原題 | A STAR IS BORN |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 2時間16分 |
監督 | ブラッドリー・クーパー |
出演 | レディーガガ、ブラッドリー・クーパー他 |
公開日、上映劇場 | 2018年12月21日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズなんば他全国ロードショー |
~力強い歌声と素晴らしい出会いが人生を変える。レディーガガの魅力全開の極上音楽映画~
2018年は音楽映画の充実ぶりが際立つ年だった。クィーンのリードボーカル、フレディ・マーキュリーの人生に迫った『ボヘミアン・ラプソディ』も、11月公開以来右肩上がりの人気を見せている。そんな中、くしくもクィーンの代表曲「レディオガガ」にちなんで芸名がついたという現代の歌姫、レディーガガが映画初主演を務める『アリー/スター誕生』が、2018年音楽映画のトリを飾る。日頃はその卓越したパフォーマンスとファッションで、まさにスーパースターぶりを見せるレディーガガの、まさに売れる前の自身を投影しているかのような姿や、オフショットのような素に近い姿を堪能できる。そして、本作の製作にして初監督、そしてレディーガガとW主演を務めるブラッドリー・クーパー(『アメリカン・スナイパー』の演技も泣けるぐらい素晴らしい。3度目の映画化となるスター誕生物語だが、夢を掴む若き女性シンガーと、その才能を見出した人気ミュージシャンの実力の陰り、焦り、そして二人の愛の行方は、時代を超えて観る者の心を揺さぶる。そして、二人の魂の歌声が、直球ど真ん中の物語を至福の体験にまで押し上げるのだ。
まずは、ブラッドリー・クーパー演じる有名ミュージシャン、ジャクソンが、たまたまツアー中に訪れたバーのドラッグナイトで、レディーガガ演じるアリーと出会うシーンが圧巻だ。ドラッグクイーンたちのパフォーマンスに混じり、自作の細眉を貼り付け、シャンソンの名曲「ラヴィアンローズ」を歌うアリー。その卓越した歌唱力は、誰だって声をかけたくなる。出会った一晩のうちに二人の間で交わされる会話やエピソードから、アリーは自身の鼻が大きいことがコンプレックスであること、そして大スターのジャクソンへの信頼を深め、それが愛に変わることが伝わってくる。
どれだけ歌唱力があっても実際にデビューできるのはごくわずかな運と真の実力に恵まれた人間だ。自身も難聴を患い、長く酒やドラッグで紛らわせるしかなかったジャクソンの前に現れたアリーは、そんな日頃の不安を払拭し、再び音楽へのモチベーションを高めてくれる存在だったに違いない。ジャクソンは自身の野外ライブのステージ上にアリーを呼び寄せ、出会った夜に二人で歌った即興の歌をアレンジし、ライブのクライマックス、大観衆の前で二人で歌う。歌手、アリーが誕生したその瞬間は、コンプレックスを持っていた一人の女性が、表現者として大きく羽を広げた瞬間でもあった。
ジャクソンのツアーに帯同していた時期を経て、ソロデビューを果たすアリーの快進撃は、まさにレディーガガ本人の軌跡のようだ。一方、その快進撃は、愛し合う二人の関係にも影を落として行く。ジャクソンのマネージャーを長年務めてきた兄との関係や、アリーを応援する父など、二人の周りの人物も細やかに描く一方、ジャクソンの深い葛藤、精神的、肉体的な揺らぎをブラッドリー・クーパーが渾身の演技でみせる。
物語の中で、何度も登場するライブシーン。その全てが生歌なのも、本作がこれだけイモーショナルに感じられる大きな要素だろう。その瞬間しかできない演奏、感情、歌声が全て映画の中に込められている。アリーの喜びも悲しみも、そしてジャクソンの復活も絶望も、全て歌や演奏に注入されているのだ。「12音の繰り返し」という音楽が、これだけ人の心を魅了する。2018年最後にぜひお勧めしたい一本だ。
(江口由美)
(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC