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『ウイスキーと2人の花嫁』

 
       

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作品データ
原題 Whisky Galore! 
制作年・国 2016年 イギリス 
上映時間 1時間38分
原作 コンプトン・マッケンジー「Whisky Galore」 (1947)
監督 ギリーズ・マッキノン 脚本:ピーター・マクドゥガル
出演 グレゴール・フィッシャー、エリー・ケンドリック、ナオミ・バトリック、ショーン・ビガースタッフ、ケヴィン・ガスリー、エディ・イザード、ジェームズ・コスモ
公開日、上映劇場 2018年2月17日(土)~テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、以降 京都シネマ 他全国順次公開

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ウイスキーを満載した貨物船が座礁……、さぁ、どうする!?

 

ぼくは、正真正銘、映画好きの愛飲家です。お酒の中でも、とりわけウイスキーには目がありません。なにせ30年前、お酒の飲めない親戚から中元の品で回ってきたスコッチのシングルモルト(銘柄はグレンフィディック)を生まれて初めて口にした瞬間、全身に電流が走り、それを機にスコットランドの蒸留所へ。そこでライフワークの「ケルト文化」にめぐり会うことができたのですから、まさにウイスキーによって人生を変えさせられたようなものです。ほんま、単純な男ですわ~(笑)


takebe-tolk-500.jpgそんなわけで、映画に出てくるウイスキーがどうにも気になり、それらをエッセイ風にまとめた『ウイスキーアンド シネマ 琥珀色の名脇役たち』(2014年)とその第2弾『ウイスキー アンド シネマ2 心も酔わせる名優たち』(2017年)〈共に淡交社〉を上梓しました。本作はもろにウイスキーを題材にした映画! それも本場スコットランドの物語です!! いやが上にも期待度が高まりますねぇ。


スコットランドを舞台にウイスキーを扱った映画といえば、真っ先にケン・ローチ監督の『天使の分け前』(2012年)を思い浮かべます。そこではウイスキーが準主役的に描かれていましたが、こちらの方は、拙著のサブタイトルではありませんが、名脇役を披露しています。しかも実際に起きた海難事故をモデルにしているのが面白い。


whisky-S.S.ポリティシャン号.jpgその事故とは――。第2次世界大戦中の1941年2月5日、スコッチ・ウイスキー5万ケース(約26万本)を積んだ英国の貨物船S.S.ポリティシャン号がリバプールを出港し、ニューヨーク経由でジャマイカへ航行中、スコットランド西部のアウター・ヘブリディーズ諸島にあるエリスケイ島の沖で座礁したのです。本来、そんな北回りのコースではないのですが、ドイツの潜水艦Uボートが出没していたので、あえて遠回りしたのが災いとなりました。


乗組員は全員、救助されました。しかし気がかりなのは船内にある膨大な量のウイスキー。沈没したら、すべてがパア~。わぁ、もったいない! そう思った島民たちが一致団結して、あっと驚く行動に打って出ました。もうこれ以上は書けません。ぜひ映画をご覧ください。


whisky-500-5.jpgちょっと信じられない話なんですが、ほんまにあった出来事です。確かにドラマチックな話とあって、コンプトン・マッケンジーというスコットランド人作家が『ウイスキー・ガロア』という小説に著しました。題名は「ウイスキーがいっぱい」という意味。1949年に映画化されました。日本未公開なので、ぼくはそれをスコットランドの宿屋で観させてもらいました。そのリメイクが今回の映画です。


whisky-500-1.jpg本作ではエリスケイ島ではなく、トディー島という名になっています。戦時下の統制でウイスキーの配給が停止し、島民がイライラしているところへウイスキーを満載した貨物船ミニスター号が座礁するという筋書きです。そこに郵便局長の2人の娘の結婚話と英王室の重大な秘密を絡ませ、終始、コミカルに綴られています。婚約のパーティーではウイスキーを振る舞うのが慣わしなので、「ウイスキーなしじゃ、結婚は無理」というセリフが飛び交います。全体的に落ち着いた品のある画調は英国喜劇そのもの。


whisky-500-2.jpg「ウイスキーは〈生命の水〉。島民には欠かせないもの」。冒頭、こんなナレーションが入り、ウイスキーが飲めない状況を「ノアの大洪水以来の惨事だな」と登場人物に言わせています。このように島民がウイスキー熱愛党であるといわんばかりに描写されていますが、実際、スコットランドのパブに行くと、客が飲んでいるのはビールばかり。ウイスキーはめでたい日や冠婚葬祭の日くらいしか口にしません。パブのバックバー(棚)もウイスキーのボトルがあまり置いてありません。日本のバーの方がはるかに充実しています!


whisky-当時のウイスキーを飲む島民.jpg映画の中で登場したウイスキーの銘柄は……。ハイランド・ブルー(Highland Bleu)、ハリス・マッカラム(Harris MaCallum)、グレンソイ(Gensoy)、オルノセイ(Ornosay)、カイレイグ(Cairaig)。どれもありそうな名前ですが、みなフェイク(ニセモノ)です。ホンモノを出すと、当時の旧ボトルを忠実に再現せねばならず、製作費が膨らむからなのでしょう。ウイスキー愛飲家は「うるさ型」が多く、ちょっとでも間違っておれば、すぐに文句をつけたがります(笑)


ちなみに、S.S.ポリティシャン号に積んでいたのはホワイト・ホース、デュワーズ、キングスランサム、バランタイン、アンティクァリー、ジョニ赤、ジョニ黒~(^_-)-☆ 今日でも流通しているポピュラーなブレンデッド・ウイスキーです。他にもピアノやバイクの部品も搬送していたようですね。


whisky-座礁事故のあった現場.jpg座礁事故のあったエリスケイ島。ちょうど20年前、ぼくはケルト紀行シリーズの第1弾『スコットランド「ケルト」紀行~ヘブリディーズ諸島を歩く』(彩流社)を書くため、辺鄙なアウター・へブリディーズ諸島を巡っている途中、その島を訪ねました。人口が約150人の荒涼とした島です。主な産業は漁業。スコットランドはプロテスタントが主流ですが、島民の大半がカトリックなので、墓地にケルト十字架(円環を組み合わせた十字架)がやたらと多かったです。年々、島民が流出している過疎の島……。でも、空気がめちゃめちゃ美味かった! 座礁現場は島の北部の狭い海峡でした。

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散策していると、ピート(草炭)を掘っている熟年夫婦と出会いました。スコッチ・ウイスキーは材料の麦芽(発芽した大麦=モルト)を乾燥させるとき、ピートを燃やすので、独特な薫香(スモーキー・フレーバー)がつきます。それがスコッチの最大の特色です。でもこの島にはウイスキー蒸留所がありません。そのことを夫婦に言うと、「これ、乾燥させて家の暖炉や湯沸かしに使うんです」。なるほど、ピートは無尽蔵にあるので、採り放題や。


whisky-島唯一のパブ「S.S.ポリティシャン」.jpg島に唯一あるパブの名は、ズバリ、「S.S.ポリティシャン」。店内にはその貨物船と当時のボトルを飲む島民の写真、さらに後年、沈没した船からウイスキーを運び出し、ひと儲けした人を取材した新聞記事が貼られていました。そして、あの時のボトルも!!!! 酒焼けした常連客のおじさんがニコニコしてそれを見せてくれました。蒸発したのか、かなり分量が減っています。「それ、ちょっとだけ試飲させてください。もちろん、お金を払いますから」。ぼくが必死で懇願するも空しく、「このウイスキーだけは飲ましまへん!」と頑なに断れました。ガックリ~( ;∀;)


まぁ、そんなわけで、この映画はすべてウイスキー尽くし。最後にシャレでこんなメッセージが出ていました。「撮影中にお酒は飲んでいません」。ハハハ。オモロイ、オモロイ!


(武部 好伸:エッセイスト)

公式サイト⇒ http://www.synca.jp/whisky/

© WhiskyGaloreMovieLimited2016

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