「AI」と一致するもの

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新元号は「北山」で!キスマイ北山宏光が願望を明かす
『トラさん~僕が猫になったワケ~』大阪舞台挨拶
(2019.2.16 TOHOシネマズ梅田スクリーン1)
登壇者:北山宏光(Kis-My-Ft2)、筧昌也監督
  
突然死したダメ男が、ネコの姿で家族の元に戻ってきたら・・・。ファンタジックなストーリーが人気の「トラさん」(板羽 皆/集英社マーガレットコミックス刊)が実写映画化。人気アイドルグループ、Kis-My-Ft2の北山宏光が映画初出演にして初主演、そして初ネコ役に挑戦したのも話題の『トラさん~僕が猫になったワケ~』が2月15日(金)より全国ロードショー中だ。
北山宏光は、ネコ嫌いなのに、ネコが主人公の漫画で大ヒットを飛ばしたものの、その後ヒット作が出ず、娘にも愛想を尽かされている漫画家の高畑寿々男と、猫のトラの一人二役を自然体で好演。『Sweet Rain 死神の精度』「素敵な選 TAXI」などの、筧昌也監督が、アナログながら、ファンタジックな世界観を見事に表現した、感動ドラマだ。
 
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公開2日目の2月16日、TOHOシネマズ梅田スクリーン1で行われた上映後の舞台挨拶では、北山宏光と筧昌也監督が登壇し、「撮影から約1年、やっとみなさんにお見せでき、嬉しい気持ちでいっぱい」(北山)、「アパートの中でぎゅっとスタッフとキャストが一緒になって撮影し、3ヶ月間地味に編集作業をして仕上げた作品を、こんなに大きい劇場で見ていただけるのは感無量」(筧監督)と感動の面持ちで挨拶。
 
 
すでに映画の感想が寄せられているそうで、北山は「Kis-My-Ft2のメンバーやキャイ〜ンの天野さん、オリエンタルラジオの藤森さんが見てくださいました。中盤ぐらいまではコメディーではないかと、まさかあの姿で泣かされるとは思わなかったというお声をいただきましたね」と反響を語れば、筧監督は「普段あまり話さない映画には辛口の兄が、北山くんのオープニングのタバコを吸う姿に、ダメ夫の姿が集約されていたと褒めてくれたので、胸をなで下ろしています」と手応えを感じている様子だった。
 

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現在全国10カ所での舞台挨拶を開催中の二人が、毎回違うお題に答える「みっくん×まーくんのトラさんトーク」では、「●●が好き」というお題が登場。そこはすかさず北山が「『大阪大好きだ』でしょ!!!」と会場のファンを喜ばせると、さらに観客からの「めっちゃすきやねん」という言葉に、「好きレベル5段階中、5!」と会場は、コンサート並みの熱気に。
 
 
そして「平成が終わるまでにやっておきたいこと」では、二人とも「平成最後の映画『トラさん~僕が猫になったワケ~』大ヒット!」と気持ちを一つに。さらに、「新元号は?」というお題にも、すかさず北山が反応。「北山、いいでしょ。新元号の顔になりたいな」と切り出し、筧監督と撮影現場が垣間見えるようなほのぼのトークを繰り広げた。
 
 
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最後に、「数ある映画の中から『トラさん』を選んでいただき、ありがとうございます。映画、今口コミで広がればムーブオーバーします。うまくいけば元号が変わる瞬間も上映しているかもしれない。それで元号が北山になれば!そこまでいきたいですね。ご協力ください」(筧監督)
「この作品は初映画初主演、初ネコで、本当に素晴らしいキャスト、スタッフにめぐまれ、やっとみていただけるのを嬉しく思っています。みなさんに愛してもらうことで、映画が広がっていくきっかけになると思いますので、ぜひ、よろしくお願いします」(北山)と力を込めて挨拶した。
 
 
CGなしの猫スーツで奮闘する北山のハマりっぷり、多部未華子や平澤宏々路が演じる家族の愛に笑って泣ける、平成最後のアナログファンタジー映画をぜひ楽しんでほしい。
(江口由美)
 

 

<作品情報>
『トラさん~僕が猫になったワケ~』
(2019年 日本 91分)
監督:筧昌也
原作:板羽皆「トラさん」集英社マーガレットコミックス刊
出演:北山宏光(Kis-My-Ft2)、多部未華子、平澤宏々路、飯豊まりえ、富山えり子、要潤、バカリズム
公式サイト → http://torasan-movie.jp/
(C) 板羽皆/集英社・2019「トラさん」製作委員会
 
 

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この度、ドイツ敗戦直前の混乱期に起こった信じがたい実話を映画化した『ちいさな独裁者』の公開を記念いたしまして、 2月10日(日)に、元・読売新聞記者で、映画にも造詣の深い武部好伸さんを迎えましてトークイベントを行います。 他人の軍服をまとった脱走兵が巧妙な嘘で特殊部隊のリーダーに成りあがっていくという、実在の人物に基づいた驚愕の物語を 歴史的背景や映画的視点から、より深くお話しをいただきます。



開催日時:2019年 2月 10日 (日)14:00の回 上映終了後

場所:シネ・リーブル梅田 (梅田スカイビル タワーイースト4F)

★上映終了後のイベントとなりますので、トークイベントは、16:00~16:20を予定しております。

★イベント詳細は、劇場 HP(https://ttcg.jp/cinelibre_umeda/)にてご確認ください。


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映画エッセイスト 武部好伸さん 1954 年、大阪市生まれ。大阪大学文学部美学科卒。元読売新聞大阪本社記者。1995 年 からフリー。映画、ケルト文化、洋酒、大阪をテーマに執筆活動を展開している。日本ペ ンクラブ会員。関西大学非常勤講師。著作に『大阪「映画」事始め』(彩流社 2016)、『ウ イスキー アンド シネマ 2 心も酔わせる名優たち』(淡交社 2017)などがある。

 

 

 


【STORY】 
1945 年 4 月、敗色濃厚のドイツでは戦いに疲弊した兵士たちによる軍規違反が相次いでいた。部隊を脱走して 無人地帯をさまよう兵士ヘロルトは、道ばたに打ち捨てられた軍用車両の中で軍服を発見。それを身にまとって 大尉に成りすました彼は、ヒトラー総統の命令と称する架空の任務をでっち上げるなど言葉巧みな嘘を重ね、道 中出会った兵士たちを次々と服従させていく。かくして“ヘロルト親衛隊”のリーダーとなった若き脱走兵は、強大 な権力の快楽に酔いしれるかのように傲慢な振る舞いをエスカレートさせ、ついにはおぞましい大量殺人へと暴 走し始める……。  


【監督・脚本】:ロベルト・シュヴェンケ (『RED/レッド』『フライトプラン』)
【出演】:マックス・フーバッヒャー、ミラン・ペシェル、フレデリック・ラウ、ベルント・ヘルシャー、ワルデマー・コブス
【配給】:シンカ/アルバトロス・フィルム/STAR CHANNEL MOVIES
(2017 年/ドイツ=フランス=ポーランド/ドイツ語/119 分/カラー)

2019年2月8日(金)より、シネ・リーブル梅田/シネ・リーブル神戸 にてロードショー! 2月9日(土)より、京都シネマ にて

 

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『半世界』舞台挨拶

(2019年1月31日(木)TOHOシネマズ梅田スクリーン1)
ゲスト:稲垣吾郎(45歳)、阪本順治監督(60歳)

 

ふと自分を見つめ直すキッカケをくれる、
思うようにならない人生でも素直に向き合える――。

「こんな稲垣吾郎、見たことない!」自然体の魅力が光る感動作!

 

阪本順治監督の記念すべき“還暦作品”『半世界』は、昨年の第31回東京国際映画祭で観客賞を受賞。田舎町を舞台にした39歳の仲良し同級生3人組の人生の折り返し点に立つそれぞれの思いと悲哀を描いた、阪本監督完全オリジナル脚本の映画化である。主演には《新しい地図》結成後の初映画出演となる稲垣吾郎を迎え、朝ドラ『まんぷく』で人気急上昇中の長谷川博己に、緩急自在の手堅い演技力で魅了する渋川清彦や池脇千鶴に石橋蓮司という、キャスティングだけでも吸引力のある面々で大いに楽しませてくれる。阪本監督の初期の頃の作品を思わせる笑いあり涙ありの人情物語は、現実的だがどこか懐かしく、心のひだに優しく寄り添うような、そんなヒューマンドラマである。


hansekai-550.jpg2月15 日(金)の公開を前に、主演の稲垣吾郎と阪本順治監督が舞台挨拶に登壇。TOHOシネマズ梅田のスクリーン1の733席のチケットが即完売したとあって、稲垣吾郎人気に改めてびっくりした阪本順治監督は、「無理にこっち見なくてもいいですから(笑)。僕は大阪人なんで大阪の怖さも知ってます。20年前に藤山直美さん主演の『顔』という映画の舞台挨拶の時、立ち見が出るほど満員だというので楽しみにして行ったら、受付でおばちゃんが怒鳴ってまして、何怒鳴ってるかというと、「立ち見やったら300円まけて!」(笑)――これが大阪や!」と、大阪のファンにご挨拶。


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(撮影中の阪本順治監督)


阪本順治監督とは初タッグを組む稲垣吾郎は、「阪本監督が怖かった?」という質問に、「全然!」と即答。『座頭市 THE LAST』と『人類資金』と2本の阪本監督作に出演した香取慎吾から監督について色々と聞かされていたという。「ああ見えて人見知りするタイプの香取君が、“阪本監督、阪本監督”と珍しく心を開いてとても慕っているようだったので、きっと仲良くして下さったんだろうなと思ってましたから」。


hansekai-bu-inagaki-240-3.jpg阪本順治監督はいつも撮影前に主演俳優と二人だけで食事に行くようにしているという。「自分ってこんな人間なんだよってバラした方が、撮影中も相互理解が深められるから」という理由。今回も、稲垣吾郎とホテルの1室で大まかな台本10枚を渡して読んでもらった際も、「とても緊張しましたよ」という稲垣に対し、「えっ?二人きりだったから、違う意味で?(笑)こっちも何言われるかと緊張して、隠れて酒飲んでましたよ。“炭”を焼く役がイヤだと言われたら、じゃ“ピザ”にする?(笑)とかね、返答の仕方を一所懸命考えていたんですよ」と阪本監督。


ロケ地は三重県南伊勢町、2018年2月15日クランインで1ヶ月の撮影期間中、東京から名古屋まで新幹線で行って、近鉄線に乗り換えてロケ地へ行ったという稲垣吾郎。近鉄電車の車両が旧式と新式のタイプがあり、「今日はどっちのタイプかな♪」ととても楽しみにしていたという。


hansekai-bu-500-1.jpg炭焼きの役について聞かれた稲垣吾郎は、「炭焼きは落ち着く感じがして、興味はありました。実際使われている炭焼き小屋で持ち主の方に協力して頂いたのですが、撮影中の炭も実際の商品となる訳ですから、小屋の横に寝泊まりしては炭焼きのタイミングを見計らって、夜中でも撮影していました。伐採のシーンでは初めてチェーンソーを使いました。箸より重たいものを持ったことがないこの僕が!? かなりの重労働だと実感しました」。


hansekai-bu-sakamoto-240-1.jpgこれからご覧になるお客様に向けて、
阪本順治監督、
「映画が始まったら全く違う彼(稲垣吾郎)がいます。この映画に自分なりの思いを込めていますが、基本的にはスター映画は大好きでして、いろんな人物が登場します。その人たちへ思いを寄せてもらえれば嬉しいです。つぶやきはスマホでなくてもできます。横断歩道ですれ違う人に“半世界”と一言つぶやくとか(笑)、ついでに電車の中で友達と話す時も、「今日は寒いね、“半世界”」と(笑)――こんなこと大阪でしか言えませんが、合言葉は“半世界”で拡げて頂きたいと思います。『半世界』というタイトルに込めた想いや、俳優のみなさんが何をやろうとしているのか理解して頂ければ嬉しいです。還暦記念映画でもあります。どうぞお楽しみ下さい」。


 

 

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稲垣吾郎、「阪本監督の記念すべき映画に主演させて頂いて嬉しく思っております。この映画は、一昨年から準備を重ねて撮った作品です。備長炭ではありませんが、我が子のように育て上げた映画ですので、皆さんにきっと気に入って頂けると思っています。合言葉は“半世界”でぶつぶつつぶやくばかりでなく、さっき撮った写真をSNS駆使して拡散して頂きたいです。ここから世界に発信していって、多くの皆さんの観て頂ければと思います。本日はどうもありがとうございました」と、締めくくった。

 

この日はWEB媒体の取材撮影は勿論、観客にもスマホでの撮影を許可するという、ジャニーズ時代では絶対厳禁とされていたことが許された。少し不慣れな様子を見せた稲垣吾郎だったが、観客との近い距離感を楽しんでいたようにも見えた。コテコテの大阪人気質で笑いを誘った阪本順治監督のトークからも、今までに経験したことのないキャラクターを演じる稲垣吾郎を撮影現場でもフォローしていた様子がうかがえる。ベテラン監督のもと、新たな挑戦の始まりを感じさせる記念すべき作品となったようだ。
 


『半世界』

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【STORY】
田舎町の地元で炭焼きをしながら妻の初乃(池脇千鶴)と中3の息子・明(杉田雷麟)と暮らす絋(コウ:稲垣吾郎)は、自衛隊を辞めて帰郷した瑛介(長谷川博己)の姿を見つける。瑛介が何か訳ありで固く心を閉ざす中、同じ同級生で祖父母に両親と未婚の姉という大家族を支える独身の光彦(渋川清彦)と共に彼を助けようとする。だが、瑛介は中々心を開こうとしない。地元で家族と暮らしながらも、心のすれ違いや商売の難しさなど、思うようにならない人生に戸惑いを見せる一方、瑛介の帰郷をキッカケに、39 歳という人生の折り返し点に立つ男3人が、改めて自分を見つめ直していこうとするが、……。

 

■2019年 日本 
■脚本・監督:阪本順治
■出演:稲垣吾郎、長谷川博己、池脇千鶴、渋川晴彦、杉田雷麟/小野武彦、石橋蓮司
■コピーライト:©2018「半世界」FILM PARTNERS
公式サイト:http://hansekai.jp/

2019年2月15日(金)~TOHOシネマズ梅田、他全国ロードショー


(写真・文:河田 真喜子)

 
 

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奈良県天理市を舞台に、今年デビュー30周年の加藤雅也を主演に迎え、三世代家族の愛と葛藤を描いた人間ドラマ、『二階堂家物語』が2019年1月25日(金)より全国ロードショーされる。本作はなら国際映画祭プロデュース映画製作プロジェクト作品で、監督は同映画祭で2016年にゴールデンSHIKA賞を受賞したイランのアイダ・パナハンデ。受賞後、ロケハンで天理市を訪れ、そこでの体験も加えながら夫のアーサラン・アミリとオリジナル脚本を共同執筆。天理市民も撮影に全面協力した。二階堂家の三世代家族が向き合う後継者問題や、母と息子、父と娘、それぞれの愛が複雑に交差する。日本の四季折々の情景を見事に捉えている。町田啓太、田中要次、白川和子、陽月華と実力派俳優が脇を固め、奈良らしいゆったりとした時間の中で、登場人物たちの心の揺らぎを丁寧に映し出した作品だ。
本作のアイダ・パナハンデ監督、主演、二階堂辰也役の加藤雅也さん、辰也の娘、由子役の石橋静河さんに、お話を伺った。
 

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■天理市は「小津映画のよう」。最初から親近感を覚えた。(アイダ)

――――アイダ監督はロケハンで初めて来日され、石橋さんも天理市は撮影で初めて来られたそうですが、どんな印象を持たれましたか?
アイダ:2年前に初めてロケハンで奈良にきました。奈良がかつて日本の都であったことは知っていましたが、天理市を訪れた時は小津映画のようだと思いました。「この場所は知っている」という気持ちになりましたし、最初から親近感を覚えました。天理の人たちも小津映画に登場している人のようでもあれば、イランの田舎地方に住んでいる人たちにも似た風情を感じました。とてもフレンドリーで、家に招いてくれたり、一緒にご飯を食べたり、本当に歓迎してもらいました。旧友のように親しくなれた。それはとても感動的瞬間で、撮影中も全身全霊をかけて私たちを支えてくれました。
石橋:私も天理市は撮影で初めて訪れたのですが、街並みがとても印象的でした。田んぼがあるシンプルな場所で、東京と情報量やスピードも全然違います。タイムスリップした気分でした。天理市に来ることで、私が演じた由子が感じている時間感覚を体感できましたし、由子が見ているものも見えてきた。また二階堂家が住む古い日本家屋に自分が身を置き、感じることができました。撮影で1ヶ月天理市に滞在しましたが、本当に没頭して演じることができました。
 
――――加藤さんは奈良のご出身ですが、奈良で全編映画を撮影するのは初めてだそうですね。
加藤:基本的にテレビを含め、奈良で映画を撮影することは河瀨直美監督がし始めるまで、ほとんどなかった。時代劇を作るにしても、奈良を舞台にするとチャンバラではなく、文化が主眼となるのでエンターテイメントとして成立しにくい面があります。2時間もののサスペンスの舞台にも、奈良の雰囲気はあまり適さない。逆に、『二階堂家物語』のような家族の物語は、奈良や天理でなければ撮れないのです。
日本は、東京のように文化が発展していくことが良いとされていますが、奈良はそれから遅れてしまった。逆に今は奈良でしか撮れない日本の原風景が残っている訳で、日本人の監督が撮らないなら、外国人の監督に撮ってもらうのはある意味必然だったのかもしれません。
 
 
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■普通の人を演じたい、奈良で撮りたい。30年間実現できなかった夢が叶った(加藤)

――――加藤さんは海外でも活躍され、芸能活動30周年という節目で、故郷の奈良を舞台にした家族物語の主演を務められました。特別な思いがあったのではないですか?
加藤:なぜかマフィア役や日本人とは少し離れた役が多かったのですが、僕自身は俳優として普通の人を演じたいとずっと言い続けていたんです。ステレオタイプのキャスティングが多かった中で、外国人の監督が普通の人として使ってくれるという思いもよらぬ矛盾もあれば、奈良で撮りたいと思いながら、30年間実現できなかった夢も今回叶いました。
 
僕の中で起承転結があるとすれば、「起承」の30年間が終わり、残りの20年の「転」の時期に新しいことをやりたいと思っていました。「見たことのない加藤雅也を見た」と皆が言ってくれるように、まさに僕にとっての転換期を迎えているなと感じています。シルクロードでは、向こうから新しい文化が入ってきて、奈良で新しい文化が生まれ、今までとは違う日本が生まれた。僕も今回アイダ監督による今までとは違う目線の演出で、新しい僕になれる。本当に歴史は繰り返すと、僕自身思っていますね。
 

■「あなたがダメだったら、私の映画は失敗してしまう」火花を散らすような現場(加藤)

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――――父の代から引き継いだ会社を経営する二階堂家の主人、辰也は再婚問題、跡取り問題、娘との関係等、その行き詰まりぶりや決断の行方に最後まで目が離せません。確かに、加藤さんの新境地を見た思いでした。
加藤:最初に監督から言われたのは「あなたがダメだったら、私の映画は失敗してしまう」。仲良くやるのではなく、火花を散らす闘いのような部分があり、それがすごく勉強になりました。どんなに現場で仲良くても、映画がダメなら2度と集まることはない。逆に現場でどれだけ葛藤してもいい映画を作れればOK。それがプロフェッショナルだと思います。
アイダ:俳優は色々な作品の仕事をしているので、頭の中は色んなもので汚染されていると思うのです。だからまず汚染されているものを私が解き放つというプロセスがとても大事です。頭の中を一旦ニュートラルにして、私のキャラクターに命を与えるというプロセスを踏みます。素晴らしい俳優の魂と身体から、私のキャラクターを引き出していく。そこには痛みが伴います。だから、俳優たちが心を動かす時は、私の心も動きますし、毎日げっそりと疲れます。
映画づくりで重要なのは、まず俳優と一緒に作業をするということです。俳優たちを通して表現するものを観客に届けるために、50〜60名にもおよぶクルーが共に作っています。俳優がミスをすれば、全てカメラに映ってしまいますから、ミスは許されません。今回、みなさんは本当にプロフェッショナルで素晴らしい仕事をしてくれました。特に加藤さんとは、素晴らしいコラボレーションができ、多くのことを学びました。
 
 
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■日本人にしか分からない文化が含まれ、日本人がより深く作品を理解できることが重要(アイダ)

――――この作品は日本の四季折々の伝統的な行事や風景、アイテムなどを盛り込みながら家族の情景を描いています。舞台挨拶で「日本人が撮った映画と思ってもらえるとうれしい」とおっしゃっていましたが、そこはかなり意識的に取り入れられたのですか?
アイダ:海外の観客は、日本人ほど映画の中のシーンの意味を感じられなかったかもしれません。例えばなら国際映画祭審査員、ファトマ・アル・リマイヒさんはカタール出身ですが、物語の内容や社会背景はわかるけれど、雛人形が何か分からなかったと言っていました。日本人はそれが何かを必然的に分かります。雛人形の文化があることを踏まえて見てくれるので、伝わる内容も違ってくるのです。日本人にしか分からない文化が含まれていて、日本人はより深くこの作品を理解できる。それはとても重要なことです。私は日本独特の文化や芸術、映画が好きで、とてもリスペクトしています。日本から本当に色々なことを教えてもらった。それをこの映画を通して示しています。
 

■イランと日本、国は離れているけれど、家族関係はとても似ている(アイダ)

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――――日本では若い監督がこれほどしっかりと三世代の家族物語を描くことは少ないですが、脚本の着想はどこから得たのですか?
アイダ:実は、天理で本当に多くの三世代家族に出会いました。 滞在させていただいたお宅もそうですし、祖父祖母と一緒に暮らすのが一般的。私が住んでいるテヘランは都会ですが、イランの田舎も三世代家族が多く、似ていると思いました。私も8歳の時に父が亡くなったので、母と祖母の三世代家族でした。私の祖母はイランで初めての女性校長を務めた人物で、アゼルバイジャンの古い家系出身。まさに古くから続く地元の名士、二階堂家と同じですし、辰也の母、ハル(白川和子)のようにしつけもすごく厳しく、色々なことに敏感でした。特に自分が女学校の校長なので女性の教育についてはとても厳格で、「女性はこうすべき」という考えを明確に持つと同時に、男にばかり頼るのではなく、女性の自立を促す人でした。そういう部分もハルと重なり、二階堂家のことは、すごく知っているという気分にさせられました。イランと日本、国は離れているけれど、家族関係はとても似ている部分があることを皆さんに分かってもらいたい。欧米人が日本の文化に入ることが難しいかもしれませんが、私たちのようなアジア人は日本の文化には入っていきやすいと思います。
 
 
 
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■由子を演じる中で、私自身が父親についてどう感じているのかも考えた(石橋)

――――由子は、父親の会社で働き、跡取りを欲しがっていることを肌で感じながら、自分の存在を認めてもらいたい複雑な心境を抱えていましたが、彼女の感情をどう捉えて演じましたか?
石橋:幼い頃に両親が離婚し、父親が息子を欲しているのを見ている由子は、本当に自分を見てほしいという気持ちが強いだろうし、逆に自分に自信がない部分もあると思います。絶対に消えない孤独感はあっても、由子は諦めず、なんども父とぶつかります。婿養子を受け入れれば丸く収まることも、「皆が幸せになるかどうか分からない」と自分も含めて、皆がそれぞれ幸せになることを諦めずに訴えている人です。その前向きさや強さを表現するのが難しかったです。由子を演じる中で、私自身が父親についてどう感じているのかも考えなければならなかった。それを考える機会になったのはいい経験になりました。
 
――――由子が彼氏の家で一人ダンスを踊るシーンは、この映画の中でもかなり雰囲気が変わりますが、どんな狙いで取り入れたのですか?
アイダ:伝統的な旧家の二階堂家ではなく、一般的なマンションの一室である彼氏の部屋にたった一人、由子がいる。そこは由子が自由になれる場所で、英語の歌をかけ、思うがままに踊っています。そこで若さや喜びを表現しますが、それは長くは続きません。その間も由子は父親の辰也や家族のことを考えているからです。由子はこれからとても重要で難しい選択を迫られます。辰也も同じように重要な選択に迫られている。自分の好きな人のことを思いながら、自分が犠牲にしなくてはならないことについても感じている。二人ともがそれに対するジレンマを抱えていることを並行して見せています。
 

■辰也は、悩みから学ぶべきことが多い人生を送っている(加藤)

――――辰也も娘との葛藤だけでなく。実質の権力者である母、ハルとの葛藤があります。
加藤:辰也もハルに反抗しますが、それは相手がいるからできることで、いなくなると、はたと娘との関係や自分の運命について考えます。生まれたくて(二階堂家に)生まれたわけではないけれど、それは定めであり、そういう家に生まれなければ悩むこともない代わりに、学ぶこともない薄っぺらい人生になってしまう。辰也は学ぶべきことが多い人生を送っているのです。アイダ監督と(監督のパートナーでもある)アーサランさんの書いた脚本は非常に深い。例えば、外国の監督がお雛様を扱うときは「モノ」として扱いますが、アイダ監督はお雛様の意味を掘り下げ、歴史を学んだ上でお雛様を物語に取り入れています。日本の監督たちはなぜこの映画が日本映画っぽく見えたかを、考えるべきです。見かけが日本っぽいのではなく、日本の精神性を映画で撮った。そこが映画を作る時に大事なことです。
 
 
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■他のイラン人監督が持っていない特別な体験をし、新しい自分が生まれた(アイダ)

 アイダとの映画づくりで学んだ体験を若い監督や俳優たちに伝えて行きたい(加藤)

 役のことに没頭すればいいと思えたのは新しい体験(石橋)

――――最後に、この作品での体験を今後どのように生かしていきたいですか?
アイダ:映画づくりというのは、ただ単に映画を作っているだけではないということを学びました。新しい人に会い、新しい経験を積み、自分の視野を広げる。そんな映画づくりを終えて帰ると、新しい自分、新しいアイダが生まれました。他のイラン人監督が持っていないような特別な体験ができました。みんな西洋には行くのですが、東には行きません。私はアジアが歴史の中心だと思っていますし、文明もここにあります。
加藤:アイダと話し合ったことはとても深いことだったので、今でもどうすれば実現できるかと考えます。日本人が海外の人と演じる時、大げさであることが海外に出れない理由なのだとすれば、どうすればいいのか。言葉の問題もありますし、外国の監督が書いた脚本を日本語に訳す場合の問題点や、日本語の持つ特性などを今でも学術的に勉強しています。できればこの経験を若い監督や俳優たちに伝えていきたい。一方、外国の監督がステレオタイプの日本を撮ろうとした時、なぜそのように撮りたいのか。その理由を聞いて、場合によっては指摘する。そんなこともできれば、海外との合作もより良い作品になるでしょう。これをどう伝えていくのか、実践していくのか。それに尽きますね。
石橋:言葉や文化の違いがあり、日本人だけの現場では起こり得ない問題もたくさん起こりました。本当に大変だけど、その中でラクだと感じる部分もあったのは、留学したときに日本社会の窮屈さから開放されていた感覚に似ています。すごく現場に居やすかったので、役のことに没頭すればいいと思えたのはありがたかったです。アイダ監督と会い、まったく違う方向に広がったので、今後私の中でどうつながっていくのか楽しみです。
(江口由美)
 

『二階堂家物語』(2018年 日本=香港 106分)
監督:アイダ・パナハンデ 脚本:アイダ・パナハンデ、アーサラン・アミリ
エグゼクティブ・プロデューサー:河瀨直美
出演:加藤雅也、石橋静河、町田啓太、田中要次、白川和子、陽月華他
2019年1月25日(金)~全国ロードショー
公式サイト⇒https://ldhpictures.co.jp/movie/nikaido-ke-monogatari/
(C) 2018 “二階堂家物語” LDH JAPAN, Emperor Film Production Company Limited,Nara International Film Festival

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「理想だけではなく、残酷なもの、複雑なものをそのまま表現したかった」
『夜明け』広瀬奈々子監督インタビュー
 
是枝裕和監督と西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」で監督助手を務めてきた広瀬奈々子監督の長編デビュー作、『夜明け』が2019年1月18日(金)より全国ロードショーされる。
 
川辺に倒れていた身元不詳の若い男と、彼を助け、自宅に招き入れて自身が経営する木工所での仕事も与えた初老の男。疑似家族のような関係を見せながらも、それぞれの持つ過去が露わになるにつれ、二人の関係にひずみが生じていく。シンイチと名乗る謎めいた若い男を演じるのは柳楽優弥。その佇まいや目の表情で、危ういシンイチの心境がどう動くのかと最後まで観る者を惹きつける。シンイチを亡き息子に重ね、家族のように迎え入れる哲郎を小林薫が演じ、再婚予定の相手のことも上の空で、シンイチに過剰な期待を寄せる男の危うさを見事に表現。サスペンスの色合いも滲む、重厚なヒューマンドラマだ。
 
オリジナル脚本でデビューを果たし、第19回東京フィルメックスコンペティション部門スペシャル・メンションを受賞した広瀬奈々子監督に、お話を伺った。
 

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■是枝作品の企画から編集まで立ち会い、手伝いながら「口出しする」監督助手時代。

――――広瀬監督は、2014年に是枝監督や西川監督が立ち上げた制作者集団「分福」から長編デビューする初めての監督でもありますが、実際にどのようなプロセスや教育を経て、監督デビューに至ったのですか?
広瀬:まず監督助手というポジションにつき、是枝作品の企画から編集まで、ずっとそばで立ち会い、お手伝いをしつつ口出しをするのが一番の任務でした。口出しするということは現場を止めてしまうことになるので、最初は本当にできなかったです。助監督は現場では進めていく立場で、いわばアクセル的存在。一方、監督助手はブレーキ的存在なので、意見を言うと周りはザワつきますし、今は言うなという圧力も感じていました。
 
――――徹底的な現場教育ですね。気づきも必要ですし、それを現場にフィードバックさせるのはまさに監督の仕事です。でも、相当言いづらかったのは想像できます。
広瀬:それでも言い続けて採用されるようになるとうれしいですし、今では「是枝さんのあの作品、このシーンは私のものだ」と密かに思っています(笑)。もっと慣れてくると、是枝さんを通して演出を試したり、そういう現場体験を3年間やりました。ただし、3年で卒業なので、そこからは分福に所属していても、自分で仕事を作らなければ仕事はこない。だからプレッシャーはありましたし、監督助手時代からプロットや企画は10本以上出していました。『海街diary』の撮影助手の方がカメラマンデビューされた短編WebCM(6分)の監督をし、その作品を見た是枝さんに、「もう長編を撮ったほうがいいね」と言われたことが長編監督デビューのきっかけになりました。
 
 

■オリジナル脚本は、自立できない時期の自分の不甲斐なさやプレッシャーがベースに。

――――オリジナル脚本で初監督作と恵まれている一方、大変な部分も多々あったと思いますが、脚本のアイデアはどこから来たのですか?
広瀬:私は2011年に大学を卒業したのですが、漠然と演出をしたいと思っていたので、(分福に所属する以前は)就職せずに日々アルバイトをしてひたすら稼ぐ毎日でした。世の中に対してどう関わったらいいのか分からない、社会に対して自分の考え方をどう示していいのか分からない悶々とした時期でした。そういう自立できない時期の自分の不甲斐なさや、プレッシャー、モヤモヤしたものをベースにキャラクターを作ってみようと思ったのがきっかけです。
 
――――シンイチや哲郎、木工所の従業員など、男性のキャストが多いですが、男の不器用さを含め、皆、自然に描かれていて、男心が分かっているなと思いました。最初から主人公は男性と決めていたのですか?
広瀬:私は企画やプロットを書く時、なぜか男性になってしまいます。色々意識せず、自然に書けるのです。誰でも男性的な脳と女性的な脳があると思うので、私の場合は書くときに男性的な脳が働くのかもしれません。分からない部分は役者さんが補ってくれるので、そこは信頼してお任せしました。うまく感情表現できない人間が好きなので、そういうどうしようもない部分を描いてみました。
 
 

■柳楽さんをシンイチ役に想定したら、ただ受け身なだけの主人公が動き出した。

――――脚本執筆中、物語が哲郎寄りになりすぎていることがあったそうですね。
広瀬:そうなんです。やはり20代の時のことを思い出そうとしても、もう30代になってしまったので、哲郎寄りになってきてしまって。できるだけ若々しいキャラクターを書きたかったので、シンイチの部分を書く時に自分の中で補いきれない部分があれば、柳楽さんや、他の人を想像しながら書きました。
 
――――柳楽さんの名前が出ましたが、キャスティングはどの段階でされたのですか?
広瀬:最初に哲郎役の小林薫さんにオファーさせていただきました。その時点で哲郎の方が立体的になってきたのでしょう。シンイチのキャスティングを決めかねていた時に柳楽さんの名前があがり、いいだろうなと思ってはいたけれど、是枝監督が見出した人なので自分の中で少し抵抗する部分があったんです。でも、柳楽さんがシンイチ役になればどうだろうと思って書くと、ただ受け身なだけの主人公が、受けてからもがくというか、一歩遅れてから反応するようになってきてキャラクターが動き出しました。柳楽さんのエネルギーがあると、全然違うことが見える。これは柳楽さんにオファーするしかないと腹をくくりました。
 

 

■大好きな小林薫さんへのオファー、「共感できるわけではないけど、だからこそ面白い」

――――脚本が未完成の段階で、相手役も分からず最初にオファーを受けてくれた小林さんの心意気を感じます。
広瀬:今思えば恥ずかしいぐらいですが、全然脚本が固まっていない時にオファーし他にも関わらず、やって見たいとおっしゃって下さいました。「(哲郎は)共感できるわけではないけど、だからこそ面白い」と。昔から映画やドラマで小林さんの演技は拝見していましたし、森田芳光監督の作品とか、おちゃらけた軽やかな役から、ずしりとした役までできる役者さんで、本当に大好きです。撮影中は、現場でも小物に至るまでいろいろなアイデアを出してくださいましたし、スタッフにも分け隔てなく話しかけてくれ、とてもいい雰囲気を作ってくださいました。若い人との映画作りを楽しんでいらっしゃいましたね。
 
――――柳楽さんを想定すると、シンイチ像が立体的になったとのことですが、その柳楽さんへのオファーを躊躇したのは、是枝監督への遠慮があったからですか?
広瀬:柳楽さんは是枝さんが産み出した才能であることは間違いないので、そういう方を自分のデビュー作に迎えると、必ずそういう是枝印のようなものが付いてしまいます。またそういう柳楽さんへ演出することへのプレッシャーもありました。私の中で、是枝さんから離れられないように見えることへの抵抗があったんです。
 
 
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■理想だけではなく、残酷なもの、複雑なものをそのまま表現することに挑戦。

――――その葛藤を乗り越えて柳楽さんへオファーした結果、是枝監督作品では逆に見られないような、柳楽さん世代が抱える身の置き所のなさとか、焦燥感、そして頑張りきれない主人公の人間臭さが見事に表現されています。
広瀬:理想だけではなく、残酷なものは残酷なまま、複雑なものは複雑なまま表現することに挑戦しました。(敢えてわかりやすさを嫌うのは)青臭いことかもしれませんが、一作目なのでそこはひよらず、自分がダサいと思うことは素直にやらない。そう思って作りました。 
 
――――なるほど。自分の思いをしっかり反映させた脚本、そして作品になった訳ですね。
広瀬:ここまで複雑な感情の行き来がある作品になると、正直思っていなかったです。柳楽さんのおかげもありますが、自分が思っている以上に複雑な内面を抱えたキャラクターになりました。現場で柳楽さんは「(シンイチの表現が)分からない」とよくおっしゃっていましたが、分からないなりに監督の私を信じて、シンイチとしてそこにいてくれたのがありがたかったです。
 

 

■現場で、柳楽さんのなんとも言えない表情にハッとすることが何度もあった。

――――本当にセリフが少ない中、相手との関係の中で、微妙な心の動きを表現する柳楽さんから目が離せなかったです。
広瀬:現場でも柳楽さんがなんとも言えない表情をよくされていて、ハッとすることが何度もありました。ずっと色々なことに否定的なキャラクターでいながら、とても意思の強い目をしていたり、控え目なようで割と図太い部分がある。そういう両面性がすごく出ていて、見方を変えればシンイチが全然違うキャラクターに見えてくるのが、すごく不思議でした。私自身も、見るたびにシンイチの見え方が変わるんです。取材を受けている自分自身も色々な人の意見を聞かせていただく中で受け止め方が変わったり、そういう変化がとても楽しいです。
 
 

■シンイチにも、哲郎にもエゴと残酷さがある。

――――そんなシンイチの面倒をみることになる哲郎も、赤の他人でありながら、亡くなった息子を重ね、親身になって面倒を見る様子が、最初は微笑ましく描かれます。一方、期待が膨らみすぎる危うさもまた、哲郎の未熟な部分を露わにしていますね。
広瀬:最初の顔合わせの時に、小林さんが恋愛に例えて、「哲郎はどこでシンイチのことを好きになるのか」と言われ、意外なアプローチに驚きました。実際、哲郎の狂気ぶりをかなり表現したつもりでいたのですが、哲郎と同世代の方はその狂気さにはあまり気づかない。それも今回、映画を観ていただいて気づいた部分です。シンイチにも哲郎にもエゴと残酷さがあります。シンイチに共感して見ていると、シンイチのエゴには気づかないし、哲郎目線で見ると、哲郎のエゴには気づかない。そんな双方の依存についての物語でもあります。
 
 

■舞台となる木工所は、自分のやりたいことができない期間こそ大事な世界。

――――哲郎が経営している木工所は、典型的な後継者不足の現場であり、家内工業的な親密さの象徴のようにも見えましたが、最初から舞台に想定していたのですか?
広瀬:温もりのあるものを扱いつつ、縦社会がきちんとあるような厳しいコミュニティという視点で、最初の段階から木工所を思い描いていました。実際に木工所をいくつか取材させていただくと、見習いの最初2年はカンナの刃を研ぐだけという厳しい世界だそうです。自分のやりたいことができない期間こそ大事な世界なのだと分かりました。大手家具量販店が出てくる中、衰退し、跡取り難に悩む世界だからこそ、経歴にこだわらず、どんな人でも積極的に採用します。そうして採用した社員を可愛がる情に厚い親方も多く、参考になりました。
 
――――シンイチが机の納品先で、店長からバイト店員へのパワハラを目撃するシーンなど、シンイチの過去を想起させるエピソードが非常に効果的ですね。
広瀬:東京でのシーンをいくらでも作ることはできますが、いかに回想シーンを使わずに、シンイチの親子関係や、社会に出るまでの生活をシーンの中から表出させるか。そこにはこだわりました。
 
――――釜山国際映画祭でワールドプレミア、東京フィルメックスで国内初上映(スペシャルメンション受賞)と、二つの映画祭を経てのロードショーとなりますが、それぞれの映画祭に参加した時の感想や反響は?
広瀬:釜山は街自体が映画を歓迎してくれるような温かい雰囲気で、街を歩いていても「映画を見たよ」と声をかけられました。基本的に観客は20代ぐらいの若い方が多く、皆さんとても熱心に見てくださいました。主人公が精神的にとても危ういので「この動作は死を暗示しているのか」とか、こちらがなるほどと思うようなことを聞いてくださいました。東京フィルメックスは、本当にコアな映画ファンが多く、映画祭の色が濃いと感じましたし、中には見終わってすぐに出て行ってしまう方もいて、ちゃんと賛否両論あるということを実感できる場でもありました。
 
 

■暗闇を歩き続けていても、いつかは「夜明け」が来る。

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――――最後に、夜明けで始まる映画ですが、『夜明け』というタイトルに込めた思いは?
広瀬:夜の中を歩いているような映画ですが、暗闇を歩き続けていても、いつかは夜明けがくる。そんな日が来ることを祈って、このタイトルをつけました。私はダルデンヌ兄弟作品が好きなのですが、安易にわかった気にさせないし、最後まで見たら、また最初から見たくなります。そんな映画をこれからも作っていきたいです。
(江口由美)
 
 
 
 
 
 
 
 

<作品情報>
『夜明け』(2018年 日本 113分)
監督・脚本:広瀬奈々子
出演:柳楽優弥、小林薫、YOUNG DAIS、鈴木常吉、堀内敬子他
2019年1月18日(金)~新宿ピカデリー、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX尼崎、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒https://yoake-movie.com/
(C) 2019「夜明け」製作委員会
 

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