映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2014年10月アーカイブ

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写真左より写真左より池松壮亮、高橋愛実、沖渡崇史、中村映里子、藤村駿プロデューサー、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、中川龍太郎監督
 
池松壮亮イチオシの新星、中川龍太郎監督がラフマニノフの旋律にのせて描く『愛の小さな歴史』舞台挨拶@TIFF2014
登壇者:中川龍太郎監督、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、藤村駿プロデューサー、中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮
 

~20代スタッフ、キャストの”情熱”がほとばしる!鮮烈で優しい”家族の再生”~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門作品としてワールドプレミア上映された中川龍太郎監督の『愛の小さな歴史』。詩人としても活動している中川監督が原作、脚本も担当し、プロデューサーやメインキャストも20代というまさに若手の力が結集した作品だ。
 
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幼い頃に父親からの虐待に遭い、母親亡き後親戚の家で孤独に生きてきた夏希(中村映里子)。唯一の家族である実の妹がクスリ漬けになっていることを知る借金取りの夏生(沖渡崇史)。夏希は父親(光石研)に復讐するため、夏生は妹(高橋愛実)を救うため、孤独に生きてきた2人が唯一の家族と同居し、短くて熱い夏が始まる。
 

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家族だからこその衝突はとことん激しく、でも家族だからこそ分かり合える部分はとことん優しく、役者たちの情熱がスクリーンから溢れだしてくる感じは、どちらかといえば自然体の演技やさらりとした演出が多い最近の若手が作る日本映画にはない、懐かしさすら覚える。感情がぶつかり合う一方で、ふと笑わせるような演出も施したり、ラフマニノフの調べにのせて詩的に綴ってみたり、硬軟合わせながら展開する物語に思わず入り込んでいくのだ。主演の中村映里子、沖渡崇史をはじめ、妹役の高橋愛実らの体当たりの演技や、父親役の光石研が過去の大きな過ちを犯してしまい、今では社会で何もできなくなった情けない男をこれ以上ないぐらいリアルに表現。怒りを高ぶらせる登場人物たちの中で、父親の元同僚役の池松壮亮は、少ない登場シーンながら作品の中で癒しや笑いを生み出し、心憎いばかりの存在感を放つ。
 
 

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10月28日の上映前には、中川龍太郎監督、木ノ内輝エグゼクティブプロデューサー、藤村駿プロデューサー、そして出演者の中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮と総勢7人が登壇。満席の観客から大きな拍手で迎えられた。最初に「中川って誰?と思われるかもしれませんが、名前だけでも覚えてもらえれば。これからも映画を撮っていくので、よろしくお願いします」(中川監督)、「20代のスタッフ、若手の役者が頑張って作った映画が東京国際映画祭で上映されることはとても意味があること」(木ノ内)、「不器用で、ヘタクソで真っ直ぐな人間たちがぶつかる様を楽しんでもらえたら」(藤村)、「パッションがものすごい映画」(中村)、「若さあふれる映画。若さを楽しんで生きるということを考えてもらえれば」(沖渡)、「辛く悲しい中に希望がある」(高橋)、「(作品は)まだ観れていないけれど、(中川監督は)イチオシの監督です」(池松)とそれぞれが作品の見どころや印象を紹介しながら一言ずつ挨拶。
 
 

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司会の矢田部プログラムディレクターから、非常にタフな状況に置かれたヒロインを演じたときの心境を聞かれた中村は、「中川監督が本当に暑苦しいぐらいアツい人で、他のキャストのみなさんも情熱を持って本作に挑まれていたので、彼らに負けないように取り組みました。池松君が中川監督を紹介してくれたことがきっかけで、この映画に出演したのですが、池松君にがっかりされないようにがんばろうと思っていました」と緊張の面持ちで答えると、「緊張しすぎでしょ」と池松からフォローが。
 
 
 
 
 

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一方、本作の他にも様々な監督と組み、精力的に活動している池松は、中川監督の現場についての印象を聞かれ、「本作ともう1本、中川監督と一緒に撮ったのですが、4日ぐらいしか撮影していないので、あまり分かりません」と正直すぎる答えに観客も思わず大笑い。池松のコメントを受けて、中川監督は「池松君は気を遣ってそういう風に言ってくれたと思いますが、僕の現場は空気が悪いんです。皆、言いたいことがいっぱいあると思います」と自虐コメントで笑わせた後、「今も新作を撮っており、それと同時にこのように作品をみなさんに観ていただけるのが一番いいこと。前回の舞台挨拶でネタバレしてしまい矢田部さんに怒られたので、これぐらいにしておきます。どうもありがとうございます」と舞台挨拶を締めくくった。本作はもちろんのこと、まだまだ精力的に映画を撮っていくと宣言した中川監督の今後にも大いに期待したい。
 
 
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『愛の小さな歴史』
(2014年 日本 1時間20分)
監督:中川龍太郎
出演:中村映里子、沖渡崇史、高橋愛実、池松壮亮、光石研、中村朝佳他
 
第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)
 
第27回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
 

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「アクションよりダンスシーンに緊張」~『きっと、うまくいく』アーミル・カーンがアクション大作『チェイス!』で初来日! @TIFF2014
登壇者:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督、 アーミル・カーン(主演)
 

~インドの国宝級スター、アーミル・カーンのチャーミングな一面に会場メロメロ~

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10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭で特別招待作品として出品されているアクション超大作のインド映画『チェイス!』。インド映画史上最大という30億円の製作費もすごいが、何といっても注目したいのが『きっと、うまくいく』の大ヒットで日本でもファンが急増、そして本国インドでは国宝級の大スター、アミール・カーンの活躍ぶりだ。本作ではインド映画にお馴染みのアクションやダンスだけでなく、サーカスにまでチャレンジ。ダンスもタップダンスからシルク・ド・ソレイユを連想させるようなものまで、インド映画らしいダンスがさらに進化し、それだけでもエンターテイメントとして見ごたえ十分。もちろん、カーアクションを初めとしたアクションシーンは、シカゴでオールロケを敢行、ハリウッド映画顔負けのド迫力だ。
 
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12月5日の劇場公開に先駆けた東京国際映画祭でのいち早い上映に、急きょ主演のアーミル・カーン(以下アーミル)が初来日し、舞台挨拶に登壇することが決定。ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ監督(ヴィジャイ監督)と2人がにこやかに登場すると、来日を楽しみにしていた会場の観客からは割れんばかりの歓声と拍手が送られた。その大歓声に応えて「アイシテマス」と日本語で感謝を伝えたアーミル。監督と2人とも来日は初めてで、緊張して東京をトロントと間違えてしまったと笑わせるおちゃめな一面をみせた。「愛情を込めて作った作品なので、次はお客様から愛を与えてもらえれば」とヴィジャイ監督も初来日の喜びを表現した。
 
 
多くのオファーの中から『チェイス!』の出演を決めた理由を聞かれたアーミルは、アクションやサーカス、ロマンス、音楽と盛りだくさんでありながら、感情移入ができる点を挙げ、ヴィジャイ監督は役者として素晴らしいだけでなく人間性も素晴らしく、チームの和を大事にすることを褒め称えるだけでなく、難しい役でありながら役作りの大変さを周りに見せない点も挙げ、アーミルの演技に注目してほしいとアピール。

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ダンスやスタント、サーカスなど様々なチャレンジを強いられた撮影についての感想を聞かれたアーミルは「スタントは簡単ですが、ダンスは大変。リティック・ローシャンのように私はダンスが上手くないので、ダンスシーンが来ると緊張しました。スタントの中でもサーカスのスタントは何度もリハーサルを積み重ね、とても難しかったです。80~90%は実際に自分たちが高所で命綱なしで演じたので苦労しました」。また、シカゴでの全面ロケによるバイクスタントの撮影について聞かれたヴィジャイ監督は、「スタントは計画的に行うことが大切。スタントマンの安全性を確保することに最大の注意を払っています。いい役者であれば安全性を確保した上である程度のリスクを冒してもらうことも大切で、今回もア―ミルにはかなり危険なこともしてもらいました。みなさん映画館を出てからこのスタントは試さないでくださいね」とかなり難易度が高いアクションに臨んだことを示唆。質問に答えている間に会場で赤ちゃんの泣き声が聞こえてくると、すかさずアーミルが「僕の答えが気に入らなかった?」と場を和ませるジョークを飛ばすなど、大スターでありながらチャーミングな一面を随所に垣間見せた。

 

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最後に日本のファンに向けて、
「アイシテマス。この映画を観て楽しんでいただきたいですし、他の多くのインド映画も観ていただければうれしいです。愛と敬意を込めて、この映画を皆さんに捧げます」(ヴィジャイ監督) 
「ある日本人に声をかけられ、なぜ僕のことを知っているのかと聞くと、『きっと、うまくいく』を観てあなたの大ファンになったと教えてくれました。その時はじめて、日本で『きっと、うまくいく』がヒットしたことを知り、皆さんに受け入れてもらえてうれしかったのです。温かく迎えていただき、ありがとうございます。『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラーニ監督とまた新しい映画を撮りましたので、そちらも楽しみにしていただければうれしいです」とメッセージを寄せ、最後まで投げキッスで観客の声援に応えてくれたアーミル。東京国際映画祭ならではの豪華ゲストの登壇に、最後の最後まで会場から熱い拍手と歓声が送られた。
 

『チェイス!』
(2013年 インド 2時間31分)
監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アーチャールヤ
出演:アーミル・カーン、カトリーナ・カイフ、アビシェーク・バッチャン、ウダイ・チョープラー他
2014年12月5日(土)~TOHOシネマズスカラ座、角川シネマ新宿、TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ神戸ハーバーランド、TOHOシネマズ二条他全国ロードショー
公式サイト⇒http://chase-movie.jp/
 
第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)
 
第27回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
 

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ノルウェーの名匠、ベント・ハーメル監督が”測る”をモチーフに描く最新作『1001グラム ハカリしれない愛のこと』記者会見@TIFF2014
登壇者:ベント・ハーメル監督、アーネ・ダール・トルプ(主演女優)
 

~測ったように正確な日常が壊れたとき、新しいものの重みに気付く~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているノルウェーの名匠、ベント・ハーメル監督最新作『1001グラム ハカリしれない愛のこと』。“計量”をモチーフに、物の重みから人生の重みまで、様々なものの“重み”に思いを馳せたくなるヒューマンドラマだ。
 
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アーネ・ダール・トルプ演じる主人公のマリーは測量研究所に勤める女性研究員。毎日ノルウェー産の青い一人乗り電気自動車Buddyで出勤し、帰宅するとダブルベッドの半分だけに敷かれたマットレスの上で眠る。正確さが求められる仕事をこなし、淡々と日常を送っているマリーに訪れたのが、病気で倒れた父親の代理で、パリで行われる「1キロ」の重量学会に出席するという大役。厳重に保管された1キロの重りを握りしめてパリへ出張するマリーに新たな出会いと、思わぬトラブルが訪れる。
 
ベント・ハーメル監督らしい綿密に計算された演出や、ショットの数々。学会中に居眠りする研究員をさらりと映し出すなど、万国共通の人間のちょっと笑える日常も散りばめるのもハーメル流ならば、その中で孤独に生きる人間の変化を丹念に描き込むのもハーメル監督らしい物語といえよう。それに加え、今回は測量研究所が舞台となっているだけあり、日ごろ当たり前に考えている重量や計測について様々な考察が加えられているのも新鮮に映る。また、クールなノルウェーでの映像と、陽光溢れるパリの映像が主人公の心境と重なるかのようなコントラストを見せ、大人の女性の成長&恋物語としても見ごたえのあるとても洗練された作品だ。
 
10月25日に行われた記者会見では、ベント・ハーメル監督と主演のアーネ・ダール・トルプさんが登壇し、ハーメル監督が描く「孤独」についてや、ノルウェーやヨーロッパにおけるハーメル監督の評価、ハーメル監督作品で演じるにあたって苦労した点などが語られた。その内容をご紹介したい。
 

(最初のご挨拶)
ベント・ハーメル監督(以下ハーメル監督):これまでも私の作品はロングライトより配給されており、非常にうれしく思います。これからもこの関係が続いてくれればと願います。
アーネ・ダール・トルプ(以下アーネ):日本は初めてですが、とてもワクワクしています。ノルウェーにとって日本は憧れの土地で、友人に話すととても羨ましがられました。これから凄い冒険をするような気持ちです。
 
―――一人の女性の物語でありながら、キログラム(測量)という素敵なモチーフも散りばめられていますが、どちらが先にアイデアとして浮かんできたのですか?
ハーメル監督:全てが一度に浮かんだ、感じたといっても過言ではありません。もちろんキログラムの原基の話は面白いと思いましたが、それと同時に原基はいろいろなものを象徴しています。全てを感覚的に感じ、ストーリーを伝えたいと思いました。何か自分が作りたいものは元々自分の中にあり、何かに出会うことによって開花するのかもしれません。
 

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―――今まで男性を主人公にし、孤独を描くことが多かったですが、今回は女性を主人公に据えつつも孤独な生き方が映し出されています。これは監督ご自身の映画におけるトーンなのでしょうか。それともノルウェーという国からくるトーンなのでしょうか。
ハーメル監督:私の作品の中には孤独が底辺にあるのは事実で、ある程度はノルウェーという国に起因しているかもしれません。あるジャーナリストが私のことを「メランコリーウォッカベルト」と呼んだことがありますが、私は孤独というのは普遍的なものだと思って描いています。
 
主人公役のアーネは立派な女性です。ただ私のアプローチの仕方としては彼女を女性として描くのではなく、一人の人間として描いています。もし主人公が男性であっても、行動はそんなに変わらないのではないでしょうか。人間の本質を描いたつもりです。一つエピソードがあるのですが、何年も前に私の妻とアーネがタクシーに乗った時、アーネが「なぜあなたのご主人は女性を主人公にしないの?今度女性を主人公にするようにお願いをしておいて」という話をしていたそうです。妻は「わかったわ」と答えたそうですが、今回偶然主人公にアーネを抜擢したとき、後からアーネと妻は笑っていたそうです。
 
―――映画の中の車などのディテールや、バスルームの男女のやりとりもとてもキュートでしたが、今回の台詞のやりとりは全て脚本によるものですか?
アーネ:ほとんど脚本どおりです。やりとりは主に測定の単位をジョークっぽく話しているのですが、唯一私が考えたアドリブは「一握り」と言って、私の胸を触らせているくだりです。
 

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―――アーネさんからみたハーメル監督や監督の作品に対する印象を教えてください。
アーネ:ハーメル監督は、ノルウェーでとても有名な映画監督として知られています。今回撮影のためにドイツやフランスで、大作に出演しているような俳優たちと仕事をしましたが、彼らは「ハーメル監督の作品なら是非とも出たい」と言っていました。それぐらいヨーロッパでは皆が作品に出演を熱望する監督です。また私たちノルウェー人自身も孤独は自分たちの中にある大きな部分だと思っていますが、孤独を描いたハーメル監督の作品がこれだけ世界各国で受け入れられていることを考えると、孤独は普遍的なものなのだと実感しています。
 
―――ハーメル監督やその現場が他のノルウェーの監督と違う点は?
アーネ:他の監督とはかなり違います。ハーメル監督の作品には「これぞ、ベント・ハーメル」というサインのようなものが必ずあります。それがあるからこそ俳優たちはハーメル監督の世界観に全部入り込み、それを表現しなければなりません。その世界観はとても好きですが、演技や動作を正確にすることで世界観を表すので、演じるのは大変でした。例えばマリーがはかりを検査し、合格したらステッカーを貼るシーンがありますが、その貼り方一つにしても正確に真っ直ぐ貼るようにしたり、廊下の歩き方など全てがとても重要でした。撮影が進んでいくにつれて、車が動き、その動き方に合わせて私がフレームの中に入り、そしてカメラが動く。それが全て一体化するという瞬間が分かるようになりました。そういう撮り方をする監督です。
 

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―――凛々しく、美しく、厳しく、孤独でもあるマリーをどのような気持ちで演じたのですか?
アーネ:マリーはほとんど笑みを浮かべません。笑みはその人の内面を映し出す、とても強い表情です。監督とも事前にマリーがどれだけの笑みを浮かべるか議論し、今回は笑みをほとんど浮かべないようにしようと決めました。マリーの雰囲気や動作から体まで全てが硬いですが、それは彼女が全てを自分で気持ちや生き方、周りまでもコントロールしようとしていることを象徴しているのかもしれません。もしマリーが途中で笑ってしまったら、私は彼女がどこに行くのか分からなくなってしまうと思ったのです。笑うことはある意味気持ちを開放することですから、最後までとっておかなければ意味がないのです。
 
また研究所は殺風景ですが、とても広く感じます。それはとても大事なことで、彼女の思考に彼女のいる環境がとても関係があると思いましたし、また彼女の環境もとてもコントロールされています。また彼女の歩き方はとても速いのですが、唯一父親の遺骨を持っている時だけはゆっくり歩いています。それは彼女自身がとても大事なものを持っているという意識があるから、ゆっくり歩いているのです。
 
(江口由美)
 

『1001グラム ハカリしれない愛のこと』
(2014年 ノルウェー=ドイツ=フランス 1時間33分)
監督:ベント・ハーメル
出演:アーネ・ダール・トルプ、ロラン・ストッケル、スタイン・ヴィング
2015年10月31日(土)~シネ・リーブル梅田、京都シネマ、11月14日(土)~シネ・リーブル神戸他順次公開
 
公式サイト ⇒ http://1001grams-movie.com/
 

marseille-ki-550-2.jpg髭剃りが大変だった!?『マルセイユ・コネクション』ジル・ルルーシュ&セドリック・ジメネス監督舞台挨拶《東京国際映画祭2014》


◎日時:2014年10月26日(日)
◎ゲスト:ジル・ルルーシュ(42歳)、セドリック・ジメネス(?)


 『マルセイユ・コネクション』
・原題:The Connection [ La French ] 
・(135分 フランス語 Color 2014年フランス=ベルギー)
・監督/脚本 : セドリック・ジメネス
・プロデューサー : アラン・ゴールドマン・ 脚本 : オードレイ・ディヴァン
・撮影監督 : ローラン・タンギー     ・美術 : ジャン=フィリップ・モロー
・編集 : ソフィー・レーヌ        ・音楽 : ギヨーム・ルセル
・出演:ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュ、セリーヌ・サレット、メラニー・ドゥーティ、ブノワ・マジメル
© LEGENDE FILMS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA, SCOPE PICTURES


 
~現代の視点で描いたフランス版“フレンチ・コネクション”の醍醐味~

 
1970年代のマルセイユに実在した麻薬犯罪組織のボスと新任判事との攻防戦を描いた『マルセイユ・コレクション』。当時巨大な市場であったアメリカへの麻薬密売ルートを確立したのは、マルセイユを拠点とした“フレンチ・コネクション”と呼ばれた犯罪組織だった。ウィリアム・フリードキン監督の『フレンチ・コネクション』(71)とジョン・フランケンハイマー監督の『フレンチ・コネクション2』(75)では、まさにフランスからの麻薬ルートの取り締まりに命を懸けたニューヨーク麻薬取締官の活躍を躍動感あふれる映像で描いていた。当時、コルシカ島出身のフレンチ・マフィアと、シチリア島出身のイタリアン・マフィアの双方からアメリカへ麻薬が密売され、アメリカの若者が急激に麻薬に蝕まれていった。その後のアメリカ映画では大きな社会問題として数多くの作品で扱われるようになった。そんなマフィアが暗躍する世界を“ファミリー”の内側から描いたフフランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』シリーズはあまりにも有名。
 

marseille-550.jpgそしていま、マルセイユ出身の若き監督が、判事とマフィアのボスを両極において、それぞれの家族への想いや仕事に対する非情さを、現代の視点で細やかに物語る。特に、犯罪組織に果敢に戦いを挑み続けた判事の執念を、「勝負にこだわるギャンブラーのようだ」と語らせているところは人間臭くて興味深い。『アーティスト』(11)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジャン・デュジャルダンがミシェル判事役を、『この愛のために撃て』(10)のジル・ルルーシュが犯罪組織のボス・ザンパ役を演じて、なんとも豪華なW主演となった。また、数々の主演映画で日本でも大人気のブノア・マジメルがボスと敵対するマフィアの一員を、さらに今年のフランス映画祭で上映されたトニー・ガトリフ監督の『ジョロニモ 愛と灼熱のリズム』で主演したセリーヌ・サレットなど実力派が脇を固めている。

 本作を監督したセドリック・ジメネス監督と、犯罪組織のボス役を演じたジル・ルルーシュが東京国際映画祭のために初来日し、舞台挨拶を行った。
 


 

marseille-di-1.jpg――― 歴史的事件を扱っている本作の製作にあたりプレッシャーはなかったのか?
監督:プレッシャーはなかったが、責任は感じていた。私はマルセイユで生まれ育ち、父はザンパ関係者が経営していた店の隣でナイトクラブを経営していたので、子供の頃から彼等のことはよく知っていた。いつかはこの事実を物語りたいと思っていた。実在の人々に対し敬意を払いながら、マルセイユの人々に対しても裏切らないような作品を撮りたいと思っていた。


――― ハンディカメラの使用について?
監督:映画の中に観客が入り込んで、より登場人物たちを身近に感じてもらえるようにハンディカメラを使用した。人物と観客との距離感をなくして、キャストの動きに付いて行けるよう、活き活きとした映像を撮りたかった。


marseille-ji-3.jpgのサムネイル画像――― ジルは『プレイヤー』(12)でもジャンと共演して究極の遊び人をコミカルに演じていたが、今回はシリアスにガチ勝負?
ジル:ジャンとの共演作は3作品あるが、直接顔を合わせる共演は今回で2作目。長年の友人でもあるので、対決シーンでは苦労した。知らない者同士なら上手くいくところを、とにかく8時間は敵として顔を合せない、話もしない、といった具合に緊張関係を作った。そのせいで、その後心理カウンセラーを必要としたほどだった(笑)。
 

――― フレッド・カヴァイエ監督がジル・ルルーシュの印象について、「愛する妻のために東京の街を駆け巡るようだ」と言っていたが、東京の印象について?
ジル:小さい頃から東京に憧れていた。私にとって東京は『ブレーランナー』の世界のようだった。とてもユーフォニックで快楽的でワクワクするような、違うコードの街。フランスが中世に見えるくらい日本は近未来的。興味を掻き立てられる街なので、多くの監督が東京で撮りたいと思う気持ちがよくわかる。
 

ジルもジャンも体格が似ていて濃い無精ひげの印象が強かったが、本作ではスッキリ綺麗なお顔で、特にこんなハンサムなジル・ルルーシュを見るのは初めてではないかと思う。実在の人物がモデルなので、家族や関係者にリサーチして役作りをしたという。また、当時の男性は服や髪などスタイルにこだわり、いつもきちっとした格好をしていたので、ジャンとジルにもまめに髭剃りをするよう監督の指示があったようだ。「髭剃りが大変だったんだ!」とこぼすジル(笑)。
 


marseille-ji-1.jpgのサムネイル画像≪ジル・ルルーシュ≫
1972年、フランス生まれ。
演劇学校を卒業後、俳優業を開始し、『Ma vie en l'air』(未/05)でセザール賞の若手有望株賞にノミネートされる。その後、ジェロール・サム監督の『アントニー・ジマー』(未/05)、セドリック・クラピシュ監督『PARIS(パリ)』(08)、リュック・ベッソン監督の『アデル/ファラオと復活の秘薬』(10)等のヒット作に出演。また『ナルコ』(04)では出演と共に監督・脚本デビューを果たした。その他の主な出演作は、『世界で一番不幸せな私』(03)、『ジャック・メスリーヌ/フランスで社会の敵(パブリック・エネミー)No.1と呼ばれた男』(08)、『プレイヤー』(12)、フレッド・カヴァイエ監督の『この愛のために撃て』(10)と『友よ、さらばと言おう』(13)など。
 

≪セドリック・ジメネス監督≫
マルセイユ生まれ、監督兼脚本家。ニューヨークとロンドンで数年を過ごしたのち、独立系プロデューサーとしてパリで映画製作のキャリアをスタート。2011年にサスペンス『ハッキング・アイ』をプロデュース・監督し、批評家から高い評価を受け、ナポリ国際映画祭最優秀作品賞を受賞。ジャン・デュジャルダンとジル・ルルーシュが出演する本作は監督としての長編第2作である。
 


(河田 真喜子)

 

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実在の事件を基に描く“追い詰められた女教師”の決断。ブルガリア映画『ザ・レッスン/授業の代償』記者会見@TIFF2014
登壇者:ペタル・ヴァルチャノフ監督(兼脚本/プロデューサー/編集)、マルギタ・ゴシュア(主演女優)
 

~「今の世界は、力のない人が隅に追いつめられ、正しい選択をするチャンスが与えられない」~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているブルガリア映画『ザ・レッスン/授業の代償』。ブルガリアで実際に起きた事件を元に、主人公の女教師が次から次へと苦難に見舞われ、モラルの壁を越える決断をするまでを、担任クラスの現金盗難事件と絡めながらリアルに描くヒューマンストーリーだ。
 
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厳格な女性教師ナデの担任クラスでお金が盗まれ、ナデは盗んだ生徒にお金を戻すようにチャンスを与えるが、事態に何の進展も見られない。そんな中、突然ナデの家が取り押さえられることに。家賃を渡していたナデの夫がお金を使い込んでいたことが発覚し、ナデは支払期限までに大金を準備しなければならない羽目となる。なんとか手はずが整ったと思ったとき、更なる想定外の出来事が起き、ナデはどんどん窮地に追い込まれていく。
 
ブルガリアでは舞台で活躍している主演のマルギダ・ゴシュアが、真面目で曲がったことが嫌いで、それがゆえに問題を抱え込んでしまうナデの変化していく様を貫録十分に演じ、次から次へと起こる不測の事態に、我を忘れて奔走していくナデから目が離せなくなる。モラルを教える側が、その壁を越えて向こう側へ行ったとき、彼女はどんな表情に変わっていくのか。情け容赦ない闇金業者や警察との癒着、その一方でナデの窮地を救ってくれる友人や銀行窓口嬢など、様々な人たちのリアルな描写を交えながら、今のブルガリアが抱えている問題をも鮮やかに切り取っている注目作だ。
 
10月27日に行われた記者会見では、ペタル・ヴァルチャノフ監督と主演のマルギタ・ゴシュアさんが登壇し、このような事件が起こった背景の社会的考察や、製作本数が年間10本以下という現在のブルガリア映画業界事情、実在の人物を基にした主人公の描き方について語られた。その行動の内容をご紹介したい。
 

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―――実在の事件を基にし、モデルとなる女性が存在する中、マルギダさんはどのように役作りをしたのですか?
マルギダ・ゴシュア(以下マルギダ):面白いことにテレビで事件を起こした女性教師のインタビューを観ていたのです。その1ヶ月後に今回のオファーをいただいたので、本当に真実のキャラクターを演じられるということで非常にうれしかったです。彼女はとても落ち着いているし、教育もあり、とてもプライドが高い女性です。このような”マスク”がここまで色々なものを隠すことができるのかと思いましたし、私にとってもこの役を演じることは大きなチャレンジでした。”マスク”にかけられた謎々を紐解いていくような作業だったと思います。
 
―――とても真面目で、間違ったことが大嫌いな主人公が、最後のシーンでは顔色がすっきりと、表情も柔らかくなったように見えたのですが、意図的に主人公の変化を解放へと変化させていったのですか?
マルギタ:この作品はブルガリアで実際に起こった学校の先生による銀行強盗事件にインスピレーションを得ています。ただ実話として描くのではなく、新聞の見出しを元に、その事件がどのようにして起きたのかを想像しながら作品を作りました。色々と相談しましたし、最後に答えとなるようなことを描きたくなかったのです。彼女は有罪なのかどうか、また彼女は良い人なのか悪い人なのか。そのような答えを出すことはしなかったので、ラストの主人公の表情も意図的に変化させています。
 
―――銀行強盗を引き起こす前に、日本では考えられないような大胆な行動を公の場で主人公は起こしますが、主人公の心境の変化をどう表しているのですか?
マルギダ:私の住んでいる世界では、主人公の行動(道端でストッキングを脱ぐ)はそこまで変な行動ではありません。脱いだ瞬間は、自分のやりたくないことを強要され、彼女は苛立っていました。すごくイヤだったので、逆に銀行に向かってしまったのです。撮影のとき、なぜ彼女が銀行を襲ったのかを色々と議論しました。でも人生の中である瞬間に、自分の考え方が突然変わることもあるのではないでしょうか。彼女は自分の中で重たい石を上の方に押して上ろうとしていたのですが、急に「石は転がらせておけばいいのだ」と下におろしていく方向に気が変わってしまったのです。
ペタル・ヴァルチャノフ監督(以下ヴァルチャノフ監督):あのシーンでは壁の前に立っているのですが、すごくゆっくりとステップごとに決断していく様を、彼女に集中して描こうと試みました。
 

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―――今ブルガリアでは、年間映画製作本数が10本以下と聞いていますが、ブルガリアの映画業界事情について教えてください。
ヴァルチャノフ監督現在は年間3、4本ぐらいしか製作されません。しかも、この作品はブルガリアの通常の映画システムで作られたわけではありません。最初は映画ベストプロジェクトに選ばれたこともありましたが、ブルガリアのフィルムコミッションからは長編映画や脚本の経験不足などを理由に2回も(資金援助に)採用されず、私たち独断で撮影しようと決心しました。ラフカットの途中で、ギリシャのプロデューサーに気に入っていただき、出資や参加を申し出てくださって今にいたっています。ブルガリア映画界も少しずつは変わってきており、若手のプロデューサーや新しい監督が、新しい形で映画制作に取り組もうと模索しはじめています。より低予算ではありますが、8プロジェクトが今年助成に選ばれているので、来年の制作本数が10本以上に増えればと思っています。
 

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―――ブルガリアの社会変化を反映していると思いますが、旧共産圏の国における社会や価値観の変化について教えてください。
マルギタ:社会における劇的な変化というのは、モラルの変化に基づいています。これまで文化的に非常に重要と思われていたものが、ほとんどその価値を失ってしまいました。私は日本の文化がとても好きで、文化が人間の中の非常に重要な部分に根ざしています。私は人の魂が最も重要だと思っているので、文化はその魂に根ざしていると思っています。本来人間が一番行うべきなのは、自分の心、魂を大切にすることです。その部分をが価値を失ったことが私にとっては一番劇的な変化でした。
ヴァルチャノフ監督実際には共産主義が崩壊した後、何も変わらなかったということが真実です。最近のブルガリア、もしくは世界では力のない人が隅に追いつめられ、正しい選択をするチャンスが与えられず、そのまま底辺でいるのか、(アンモラルな)行動を起こすのかという選択しか与えられていません。本作でも先生が行動を実際に起こしてしまいますが、そこが問題なのだと思います。もうすぐブルガリアでは選挙が行われますが、そこでの選択肢も偽物ばかりです。
マルギダ:主人公の女性の中での罪悪感というのは、彼女が行った選択肢における罪悪感だと思います。お父さんに頭を下げてお金を貰うという選択肢もありましたが、彼女は別の方法を選びます。「体の一部がわずらえば、体全体をわずらう」という言葉が聖書か何かの中にあるのですが、色々な地域で内乱が起きているように、21世紀の罪にもつながっているのだと思います。
 
 
 

『ザ・レッスン/授業の代償』
(2014年 ブルガリア=ギリシャ 1時間45分)
監督:クリスティナ・グロゼヴァ、ペタル・ヴァルチャノフ(兼脚本/プロデューサー/編集)
出演:マルギタ・ゴシェヴァ、
【上映予定】
10月29日(水)14:30~ TOHOシネマズ日本橋
10月30日(木)21:00~ TOHOシネマズ六本木ヒルズ※ペタル・ヴァルチャノフ監督、マルギタ・ゴシュアさんによるQ&Aあり
 
第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)
 
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戦時下の母親の姿を、胸打つ映像で描くアゼルバイジャン映画『ナバット』記者会見@TIFF2014
登壇者:エルチン・ムサオグル監督、ファテメ・モタメダリア(主演女優)
 

~戦火が迫り誰もいなくなった山村に、一人残る母親ナバットの“静かなる闘い”~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているアゼルバイジャン映画『ナバット』。
 
大きな牛乳瓶を両手に抱えた女、ナバットが山道を黙々と下っていく冒頭のロングショットをはじめ、遠くで銃声が聞こえる村では日に日に村民が避難しても、ナバットが村を歩くシーンが何度も映し出される。丘の上の自宅にいるのは病気の夫と一頭の牛だけ。最愛の息子は92年にその短い人生を戦場で奪われ、息子の写真すら写真館で紛失してしまう。動物すらも逃げ出してしまうような、誰もいない村になっても、まるで弔いを捧げるかのように、また敵の目を欺くために、空き屋や誰も通わなくなった学校に日々ランプを燈しにいくナバット。たとえ戦争の影が肉薄しても、愛する夫や息子のいる場所から彼女は去らない。圧倒的な映像美や見事なカメラワークで、廃墟と化した村や、決意を秘めたナバットの表情を捉え、静かな決意が画面からひしひしと伝わってくる作品だ。
 
10月25日に行われた記者会見では、エルチン・ムサオグル監督とイラン女優でありながら、隣国のアゼルバイジャン映画に主演したファテメ・モタメダリアさんが登壇し、作品の背景となるアゼルバイジャンの状況や、戦時下の母親に対する想いが語られた。その内容をご紹介したい。
 

 

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(最初のご挨拶)
エルチン・ムサオグル監督(以下ムサオグル監督):日本に来る前に黒澤監督や小津監督などに触れ、日本に関する知識はありました。ソ連時代にさくらの映画があり、とても感心した覚えがあります。
ファテメ・モタメダリア(以下ファテメ):日本は第二の故郷、自分の家に戻ったような気がします。
 

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―――ファティメさんはイランの人気女優ですが、隣国のアゼルバイジャンでフィクション映画に参加されるのは初めての体験では?
ファテメ:(映画の)木が深い根っこでつながっているように、今の自分は映画界でしっかりした意味を持つ仕事をしていきたいのです。今まで53本の作品に出演し、様々な役を演じてきましたが、金銭や名誉は気にしていません。木を保つなら、枝の一つ一つが違う形の花を咲かせるようにしたい。一緒に仕事をしている若手監督は枝に咲く花のようなものです。私は自分の才能を差し出し、彼らからは若いエネルギーを映画に注ぎ込んでもらうのです。
 
―――戦死した息子の写真があった場所に、ナバットはチェ・ゲバラの写真を掲げていますが、監督にとってチェ・ゲバラはどんな意味を持つ存在ですか?
ムサオグル監督:ソ連時代、チェ・ゲバラは独立・自由の象徴としてヒーロー的な存在でした。今でも私の実家にはチェ・ゲバラの写真があり、何も知らない母は私の友人と思っているほどですが。ナバットはとてもシンプルな女性であり、母親です。彼女の中に全ての母親を反映させています。ナバットは息子にチェ・ゲバラを投影させたいと思ったのです。
 
ナバットは、「母親は全てを守るべき」というイデオロギーのもと行動しています。途中穴に落ちた狼を助けるシーンがありますが、単に一匹の狼を助けたのではなく、生き物全てを助けたのです。
 

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―――政治的な側面を感じさせる作品ですが、ソ連崩壊後どのようなことが起こっているのでしょうか?
ムサオグル監督:1991年にソ連が崩壊してから、ウクライナ以外、離国した全ての国が戦争に巻き込まれています。15カ国の統合や分解はどちらも血によるものだと思っており、今回は自分の国が経験している体験のみを描いています。
 
ただ、本作は戦争についての映画ではなく、戦時下において母親が直面することを描いたものです。ですから、アゼルバイジャンだけではなく全ての国に当てはまります。母親に最も重要な願いは、子どもたちが成長することです。戦争によって人の命が失われるだけではなく、(亡くなった人の)母親の願いも奪われてしまうのです。
 
―――ムサオグル監督は今まで自身で撮影し、ドキュメンタリー作品を製作してこられましたが、今回撮影は撮影監督に委ねておられます。撮影方法他現場でどのような話し合いが行われたのでしょうか?
ムサオグル監督:ドキュメンタリーはどういう状況かを見ながら製作するので、ドキュメンタリー製作の間はなかなか自分がどう考えているのかを表現することはできません。劇映画の場合、自分の考えを表現できるので、自身が撮影をしないことに葛藤はありませんでした。
 
―――強くて美しいナバットに感動しましたが、ファテメさんはどんな想いで演じたのですか?
ファテメ:ナバットは自分自身に世界から何か与えられることを期待していません。全てを差し出して、何も返ってこなくても平気なのです。ロケーションも言葉も、シチュエーションも私自身とはまったく違うので、非常にチャレンジが必要な演技でした。私は哀しみや痛みを強く受け止めて、立ち上がれるような、中身の強い女性が好きです。
 
 

『ナバット』
(2014年 アゼルバイジャン 1時間46分)
監督・脚本:エルチン・ムサオグル
出演:ファテメ・モタメダリア、ピタディ・アリエフ、サビル・ママドフ
【上映予定】
10月28日(火)21:15~ TOHOシネマズ六本木ヒルズ※エルチン・ムサオグル監督、ファテメ・モタメダリアさんによるQ&Aあり
10月30日(木)14:00~ TOHOシネマズ日本橋
 
第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)
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kitano-550.jpg第1回“SAMURAI(サムライ)”賞受賞記念 北野武監督スペシャルトークイベント《東京国際映画祭2014》

 

 第27回東京国際映画祭で新設された“SAMURAI(サムライ)”賞の初年度の受賞者である北野武監督を招き、「日本映画の未来と今」について語り合うトークイベントが開催されました。

日時・場所:10月25日(土)~@六本木ヒルズ49階アカデミーヒルズ内タワーホール
◎登壇者:北野武監督、トニー・レインズ(映画製作者/映画評論家/キュレーター)、クリスチャン・ジュンヌ(カンヌ映画祭代表補佐)、「PFF」各賞受賞監督、「日本学生映画祭」受賞監督

 


 
kitano-4.jpgトークショーの前半では、若手の映画監督からの質問に対し、「自分が描きたいものを自分なりに描けばいい。でも、嫌いなものも認めるという余裕も必要で、自分の好きなことを他の意見もあると思いながらつくっていけばいいんじゃないか。みんなマジメすぎるよね。余裕をもって、常に自分を客観的に見た方が追い詰められなくていいと思う」と、独自の映画論について時に冗談を交えながら、北野監督はお話しくださいました。


kitano-3.jpgトークショー後半では、日本映画に造詣が深いトニー・レインズ氏とクリスチャン・ジュンヌ氏も登壇し、北野監督の作品や日本映画について語っていただきました。日本映画に興味を持つきっかけとして、黒澤明や溝口健二、小津安二郎などの監督を挙げたレインズ氏とジュンヌ氏。最近の日本映画について、「映画の未来は今、この舞台の上にいる若い監督たちによってつくられます。かのオーソン・ウエルズ監督の有名な言葉で、“彼らは、未来を使い果たしてしまった”、というものがありますが、大会社による映画製作は終焉を迎えています。これからは若者が映画づくりの未来を担い、シネマというものをつくり上げていくと思います。映画づくりは学校でも学べますが、自分でつくることが最もよい学び方です」と、述べたレインズ氏にジュンヌ氏は同意し、「映画の未来は若手監督にあり、これは日本映画に限らず、全世界的な映画製作について言えることです。世の中の変化と共に監督も変わり、映画のメッセージもその伝え方も変わるでしょう。若手監督の皆さんが伝えたいメッセージを発信できることを願っています」と、語りました。北野監督は、「日本で作品の悪口ばかり言われていた時に初めて評価してくれたのがトニーさんで、いまだに恩義を感じている。だから若手監督のみなさんも、誰がどこで見ているか分からないので、好きな映画を撮った方がいい」と、述べました。


北野監督に興味を持つきっかけとなった作品についてジュンヌ氏は、「始めて北野監督の作品を見たのは、役者として出演した大島渚監督の1983年の作品、『戦場のメリークリスマス』でした。その後、監督作品を見たのは、『ソナチネ』でしたが、非常に印象的で、今でも北野監督の映画の中で一番好きな作品です。映画を見終わった後に残るノスタルジア、寂しさのような感情が、北野監督の作品に惹きつけられるところです」。レインズ氏は、「80年代の終わりに、『その男、凶暴につき』を見て素晴らしいと思い、バンクーバー国際映画祭で上映しました。その後の活躍は、皆さんご存知のとおりです」と、述べました。


kitano-2.jpg日本の若い監督の作品が海外で評価されるために必要なものについて、レインズ氏が、「商業映画の未来は、ごく少数の大手企業が握っています。ほとんどの若い監督は、そこに入り込みブレイクのきっかけとすることはできないでしょう。少なくとも近い将来においては、メジャーな商業映画にかかわるチャンスはさらに限られたものになっていきます。ですが別の媒体、つまりインターネットにおける配信方法を開拓するという方法があります。大きな劇場で上映されていない作品を見つけるということが、今後多くなっていくと思うのです。若手監督の皆さんは、新しい発信方法を追求すべきです。そして何よりも、良い作品をつくること。良い映画をつくれば、世界は注目します。世の中には優れた映画はそれほど多くありません。意外に思われるかもしれませんが、競争相手はそれほど多くないですよ」と、述べると、北野監督は、「何が必要かなんて、どうすれば宝くじが当たるかというような話だから、それは自分で探すしかない。参考意見としては受け止めていいけども、つくるのは自分だから。自分の世界を構築することがベストであって、自分で新しいものを見つけるかもしれない。私はがんばれとは言いません。若い芽は早く摘んでおいた方がいいですから」と、北野監督らしいコメントで、舞台上の若手監督にエールを送りました。

samba-b-550.jpg『サンバ』オリヴィエ・ナカシュ監督、オマール・シー舞台挨拶《東京国際映画祭2014》

フランス/オープニング興収No.1
3年前の東京国際映画祭グランプリ&男優賞受賞コンビ凱旋!!
第27回東京国際映画祭 特別招待作品


『最強のふたり』タッグ凱旋来日!
まさかの無茶ぶりに「ダメよ~、ダメ、ダメ」

 


 
2014年10月26日(日)、第27回東京国際映画祭 特別招待作品『サンバ』の舞台挨拶が行われました。
今回初来日になるオマール・シーと3年前に来日したオリヴィエ・ナカシュ監督が登壇し、お二人ならではの、ここでしか聞けないマル秘エピソードや最強のスマイル溢れるトークショーになりました!

【日時】10月26日(日)10:45~ 
【登壇者】オリヴィエ・ナカシュ(41)/オマール・シー(36)


 
samba-b-2.jpgオマール・シーは初来日。
監督と主演のオマール・シーが再タッグし、フランスで大ヒットしている『サンバ』は、ビザのうっかり失効でフランスから退去命令を受けたサンバ(オマール・シー)。ピンチの最中、移民協会で出会った、燃え尽き症候群の元キャリアウーマンのアリス(シャルロット・ゲンズブール)と、陽気な移民仲間。どん底でも失われないサンバの笑顔は、仲間たちを助け、やがてその出会いは奇跡を起こしていく、という物語。

 

上映前の舞台に登場した監督は「またこの場所に来れて大変光栄です」、オマールは「この場所に来れて嬉しいです。3年前に東京国際映画祭で頂いた最優秀男優賞は私にとって俳優として初めて受賞した作品でした。感謝しております。」と挨拶をした。


世界中で大ヒットした『最強のふたり』の後はどうだった?と司会者の質問にオマールは「激変した。世界中を飛び回り、こうやって日本に来れた。なによりも以前と変わったのは英語を話している自分です。勉強して話せるようになりました」と語った。


samba-b-3.jpgのサムネイル画像『最強のふたり』でリズミカルなダンスを踊っていたオマールだが、今回の役は踊りが得意ではない役。

「サンバという名前なのに踊れない」と監督。踊りが得意なオマール・シーに司会者からせっかくだからサンバを踊って欲しいとのリクエストに、オマールは「ダメよ~、ダメダメ」と答え、監督は「いいじゃないの~」と言い、会場のお客さんからは歓声と笑いが起こった。サンバの曲が流れ、軽快なステップで踊るオマールに会場中は笑顔に包まれた。

最後に「フランスで先日公開され、日本が2番目で本作を上映します。皆さん楽しんでください」と監督。
「また日本に帰ってきます。今日は本当にありがとう!」と最強の笑顔でオマール・シーは会場を後にした。

 



『サンバ』

samba-550.jpg(2014年 フランス 1時間59分)
【監督・脚本】エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ 『最強のふたり』
【撮影監督】ステファーヌ・フォンテーヌ
【原作者】デルフィーヌ・クーラン

【出演】オマール・シー『最強のふたり』、シャルロット・ゲンズブール『メランコリア』、タハール・ラヒム『ある過去の行方』、イジア・イジュラン
【配給】ギャガ   
★公式サイト⇒ http://samba.gaga.ne.jp/
(c) Quad - Ten Films - Gaumont - TF1 Films Productions - Korokoro

2014年12月26日(金)~TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


 <あらすじ>

samba-2.jpgアフリカからフランスに来て10年、料理人を目指して真面目に働く青年サンバに、ある日突然、国外退去命令が出される。ビザ更新通知にうっかり気付かず、拘束されるはめに。そんな絶体絶命の彼の前に現れたのは、移民協力ボランティアの女性、アリス。大企業のキャリアウーマンだったが、‘燃え尽き症候群’となりドロップアウトした過去を持つアリスは、窮地の中でも屈託ない笑顔を向けてくるサンバに興味を持ち、彼を救おうと尽力することに。

さらに、陽気なブラジル移民ウィルソンや、破天荒な法学生マニュなど、サンバの周りには彼の不思議な魅力にひかれた人たちが集まってくる。皆、心に傷を抱えているが、笑顔を忘れないサンバといると、楽しい気持ちになっていく。生まれも境遇も全く違う人たちのおかしくも風変わりな関係はいつまでも続くかに思えたが、ある日、サンバの身に思いもよらぬことが起こり―。

 

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「自信を持ってお届けできる作品」宮沢りえ、7年ぶりの主演作&世界へ臨む意気込みを語る~『紙の月』記者会見&ワールドプレミア@TIFF2014
登壇者:吉田大八監督、宮沢りえ、池松壮亮
 
(2014年 日本 2時間6分)
監督:吉田大八(『桐島、部活やめるってよ』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』) 
原作:角田光代(『紙の月』角川春樹事務所刊/第25回柴田錬三郎賞受賞)
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美
2014年11月15日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都他全国ロードショー
公式サイト⇒http://www.kaminotsuki.jp/
(C) 2014「紙の月」製作委員会
 
『紙の月』作品レビューはコチラ 
 

~宮沢りえが7年間の蓄積をぶつけた渾身作。ワールドプレミアで世界に挑戦!~

 
10月23日より開催中の第27回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として東京サクラグランプリを競う吉田大八監督最新作、『紙の月』。女性行員の巨額横領事件を題材にしながらも、事件の顛末をセンセーショナルに描くというよりはむしろ、どんどん解放されていく普通の主婦の内面の変化をドラマチックに映し出し、吉田監督の演出力や、それに応える主人公梅澤梨花役の宮沢りえの表現力に目を奪われる。
 
10月25日に行われた記者会見では、東京国際映画祭らしく海外プレスも多数参加し、世界からも注目を集めている作品であることが伺えた。その模様をご紹介したい。

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<記者会見>

 
(最初のご挨拶)
宮沢:梅澤梨花役の宮沢りえです。7年ぶりの主演作でとても大切に作った映画が、こんなに多くの海外メディアの方に注目され、とてもうれしく思っています。
池松:池松壮亮です。今日は本当にありがとうございます。東京国際映画祭から、この作品の勢いがつけばいいなと思っています。
吉田監督:監督の吉田です。皆さんとお話できるのを楽しみにしています。よろしくお願いします。
 
―――コンペティション部門作品として世界に臨む『紙の月』ですが、受賞の自信はありますか?
吉田監督:普段は日本語で考え、日本語で作ってきた映画が、東京国際映画祭のコンペティション部門

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に選ばれる機会を得て、世界でどういう風に観てもらえるのか。その反響が届くのはすごく刺激的ですし、また楽しみたいと思っています。(賞をとれたらという気持ちは)コンペティションという言葉の意味は分かっているつもりですから、負けたくはないですね。
宮沢:吉田監督は本当に撮影中、緻密な演出をしてくださいました。梨花役や『紙の月』を作り上げてきた時間は本当に妥協なく、「これ以上のことはできないと」毎回シーンに挑む度に思い、その積み重なりで出来上がった映画です。自信があるといえばありますし、胸を張ってみなさんにお届けできる映画になったと思います。
池松:コンペティション部門作品に選ばれたからには自信をもって、いい知らせを待ちたいと思います。
 
―――映画の中で、アメリカのルー・リードの曲を選曲された理由は?
吉田監督:映画が終わった後で流れる歌ですね。男性から女性を観たときに割とよく使う言葉で「ファムファタール」という言葉があります。僕の中では「ファムファタールになれる女性なんていないよね」という男性から女性を観たときに感じることを歌にしたものだと思っています。映画の中でも主人公の梨花を多くの男性が眺めていますし、彼らに梨花は見送られながら進んでいきます。見送るのに相応しい曲という点と、梨花の顔と歌声がマッチするという直観的な理由もありました。
 
―――7年ぶりの主演を務めるにあたって「それまで溜めていたものを全て注ぎ込んだ」とのコメントがあったが、具体的にはどのようなものを自らの活動の中で蓄積されていたのか?

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宮沢:10代の頃から主に映像の活動をしており、20代で舞台も経験しましたが、30歳になったときに野田秀樹さんの『透明人間の蒸気』という舞台に参加させていただき、初めて演劇を作る場での自分の無力さに気づきました。このままではいけないと自省し、40歳になるまでにできるだけ舞台に心も時間も費やしたい、そして40歳になったときにちゃんと舞台の上に立っていられる役者になりたいという目標を立てました。30代でも映画のお話はいただいていましたが、どうしても自分の40歳までの目標を達成したかったので、ずっと舞台に目を向けていました。演劇をやっていてたくさんの発見や学んだこと、豊かになれたことがあり、それらを40歳からはバランスよく映像や舞台の仕事に取り組もうと思っていたところに、『紙の月』のお話をいただきました。タイミングはとても大事だと思いますので、7年間で自分が得たものをこの映像の世界で出していこう。そういう気持ちで臨みました。
吉田監督:宮沢さんが、蜷川幸雄さんや野田秀樹さんといった世界的な舞台演出家とお仕事をされていて、映画から距離をとっているように見えていたので、映画側の人間としては少し悔しい気持ちもありました。受けていただけるかどうか分かりませんでしたが、オファーして引き受けていただいたことで、この映画はちゃんと勝負できる企画だという自信が持てました。タイミングが良かっただけというのは、後から聞いた話ですが。
宮沢:グッドタイミングなだけではなく、もちろん吉田監督とお仕事することにも興味がありましたよ。
池松:この仕事をしていると色々な女優さんに出会いますが、これだけ一つの作品に身も心も投げられる人を僕は初めてみました。
 


<舞台挨拶>

 

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記者会見後に行われたワールドプレミア上映前に、吉田大八監督、宮沢りえ、池松壮亮が登壇。満席の客席から大きな拍手が贈られた後、最初のご挨拶では「一般のお客様に観ていただくのは今日が最初で、武者震いしています。今日はよろしくお願いします」(吉田監督)、「梅澤梨花を演じると決めてから今日までは、世界を3周ぐらいマラソンしてここにたどり着いたような気分です。公開初日がゴールだとすれば、今ようやく歓声が聞こえ始め、ちょうどクライマックスだなと思います。本当に一生懸命、妥協せずに携わった作品なので、自信をもってお届けしたいと思います」(宮沢)、「一般公開前に観ていただくのはすごく緊張しますし、映画祭で上映されるということで間口も広がり、どうなるのかとワクワクしています。好きなように騒いでもらうなり、応援してもらうなり・・・いや、応援してください」(池松)と緊張と喜びに満ちたコメントが語られた。
 

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司会の矢田部プログラミングディレクターから7年ぶりの主演作に臨んだ心境を聞かれた宮沢は、「脚本をいただき、梅澤梨花という役を目の当たりにしたとき、今まで演じてきた中で初めて私の中にモデルとなる人物が見当たらず、演じきれるかという不安が大きかった。監督との話し合いや池松さんとの共演の中で、梨花という人格がようやく輪郭を帯び、最終的にはものすごい熱を帯びた梨花ができあがってよかった」と大いなるチャレンジであったことを明かした。一方、梨花が恋に落ちる大学生光太を演じた池松は、「宮沢さんとは1か月一緒に撮影し、ほんの10%も(宮沢さんという人を)分かったつもりはないが、これほど役に身も心も捧げて『この人は、もうどうなってもいいんだな』と思う女優さんは今までにいなかった」とその徹底した役作りぶりを池松らしい言葉で表現。宮沢に梨花役をオファーすることからスタートしたという吉田監督は、「梨花は逃げながら、ある大きなものに立ち向かう一方、繊細な心のゆれを感じて進む女性。ダイナミックな表現とミリ単位の表現の両方を突き詰め、撮影では毎日奇跡が起こっていた。その奇跡をこぼさず映画にできたと思う」と、綿密な演出によって最高の演技が引き出されたことを明かした。
 

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舞台挨拶後のフォトセッションでは、満面の笑みで会場の観客の声援に応えた3人。31日に発表されるコンペティション部門の受賞に期待が高まる。第27回東京国際映画祭は10月31日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、TOHOシネマズ日本橋他で開催中。(江口由美)

 
第27回東京国際映画祭公式サイトはコチラ 
 

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 《第27回東京国際映画祭》開幕!オープニングセレモニー


今年いちばんの冷え込みとなった昨日10 月23 日、第27 回東京国際映画祭が開幕しました。

六本木ヒルズに敷かれたレッドカーペットには、フェスティバル・ミューズを務める中谷美紀さん、スペシャルアンバサダーの嵐のみなさんやフェス
ティバル・ナビゲーターのハリー杉山さんと岡本あずささんの他、国内外から多くの映画人が登場し、沿道のファンの握手やサインに応じました。

tiff-23-3.jpgオープニング作品であり、東京国際映画祭での上映がワールド・プレミアとなる『ベイマックス』の製作総指揮のジョン・ラセターさんは、「コンバンワ!東京は『ベイマックス』に非常に大きな影響を与えており、私たちがもっとも愛するふたつの都市、サンフランシスコと東京を融合させた街を舞台としています。ワールド・プレミアを東京で開催することを嬉しく思います」と、コメントしました。

また会場をTOHO シネマズ 六本木ヒルズ スクリーン7 に移し、笠井信輔さんが司会を務めるオープニングセレモニーが開催されました。会場には高円宮妃久子殿下にご臨席を賜り、また、知的財産戦略、クール・ジャパン戦略担当の平将明副大臣、知的財産戦略、クール・ジャパン戦略担当の松本洋平大臣政務官、そして伊藤達也衆議院議員をご来賓としてお迎えいたしました。

まずはTIFF スペシャルアンバサダーの嵐が登壇し、「クール・ジャパンの一環と言えるこの東京国際映画祭にかかわることができて、メンバー一同大変嬉しく思っています。また、僕たちは4年前から観光立国ナビゲーターとして、日本を海外のみなさんにアピールするお手伝いをさせていただいております。海外の方へ日本の良さを伝えるためにどうすればよいのか、それはまず僕らがこの日本という国と向き合ってみようという結論にいきつきました。改まって向き合ってみると、自分たちも知らなかった日本の魅力というのが本当にたくさんあって、自分たちが暮らすこの国をもっともっと好きになりました。映画祭の期間中は、海外からもたくさんのゲストの方にお越しいただくので、これを機会に日本の良いところをたくさん知っていただき、ここ東京そして日本のことを好きになっていただき、そしてまた日本に来たいと思っていただければ、僕たちとしては嬉しく思っています」と、メンバー全員より、代わる代わるコメントをいただきました。

安倍晋三総理大臣からは、「今年も東京国際映画祭がスタートしました。27 回目を迎えたこの映画祭は毎年新しいチャレンジをしています。今年は秋元康さんのプロデュースのもとに新たなチャレンジをし、北野武さんにもいろいろなことをお願いして、まさにオールスターで日本の素晴らしさを、クール・ジャパンを世界に発信をしていただいていると思います。嵐のみなさんにも協力をいただいて、今日もお越しいただいたおかげで外は雨模様になっていますが、まさに嵐を呼んでもらいたい、嵐を引き起こしてもらいたいと思います。まさにこの東京、日本はアジアのゲートウェイであり、東京から日本から世界へ、東京へ行こう、それをまさにこの東京国際映画祭の合言葉にしたいと思います。また、2020 年には、この東京でオリンピック、パラリンピックが開催されます。スポーツだけではなく、文化や芸術や経済、そして技術で日本が世界の真ん中で2020 年までに輝く国にしたいと思います。この映画祭が大成功に終わり、そしてさらに日本の映画界が発展し、そして私たちや世界にもっともっと夢や希望、勇気を与えてくれることを祈っています」と、力強いエールをいただきました。

tiff-23-4.jpgさらに、今年の東京国際映画祭の各部門の審査委員、そしてコンペティション部門の国際審査委員が紹介されました。これからのアジア映画界をリードしていく若い監督の作品を集めた「アジアの未来」の審査委員にはキャメロン・ベイリーさん、ジェイコブ・ウォンさん、ヤン・イクチュンさん。今年より「アジアの未来」部門に新設された、「国際交流基金アジアセンター特別賞」の審査員の安藤裕康さん、そして佐藤忠男さん。日本から世界へ、強い個性のある作品を紹介する「日本映画スプラッシュ」の審査員のトニー・レインズさん、クリスチャン・ジュンヌさん、熊切和嘉さん。また、「コンペティション」のイ・ジェハンさん、ロバート・ルケティックさん、エリック・クーさん、デビー・マクウィリアムズさん、品川ヒロシさん、そして審査委員長のジェームズ・ガンさん。審査委員を代表してジェームズ・ガンさんは、「私には3 人のヒーローがおり、それはウルトラマン、仮面ライダー、そして黒澤明監督です。ですので、東京国際映画祭に来ることができて非常に嬉しく、光栄に思っています。真実を描いた映画、重要なメッセージ性がある映画を見るのを楽しみにしています」と、コメントしてくださいました。

東京国際映画祭のフェスティバル・ミューズを務める中谷美紀さんは、「東京国際映画祭は文字通り、さまざまな映画を見ることができるお
祭りです。映画という共通言語をもとに、さまざまな国の文化に触れることのできるまたとないチャンスです。どうぞみなさまお気軽に足をお運びいただいて、劇場で映画を味わう楽しさをぜひ感じてください」と、ご挨拶されました。

tiff-23-2.jpg最後に、オープニング作品である『ベイマックス』のドン・ホール監督、クリス・ウィリアムズ監督、プロデューサーのロイ・コンリさん、ディズニー・アニメーション・スタジオのエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデントのアンドリュー・ウィルシュタインさん、製作総指揮のジョン・ラセターさん、そして日本語版の声優を務めた小泉孝太郎さんと菅野美穂さんが登壇。東京国際映画祭でのオープニングにあわせて本作を完成させたというドン・ホール監督は、「『ベイマックス』は日本、そして日本文化に非常に多くのインスピレーションを受けており、いわば日本へのラブレターだと考えています。東京国際映画祭のオープニング作品として上映されることを非常に嬉しく思っています」と、語りました。クリス・ウィリアムズ監督は、「私たちは今まで、日本の美意識や感性に非常に影響を受けてきました。今回の上映をとても光栄だと思いますし、誇りに思っています」と、語りました。オープニングセレモニーが閉会となった会場では、オープニング作品である『ベイマックス』が上映されました。