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難役に挑んだ子供キャストも登壇!ウェイ・ダーション監督、小児がん病棟が舞台の『BIG』を語る@第19回大阪アジアン映画祭

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 台湾の名匠、ウェイ・ダーション監督(『セデック・バレ』『52Hz, I love you』の6年ぶりとなる最新作『BIG』が、第19回大阪アジアン映画祭特集企画<台湾:電影ルネッサンス2024>入選作品として3月4日「シネ・リーブル梅田」(大阪市北区)で海外初上映され、ウェイ監督と出演のフェイフェイ・チェンが舞台あいさつに登壇した。
ドキュメンタリー撮影で出会った少女の明るさに衝撃を受けたウェイ監督が製作を決意したという本作は、小児がん病棟を舞台に、共に暮らす、異なる背景を持つ6組の家族の悲喜こもごもや、新しく赴任してきた脳外科医をはじめとする病院スタッフとの交流を描いた感動のヒューマンドラマとなっている。病と闘う子どもたちがキャラクターとなって登場するアニメーションパートでは、新海誠作品で美術監督を務めてきた丹治匠が監督を務めているのも見どころだ。
 
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 久しぶりの映画祭来場となったウェイ監督は、
「本当にお久しぶりです。これまでいろいろな困難に直面し、大変な時期がありました。大きなプロジェクトがコロナや資金集めの影響でストップせざるをえなくなった流れの中でこの映画を撮りました。ある種のハプニングでしたが、実際に脚本を書くときには笑ったり、泣いたり、非常に落ち込んだりを繰り返していくうちにだんだん気持ちが高まっていきましたので、みなさんもご覧になって笑ったり泣いたりと、とにかく映画を観終わって前向きになっていただければ嬉しいですし、人生は常に希望があり、前向きに再生できれば嬉しく思います」とご挨拶。
 
 同作で白血病を患うユエンユエンを演じたフェイフェイさんは、”兄弟”のような間柄として登場するオランウータン(劇中では動物園にいる本物)のぬいぐるみを抱えて登壇し、
「映画を観に来ていただきありがとうございました。日本でみなさんにお会いでき、上映することができ嬉しかったです。もしこの映画を好きなら、ぜひご友人に進めて、また観に来てください。(日本語で)みなさんこんにちは、わたしはフェイフェイです。よろしくお願いします」
と覚えたての日本語を披露し、観客より大きな拍手が送られた。
 
 
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  本作は小児病棟の子どもたちがメインキャスト。演出がしにくいと一般的に言われている子どもや動物(オランウータンなど)を起用することは、新しいチャレンジで、よりやる気がでたというウェイ監督。だが実際のキャスティングは難航を極めたという。特に、ユエンユエン役は一番重要で、髪の毛を剃るシーンがあるため、子どもたちにも嫌がられたそうで、スクリプターから勧められた子役たちの写真よりフェイフェイさんを見つけ出したときは、「彼女の目に芝居がある」と直感したと当時を回想。
「電話をしても両親からOKがもらえなかったので、直接フェイフェイさんと会って話をさせてもらうよう説得しました。フェイフェイさんには『非常に大事な映画で、あなたの役柄は社会に大きな貢献をすることになりますよ。髪はまた生えてくるし、人生でこんなチャンスはない』とお話したけれど納得してもらえず、別れ際のエレベーターで最後にこちらから『やりますか?』と聞いたら、ようやく『やります』と言ってくれたんです」と大変だったキャスティング秘話を一気に語った。
 
 

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 一方、撮影当時は9歳だったフェイフェイさんは「実は300個ぐらい断り文句を考えていたんです。私が剃るなら、監督も髪を剃ってくださいとか。それまで一度も髪を切ったことがなく、私にとってはとても大事なものだったので切るのは嫌でした。でもウェイ監督が一生懸命に物語のことを語ってくれたのはクールだと思ったし、やる気が少しでてきました。最後に監督から『やりますか?』と聞かれ、OKを出しました」と監督の熱意が決断の決め手になったことを明かした。
 
 実際の撮影では当初の心配をよそに子役を扱う自信がついたというウェイ監督。
「キャスティングをしっかりやり、芝居をきちんと把握することができれば、子どもたちとの撮影は意外と楽でした。彼らにしっかり睡眠をとらせ、お腹いっぱいになってもらうと大体はうまくいきます。物語はこうだから大きい声を出してとか、振り返ってなどストレートに話をすると、子ども達は指示を受けて動作や振る舞いをこなしてやってくれます。現場で徹したのは、みなさんがやっていることが大事で、大人たちはあなたたちがいないと何もできないと伝えることでした」と現場での子役の演出を振り返った。
 
 最後に、父と同じ動物園で働きながらユエンユエンを育てるシングルマザー役に歌手の曾沛慈さんを起用した理由について、ウェイ監督は
「歌手でもダンサーでも司会者でも観客の前でパフォーマンスをしている人は演技も間違いなくできると信じています。映画の中の役柄と役者のルックが合うかを決めておけば、オファー時に説得する自信があります。映画でも、ユエンユエンと母、そして祖父の3人が本当の家族みたいだったでしょう?俳優でなければ演技ができないのではありません。今回、子役の母を演じた人は全員未婚で出産経験もありませんが、見事に演じきってくれました」と多分野からのキャスティングが狙い通りの結果を上げていることに自信の表情を見せた。
第19回大阪アジアン映画祭は3月10日まで開催中。『BIG』は3月10日にも上映される。詳しくはhttps://oaff.jp まで。
(江口由美) Photo by OAFF