映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

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 2025 年 9 月 7 日(日)に ABC ホールにて第 21 回大阪アジアン映画祭が閉幕し、クロージング・セレモニーに続いて、シンガポール発ドラァグクイーンと家族の再生を描いた映画『好い子(原題:好孩子)』がクロージング作品として、世界初上映された。
 
 自分を拒絶した父の死をきっかけに、実家に戻ったドラァグクイーン阿好(アーハオ)。認知症の母、理解しあえない兄。バラバラになった家族を繋ぎとめたのは、とっさについた「私はあなたの娘」という嘘だった…。ドラァグクイーン姿の息子を“娘”と信じた認知症の母との時間が、過去を受け入れ、かたくなだった心をほぐし、本当の自分を見つけるまでの愛おしい時間になっていく様を鮮やかに描く一方、多様な家族の在り方を示したヒューマンドラマだ。
 
 上映毎に本作のワン・グォシン監督、ドラァグクイーンの主人公を演じたリッチー・コーさん、母親役のホン・フイファンさんが登壇し、それぞれが日本語で自己紹介をすると、会場はあたたかい拍手に包まれた。
 
 
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 ドラァグクイーンのアーハオの外見の美しさと内面の葛藤を演じたリッチー・コウさんは「肉体的、精神的にも非常にプレッシャーを感じた」と役作りについて語り、そうした中でワン監督、指導の先生に助けて頂いたことへの感謝を述べた。一方、本作でドラァグクイーンの息子を娘と思いこむ認知症の母親役を演じた名優ホン・フイファンは、この企画を知ったとき、「認知症だとしても、息子を娘と思い込むことなんかあるんだろうか」と疑問をもったと明かしながら、実在の人物の体験をもとに翻案した脚本を読み進める中で、いくつかの場面に感動し、この物語を受け入れることができたという、「役作りにも自然に入り込むことができ、素晴らしい作品に参加することができた」と喜びを語った。
新世代のシンガポール映画界を牽引する存在として注目を集めるワン・グォシン監督は、「観客の皆さんにもシンガポール映画からシンガポールなりの人間、家族のあたたかさ、やさしさを感じて頂けることを願っています」と挨拶し、笑顔で観客の拍手に応えた。
 
 
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 上映後のQ&Aでは、「この映画を観るのは2回目ですが、今も泣いています」(リッチー・コウ)、「今日初めて観ました。感じたことはみなさんと同じで、心から感動しました。撮影中は一生懸命役に没頭し、自分が別人のようになっていました。みなさんも人間への優しさを感じたのではないでしょうか」(ホン・フイファン)、「この映画は200回以上観ていますし、この会場でみなさんと一緒に見て、あちらこちらで泣き声が聞こえてきました。
ご覧いただき、本当にありがとうございました」(ワン・グォシン監督)と世界初上映の感想を明かした。
 
 本作の実話の部分、脚色した部分を聞かれたワン監督は、自身の親友、アーチェンさんの実話に基づいているとし、「映画でも描かれていますが、アーチェンさんの母がトイレで倒れたとき、彼がFBを使って助けを求める発信をし、私もその投稿を見たのです。その後彼と会い、どういう助けが必要なのかと話を聞いたところ、認知症を患っていることを知りました。母が認知症を患ってから周りの人の見方が変わってくるし、ドラァグクイーンも社会の底辺で生きてきたので周りの目線を気にしています。この母と息子の実話のうち、映画ではアーチェンの様々な要素を主要人物に分けて描くことで、アーチェンを表現しています」と回答。
 
 
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 また自身もゲイで母を認知症で亡くしたという観客から感想とともにドラァグクイーンの役作りや認知症の演技についての質問が寄せられると、リッチーさんは「自分自身のお話を我々と共有いただき勇気のある方だと思います。これからも前向きに暮らしてください」と語りかける一幕も。そんなリッチーさんは、役者が演技をするときは自分が演じる役柄、今回の場合は実在の人物、アーチェンさんに対してまず尊敬の念を抱かなければいけないとし、演技のバランスについても言及。「クランクインの1年前にアーチェンさんと知り合い、ずっと彼と行動をともにしたり、彼のパフォーマンスを見に行ったりするうちに、次第に彼への理解を深めていきました」と実在の人物を演じるための準備について語った。
 
 
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 一方、認知症を患う母を演じたホンさんは、普段患者の方がどんな行動をしているかを観察し、認知症患者特有の振る舞いや行動パターンを一生懸命研究したと明かし、「演技を強調しすぎると違う症状に見えてしまうので、監督に聞きながら細心の注意をし、平常心で普通の人間の暮らしの演技を心がけ、ところどころ認知症の行動パターンを取り入れました」と自身の取り組みを振り返った。
 
 
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 最後に、ドラァグクイーン役にリッチー・コーさんにオファーした理由を聞かれたワン監督は開口一番「リッチー・コーと出会っていなければ、多分この映画を撮らなかったでしょう」と断言。アーハオ役をキャスティングする際、役者の性的指向は全く念頭になく、5年間適した人を探し求めていたという。テレビドラマ『ユア・ワールド・イン・マイン』で、リッチー・コーさんが自閉症を患う青年を演じていたのを偶然見たワン監督はリッチーさんならこの役をできるとオファーしたと明かし「彼と出会えたのはわたしの福だと思っています」と笑みを見せた。ワン監督のコメントを受けて、リッチーさんも「逆にこの監督がいなければ、僕もこの映画に出演できなかった。同じですね」と応じ、鳴り止まない拍手に笑顔で手を振った。
(江口由美)
 

 
<作品情報>
『好い子』 世界初上映 World Premiere
2025年/105分/シンガポール
原題:好孩子/英題:A Good Child
監督:ワン・グォシン (ONG Kuo Sin/王國燊)
出演:リッチー・コー(Richie KOH/許瑞奇)、ホン・フイファン(HONG Hui Fang/洪慧芳)、ジョニー・ルー(Johnny LU/路斯明)、チャーリー・ゴー(Charlie GOH/吳清樑)、シェリル・チョウ(Cheryl CHOU/周智慧)
 
舞台挨拶写真:(C) OAFF EXPO2025-OAFF2026
ポスタービジュアル:©️ALL RIGHTS RESERVED © 2025 BYLEFT PRODUCTIONS
 
 
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 第21回大阪アジアン映画祭が2025年9月7日(日)に閉幕し、中国映画『最後の夏』がグランプリ(最優秀作品賞)に輝いた。また、焦点監督として特集上映された田中未来監督は、芳泉短編賞スペシャルメンション(『ブルー・アンバー』)とJAPAN CUTS Award(『ジンジャー・ボーイ』)のW受賞となった。
 
グランプリ以下各賞を受賞結果とともにご紹介したい。
 
 
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■ グランプリ(最優秀作品賞) 

『最後の夏』(The Last Summer/夏墜)/中国
監督:シー・レンフェイ(SHI Renfei/史任飛)
≪授賞理由≫
脚本がとても魅力的であり、監督の一貫した演出は作品全体を掌握し、ブレることなく冒頭からラストシーンまで観客の心を掴んで離さない。
【受賞者コメント/シー・レンフェイ監督】
初来日で、大阪にもはじめて来ました。ここ数日、大阪の街をブラブラし、会場ちかくの川沿いも歩き、風を感じていると、まるでふるさとにいるような気持ちになりました。本作は、現代の中国の社会、そこで生きるひと、家族、モラル的なジレンマを描いています。今回、海外初上映で、観客の皆さんに共感したと感想を頂くことができて、とてもうれしかったです。受賞に際し、低予算の中支えてくれた制作スタッフ、家族に感謝を伝えたいと思います。大阪アジアン映画祭の皆さんにも感謝いたします。
 
 
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■ 来るべき才能賞

ホン・ソンウン監督(HONG Sungeun/홍성)
『寒いのが好き』(Some Like It Cold/차가운 것이 좋아!)/韓国
≪授賞理由≫
ホン・ソンウン監督は本作で独創的なストーリー展開力を見せつけた。審査委員全員が次回作を心待ちにしている。
 
【受賞者コメント/ホン・ソンウン監督】
大阪アジアン映画祭は私にとって特別な映画祭です。初監督作品『おひとりさま族』が大阪アジアン映画祭2022にてグランプリを頂きました。まるでふるさとのような、あたたかく包んでもらっていると感じることができる映画祭です。映画産業は困難な時期を迎えていると感じ悲観的になっていたのですが、今回の受賞で明るい気持ちで頑張ろうと思うことができました。ありがとうございました。
 
 
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■ スペシャル・メンション

『世界日の出の時』(All Quiet at Sunrise/世界日出時)/中国
監督:ジュー・シン(ZHU Xin/祝新)
≪授賞理由≫
11作品の中でも、この作品はひときわ異なるアプローチをとり、圧倒的な芸術性を放っていた。
親離れという普遍的なテーマを描きながらも、同時に現代中国の情勢をも映し出しており、その重層的な視点はまさに映画ならではの表現だ。
まるで人類で初めて言葉を持った存在「ルーシー」を探求したくなるように、私たちはこの作品を“映画の最初の言葉"のように追いかけ、深く味わいたくなった。
 
【受賞者コメント/ジュー・シン監督】
若いクリエイターとしてここに来て、大阪、日本の観客の皆さんは経験豊かでいろいろな映画をご覧になっていると思います。そうした観客の皆さん、審査委員の皆さんに評価して頂き、とても光栄に思います。私たち中国の95年生まれのこの世代は、クリエイティブな環境にある意味では様々な迷いがあり、大変な時期があるんですが、この作品が大阪アジアン映画祭で日本、世界の皆さんにご覧頂くことができたことは、感無量です。アジア映画に明るい未来がありますように、心からお祈りいたします。
 
 
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マリス・ラカル(Maris RACAL)
『サンシャイン』(Sunshine)/フィリピン
≪授賞理由≫
サンシャインの目は私たちを見逃してくれない。
牧師と彼氏の言葉を聞く彼女の姿はこの映画の信頼性を上げ、引き込んでくれた。
素晴らしい女優である。
 
【受賞者代理コメント/ジオ・ロムンタッ(プロデューサー)】
マリス・ラカルはとても熱心に作品に取り組み、脚本の読み込みに3年、新体操の選手ではないのですが、練習も熱心に取り組んでくれました。この度はありがとうございました。
 
 
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■ 薬師真珠賞

タンディン・ビダ(Tandin Bidha)
『アイ、ザ・ソング』(I, the Song)/ブータン、フランス、ノルウェー、イタリア
≪授賞理由≫
タンディン・ビダの深い人物理解に基づく演技が、謎を抱えて静かに、ゆるやかに進む「アイ、ザ・ソング」の物語に、類まれな緊張感とドラマ性を付与した。
 
【受賞者コメント/タンディン・ビダ】
こんばんは、大阪!素晴らしい賞を頂き、予想していなかったので、驚き、震えています。大阪の地で、大阪アジアン映画祭に参加することができ、賞を頂くことができて、とてもうれしく思っております。今後の創作活動にも活かしていきたいです。
 

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■ JAPAN CUTS Award

『ジンジャー・ボーイ』(Ginger Boy)/日本
監督:田中未来(TANAKA Miki)
≪授賞理由≫
田中未来監督の『ジンジャー・ボーイ』にJAPAN CUTS AWARDを授与することを光栄に思う。じわじわと、しかし力強く進む本作は独創的な世界観と演出が際立ち、閉塞感と不安を誘う。強烈な印象を残す視覚表現と明確なビジョンの持ち主である田中監督の技量を鮮明に示す作品である。
 
【受賞者コメント/田中未来監督】
インディ・フォーラム部門<焦点監督・田中未来>にて『ブルー・アンバー』『エミレット』『ジンジャー・ボーイ』の3作品を上映して頂きました。その中でも『ジンジャー・ボーイ』は特に思い入れが強い作品です。今年、カンヌ映画祭でも受賞し、今回大阪アジアン映画祭で<焦点監督>として特集して頂き、わたしの活躍の場が広がるきっかけとなった作品を名誉ある賞に選んで頂き、とてもうれしいです。
 

■ 芳泉短編賞

『初めての夏』(First Summer/첫 여름)/韓国
監督:ホ・ガヨン(HEO Gayoung/허가영)
 
≪授賞理由≫
ある老齢の女性のジレンマを一日の時間軸で描いた、非常に見応えのある人間描写である。優れた脚本に、強烈な演技と洗練された演出が光る。韓国から届けられた重要な女性の声。審査員全員、本作が最高の短編作品であると確信している。
 

■ 芳泉短編賞 スペシャル・メンション

『ミルクレディ』(Milk Lady)/日本
監督:宮瀬佐知子((MIYASE Sachiko)
≪授賞理由≫
激しくも遊び心に満ちた精神、簡潔なストーリー構成、そして計算された編集により、『ミルクレディ』は必要最小限の要素だけで物語を紡ぐ。性差別と職場の父権主義に大胆に立ち向かい、強靭な女性性を再定義する作品である。
 
『ブルーアンバー』(Blue Amber)/日本
監督:田中未来(TANAKA Miki)
≪授賞理由≫
何気ない日常のなか、ジェンダー的にどっちつかずにいる主人公が究極の選択を突きつけられる。その心の揺れ動きを、流麗なカメラワーク、開放的で映画的な空間、そして情熱的なラテン音楽をもって鮮やかに描きだす。
 
【受賞者コメント/田中未来監督】
名誉ある賞を頂き、ありがとうございます。今回、焦点監督として上映した3作品は、人間関係の普遍的な問題や、自分と他者とのちがいに思い悩むひとを描いています。観客の方から共感できた、自分はひとりではないという感想を頂くことができ、作品を作り、上映できた意義があったと感じることができました。今後も作品をつくり続けたいので、応援よろしくお願いいたします。また大阪アジアン映画祭に戻ってこられるように精進いたします。
 
 
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■ 観客賞

『嘘もまことも』(Truth or Lies)/日本
監督:磯部鉄平(ISOBE Teppei)
 
【受賞者コメント/磯部鉄平監督】
大阪在住なので、今日もツッカケ履いてチャリで、観客気分で来ました。大阪アジアン映画祭は元々観客として来ていて、映画を撮りはじめてから、いつかこの舞台に立てたらいいなと思っていました。その願いが今日叶い、嬉しいです。ちゃんと靴を履いてくればよかったです(笑)
 
第21回大阪アジアン映画祭公式ウェブサイト https://oaff.jp
 
(C) OAFF EXPO2025-OAFF2026
 
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 初長編の『おひとりさま族』でOAFF2022グランプリに輝いたホン・ソンウン監督がコロナ禍の国家統制をゾンビ・エンデミックの時代に置き換えて描く社会派コメディ『寒いのが好き』が、第21回大阪アジアン映画祭コンペティション部門作品として9月4日ABCホール(大阪市北区)で日本初上映された。
 
 噛まれるとゾンビになる疫病が猛威を振るい、国によるゾンビ撲滅作戦が行われていた時代、契約社員としてゾンビ掃討チームで働いていたナビが、理性を残し、人間の言葉がしゃべれるゾンビに窮地を助けられたことから始まる物語は、従来のゾンビに対するイメージが覆される。仕事を解雇され、結婚を約束していた彼氏との関係がギクシャクする中、ナヒは高温の環境下では死んでしまうゾンビを、人間に戻るワクチンができるまでアラスカに避難させる団体のことを知り、彼女を助けてくれたゾンビ“ウンビ”と共に、船が出発する釜山に向かうのだった…。
 
 
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 本作は韓国国家人権委員会からの依頼で製作された、人権映画プロジェクトの第16作で、人権を考える上で、自分たちがコロナパンデミックで体験した状況を映画に取り入れようと思ったとホン監督。またチョンプロデューサーは「人権というと重く難しい問題というイメージがあるが、文化、政治を含めながらも、気楽にみなさんに近寄っていただける話を作りたいと思った。コロナ下で大きく生活が変わった方、あまり変わらなかった方と、いろいろな人生を過ごしてきた人がいると思いますが、それらを含めてホン監督とキャラクター設定を話し合いながら、二人で脚本から作り上げた作品です」と作品の背景を語った。
 
 主人公ナヒの設定について話が及ぶと、ホン監督はナヒがゾンビを助けるという関係性に持っていくために、置かれている現実から脱出し、彼女の責任を軽くしてあげる設定が必要だったと解説。仮にナヒの仕事が順調だったとしても「彼と結婚するという執着からの脱出」するために、ナヒが現実から脱出する話にするつもりだったという。
また、ナヒのキャラクターについて特にたくさん話し合ったというチョンプロデューサーは、「30代前半の女性で、非正規社員であり、結婚を控えているという設定は、どの国の女性でもこの年代は社会的にも個人的にも囲いの中に入れられてしまうことを象徴しています。そういう囲いから解放させるという側面も考えました」と力を込めた。
 
 
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 また本作で登場するキャラクターを、ゾンビそのもの、姿はゾンビだけど人間の心を持ち続けている人、人間、人間だけど冷たい心を持っていると4種類のキャラクターに分け、違う観点を持つ人たちが、どのように交わり社会を築いていけるのかを考えるきっかけにしたかったとホン監督。さらに、ゾンビの症状についても、記憶が少し残っていたり、ゾンビになることによって体に痛みを覚えるなど、多様性をもたせたゾンビを作っていくことで、「わたしたちが人生で起こる問題を解決するとき、ありのままを受け入れるのも解決策のひとつであることを念頭に置いていただきたい」とその狙いについても明かしてくれた。
 
 最後に本作は日本で公開準備を進めていることが明かされ、「俳優たちと一緒にみなさんとお会いできることを楽しみにしています」とチョンプロデューサーが締めくくり、客席から大きな拍手が送られた。ゾンビの権利についても想いを馳せる新しい視点のゾンビ×パンデミックコメディ。劇場公開を楽しみに待ちたい。
 
第21回大阪アジアン映画祭は9月7日まで開催中。
詳しくはhttps://oaff.jp まで。
(c) The Coup Distribution
 
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 第21回大阪アジアン映画祭が2025年8月29日(金)に開幕し、ABCホールにて開催されたオープニング・セレモニーには、上映作品68作品中、中国、香港、インド、日本、韓国、フィリピン、台湾、タイ、アメリカの19作品から、監督、出演者など35名を超えるゲストが登壇した。
ゲストを代表して、オープニング作品『万博追跡』(2Kレストア版)主演のジュディ・オングさんが「映画は文化をのぞき見る窓。映画を通して、時代、国、文化を知ることができる」と、映画の持つ力を語った。そしてアジア中から集まった登壇者を前に、「ここにいる新しい若いパワーを感じていただきたい。そして若い才能を紹介する大阪アジアン映画祭がこれからも続いてほしい」と挨拶し、フォトセッションではゲストたちが観客の声援に笑顔で応えた。
 
 
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 続いてオープニング上映作品として、1970年の大阪万博を背景に、日本の名所も巡りながら華麗なミュージカルやアクションの要素融合させたスペクタクル・エンタテインメント映画『万博追跡』の舞台挨拶が開催され、主演・ジュディ・オングさん、本作の修復作業を手掛けた台湾の国家電影及視聴文化中心(TFAI)チェアマンのアーサー・チュウさんが登壇した。
 
 世界初上映となる『万博追跡』修復作業2Kレストア作業を手掛けた台湾の国家電影及視聴文化中心(TFAI)チェアマンのアーサー・チュウさんは、「この映画の魅力は、僕の隣にいるこのひと!」とジュディ・オングさんを紹介すると、ジュディさんが「映画の撮影は55年前!あの頃、私は20歳!!」と撮影当時を懐かしんでいる様子。1970年の大阪万博当時、台湾のテレビで家族と開幕式を見たアーサーさんは、「2025大阪・関西万博が開催される大阪で『万博追跡』レストア版が世界初上映されること」への喜びを語り、クラシック作品の修復で一番大切にしているのは「映画の美学を取り戻すことではなく、歴史、文化、時代を反映するもの、その時代の魂を映画で表現すること」だとし、ジュディさんの演技とあわせて観てほしいと語った。
一方、前日に2025大阪・関西万博に行ったジュディさんは「1970年の万博は未来、宇宙、近未来への期待があふれていた。いま開催中の万博は、未来のために私たちが何をすべきなのかを考えさせる。自然と生命が共に過ごすことが示されており、55年間これだけ進化してきたので、今度はそれを返していく時代」と言及。『万博追跡』は、ジュディさんが70年の万博会場を縦横無人に駆け巡り、ミュージカルあり、サスペンスありのてんこ盛りな内容になっており、「これから映画を観るひとは、きっとビックリすると思う。楽しんで!」と笑顔で締めくくると、会場は大きな拍手に包まれた。
 
 
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【集合写真(敬称略。左から)】
≪後列≫Frankie、Sam、エミー・チャン、スティーブ・リー、ホー・プイ、オーシャン・オン(『レッド・キス』) /クニミノブヒコ、野田龍之介、峰松布美(『たぶん未来が呼んでいる』) /伊能昌幸、松本卓也、阪元裕吾(『フレイムユニオン 最強殺し屋伝説 国岡 [私闘編]」』)/坂本憲翔(『イマジナリーライン』)/中山慎悟、野原位(『息子の鑑」』)/ツェン・ズーティン、クリスティーン・マーガレット・ウー(『洗』)/飯塚俊光(『カミナンって、呼ぶな。』)/シー・チーティエン、フー・ダンディー、リウ・チンリン(『明日が来る前に』)/上倉庸敬
 
≪前列≫ジュン・リー(『クィアパノラマ』)/パク・ジョンイン、ソックィ、チェ・ミンジ(『ウィービング』)/キム・ミヒャン(『初めての夏』)、ホ・ガヨン(『あなたを植える場所』『初めての夏』)/チョウ・マンユー(『私立探偵』)/ジオ・ロムンタッ(『サンシャイン」』)/アーサー・チュウ(国家電影及視聴文化中心チェアマン)/ジュディ・オング(『万博追跡』(2Kレストア版))/武田梨奈、関根俊夫、藤原環(『シャンバラストーリー』)/ニコラス・レッド、ミカエル・レッド(『ポストハウス』)/蘇鈺淳(『桃味の梨』)/宮瀬佐知子、迫あすみ(『ミルクレディ』) /鳥越義弘
 
 
第21回大阪アジアン映画祭は9月7日(日)まで、ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館、大阪市中央公会堂にて開催。
 
『万博追跡』(c) 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
©OAFF
 
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  大阪・関西万博の会期に合わせ、初の夏開催となる第21回大阪アジアン映画祭が、2025年8月29日(金)から9月7日(日)までABCホール、テアトル梅田、Tジョイ梅田、大阪中之島美術館で開催される。
今年春の第20回に引き続き、年に2度の開催という特別な回において、どのような狙いでプログラミングを行なったのかなど、同映画祭の暉峻創三プログラミング・ディレクターに詳しくお話を伺った。
 

 

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■OAFF2025EXPOオープニングのために修復された『万博追跡』

――― 年に2回映画祭を開催するというのは色々ご苦労があったかと思いますが、作品選定面ではいかがでしたか?
暉峻:3月中旬に第20回を開催し、8月末に第21回の開催と、厳密には半年も空いていないタイミングですし、毎年秋に開催する東京国際映画祭(以降TIFF)や東京フィルメックスより前の時期に、しかも後から割り込むような形で開催するのは、業界の常識からすればかなり無茶苦茶と言われても仕方がないタイミングでした。大阪アジアン映画祭に出品することは、事実上TIFFやフィルメックスには選ばれなくてもよいという決断をしたことを意味しますから。ただ、その状況下で世界初上映や日本初上映となる作品が予想以上に集まり、そこはありがたいことだと思っています。
 
―――長年大阪アジアン映画祭(以降OAFF)をウォッチしていると、今回のオープニングとクロージングは例年以上にチャレンジングな作品選定になっていますね。
暉峻:OAFFの場合は、オープニングにできたてホヤホヤの新作の外国映画を上映し、クロージングに新作日本映画という割り当てが多かったのですが、今回はオープニングを『万博追跡』(1970、OAFFでは2Kレストア版)という旧作にしたこともあり、クロージングは自然と「日本映画限定で」という考え方ではなくなってきた。純粋にクロージングにふさわしい作品を探していく中で出会ったのが、シンガポール映画『好い子』でした。出来の良い作品だったので、最初はどこかの部門に入れたいと思っていた程度でしたが、他の映画祭に出品する気はなくOAFFがワールドプレミア(世界初上映)になることがわかり、クロージングに決めたという経緯があります。オープニングの『万博追跡』も2Kレストア版ではワールドプレミアになるので、オープニング&クロージングが共にワールドプレミアになりました。OAFFの歴史でもまだ2回目(1回目はOAFF2023、OP『四十四にして死屍死す』/CL『サイド バイ サイド 隣にいる人』)なんですよ。
 
 
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―――8月29日に開催されるオープニングセレモニーでは、『万博追跡』主演のジュディ・オングさんがゲスト登壇されますね。OAFFの歴史に残るであろうビッグゲストです。
暉峻:大阪・関西万博の時期にOAFFを開催するにあたり、『万博追跡』という映画を発掘できたということで、ジュディさんも映画祭に対して非常に協力的で既にコメントも寄せてくださっています。そもそも『万博追跡』を上映できることが奇跡的なんですよ。
 
―――と言いますと?
暉峻:通常、映画祭は特にその映画祭のために作られたというわけではない映画をプログラミングディレクターが選定していきますが、『万博追跡』の2Kレストア版はOAFFのためにレストア版を制作してくれたといっても過言ではないのです。
 
―――そんなことが可能なのですか?
暉峻:他の映画祭でも、まずないことでしょうね。というのも、『万博追跡』は決して台湾映画史上で知られた映画ではなかった。作られた当時は他の一般的な作品と同様に宣伝されて台湾で公開していた作品ですが、50年以上経った今、台湾の映画業界の人たちもこの映画の存在を忘れていたんですよ。
 
今回は、OAFFから『万博追跡』が台湾のフィルムアーカイブに保存されていないかを問い合わせました。当初はプリントの状態が良ければ、35ミリフィルム上映をどこか劇場を借りてやってもいいのではという想定だったのです。すると、台湾側からこんな映画があることを教えてくれたことへの感謝のメッセージと共に、TFAI(台湾・国家電影及視聴文化中心)によるクラシック作品修復事業として全額台湾側の負担で『万博追跡』の修復作業とデジタル化を行っていただけることになりました。通常かなり時間のかかる作業なのですが、OAFFのオープニングに間に合うように、かなり急ピッチで作業を進めてくださったんですよ。このオープニングを目指して、2Kレストア版を作ってくれたというのは、通常のワールドプレミアより意義深いですね。
 
 
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■台湾映画出演時代のジュディ・オングと、映画史を再解釈するTFAIの活動に光を当てる

―――なるほど。それは本当に意義深いですね。主演のジュディ・オングさんは、日本では79年の大ヒット曲「魅せられて」のイメージが強いと思います。ジュディさんが台湾で俳優活動をしていた当時のことを教えてもらえますか?
暉峻:実は、TIFFアジアの風部門のプログラミングディレクターをしていた2003年に、“「魅せられて」前夜—ジュディ・オングの台湾映画時代”という特集名で、ジュディさんが「魅せられて」で大ブレイクする以前の70年代前半に、彼女が出演していた台湾映画3本を特集上映したことがあります。そのときも、ジュディさんは非常に協力的で、上映後に登壇するだけではなく、「魅せられて」を歌ってくださることもありました。
 
ジュディさんは「魅せられて」で、日本で歌手として売れる以前は台湾映画によく主演級で出演していました。当時のジュディさんは、演技だけではなく、歌も踊りも上手なトップアイドルとして売り出されており、出演作はどれも台湾映画のイメージを覆すような、煌びやかでオシャレな作品なんです。
 
70年代前半は台湾と日本を行き来する非常に多忙な日々を送り、次々と出演をこなしておられたので、作品によっては自分の出演作の完成版をじっくりとご覧になる時間もなかったそうで、会期中も観客として特集した作品を連日観に来てくださり、会場で泣いているお客さんがジュディさんだったというエピソードもありましたね。今回の『万博追跡』もソフト化されていない作品なので、ジュディさんにとっても懐かしいことでしょうし、おそらく舞台挨拶の後、一緒にご覧になるのではないでしょうか。
 
―――懐かしい台湾映画と共に、ジュディさんの魅力を再発見という趣ですね。他にも小特集<台湾クラシックスとTFAIのレストア成果>では4本のデジタル・リマスター版が上映されます。
暉峻:台湾で国立映画アーカイブ的役割を果たしているのがTFAIです。今回のOAFFは裏テーマとして、TFAIの活動を日本や海外に広く知ってもらうことを掲げています。デジタル修復は修復のクオリティーだけに関心が集まりがちですが、どんな作品を選んで修復するかも重要なポイントだと思うのです。ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンなど台湾映画史上の名作はデジタル・リマスター版製作をすでに行っているのですが、TFAIは、これまでの台湾映画史の常識からして、これはデジタル・リマスター化の候補にはならないだろうと思うような隠れた名作を見つけて、修復を行っているのです。
 
これから、リマスター化することで新たに発見される映画も今後増えていくでしょうし、『万博追跡』もその一本になっています。そのように映画史を再解釈しているということも含めて、TFAIのデジタル・リマスター事業は素晴らしいと思っているので、ぜひ注目していただきたいですね。
 
―――これまでも台湾語映画の小特集がありましたが、今回はオープニング作品も含まれているのが特徴ですね。
暉峻:やはりお客さまは、新作のプレミア上映への期待値が高いので、年に1、2本は旧作を上映してはきましたが、なかなか旧作をまとめて特集することが難しかった。今回は、TIFFと開催時期が近く、新作が集まりにくいと想定していたので、逆にクラッシックの作品を紹介する回とするには絶好のチャンスだと思いました。そこでTFAIの活動は一番注目したいところだったので、台湾のクラッシック作品を特集することにしました。
 
 作品選定では、例えばある監督や潮流に属するものを集中して紹介する方向性もあり得ましたが、今回はこんな側面もあり、またこんな別の側面もあるというバラエティー豊かな、さまざまな作品をお見せするという形にしました。お客さまがそれぞれの作品に興味を持ってもらえたら、さらにそれぞれをタイプごとやジャンルごとに深掘りし、さらにお見せしたい作品はたくさんあるんですよ。ですから、ご覧になるみなさんが興味を持つきっかけにしていただければと思って考えたプログラムです。
 
 
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■田中未来という才能とインディ・フォーラム部門注目短編

―――インディ・フォーラム部門では、久しぶりに「焦点監督:田中未来」として田中監督の3作品が上映されます。個人的にも注目しているのですが。
暉峻:もちろん、こんな才能を持っている人がいるという驚きが大きかったこともありますが、今回は『ジンジャー・ボーイ』がこの5月のカンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションにて、映画学校で制作された作品が上映されるラ・シネフ部門で3等賞を受賞したので、タイミングも良かったです。田中さんはENBUゼミナール出身なのですが、コンペティション部門に入選した『ルノワール』の早川千絵さんもENBUゼミナール出身ですし、注目のENBUゼミナール出身監督という点も、田中さんを焦点監督として紹介するポイントになりました。インディ・フォーラム部門の寺嶋環さん(『糸の輪』)もENBUゼミナール出身ですね。ちなみに『ジンジャー・ボーイ』はラ・シネフ部門の3等賞でしたが、1等賞を受賞した作品も今回のOAFFで上映されるんですよ。特別注視部門に入っている韓国映画『初めての夏』(ホ・ガヨン監督)がそれです。
 
 
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―――他に今は関西に拠点を移して活動しておられる野原位監督の短編『息子の鑑』もワールドプレミアですね。主演の津田健次郎さんは人気声優ですが、今や俳優としてもドラマで大活躍中です。
暉峻:この作品をワールドプレミアで上映できるのは、本当に光栄なことです。ワンカットごとの強度がただものではなく、冒頭の数カットでもう、これは凄い作品だと確信しました。
 
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―――『息子の鑑』と同じ短編プログラムCの『まっすぐな首』も空音央監督×安藤サクラのタッグで、みなさん注目されているのでは?
暉峻:空音央監督と安藤サクラさん、いずれも人気がありますし、映画祭的に興味深かったのは、この作品は製作国が日本と中国で、中国側から応募があったんですよ。キャスティングや作品の舞台も含めて、完全に日本映画としてご覧いただけますが、新しい時代を感じさせますね。つい先日ロカルノ国際映画祭でワールドプレミアされましたが、新人監督対象ではなく既に作家として名声を確立した監督による短編のみを集めたコンペ部門でグランプリを獲得しました。
 
―――空音央監督の『HAPPY END』でスクリーンデビューを果たした栗原颯人さんが、田中監督の最新作『ブルー・アンバー』で主演と、その流れも魅力的ですね。
暉峻:田中さんはすごく多作な監督で、さきほどのカンヌ以降2本の新作があり、そのうちの一本が『ブルー・アンバー』です。何を撮らせても画になるという才能の持ち主で、これから知られるようになれば、その画をちょっと観ただけで「これは田中監督の作品」だと分かるのではないでしょうか。独特の場面の切り取り方や進行の仕方をする、かなり個性が強い監督ですね。
 
 

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■新しい潮流を体感するブータン映画

―――コンペティション部門『アイ、ザ・ソング』、特別注視部門『橋』と、ブータン映画が2本入選しており、何か新しい潮流を感じさせますね。
暉峻:ブータンは映画自体がそれほど作られておらず、OAFFへの応募も数えるほどしかないのが通常ですが、今回は応募されている作品が全て合格点以上ぐらいのクオリティーであることにまず驚きました。ブータン映画界がかなり充実し、面白い兆候を見せていることは審査の初期段階から体感できたんですよ。
 
これまでOAFFで上映してきたブータン映画では、ケンツェ・ノルブ(OAFF2017『ヘマヘマ:待っている時に歌を』)やパオ・チョニン・ドルジ(OAFF2021『ブータン 山の教室』)など、最初から海外の人に見せる企画とも考えられるようなちょっと特別な作家たちを紹介してきたのですが、今回は海外の人にも十分通じる内容ですが、同時にブータン国内のお客さまに向けて問いかけるタイプの作品です。それが偶然にも同じ年に2本入選するのは、歴史的な事件だと思います。
 
―――これまでのOAFFを振り返っても、そういう「歴史的な事件」が次の潮流になっていくことがよくわかります。
暉峻:OAFF2022でモンゴル映画『セールス・ガール』(アジア映画傑作選で『セールス・ガールの考現学』のタイトルで9/6上映)を紹介しましたが、我々が持っているモンゴルやモンゴル映画のイメージがガラリと変わったと思うのです。それまで描かれてきた、大草原の中、人々はゲルで生活しているというイメージから脱し、都会の姿や都会人として生きている姿を目の当たりにした作品でした。
 
今回のブータン映画も、『アイ、ザ・ソング』はポルノ動画の被害者を描き、国を問わずどこにでもありうる話ですし、短編の『橋』はワンシチュエーションドラマに近いのですが、自殺しようとする青年の話で、ブータンをオリエンタリズム的な目線で捉えた作品ではない、生々しい現代生活が写っている作品です。ブータンと言えば『幸せの国』というイメージでしたが、この2本を観てもらえれば、ブータンやブータン映画に対するイメージが変わると思います。
 
 
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■コンペで注目の中国映画と日本の『シャンバラストーリー』

―――あと、中国映画も若手作家の新しい息吹を感じる作品が揃っていますね。
暉峻:中国は色々紹介してきましたし、OAFF以外でも多数紹介されていますが、実は今回は入選させたい作品が今回実際に上映する4作品の倍以上あったぐらい充実していましたね。
 
 日本でロードショー公開される中国映画も多いですが、そういうところで我々が知っている中国映画とはかなり違う新しいセンスを持った監督たちが現れているのは間違いないという感触が早い段階からありましたし、入選作もそのような傾向を持っています。
 
 コンペティション部門の『ワン・ガール・インフィニット』はアメリカ拠点の中国人監督、リリー・フーの作品で、レズビアンを描く内容なので、中国では検閲が通らないということで製作国には入っていませんが、内容的には中国が舞台の中国映画です。他にも『世界日の出の時』『最後の夏』と中国映画は3作品もコンペティション部門に入選しているんですよ。
 
 
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―――ありがとうございました。最後に、日本映画(インド、アメリカとの合作)で唯一コンペティション部門に入選したのが、関根俊夫監督の『シャンバラストーリー』ですね。
暉峻:関根さんは長年脚本家としてキャリアを重ねてきた人で、元々チベットに強い関心を寄せてこられたようで、そこに着想を得て、この作品も作られています。キャスティングも主演がモー・ズーイーや武田梨奈と豪華です。実はこの企画は7年半前から始動しており、初期の頃から製作状況を問い合わせていたんですよ。コロナもあって延期が続き、完成が待たれていたのですが、ようやく出来上がったということで、こちらも喜び半分、行き詰まっていたのかもという嫌な予感も半分あったんです(笑)でも観始めると、本当に丁寧に、どこも手抜きをせずに作った素晴らしい作品で、自分の予想をはるかに凌駕した出来栄えに仕上がっていると、非常に感激しました。関根監督や武田さんも来場予定ですので、ぜひご覧ください。
(江口由美)
 

 

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※ルイス・クー主演のクライムサスペンス『私立探偵』(8/31(日)19:10 回 ABC ホール/9/7(日) 10:40 回 ABC ホール)、筒井真理子主演、佐藤慶紀監督の最新作『もういちどみつめる』(9/2(火) 20:20 回テアトル梅田/9/3(水)10:10 回テアトル梅田)の2本の追加上映が決定!
 
 
≪映画祭概要≫
名称:第21回大阪アジアン映画祭(OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL 2025EXPO)
会期:2025年8月29日(金)から9月7日(日)
上映会場:ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館
公式HP:https://oaff.jp
 
 
『万博追跡』(c) 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
『好い子』ALL RIGHTS RESERVED © 2025 BYLEFT PRODUCTIONS
『寂寞十七歳(2Kレストア版)』(c) 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
『ブルー・アンバー』(c)JIJI
『息子の鑑』(c) 2025 NEOPA
『アイ、ザ・ソング』  (c) Diversion, Dakinny Productions, Girelle Productions, Fidalgo Films, Volos Films
『シャンバラストーリー』 (c) Samden Films Production

_U8A2315.JPG(左から、坂本莉穂、清田元海、タチアナ・メルニク、ロベルト・ボッレ、メリッサ・ハミルトン、トゥーン・ロバッハ、菅井円加、バクティヤール・アダムザン)

 

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2025年7月7日(月)午後7時からEXPOホール“シャイン・ハット”でバレエのガラ公演「ロベルト・ボッレ&フレンズ」が上演された。イタリアのバレエ・ダンサーで世界的に著名なロベルト・ボッレが演出・主演し、フレンズ(ゲストダンサー)とともに、新旧様々なバレエの演目を披露する公演である。

 


ロベルト・ボッレは、2000年からイタリア国内や世界各地で同様のガラ公演を重ねており、その一環として大阪・関西万博の会場にも来てくれた。ちなみに、2005年には愛・地球博で公演され、2022年のドバイ万博でも公演が行われたほか、今後もカラカラ浴場のステージやヴェローナの円形闘技場での公演が予定されているようだ。

 


今回は、休憩なしで11曲もの演目が披露され、そのうちロベルト・ボッレが6演目も踊るというもので、サービス精神にあふれていた。集まってくれたフレンズは、メリッサ・ハミルトン、トゥーン・ロバッハ、タチアナ・メルニク、バクティヤール・アダムザン、菅井円加、清田元海、坂本莉穂の7人だった。

 


_U8A2308.JPGロベルト・ボッレが日本の舞台に登場するのは、2018年の世界バレエフェスティバル、2019年の「フェリ、ボッレ&フレンズ」以来で6年ぶりになる。今回も、メリッサ・ハミルトンと「カラヴァッジオ」を披露してくれたが、彼女のシャープな動きと身体表現の美しさが印象に残る。

 


菅井円加は、今や3年に1度東京で実施されてきた世界バレエフェスティバルでも活躍する大スターである。「ドン・キホーテ」のグラン・パ・ド・ドゥでは、ダイナミックで安定した存在感を発揮し、「シェヘラザード」では、相手を誘惑するというよりしなやかな魅力で平伏させるような存在感を示していた。

 


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(左から、メリッサ・ハミルトン、トゥーン・ロバッハ、菅井円加、バクティヤール・アダムザン)

また、ロベルト・ボッレと「月光」を踊ったトゥーン・ロバッハは、その後、ソロで、しかも自らの振付で「デジタル・シルク」を踊ったが、非常に珍しい動きで身体能力の高さが際立っていた。そして何よりラストの「Sphere」が圧巻で、ロベルト・ボッレがアトラスとなって両手と頭で天空を支えて宇宙を疾走するという壮大さに目を見張らされる。

 

古典バレエの抜粋だけではなく、日本では鑑賞する機会があまりない作品を観る貴重な機会だった。また、日本ではまだ馴染みのない国内外のダンサーたちも、ロベルト・ボッレのフレンズだけあって今後の活躍から目を離せない。ロベルト・ボッレは、今年の8月に東京で行われるパリ・オペラ座のガラ公演にゲスト参加するので、これも楽しみだ。
 

(河田 充規)


【CAST】

・ROBERTO BOLLE:Teatro alla Scala, Milano

・MELISSA HAMILTON:The Royal Ballet, Londra

・TOON LOBACH:International Guest Artist

・TATIANA MELNIK:Hungarian National Ballet Budapest

・BAKTIYAR ADAMZHAN:Astana Ballet Company, Astana

・MADOKA SUGAI:Hamburg Ballet, Hamburg

・MOTOMI KIYOTA:Hungar i an National Bal et , Budapest

・RIHO SAKAMOTO:Berliner Staatsbal let
 


【PROGRAM】

1. Caravaggio
 Choreography: Mauro Bigonzetti
 Music: Bruno Moretti,from Claudio Monteverdi
 Artists: Melissa Hamilton, Roberto Bolle

2. Esmeralda

 Choreography: Marius Petipa
 Music : Cesare Pugni
 Artists : Riho Sakamoto, Motomi Kiyota


3. Moonlight
 Choreography: Juliano Nunes
 Music: Claude Debussy
 Artists : Roberto Bolle, Toon Lobach


4. Don Quijote

 Choreography: Marius Petipa
 Music: Ludwig Minkus
 Artists: Madoka Sugai, Baktiyar Adamzhan


5. In Your Black Eyes

 Choreography: Patrick De Bana
 Music: Ezio Sosso
 Artist: Roberto Bolle

 

6. The Talisman
 Choreography: Marius Petipa

 Music: Riccardo Drigo

 Artists: Tatiana Melnik, Motomi Kiyota


7. Digital Silk

 Choreography : Toon Lobach
 Music: Eartheater
 Artist: Toon Lobach
 

8. Take me with you

 Choreography: Robert Bondara
 Music: Radiohead
 Costumes and Lighting Design -Robert Bondara

 Artists: Melissa Hamilton, Roberto Bolle

10. Sheherazade

 Choreography: Michel Fokine

 Music: Nikolaj Rimskij- Korsakov

 Artists : Madoka Sugai, Baktiyar Adamzhan


11. Spring Waters

 Choreography: Asaf Messerer

 Music: Sergei Rachmaninoff

 Artists: Tatiana Melnik, Roberto Bolle


12. Sphere
 Choreography: Mauro Bigonzetti

 Music: Alessandro Quarta

 Set and light designer: Carlo Cerri

 Graphic design: OOOPStudio

 Artist: Roberto Bolle

 


 

 

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 第20回大阪アジアン映画祭のフィナーレを飾るクロージング上映作品「桐島です」の世界初上映と舞台挨拶が、3月23日(日)のクロージングセレモニーに続いてABCホールで行われ、高橋伴明監督、プロデューサーと出演の高橋惠子さん、脚本の梶原阿貴さん、製作総指揮の長尾和宏さんが登壇した。
 
 世界初上映の心境について、高橋伴明監督は「もっとひっそりと、しめやかに公開されると思っていた。みなさんの前で大々的に発表できるとは、びっくりしていると同時に驚いています」と感無量の様子。50年近くに渡る桐島 聡の人生を一人で演じきった毎熊克哉については、「『ケンとカズ』の頃から注目していたし、何かあれば一緒にやりたいと思っていました。この作品で、日本映画界にとって大事な俳優になることは間違いない」と賛辞を送った。
 
 
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 脚本の梶原阿貴さんは、高橋伴明監督と初タッグを組んだ『夜明けまでバス停で』で高い評価を得、今回は再タッグ作となるが、実話を基にした作品だけに「関係者の方への配慮を最大限にしつつ、どうやってエンターテイメントにするかが難しかった」と振り返った。また、高橋監督から急に呼び出され「5日で書け」と言われた後に、高橋惠子さんから「できるわよね?」と念押しされたエピソードも披露。以前から(桐島に関する)スクラップをたくさん作っていたことも明かされた。
 
 今回はプロデューサー兼出演の高橋惠子さんは「まだ脚本になる前に、(伴明氏に)タイトルが『きりしまです』だと聞いた時、結婚して長いけれど、初めて『どんな役でもいいから出させて欲しい』と言いました。これはいいものになると直感したし、出なければいけないと思ったんです。梶原さんが、5日間で脚本を書き上げたのは素晴らしい」と製作秘話を語った。
 
 製作総指揮の長尾和宏さんは「『痛くない死に方』以来6年間、命や生きる、死ぬということをを優しい目で見つめていただけた監督です。いろんなことがあった50年間を振り返りながら観ていただきたい」と観客に呼びかけた。
 
 
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 約49年の逃亡生活を経て2024年1月29日に本名を告げて死去した謎の男、桐島 聡。桐島 聡の軌跡と〈青春の正義〉を描く「桐島です」は7月4日から東京・新宿武蔵野館、7月5日から大阪・第七藝術劇場他全国順次公開。
 
©北の丸プロダクション  
 
Photo by OAFF
 
(江口由美)
 

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 2025年3月23日(日)に第20回大阪アジアン映画祭が閉幕し、『カンフーハッスル』脚本家フオ・シンの初監督作品となる壮絶な純愛ストーリー『バウンド・イン・ヘブン』(中国)がグランプリ(最優秀作品賞)に輝いた。また、注目の観客賞は、平松恵美子監督の『蔵のある街』(日本)が選ばれた。グランプリ以下各賞を受賞結果とともにご紹介したい。

グランプリ(最優秀作品賞) 

『バウンド・イン・ヘブン』(Bound in Heaven/捆綁上天堂)/中国
監督:フオ・シン(HUO Xin/霍昕)
 
≪授賞理由≫
映画が描く(映す)テーマが多様化する中で、特に「映画祭」では選ばれにくい、最も古典的な”恋愛映画”の本作に迸る熱度と強度に衝撃をうけました。主演二人がたどる「運命」は映画を目にする私たちを疑いもなくその物語に没入させ、映画的歓びを共有させてくれるその世界に魅了されました。
 
 
来るべき才能賞
 
パク・イウン監督(PARK Ri-woong/박이웅)
『朝の海、カモメは』(The Land of Morning Calm/아침바다 갈매기는)/韓国
 
≪授賞理由≫
パク・イウン監督の人間の善良さを見抜く能力と、社会が抱える問題を詳らかにする鋭い注意力は来るべき才能賞に値する。
 
授賞者コメント/パク・イウン監督「47歳にして新人賞を頂きました。皆さま、本当にありがとうございます。海外の上映されるたびに、韓国とはちがった場面で、観客の方が笑って泣いている姿を見て、私の気持ちも豊かになっていきます。そして映画が豊かになっていくのを感じます。観客の皆さま、大阪アジアン映画祭の皆さまに感謝いたします」
 
スペシャル・メンション
 
『私たちの話し方』(The Way We Talk/看我今天怎麼說)/香港 
監督:アダム・ウォン(Adam WONG Sau-ping/黄修平)
 
≪授賞理由≫
『私たちの話し方』のアダム・ウォン監督と彼のクルーの深い優しさと、先入観のない公平な視点が本作を珠玉の作品にした。聴覚障害者の内なる世界に観客を心深く没入させる作品である。
舞台挨拶記事はこちら
 
最優秀俳優賞 
 
トゥブシンバヤル・アマルトゥブシン(Tuvshinbayar AMARTUVSHIN)   
『サイレント・シティ・ドライバー』(Silent City Driver/Чимээгүй хотын жолооч)/モンゴル
 
≪授賞理由≫
アマルトゥブシンは静謐で、決して不快でない男らしさを体現し、それは映画の領域に深く共鳴した。彼の内なる感情を伝える卓越した演技力は、静穏だが暗晦な世界に生きる主人公の複雑な孤独を的確に捉えた。
 
代理コメント/ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督「本当にありがとうございます。観客の皆さま、映画祭の皆さまに感謝いたします。映画はみんなで作り上げた作品です。映画のチームの皆さんにも感謝申し上げます。そして賞状をトゥブシンバヤル・アマルトゥブシンさんに渡します」
 
JAIHO賞
 
『君と僕の5分』(404 Still Remain/너와 나의 5분)/韓国
監督:オム・ハヌル(UHM Ha-neul/엄하늘)
 
≪授賞理由≫
テンポよく展開するストーリー、主人公2人の瑞々しい演技。彼らがバスの車窓から眺める四季折々の風景が、音楽と絡み合い美しい余韻を残す。そして少年は大人になる。“ボーイ・ミーツ・ボーイ”映画の傑作。
 
 
薬師真珠賞
 
ラン・ウェイホア(LAN Wei-Hua/藍葦華)
カオ・イーリン(Alexia KAO/高伊玲)
ツェン・ジンホア(TSENG Jing-Hua/曾敬驊)
ホアン・ペイチー(Queena HUANG/黃珮琪)
『我が家の事』(Family Matters/我家的事)/台湾
 
≪授賞理由≫
『我が家の事』の主人公家族を演じた4人の俳優たち、ラン・ウェイホア、カオ・イーリン、ツェン・ジンホア、ホアン・ペイチーに授与する。家族それぞれがかかえる複雑な心情を見事なアンサンブルで演じ、新人監督による偉大な傑作の誕生に貢献した。
 
授賞者コメント/カオ・イーリン「映画で母親を演じました。『我が家の事』は40人くらいのクルーで製作された作品です。気に入ってくださったらうれしいです。まわりの方にも是非すすめてください」
 
授賞者コメント/ツェン・ジンホア「この場を借りて、撮影クルー、大阪アジアン映画祭の観客の皆さまに感謝申し上げます。審査員の皆さま、映画の中で相手役を務めてくださった皆さまにも感謝いたします。皆さまのおかげで、私は受賞できたと思っています。そして最後に監督に、心から感謝申し上げます。監督はかわいくて、実はひょうきんな人なんですよ。母親が大好きなんです(笑)!ありがとうございました」
 
JAPAN CUTS Award
 
『素敵すぎて素敵すぎて素敵すぎる』(So Beautiful, Wonderful and Lovely)/日本
監督:大河原恵(OKAWARA Megumi)
 
≪授賞理由≫
多彩な編集と撮影手法、不条理なユーモアとハートフルなストーリーテリングが矢継ぎ早に繰り広げられる、大河原恵監督の『素敵すぎて素敵すぎて素敵すぎる』にJAPAN CUTS AWARDに授与する。脚本・監督・編集・主演を務めた大河原は、真の若いエネルギーに溢れ、短い上映時間の中に創造的なアイデアと野心を詰め込み、かつ筋の通った作品を完成させた。
 
授賞者コメント/大河原恵監督「インディー・フォーラム部門には素晴らしい作品ばかりだったので、大変驚いています。観客の皆さま、関係者の皆さま、大阪アジアン映画祭の皆さま、ありがとうございます」
 
芳泉短編賞
 
『洗浄』(WAShhh/洗浄)/マレーシア
監督:ミッキー・ライ(Mickey LAI/黎樂怡)
 
≪授賞理由≫
まるでリアルタイムで起きている出来事のように、限られた空間と時間の中で観客を巧みに没入させ、少女たちの状況の追体験を可能にする。モノクロームの画がセンセーショナリズムに陥らない緊迫感を作品にもたらす。リアリズムとシンボリズムの両方を兼ね備え、制度の不条理を痛烈に批判し、タブーに挑んでいる。
 
芳泉短編賞 スペシャル・メンション
 
『金管五重奏の為の喇叭吹きの憂鬱』(The Melancholy of a Brass Player for Brass Quintet)/日本
監督:古谷大地(FURUYA Daichi)
 
≪授賞理由≫
元気が湧いてくる作品(アダム・ウォン)
編集、音響デザイン、テンポ ー すべてにおいて類のない作品。何が何だか分からないのに、完全に筋が通っている。(ジョン・スー)
まるでサイレント映画のようなアナーキーさを湛えている(木下千花)
 
観客賞
 
『蔵のある街』(The Tales of Kurashiki)/日本
監督:平松恵美子(HIRAMATSU Emiko)
 
授賞者コメント/有吉司(配給:マジックアワー代表)「私は配給の仕事をして40年になります。この40年で、観客賞を頂けたことは個人的に本当にうれしく、きっと誰よりも喜んでいると思います。そして大阪にいられなかった、平松恵美子監督もよろこんでいると思います。
舞台挨拶記事はこちら
 
写真≪後列≫上倉庸敬(大阪映像文化振興事業実行委員会)/三宅正子(株式会社薬師真珠)/アンジェラ・ユン(コンペティション部門 審査委員)/ファルハット・シャリポフ(コンペティション部門 審査委員) /中村由紀子(コンペティション部門 審査委員)/難波弘之(公益財団法人芳泉文化財団 事務局長)
≪前列≫大河原恵監督(JAPAN CUTS Award『素敵すぎて素敵すぎて素敵すぎる』)/ツェン・ジンホア(薬師真珠賞『我が家の事』)/カオ・イーリン(薬師真珠賞『我が家の事』)/パク・イウン監督(来るべき才能賞『朝の海、カモメは』)/ジャンチブドルジ・センゲドルジ監督(最優秀俳優賞『サイレント・シティ・ドライバー』監督※代理)/有吉司(観客賞『蔵のある街』配給マジックアワー代表)
 
 
万博イヤーの2025年度・第21回大阪アジアン映画祭は、2025年8月29日(金)~9月7日(日)に開催予定だ。
公式サイト https://oaff.jp 
 
JAPAN CUTS Award
 

 

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 多分野でマルチな才能を発揮するジェフ・サターの映画初出演・主演作となるタイ映画『いばらの楽園』が、第20回大阪アジアン映画祭特集企画<タイ・シネマ・カレイドスコープ2025>作品として3月19日「テアトル梅田」(大阪市北区)で日本初上映された。
 
 タイ映画のメジャースタジオ、GDHが手がけた本作では、同性の恋人と念願のドリアン農園を手に入れ結婚するはずだった主人公が、突然の事故で恋人を亡くしてからの苦難を描いている。本作が初監督となるボス・グーノーが、愛憎入り混じる人間関係や農園をめぐる攻防を「ドリアンホラー」と言わんばかりの見事なエンターテインメント作品に仕立て上げた。
日本初上映後にプロデューサーのワンルディー・ポンシッティサックさんが登壇して行ったQ&Aの模様をご紹介したい。
 

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ーーー今のお気持ちは?
日本初上映が終わり、とても嬉しいです。『いばらの楽園』は昨年8月にタイで劇場公開され、そこからいくつかの国を旅して日本にたどり着きました。日本での劇場公開もできればいいなと思っています。
 
ーーー製作の経緯について
現在タイでは同性婚法案が成立していますが、この映画の企画が始まったときは、まだその法律はありませんでした。ある日、ボス監督がわたしにLGBTQの人たちは婚姻の権利が等しくないことを語ってくれ、一緒にこの映画を作ることになりました。映画はエンターテイメントの側面もありますが、社会にとって意義のあるもの、監督の考え方の後押しをしたいと思いました。この映画をご覧いただければ、なぜ同性婚法案を成立させなければいけないのかが、深く理解していただけたと思います。
 
ーーーボス監督の作風について
ボス監督はドラマ(「僕の愛を君の心で訳して」他)を監督しており、登場人物に太い感情を持たせ、登場人物の混乱や葛藤を描くのが特徴で、そういった要素を『いばらの楽園』にも活かしています。この映画は同性婚法案を後押しするだけでなく、それぞれのキャラクターの葛藤を描き、彼らが思い描いていたものが崩れていく様子を描いています。
 
ーーー資金集めやキャスティングでの難しさはなかったか?
製作費はGDHが全て出していますし、ジェフ・サターは元々からボス監督や私と一緒に仕事をすることを希望していたのです。この映画に参加する人は全員、同性婚法案に賛成する必要がありましたが、誰も反対する人はおらず、むしろ喜ばしいと言ってくれました。
 
ーーー舞台をタイ北部(メイホンソーン)のドリアン農園にした理由は?
なぜドリアン農園なのかについてですが、主人公のパートナーが亡くなったとき、法案成立前なので財産を相続できない設定にしたのです。ただ家財道具を売るとなると簡単すぎるので、難しい状況を作り出したいと思いました。土に生えて移動できない果物の木を財産にしようと考えました。次に、どんな果物がいいかを考えたとき、その答えがドリアンだったのです。ドリアンはとても栽培が難しい果物で、タイでは果物の王様と呼ばれています。舞台となった地域はタイで最も貧しい地域なのですが、高価な果物を最も貧しい地域に植えるという点がおもしろい着眼点だと思いました。
 
またドリアン自体の性質については、すごくいい香りがして甘さがあると同時に臭みがあり、痛々しいトゲがあります。皮を剥いて中身を見るととても美しい。ですからドリアンが愛の痛みや美しさ、そして傷つけあうというテーマに合うと思いました。
 
 
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第20回大阪アジアン映画祭は3月23日まで開催中。『いばらの楽園』は3月23日(日)13:00よりABCホールで2回目が上映予定。
詳しくはhttps://oaff.jp まで。
 
(C)2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
 
(江口由美)
 
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 現在開催中の第20回大阪アジアン映画祭で、メイン会場のABCホールにて3月21日(金)で、台湾映画5作品のゲストが集うTAIWAN NIGHTが開催され、写真右から『晩風』のチャン・ゾンジェ監督、『ブラインド・ラブ 失明』のジュリアン・チョウ監督、『イェンとアイリー』のトム・リン監督、『我が家の事』出演のツェン・ジンホアさんとパン・カーイン監督、『寂しい猫とカップケーキ』ヤン・リン監督が登壇した。
 
「同性婚がテーマの作品。2019年に台湾でアジアで初めて同性婚を認める法律が成立しましたが、結婚する前後で家族がどうなるのかを描きたかったのです」(チャン・ゾンジェ監督)
 
「大阪にやってきて嬉しいです。私の手がけた『ブラインド・ラブ 失明』も同性婚について触れるだけでなく、親子の関係も描いています。主人公の役柄を借りて、日々の暮らしの忙しい中で、親子や家族の関係とは何かを映画の中で表現してみました」(ジュリアン・チョウ監督)
 
「我々全員を招き、台湾ナイトに登壇でき、大阪アジアン映画祭に感謝したいです。そして、わざわざ映画を見にきてくださり、観客のみなさんに感謝します」(トム・リン監督)
 
「初めて大阪に来てとても嬉しく思います。我々の新作を携えて映画祭に来ることができました。明日(22日)の上映をぜひご覧ください。そして、気に入ってくださるともっと嬉しいです」(ツェン・ジンホアさん)
 
「初の長編『我が家の事』で大阪アジアン映画祭に参加でき、とても嬉しいですし、隣にはジンホアさんもいます。私の作品は今まで短編を2回上映していただきましたが、長編を携えて実家に帰って来たような気分です」(パン・カーイン監督)
 
「短編ですが、大阪でワールドプレミアを行うことができました。『寂しい猫とカップケーキ』は台湾の公共テレビの製作で、出演者の中にはルー・イーチンやチェン・ヨウジエと有名俳優が出演しています」(ヤン・リン監督)
 
と一言ずつご挨拶し、大きな拍手が送られた。
 

TAIWAN NIGHTに続き、『イェンとアイリー』日本初上映後に行われたトム・リン監督のQ&Aでは、まず監督より映画のラストシーンについて、本作の主題となっている母と娘の複雑な関係が決して和解したわけではないが、“ふたつの魂が近づいた”という評をもらったことについて言及。「我々にとって『魂が近づいた』というのは、もう充分なのではないか」とその関係性の行方を示唆した。
 
 
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■モノクロにすることで、役者の演技を集中して観てもらえる

本作はトム・リン監督のフィルモグラフィで初のモノクロ映画だが、まずは自身が映画ファンから映像作家に入ったこともあり、モノクロ映画の力を実感しており、一度は撮りたいと思っていたことや、脚本段階でモノクロ映像にぴったりと感じていたことを理由に挙げた。
さらに演出という観点では、観客に集中して映像を見てもらうことが狙いだったとし、「色がない分、観客が役者の演技に注目するだろうという計算がありました。映画をご覧になるとき、母と娘の演技や感情の表現、葛藤にすべて観客がひきこまれていくように作りました」
ただ、資金集めでは過去の作品の中で一番苦労したことも明かし、「今回はすごく時間をかけて資金を集めたので、次に撮るなら、モノクロ映像にあったテーマがあれば撮りたいと思います」
 
 
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■コロナ禍でようやく実現した妻、キミ・シアとの映画づくり

主人公イェンを演じたキミ・シアを「実生活の妻」と紹介したトム・リン監督。以前から一緒に仕事をしようと思っていたものの、互いに多忙で実現できず、そのチャンスが巡ってきたのがコロナ禍だったと振り返り、妻にやりたい役を聞いたところ「母と娘の物語」が出てきたことや、キミ・シア自身の母との関係が非常に難しいものであったことを明かした。
さらに、脚本段階で実在の大事件からインスピレーションを得たそうで、
「物語を構想しはじめたときに、息子が母を助けるために父を殺すという大きな事件が台湾で起き、そのニュースを見てから、刑務所から出た時に、残った母と子どもはどうやって過ごしていくのかと、ずっと考えていたのです。息子を娘に置き換えて、刑務所から釈放され、親孝行だった娘が母とどうやって過ごしていくのかと考えて、そこから物語を構想し始めました」
 
脚本執筆時には、常にキミ・シアに見せては色々な意見やダメ出しをもらっていたというトム・リン監督。「例えば、母と娘の喧嘩の場面を描くと、『あなたは(書くのが)下手ね』と、携帯で彼女が実際に母との喧嘩をしている場面を見せてくれ、そういうことなのかとわかりました。字幕では脚本に私の名前が出ていますが、本当の脚本は妻と妻の母だと思います」
 
最後に脚本の中で主役の彼女をアイドル的(みんなに注目される)存在にしたことについて問われたトム・リン監督は「脚本段階で演じるのは自分の妻とわかっていますし、実際に彼女は美しいので、その美しさを無視するわけにはいきません。スクリーンの美しさを考え、このようなストーリーになりました」と主演俳優(妻)の美しさにも触れながら、俳優のポテンシャルを活かす役作りを笑顔で語った。
 
 
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第20回大阪アジアン映画祭は3月23日まで開催中。
『我が家の事』は3月22日(土)12:50よりABCホールで2回目が上映予定。
『ブラインド・ラブ 失明』3月22日(土)12:20よりテアトル梅田で2回目が上映予定。
 
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(江口由美)