原題 | THE MULE |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 1時間56分 |
監督 | クリント・イーストウッド |
出演 | クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィースト、アンディ・ガルシア、イグナシオ・セリッチオ、アリソン・イーストウッド、タイッサ・ファーミガ他 |
公開日、上映劇場 | 2019年3月8日(金)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマ、あべのアポロシネマ、T・ジョイ京都、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸、OSシネマズミント神戸ほか全国ロードショー |
~90歳に手の届く男が、まさかのアブナイ仕事に味をしめ…~
ハリウッドのレジェンド扱いになっているクリント・イーストウッドの監督・主演最新作は、2014年の「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に掲載された驚くべき実話がもとになっている。それは、メキシコ最大の犯罪組織に雇われた90歳間近の男が、メキシコからアメリカのデトロイトまで、密かに麻薬を運んでいたという事実だ。なぜ、そのような年配者が大量のコカインを運ぶというアブナイ仕事に手を染めたのか。映画は、彼の家族との確執や、思い通りにいかなかった人生を再起させたいという男の野望などから解き明かし、ユーモアもたっぷりに描き込んでいる。
主人公の退役軍人アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は、高級なユリ“デイリリー”の生産者として業界でも一目置かれる存在だったが、その仕事に熱を入れるあまり、家庭を顧みることがなかった。娘のアイリス(アリソン・イーストウッド)の結婚式にも出席しなかったというのが家族に大きな傷を与え、妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)からも、どうしようもない男と冷ややかな視線を浴びるようになる。そして、時は流れ、インターネットの普及により、売上は著しく下降、農園も自宅も差し押さえられてしまう。そんなある日、「車の運転をするだけで儲かる」という話を持ちかけられ、それに乗ったアールだったが…。
“オイシイ話には裏がある”の定説どおり、とんでもない裏があったのだが、アールは引き返せない、それどころか、引き返したくなくなってくる。なんといっても、本当に車を転がすだけで、信じられない大金がポンと手に入ってくるのだもの。運び屋として老齢の男を使った犯罪組織の目は節穴ではなかった。いくらなんでも、こんな男が麻薬を運んでいるなんて思いも寄らないから。並行して、この地に赴任してきた野心的な麻薬取締局捜査官コリン・ベイツ(ブラッドリー・クーパー)が躍起になって、謎の運び屋を追い詰めていく。そのスリリングな展開も面白い。
同じく監督と主演を務めた『グラン・トリノ』(2008年)と同様に、退役軍人という役柄がイーストウッドはお気に入りなのかな、と思うのは、タカ派というイメージがどうしてもつきまとうからだ。しかしながら、彼も主人公と同じほどの年齢に達し、マッチョなタカ派は影を潜め、しっかりと枯れてきたようだ(ただ、本作ではかなり老いの演技を強調していると聞く)。
ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、ダイアン・ウィーストなど共演陣が渋い。美男だったアンディ・ガルシアは、気をつけていないと彼だとはわからない風貌で、犯罪組織のボスを演じている。脚本は、『グラン・トリノ』と同じニック・シェンクが担当しており、とにかくせりふがたまらなくおかしい。ウィットと皮肉の結集で、ついふふふと笑ってしまう。
悪事から引き返せなかったアールだが、彼は心の奥底で、贖罪を意識していたのだろう。捨てたも同然の家族への歩み寄りや、退役軍人の会への寄付などが、それを表している。それでもきっと、彼は晩年に、アブナイけれどワクワクするという仕事を楽しんでいたのだろうと想像する。人の生は、なかなかに複雑である。
(宮田 彩未)
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