原題 | THE WIFE |
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制作年・国 | 2017年 スウェーデン、イギリス、アメリカ合作 |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | 監督:ビョルン・ルンゲ 脚本:ジェーン・アンダーソン |
出演 | グレン・クローズ、ジョナサン・プライス、クリスチャン・スレーター |
公開日、上映劇場 | 2019年1月26日(土)~新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国ロードショー |
~もう我慢でけへん、ええ加減にしなはれ!~
『武部好伸のシネマエッセイ』ということで、毎回、エッセイ風に書かせてもらっていますが、今回はちょっと趣向を変えてみたいと思います。本作は純然たる夫婦の物語です。そこで、この映画を観たという架空の熟年夫婦の会話形式で綴ってみましょう。漫才の台本みたいですが、お許しあれ。ゆめゆめうちの夫婦がモデルではありませんので……(笑)。
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夫「今日(12月10日)、スウェーデンの首都ストックホルムでノーベル賞の授賞式が行われたな。医学生理学賞を授賞しはった京都大学特別教授、本庶佑さんがスウェーデン国王からメダルをもらい、晩餐会で立派なスピーチをしてはったわ。まさにおんなじ日にノーベル文学賞を授賞したアメリカ人夫婦の映画を試写で観るとは思わなんだ」
妻「ほんま、そやね。奇遇やわ。ノーベル賞の栄誉に輝いたのがジョナサン・プライス扮する文学界の巨匠ジョゼフ・キャッスルマン。この俳優、イギリス人やね。奥さんはアメリカ映画界が誇る名優グレン・クローズ演じるジョーン」
夫「夫のジョゼフはユダヤ人なんや。キャッスルマンという苗字なんやけど、ゴールドマン、ベックスマン、ユンカーマンとか、〇〇〇マンという名はたいがいそうや。作家のトーマス・マンしかり。ウルトラマンとエイトマンはちゃうで」
妻「あんた、クイズ番組でしか役立たんことばっかり知ってるね。まぁ、それはそれとして、ノーベル財団から電話で授賞の知らせを受けたとき、ベッドの上で2人が童心に返ってキャッキャ、キャッキャと飛び跳ねてたわ。いつか村上春樹さんがノーベル文学賞を授賞しはるときも、そうしはるんやろか。まさかスキップ?」
夫「あほか、スキップはないやろ。もとい。ジョーンは文豪を陰で支える控え目な奥さん。2人の子どもがいて、良妻賢母の鑑やな。これぞおしどり夫婦といった感じで、腹立つほど仲がええなぁ」
妻「その2人のなれそめがオモロかったわ。とある大学で文学を教えている若きジョゼフの教え子の1人に文学愛好家のジョーンがいて、2人の間に恋情が芽生える。師弟間の恋愛やね。せやけど、ジョゼフは子どもがいる既婚者なんや。不倫やがな。それを承知で彼女が奥さんから略奪するわけや。この人、ほんまは押して押して押しまくるタイプやと思う。若いときの役がクローズの娘さん、アニー・スタークが演じてはったね」
夫「お母ちゃんよりもべっぴんやったな」
妻「そんなこと思うてても、口に出したらあかん」
夫「ごめん。まぁ、そういういきさつで結ばれた2人が授賞式に出席するため、ストックホルムへ飛ぶ。そのジェット機が英仏で開発されたコンコルドやった。1990年代半ば、まだ稼働してたんや。ほんま、懐かしいわ」
妻「一緒に連れてきた息子のデビッドがなんかけったいな役どころやったわ。作家の卵で、偉大なオヤジさんに劣等感を抱き、精神的に不安定になってる。そこがドラマを重層的にしてたわ。わっ、重層的やなんて、えらい難しい用語を使てしもうたわ」
夫「自慢してるんかいな。そこにジョゼフの伝記を書きたがっているジャーナリストのナサニエルという男が接近してくるんやなぁ。クリスチャン・スレーター、久しぶりに見たわ。まだ生きてはったんや」
妻「当たり前や。まだ若い、若い。死なせたらあかん」
夫「なんちゅうか、記者独特の粘着質っぽいとこがよかったわ。この男がジョゼフからえらい煙たがられてる。経歴を根掘り葉掘りほじくり返されたら都合悪いんやなということの暗示。この手の人物は結構、ドラマの中で存在感を放つんや」
妻「授賞式が近づくにつれ、夫婦間に不協和音が漂い始め、心理サスペンス的に2人の素顔がどんどん暴かれていくところが見どころやったわ。うちがジョーンの立場やったら、晩餐会のとき洗いざらい暴露してやるんやけど」
夫「えっ! ほんまか?」
妻「知らんけど(笑)。いったい2人にどんな真実があるのか……。めちゃめちゃ言いたいんやけど、これ以上は口チャック。あゝ、ツラっ!」
夫「なんかこの映画、舞台劇みたいやった。スウェーデン人のビョルン・ルング監督は映画と舞台の両刀使いらしい。ホテルの部屋で言い争うシーンは演劇丸出し。こういう映画はほんまに演技力が問われる」
妻「2人の俳優、申し分なかったわ。ともに71歳。ジョナサン・プライスは元々、舞台俳優。安定感のある演技を披露してはったわ。イギリス人の役者ってほんまに器用やね。グレン・クローズも負けてなかった。これまでアカデミー主演女優賞に6回もノミネートされている超実力派やもんね。今回の演技で念願のオスカーをゲットするんとちゃうやろか。受賞しはったら、ベッドの上で飛び跳ねるんやろか」
夫「そんなん知らんわ。確かに映画の中でころころ表情を変えてはった。七色仮面や。ごめん、古すぎた……。とくに怒ったときの顔がすごい。あんな顔されたら、旦那は塩をかけられたナメクジになってまうがな。おまえの怒った顔はあれ以上やさかい、オスカー取れるかもしれんで」
妻「しょうもないこと言いな。やっぱり2人は愛し合うてるから、本音でぶつかり合うたんやと思うわ。他人にはわからん強い絆があるんやわ。孫が生まれたときの喜び合う様子ひとつを取ってみても、そのことがわかったわ」
夫「結局は女が強い。男はアカンタレ。高尚な文学の世界であっても、所詮、『夫婦善哉』とおんなじなんや。逆やったら、シリアスになってしもうてオモロイことあらへん。まぁ、嫁さんが自我に目覚めたら怖いちゅうことや。ドカーンと爆発するさかい。おい、なにニヤついてるねん」
妻「ウフフ……」
夫「わっ、怖っ! 酔いが覚めてしまうがな」
(武部 好伸:エッセイスト)
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