「AI」と一致するもの

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250年間平和な世が続いた後、開国を前に揺れる幕末期を舞台に、池松壮亮、蒼井優を迎えて描く塚本晋也監督初のオリジナル時代劇『斬、』が、11月24日(土)よりユーロスペース、12月1日(土)よりシネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマほか全国順次公開される。
 
農家の手伝いをしながら、日々剣の稽古を怠らない実直な浪人、杢之進(池松壮亮)が、通りすがりの剣の達人、澤村(塚本晋也)と出会い、武士の本分を果たす決意を固めるところから始まる物語は、人が超えてはいけない一線を超えてしまう瞬間を捉えた物語でもある。池松壮亮がどんどん精神的に追い詰められていき、ある決断に及ぶ杢之進を全身全霊で演じ、今年の主演男優賞と呼んでも過言ではない凄みのある演技を見せている。杢之進に想いを寄せるゆうを演じる蒼井優の存在感も見逃せない。舞台は幕末だが『野火』に通じる、とても普遍的なテーマが根底にある作品だ。
20年間温めていたアイデアを一気に映画化したという塚本晋也監督に、お話を伺った。
 

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■ベテランなのに新人のような初々しさを保ち続けている池松さんの出演決定で動き出した『斬、』。

――――20年間「一本の刀を過剰に見つめる若い浪人」というアイデアが頭にあったそうですが、いよいよ映画化すると決めた時に、主演の杢之進は最初から池松さんを想定していたのですか?
塚本:『野火』の後に何を撮ろうかと考え、この時代劇を撮ろうと決めた時から、池松さんに杢之進を演じてほしいと思っていました。ここ数年の池松さんの作品を何本か拝見し、とても自然な感じの演技をなさるので、素晴らしい新人さんが現れたのかと思っていたのです。初々しいアンテナの塊のような感じがする池松さんを見て、初々しい今の池松さんに僕の時代劇へぜひ出てほしいと思ったところ、実は子役時代から活躍しているベテランであることを後になって思い出しました。ベテランなのにこなれず、こんなに新人のような初々しさを保ち続けていらっしゃる。それは池松さんの素養であり、実力で、なおさら出演してほしいと思ったのです。
 
――――今回は忙しいスケジュールを空けて、オファーを快諾されたそうですね。
塚本:オファーをする前に、池松さんの方からマネージャーさんを通して僕の作品に興味があると連絡を下さいました。まだ内容も定まっていない時でしたが、それなら時代劇をやるしかない!と、思いました。最初お会いしたのが春で、物語は夏を想定していたので、あまりにも時間がなさすぎるし、夏は池松さんのスケジュールも詰まっていたのでいったんは諦めました。でもその後、夏のスケジュールが空いたと池松さんサイドからご連絡を頂いて、さらに時間はなくなっていましたが、このタイミングを逃したらずっと先になってしまうと思い、すごい勢いで準備、撮影を駆け抜けました。夏恒例の『野火』全国行脚がすでに決まっていたので、さらに過酷な日々になりました。
 
 

■過去を通して描くことで今や、これから起こりうることを考える。

――――時代劇の時代設定を幕末にした理由は?
塚本:以前から幕末ものは興味がありましたが、今回は時代考証の先生に今自分がやりたいことを伝えたところ、幕末がちょうどいいと。250年平和に過ごし、ペリーの黒船来航の後、開国か否かを巡り、だんだん国内が血生臭くなっていきます。時代の変わり目で、次の時代には大戦争に突入していく訳ですが、その時代と今の時代は似ています。70年以上戦争がなかったものの、だんだんと戦争ができる状態になってきていますし、そのまま次の時代に行くと恐ろしいことになってしまう。過去を通して描くことで、今に照り返して感じることができるのではないかという狙いを込めました。
 
――――農家の手伝いや用心棒、市助の稽古をする等、杢之進の本当に質素な武士の暮らしが描かれているのが新鮮でした。
塚本:いざという時には戦に臨む準備は出来ているつもりなのですが、本当に戦が起きたらどうなるのか。それこそ、今の若い人たちが戦争に行ったらどうなるだろうという気持ちで杢之進を設定しています。
 
 

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■身体能力と演技が一体となった池松さん。相当な集中力なのにさりげないのが素晴らしい。

――――杢之進を演じる池松さんの殺陣の動きが見事でしたが、本格的な殺陣は初経験だそうですね。
塚本:池松さんは、身体能力と演技は一体であると信じて演技をしていらっしゃり、僕はそういう俳優さんが大好きです。顔だけではなく、全身から出るオーラが演技だと思っているので強く共感しました。殺陣は本格的にはこの映画で初めてやったそうですが、すごく覚えが早い。殺陣のシーンも挑み方がすごくて、下に石がある場所でも勢いよく転がるのです。僕が心配になって「大丈夫ですか?」と声をかけると、「大丈夫です!」とケロッというのですが、後で腕を見ると傷の上にまた新しい傷があって、大丈夫の基準が僕と違う!と驚きました。洞窟の中の壊れた小屋に飛び込んでいくシーンも、池松さんが「目だけカバーすれば大丈夫ですから!」と言ってどんどん前に進んでくださったんです。相当な集中力で演じて下さったと思います。それでも現場をピリピリさせることはなくて、さりげない。それが本当に素晴らしかったですね。

 

■もう一つの主役、刀に人と暴力との関係や、道具との関係を収束させる。

――――映画は刀ができるところから始まり、刀の音で終わります。刀が重要な役割を果たす作品ですが、どんな思いを込めているのでしょうか? 
塚本:もう一つの主役は刀です。刀が生まれてからどのような変遷を経て、どう使われるのかという話です。人が最初に出会うシンプルな道具は、鉄の塊です。農耕など食を得るために使われますが、叩いて動物を殺したりと、暴力の道具としても使われるようになります。『野火』では鉄が恐ろしい戦車になったり、数々の武器になりましたが、戦争の時代から時を遡り、この映画では刀一本に凝縮させました。人と暴力との関係や、道具との関係をぎゅっと収束させ、シンプルにそのことを見つめられないか。そういうテーマで作っています。
 
――――塚本監督は、杢之進の運命を変える澤村を演じています。杢之進を実戦で通用する刀の達人に育てようとする師匠的役割を果たし、物語の鍵を握っていますね。
塚本:当時では有能な剣の使い手でもあるし、映画を見ている人も拍手喝采を送っているうちに、いつの間にか目の前に刀を向けられる。そういう印象の映画になればいいなと思っています。
 
――――杢之進の人生を変えてしまうぐらい、とことん追い詰める凄みがありました。
塚本:だいたい僕の役は、主人公をストーカーのように追い詰める役なので・・・。杢之進は外交的な手腕があり、村にやってきた無頼漢の浪人たちと対話を試みるのですが、僕の演じる澤村が時代の波とともに杢之進を追い立てていきます。とてもシンプルな映画ですが、自分の言いたいところがすっきり入っています。
 
 
 
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■ゆうは、一般民衆の代表的役割をも内包した役。

――――蒼井優さんが演じる杢之進に想いを寄せるゆうも、杢之進同様、運命が変わってしまう複雑な役を演じていますが、物語でどんな役割を担わせたのですか?
塚本:ゆうには、一般民衆の代表的役割も込めています。弟や好きな人が戦争に行きそうになればその身を案じるのですが、怖い人が村を圧迫していると感じると、シンプルにやっつけてほしいと思う。それを自分の見えない所で退治をしてくれると、「やった!」と喜ぶ訳です。太平洋戦争の時にフィリピンで負けていても、新聞で「勝った」と書かれていると一般の人たちが喜んだのと同じです。実際には血みどろの戦いなのに、それを目の当たりにしない限りは、そういう想像力が働かない。蒼井さんはそういう役を典型的にせず、さまざまな女性の顔で自然と実感がわくよう魅力的に演じてくださいました。蒼井さんには最初に、『野火』という戦争映画に時間を遡って繋がる映画であることをお伝えしました。 
 
――――だんだん血生臭くなっていく物語の中で、杢之進とゆうのミニマムな描写ながらエロチシズムを感じるシーンが印象的でした。
塚本:理屈で考えていたわけではないですが、暴力的なことをするかしないかというジレンマと、エロチシズムは繋がるのではないかと思っていました。実はエロチシズムのない脚本もあり、それも面白かったのですが、いざやろうとすると面白いと思えなかった。やはり本能的な情動が映画にないと面白くないと気づき、エロチシズムのある方を取ったんです。
 
 
 
 
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■様々なシーンを積み重ねた先の最後、どちらを選ぶのかは池松さんにお任せした。

――――終盤は森の中でアクションを交えての撮影でしたが、現場の様子は?
塚本:とにかく時間がなくて、猪突猛進の現場でした。池松さんとはまるでセッションをしているかのように、その瞬間、瞬間でアンテナを立てまくりました。相手がどう出るから、こちらがこう返すという具合に、瞬間的なことを刈り取って行く感じでした。池松さんが様々なシーンを積み重ねた先の最後にどちらを選ぶのかは、その時にならなければ分からない状況でした。最初に一度は通しで基本的なことをやったのですが、後は現場でのお楽しみという感じで池松さんにお任せしました。僕は自分が演じるとき脚本で“泣く”と書かれていると、「泣くかどうかは分かりませんよ」と言いたくなるんです。“感情が高まる”というのなら分かるのですが、物理的なことは自分の脚本に書きたくないと思っていますし、感情の流れの中で自然に演じてくださいと言っています。
 
――――そういう撮影は、塚本組ならではでしょうか?
塚本:いや、僕の映画は割と細かくネチネチとやる方で、いつも撮影期間がとても長いんです。昔は1年間撮っていましたし、30代は4ヶ月、それ以降はスタッフが育ったので2ヶ月ですが、それより短くなることはなかった。3週間は今までにないですが、今回は主役があの二人なので2週間でもいいと思った。照明でお待たせするよりは、テーマをはっきり決めて、照明ではなく二人の温度を撮るんだ!二人さえいれば、昼は自然光、夜はロウソクの灯りで映っていなくても息の揺らぎが入ればと。そう言いながら、実際は照明待ちをさせてしまったこともあったのですが(笑)。
 
――――『野火』も自然の中でしたが、今回も見事な農村地帯で自然に囲まれたロケーションです。
塚本:山形県の庄内で全て撮りました。『野火』以降は、こんなに綺麗な自然の中で人は何をしているのかという気持ちを込めているかもしれません。普遍性と言いますか、その時のしがらみがなければ、自然の中に人と人がいるだけです。映画でも皆が仲良く遊ぶシーンがありますが、しがらみが入ってくると同じ森の中で人と人とが戦わなければいけない。はっと我に帰れば、ただの人と人なのに。
 
 

■石川さんの未公開音源も採用し、対話しながら作り上げた音楽。

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――――今まで塚本監督の作品の音楽を手がけられ、本作にも携わる予定だった故石川忠さんのエピソードをお聞かせいただけますか?
塚本:この映画をやろうと勢い込んでいる時に石川さんと会う機会があり、音楽担当を快諾いただいたのですが、撮影が終わった頃に具合が悪くなられ、編集中に再度「やります」と言っていただいていたものの、12月に亡くなってしまわれました。いつも編集を見た後で打ち合わせをするので、今回は残念ながら編集途中だったので映像を見ていただくことはできなかったんです。ただ石川さん以外の人に頼む気にはどうしてもなれず、石川さんとの長いお付き合いを振り返るつもりで、今まで僕の映画につけていただいた音楽を全部聞いて、それを映画につけました。最初はCDの曲でと考えていたのですが、それでは足りなくて。さらに映画に使ったものでCD化されていないものも探しましたし、それでも足りなかったので、石川さんの奧さんにお願いし、石川さんの自宅にあり、まだ世に出ていない音源を聞かせてもらい、ようやく形になりました。 
 
――――今回の音楽は石川さんの集大成になりましたね。
塚本:生きている石川さんの意思は入っていませんが、石川さんがこうするとどういう返事をするかは、石川さんの声の調子まで僕の中に入っているので、ごく普通に「どうっすかね〜」「いいんじゃなすか〜」みたいな感じで貼っていきました。
ヴェネチア映画祭の公式上映の前に、1400人ぐらいが入るシアターでプレス上映があり、エンディングの前に様子を見に行ったのですが、驚くほど賑わっていて、エンドロールで石川さんの名前が出ると拍手喝采が起こっていたので、そこは感動してしまいました。
 
 

■みんなが戦争は正しいと動いてしまうと、抗うのは難しい。その前に何とかしておかなければ、もはや頑張る美談すら作れない。

――――人間が追い詰められるとどうなるか。『野火』に通じる普遍的なテーマです。
塚本:みんなが戦争は正しいと動いてしまうと、それに抗うのは難しい。その前になんとかしておかなければいけないと思います。映画の中でしたらそこで若い人ががんばって違う道を達成する姿を描きますが、みんなが同じ方向に向いてしまうとー。そういう時代に少しでも近づかないようにするのは大人の責任と思います。日本で優しいお父さんだった人が戦争に行き、上官に捕虜を銃剣で突き刺せと命令され、いやだけど断ると自分が上官に殺されるので捕虜を突き刺したところ、ドンと腹が据わり充足感を味わったそうです。そこからは上官に求められる人に変わってしまった。つまりそういう状況を作り出すというのが、大人が一番やってはいけないことです。その中で「僕は殺さなかった」という美談を作り出すことなんて、もはやできません。
 
 
 
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■塚本組に初参加の池松さんと蒼井さんは、夜、星を見ながら「幸せだ」

――――ヴェネチアにもご一緒された池松さんと蒼井さんは初めての塚本組での撮影にどんな感想を持たれていたのでしょうか?
塚本:結構喜んで下さったみたいなので安心しました。今回はプロに入ってもらいましたが、たいへんにミニマムな現場ですし、お二人は大作でも活躍されているので申し訳ないと思っていたのですが、かえって現場の純粋性を喜んで下さり、手を貸してくださいました。蒼井さんの周りの草を濡れた状態にしたかった時、蒼井さんがジョウロで水を撒いて下さったこともありました。通常、俳優さんは段取りが整うまで別の場所で待っているのですが、最初から近くにいてすぐ参加できるように様子を見てくれていました。
 
――――お二人も今までにない撮影で、充実感を覚えていらっしゃったんでしょうね。
塚本:庄内は夜、星がとてもたくさん出るのですが、二人で夜撮影が終わって星を見ながら「幸せだ」と言っていたんですと蒼井さんが教えてくれました。本当に少人数で、何かの軋轢もなく、ただシンプルに映画を作ることに邁進していたのが良かったのだと思います。
 
――――『野火』の時は、若い方に見てもらいたいとおっしゃっていましたが、この作品はどんな方に見ていただきたいですか?
塚本:時代劇なので色々な層の方に見ていただきたいですが、映画のテーマ的にはやはり若い人に見て、感じていただきたいですね。ただ面白かったというのではない、居心地の悪さを含めて、いろいろ考えてもらいたい。カタルシスの得られなさや、取り残された感じを、ぜひ味わってほしいです。
(江口由美)
 

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<作品情報>
『斬、』(2018年 日本 80分) 
監督・脚本・撮影・編集・製作:塚本晋也 
出演:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也他
2018年11月24日(土)~ユーロスペース、12月1日(土)〜シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマほか全国順次公開
※第75回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品
公式サイト⇒ http://zan-movie.com/
(C) SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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11月3日(土)の閉幕に先立ち、11月2日(金)六本木EXシアターにて第31回東京国際映画祭アウォードセレモニーが開催され、コンペティション部門、アジアの未来部門、日本映画スプラッシュ部門の審査結果および観客賞が発表された。
 
 
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今年の東京グランプリに輝いたのは、最優秀脚本賞Presented by WOWOWとのW受賞となったフランス映画『アマンダ』。パリ暮らしの青年が、ある日公園で起きたテロで姉をなくし、残された姪っ子、アマンダの保護者になる道を選ぶか否かで葛藤する姿、母のいない日々を親戚に預けられながら懸命に生きようとするアマンダの姿を描いたヒューマンドラマだ。(来年初夏公開予定)
 
 
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審査員特別賞は、家族を養うためにある決断をした地主の父親が、次々に自分の大事なものを失う悲劇を、19世紀のデンマークの農地を舞台にリアリティ溢れるタッチで描いた骨太のデンマーク『氷の季節』が、最優秀男優賞(イェスパー・クリステンセン)とのW受賞となった。
 
 
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最優秀監督賞は、最優秀女優賞(ピーナ・トゥルコ)とW受賞となったイタリア映画『堕ちた希望』のエドアルド・デ・アンジェリス監督が受賞を果たした。
 
最優秀芸術貢献賞には、レイフ・ファインズ監督の『ホワイト・クロウ(原題)』(来年公開予定)が堂々の受賞。そして、注目の観客賞には、稲垣吾郎主演の阪本順治監督最新作『半世界』が選ばれた。
 
その他、受賞結果は以下の通り。
 

<コンペティション部門>

【東京グランプリ】『アマンダ(原題)』(ミカエル・アース監督)
 
【審査員特別賞】『氷の季節』(マイケル・ノアー監督)
 
【最優秀監督賞】エドアルド・デ・アンジェリス監督(『堕ちた希望』)
 
【最優秀男優賞】イェスパー・クリステンセン(『氷の季節』)
 
【最優秀女優賞】ピーナ・トゥルコ(『堕ちた希望』)
 
【最優秀脚本賞】『アマンダ(原題)』(脚本:ミカエル・アース、モード・アメリーヌ)
 
【最優秀芸術貢献賞】『ホワイト・クロウ(原題)』(レイフ・ファインズ監督)
 
【観客賞】『半世界』(阪本順治監督)
 
 

<日本映画スプラッシュ部門>

 
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【作品賞】
『鈴木家の嘘』(野尻克己監督)
 
【監督賞】
武正晴(『銃』)、田中征爾(『メランコリック』)
 

<アジアの未来部門>

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【作品賞】『はじめての別れ』(リナ・ワン監督)

【国際交流基金アジアセンター特別賞】ホアン・ホアン監督(『武術の孤児』)
 
 
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【東京ジェムストーン賞】木竜麻生(『菊とギロチン』『鈴木家の嘘』)、リエン・ビン・ファット(『ソン・ランの響き』)、カレル・トレンブレイ(『蛍はいなくなった』)、村上虹郎(『銃』)
 
 

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

 

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《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》スペシャルトーク
中村扇雀、“美しさは武器!”『恋や恋なすな恋』

(2018年10月27日(土)京都歴史博物館にて)
ゲスト:中村扇雀 聞き手:飯星景子  (敬称略)



histrica-恋や恋なすな恋-500.jpg今年9月のベネチア国際映画祭でプレミア上映され世界を驚かせた『恋や恋なすな恋』(1962)4Kデジタルリマスター版が、《第10回京都ヒストリカ国際映画祭》のオープニングを飾った。内田吐夢監督が歌舞伎の様式美と芝居を融合させ、さらにアニメーションや義太夫や清元など当時の名人たちを贅沢に配した極彩色豊かでファンタジックな平安絵巻。


ご存知、陰陽師・安倍晴明の伝説を物語った、陰陽師と狐の異類婚姻譚の浄瑠璃『葛の葉』と清元『保名』を基に依田義賢が脚本化。56年経った今でも、その優美さと斬新な映像美に圧倒され、また名場面「子別れ」のシーンでは、白狐の哀切極まりない姿に涙なくしては見られない名場面となっている。

『恋や恋なすな恋』
 

主演の安倍保名を演じるのは「銭形平次」で有名な大川橋蔵。六代目菊五郎の養子でもある大川橋蔵は、歌舞伎の舞台に立ちつつ映画界でも大活躍。生真面目ゆえに正気を失う保名の悲哀を全身全霊で表現し、清元『保名』の踊りもさすがである。そして、榊・葛の葉・白狐のおこんの三役を見事に演じきったのは、山田五十鈴の娘である瑳峨三智子。気品ある姫・榊、可憐で優しい葛の葉、そして葛の葉に化けた白狐役では妖艶さと母性愛あふれる演技で他を圧倒。
 



「恋しくば 尋ね来て見よ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」

中村扇雀、歌舞伎と映画の深い結びつきを語る

 

上映後のスペシャルトークに中村扇雀さんが登壇。10月27日は京都南座新開場記念のお練りが祇園界隈で開催され、扇雀さんも参加されていましたが、終了後当映画祭に駆けつけて下さいました。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-1.jpg映画を観た感想は?
「大川橋蔵さんの舞台をそのまま映像にするとは歌舞伎をよく理解してないと撮れないと思います。内田吐夢監督ならではの演出ですね。タイトルも清元の謡(うたい)から付けられたということで、とても驚きました。」


歌舞伎の女形について?
「独特な雰囲気の歌舞伎の女形を女優が演じることに興味津々でした。逆に歌舞伎の良さを気付かせてくれたように思います。」


大川橋蔵さんの『保名』について?
「私も早く『保名』を演じたいです。その時には七代目中村芝翫さんとこの映画の大川橋蔵さんをお手本にしたいと思います。阿倍保名の狂乱後の舞は、せつなさと色気が必要ですが、元々歌舞伎役者の橋蔵さん(六代目菊五郎の養子)だからできた役ですね。橋蔵さんは映画に出られるようになってからも舞台に立っておられ、歌舞伎と縁を切りたくなかったのでしょうねえ。大川橋蔵さんご自身が、演技力を発揮できる作品をと望んでおられたようです。」


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-3.jpg歌舞伎役者と映画俳優について?
「大正10年前後だと思いますが、二代目鴈治郎の青年歌舞伎では、初代鴈治郎の弟子たちの中に、市川歌右衛門さんや嵐寛十郎さんや長谷川一夫さんがおられまして、皆さん腰元として鴈治郎の後ろに座っていたそうです。錚々たる名優が腰元の格好で並んでおられたのですから、今思うと信じられない舞台ですよね。

関西では、父親の舞台を観て習おうとすると、「真似ばかりせんと、自分で工夫しろ!」とよく怒られます。江戸歌舞伎では、父の芸風に似てくると皆さんに褒められるのですが…。『藤十郎の恋』の長谷川一夫さんの舞台を観て、鳥肌が立ちました。衣装をお借りして、真似しました。


内田吐夢監督は歌舞伎ベースの映画を4本撮っておられ、アニメーションを使ったりして描写がとてもユニークですよね?
「映画はよく観ているのですが、「このために作ったのでは?」というようなセリフやシーンを見つけるのが楽しみなんです。でも、本作は全体にそれが散りばめられているようで、見所が多いですね。特に安名の描写が繊細で、発想も凄いし、斬新ですよね。


histrica-恋や恋なすな恋-tolk-240-2.jpg見所について?
文語体のセリフは、普通リアリティがなく分かりにくいのですが、本作では役者の演技力でリアルな感情を感じられます。よく、演じるにあたって、「その役の性根(お腹)が一番大事」と教えられました。心情がリアルに感じられる部分を参考にしております。

歌舞伎では『葛の葉の段』を演じられることが多いのですが、白狐の子別れのシーンが有名ですね。義太夫も清元も当時の名人が担当されていて、内田監督は盛り込みたい事をすべて叶えておられたように感じます。」


口筆書きについて?
「白狐が口に筆をくわえて障子に書くシーンがありますが、舞台でもよくやります。墨が流れないよう、紙を選んだり、いい墨汁に松脂を混ぜて作ったものを使ったりと工夫します。赤子が泣くので抱きかかえながら口にくわえて書かなければならないのです。」


山田五十鈴さんの娘の嵯峨三智子さんについて?
「美しいことは武器だなと思いました。山田五十鈴とはよくお食事をご一緒させて頂きました。私のことを「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」って呼ばれるものですから、「僕、男です!」といつも言い返していました(笑)。山田五十鈴さんは、お芝居も殺陣も踊りも和楽器演奏も何でもお出来になる方で、私は「山田五十鈴になりたい!」と思っていました。嵯峨三智子さんも母親に近づきたかったのはないのでしょうか。ところどころ、山田五十鈴さんを感じました。」
 


『恋や恋なすな恋』

『恋や恋なすな恋』

【あらすじ】
平安時代、月を射抜くような白矢雲がかかり、東国では平将門の乱が勃発、富士の山が火を噴き、都は騒然とした空気に包まれていた。そこで宮廷陰陽師の加茂保憲が急ぎ参内しようとするが暗殺されてしまう。保憲には安倍保名と芦屋道満という二人の弟子がいて、後継者には自らの名「保」を与え、また娘の榊と恋仲の保名をと考えていた。ところが、それを妬んだ道満と保憲の妻が共謀して保憲と榊を死に追いやり、秘伝の「金烏玉兎集」を奪おうとするが、怒りと悲しみのあまり正気を無くした保名に逆襲されてしまう。


一連の罪を着せられた保名は、「金烏玉兎集」を懐に面影を求めて野谷をさまよい、和泉の国で榊の妹の葛の葉に出会う。榊に瓜二つの葛の葉を見て「榊は生きていた!」と喜ぶ保名。ある日、狐狩りに遭遇した保名と葛の葉は、矢を射られた老婆を助ける。実はその老婆は信太森に住む白狐だった。白狐は助けられたことを恩義に感じ、孫娘のおこんに保名の保護を命じる。「決して、人間と情を交わすことなかれ」という狐の掟を伝えて…。その後、おこんは役人に襲われた保名を助け、葛の葉に化けて傷を癒し、子まで成す仲となる。狐の掟を破ってまでも保名を愛し、子供を慈しむおこん。親子三人幸せに暮らしていたところに、和泉の庄司夫妻と葛の葉が訪ね来て……。

おこんは、身を切られる思いで、「恋しくば 尋ね来てみよ 和泉なる 信太の森の 恨み葛の葉」と障子に書き置きして姿を消す。
 



1962(昭和37)年東映京都作品/109分・カラー
製作:大川博 企画:玉木潤一郎 脚本:依田義賢 
監督:内田吐夢 
出演:大川橋蔵(阿倍保名)、瑳峨三智子(榊の前・葛の葉・狐葛の葉)、宇佐美淳也(加茂保憲)、河原崎長一郎(櫻木の宮)、加藤嘉(庄司)、原健策(藤原仲平)、柳永二郎(藤原忠平)、日高澄子(後室)、毛利菊枝(狐の老婆)、松浦築枝(庄司の妻)、天野新二(芦屋道満)、山本麟一(悪右ヱ門)、明石潮(勅使)、高松錦之助(治部卿)、小沢栄太郎(岩倉治部大輔)、薄田研二(狐の老爺)、月形竜之介(小野好古)

©1962 TOEI COMPANY, LTD.

http://historica-kyoto.com/films/special/the-mad-fox/


(文・写真:河田 真喜子)

 

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自分の十年後はなんとなく予測できても、日本の十年後は?と問われると、少し悲観的な気持ちになってしまう人が多いのではないだろうか。超高齢化社会、バブル世代が還暦を迎えるような時代の日本は一体どうなるのか?
是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務め、新鋭映画監督5人により日本の十年後を描いたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が、11月3日(土・祝)からテアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開される。
 
日本、タイ、台湾の三カ国による国際プロジェクトである『十年』。日本版では、徴兵制、AI教育、安楽死、放射能問題、デジタル遺産というテーマのもと、現在と同じように葛藤を抱えながら生きる大人や、体制に抗いながら自分の切り開こうとする子どもたちの姿が描かれる。5本のオムニバスの中から、AIが教育する十年後を描いた『いたずら同盟』の木下雄介監督にお話を伺った。
 

 

■自分と世界との距離感を映画で表現した初長編『水の花』。

―――木下監督は大学在学中に応募した作品がPFFの準グランプリを受賞、PFFスカラシップに選ばれ、05年に完全オリジナルの初長編『水の花』を撮っておられます。この作品も『いたずら同盟』と同様、子どもが主人公でしたね。
木下: 『水の花』は、主人公は中学生の女の子で、自分の親に対し、ある種憎しみのような感情を抱いています。大人の世界に対して拒絶していくのですが、「大人は判ってくれない」ことを判っていくラストになっています。当時、僕は24歳で、自主映画出身の自分が長編1本目を撮らせていただく中で、自分と世界との距離感を映画で表現していました。
 
―――その次は13年の短編『NOTHING UNUSUAL』ですが、かなり間が空いていますね。
木下: 『NOTHING UNUSUAL』はアップリンクさんの企画に関わらせていただいたものです。『水の花』以降、自分の中では映画をやっているつもりなのですが、脚本を書く時も自分の内側に入り込み、7年かけて、自分と自分の周りにいる若者の青春群像劇を書いていたのです。『NOTHING UNUSUAL』は、2ヶ月後に上映という超スピード制作で、日食が起こる日を舞台に、30歳近くになっても定職につかず、夢を目指している青春の終わりを描いた青春群像劇でした。『NOTHING UNUSUAL』を撮り終わり、もう一度映画を勉強したいという思いが強くなって、映像の仕事やテレビの仕事にも携わるようになったのです。今回の『十年』は、新たに映画を作りたいと動いていたタイミングで声をかけていただきました。
 
―――元になっている香港版の『十年』をご覧になった感想は?
木下: 香港版の場合は、中国政府が意識をする対象として共通にあり、怒りに満ちた映画になっています。実際に作品を撮っている時に雨傘革命が起こり、国全体がそのことを元に映画と向き合えたという部分では、羨ましさも感じました。
 
 

■AIと、教科化された道徳を組み合わせ、子どもたちがどのように生きるかを描く。

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―――今回、日本の「十年後」を描く企画を打診された時、どう感じましたか?
木下: 実は僕の子どもが産まれた三日後にこのお話をいただいたので、十年後だと我が子は10歳だなということはすぐに思い浮かびました。後、以前からAIを映画で描いてみたいと思っていたのです。道徳が教科化されますが、道徳は本来、国が指定したり、先生に価値基準を教えられたりしながら植え付けるべきものなのか。自ら行動し、間違えてもそこから行動を起こすことで、価値基準を知っていくものではないかと思うのです。そもそも善と悪の二つだけではないですから。一方で、国がまとめ上げやすい教育を、不完全な人間の大人ではなく、ありとあらゆるデータを持ち、子どものことをよく分かっているとされるAIが代わりに担ったらどうなるだろうか。その中で、子どもたちがどのように生きるかという映画にしていきました。
 
―――各自のこめかみに設置されたAIシステムが、将来日本を支える労働力になることを見越した個人の能力、才能を加味したアドバイスしますね。
木下: 少子高齢化で効率的に考えていくことを優先させた場合、AIが言う通り、ダイスケが野球選手になれないのは本当かもしれませんが、それでも自分のやりたい事を叶えるために頑張ろうとするのか。そこはこの作品で問われている部分です。
 
 

■システムの中の一員であることを自覚。その中で行動を起こすことの可能性を探る。

―――AIシステムが最後にバージョンアップするのには驚かされましたが、そのように描いた狙いは?
木下: 若い頃は、政治は嫌だと言っていても、大人になってしまうと、そのシステムの中に入ってしまうという認識を持っています。その中で、どのように、ジリジリとでも変えていけるか。そこを模索しているのが、今の自分の気運であり、『いたずら同盟』にも反映されています。僕もシステムの一員であることを自覚して、行動を起こしていけば、そのシステムを変化する可能性があるのではないか。そういう気持ちが込められています。
 
―――AIシステムが学習するという部分をポジティブに捉えているということですか?
木下: 子どもたちが老馬を放ったということは、一般的な価値基準から言えば悪いことかもしれませんが、そういう善悪の基準を超えた部分で、僕は子どもたちが取った行動の背中を押してあげたいし、僕の中では肯定的な行動なのです。ただAIが、馬の死を目の当たりにした時の子どもたちの悲しみや、そのことにより人生観が変わったということを理解するところまでいってしまう場合、道具という現在の概念を超えてしまうのではないか。そこもAIと向き合う上で考えていかねばならないことだと思っています。
 
―――是枝裕和監督が総合監修をされていますが、どんなアドバイスがあったのですか?
木下: 是枝監督には脚本も3回ぐらい見ていただきましたし、編集も3回ぐらいチェックしてくださいました。全作品そのように脚本、編集を見ておられます。是枝監督からは「木下君の脚本は長編の書き出し方をしているよ」等、観客を意識した上で脚本をどうしたらいいかという視点でのアドバイスを下さいましたし、同時に僕がやりたいことも汲み取って下さいました。NGを出すのではなく、うまく想像させるように、アドバイスをしていただいた感じですね。
 
 
 
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■『萌の朱雀』の時から感銘を受けていた國村隼に念願のオファー。

―――子どもたちを見守る大人として、親や先生以外に、國村隼さん演じる用務員が登場します。第三者的な大人が子どもを温かく見守り、この物語をうまく支えていますね。
木下: 國村隼さんが脚本をすごく読み解いて下さいました。どのような歴史があって、用務員の彼があそこにいるのかも考えて下さいました。馬を逃がそうとする子ども達の背中を押してあげるのは、國村さんの演じる用務員で、そこでの見事な高笑いも含め、本当に國村さんにやっていただいて良かったです。
 
―――國村さんに最初からオファーを考えていたのですか?
木下: 『萌の朱雀』で父親役を演じた國村さんの佇まいや、立ち振る舞いから溢れ出る悲しみに、見ていてすごく納得させられ、この短編にぜひ出演して欲しいとお願いしました。今回、服装もアイデアを出してくださったり、台風で撮影が延び、野外撮影が室内撮影に変わった時も、すれ違いざまに子どもに声をかけるシーンで、あえてセリフをなくして通り過ぎる演技にされ、僕の中でもすごく納得のいくシーンになりました。
 
 

■観客の「見たい」という欲求を引き出す設定と演出。

―――最初は別の方向を向いていた三人の子どもが、馬を逃すという共通の目的で一致団結しますが、どのようにキャラクターを設定していったのか教えて下さい。
木下: 良太が主軸にありつつ、マユと大輔の化学反応が、AIの測定しきれない部分になるので、三人のバランスは考えました。三人が立った時の見え方や、大輔のリーダー格だけど憎めない部分だとか。自分が想定したことと、役者の方自身が持っているものが融合してキャラクターができました。そこが、前作『水の花』との大きな違いですね。方法論としてもフィルムで、ワンシーンワンカットで撮りたいとか、僕の頭の中で、撮りたいものが全部出来上がっていました。今回は現場で皆さんと議論しましたし、夜の森のシーンは、光が木に当たると白んでしまうので、限られた時間帯をめがけて撮影しました。
 
―――夜の森のシーンは、本当に幻想的で美しかったです。
木下: 照明がギリギリで、本当に大変でした。昔から、あえて見えにくくすることを取り入れていました。観客が前のめりになって「見たい」という欲求を引き出したいんですね。どうなるのかと暗闇に目を凝らしていると、馬の胴体が見えてゾクッしたり美しいと感じる。そのような効果を出すために、カラーコーディネーターや撮影とすごく色々作業しました。
 
―――今回の撮影は、矢川健吾さん(『穴を掘る』監督)ですね。闇の中での撮影は見事でした。運動場で、駆けていく馬を子ども達が追いかけるシーンも爽快でした。
木下: 運動場のシーンは、矢川さんでなければ撮れないですね。人間が乗っていない馬は本当に動きが予測できないので、車だと小回りが効かず追いかけられない。自転車だとカメラの重みで揺れてしまう。最終的に学校のリヤカーをお借りして、スタッフで引きながら、矢川さんが荷台に乗って、撮影したんです。夕方のシーンですが、早朝に逆マジックアワーを撮り、本当に楽しかったですね。
 
 
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■オムニバスだからこそ、自分らしさがより明確に見える。

―――『水の花』はラストが海でしたが、今回は山に入って行きます。自然に還っていく感じがしますね。
木下: やはり自然が好きなんですね。『十年 Ten Years Japan』の中で、石川慶監督の「美しい国」は、太賀さんと木野花さんの二人の芝居に集中するのも方法論として面白かったです。僕の場合は、自然に飛び出して撮るのが好きだったり、馬や後半の森の絵が利いているなと思ったり、同じ条件で撮っている他の作品があるからこそ、自分らしさがより明確に見えてきますね。普遍的に根底にあるものを掬い取りたいし、それを映画として表現したい。この映画を撮れたから、そういうことの気付きになりました。
 
―――出来上がった『十年 Ten Years Japan』全体をご覧になって感じたことは?
木下: 香港版が怒りの感情が根底にあるとすれば、日本版は社会の中に生きて、もしかしたら加担してしまっているかもしれない人たちが、社会を憂い、問題意識を提示しています。最初周りから、「政治的問題を撮るんですね」と言われたのですが、政治というのは自分たちの身の回りにあるもので、自分たちの行動一つ一つが政治や経済に繋がっているということを、本作を見ていてハッと気付かされるのではないかと思います。映画をご覧になった皆さんが、少しずつ行動を変えると、それが十年後の未来を変えることに繋がるかもしれません。
 

■国際プロジェクトを通して、他者にも大事なものがあると理解し、分かり合いたい。

―――最後に『十年 Ten Years Japan』は、タイ、台湾との国際プロジェクトですが、その意義をどう感じておられますか?
木下: まず日本がアジアの一員であることを意識しなければいけないと思います。香港版を見たときに、香港の歴史や国の状況が分かりましたし、タイや台湾、日本もそれぞれの国の歴史、事情があります。自分に大事なものがあるように、他者にも大事なものがあると理解できた時、分かり合えるのだとすれば、映画を通してそれをやれるのは、いいことだと思います。
(江口由美)
 

<作品情報>
『十年 Ten Years Japan』(2018年 日本 99分)
監督:早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶
エグゼクティブプロデューサー:是枝裕和
主演:杉咲花、太賀、川口覚、池脇千鶴、國村隼
配給:フリーストーン
2018年11月3日(土)〜テアトル新宿、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開
※11月4日(日)シネ・リ-ブル梅田 10:00の回(上映後)、神戸国際松竹 13:30の回(上映後)、早川千絵監督、木下雄介監督、津野愛監督、藤村明世監督による舞台挨拶あり。
 
公式サイト → http://tenyearsjapan.com/

© 2018 Ten Years Japan Film Partners

 

 

 


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『暁に祈れ
プレスシート&オリジナルステッカー プレゼント!

 

 

■提供:トランスフォーマー

■プレゼント数: 3名様

■締切:2018年12月8日(土)

公式サイト: http://transformer.co.jp/m/APBD/

 

公開日:2018年12月、シネ・リーブル梅田、12/8~MOVIX京都、順次シネ・リーブル神戸にて公開

 



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2017年カンヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門正式出品作品

ロッテントマト驚異の96%フレッシュ!(8/1付)

“地獄”と呼ばれた刑務所をムエタイで生き抜け 魂を揺さぶる真実の物語

 

本作は汚職・レイプ・殺人が蔓延する実在のタイの刑務所に服役し、ムエタイでのし上がっていったイギリス人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝ベストセラー小説がベースとなっており、ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督により映画化された。極限状態の中、孤立奮戦する主人公ビリーを演じたのは、ジェレミー・ソルニエ監督の『グリーンルーム』で注目され、映画祭を席巻したラブストーリー『きみへの距離、1万キロ』で主演を務めるなど演技とアクション、両方の才能を兼ね備えた新星、ジョー・コール。彼はボクサー役を務めるため何か月も肉体改造に励み、過酷な30日間の撮影に挑んだ。


役者の大半は現地タイ人の元囚人たちが起用されており、彼らの体験に基づいた迫真の演技により、観客はあたかもその場にいるような感覚に陥ってしまう。地獄に堕ちたアウトローが人間性をはく奪されながらも、ムエタイを通じて光を見出していく、監獄版「あしたのジョー」とも言うべき『暁に祈れ』は、ただのジャンル映画の枠には納まらない、パワフルな人間ドラマとして昇華している。


【STORY】
ボクサーのビリー・ムーアは、タイで自堕落な生活を過ごすうちに麻薬中毒者になってしまう。ある日、警察から家宅捜索を受けたビリーは逮捕され、タイで最も悪名高い刑務所に収容される。そこは殺人、レイプ、汚職が横行する、この世の地獄のような場所だった。死と隣り合わせの日々を過ごすビリーだったが、所内に設立されたムエタイ・クラブとの出会いが彼を変えていく。
 



監督・脚本:ジャン=ステファーヌ・ソヴェール『ジョニー・マッド・ドッグ』 
原作:ビリー・ムーア「A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons」
出演:ジョー・コール『グリーンルーム』「ピーキー・ブラインダーズ」、ポンチャノック・マブラン、ヴィタヤ・パンスリンガム『オンリー・ゴッド』 
2017年/イギリス・フランス/英語、タイ語/シネスコ/117分/原題:A Prayer Before Dawn /日本語字幕:ブレインウッズ
提供:ハピネット+トランスフォーマー
配給:トランスフォーマー R15+
© 2017 - Meridian Entertainment - Senorita Films SAS
公式サイト: http://transformer.co.jp/m/APBD/

2018年12月、シネ・リーブル梅田、12/8~MOVIX京都、順次シネ・リーブル神戸にて公開
 


(オフィシャル・リリースより)

 

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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、香港のフルーツ・チャン監督最新作『三人の夫』がコンペティション部門作品としてワールドプレミア上映された。娼婦を描いた『ドリアン・ドリアン』(00)『ハリウッド★ホンコン』(01)に続く、「売春トリロジー」の3作目となる本作。ボート生活を送る常人離れした性欲に苦しんでいる主人公、ムイと、彼女と暮らす年老いた父親、ムイの赤ちゃんの父親である老漁師、そしてムイに恋し、結婚した青年“メガネ”が織りなす物語は、夫との性生活に満足できず、元の船上売春婦に戻るムイと男たちの性描写の多さに驚かされる一方、常人離れしたオーラを放つムイに心を奪われる。また、フルーツ・チャン監督ならではの移りゆく香港の今を、色濃く映し出す要素として、先日全面開通したばかりの香港とマカオを結ぶ世界最長の海上大橋「港珠澳大橋」も登場。今後香港に大きな影響を与える象徴的存在となっている。

 

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フルーツ・チャン監督、脚本のラム・キートーさん、主演のクロエ・マーヤンが登壇して行われた記者会見では、まずセックスが止まらない女性を描いたことについて、「本来、性欲は男性のものですが、今回初めて性欲の強い女性を描きました。自分でも女性の性欲がどこまでいくのかわからず苦労しましたが、医者に聞くと、その欲は無尽蔵だと。満足するまではどこまでも止まらないと言われました」とチャン監督がその苦労を明かした。

 

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初主演作にして、チャン監督の指示により1ヶ月で13キロ増量して体当たりの演技を見せたクロエ・マーヤンさんは、「チャン監督には、肉感的で、被害者ではなく力強い女性像が求められました。初めて脚本を読んだのは、香港に到着し、クランクインした初日でした。読んだ時、これぞ長年待っていて、今まさにやりたい役だと思いました」と告白。脚本のラム・キートーさんが、「普段はあまりありませんが、フルーツ・チャン監督の売春トリロジーの撮り方は、監督が文字脚本を起こし、今回のようにキャスティング後に、マーヤンさんをイメージしてビジュアルに落としていきます」と、このシリーズならではの撮り方であることを説明した。

 

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精神的な危うさも含めて、素晴らしい演技を見せたマーヤンさんを抜擢したことについて、チャン監督は「中国においては、女性がセックスをメインにした映画を撮ることはある意味冒険で、とても難しいのです。実は10年前ぐらいに一度、マーヤンさんと出会っていたのですが、当時は私のイメージと合わずキャスティングしませんでした。今回この役を探すに当たり、あの時のマイヤンさんはどうだろう、かなりイメージが変わっていると勧めてくれた人がおり、実際お会いすると、この物語のイメージに近くなっていたので、キャスティングしました」とその経緯を明かすと、マーヤンさんも、「自分との対話という意味で、過去の自分やこれからの自分を考えた時、いま、一番これをやるべきだと思いました。とてもパワフルでした」とオファーを決意した時の心境を語った。さらに、一度脱ぐ演技をした後、そのイメージを払拭することの大変さを聞かれると「『ラスト、コーション』のタン・ウェイさんと共演したときに、その後ご苦労なさったと聞きました。でも共演した時は心穏やかな状態でいらっしゃいました。私自身も心配はしましたが、海に飛び込んだのなら、そのまま漂っていきたいと思っています」と晴れやかな表情で語った。最後に、香港での上映はできるものの、中国では上映できないことを明かしたフルーツ・チャン監督。「これが社会の暗黒面ですね」と表現の自由が犯されている状況を皮肉った。

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

(江口由美)

 

 

 
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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品であり、かつ特集「イスラエル映画の現在2018」作品のルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作映画『テルアビブ・オン・ファイア』が上映され、サメフ・ゾアビ監督、検問所のアッシを演じたヤニブ・ビトンさんが記者会見で、作品の狙いを語った。
 
 
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<あらすじ>
67年の第三次中東戦争を題材にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作インターンをしているサラムは、毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、検問所の主任アッシと知り合い、「テルアビブ・オン・ファイア」のスタッフであることを知られてしまう。アッシは、ドラマの大ファンの妻に自慢したいがために、サラムのIDカードを取り上げ、ドラマの脚本に関わることになる。アッシの脚本案で、サラムは正式にドラマの脚本家となるものの、ドラマの結末にアッシとスポンサーが不満を抱き・・・。
 
パレスチナ人で、現在テレアビブに在住のゾアビ監督は、作品のアイデアについて「コメディーですが、とてもパーソナルな映画です。わたしも主人公サラムと同様にアラブ社会とは少し隔離されている場所にすみ、毎日のようにイスラエル人と共存しなければなりません。そして、常に自分自身の声を模索している。そういうシチュエーションからサラム役が生まれました。アーティストとしては自分なりに違う視点で描いているつもりですが、見ている方から政治よりの内容に見られてしまうのが、自分の中でのジレンマです。この作品はコメディーですが、コメディーに込められたジョークが二の次です。僕にとっては、コメディーが成立しているシチュエーションを皆さんにわかっていただきたいのです」
 
個性的でチャーミングな部分もある検問所の主任アッシを演じたヤニブ・ビトンさんは、テルアビブ在住のイスラエル人。主に舞台やテレビで活動し、映画出演は本作が2本目だという。ビトンさんは、この役を射止めたときのことを回想し、「僕はオーディションでこの役を得ましたが、その前に脚本の一部や作品に対するメモを読ませていただきました。この作品はコメディーで、パレスチナとイスラエルの問題を本格的コメディーとして描いた映画は今までなかったので、とても興味を持ちました。政治的な視点や、様々なシチュエーション、キャラクターに本当に共感できました。これまで色々なオーディションを受けましたが、一番やりたいと思った役ですし、ベストのパフォーマンスができたと思います。映画ではユダヤ人たちの歴史を、皮肉を込めて演じました」と役柄同様、表情豊かに語った。
 
 
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作品中でアッシが、サラムに美味しいフムスを要求し、フムスを作る場面や、食べる場面が度々登場するが、フムスに込めた意味についてゾアビ監督は、「フムスは政治的な意味も込められています。ある種のメタファーです。元々、パレスチナ人の食べ物で、イスラエル人がパレスチナを占拠したとき、我々の文化も取り入れていったのです。フムスは土地も象徴しています。我々のアイデンティティがフムスだとすれば、それをイスラエル人に取られてしまった訳です。コメディー的な見所としては、劇中で、誰のフムスが美味しいかを議論します。なぜかイスラエル人はフムスが好きです。僕も、母も作りますが、ビトンさんはいつも美味しいレストランがあるから食べに行こうというのですが、僕たちにしてみればフムスは家で作るものです」と、フムスに込めた深い意味を説明。ビトンさんも、「イスラエル人は美食家を装うのが好きですが、卵を入れたり、レモンをかけたりします。ただ、この映画の中で、食べなければいけなかったフムスは本当に不味かったです」と笑いを誘った。
 
イスラエルでは来年3月公開が決まっているという『テルアビブ・オン・ファイア』。最後に、ゾアビ監督は、「占領は実際に行われており、我々パレスチナ人は国もなければ市民権もなく、若い世代の将来もありません。それは深刻なことです。でも実際に占領されていることを描く必要はなく、それより、日々我々が受けている精神的な占領を描きたかったのです。アッシが結婚式の結末にしようとするのは、イスラエルのイデオロギーを押し付けようとしていることを象徴しています。ただ、それ以上の将来は見えません。精神的な占領は両方持っていることですし、オスロ合意の先に何があるのか見ることができないのです。オスロ合意の状況は僕にとっては全然うまくいっていないし、パレスチナ人は今だに自分たちの声がないのです。コメディーは悲劇を描くのに適していると思い作りましたが、この映画が答えよりも多くの質問を出して欲しいと思います」と本作に込めた政治的意図を明かし、議論のきっかけとなることを望んだ。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)
 

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