晴らしい監督です!

MC:さて、ここで本日は更にスペシャルゲストが駆けつけてくれました。日本を代表する天才子役といえばこの方、鈴木福君です!

tensai-S-b-2.jpg<燕尾服にオールバックスタイルで鈴木福君登場!花束をジュネ監督とカイル君に手渡す>

MC:福君、ようこそいらっしゃいました!福君は現在10歳ということで、スピヴェット君とまさに同い年、まさに天才子役同士でありますね。一言ご挨拶をお願いします

福君:こんにちは、鈴木福です。本日はこんな素敵な場所に呼んでいただき、 とても嬉しく思っています。映画の天才スピヴェット君をイメージした格好できました。よろしくお願いします!

ジュネ監督:映画は気に入った?!

福君:はい、とても面白かったです!カイル君はアクションシーンもかっこよかったし、映画初出演とは思えないくらい演技が上手でした。

カイル君:(日本語で)ありがとうございます!

MC:カイル君は、7歳以下の武道選手権で3年連続チャンピオンになったそうですね。 是非、武術をここで披露いただけますか?

tensai-S-b-4.jpg<カイル君、見事なカンフー(剣、ヌンチャクなど)を披露!会場からは歓声と拍手が!>

MC:福君、カイル君のカンフーはいかがでしたか?

福君:すごいですね。さすが世界チャンピオンだと思いました!かっこよかったです!

MC:では、今度はお返しに今、福君がはまっている、学校で流行っているというこちらを披露いただきます!


 

tensai-S-b-5.jpg<福君けん玉披露!いつくかの技を見事に成功させるも、大技である“野球”という技がなかなか決められず・・・失敗に終わります。>

福君:かっこいい姿をみせることができなくて・・・負けちゃいました・・・
すごく緊張しまくってヤバイです・・・

カイル君:よかったよ!

MC:ジュネ監督は二人の特技はいかがでしたか?

ジュネ監督:今度ケン玉少年の役を書くよ!ヌンチャクとケン玉で闘う映画をね!

MC:それでは最後に映画の見所をこれから観る観客の方にメッセージをお願します。

ジュネ監督:アメリカの専門誌が、”最高の3D映画”と書いてくれました!私も賛成です(笑)
3D映画なので是非真ん中の席で観てください!

カイル君:今日はありがとうござます!是非楽しんでください!

福君:驚きと発見のつまったおもちゃ箱のような映画です。若い人からお年寄りまで楽しめると思いますので是非みてください


 【STORY】
tensai-S-3.jpgモンタナの牧場で暮らす10歳のスピヴェットは、生まれついての天才だ。だが、身も心も100年前のカウボーイの父と昆虫博士の母、アイドルを夢見る姉には、スピヴェットの言動が今ひとつ分からない。さらに、弟の突然の死で、家族の心はバラバラになっていた。そんな中、スピヴェットにスミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られるベアード賞受賞の知らせが届く。初めて認められる喜びを知ったスピヴェットは、ワシントンDCで開かれる授賞式に出席するべく、家出を決意する。数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。
何とか間に合った受賞スピーチで、彼は<重大な真実>を明かそうとしていた──。


監督:ジャン=ピエール・ジュネ『アメリ』『デリカデッセン』『エイリアン4』
原作:「T・S・スピヴェット君傑作集」ライフ・ラーセン著(早川書房刊)
出演:カイル・キャトレット(新人)、ヘレナ・ボナム=カーター『チャーリーとチョコレート工場』『英国王のスピーチ』、
ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ドミニク・ピノン
原題:『The Young and Prodigious T.S. Spivet』/105分/フランス・カナダ合作/カラー/シネスコ/5.1chデジタル
字幕翻訳:松浦美奈 
(c) EPITHETE FILMS - TAPIOCA FILMS - FILMARTO - GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

★作品紹介⇒ こちら
★公式サイト⇒ http://spivet.gaga.ne.jp/

 

marseille-ki-550-2.jpg髭剃りが大変だった!?『マルセイユ・コネクション』ジル・ルルーシュ&セドリック・ジメネス監督舞台挨拶《東京国際映画祭2014》


◎日時:2014年10月26日(日)
◎ゲスト:ジル・ルルーシュ(42歳)、セドリック・ジメネス(?)


 『マルセイユ・コネクション』
・原題:The Connection [ La French ] 
・(135分 フランス語 Color 2014年フランス=ベルギー)
・監督/脚本 : セドリック・ジメネス
・プロデューサー : アラン・ゴールドマン・ 脚本 : オードレイ・ディヴァン
・撮影監督 : ローラン・タンギー     ・美術 : ジャン=フィリップ・モロー
・編集 : ソフィー・レーヌ        ・音楽 : ギヨーム・ルセル
・出演:ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ、セリーヌ・サレット、メラニー・ドゥーティ、ブノワ・マジメル
© LEGENDE FILMS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA, SCOPE PICTURES


 
~現代の視点で描いたフランス版“フレンチ・コネクション”の醍醐味~

 
1970年代のマルセイユに実在した麻薬犯罪組織のボスと新任判事との攻防戦を描いた『マルセイユ・コレクション』。当時巨大な市場であったアメリカへの麻薬密売ルートを確立したのは、マルセイユを拠点とした“フレンチ・コネクション”と呼ばれた犯罪組織だった。ウィリアム・フリードキン監督の『フレンチ・コネクション』(71)とジョン・フランケンハイマー監督の『フレンチ・コネクション2』(75)では、まさにフランスからの麻薬ルートの取り締まりに命を懸けたニューヨーク麻薬取締官の活躍を躍動感あふれる映像で描いていた。当時、コルシカ島出身のフレンチ・マフィアと、シチリア島出身のイタリアン・マフィアの双方からアメリカへ麻薬が密売され、アメリカの若者が急激に麻薬に蝕まれていった。その後のアメリカ映画では大きな社会問題として数多くの作品で扱われるようになった。そんなマフィアが暗躍する世界を“ファミリー”の内側から描いたフフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』シリーズはあまりにも有名。
 

marseille-550.jpgそしていま、マルセイユ出身の若き監督が、判事とマフィアのボスを両極において、それぞれの家族への想いや仕事に対する非情さを、現代の視点で細やかに物語る。特に、犯罪組織に果敢に戦いを挑み続けた判事の執念を、「勝負にこだわるギャンブラーのようだ」と語らせているところは人間臭くて興味深い。『アーティスト』(11)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジャン・デュジャルダンがミシェル判事役を、『この愛のために撃て』(10)のジル・ルルーシュが犯罪組織のボス・ザンパ役を演じて、なんとも豪華なW主演となった。また、数々の主演映画で日本でも大人気のブノア・マジメルがボスと敵対するマフィアの一員を、さらに今年のフランス映画祭で上映されたトニー・ガトリフ監督の『ジョロニモ 愛と灼熱のリズム』で主演したセリーヌ・サレットなど実力派が脇を固めている。

 本作を監督したセドリック・ジメネス監督と、犯罪組織のボス役を演じたジル・ルルーシュが東京国際映画祭のために初来日し、舞台挨拶を行った。
 


 

marseille-di-1.jpg――― 歴史的事件を扱っている本作の製作にあたりプレッシャーはなかったのか?
監督:プレッシャーはなかったが、責任は感じていた。私はマルセイユで生まれ育ち、父はザンパ関係者が経営していた店の隣でナイトクラブを経営していたので、子供の頃から彼等のことはよく知っていた。いつかはこの事実を物語りたいと思っていた。実在の人々に対し敬意を払いながら、マルセイユの人々に対しても裏切らないような作品を撮りたいと思っていた。


――― ハンディカメラの使用について?
監督:映画の中に観客が入り込んで、より登場人物たちを身近に感じてもらえるようにハンディカメラを使用した。人物と観客との距離感をなくして、キャストの動きに付いて行けるよう、活き活きとした映像を撮りたかった。


marseille-ji-3.jpgのサムネイル画像――― ジルは『プレイヤー』(12)でもジャンと共演して究極の遊び人をコミカルに演じていたが、今回はシリアスにガチ勝負?
ジル:ジャンとの共演作は3作品あるが、直接顔を合わせる共演は今回で2作目。長年の友人でもあるので、対決シーンでは苦労した。知らない者同士なら上手くいくところを、とにかく8時間は敵として顔を合せない、話もしない、といった具合に緊張関係を作った。そのせいで、その後心理カウンセラーを必要としたほどだった(笑)。
 

――― フレッド・カヴァイエ監督がジル・ルルーシュの印象について、「愛する妻のために東京の街を駆け巡るようだ」と言っていたが、東京の印象について?
ジル:小さい頃から東京に憧れていた。私にとって東京は『ブレーランナー』の世界のようだった。とてもユーフォニックで快楽的でワクワクするような、違うコードの街。フランスが中世に見えるくらい日本は近未来的。興味を掻き立てられる街なので、多くの監督が東京で撮りたいと思う気持ちがよくわかる。
 

ジルもジャンも体格が似ていて濃い無精ひげの印象が強かったが、本作ではスッキリ綺麗なお顔で、特にこんなハンサムなジル・ルルーシュを見るのは初めてではないかと思う。実在の人物がモデルなので、家族や関係者にリサーチして役作りをしたという。また、当時の男性は服や髪などスタイルにこだわり、いつもきちっとした格好をしていたので、ジャンとジルにもまめに髭剃りをするよう監督の指示があったようだ。「髭剃りが大変だったんだ!」とこぼすジル(笑)。
 


marseille-ji-1.jpgのサムネイル画像≪ジル・ルルーシュ≫
1972年、フランス生まれ。
演劇学校を卒業後、俳優業を開始し、『Ma vie en l'air』(未/05)でセザール賞の若手有望株賞にノミネートされる。その後、ジェロール・サム監督の『アントニー・ジマー』(未/05)、セドリック・クラピシュ監督『PARIS(パリ)』(08)、リュック・ベッソン監督の『アデル/ファラオと復活の秘薬』(10)等のヒット作に出演。また『ナルコ』(04)では出演と共に監督・脚本デビューを果たした。その他の主な出演作は、『世界で一番不幸せな私』(03)、『ジャック・メスリーヌ/フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男』(08)、『プレイヤー』(12)、フレッド・カヴァイエ監督の『この愛のために撃て』(10)と『友よ、さらばと言おう』(13)など。
 

≪セドリック・ジメネス監督≫
マルセイユ生まれ、監督兼脚本家。ニューヨークとロンドンで数年を過ごしたのち、独立系プロデューサーとしてパリで映画製作のキャリアをスタート。2011年にサスペンス『ハッキング・アイ』をプロデュース・監督し、批評家から高い評価を受け、ナポリ国際映画祭最優秀作品賞を受賞。ジャン・デュジャルダンとジル・ルルーシュが出演する本作は監督としての長編第2作である。
 


(河田 真喜子)

 

kitano-550.jpg第1回“SAMURAI(サムライ)”賞受賞記念 北野武監督スペシャルトークイベント《東京国際映画祭2014》

 

 第27回東京国際映画祭で新設された“SAMURAI(サムライ)”賞の初年度の受賞者である北野武監督を招き、「日本映画の未来と今」について語り合うトークイベントが開催されました。

日時・場所:10月25日(土)~@六本木ヒルズ49階アカデミーヒルズ内タワーホール
◎登壇者:北野武監督、トニー・レインズ(映画製作者/映画評論家/キュレーター)、クリスチャン・ジュンヌ(カンヌ映画祭代表補佐)、「PFF」各賞受賞監督、「日本学生映画祭」受賞監督

 


 
kitano-4.jpgトークショーの前半では、若手の映画監督からの質問に対し、「自分が描きたいものを自分なりに描けばいい。でも、嫌いなものも認めるという余裕も必要で、自分の好きなことを他の意見もあると思いながらつくっていけばいいんじゃないか。みんなマジメすぎるよね。余裕をもって、常に自分を客観的に見た方が追い詰められなくていいと思う」と、独自の映画論について時に冗談を交えながら、北野監督はお話しくださいました。


kitano-3.jpgトークショー後半では、日本映画に造詣が深いトニー・レインズ氏とクリスチャン・ジュンヌ氏も登壇し、北野監督の作品や日本映画について語っていただきました。日本映画に興味を持つきっかけとして、黒澤明や溝口健二、小津安二郎などの監督を挙げたレインズ氏とジュンヌ氏。最近の日本映画について、「映画の未来は今、この舞台の上にいる若い監督たちによってつくられます。かのオーソン・ウエルズ監督の有名な言葉で、“彼らは、未来を使い果たしてしまった”、というものがありますが、大会社による映画製作は終焉を迎えています。これからは若者が映画づくりの未来を担い、シネマというものをつくり上げていくと思います。映画づくりは学校でも学べますが、自分でつくることが最もよい学び方です」と、述べたレインズ氏にジュンヌ氏は同意し、「映画の未来は若手監督にあり、これは日本映画に限らず、全世界的な映画製作について言えることです。世の中の変化と共に監督も変わり、映画のメッセージもその伝え方も変わるでしょう。若手監督の皆さんが伝えたいメッセージを発信できることを願っています」と、語りました。北野監督は、「日本で作品の悪口ばかり言われていた時に初めて評価してくれたのがトニーさんで、いまだに恩義を感じている。だから若手監督のみなさんも、誰がどこで見ているか分からないので、好きな映画を撮った方がいい」と、述べました。


北野監督に興味を持つきっかけとなった作品についてジュンヌ氏は、「始めて北野監督の作品を見たのは、役者として出演した大島渚監督の1983年の作品、『戦場のメリークリスマス』でした。その後、監督作品を見たのは、『ソナチネ』でしたが、非常に印象的で、今でも北野監督の映画の中で一番好きな作品です。映画を見終わった後に残るノスタルジア、寂しさのような感情が、北野監督の作品に惹きつけられるところです」。レインズ氏は、「80年代の終わりに、『その男、凶暴につき』を見て素晴らしいと思い、バンクーバー国際映画祭で上映しました。その後の活躍は、皆さんご存知のとおりです」と、述べました。


kitano-2.jpg日本の若い監督の作品が海外で評価されるために必要なものについて、レインズ氏が、「商業映画の未来は、ごく少数の大手企業が握っています。ほとんどの若い監督は、そこに入り込みブレイクのきっかけとすることはできないでしょう。少なくとも近い将来においては、メジャーな商業映画にかかわるチャンスはさらに限られたものになっていきます。ですが別の媒体、つまりインターネットにおける配信方法を開拓するという方法があります。大きな劇場で上映されていない作品を見つけるということが、今後多くなっていくと思うのです。若手監督の皆さんは、新しい発信方法を追求すべきです。そして何よりも、良い作品をつくること。良い映画をつくれば、世界は注目します。世の中には優れた映画はそれほど多くありません。意外に思われるかもしれませんが、競争相手はそれほど多くないですよ」と、述べると、北野監督は、「何が必要かなんて、どうすれば宝くじが当たるかというような話だから、それは自分で探すしかない。参考意見としては受け止めていいけども、つくるのは自分だから。自分の世界を構築することがベストであって、自分で新しいものを見つけるかもしれない。私はがんばれとは言いません。若い芽は早く摘んでおいた方がいいですから」と、北野監督らしいコメントで、舞台上の若手監督にエールを送りました。

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生身の人間同士が触れ合う感覚を大事にしたい~『最後の命』柳楽優弥インタビュー
 

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『最後の命』(2014年 日本 1時間50分)
監督:松本准平
原作:中村文則『最後の命』講談社文庫刊
出演:柳楽優弥、矢野聖人、比留川游、内田慈、池端レイナ、土師野隆之介、板垣李光人、りりィ、滝藤賢一他
11月8日(土)~新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ渋谷、梅田ブルク7、シネマート心斎橋他全国公開
※NY「チェルシー映画祭」最優秀脚本賞を邦画初受賞
公式サイト⇒http://saigonoinochi.com/
(C) 2014 beachwalkers.
 

~生きる理由を探す青年がみつけた光とは?~

 
できるだけ他人と関わらないように静かに生きる青年桂人と、婦女暴行犯として追われていた幼馴染の冴木。幼い頃ある事件を目撃したことがきっかけで、運命を狂わされた二人が再会したとき、桂人の部屋で殺人事件が起きる・・・。
 
芥川賞作家の中村文則の小説『最後の命』を、『まだ、人間』で注目を集めた新鋭、松本准平監督が映画化。主演の桂人にはドラマ『アオイホノオ』他、圧倒的な存在感で観る者を魅了する柳楽優弥、桂人と対峙する冴木に蜷川幸雄の『身毒丸』で主役を演じた矢野聖人、二人の男にかかわる同級生香里に本作で映画デビューを飾った比留川游が扮し、緊迫感のあるドラマを説得力のあるものにしている。特に目線や佇まいで、桂人の抱えている過去や性への葛藤を表現する柳楽優弥の演技に惹きこまれ、まさに桂人と冴木の間に流れる空気を感じることができるだろう。
 
キャンペーンで来阪した主演の柳楽優弥に、桂人の人物像や、本作で表現したかったこと、また俳優人生の中で印象的だった現場についてお話を伺った。
 

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―――最初に脚本を読まれたとき、この作品や桂人、冴木というキャラクターに対してどんなことを感じましたか?
柳楽:まず、現代っぽいなという印象を持ちました。先に原作を読んだのですが、すごくインパクトのある小説で、どういう風に脚本化されるのだろうと思っていました。自殺や死、そして生きるということについて考えさせられる内容で、僕らや、もう少し下の世代に何か響くものがあるのではないかと。実際に脚本を読んだときは、すごく難しいと感じました。現場に入る前に頭に浮かんだのは、ショーン・ペン主演の『ミスティック・リバー』で、監督はそんな感じのことをしたいのではないかとも感じました。
 
 
―――目線や佇まいで、過去に何か重いトラウマを背負っている桂人を表現されていましたが、どういうプロセスで役作りをしていったのですか?
柳楽:桂人は言葉で人を説得するのではなく、自分の言いたいことを割と抱え込んでしまっているタイプです。そういうタイプの人は相手の目を見て話さない印象があるので、監督に目線の提案をしてみたら「いいですね、やってみましょう」とGOサインを出してくれました。目線の表現は意識して取り入れていきましたね。過去のトラウマや葛藤を抱えているような、あまりポップではない役を演じるときは、現場に入る前に少し憂鬱になることがあります。今回は作品のテーマも重いので、「よし、頑張るぞ」と気合を入れて臨みました。「撮影でどれだけ自分が闘えるか」という戦闘モードでしたね。
 
 
―――古書で埋め尽くされていた桂人の部屋も、桂人という人物を読み解くヒントになりますね。
柳楽:すごい本を読むなと思いました。(笑)高校生でドストエフスキーの『罪と罰』を読むような人物ですから。それよりもレベルの高い本が桂人の家には積まれていて、きっと本に救われて選択肢が広がっているような人なのでしょう。
 
 

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―――子どもの頃に同じ事件に巻き込まれた桂人と冴木の間には、二人にしか分からない世界があり、観る方はその世界に引きずり込まれていく感じがしました。柳楽さんは、桂人と冴木の関係をどう捉えて演じたのですか?
柳楽:僕も小学校や中学校のときは、目立つ人や何かに長けている人を羨ましいと思うタイプだったので、桂人にとっての冴木も羨望の眼差しを向ける存在だったのではないでしょうか。監督には冴木が兄で、桂人が弟のような関係だと言われたのですが、時間が経った後に再会すると、冴木の方が追い込まれていた気がします。
 
 

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―――冴木役、矢野聖人さんとの初共演はいかがでしたか?
柳楽:矢野さんは蜷川幸雄さんの舞台『身毒丸』に出演され、舞台慣れされているので、今回も役をかっちり組み立てて臨まれていた印象があります。僕は矢野さん演じる冴木に振り回される普通の青年役なので、矢野さんが現れた途端「冴木だ」と思え、全信頼を寄せて挑めました。とても魅力的な方でしたね。比留川さんもとても素敵な方でした。精神を病んでいく桂人の彼女役ですが、年上ながらとても親しみやすい雰囲気を出してくれ、僕は共演していて落ち着きました。
 
 
―――重いテーマのストーリーですが、最後に光射すイメージを残しますね。
柳楽:キャラクターたちが真っ暗なトンネルで出口を探しながら走っていると、エンディングでCoccoさんの歌が流れ、「出口はここだよ」と光を照らしてくれた気がします。僕はエンディングがCoccoさんの歌だと知らなかったので、初めて聞いた時いい意味で衝撃を受けました。
 
 
―――柳楽さんの目がすべてを物語る力を持っていたと思います。まさに柳楽さんあっての作品なのでは?
柳楽:やはり、監督が僕の目の力に注目してくれたことが大きいです。脚本が難しかったので、撮影前半はこちらから腑に落ちない点を監督に聞きに行くようにしていました。
 
 
―――役の幅も広がりましたね。
柳楽:本当に色々な役のオファーが来るようになりました。次は時代劇がやりたいです。最近は仕掛ける方の役が多いのですが、そちらの方は遊べるし楽しいですね。今回は俳優をはじめた頃に演じていたような、割と受け身の役です。最近の主役はどの作品を見ても受け身芝居が多い気がするので、こういう受け身の役もきちんと演じられるようになりたいです。
 

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―――最初は受け身ですが、最後に一皮むける桂人の成長ぶりは、柳楽さんの繊細かつ大胆な演技でリアリティーがありました。傷つきあいながらもぶつかっていく主人公たちの姿に心揺さぶられます。
柳楽:『アオイホノオ』で昭和時代の芸大生を演じて以来、僕の中で昭和と平成を比べるのがブレイクしているのですが、昭和50年代は相手に対してしっかり伝えるというイメージがあります。平成は相手に対して、インサイドになるのが癖になっているイメージです。桂人はインサイドすぎる存在で、自分の意思はあるのですが、感情の爆発する方向がネガティブになりすぎている気がします。今いろいろな事故や事件が起こっている中で、自死しか選択肢がないと思わないでほしい。そういう光をこの作品から見つけてほしいです。
 
トンネルから見える小さな光や、自分がふと前向きに考えられることというのは、ふとした瞬間に声をかけられた言葉を一生覚えているような、意外と日常の中に溢れているものではないでしょうか。そんな瞬間を捉えられないぐらい鈍感になるのは個人的にはイヤで、「SNSをしすぎて、感じることに鈍感にならないで」と思います。恋愛に対してのドキドキ感や、優しくされてうれしいと思う気持ちなど、生身の人間同士がふれあう感覚を大事にしてほしいですし、「すぐに死に結びつけないで」と言いたいです。
 
 
―――柳楽さんは今年で俳優生活13年目ですが、その中で自分を変えたり、壁を越えさせてくれた作品は?
柳楽:『許されざる者』ですね。共演者の方も大先輩ばかりだし、ほとんどの若手がびっくりするような現場で、そこに参加できたことは非常に光栄でした。李監督は本当に厳しかったですが、いい意味でパンチを喰らい、成長できる現場でした。これからもいい現場に出会いたいです。
 

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―――影響を受けた俳優は?
柳楽:僕が高校生の頃は、ジョニー・デップが大ブレイクしていた時期でした。ジョニー・デップを好きな人ってみんな狂いだしますよね。アーティスティックに反逆する感じで、カリスマ性がすごいですし、僕らの世代だけではなく色々な世代の人が憧れると思います。僕はその頃にジョニー・デップ主演の『ブロウ』を観て、「ロン毛や穴あきジーパンなのに、こんなカッコいい人を見たことない!」とのめり込みました。目指す人がいるということは大事ですね。
 
 
―――最後に、役者という職業をする上で一番大事にしていることは?
柳楽:先輩たちを見ていて思うのですが、役者の方はいい人しかいないですね。柄本明さんは大好きな先輩ですが、出演される舞台にお誘いいただくこともあり、温かいし、色っぽくってカッコいいです。僕も後輩にそういう風に言われるように、頑張りたいです。
(江口由美)
 
 

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mother-550-2.jpg★2014年9月28日(日)なんばパークシネマにて
★ゲスト:楳図(うめず)かずお監督(78)、片岡愛之助(42)、舞羽美海(まいはねみみ)(27)


『マザー』
(2014年 日本 1時間23分)
監督・脚本:楳図かずお、共同脚本:継田淳
出演:片岡愛之助、舞羽美海、中川翔子(友情出演)/真行寺君枝

2014年9月27日(土)~全国ロードショー

公式サイト⇒ http://mother-movie.jp/
(C)2014「マザー」製作委員会


 

~ 関西出身3人衆による、ホラー映画爆笑PR作戦!? ~

 

mother-550.jpg楳図かずお先生のせいで、子供の頃“ヘビ女”や“クモ女”のように美しい顔が急に豹変する化け物が恐くて堪らなかった。(今でもホラーは苦手だ)「おろち」「洗礼」「漂流教室」などの恐怖マンガの巨匠かと思えば、シュールなギャグで大ブレイクした「まことちゃん」の生みの親でもあり、“グワシ!”は社会現象ともなった楳図かずお。満を持して77歳にして初監督作品となったのは、母親と息子の歪んだ愛情関係が恐怖を生むという、彼自信にしか書けない自伝的要素を多く含むオリジナル本の「マザー」の映画化である。
 

深い愛情故に母親イチエの亡霊に襲われる楳図かずおとさくらを演じた片岡愛之助さんと舞羽美海さん、そして監督初挑戦の楳図かずお監督の3人が、公開2日目の〈なんばパークスシネマ〉に登場して舞台挨拶が行われた。3人とも関西出身とあって和やかな雰囲気で悲しくて恐い映画をPRしようとするが、どうしても笑いのノリになってしまう。
 


 
mother-ume-1.jpg――― 最初のご挨拶を。
楳図監督:ご一緒に、“グワ~ッシ!”(いきなりのアクションに会場騒然!)満を持して監督しましたが、ようやく公開に辿り着くことができました。恐かったでしょう?(拍手)ありがとうございます。恐くないホラーというのはどうかな?と思いますので、恐いシーンをしっかり入れました。どうぞお楽しみ下さい。

愛之助:その「楳図かずお」を演じました片岡愛之助です。本日はどうもありがとうございます。「まことちゃん」で育ってきましたので、楳図先生の作品に出られて本当に嬉しいです。現場でもこの調子で和やかな雰囲気だったのですが、これでホラーになっているのか心配だったのですが、最後には「うわっ!」と叫ぶほど恐い映画になっていて安心しました。

舞羽:楳図先生と謎の怪奇現象に立ち向かう編集者の役を演じております舞羽美海です。エンドロール最後まで「ウメズ・ワールド」全開の映画に出演できて本当に楽しかったです。ありがとうございました。


――― 「14歳《FOURTEEN》」(‘90)以来のオリジナル作品ということですが?
楳図監督:そうなんです。やっと「マザー」に辿り着くことができました。辿り着いたら大阪なんばの劇場だったと…(愛之助:ここ笑うとこですよ!)(笑)

――― 監督デビュー作ですが、公開したという実感は?
楳図監督:ここで公開したという後悔はしてませんで…(笑)公開したという喜びに満ち満ちておりますので、ここで失敗して堪るか~!という感じです。

mother-ai-2.jpg――― とてもホラー映画の舞台挨拶とは思えない雰囲気ですが…?
愛之助:ホントですね。こんなに和気あいあいとして笑って「どうでしたか?」なんて訊くことはあまりないと思うんですが、これも監督の人柄でしょう。撮影中もいつも監督はムードメーカーでした。監督と私の共通点は、「楽しんで仕事をする」。つまりいい意味の遊びの延長で仕事ができたので、本当に楽しかったです。

この作品のマンガ本に、お風呂に入っている楳図先生の所にさくらが素っ裸で入って来るページがあって、「このマンガ、結構キワドイね。本番で出てきたらびっくりするよね?」なんて話していたら、映画の終盤でマンガを書いている僕の後ろから舞羽さんが寄って来て「あっ、私と同じ名前!」というシーンがあるのですが、その時たまたまめくったページがそのお風呂のページだったんです!二人ともびっくりしました(笑)。
舞羽:とても生々しい表情になりましたが…。
楳図監督:微妙なテンションの上がり方が面白いね!(笑)
舞羽:その時の愛之助さんの表情も見てほしいです。

mother-mai-1.jpg――― 1回見ただけでは分からないシーンがこの映画にはいっぱいあります。他にも思いつかれることは?
舞羽:さくらが初めて楳図先生のお宅に伺うシーンで、部屋の中に「まことちゃん」グッズがあちこちに飾ってあることです。人形やマグカップや隠れまことちゃんがいっぱいで、きっとマニアックな方には堪らないのでは?

――― 舞羽さんは宝塚歌劇の娘役トップでいらっしゃいましたが、ホラーは初めて?
舞羽:初めてです。意外とアクションシーンが多くて、真行寺さんをいろんな物で殴ったり、崖から落ちたりと、走り回ったり、転んだりと。

楳図監督:結構体力要る役でしたね。
 

 

mother-ai-1.jpg――― 愛之助さんは、気付かれた所はありますか?
楳図監督:愛之助さんが気付いたとこ?
愛之助:いえいえ、僕のコーナーです(笑)。僕のボーダーの幅が変わったのを気付かれましたか?赤と白のボーダーは楳図かずおのトレードマークですが、「いざ、やるぞ!」という強気の時には幅が太く、弱気になると幅が小さくなるんです。
楳図監督: (愛之助さんのストールを持って)今日は弱気という訳ではありませんが(笑)。
愛之助:今日は若干控え目という感じですね(笑)。

――― 今日お越し頂いた皆さん関西ご出身の方ですよね?
楳図監督:そうなんです!それでどうしても関西のノリになってしまうんです。
――― 関西のノリで明るかったんですか?
楳図監督:そうですね、多分そんな気がします(笑)。舞羽さんは暗いシーンなのに明るい感じに喋ってしまい、音声さんに注意されてました。関西ということがバレてましたね。

――― 楳図監督が奈良県で、愛之助さんが大阪府、舞羽さんが兵庫県ご出身ということですが…?
楳図監督:今回関西パワーも影響したのですが、血液型も影響していたんです。僕がO型、愛之助さんがB型、舞羽さんがA型、真行寺さんがAB型と、4人ともバラバラなところが面白い。特に真行寺さんは、今まで綺麗な役が多かったのですが、AB型なので綺麗な反面崩れた役もできるのでは?と考えました。あの綺麗で優しそうな表情が恐かったでしょう?
(会場シーン)
楳図監督:はい!

愛之助:監督、自問自答してるじゃないですか?(笑)
楳図監督:人間の実態を見てしまったようで、余計に恐くなると思います。

――― 撮影場所は監督の実際のお家なんですって?
mother-2.jpg愛之助:そうなんです。よく知られている赤白のボーダーの家ではでなく、監督は沢山のお家をお持ちなんで…
楳図監督:家を建てるのが趣味なんです。家も僕の作品だと思っています。赤と緑のお皿も置いてますよ。
愛之助:緑が多い素晴らしい環境の、とても素敵なお家です。

――― 楳図かずおのプライベートも垣間見れる映画にもなっているんですね?

楳図監督:そこをベースにして物語を作っていくんです。フィクションだけでなく、真実の部分も多いんですよ。例えば、愛之助さんが掌にペンを突き刺すシーンがあるのですが、本当に掌に傷があるんです。経歴や育った場所もすべて本当なんですが、全部足すとウソになってしまうんです(笑)。

――― 是非次回作も撮って下さいね。
楳図監督:ありがとうございます。そのためには皆様の後押しが必要だと思いますので、是非応援して下さい。

mother-mai-2.jpg――― 最後のご挨拶を。
舞羽:何度見ても楽しい映画だと思います。真行寺さん演じるマザーの深い部分にある愛情のゆがみ方とか、見れば見る程味が出てくる楽しいホラー映画だと思いますので、是非何度でもご覧頂きたいと思います。

愛之助:ホラー映画を見終えた後の舞台挨拶とは思えないほど和気合いあいとしていますが、監督、次は喜劇を作ったらどうですか?
楳図監督:あ~それはいいね!その時は愛之助さんはお笑いの役になっちゃうよ。
愛之助:勿論!喜んで頑張らせて頂きます(笑)。先程からお話に出てきておりますような見落とされた部分を何度でもご覧頂きたいと思います。

楳図監督:恐いだけじゃなくて、人間の心理、普段隠れている奥深い部分とか、人生の中の本能による苦悶などがしっかり裏に張り付いています。是非、ご近所、お友達などともう一度ご覧頂きたいと思います。そして、最後に「うわ~っ!」と脅かしてあげて下さい。

 


【STORY】
mother-4.jpg楳図かずお(片岡愛之助)の生い立ちを本にしようと担当編集者のさくら(舞羽美海)は初めて楳図家を訪れ、独特な「ウメズ・ワールド」グッズで囲まれた自宅の中で、母親イチエ(真行寺君枝)の不思議なパワーを感じる。調査のため楳図かずおの生まれ故郷を訪れ、イチエに関する忌まわしい過去が明らかになると同時に、楳図かずおの近親者やさくらの身辺で次々と恐ろしいことが起こっていく……。


大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹など、全国絶賛公開中!  

(河田 真喜子)

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『毎日がアルツハイマー2 ~関口監督、イギリスへ行く編~』関口祐加監督インタビュー

(2014年 日本 51分)

監督:関口祐加  出演:関口宏子、関口祐加他
10月4日(土)~第七藝術劇場、11月8日(土)~神戸アートビレッジセンター、今秋京都みなみ会館他全国順次公開
※第七藝術劇場10月4日(土)10:30回上映後、関口祐加監督トークショー&舞台挨拶あり
第七藝術劇場10月4日(土)より前作『毎日がアルツハイマー』も併映
(C) 2014 NY GALS FILMS
 
 

~認知症介護先進国のイギリスに学べ!介護の日々も驚くべき変化が・・・~

 
認知症の母親、宏子さんの介護の日々を、笑いたっぷりに描き、今まで私たちが持っていた認知症や認知症介護の負のイメージを取り払うパワフルさをみせたドキュメンタリー『毎日がアルツハイマー』から2年。認知症ファーストステージで、認知症になったことを自覚して苦しみ、家に引きこもっていた姿から一転し、パート2でセカンドステージに入った宏子さんは外出、入浴と何年も拒絶していた日常生活の行動を調子がいいときには再開し、関口監督と楽しそうにスーパーで買い物をする。認知症であることに慣れ、家族の励ましのもと、よりユーモラスな素顔を披露していく。
 
宏子さんの日々を追うだけではなく、関口監督が認知症ケアを調べているうちに強く興味を持ったパーソン・センタード・ケア(認知症の人を尊重するケア)の本場イギリスで取材を敢行。認知症ケア・アカデミーでのワークショップ参加の様子や、介護の様子、精神科医で認知症ケア・アカデミー施設長のヒューゴ博士との語らいを通じて、理想的な認知症ケアのあり方や、介護している関口監督自身の不安も赤裸々に語られるのだ。
 
認知症の母親との日々を介護者でありながら、映画監督として提示し続ける関口監督に、前作の反響や、セカンドステージに入った母宏子さんについて、そして今回取材したパーソン・センタード・ケアについてお話を伺った。
 

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―――前作『毎日がアルツハイマー』(以下毎アル)は大反響を呼びましたが、介護する側でもある監督ご自身にどんな変化がありましたか?
『毎日がアルツハイマー』は私が考えていた以上にみなさんにとってインパクトがあったと思います。色々な場所で上映してくださるということで、地方までくまなく上映しに回りましたし、今回パート2を作るに当たってご覧になったみなさんからの要望がすごかったです。「(2年半閉じこもった)お母さんはその後どうなりましたか?」「最後に登場したイケメン看護士はどうなりましたか?」等、続きが知りたいんですよね。この作品はご自身が認知症の家族の介護をされている方が多く観に来て下さったので、会場でのQ&Aも私との距離感が非常に近くて、まさに初めての体験でした。どうしても監督は観客から「映画を作った人間」と捉えられますが、私自身が介護者でもあるので、みなさんとフラットな関係が築け、介護者でもある私にどうしたらいいかと聞かれることも多かったですし、パート2を作ろうと背中を押していただきました。
 
―――毎アルは我々が持つ認知症のイメージを大きく変える役割を果たしましたね。
公開初期は「認知症の母親をさらけだすとはどういうことか」といった批判もありました。私の中でもう一度反芻したときに、「私は年をとることも、認知症になることもちっとも恥ずかしいと思っていない。逆に世の中は認知症になることも年をとることも恥ずかしいのか」と視点の違いに気付いたのです。私は母を観ていると、やりとりが面白くて笑えますから。
 
―――認知症に関する映像作品は続々登場していますが、毎アルでは認知症の母宏子さんをしっかり受け止め、母親の新しい一面を見つけることが喜びであるようにも映ります。
世の中の物語はたくさんあるようで、決まっていると思うんですよね。何が違うかといえは、小説もそうですが作る人間・書く人間の視点です。物の見方や切り口がどうなのか。世の中一般は「認知症になったら人生はおしまい、もう大変だ。認知症を予防するにはどうするか」という考えが占める中で、私の母への見方はそうではないという部分がすごくありました。監督として当然のことを提示したまでです。
 

■本音で生きる母から出た言葉「ギャラをよこせ!」「天職がみつかってよかったね」

―――宏子さんはご自身の姿がスクリーンに映し出され、映画が大反響を呼んだことで、何か変化はありましたか?
「ギャラをよこせ!」と言っています。好きなことは食べること、金、寝ることの3つだと常に言っていますから。先日、ヒューゴ先生から電話がかかってきて、「イギリスのBBCが本作のことを紹介し、イギリスでもお母さんは有名になったと言ってあげて」と言われたので伝えると、母は「ギャラをもっと上げろ」と。
 
―――宏子さんご本人は何が起こっているか分かっていらっしゃるんですね。
最初の頃は私が映画監督になることにずっと反対していましたが、認知症になって建前や世間体がなくなり、本音で生きているようになってはじめて、「天職がみつかってよかったね」と私に向かって言ってくれました。はじめて言われて、私もびっくりしました。あれだけ真面目で、いつも世間体を気にしていた母が、認知症の力を借りて本当に自分を解放しているのです。多分認知症を受け入れるというより、開き直っているのでしょう。ただ開き直るには家族の応援が必要で、そこが介護の一番大切なところです。
 

■「やりたいことしかやらない」ことの価値

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―――介護する側から発信するメッセージが重要ですね。
家族が「今のおばあちゃんがいい!」と言うのです。私の息子も「今のおばあちゃん、前よりずっといいよ」と言いますし、そういうメッセージを周りが伝えると、本人も「まあいいか」と思えます。そして本人も言うとおり「やりたいことしかやらない」ということのすばらしさです。逆に言えば、今まではやりたくないことを勤めとしてやらなければいけなかったことが母には多かったのです。大家族で料理をたくさん作ってきましたが、実は料理を作るのも嫌いだったみたいです。真面目に社会的規範に沿って生きてきた人は「やりたことしかやらない」ことは許せないじゃないですか。その価値が分かるのは、私自身がやりたくないことはやらないで生きてきたからです。だから生きてきた人間の器が問われますし、そこで介護者が患者とぶつかってしまうのです。
 
―――一方で、監督は家族での認知症介護は難しいとおっしゃっていますね。
今回のパート2では色々な家族にお会いしてお話を伺い、血がつながっている家族が介護をする難しさを痛感しています。子どもは自分の面倒を見てくれた親がこうなってしまったという想いが強く、親に対する期待もあれば失望も強いです。ただ、想いというのは自分の気持ちであり、自分の気持ちが最初に来てしまうのです。そういう状況下で隠れた場所での虐待や言葉の虐待もあります。でも一番辛いのは認知症になった本人だというところにシフトしていかなければなりません。私は家族が介護するのには限界があると思っていますが、厚労省が24時間体制で家族で介護という方針を出したので大きな疑問を抱いています。そこで何かオプションを考えなければと思ったときに出会ったのがパーソン・センタード・ケア(以降P.C.C)でした。
 

■「介護しやすい」状態に生じる、虐待の力関係を自覚する

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―――今回母親がセカンドステージに入り、抵抗される場面が少なくなった反面、監督はだからこそ浮き出てきた介護者としての悩みを相談されています。
母にとってはセカンドステージがあってよかったなと思える一方、はじめて介護している私自身の不安、つまり「母親を殺そうと思えば殺せるという恐怖」を覚えました。介護相手は今までとは違い、こちらの言うことを聞いてくれるようになってしまい、普通の人は「介護しやすい」と思うでしょうが、私の感受性では「怖い」と思ってしまうのです。
 
虐待はなぜ起きるのかとずっと考えていたのですが、「私は母に対して圧倒的な力を持つ立場にたっている」という、虐待の力関係が生じているのです。イギリスでお話を聞いたときも、認知症の親を虐待したのは、実はいい人だったと言われていました。介護は力関係が虐待につながることを意識していないと、プロでさえ大変なのに家族はなおさら大変です。ヒューゴ先生は、「介護している人は孤独なので、支えが必要。支えがない中で介護をすることがいかに危ないか」とおっしゃっていましたが、密室の中で行われている介護は、虐待の温床なのです。ですからパート2ではそういう危険性を引っ張り出したかったですね。私も母に精神的に頼られる重さを感じる時があるので、セカンドステージは私自身が気をつけなければと思っています。
 

■認知症にとって大切なのは、認知症の人の気持ちをどう理解するか

―――認知症のケアですが、内科、脳外科ではなく精神科の先生が登場しますね。

苦しんでいる人の気持ちを理解するのも私たちだし、それを理解できないのも私たちなのですが、認知症にとって大切なのは、認知症の人の気持ちをどう理解してあげるかです。
ヒューゴ先生もおっしゃっていましたが、認知症という病気だけは同じだが、症状は十人十色から。日本の治療法はアメリカ方式なので個別ケアではなく、脳の活性化ですよね。でも実は一般的にやるといいと言われている音楽療法も認知症の最終章で、言葉がでなくなった人のコミュニケーションツールです。P.C.Cでは最終ステージといわれている人でも絵を描いてもいいし、泣いている人もいるし、そういう違うことをきちんと容認してくれるのはとても素敵だなと思います。P.C.Cをすると何が得られるかというと、ずばり心の安定です。最終ステージになっている人にも心を寄せ、やりたくないことを強制しないことですね。
 

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―――実際に今回イギリスでP.C.C実践の現場を取材し、患者に対応している看護士の様子や患者ご自身の様子をご覧になって、どんな感想を持たれましたか?
イギリスは経済的には大変ですが、「ゆりかごから墓場まで」と言うようにP.C.Cを認知症の国家戦略に据えているというところはやはりすごいなと思います。日本もイギリスをモデルにしていると言っていますが、商売にしようとしている部分がすごくあります。イギリスは認知症ケア課程を作り、認知症の看護ができるプロをきっちりと育てています。プロになって資格をとり、経験だけではなくきちんと理論武装をするわけです。私が受けた認知症ケアアカデミーワークショップの参加者は全員自分が介護関係の仕事をしながら受けています。そういう意味でもパート2は介護士の方が参考にしたいと観に来てくださっていますね。
 

■認知症は哲学的な問いが必要

―――日本でのP.C.Cへの取り組みの現状を監督はどう捉えていますか?
日本では10年前ぐらいから紹介されており、認知症関連の書物でも必ずでてきますし、パート1に出演いただいた名古屋の遠藤先生もP.C.Cの話をしておられましたが、日本ではなかなか訳しきれていないそうです。やはり個別性を看るのが難しいのです。ヒューゴ先生もおっしゃっていましたが、日本は薬文化なんですよ。P.C.Cでは薬をなるべく使わずにできるだけ理由を探るという、探偵のような仕事もしなければなりません。一方日本の内科の先生たちは早期発見をして、アリセプト(アルツハイマー型認知症進行抑制剤)を飲ませ、初期段階をキープした方がいいというのが定説です。
 
でも実は認知症は初期が一番辛いんです。自分が認知症になりかけていると分かることはすごく苦しいし、その苦しさを長引かせることは本人にとって辛くないかと医者に尋ねても、答えがないんですね。でもそれはすごく哲学的な質問なのです。セカンドステージでできなくなることがあっても、人に頼りながら、楽しく自分の気持ちが朗らかになる。私は段階が進んだ方が母にとっては幸せであると思っています。その方が初期で閉じこもるよりいいのではないのかと。本人も完璧に「幸せ」と言っていますから。それは心の状態がいいということですが、そこに答えられる脳外科や内科の先生はいません。そこは精神科の先生でないと考えられないですよね。私たちの世界から物をみない。本人を中心に考えたときの幸せで、そこのヒントはいっぱいあります。
 

■相手が認知症でも本人が納得するまで話をするのが、尊厳のあるフラットな関係

―――日本は教育もしかりですが、個別性を汲み取ることは難しいですね。
認知症になるとやりたくないことがいっぱいあるのですが、それでも介護士さんたちは患者にやらせようとします。やらないと機能が落ちると思っているのでしょうが、逆に言えばそこしか見ていないのです。日本の教育もできないことに注目し、やりたいことを伸ばすことが難しいですよね。日本の文化の中でP.C.Cに取り組むためには、厚労省がきちんとサポートして、イギリスのような専門のアカデミーを設立することが必要だと思っています。イギリスでは百貨店の店員さんも課程を受けていますし、専門以外の看護士さんたちも対応する必要が往々に生じてきます。例えば認知症の方はよく骨折して入院してくるのですが、夜中に「家族にだまされてここにつれてこられた」と訴えてきます。実際に、家族は本当のことを言っていなかったのです。相手の状況がどうであっても騙すことはよくないですね。私は母が忘れても本人が納得するまで話します。それが尊厳のあるフラットな関係です。介護するという言葉自体が上から目線だと思うのですが、相手が認知症だということで、どうしても色眼鏡をかけて見られてしまうので、「認知症だけど関口宏子さん」ではなく、「認知症の関口宏子さん」と認識されるのです。
 

■認知症を患いながらも幸せになれるかどうかは、家族がバロメーター

―――「認知症だけど関口宏子さん」のユーモアは、前作を上回っていましたよ!
母は、下ネタ大好きでユーモアがあります。「うんこが出てよかったね」と私が言うと、「本当のクソばばあになった」と。前は父親と私が下ネタを言うと、本当にイヤな顔をしていましたが、今は自らのうんこネタで笑っています。セカンドステージなのですが、幸せになれるかどうかは家族がバロメーターです。家族が認知症を受け入れられないと嘆いているのはダメです。「認知症になった母親がいい!」と伝えると、どんどん面白いと言ってくれる方向に行くんですね。(江口由美)
 
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