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『サムライマラソン』

 
       

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作品データ
制作年・国 2019年 日本 
上映時間 1時間45分
原作 土橋章宏
監督 バーナード・ローズ(『パガニーニ愛と狂気のヴァイオリニスト』『アンナ・カレーニナ』『不滅の恋 ベートーヴェン』)
出演 佐藤健、小松菜奈、森山未來、染谷将太、青木崇高、木幡竜、小関裕太、深水元基、カトウシンスケ、岩永ジョーイ、若林瑠海/竹中直人、筒井真理子、門脇麦、阿部純子、奈緒、中川大志 and ダニー・ヒューストン、豊川悦司、長谷川博己
公開日、上映劇場 2019年2月22日(金)~TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、あべのアポロシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、109シネマズHAT神戸、他全国ロードショー

 

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~走って、走って、藩を守る!~

 

2020年の東京五輪を見据えたNHK大河ドラマ『いだてん』ではないけれど、これから、何となく「ランニング」がキーワードになりそうな気がする~と思っていたら、この映画にぶち当たってしまいました! 題名のごとく侍たちがマラソンに挑むのです。これだけで興味がグンと高まりますね。しかもフィクションではなく、史実というからびっくりポン!!


幕末の1885年、群馬県にあった安中藩で実際に行われた「安政遠足」をモデルにした作品です。「安政」は当時の時代、「遠足」は「えんそく」ではなく、「とおあし」と読みます。「長距離」のことですね。この2年前、アメリカの東インド会社長官、ペリー率いる4隻の軍艦が浦賀沖に現れ、鎖国を続けてきた日本国内は大騒ぎになりました。侵略されると危機感を抱いた安中藩の藩主、板倉勝明(長谷川博己)が外国勢力に打ち勝つために体力を鍛えるべしとマラソンを提案したのです。何せ平和ボケだったから、ヤワい武士が多かったのでしょう。


samurai-m-500-2.jpg走行距離が半端やおまへん。15里。約58キロです! 42.195キロのフルマラソンよりも長い。そのうえ平坦な道ではなく、山あり谷ありというとんでもない難コース。言わば、「山走り」です。昨今の言葉では、「トレイルランニング」。さらに、さらに走りやすいランニング・ウエアなんぞはありません。袴姿で足袋といういでたちで走り切るというのですから、過酷以外の何ものでもありません。よほどトレーニングを積まなければ、完走は絶対に無理です。これが日本で最初のマラソンだったとか。


実は、ぼくもマラソン・ランナーでした。もちろんアマチュア(笑)。過去形になっているのは、2年前に左ヒザを傷めてレースに出場できなくなったからです。今はゆるりゆるりとジョギングを楽しんでいます。中学、高校のときは陸上部でしたが、種目は走り幅跳びで、長距離は大の苦手。それが何を思ったのか、57歳のときにフルマラソン(大阪マラソン)にチャレンジし、完走できました。やればできますね。


samurai-m-500-1.jpgついでにヒザを負傷した理由は……(すんません、聞いてください!)。ランニングの途中、京セラドーム大阪の階段を二段跳びで駆け上っていたとき、ドームの壁面に何やらジャニーズ系のコンサートの看板が目に入り、「誰やろ?」と視線を向けた拍子に階段を踏み外してしまったんです!! 要はジャニーズ系の仕業なんです(笑)。いまだに誰のコンサートか分かりません。腹立つなぁ。まぁ、このようにランニング愛好者なので、非常に関心を持ってこの映画を観た次第です。


藩のマラソン大会を幕府が謀反の動きと受け止め、あれこれと画策するところがサブ・プロット(脇筋)になっています。過剰反応ですね。江戸時代、各藩(とりわけ外様系)が目立ったことをすれば、即、お取り潰しになっていました。幕府の息のかかった領地を広げ、徳川家による確固たる中央集権国家を求めていたのでしょう。だからこそ、藩の動向・内情を知る必要があり、幕府は隠密(スパイ)を潜り込ませていました。


samurai-m-500-3.jpg本作の主人公、唐沢甚内(佐藤健)がそうです。早い段階であっ気なく正体をバラしていましたね。映画としては、ラストで素性を明かしてほしかったのですが、いかがでしょう。甚内は家族、知人にも素顔を隠し、藩の忠実な僕(しもべ)を装っています。まずは近しい人を騙し続けることがスパイの鉄則。でも、例外がいます。007ことジェームズ・ボンド。この人は(全世界に!)正体を明かしすぎているので、スパイ失格ですかね(笑)。


幕府と藩との間で動揺する甚内の心模様を軸に物語が展開していきます。そこにいろんな人物が絡んできて、群像劇に仕上がっています。絵師になりたいと江戸に出ようとする藩主のおてんば姫(小松菜奈)、異常に出世欲の強い小賢しい家臣(森山未來)、藩内一の俊足を誇る足軽(染谷将太)、肩たたきをされた老いた守衛番(竹中直人)……。それにしても、お姫さんはなんで男勝りのキャラが多いのでしょうか。


samurai-m-500-4.jpg一番、驚いたのは、本作を企画したのがイギリス人のジェレミー・トーマスと知ったこと。中国清朝崩壊を描いたスペクタクル『ラストエンペラー』、異色戦争映画『戦場のメリークリスマス』、時代劇『十三人の刺客』などの話題作を手がけた世界的な名プロデューサーです。今回も日本に焦点を当て、イギリス人のバーナード・ローズ監督を起用し、外国人から見た幕末の日本を浮き彫りにしています。


なので、かなり大胆にディフォルメされているのかと思いきや、結構、ディテールにこだわっていました。そう感じたのは、侍たちの走り方です。江戸時代が終わるまで、日本人は脚に腕を添えるようにして歩いたり、走ったりしていました。つまり右脚を出せば、右腕も同じように前に出す。ちょっとやってみてください。歩きにくいし、走りづらいです。これは武士の場合、脇に差した刀をしっかり腕で押さえていたので、そういうふうになっていったようです。映画の中でもそうして走っていました。


samurai-m-500-5.jpgそれが明治維新後、西洋式の歩行法と走法が導入され、この方がずっと楽(機能的)であるのがわかり、今日に至っています。だから、映画・テレビの時代劇で街道筋を歩いている人、走っている飛脚人を見ると、こだわって演出しているのかどうかがわかりますよ。テレビでは大概、現在と同じ西洋式になっていて、ガックリします。ひと昔前の東映時代劇もそうでしたわ(笑)。


この映画はテンポがよく、スピーディーです。折り返し地点までの往路は必死のパッチで走りまくりますが、復路は立ち回りのアクションが用意されています。常識的に考えると、片道の約30キロ走った段階で肉体的疲労がかなり蓄積されており、とてもやないけれど、刀を抜いて戦えるエネルギーは残っていないと思うのです。でもまぁ、そこは映画として大目に見ましょう。


samurai-m-240-pos.jpg深山幽谷の世界の中で、それぞれの想い・思惑を抱きながら疾走するサムライたち。カット割りがほとんどなく、長回しで彼らを撮っています。ラストに近づくにつれ、1人ひとりが藩のために命を投げうつ、そんな武士としての自覚(武士道!)を抱いてくるところが清々しかった。こんな「サムライマラソン」を町興しで開催すれば、きっと注目を集め、ニュースになるやろな~。これが観終わったときの正直な感想でした。


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON

©“SAMURAI MARATHON 1855”Film Partners

 

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