第19回大阪アジアン映画祭の受賞結果が最終日の3月10日、ABCホール(大阪市福島区)にて発表され、モンゴル映画『シティ・オブ・ウインド』が見事、グランプリに輝いた。同映画祭でモンゴル映画がグランプリに輝いたのは初の快挙となる。
3月8日の日本初上映後には、ラグワドォラム・プレブオチル監督が舞台あいさつで登壇し、「将来の作品アイデアとして相撲を題材にすることを考えており、大阪場所の朝稽古を2時間見学してきたところです」とご挨拶。日本を訪れることが夢だったというプレブオチル監督が、作品の狙いやモンゴルでのシャーマニズム、ゲル地域の現状について丁寧に語ってくださった。その内容をご紹介したい。
■モンゴルにおけるシャーマニズムの歴史〜生活の一部として根付く
―――モンゴルでのシャーマニズムの変遷や現代での受け入れられ方について教えてください。
プレブオチル監督:シャーマニズムはモンゴルの歴史当初から続いており、我々の生活の一部として根付いています。ジンギスカンも彼自身のシャーマンがいましたが、次第に仏教がシャーマニズムにとり変わり、共産主義や資本主義も台頭してきましたが、それにもかかわらずモンゴルではシャーマニズムが歴史上続いています。それは、我々が必要だからこそ生き残っているのだと思います。ですから本作では宗教や現代的な動きとシャーマンとの対立を描いたり、共存しているものの中のどれかを描こうとしたのではありません。葛藤のみに焦点を当てるのではなく、シャーマニズムが現代社会の日々の中にどう息づいているかを描こうとしました。
■伝統を維持するゲル地域をきちんと保存し、文化のアイデンティティを保つべき
―――都市のそばにゲルがあり、現代モンゴルと伝統的モンゴルとの対比が見えます。
プレブオチル監督:モンゴルの国土は非常に広大ですが、人口の半分以上は首都のウランバートルに住んでいます。10年ほど前から遊牧民が都市部に移動する現象が起きており、映画で描いた都市部のゲル地域で近代的な生活を送りながら、自分たちのアイデンティティを維持しています。このゲル地域が(遊牧民の)移行期を表している象徴的な場所で、そのように都市部に住む人と遊牧民的な生活をしている人が繋がりを維持していることも見せたいと思いました。
遊牧民的生活を営む人と都市部に住む人の関係性は割とはっきりしており、それぞれが自身の生活スタイルを貫こうとしています。映画の中でも高校生のシャーマン、ゼの母が家の前でミルクを太陽や大地に向かって撒く祈りのシーンがありましたが、これも伝統であり、ゲル地域で維持しています。その一方で、アパートの住民の中には「おばあさん、ミルクを撒く習慣はもうやめたのか?」というからかいの声があるのも事実です。政府が都市化を進め、アパートを建てようとしていますが、わたし自身はゲルの地域や空間をきちんと保存し、文化のアイデンティティとして保つべきだと考えています。
■ゲル地域こそがユニバースで主人公が再出発する生き方を選択した場所
―――高層ビルが並ぶ街を俯瞰で描写したり、教師に叱られ続けた生徒たちが最後にクラス全員で動物のように吠えるなど、様々な要素が含まれていました。
プレブオチル監督:映画においてはあくまでもゲル地域を中心に据え、高層ビルや都市の風景を遠景として描きました。モンゴルではゲル地域は貧困やアルコールに溺れている人というイメージを持たれていますし、その地域から有名になった人も「今はアパートに住めるようになった」という言い方をするケースもあります。無視されている地域ですが、わたしはこの地域こそが重要でパワーのある場所であり、そここそがユニバースであり、始まりと終わりの場所であることを捉えようとしました。主人公もゲル地域で人生の再出発をするという生き方を選択しましたし、今の若者たちにもゲル地域の重要性を伝えていきたいと思っています。
第19回大阪アジアン映画祭公式サイト https://oaff.jp
(江口由美) Photo by OAFF