制作年・国 | 2014年 日本 |
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上映時間 | 2時間6分 |
原作 | 角田光代(『紙の月』角川春樹事務所刊/第25回柴田錬三郎賞受賞) |
監督 | 吉田大八(『桐島、部活やめるってよ』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』) |
出演 | 宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美 |
公開日、上映劇場 | 2014年11月15日(土)~丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、OSシネマズ神戸ハーバーランド、TOHOシネマズ二条、MOVIX京都他全国ロードショー |
~破滅からはじまる解放もある~
今年1月に原田知世と満島真之介でドラマ化された直木賞作家、角田光代の『紙の月』。女性銀行員の巨額横領事件を核とした同級生女子たちのお金を巡る群像劇は、人間とお金の関係性や、主人公がそこまでして得ようとした万物感について思いを巡らしたくなる非常に興味深い内容だった。映画化にあたって、原作やドラマで登場した同級生のエピソードを割愛、主人公梨花の堕ちながら解放されていく様に焦点を絞っている。『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八監督が仕掛けたサスペンスは、事件の顛末をセンセーショナルに描くというよりは、むしろどんどん解放されていく普通の主婦の内面の変化をドラマチックに映し出しているのだ。
1994年、優しい夫と二人で暮らす平凡な主婦、梅澤梨花(宮沢りえ)は、契約社員として働いている銀行で真面目な仕事ぶりが評価され、気難しい顧客対応も任される存在。ある日、訪問先で出会った大学生の光太(池松亮介)と恋に落ちた梨花は、不倫関係を重ね、次第に顧客の預金に手をつけるようになる。お金がただの紙切れにしか見えなくなった梨花は光太の借金を肩代わりするだけではなく、光太が気を遣わないように金持ちの妻であるかのごとく散財してみせ、二人は夢のような日々を送るのだった。だが、梨花の横領は銀行の同僚によって突き止められようとしていた・・・。
銀行内で規律にのっとり、正しいと思う事を指導してきた後方事務員の隅(小林聡美)や、上司の不正隠しのため不倫関係となり、ありきたりな結婚退職を果たす女の本能丸出しの窓口係の相川(大島優子)など、「自分が正しい」と思うことを貫く女たちを映画オリジナルのキャラクターとして配置。時には梨花の黒い部分を目覚めさせる役割を果たし、時には黒い部分が丸出しになった梨花と対峙する役割を果たす同僚の二人を通じて、梨花の変化がより浮かび上がっている。
偽物の愛、偽物の金と分かっていながら、だからこそ自分を解放していった梨花。彼女の平凡な日々を劇的に変化させる役割を果たした年下の大学生・光太を演じるのは池松壮亮だ。梨花に与えられ続けることで、どんどんと横柄になり、飼い殺し状態の息苦しさや偽物の世界から飛び出していく光太の変容ぶりを、宮沢りえ相手に堂々と演じている。年の離れた2人の恋愛劇につい目を奪われてしまいがちだが、隅が梨花の巨額横領の不正を告発し、会議室で2人が対峙するシーンは「本当にやりたいことをやっているか」という人生への問いも語られる本作一番の見どころだ。破滅から自由への扉が開く瞬間、目の覚めるような衝撃と同時に、なんとも言えない開放感に包まれることだろう。
冒頭の讃美歌をはじめ、時折挿入される梨花のミッションスクール時代の寄付に関するシーンから、施しとは何なのかという問いも浮かび上がる。見返りを期待しない施しなどあり得るのか。施しをすることで自己満足をしているのではないか。たとえどんな手段を用いても「施す」という行為にこだわった梨花は100%罪人と言い切れるのか。単なる転落劇として描くのではなく、様々な哲学的な問いを秘めた物語。宮沢りえの熱演に惹きこまれながら、梨花を犯罪者として見るのではなく、自由を求めて走り続ける女として、密かな羨望を抱きつつ見守り続けたいと思った。(江口由美)
(C) 2014「紙の月」製作委員会