映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2024年3月アーカイブ

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 第19回大阪アジアン映画祭の受賞結果が最終日の3月10日、ABCホール(大阪市福島区)にて発表され、モンゴル映画『シティ・オブ・ウインド』が見事、グランプリに輝いた。同映画祭でモンゴル映画がグランプリに輝いたのは初の快挙となる。
3月8日の日本初上映後には、ラグワドォラム・プレブオチル監督が舞台あいさつで登壇し、「将来の作品アイデアとして相撲を題材にすることを考えており、大阪場所の朝稽古を2時間見学してきたところです」とご挨拶。日本を訪れることが夢だったというプレブオチル監督が、作品の狙いやモンゴルでのシャーマニズム、ゲル地域の現状について丁寧に語ってくださった。その内容をご紹介したい。
 
 
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■モンゴルにおけるシャーマニズムの歴史〜生活の一部として根付く

―――モンゴルでのシャーマニズムの変遷や現代での受け入れられ方について教えてください。
プレブオチル監督:シャーマニズムはモンゴルの歴史当初から続いており、我々の生活の一部として根付いています。ジンギスカンも彼自身のシャーマンがいましたが、次第に仏教がシャーマニズムにとり変わり、共産主義や資本主義も台頭してきましたが、それにもかかわらずモンゴルではシャーマニズムが歴史上続いています。それは、我々が必要だからこそ生き残っているのだと思います。ですから本作では宗教や現代的な動きとシャーマンとの対立を描いたり、共存しているものの中のどれかを描こうとしたのではありません。葛藤のみに焦点を当てるのではなく、シャーマニズムが現代社会の日々の中にどう息づいているかを描こうとしました。
 
 

■伝統を維持するゲル地域をきちんと保存し、文化のアイデンティティを保つべき

―――都市のそばにゲルがあり、現代モンゴルと伝統的モンゴルとの対比が見えます。
プレブオチル監督:モンゴルの国土は非常に広大ですが、人口の半分以上は首都のウランバートルに住んでいます。10年ほど前から遊牧民が都市部に移動する現象が起きており、映画で描いた都市部のゲル地域で近代的な生活を送りながら、自分たちのアイデンティティを維持しています。このゲル地域が(遊牧民の)移行期を表している象徴的な場所で、そのように都市部に住む人と遊牧民的な生活をしている人が繋がりを維持していることも見せたいと思いました。
 
遊牧民的生活を営む人と都市部に住む人の関係性は割とはっきりしており、それぞれが自身の生活スタイルを貫こうとしています。映画の中でも高校生のシャーマン、ゼの母が家の前でミルクを太陽や大地に向かって撒く祈りのシーンがありましたが、これも伝統であり、ゲル地域で維持しています。その一方で、アパートの住民の中には「おばあさん、ミルクを撒く習慣はもうやめたのか?」というからかいの声があるのも事実です。政府が都市化を進め、アパートを建てようとしていますが、わたし自身はゲルの地域や空間をきちんと保存し、文化のアイデンティティとして保つべきだと考えています。
 
 
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■ゲル地域こそがユニバースで主人公が再出発する生き方を選択した場所

―――高層ビルが並ぶ街を俯瞰で描写したり、教師に叱られ続けた生徒たちが最後にクラス全員で動物のように吠えるなど、様々な要素が含まれていました。
プレブオチル監督:映画においてはあくまでもゲル地域を中心に据え、高層ビルや都市の風景を遠景として描きました。モンゴルではゲル地域は貧困やアルコールに溺れている人というイメージを持たれていますし、その地域から有名になった人も「今はアパートに住めるようになった」という言い方をするケースもあります。無視されている地域ですが、わたしはこの地域こそが重要でパワーのある場所であり、そここそがユニバースであり、始まりと終わりの場所であることを捉えようとしました。主人公もゲル地域で人生の再出発をするという生き方を選択しましたし、今の若者たちにもゲル地域の重要性を伝えていきたいと思っています。
 
第19回大阪アジアン映画祭公式サイト https://oaff.jp 
(江口由美) Photo by OAFF
 
 
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 第19回大阪アジアン映画祭は、3月1日から10日間の上映を終えて閉幕し、最終日の10日に授賞式が行われた。見事グランプリに輝いたのは、モンゴル映画の『シティ・オブ・ウインド』。台湾映画『サリー』(リエン・ジエンホン監督)が来るべき才能賞とABC賞の2冠を獲得、尼崎を舞台にした日本映画『あまろっく』(中村和宏監督)が観客賞を獲得した。全ての授賞結果と授賞理由をご紹介したい。
 
★グランプリ(最優秀作品賞)
『シティ・オブ・ウインド』(City of Wind)|フランス・モンゴル・ドイツ・ポルトガル・オランダ・カタール|監督: ラグワドォラム・プレブオチル(Lkhagvadulam Purev-Ochir)
 
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<授賞理由>
青春映画というジャンルの枠組みでグランプリを受賞した本作は、私たちが見たことのない世界を照らし出し、スピリチュアリティや世代間の対立といった問題を、巧みさと自信に満ちた手腕で描き出す。この映画は、主人公の成長を繊細に描きつつ、啓示的な演技を中心に据えている。
 
★来るべき才能賞
リエン・ジエンホン(LIEN Chien Hung/練建宏)|台湾|『サリー』(Salli/莎莉)監督
<授賞理由>
リエン・ジエンホン監督は、予想だにしなかった展開とひねりを加えつつも、過去の偉大なキャラクター主導型コメディを彷彿とさせる素晴らしい創作力を発揮した。思い出の場所や人物を散りばめた卓越した脚本で、心からの感動と大爆笑コメディを両立させるテクニックを披露したリエン監督の次回作を大いに期待する。
 
★ABC テレビ賞
『サリー』(Salli/莎莉)| 台湾・フランス | 監督: リエン・ジエンホン(LIEN Chien Hung/練建宏)
<授賞理由>
とてもほっこりした気持ちにさせる映画です。パリへと渡る主人公の葛藤もうまく描けていますし、家族や友人との触れ合いも暖かく、読後感が大変良いです。なにより、ニワトリが可愛い!
 
★薬師真珠賞
チー・ユン (CHI Yun/池韵)|オーストラリア・中国|『未来の魂』(Unborn Soul/渡)主演俳優
<授賞理由>
チー・ユン(池韵)という俳優が存在したからこそ『未来の魂』は生み出された。そして彼女の繊細で深みのある演技が、観客の魂を最初から最後まで揺さぶりつづけた。
 
★JAPAN CUTS Award
『カオルの葬式』(Performing KAORU’s Funeral)| 日本・スペイン・シンガポール | 監督: 湯浅典子(YUASA Noriko)
<授賞理由>
『カオルの葬式』はある家族の葬儀の場で起きる赤裸々な感情のぶつかりを見事に捉えたホームドラマである。タガの外れた演技の完璧な掛け合いが、パーカッションのリズムが心地よいサウンドトラックと勢いのいい編集と相まって、家族の機能不全を面白くも切なく描いたダークコメディに仕上がっている。
 
★JAPAN CUTS Award スペシャル・メンション
『ブルーイマジン』(Blue Imagine) | 日本・フィリピン・シンガポール | 監督: 松林麗
(MATSUBAYASHI Urara)
<授賞理由>
松林麗の力強くて誠実な初監督作である『ブルーイマジン』は私たちが生きる現在の証であり、そのメッセージにおいて緊急性を、そのアプローチにおいて癒しを感じさせる。現代文化に蔓延るセクハラや虐待に大胆に立ち向かう一方で、団結のレジリエンス(回復力)を指し示している。
 
★芳泉短編賞
『シャングリラに逗留』(Sojourn to Shangri-la/是日訪古) | 中国 | 監督: リン・イーハン (LIN Yihan/林詣涵)
<授賞理由>
強烈なイメージの魅力で観客の心を掴んで離さない物語は、一連のマジカルな展開に続く導火線に火をつけ、特に驚くほどパワフルな後半で映画的衝撃をもたらす。『シャングリラに逗留』は見る者すべてに驚きを与え、それは監督の映画づくりの成功と言える。
 
★芳泉短編賞スペシャル・メンション
『オン・ア・ボート』(On a Boat)| 日本 |監督: ヘソ (Heso)
<授賞理由>
結婚と人間関係をテーマに真摯に向き合った本作で、ヘソ監督は力強い演出力と緻密に計算されたテクニックで完成度の高い作品に仕上げ、確固たる才能を印象付けた。
 
『スウィート・ライム』(Sweet Lime)| 香港・イギリス |監督: ファティマ・アブドゥルカリム (Fatema
ABDOOLCARIM)
<授賞理由>
子供であること、大人であること、そして女性であることについての重要な物語を、映画制作の高い能力をもって表現した。アブドゥリカリム監督自身のコミュニティに対する貴重な洞察であり、家父長制文化に抑圧される女性たちへのリアリズムに基づいた観察でもある。
 
★観客賞
『あまろっく』(Amalock)|日本|監督:中村和宏(NAKAMURA Kazuhiro)
 
登壇者(敬称略。右から)
デイヴ・ボイル(コンペティション部門審査委員)Dave BOYLE
村田敦子(コンペティション部門審査委員)MURATA Atsuko
アンガ・ドウィマス・サソンコ(コンペティション部門審査委員)
湯浅典子(『カオルの葬式』監督)
ヘソ(『オン・ア・ボート』監督)
リエン・ジエンホン(『サリー』監督)
ステファニー・アリアン(『ブルーイマジン』出演)
チー・ユン(『未来の魂』主演俳優)
ファティマ・アブドゥルカリム(『スウィート・ライム』監督)
中村和宏(『あまろっく 』監督)
板井昭浩(朝日放送テレビ株式会社コンテンツプロデュース局制作部)
薬師悠一郎(株式会社薬師真珠)
靜敬太郎(公益財団法人芳泉文化財団理事長)
上倉庸敬(大阪映像文化振興事業実行委員会委員長)
 
第19回大阪アジアン映画祭公式サイト https://oaff.jp 
 
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 第19回大阪アジアン映画祭のスペシャル・オープニング/特集企画 Special Focus on Hong Kong 2024作品として、3月5日ABCホール(大阪市北区)にて香港映画『盗月者』が日本初上映された。
 
スペシャル・オープニングセレモニー、HONG KONG GALA SCREENING後に上映された『盗月者』は、2010年の香港の窃盗団による東京の時計店襲撃事件を題材に、史実を織り交ぜたストーリーが展開するスタイリッシュな犯罪ドラマ。上映後、ユエン・キムワイ監督、加藤社長役の田邊和也さんが登壇し、
「大阪の皆さん、こんばんは。実は一番後ろで一緒に鑑賞し、みなさんが映画に没入しているところを見守っていました。我々香港人で笑いのツボだと思ったところを笑ってくださり、国境や文化を超えて伝わっいると感じ、映画は素晴らしいと思いました」(ユエン監督)
「僕も初見だったので、みなさんと同じ気持ちで見させていただきました」(田邊)
とご挨拶された。非常に複雑で、リアルな時計泥棒の舞台裏を垣間見ることができる本作のトークの模様をご紹介したい。
 
 
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―――泥棒映画として面白い仕組みだが、実在の事件からどのようにアイデアを得たのか?
ユエン:2010年1月6日、香港で大きな窃盗事件がありました。4人グループの泥棒が2人の郵便配達員を襲い、当時わたしは、2人の郵便配達員を襲うのに4人も必要なのかと思ったのです。4日後に警察がこの事件を解決したのですが、実は4人グループの泥棒は、銀座の時計店、天賞堂で200本以上の有名な時計を盗み、香港に持ち帰ったのです。飛行機の手荷物として持ち込むのは不可能なので、日本の郵便システムを利用し、この時計を香港に送ったわけですが、香港に届いた時、大きな問題が起きました。映画内では香港の郵便局員トントンが内通者役になっていましたが、実際の事件はその泥棒グループを裏切ってしまったのです。その結果、全然関係のない郵便局員を襲ったというのが事件の真相でした。他にもロンドン、ベイカーストーリーの窃盗も参考にしましたし、また幸運にも50音のボタンがある日本の金庫を手に入れることができました。さらに物語では(宇宙飛行に使われてきた)ムーンウォッチという本当の部分も取り入れました。つまり、4つから5つの歴史的犯罪要素を取り入れたのです。
 
―――脚本を読んでの感想は?
田邊:初めて読んだときから、率直に面白いと思いました。アメリカや海外の作品には出演していましたが、香港映画からオファーが来たのが初めてなので最初は戸惑いましたが、スピード感やアクションがあり、すぐにオファーを受けました。最近悪役続きですが(笑)
 
 
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―――日本で撮影されたシーンの中で、一番楽しかったシーン、苦労したシーンは?
田邊:東京出身なので、特段変わらない日々でしたが、現場初日に初めてお会いした時、セットにいる監督は巨匠の雰囲気で正直怖かったです。でも撮影が始まるととても優しい方で、すぐに信用しました。
 
ユエン:香港人の映画撮影に関して、究極的に表現すれば「早い、そしてめちゃくちゃ」。一方、日本人の映画製作は非常にシステマティックです。一番異なる点は、日本人は仕事をするとき他人の迷惑にならないようにしようとしますが、香港人はその話を聞くと爆発するでしょう。私たちの考え方では、「他人に迷惑をかけないなんてそんな話はない」。撮影だから、どうやって他人に迷惑をかけないの?と。ある意味、今回は盗月者を香港から日本に連れて来て、1ヶ月間日本のみなさんに大変迷惑をかけました。この場でお詫びするとともに、それは仕方ないことだったのです(笑)。
 
―――寂れた場所が多かったが、日本のロケ地をどうやって見つけたのか?
ユエン:物語に関しては、2つの設定があります。一つは非常にハイクラスで超高級な場所、もう一つは泥棒たちが暗躍するローカルであまり知られていない場所が必要でした。ハイクラスといえば、間違いなく銀座です。我々の撮影が終わった1ヶ月後に、銀座の高級時計店が実際に強盗に遭ったというニュースにも驚いていました。ローカルな場所については、日本のプロデューサーが探すのに尽力してくれ、感謝しています。川崎では夜のシーンを撮影しましたが、この場では話せないような様々なハプニングも起きましたね。
 
 
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―――アンソン・ロー(盧瀚霆)が演じた鍵開け名人の青年は、お母さんも金庫破りのプロという設定がユニークだが。
ユエン:ロックを解除するとき、手の触感がとても重要になります。母は毛糸店を経営しているので、手が毛糸の微妙な触感を使うということで、当時のボスに見込まれたわけです。映画の設定では泥棒全員が他の本職を持っているという設定にしています。
ちなみに、アンソン・ローが演じた息子は次男で大学を卒業したばかりの設定で、彼は母の元に戻ろうとしているが、母は拒みます。母からすれば兄が(犯罪に巻き込まれて)亡くなったため、弟はどうしても犯罪グループと関わりをもたせたくない。だから家に帰ってほしくなくて追い出してしまったのです。

 
第19回大阪アジアン映画祭は3月10日まで開催中。『盗月者』は3月8日にも上映される(チケットは完売)。詳しくはhttps://oaff.jp まで。
(江口由美) Photo by OAFF
 
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 台湾の名匠、ウェイ・ダーション監督(『セデック・バレ』『52Hz, I love you』の6年ぶりとなる最新作『BIG』が、第19回大阪アジアン映画祭特集企画<台湾:電影ルネッサンス2024>入選作品として3月4日「シネ・リーブル梅田」(大阪市北区)で海外初上映され、ウェイ監督と出演のフェイフェイ・チェンが舞台あいさつに登壇した。
ドキュメンタリー撮影で出会った少女の明るさに衝撃を受けたウェイ監督が製作を決意したという本作は、小児がん病棟を舞台に、共に暮らす、異なる背景を持つ6組の家族の悲喜こもごもや、新しく赴任してきた脳外科医をはじめとする病院スタッフとの交流を描いた感動のヒューマンドラマとなっている。病と闘う子どもたちがキャラクターとなって登場するアニメーションパートでは、新海誠作品で美術監督を務めてきた丹治匠が監督を務めているのも見どころだ。
 
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 久しぶりの映画祭来場となったウェイ監督は、
「本当にお久しぶりです。これまでいろいろな困難に直面し、大変な時期がありました。大きなプロジェクトがコロナや資金集めの影響でストップせざるをえなくなった流れの中でこの映画を撮りました。ある種のハプニングでしたが、実際に脚本を書くときには笑ったり、泣いたり、非常に落ち込んだりを繰り返していくうちにだんだん気持ちが高まっていきましたので、みなさんもご覧になって笑ったり泣いたりと、とにかく映画を観終わって前向きになっていただければ嬉しいですし、人生は常に希望があり、前向きに再生できれば嬉しく思います」とご挨拶。
 
 同作で白血病を患うユエンユエンを演じたフェイフェイさんは、”兄弟”のような間柄として登場するオランウータン(劇中では動物園にいる本物)のぬいぐるみを抱えて登壇し、
「映画を観に来ていただきありがとうございました。日本でみなさんにお会いでき、上映することができ嬉しかったです。もしこの映画を好きなら、ぜひご友人に進めて、また観に来てください。(日本語で)みなさんこんにちは、わたしはフェイフェイです。よろしくお願いします」
と覚えたての日本語を披露し、観客より大きな拍手が送られた。
 
 
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  本作は小児病棟の子どもたちがメインキャスト。演出がしにくいと一般的に言われている子どもや動物(オランウータンなど)を起用することは、新しいチャレンジで、よりやる気がでたというウェイ監督。だが実際のキャスティングは難航を極めたという。特に、ユエンユエン役は一番重要で、髪の毛を剃るシーンがあるため、子どもたちにも嫌がられたそうで、スクリプターから勧められた子役たちの写真よりフェイフェイさんを見つけ出したときは、「彼女の目に芝居がある」と直感したと当時を回想。
「電話をしても両親からOKがもらえなかったので、直接フェイフェイさんと会って話をさせてもらうよう説得しました。フェイフェイさんには『非常に大事な映画で、あなたの役柄は社会に大きな貢献をすることになりますよ。髪はまた生えてくるし、人生でこんなチャンスはない』とお話したけれど納得してもらえず、別れ際のエレベーターで最後にこちらから『やりますか?』と聞いたら、ようやく『やります』と言ってくれたんです」と大変だったキャスティング秘話を一気に語った。
 
 

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 一方、撮影当時は9歳だったフェイフェイさんは「実は300個ぐらい断り文句を考えていたんです。私が剃るなら、監督も髪を剃ってくださいとか。それまで一度も髪を切ったことがなく、私にとってはとても大事なものだったので切るのは嫌でした。でもウェイ監督が一生懸命に物語のことを語ってくれたのはクールだと思ったし、やる気が少しでてきました。最後に監督から『やりますか?』と聞かれ、OKを出しました」と監督の熱意が決断の決め手になったことを明かした。
 
 実際の撮影では当初の心配をよそに子役を扱う自信がついたというウェイ監督。
「キャスティングをしっかりやり、芝居をきちんと把握することができれば、子どもたちとの撮影は意外と楽でした。彼らにしっかり睡眠をとらせ、お腹いっぱいになってもらうと大体はうまくいきます。物語はこうだから大きい声を出してとか、振り返ってなどストレートに話をすると、子ども達は指示を受けて動作や振る舞いをこなしてやってくれます。現場で徹したのは、みなさんがやっていることが大事で、大人たちはあなたたちがいないと何もできないと伝えることでした」と現場での子役の演出を振り返った。
 
 最後に、父と同じ動物園で働きながらユエンユエンを育てるシングルマザー役に歌手の曾沛慈さんを起用した理由について、ウェイ監督は
「歌手でもダンサーでも司会者でも観客の前でパフォーマンスをしている人は演技も間違いなくできると信じています。映画の中の役柄と役者のルックが合うかを決めておけば、オファー時に説得する自信があります。映画でも、ユエンユエンと母、そして祖父の3人が本当の家族みたいだったでしょう?俳優でなければ演技ができないのではありません。今回、子役の母を演じた人は全員未婚で出産経験もありませんが、見事に演じきってくれました」と多分野からのキャスティングが狙い通りの結果を上げていることに自信の表情を見せた。
第19回大阪アジアン映画祭は3月10日まで開催中。『BIG』は3月10日にも上映される。詳しくはhttps://oaff.jp まで。
(江口由美) Photo by OAFF
 

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2024年3月3日、ホテルエルセラーン大阪のエルセラーンホールにて《おおさかシネマフェスティバル2024》が開催された。午後の表彰式では、90歳を迎えた映画伝道師の浜村淳が総合司会を務め司会の簫秀華や受賞者と絶妙な掛け合いをみせ、今年も笑いの絶えない式となった。俳優部門を中心に受賞者の主なコメントをご紹介したい。


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★主演女優賞:松岡茉優『愛にイナズマ』

(浜村から『ちはやふる』の演技を褒められ)『ちはやふる』と『愛にイナズマ』はプロデューサーが同じ。折村花子のキレ具合や泥臭さに共感しながら演じていた。映画を観て、悔しい想いや理不尽な目に遭った思い出を話してくださる方がたくさんいるとわかった。映画を観て、花子に熱いエールをもらってほしい。

 

 

★主演男優賞:鈴木亮平『エゴイスト』
      
(ビデオメッセージにて)

『エゴイスト』は、愛とエゴの話で、私にとっては人間ってなんと素晴らしいのかと思える人間賛歌の映画。大阪で映画を撮ることがあれば、ぜひ協力していただきたい。

 

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★助演男優賞:磯村勇斗『月』 

17歳で役者をやりたくて友達同士で映画を作り、それがきっかけでこの業界を目指し、小劇場活動時代に今の事務所に声をかけられた。『月』という作品は非常に難解で、社会的テーマが強いので、どういう風に届くのかと思っていたが、みなさんの心や脳内に届いていることを実感している。

 

 

★助演女優賞:中村久美『高野豆腐店の春』

いい人しか出て来ない映画。相手が藤竜也さんなので、素晴らしいなと思ってそのままの気持ちで、やらせていただいた。俳優歴45年で初めて賞をいただいた。三原監督と藤竜也さんのタッグ3本目で、最小限の日程、人数で大急ぎで撮り、和気藹々とした信頼のもとで作り上げた映画です。

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★新人男優賞:黒川想矢『怪物』

大阪でも映画『怪物』を好きな人がたくさんいるとは知っていたが、このような賞をいただけて、嬉しい。『怪物』に出る前まではこのような奇跡を起こすことはできなかったので、是枝組や映画『怪物』に感謝している。

 

 

 

 

 

cinefes2024-hiiragi-240-1.jpg★新人男優賞:柊木陽太『怪物』

出身が京都で、関西で受賞できるのはすごく嬉しい。本当にありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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★新人女優賞:サリngROCK『BAD LANDS バッド・ランズ』

演劇も映画も、すべての要素が掛け算になっていて、この賞を私に撮らせてくださった作品への賞だと思っている。

(サリngROCKさんは自身で立ち上げられた劇団《突撃金魚》で脚本・演出を手掛けておられ、俳優としての映画出演は初めて。)

 

 

 

 

 

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★新人女優賞:中野有紗『PERFECT DAYS』

何もかもが初めて、外国の監督で不安でしたが、言葉の壁を超えて心が通じ合うものがあった。(ヴィム・ヴェンダース監督は)ありのままの私を受け入れ、私そのままでいさせてくれた。初めての映画でこのような素晴らしい賞をいただくことができたのは『PERFECT DAYS』チームのみなさんのおかげ。観てくださった方の心や記憶に残る演技ができればと思っている。

 

 

 

 

 

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★監督賞:石井裕也『月』

いつも見ることのない、見ようとしない世界を描いているので、どう広く、深く見せるかに一番苦労した。いろんな大変なこともありましたが、作ることができて今は本当に良かった。


 

 

 

 

 



cinefes2024-hamamura-500-1.jpg武部好伸(作家・エッセイスト)のコメント

御大・浜村淳さんのアドリブ感と(状況を鑑みない)マイペース感にますます拍車がかかり、それを巧みに(必死に?)フォローする簫秀華(しょうしゅうか)さん。2人の息の合った絶妙なる司会ぶりに会場は常に笑いの渦。こんな飾りっ気のない映画祭は他にはありません。受賞者にもこの雰囲気が伝染し、皆さん、リラックスムードに。主演女優賞の松岡茉優さんと浜村さんの掛け合いは漫才そのものでした。これが「おおさかシネマフェスティバル」の醍醐味! いやぁ、ええ塩梅でした。


河田真喜子(シネルフレ編集長)のコメント
浜村淳さんの暴走を止められるのは簫秀華さんしかいない! 今年も浜村さんのハチャメチャぶりに振り回される授賞式となったが、簫さんが冷や汗かきながら浜村さんを止める度に会場からは爆笑が沸き起こる。大阪のお客さんは優しい!浜村さんの予測不能な行動に大いに笑って喜んで下さるのだから…大阪ならではの授賞式だろう。(簫さん、今年もお疲れ様でした!)
今年は実行委員長の高橋聰氏が体調不良で登壇されなかった。長年、関西独自の映画祭を要として率いて来られ、映画関係者や業界人、さらには映画祭のファンからも慕われているお方だ。今後も多くの方々に映画への情熱の火を灯し続けて頂きたいと願わずにおられない。