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劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』

 
       

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作品データ
制作年・国 2021年 日本
上映時間 97分
原作 西加奈子「漁港の肉子ちゃん」(幻冬舎文庫)
監督 渡辺歩 企画・プロデュース:明石家さんま
出演 (声)大竹しのぶ、Cocomi。花江夏樹、中村育二、石井いづみ、山西惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆
公開日、上映劇場 2021年6月11日(金)〜TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、OSシネマズミント神戸、MOVIX京都、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー
 
 

~アニメだから表現できる西加奈子原作、母娘物語の豊かさ~

 
 行定勲監督の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』、鶴岡慧子監督の『まく子』、廣木隆一監督の『きいろいゾウ』、矢崎仁司監督の『さくら』と、錚々たる監督たちが人気作家、西加奈子の小説を映画化してきた。だが意外にもアニメ化はされていなかったことに、今回初めて気づいた。お笑い界の巨匠、明石家さんまが企画、プロデュースし、西加奈子作品初のアニメ化となった劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』は、アニメだからこそ描けるキャラクターの豊かさやシリアスな出来事をコミカルに味付けすること、そしてある大人気アニメーションへのオマージュなど、シリアスさの中にどこかファンタジックな雰囲気を秘めた感動作に仕上がっている。STUDIO4℃制作、『海獣の子供』の渡辺歩監督がみせる繊細な描写にも注目したい。
 
 お肉が大好き、ダイナマイトボディの見須子菊子、通称肉子ちゃんは、惚れっぽく情に厚い性格につけこまれ、付き合う男たちに騙されては、その尻拭いをばかり。男が変わるたびに街を転々としながら一人娘の喜久子を育ててきた。とうとう東北の漁港に流れ着いた肉子ちゃんと小学5年生の喜久子は、漁港にある焼き肉屋「うをがし」の店主、さっさんの計らいで、船上暮らしをすることに。さっさんが時折振舞ってくれるみすじの焼肉に力をもらいながら、肉子ちゃんはうをがしで働き、喜久子は学校でちょっとした人気者になるのだったが…。
 
 人の良さがにじみ出る、食べるのが大好きな肉子ちゃんと、自分と全く似ていない母を冷静に観察している喜久子の絶妙な母娘関係が、新星、Cocomiが声を担当する喜久子自身の語りによりコミカルに綴られる。トトロのようなフォルムの肉子ちゃんと、思春期直前でまだ体つきが華奢でボーイッシュな喜久子。その二人が、雨の中、傘をさしながらバスを待つ田舎のバス停のシーンは、まさに『となりのトトロ』の名シーンへのオマージュ!この愛嬌たっぷりな肉子ちゃんに命を吹き込んでいるのが声を担当する大竹しのぶだ。アフレコでは明石家さんまの様々なリクエストに臨機応変に対応したという大竹が表情豊かな肉子ちゃんを快演、肉子ちゃんが鼻歌で歌う「愛の讃歌」は大竹しのぶが長年主演舞台「ピアフ」で歌い続けてきた楽曲なのもニヤリとさせられる。学校から帰ってきたら大いびきをかいて倒れているかと思えば、朝からフレンチトーストを作ってくれる肉子ちゃんと喜久子の日常を豊かに描いている。
 
 自分だけが知っている変顔する癖のある同級生、二宮との交流や、クラスメイトたちの中での関係性の変化など、喜久子自身の日常の変化を等身大で描き、子ども時代のほろ苦さや特別な体験を重ねたくなる人もいるだろう。一方、喜久子の肉子ちゃんに対する懸念と、肉子ちゃんが今まで胸のうちに秘めていたことが炸裂し、母娘関係が新しいステージに突入するのも、避けては通れない道かもしれない。そんな観る人それぞれの人生経験に重ねながら、それでも東北で飛び交う関西弁と、キャラクターの愛らしさ、登場人物たちや街の風情を含めた豊かさに、ほっこりさせられるアニメーション。西加奈子ワールドの魅力満載!そしてその原作に惚れ込んだ明石家さんまの熱量の高さを見た気がした。
(江口由美)
 
公式サイト⇒:http://29kochanmovie.com/ 
配給:アスミック・エース
ⓒ2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会
 

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