「AI」と一致するもの

『弁護人』 - 映画レビュー

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his-2016-500-E.jpgいよいよ《京都ヒストリカ国際映画祭》開催!
 

★トミー・リー・ジョーンズが映画祭にやって来る!!!

 
時代劇ファンにとって最も楽しみな《京都ヒストリカ国際映画祭》が今年も開催されます。世界でただひとつ、「歴史」をテーマにした第8回京都ヒストリカ国際映画祭は、映画の都・京都ならではのもの。


今年は、缶コーヒーのCMでおなじみの“宇宙人ジョーンズ”ことトミー・リー・ジョーンズが監督・主演を務めた西部劇『ホームズマン』を引っ提げて、映画祭にゲストとしてやってきます。この秋公開されたばかりの『メカニック:ワールドミッション』や『ジェイソン・ボーン』などでは、ベテランならではの風格で存在感を出していましたが、19世紀半ばの西部開拓史の中でも、歴史に埋もれた女性たちにスポットを当てた異色西部劇を披露いたします。
 

日本初公開作品を揃えた〈ヒストリカ・スペシャル〉と〈ヒストリカ・ワールド〉では6本の新作を、〈ヒストリカ・フォーカス〉では「忍者映画100年進化論―忍者エボリューション」と題して、無声映画からアニメ映画まで忍者映画9本を紹介。他に連携企画①〈アジア・シネラマ〉、②〈京都フィルムメーカーズラボスクリーニング〉、③〈時代を彩る禁断の恋〉と、ヒストリカ映画祭ならではの特別企画は他に類のない豪華さで楽しませてくれます。


開催期間:11月2日(水)から11月13日(日)まで11日間(11/7(月)は休館日)
場所:京都文化博物館


★スケジュールや作品紹介、ゲストなどについての詳細は公式サイトをご覧ください⇒こちら


 

昨年の〈ヒストリカ・ワールド〉部門で上映された2作品が、『フェンサー』→ 『こころに剣士を』 、 『大河の抱擁』→ 『彷徨える河』というタイトルで年末年始に一般公開されます。今年の新作の中の5本について、少しご紹介いたします。

 

his-2016-500-E-2.jpg①『ホームズマン』 〈ヒストリカ・スペシャル〉
(2014年 アメリカ・フランス 122分 トミー・リー・ジョーンズ監督・主演)

トミー・リー・ジョーンズの監督・主演作は、『The Sunset Limited』(‘11)以来2作目。19世紀半ばのネブラスカ準州(現在のネブラスカ州とダコタやワイオミング、モンタナを含む広域)での開拓民の女性像を捉えた、珍しい西部劇。一昨年当映画祭で上映されたドイツ映画『黄金』では、ゴールドを求めてロッキー山脈北部(カナダ)へやってきたドイツ人女性の逞しさを描いたロードムービーでしたが、今回は女手一つで荒野を開拓する女性・メアリー(ヒラリー・スワンク)が、神経を病んだ3人の主婦をアイオワ州に住む教会の女性(メリル・ストリープ)の元へ連れて行こうとするロードムービーです。危険な道中の助手として吊るし首にされようとしていたならず者(トミー・リー・ジョーンズ)を雇っての長旅。彼のメアリーを女性として尊重しない言動に苦笑しながらも、当時の女性への酷い扱いが慮れるというもの。


未開拓の中西部では女性は大切にされてきたとばかり思っていましたが、子供を産む道具と扱われたり、過酷な自然環境の中でも労われることもなかったり、知られざる西部開拓史の一面を見るようでとても興味深い。今では大穀倉地帯のアメリカ中部ですが、開拓が始まった頃の状況を衝撃の映像で綴って、西部開拓史の中に埋もれた真実を描出。かつて、ラルフ・ネルソン監督の『ソルジャー・ブルー』(‘70)やアーサー・ペン監督の『小さな巨人』(‘70)といったインディアン戦争を描いた作品のように、虐げられた人々の衝撃の真実と強い想いを伝えようとする意図が感じられる逸品です。


 his-2016-500-D.jpg②『秘密が見える目の少女』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 デンマーク、ノルウェー、チェコ 96分 ケネス・カインツ監督)

デンマークの作家リーネ・コーバベルによる4部作からなる児童文学書の第1部の実写映画化。主人公は10歳の少女ディア(レベッカ・エミリー・サットラプ)。心の奥底にある恥や罪悪感、劣等感などが相手の瞳を通して判る、不思議な力の持ち主。母親も同じ力の持ち主ですが、兄と妹にはその力がなく、ディアだけが「シェイマーズの娘」と忌み嫌われて、誰も目を合わせようとしません。そんな時、お城では王様とお妃と幼い子供まで殺されるという殺人事件が発生。王様と仲の悪かったニコ王子が捕えられ、その審議のためディアの母親が呼ばれますが、次いでディアもお城へと連れて行かれます。


ところが、地下で飼われている恐ろしいドラゴンの生血を吸って強靭な精神を保つ陰謀の黒幕が正体を現し、王国を乗っ取ろうとします。ニコ王子と母親を助け真実を暴こうと、持てる力を最大限に駆使して奮闘する少女の健気さと美しさに、目が釘付けになります。中世ヨーロッパの小さな王国を舞台に、不思議な力の持ち主・ディアの活躍を、スリルとサスペンスあふれる映像で描いた感動のファンタジー映画です。すぐにでも次作が観たい!と思えるほどの面白さです。


his-2016-500-B.jpg③『ウルスリのすず』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 スイス 104分 サヴィアー・コラー監督)

アルプスの山奥で暮らす少年・ウルスリは、夏は両親と共に山小屋で暮らし、チーズ作りをする父親の代わりにヤギの世話をする働き者。でも、仲良しの女の子・セライナに優しい言葉をかけられない“はにかみや”さん。冬が近付き山を下りようとした時、沢山のチーズを積んだ荷馬車が谷川に落ちてしまい、冬を越すお金がなくなり、母親は遠くの町へ働きに出ることになりました。そんな困窮した一家に、商店を営む村長父子が何かと無理難題を言ってきます。実は、谷川に落ちたチーズを密かに拾って売っていたのです。セライナの気を引こうとする息子のためにウルスリが可愛がっている子ヤギのジラを取り上げたり、春を告げるお祭りで披露するウルスリの大きな鈴を横取りしたりと…。


困窮する両親のため子供ながら尽力する孝行息子ウルスリの健気さや、彼を想うあまり危険を省みない行動に出るセライナの献身、さらにウルスリを見守る山の主・狼との絆など、厳しい大自然の中で良心的な生き方で人々の心を見方にしていく少年たちの真心が胸を打ちます。監督は『ホープ・オブ・ジャーニー』(‘90)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したサヴィアー・コラー監督。スイスアルプスの美しい映像も見どころです。


his-2016-500-C.jpg④『バタリオン』 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 ロシア 120分 ドミトリー・メスヒエフ監督)

近年のロシア映画に駄作なし!人間性を深く掘り下げた描写力に迫力ある映像が備わり、その質の高さにいつも圧倒されっぱなし。本作は、第一次世界大戦末期、社会主義の浸透により評議会が力を持ち、上官の命令に従わない兵士たちが続出。そんな戦意を失くした兵士に代わりにドイツ軍との前線に立った女性だけの部隊「婦人決死隊・バタリオン」の死闘を描いた感動作。当時、身分に関係なく貴族や学生や一般市民や農民などの子女が志願した部隊があったとは……歴史に埋もれた知られざる人々の真実が、今まさに明かされます!


志願の動機は、祖国のためという理由だけでなく、愛する人をドイツ軍に殺されたから、大切な人を守るため、あるいは、無慈悲な男たちや社会から虐げられた女性たち。美しい髪を惜しげもなく切り、丸坊主にして女であることを捨て、厳しい訓練に耐え、戦闘能力を身に付けていく。彼女らの指揮を執った実在の人物マリア・ボチカリョーワを演じたマリア・アロノヴァの、厳格さと人情味が交錯する演技には、愛しいロシアの娘たちの命を戦場で散らす責任をひとり背負う葛藤と反戦の意が込められ、強烈な印象として胸打たれます。見た目にも中身も重量級のヒューマンドラマは必見です!


his-2016-500-A.jpg⑤『BAAHUBALI: THE BEGINNING(原題)』(バーフバリ) 〈ヒストリカ・ワールド〉
(2015年 インド 138分 S・S・ラージャマウリ監督)

ショーブ・ヤーラガッダ・プロデューサーがトークゲストで来日予定。

インド映画といえば、公開中の『PK』のように、ストーリーも俳優も映像も音楽も極上揃いで楽しませてくれますが、本作はボリウッドきっての歴史超大作映画として期待されています。日本では来年春の全国公開が決定。是非スクリーンでお楽しみ下さい。


(河田 真喜子)


期間中、ゲストとしてトークなどが予定されているのは『くの一忍法』の中島貞夫監督、『伊賀忍法帖』出演の“斬られ役”福本清三さん、『伊賀忍法帖』の殺陣師・菅原俊夫さん、『豪傑児雷也』の活動写真弁士・坂本頼光さん、現代の忍者の武術家・川上仁一さん、『隻眼の虎』のVFXスーパーバイザー、チョ・ヨンソク氏、『駆込み女と駆出し男』の原田真人監督、同映画の美術デザイナー、原田哲男さん、『古都』のYuki Saito監督、『わたしが棄てたナポレオン』のジョルジア・ファリーナ監督、香港国際映画祭事務局ディレクター、ロジャー・ガルシア氏、『忍者EX』のアーロン・ヤマサト監督


◆チケットは一部作品を除いて

前売り1100円、当日1300円【ヒストリカ・スペシャル】『ホームズマン』(6日)当日一律2000円(12日通常料金)
【連携企画】『古都』前売り1500円、当日1800円。
※販売はチケットぴあ店頭、セブンイレブン、サークルK、サンクス。「Pコード  556-060」

 

konosekai-550.jpg『この世界の片隅に』片渕須直監督インタビュー

■原作:こうの史代(『この世界の片隅に』双葉社刊)
■監督・脚本:片渕須直
■声の出演:のん、細谷佳正、他
2016年11月12日(土)~テアトル梅田、  イオンシネマ近江八幡、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ茨木、109シネマズ大阪エキスポシティ、シネ・リーブル神戸、MOVIXあまがさき、ほか全国ロードショー
公式サイト: http://konosekai.jp/
■コピーライト:©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会


 

★戦火の中、健気なすずの暮らし

 

こうの史代の原作を片渕須直監督がアニメ映画化した『この世界の片隅に』が完成、公開を前に19日、片渕監督が来阪キャンペーンを行い、作品への思いを語った。


konosekai-di-1.jpg――今夏はアニメが活況だった。『この世界の片隅に』も泣けるアニメだが、原作のどこに惹かれたのか?
片渕監督:主人公が普通に生活していて、ご飯をつくるところがおもしろく丹念に描かれる。そうした普通の生活と、裏庭から見える軍港に浮かぶ戦艦大和が隣り合わせに存在する。そんな日常生活を営む主人公のすずさんは、多少おっちょこちょいでのどかな若奥さん。やがて、そんな普通の人々の上に爆弾が落ちてくることになって、それでも生活は続いてゆく、という物語なのですが、実は、ご飯を作っているあたりでもう感じ入ってしまいました。


――その時点でこうの史代さん(原作者)に連絡を? 
片渕監督:2010年夏に、こうのさんにアニメ化への思いを手紙に書きました。こうのさんのほうでも僕のそれまでの仕事を知っておられて、お互いに影響しあう関係であることが確かめられました。こうのさんは、日常生活の機微を淡々と描く僕の作品のことを、こうした作品を描きたいと思う前途に光るともし火、といってくれました。

でも、『この世界の片隅に』で今回は日常生活の対極に戦争が置かれています。それがかえって毎日の生活を営むことの素晴らしさを浮き上がらせています。アニメがテレビ放送されてから50年経ち、視聴する年齢層も高くなり、興味の内容も幅広くなっている。そうした観客を満足させられるものを作りたかったのです。自分がチャレンジするべき作品だと強く思いました。


konosekai-500-1.jpg――戦後71年の今年、公開される意義も大きいと思うが? 
片渕監督:今年の8月16日付け朝日新聞夕刊1面にこの映画の記事が載りました。原爆の日ではなく、終戦の日でもなく、その翌日に載ったことの意味は大きいと思います。戦争は終わっても、人々の毎日の営みは終わらない。生活は続いていきます。映画制作中に東日本大震災が起き、普通の生活が根こそぎひっくり返ってしまう、まるで昭和20年の空襲と同じようなことを経験しました。苦境にあえぐ人々がいれば、また彼らを救おうとする動きもありました。そうした人の心は空襲を受けた当時にもありました。たくさんの資料をリサーチする中で当時の人たちの気持ちがよく分かったんです。

あの時代のことはテレビや映画でいっぱい見ているつもりになっていますが、そうした時代を描く記号になっている女性のモンペだって、戦争中期まではほとんど履かれてないんですね。理由は簡単で、“カッコ悪い”からというのでした。素直に納得できて、あらためて当時の人々の気持ちが実感されてくるととても新鮮な感じがしました。『この世界の片隅に』は、そんなふうに当時の人々の気持ちを、今ここにいる自分たちと地続きなものとして捉え直す物語です。


――監督は当然、戦争体験はない。こうした戦争時代の映画を作るのはなぜ? 
konosekai-di-2.jpg片渕監督:私は昭和35年生まれなので、昭和30年くらいまでならば思い浮かべることが出来る。けれど、その10年前の戦時中の世界とのあいだには断絶があるように感じられた。でも、本来は“陸続き”なんです。ひとつひとつ”理解”の浮島を築いていって、この時代に踏み入り、やがて気持ちの上で陸続きなものとしていってみたい。そんな冒険心がありました。すずさんがその道案内です。


――すずの声はアニメ映画初出演ののんちゃん。「少しボーっとした、健気でかわいい」イメージ通り!ぴったりでしたね?
片渕監督:試写を始めると同時に彼女の評価が高まりましたね。彼女は、収録に先立って“すずの心の奥底にあるものは何ですか?”と問うて来ました。彼女は表面的にも面白く演じ、でもそれだけでなく人物の根底にあるものから理解した上ですずさんを作り上げようとしたのです。


――劇場用アニメは2000年『アリーテ姫』、2009年『マイマイ新子と千年の魔法』以来、3作目だが“やり終えた”感が大きい?
片渕監督:映画とは観ていただいた方の心の中で完成するものだと思っています。本当の満足は映画が多くの方々に届くはずの“これから”ですね。


 
konosekai-500-2.jpg★アニメ映画『この世界の片隅に』

 
第13回アニメ芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代原作を、片渕須直監督が劇場版映画にした素朴な珠玉のアニメ。「少しボーッとした」かわいいヒロインすずを女優のん(本名 能年玲奈)がアニメ初出演で好演。


1944年(昭和19年)、すず(のん)は18歳で呉にお嫁にくる。世界最大と言われた「戦艦大和」の母港で、すずの夫・北條周作も海軍勤務の文官。夫の両親は優しく、義姉の径子は厳しいがその娘の晴美はおっとりしてかわいい。配給物資が減っていく環境の中、すずは工夫を凝らして食卓を賑わせ、服を作り直し、時には好きな絵を描く。ある日、遊郭に迷いこんだすずは遊女リンと出会い、巡洋艦「青葉」水兵になっていた小学校の同級生・水原哲とも出会う。
 

苦しいながらも穏やかな暮らしが3月の空襲で破られる。そして、昭和20年の夏。8月6日へのカウントダウンが始まる。広島の隣町の、呉ですずは戦火をどう潜り抜けるのか…。ほのぼのとした穏やかな絵に滲むスリリングな予感が見る者を釘付けにする。
 


◆片渕須直監督(かたふち・すなお) 1960年8月10日、大阪・枚方市生まれ。

アニメーション監督、脚本家。日大芸術学部映画学科でアニメーション専攻。現国立東京芸術大学大学院講師。在学中に特別講師として来た宮崎駿監督と出会い、1989年宮崎作品『魔女の宅急便』の演出補に。その後、虫プロの劇場用アニメ『うしろの正面だあれ』の画面構成を務めた。1998年『この星の上に』はザグレブ国際アニメーション映画祭入選。1999年アヌシー国際アニメーション映画祭特別上映。2002年『アリーテ姫』東京国際アニメフェア長編部門優秀作品賞。2009年『マイマイ新子と千年の魔法』オタワ国際アニメーション映画祭長編部門入選。

 

(安永五郎)

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喪失は失った後が長く、一生付き合っていくもの。
『永い言い訳』西川美和監督インタビュー
 
『蛇イチゴ』(03)、『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)と、コンスタントに優れたオリジナル脚本による作品を作り続けている西川美和監督。4年ぶりの最新作『永い言い訳』は、『おくりびと』(08)以来7年ぶりの主演となる本木雅弘と初めてタッグを組み、歪んだ自意識を持つ売れっ子小説家、衣笠幸夫が妻の事故死をきっかけに、改めて妻のことを知り、大きすぎる名前(鉄人の異名を持つ元広島カープの名選手、衣笠祥雄と同姓同名)の自分を受け入れ、そして生きる姿を丁寧に描いている。
 
同じく事故で妻を失った正反対の性格の陽一(竹原ピストル)やその家族とのふれあいを通じ、被害者同士がいつしか疑似家族のようになる姿や、亡くなった後に知る妻の真実に動揺する姿など、簡単に言い表せない複雑な心境を本木らが体現。スーパー16ミリで撮影された映像の豊かなニュアンスを味わい、かつ観終わっても後々カウンターパンチのようにじんわりと効いてくるヒューマンドラマだ。本作の西川美和監督に、本木さんに託した主人公幸夫の狙いや、現場のエピソード、撮影面のこだわりについて、お話を伺った。
 

■崩壊がクライマックスではなく、崩壊が前提の話を作る。 

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―――理不尽な別れの後、それでも生きていかなければいけない人々の物語ですが、なぜこのタイミングで、この物語を描こうとしたのですか?
西川監督:アイデア自体は東日本大震災の年の暮れぐらいに思いついていました。ただ振り返ってみると、今までは一見平穏な関係性やうまくいっているものが、何かのきっかけでほころびはじめ、本質がむき出しになり、最終的には崩壊する。でもその崩壊が、もしかすれば新しいスタートかもしれないという物語を作ってきました。でも崩壊のその後が、崩壊に向かうプロセス以上に困難なのではないか。年齢を重ねるごとにその思いが強くなってきました。震災以前にも、私自身も色々な人との別れがありましたが、自分の人生がそれで終わりではなく、失った後が非常に長いのです。喪失は、克服すると簡単にいえるものではなく、一生付き合っていくもの。だから、崩壊がクライマックスではなく、崩壊が前提の話を作ろうと思いました。
 
―――曲がった自意識や弱さを持つ主人公幸夫に監督ご自身を投影させたとのことですが、なぜあえて主人公を男性にした
西川監督:私は男性の主人公を書くことが多いのですが、今回特に自分自身の実感も含めて、思い切って色々なことを告白していかなければいけないと思っていました。その際に女性を主人公にすると、私の生き写しのようになってしまい、逆に少し躊躇してしまう。「これは監督、あなた自身の話ですよね」と言われるのは恥ずかしいのです。そこで、いい格好をしたり、良く見せようとしないために、異性の仮面を借ります。その方がむしろ大胆に切り込め、主人公もいじめられますから(笑)。私の”恥”を本木さんに演じていただきました。
 
 
 

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■顔がいいがために自意識が肥大する気の毒な男を、本木さんにはコミカルに演じてもらいたかった。

―――幸夫役は最初から本木さんと決めていたそうですが、その理由は?
西川監督:周防正行監督の『シコふんじゃった。』(92)を見させていただいた時から、若い頃の本木さんは華のある二枚目にも関わらず、クールさだけではない、どこかコミカルで、困難に立ち向かって七転八倒する主人公がよく似合う方だと感じていました。そういう意味で、溌剌とした二枚目の活劇が書ければいつかご一緒したいと思っていました。今回は、「顔が良すぎるところが幸夫の運の尽き」。つまりもっと平凡な容貌なら楽に生きられたかもしれないのに、幸か不幸か綺麗な容貌に生まれついたばっかりに、外見とは裏腹な中身の平凡さや醜さとのギャップにつまずき、ますます自意識が肥大してしまった気の毒な男の話でしたから、二枚目に演じてもらわなければならない。そして、本木さんにもう一度、若い頃のコミカルさを演じてもらいたかったのです。
 
―――本作の撮影は一年にも及んだそうですが、本木さんとどのように幸夫を作り上げていったのですか?
西川監督:本木さん自身の性格が本当に幸夫とダブっていて、それこそ虚実ない交ぜになるというか、映画の中の登場人物が、本当に私にあれやこれやと毎日質問してきている感じです。「あなたのことばかり、見ている訳にはいかないですよ」と思いながら(笑)。でもこれだけ人間の隠しておきたい欠点のようなものを前面に出さなければならない役でしたから、そういう新しいものに挑戦している興奮もあるかと思います。きっとご本人はしんどいところもあったでしょう。私は本木さんの中の”本木さんらしさ”が出れば、この映画はすごく真実味のあるものになると思っていました。
 
―――本木さんご自身も、幸夫に似ていると感じていたのでしょうか?
西川監督:本木さん曰く「私自身は幸夫よりもっとねじくれていて、救いようのないパーソナリティ。でも映画はどんなにねじ曲がった主人公であろうと、どこかお客様にエールを送ってもらいながら見ていただかなくてはならないもの」。だから、どの程度自分を見せればいいのかを悩みながら、演じてくださっていました。
 
 
 
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■自分以上にこの作品のことを心配してくれている人間がいるということに、深いところで支えられた。

―――自分をさらけ出すさじ加減が難しい役に挑まれたのですね。
西川監督:私も色々な俳優の方と仕事をしてきましたし、どの主演俳優からも助けらてきましたが、撮影期間が長かったこともあって、中でも本木さんとは本当によく話し合いました。主演俳優が監督以上に作品に熱中し、我が事のように悩み、七転八倒してくれるというのは、監督にとってこれほど孤独から解放されることはない。自分以上にこの作品のことを心配してくれている人間がいるということに、深いところで支えられてきたと思います。
 
―――深津絵里さん演じる妻、夏子は冒頭しか登場しませんが、夏子の言うことなすことを、幸夫が否定的な言葉で返し、夫婦関係を浮かび上がらせています。その会話の機微に惹きこまれましたが、どころからアイデアを得ているのですか?
西川監督:両親が不仲ですからね(笑)。相手を傷つけようとする言葉ではなかったはずが、一度ボタンをかけ違えるとゴロゴロ転がり続ける夫婦の会話を子どもの頃から見てきたからではないでしょうか。男女のコミュニケーションのかけ違え方のパターンを会得した気がします。でも、根底には甘えがあるでしょう。相手はずっとここにいてくれるし、どれだけ傷つけても自分の味方に違いない。そう思っているから、幸夫はあのような言葉を言い放つことができる。その日常が何かの力で奪われるという想像力を働かさない人間の性質が出ればと思い、書きました。
 
 

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■カメラが回っていないところでの出演者たちの気持ちの繋がり、子どもたちとの関係性に嘘がなかった。

―――夏子と一緒に事故で亡くなった友人、ゆきの夫陽一を演じる竹原ピストルさんも、はまり役でした。幸夫とは正反対のキャラクターとして登場し、本木さんが心血を注いだ幸夫を受け止めるような演技が光っています。
西川監督:実生活でも本木さんとは真反対の生き方、性格の人を探しました。竹原さんと本木さんは外見的にもその人生も全然違いますし、地球の裏側に連れていっても全然違うように見える人が良かったのです。竹原さんとお会いすると、実際は大宮陽一よりもずっと繊細で言語的。そして、人も羨むような魂のストレートさがある方でした。本木さんが「今まで培ってきた技術では太刀打ちできない、どうしよう!?」と思うような人がいいなと思っていましたし、実際そういう面もありましたが、一番良かったのは本当に水と油のようでありながら、本木さんが竹原さんのことを本当に眩しいと思い、憧れ、好きになってくれたことです。
 
―――中盤、幸夫と陽一一家が疑似家族のようになります。大事な家族を亡くして傷ついていながらも続く日常に、一時的とはいえ幸せと感じる瞬間を映し出していますね。
西川監督:子どもたちも含めて、本当に幸福感がある4人でした。ずっと4人で一緒にいるのではないかというぐらいでしたし、カメラが回っていないところでの出演者たちの気持ちの繋がり、子どもたちとの関係性に嘘がなかった。単に撮影だからセットにやってきて、仲が良さそうに芝居をし、カットがかかれば別々の部屋に収まるような雰囲気ではなかったんです。映画という作りものを越えたところで、こちらが指示したわけでもないのにキャストの皆さんが子どもたちも交えて親しみのある雰囲気を作ってくれていた。それがとても良かったと思います。
 
 
 
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■監督5作目で、本当にやりたいことを主張。スーパー16ミリのフィルム撮影を実現。

―――海辺で4人が水遊びをするシーンはファンタジーかと思うぐらい気持ちがほぐれる映像でした。今回は16ミリで撮影されていますが、その狙いは?
西川監督:今回は私にとって5作目になりますが、本当にやりたいことを「やりたい」と言ってみよう。当然お金がかかるので、色々なしがらみもありますが、しがらみを「しがらみだ」と思いこむ癖がだんだんついてしまっていたのです。しがらみを取り払う努力もせず、あると思いこもうとしている自分がいることに、キャリアを重ねながら気づいていたので、やりたいと思うことを一度主張してみよう。ダメなら別の方法を考えようと。
 
―――その「やりたいこと」が、16ミリのフィルム撮影だったのですね?
西川監督:3年前の当時はデジタルが台頭し、フィルム版が残らないのではないかと言われている時期でした。私のような作品ペース(3年で1作品)で制作している者からすれば、この機会を逃せば次回作の時にフィルムが世界から無くなっているかもしれないと思ったのです。当初から今回は長期間の撮影を想定していたので、人件費や機材費の問題を考えるとスーパー16ミリを使ったコンパクトな撮影体制をとり、小さなスタッフでしっかりスクラムを組み、長期間取り組んでいく。かつ子どもたちという予測不可能な行動をするキャストがおり、団地という狭い場所で撮らなければならない。今、撮れそうだからフィルムを回そうという時に、35ミリの40人という大所帯体制ではスタンバイに時間がかかり、撮りたいものを逃してしまいますから。今回は、撮りたいときにスッとカメラを構え、しかも手持ちができるものが最適でした。
 
―――今回西川監督は、長編ではじめて是枝監督作品の常連カメラマン、山崎裕さんを起用しています。
西川監督:私が映画界に入ったきっかけは是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(99)だったのですが、そのカメラマンがスーパー16ミリで撮影していた山崎さんでした。90年代のインディペンデント映画は、まだデジタル撮影が普及する前で、スーパー16ミリを使うことがとても多く、私にとってはとても馴染みのある機材だったのです。そして、山崎さんは私が初めて見たプロのカメラマンで、今まで身内のように親しくして来てもらいました。山崎さんは長くドキュメンタリーを撮っておられるので、今目の前で起きている物事に対してとても敏感でフットワークの軽い人。いざというときに、手持ちで自由に、カメラマンの直感で撮ってもらえる人がいいなと思い、山崎さんにオファーしました。
 
 
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―――本作では子どもの演出にもチャレンジされています。陽一の娘、灯の台詞は、重くなりがちなシーンをビシッと締め、観る者もハッとさせられましたが、台詞の演出はどのようにされたのですか?
西川監督:言わなければいけない台詞がある場面とない場面の段差がつかないように、心がけました。大人の俳優もそうですが、訓練された子役は、台詞があるとアドリブ部分との段差がついてしまいます。まだ演技なのか演技でないのか境目のない子どもの方が、より自由でいられます。灯役の白鳥玉季ちゃんは、自由に虚実を行き来していましたし、大人がびっくりするぐらいに全部状況を把握していました。でも、映画の現場は初めてですから、集中力が毎日必ず途切れてしまい、コンディションが悪くなればあちこちうろうろして、ただそこに座っているだけのお芝居もできない。これが子どもなんだと、私も実感しましたし、逆に「灯をちゃんと撮ろう」とチームが一丸となった気がします。

 

■人間の感情は複雑。人生経験を重ねれば重ねるほど、枠にはめられない感情が深くなる。

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―――幸夫がテレビカメラの前で嘆き悲しむふりをしたり、陽一の目に思わず涙があふれたり、陽一の息子、真平が泣きたくても涙が出なかったりと、「泣く」という行為が何度も描かれています。これらのシーンに込めた思いは?

西川監督:人間の感情は、本当はとても複雑です。人生経験を重ねれば重ねるほど、枠にはめられない感情が深くなっていくのですが、色々な状況下で”役割”を与えられます。あるべき感情を持たなければ人間的ではないと言われ、ますます窮屈になっていき、嘘の感情を露わにしなくてはいけない。本作は「妻が死んで一滴も涙を流せなかった男」という謳い文句ですが、それは悲しんでいないわけではないと私は思っています。いかに人間の感情が複雑で、自分自身のコントロールが効かない、御しがたいものであるかということも、私が描きたかったことの一つですし、悲しみの深さは涙の量で測られるものではない。私はそう思っています。

(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 
 
 
 

<作品情報>
『永い言い訳』(2016年 日本 2時間4分)
脚本・監督:西川美和 
原作:西川美和『永い言い訳』 (文春文庫刊) 
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里他
2016年10月14日(金)~TOHOシネマズ梅田他全国ロードショー
公式サイト⇒http://nagai-iiwake.com/ 
(C) 2016「永い言い訳」製作委員会
 

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宮沢りえ、「はっぴ姿には自信がある」余命2ヶ月の肝っ玉母ちゃんを熱演。
『湯を沸かすほどの熱い愛』先行上映会舞台挨拶
登壇者:中野量太監督、宮沢りえ(16.10.6 梅田ブルク7)
 
日本映画界にまた頼もしい才能が誕生した。前作『チチを撮りに』(12)が海外の映画祭でも高く評価された京都出身の中野量太監督。10月29日(土)に全国公開される最新作『湯を沸かすほどの熱い愛』で『紙の月』(14)の宮沢りえとタッグを組み、見事商業映画デビューを果たす。
 
 
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宮沢が演じるのは、余命2ヶ月の宣告を受けた幸野双葉。夫、一浩(オダギリジョー)が1年前に家を出た後、家業だった銭湯、幸の湯は休業状態。娘の安澄(杉咲花)が学校で問題を抱えているのを励ましながらつつましく暮らしていたが、残りわずかの人生で出来ることを考えた末、夫の所在を突き止めてその愛人の子ども共々連れ戻し、幸の湯を再開させることを決意する。いじめに遭っていた安澄に闘う勇気を与える双葉。だが死ぬまでに安澄に伝えなければならないことは、それだけではなかった…。
 
中野監督によるオリジナル脚本は、家族の物語に一筋縄ではいかない展開を盛り込み、命が限られた人間の葛藤や、過去の過ちに対する自責の念、弱い自分を克服しようと奮闘する姿を各キャラクターに託している。スクリーンから思わぬパワーが伝わってくる、まさに“湯を沸かすほどの熱い愛”に包まれた作品だ。
 
一般公開を前に10月6日(木)梅田ブルク7にて行われた先行上映会では、中野量太監督と、主演の宮沢りえが上映前の舞台挨拶で登壇。故郷への凱旋試写会となった中野監督と、中野監督の脚本に惚れ込んだという宮沢りえの同い年コンビが、作品への愛や、アツかった撮影現場を振り返るトークを繰り広げた。その模様をご紹介したい。
 

(最初のご挨拶) 

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宮沢:みなさん、暑い中お越しいただいておおきにです。この作品は同い年の中野量太監督と撮りました。同世代で、こんなに素晴らしい脚本を書く監督がいることを知ることができたのは、私の宝です。そしてこの物語の中で思いを交わしあった共演者のみんな、スタッフをすごく誇りに思いますし、そこで交わした思いは未だに私の中で熱を帯びている気がします。どうぞ、楽しんでください。 
 
中野監督:脚本、監督をしました中野量太です。僕は京都出身なので、こうして関西で試写会を開くことができ、とてもうれしいです。しかも理恵さんを連れて帰ってくることができました。映画のことを少しお話すると、面白い脚本を書けば映画が撮れるのではないかという気持ちで、全くのゼロベースで脚本を書きました。この話で一番重要な母親役を誰がやるかという時に、宮沢さんが脚本を読んでくれ、新人監督のしかもオリジナル脚本に出演すると言ってくれたのです。理恵さんが出演を快諾してくれたおかげで、この映画は一気に動き出しました。その後は、自分の思いを全部込めて、込めて映画を作り、いつの間にか理恵さんとこの場にいた感じです。(宮沢が「イエイ~」とハイタッチ)。楽しんでもらえればと思います。 
 

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―――なかなか日本映画でオリジナル脚本の作品は少ないですが、最初に読んだときの感想は? 
宮沢:大体作品をオファーされると、最初に自分が演じることを重ねながら脚本を読むのですが、この本は読み進めるうちに、どんどん双葉という役に自分の思いが入っていきました。タイトルにも含まれていますが、本当に衝撃的なラストシーンを読んだときには、心にも体にも鳥肌が立ちましたし、なかなかこんな作品に出会えないぞという気持ちがありました。 
 
ただ余命を宣告された女性の役なので、悲劇的に作ることもできれば、ドライに作ることもでき、そこは監督にお会いしてみないと分からない。私はあまりウェットな悲劇のヒロインにはなりたくなかったので、その気持ちが監督と共有できれば、ぜひ演じたいと思いました。監督と初めてお会いして、その気持ちが共有できたので、その場でOKしました。 
 
中野監督:代官山のツタヤでしたね。めちゃくちゃうれしかったし、何か強い縁があり、絶対この役は宮沢さんがやってくれると思っていましたから。でも、半分はダメかもと思っていましたよ。 
 
宮沢:そんな弱気な感じは全くなかったですよ!最初からかなり強気で・・・。 
 
中野監督:会って断られるほど辛いことはないですから。必死で思いを伝えました。そのときに宮沢さんが「双葉役は聖母になったら絶対にダメだよ。普通にそこら辺にいるお母ちゃんが余命2ヶ月で下した決断は、自分のことより家族をなんとかしたいという思いだよね」とおっしゃって。正にその部分を共有できたのが、とても良かったです。 
 
 
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―――宮沢さんが演じる双葉は、肝っ玉母ちゃん役でしたね。 
宮沢:幸の湯という銭湯の話ですが、はっぴを着ました。かなりはっぴ姿には自信があります。この物語の中で双葉を生きていたときには「これほどはっぴが似合う女はいないぞ」と鏡を見ながら思っていました。 
 
―――銭湯の掃除をするシーンもありましたが、実際に練習したそうですね。 
中野監督:一度は経験してほしかったので、ロケで使わせていただいた銭湯で練習しました。 
宮沢:カネヨンというパウダー状の洗剤を使って、その銭湯の方が「こうやってやるのよ!」と熱心に指導してくださり、すごく楽しかったです。 
 
 
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―――幸野家は父や娘のいる家族ですが、家族間の撮影中の感じはどうでしたか? 
宮沢:娘役の杉咲花ちゃんとは撮影に入る前に連絡先を交換しあい、撮影当日まで毎日作品とは関係のないことを交換しあっていました。そこでは敬語もやめて、お母ちゃんと呼んでもらうようにしたので、撮影に入る頃には密度の深い関係が出来ていて、親子役をするのにいいエネルギーになりました。 
 
夫役のオダギリジョーさんは、私がいつか共演してみたい俳優さんでしたし、脚本を読む力がとてもある方でした。役者は格好良く見られたいと、一瞬でも思ってしまうものですが、この物語の中のオダギリさんはダメ男です。そこに徹していて、最後はとても素敵になりますし、そのバランス感覚に感動しました。 
 
 
―――俳優は絶対格好いいシーンをやりたいものですが、オダギリさんとはどんなやりとりをしたのですか?
中野監督:オダギリさんに会ったその日から、「今回格好良かったら負けですからね」と言ったのですが、実際はやはり格好良くて。これが格好良く見えなくなるのは難しいなと思ったのですが、一歩間違えばただのダメ男をちゃんと憎めないダメ男に演じてくださったのは、オダギリさんの力です。
 
 
―――それでは、最後のご挨拶をお願いします。
中野監督:どんな作品か、まずは観てください。自信があります。宮沢りえさんも、とてもとてもいい演技をしてくれました。脚本を書いても、自分の想像を超える芝居はなかなかなくて、自分の頭の中で想像している方が面白いのですが、今回の映画は見事に僕の想像を超える芝居をしてくれるメンバーが集まり、何度も僕は現場でアツくなって、たまらない思いをしました。その思いがこの映画の中に映っていると思います。ぜひ、楽しんでください。
宮沢:この撮影で命に限りがあるということを覚悟した双葉という役を演じ、命があって、呼吸ができて、日常があるということは決して当たり前ではなく、奇跡の積み重ねです。そう思うと人と会ったり、暮らしたりすることがとても大事なことに思えました。そういうことがこの映画から滲んでほしいし、観て下さった方が、自分の持っている日常や愛する人や大切な人を、心から「大切」と思えるようなきっかけになればいいなと思います。どうぞ、楽しんでください。
 
(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 

<作品情報>
『湯を沸かすほどの熱い愛』
(2016年 日本 2時間5分)
脚本・監督:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼、松坂桃李、オダギリジョー
2016年10月29日(土)~新宿バルト9、梅田ブルク7、他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://atsui-ai.com/
(C) 2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
 

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本木雅弘って、「面倒くさい」男!?『永い言い訳』大阪舞台挨拶
登壇者:西川美和監督、本木雅弘
(16.10.5 TOHOシネマズ梅田別館アネックス)

 

~本木雅弘は、撮影後も自分の演技を監督に確認したがる「面倒くさい」男!?~

『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)とコンスタントにオリジナル脚本による優れた人間観察の作品を作り続けてきた西川美和監督。『おくりびと』以来7年ぶりの主演となる本木雅弘と初めてタッグを組んだ4年ぶりの最新作『永い言い訳』が10月14日からTOHOシネマズ梅田ほかで全国公開される。
 
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歪んだ自意識を持つ売れっ子小説家、衣笠幸夫(本木雅弘)が妻の事故死から再生するまでを、同じく事故で妻を失った正反対の性格の陽一(竹原ピストル)やその家族とのふれあいを絡めながら描写。スーパー16ミリで撮影された映像の豊かなニュアンスや、被害者同士がいつしか疑似家族のようになる関係性など、喪失感と共に、それでも生きていく人々を丁寧に綴ったヒューマンドラマだ。
 
TOHOシネマズ梅田別館アネックスで10月5日(火)に行われた先行試写会では、上映前に西川美和監督と主演の本木雅弘が登壇し、大ヒット祈願の舞台挨拶が行われた。
 

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主人公幸夫のキャラクターにちなんで今も引きずっているコンプレックスを聞かれた本木は、「数え切れないほどある。スポットライトを浴びているのに責められている気分だし、自信があるのかないのか自分でも所在がわからない。簡単に言えば自意識過剰。あまのじゃくのところも(幸夫に)似ている」。ただ、いざ演じるとなると「自然のままでというものではない。今まではコスチュームに助けられていたが、今回はお尻を見せる無防備さで、どれだけカメラの前でカメラを意識せずにいられるか努力した」と自らをさらけ出す新しいチャレンジに挑んだことを明かした。
 
一方、本木を起用した感想について西川監督は「タイトル通り、”言い訳の多い”方だった(笑)。二枚目だけどどこかコミカル。近年の役は近よりがたい雰囲気のものが多かったが、この撮影では色々な欠点を余すところなくさらけ出してくれ、人との垣根がない方だった。人として親近感を覚えた」。そんな本木の言い訳とは「いまだに『あのシーンはどこが悪かった?』、『本当はどう思っているの?』と聞いてくる。面倒くさいでしょ?」と西川監督が暴露し、会場は大爆笑。
 
 

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主人公の名前を往年の広島カープの名選手で鉄人の異名を持つ衣笠祥雄(きぬがささちお)と同姓同名にしていることについて、カープファンでも有名な西川監督は、「大きすぎる名前を背負った男という設定で、自分が生まれもったものを背負っていくことができない、いつまでも幼稚な男を描きたかった」とその意図を明かした。また共演した陽一役の竹原ピストルについて、本木は「この共演で初めて出会ったが、自分がしばらく出会うことのなかった魂の純粋さを持った人」と絶賛。「自分とは対比のある竹原さんと出会うことで、映画の中で幸夫を重ねることができた。今は僕の方が竹原さんに熱を上げていて、明日は竹原さんがライブをしている名古屋で舞台挨拶があるので、ライブに行ける!」と追っかけファンのように目を輝かせて語ると、西川監督も「お互いの持っていないものに対し、やわらかにリスペクトし合う関係」と映画にとてもいい効果を与えたことを付け加えた。
 

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本作は一年をかけて撮影されたが、季節の移り変わりをカメラに収めるだけでなく、関係者同士の絆が濃くなり、特に陽一の子ども、真平役の藤田健心君や、灯役の白鳥玉季ちゃんの一年間の成長ぶりは素晴らしかったと2人揃って絶賛。役柄では子どもがいない男を演じた本木が待ち時間に子役たちの遊び相手となって現場の雰囲気を作ったり、撮影終了後も竹原が「お父ちゃん」と呼ばれたエピソードを披露し、映画でも垣間見える疑似家族のような温かい関係は、撮影中の現場の雰囲気がそのまま映し出されたものであることを、西川監督がしみじみと語った。
 
最後の挨拶では、
「他のエンターテイメント映画と比べると、劇的な展開があるわけでもないけれど、その中に時間の積み重ねからしか分からないものを感じてもらえれば」(本木)
「耳よりの情報があります。4年ぶりの新作なので、何もかも丁寧に作りました。劇場で販売するパンフレットも特別寄稿で内田也哉子や小説家の長嶋有さんからの特別寄稿や、幸夫に扮した本木さんが撮影後幸夫に関して語るDVD、劇中のアニメ『ちゃぷちゃぷローリー』のシナリオ完全版もつけて1000円で販売しているので、是非もう一度公開後に劇場で鑑賞し、パンフを買って帰って幾通りにも楽しんでください。今日はありがとうございました」(西川監督)と熱弁を振るった。
 
7年ぶりの主演、しかも自らの欠点をさらけ出しての演技を全編に渡ってみせた本木雅弘はいつになく緊張の面持ちも見せながら、「(映画を見て)悪かったら、どこが悪かったとしっかり伝えて」と、本作にとことん向き合っていることを感じさせる舞台挨拶だった。西川監督も、観客の反応が楽しみで仕方がない様子。「大阪のお客さんは上映後のトークショーでも、まずは何も考えていなくても我先に手を上げ、一発ボケて場を和ませてくれる。本作でもまたQ&Aの機会をぜひ設けてほしい」と語ってくれた。観た後からじわじわとカウンターパンチのように効いてくる作品。鑑賞後は、誰かと家族や大事な人について語りたくなることだろう。
(文:江口由美 写真:河田真喜子)
 

<作品情報>

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『永い言い訳』
(2016年 日本 2時間4分)
脚本・監督:西川美和 
原作:西川美和『永い言い訳』 (文藝春秋社)
出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里他
2016年10月14日(金)~TOHOシネマズ新宿、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、OSシネマズミント神戸他全国ロードショー
公式サイト⇒http://nagai-iiwake.com/
(C) 2016「永い言い訳」製作委員会
 
 
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