原題 | Hampstead |
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制作年・国 | 2017年 イギリス |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | ジョエル・ホプキンス |
出演 | ダイアン・キートン、ブレンダン・グリーソン、レスリー・マンヴィル、ジェイソン・ワトキンス、ジェームズ・ノートン、アリステア・ペトリー、フィル・デイヴィス他 |
公開日、上映劇場 | 2018年4月21日(土)~シネ・スイッチ銀座、4月28日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、5月5日(土)~シネ・リーブル神戸、順次~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~ひょんなことから出会った熟年男女の、サプライズな幸せのカタチ~
ダイアン・キートンは、私の大好きな女優さんだ。何といっても、アカデミー賞主演女優賞に輝いた『アニー・ホール』(ウディ・アレン監督・1977年)での存在感と魅力のオーラは飛び抜けていて、これまで何度も観たし、今でも大切な映画の一本だ。1946年生まれなので、70代になったが、キュートな容貌はあんまり変わらない(どアップで映されると、それなりの年輪を感じさせるが、御本人は問題視していないようで、そこがまた気に入っている)。そのアニーの40年後といってもいいような、似たキャラクターを持っているのが本作の主人公だ。
映画は、ホームレスの男性が一夜にして資産家になったという実話をもとにしている。アメリカ人の未亡人エミリー(ダイアン・キートン)は、ロンドン・ハムステッドの住宅街にある高級マンションに住んでいるのだが、彼女の悩みは尽きない。問題ありの夫が遺した借金のせいで貯金は減っていく一方。先行き不安だが、口うるさくおせっかいな隣人にも笑顔のベールを被って日々暮らしていた。
そんなある日、たまたま屋根裏部屋で見つけた古い双眼鏡をヒースが生い茂る公園に向けていたら、気になる男を発見!それは、公園内に手作りの小屋を建て、17年間もそこに住んでいるホームレスのドナルド(ブレンダン・グリーソン)だった。野生児のような彼の生き方はエミリーにとって新鮮だったが、彼の事情を知り、思わぬ闘争に関わることになる…。
まるで違う人生を歩んできたふたりが、少しずつ近づき、お互いに大切な存在となっていく。恋に年齢や境遇は関係ない(世間は大いに関係あると思っているが)というのが、この映画が伝えたかったところだろう。お金に困っているエミリーと、立ち退きを迫られているドナルド、それぞれに不安や悩みを抱えているからこそ心と心が寄り添い、お互いに影響し合えたのかもしれない。だが、意地っ張りで頑固さを持つふたりだから、衝突や決別を招いてしまう。人はそう簡単に変われないのだと改めて思う。変わるためには、そして本当に大切なものを手にするには、捨て去るものが必要なのだ、と感じた結末だった。
『アニー・ホール』でも注目したが、ダイアン・キートンはホントにお洒落のセンスがいい。帽子のかぶり方、スカーフのアレンジの仕方…マニッシュな着こなしがとっても素敵で、それがよく似合っている。もちろん衣装さんの技なんだろうが、オフの時でもスタイリッシュな服装を選んでいるし、自分の好みでないものは拒否しそうな感じだから、たぶん御本人の嗜好が重視されているものと思う。
ウィットの効いた台詞が、年を重ねてきた男女の間に漂う空間に色をつけている。コメディエンヌとしてのダイアン・キートンの持ち味は、亡き夫のお墓の前でのシーンに特に現れる。また、エミリーに横恋慕するジェームズ(ジェイソン・ワトキンス)の気色悪さも笑いを誘う。
ちなみに、原題にもなっているハムステッドは、カムデン・ロンドン特別区にあり、都会とは思えない広大な公園ハムステッド・ヒースと、ハムステッド・ハイ・ストリートを中心とした緑の多いエリア。昔から文人に愛され、詩人のジョン・キーツも住んでいたという。ロンドンに原生林のようなこんな公園があるとは知らなかった。邦題は、ジョエル・ホプキンス監督の旧作『新しい人生のはじめかた』(2008年)を思い出させようという意図なのだろうが、気の利いたひねりが欲しかったなと思う。ともあれ、ふたりの名優が醸し出す妙味と、ほっと心が落ち着くような後味に惹かれる、熟年応援映画といってもいい。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.synca.jp/london/
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