
『ひまわりと子犬の7日間』『あの日のオルガン』の平松恵美子監督最新作『蔵のある街』が、第20回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門作品として3月14日「テアトル梅田」(大阪市北区)で世界初上映された。
倉敷出身の平松恵美子監督が倉敷の美顔地区をはじめ、オール倉敷ロケで挑んだオリジナルストーリーの青春群像劇。高校生の蒼(山時聡真)が、幼なじみの紅子(中島瑠菜)の兄で自閉症の恭介(堀家一希)が木に登り、花火を見ようと探して騒ぎ担っている場に出くわしたことから、二人を助けるために「この街に本物の花火を上げる」と約束してしまう。高校生の壮大な約束が、昔ながらの街のコミュニティーにもさざ波を立て、さらには行動をはじめることで、何事も中途半端だった蒼や、母が去った後、兄や呑んだくれの父のケアをし続け、絵を学ぶ夢を諦めてきた紅子に起きる変化を瑞々しく捉えた感動作だ。

上映後に平松恵美子監督と同じく倉敷出身で恭介ことキョン君役を演じた堀家一希(OAFF2022『世界は僕らに気づかない』主演)と、蒼のアルバイト先のジャズ喫茶のマスターを演じた前野朋哉が登壇した。同級生から映画を作ってと言われても断り続けてきたという平松監督は「コロナ禍で花火を上げたという倉敷の同級生のエピソードがとてもよく、当時唯一いい気持ちになれる話だった。今は会えなくてもいつかは会いたい人のことをお互いに思い合いながら花火をあげる。そこから無謀な試みだとは思ったが、(映画の中の)倉敷で花火を上げることになりました」と製作の経緯を説明。エンドロールの花火映像は、新型コロナウィルスが第5類に分類される前までのコロナ禍で開催された花火大会の映像を大きな大会から、小さい地域のものまで集めて映し出しており、映画の中の花火の映像も集められた映像の中から使わせていただいたと花火の映像に込められた多くの協力者へ感謝の気持ちを表した。
今回、平松監督作品に初出演となった堀家さんと前野さんはオファー時のことを振り返り、
「素直に嬉しかった。全編を通して平松さんの私的な話が入っており、セリフの一言一言に温かみを感じます。ここ(倉敷)に帰れるのかと嬉しかった」(堀家)
「倉敷の美観地区は本当に地元で、青春時代を暮らした場所。脚本を読みながら、すごくイメージが湧きました。倉敷で100%ロケの作品を見たことがなかったのでワクワクしましたし、ストーリーも最高でした」と故郷で撮影される平松監督オリジナル脚本の作品への出演に感無量の様子。
今回、堀家一希が演じたキョン君は、レオナルド・デ・カプリオが一躍脚光を浴びた『ギルバート・グレイプ』で、高いところに登るのが好きな知的障害を持つ弟の役を彷彿とさせたが、平松監督も「堀家君は難しい役で心配していましたが、現場で話し合いをし、いつもニコニコした彼自身のキャラクターが、キョン君のキャラクターに合っていました」と賞賛。堀家も木の上の撮影が初日で「高いところにいるとみんなが心配してくれました」。
一方、平松監督が「安心感しかなかった」と讃えた前野朋哉は、ジャズ喫茶アベニューでのロケに、「高校時代通った思い出の場所でテンションが上がった」。今回は初めてのドラムプレイにもチャレンジしたという。

観客からは倉敷出身フィギュアスケーターで、映画初出演の本作で美術館の学芸員役を演じた高橋大輔に関する質問が寄せられ、学校は違うが成人式は一緒だったという同級生の前野が「倉敷のチボリ公園での成人式では高橋選手を同級生たちが取り囲み羨ましく思っていたが、まさか映画で共演できるとは思っておらず、嬉しかったです。ジャズ喫茶のシーンが高橋さんのクランクインでしたが、最初は緊張していたようで、撮影は『オリンピックより緊張した』そうです」とエピソードを紹介。堀池も「めちゃくちゃいい人です」と絶賛しつつ、一緒に散歩へと去っていくシーンで、後ろ姿のときに思わぬ質問が飛んできたことを回想。平松監督も「物腰よく、とても素敵な方」とその人柄や、現場で演技に慣れる速さに驚いた様子だった。
『蔵のある街』は7月25日倉敷先行公開、8月22日より新宿ピカデリー他全国ロードショー
第20回大阪アジアン映画祭は3月23日まで開催中。
詳しくはhttps://oaff.jp まで。
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