映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2018年10月アーカイブ

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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、香港のフルーツ・チャン監督最新作『三人の夫』がコンペティション部門作品としてワールドプレミア上映された。娼婦を描いた『ドリアン・ドリアン』(00)『ハリウッド★ホンコン』(01)に続く、「売春トリロジー」の3作目となる本作。ボート生活を送る常人離れした性欲に苦しんでいる主人公、ムイと、彼女と暮らす年老いた父親、ムイの赤ちゃんの父親である老漁師、そしてムイに恋し、結婚した青年“メガネ”が織りなす物語は、夫との性生活に満足できず、元の船上売春婦に戻るムイと男たちの性描写の多さに驚かされる一方、常人離れしたオーラを放つムイに心を奪われる。また、フルーツ・チャン監督ならではの移りゆく香港の今を、色濃く映し出す要素として、先日全面開通したばかりの香港とマカオを結ぶ世界最長の海上大橋「港珠澳大橋」も登場。今後香港に大きな影響を与える象徴的存在となっている。

 

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フルーツ・チャン監督、脚本のラム・キートーさん、主演のクロエ・マーヤンが登壇して行われた記者会見では、まずセックスが止まらない女性を描いたことについて、「本来、性欲は男性のものですが、今回初めて性欲の強い女性を描きました。自分でも女性の性欲がどこまでいくのかわからず苦労しましたが、医者に聞くと、その欲は無尽蔵だと。満足するまではどこまでも止まらないと言われました」とチャン監督がその苦労を明かした。

 

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初主演作にして、チャン監督の指示により1ヶ月で13キロ増量して体当たりの演技を見せたクロエ・マーヤンさんは、「チャン監督には、肉感的で、被害者ではなく力強い女性像が求められました。初めて脚本を読んだのは、香港に到着し、クランクインした初日でした。読んだ時、これぞ長年待っていて、今まさにやりたい役だと思いました」と告白。脚本のラム・キートーさんが、「普段はあまりありませんが、フルーツ・チャン監督の売春トリロジーの撮り方は、監督が文字脚本を起こし、今回のようにキャスティング後に、マーヤンさんをイメージしてビジュアルに落としていきます」と、このシリーズならではの撮り方であることを説明した。

 

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精神的な危うさも含めて、素晴らしい演技を見せたマーヤンさんを抜擢したことについて、チャン監督は「中国においては、女性がセックスをメインにした映画を撮ることはある意味冒険で、とても難しいのです。実は10年前ぐらいに一度、マーヤンさんと出会っていたのですが、当時は私のイメージと合わずキャスティングしませんでした。今回この役を探すに当たり、あの時のマイヤンさんはどうだろう、かなりイメージが変わっていると勧めてくれた人がおり、実際お会いすると、この物語のイメージに近くなっていたので、キャスティングしました」とその経緯を明かすと、マーヤンさんも、「自分との対話という意味で、過去の自分やこれからの自分を考えた時、いま、一番これをやるべきだと思いました。とてもパワフルでした」とオファーを決意した時の心境を語った。さらに、一度脱ぐ演技をした後、そのイメージを払拭することの大変さを聞かれると「『ラスト、コーション』のタン・ウェイさんと共演したときに、その後ご苦労なさったと聞きました。でも共演した時は心穏やかな状態でいらっしゃいました。私自身も心配はしましたが、海に飛び込んだのなら、そのまま漂っていきたいと思っています」と晴れやかな表情で語った。最後に、香港での上映はできるものの、中国では上映できないことを明かしたフルーツ・チャン監督。「これが社会の暗黒面ですね」と表現の自由が犯されている状況を皮肉った。

 

第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。

第31回東京国際映画祭公式サイトはコチラ

(江口由美)

 

 

 
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現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品であり、かつ特集「イスラエル映画の現在2018」作品のルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作映画『テルアビブ・オン・ファイア』が上映され、サメフ・ゾアビ監督、検問所のアッシを演じたヤニブ・ビトンさんが記者会見で、作品の狙いを語った。
 
 
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<あらすじ>
67年の第三次中東戦争を題材にした人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作インターンをしているサラムは、毎日イスラエルの検問所を通らなくてはならない。ある日、検問所の主任アッシと知り合い、「テルアビブ・オン・ファイア」のスタッフであることを知られてしまう。アッシは、ドラマの大ファンの妻に自慢したいがために、サラムのIDカードを取り上げ、ドラマの脚本に関わることになる。アッシの脚本案で、サラムは正式にドラマの脚本家となるものの、ドラマの結末にアッシとスポンサーが不満を抱き・・・。
 
パレスチナ人で、現在テレアビブに在住のゾアビ監督は、作品のアイデアについて「コメディーですが、とてもパーソナルな映画です。わたしも主人公サラムと同様にアラブ社会とは少し隔離されている場所にすみ、毎日のようにイスラエル人と共存しなければなりません。そして、常に自分自身の声を模索している。そういうシチュエーションからサラム役が生まれました。アーティストとしては自分なりに違う視点で描いているつもりですが、見ている方から政治よりの内容に見られてしまうのが、自分の中でのジレンマです。この作品はコメディーですが、コメディーに込められたジョークが二の次です。僕にとっては、コメディーが成立しているシチュエーションを皆さんにわかっていただきたいのです」
 
個性的でチャーミングな部分もある検問所の主任アッシを演じたヤニブ・ビトンさんは、テルアビブ在住のイスラエル人。主に舞台やテレビで活動し、映画出演は本作が2本目だという。ビトンさんは、この役を射止めたときのことを回想し、「僕はオーディションでこの役を得ましたが、その前に脚本の一部や作品に対するメモを読ませていただきました。この作品はコメディーで、パレスチナとイスラエルの問題を本格的コメディーとして描いた映画は今までなかったので、とても興味を持ちました。政治的な視点や、様々なシチュエーション、キャラクターに本当に共感できました。これまで色々なオーディションを受けましたが、一番やりたいと思った役ですし、ベストのパフォーマンスができたと思います。映画ではユダヤ人たちの歴史を、皮肉を込めて演じました」と役柄同様、表情豊かに語った。
 
 
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作品中でアッシが、サラムに美味しいフムスを要求し、フムスを作る場面や、食べる場面が度々登場するが、フムスに込めた意味についてゾアビ監督は、「フムスは政治的な意味も込められています。ある種のメタファーです。元々、パレスチナ人の食べ物で、イスラエル人がパレスチナを占拠したとき、我々の文化も取り入れていったのです。フムスは土地も象徴しています。我々のアイデンティティがフムスだとすれば、それをイスラエル人に取られてしまった訳です。コメディー的な見所としては、劇中で、誰のフムスが美味しいかを議論します。なぜかイスラエル人はフムスが好きです。僕も、母も作りますが、ビトンさんはいつも美味しいレストランがあるから食べに行こうというのですが、僕たちにしてみればフムスは家で作るものです」と、フムスに込めた深い意味を説明。ビトンさんも、「イスラエル人は美食家を装うのが好きですが、卵を入れたり、レモンをかけたりします。ただ、この映画の中で、食べなければいけなかったフムスは本当に不味かったです」と笑いを誘った。
 
イスラエルでは来年3月公開が決まっているという『テルアビブ・オン・ファイア』。最後に、ゾアビ監督は、「占領は実際に行われており、我々パレスチナ人は国もなければ市民権もなく、若い世代の将来もありません。それは深刻なことです。でも実際に占領されていることを描く必要はなく、それより、日々我々が受けている精神的な占領を描きたかったのです。アッシが結婚式の結末にしようとするのは、イスラエルのイデオロギーを押し付けようとしていることを象徴しています。ただ、それ以上の将来は見えません。精神的な占領は両方持っていることですし、オスロ合意の先に何があるのか見ることができないのです。オスロ合意の状況は僕にとっては全然うまくいっていないし、パレスチナ人は今だに自分たちの声がないのです。コメディーは悲劇を描くのに適していると思い作りましたが、この映画が答えよりも多くの質問を出して欲しいと思います」と本作に込めた政治的意図を明かし、議論のきっかけとなることを望んだ。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 
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オムニバス形式で10年後の自国を描く「十年」プロジェクト。そのタイ版であり、『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセタクンが統括を務めた『十年 Ten Years Thailand』が、現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で10月28日に上映され、プロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんが登壇した。
 
15年に香港で公開され、5人の若手映画監督が10年後の香港を描くオムニバス映画『十年』が国を超えて、大きな反響を巻き起こし、日本、タイ、台湾の国際的プロジェクトとなった。日本版『十年 Ten Years Japan』が11月3日全国ロードショーされるのを始め、いずれかの『十年』を見て刺激を受けた国の映画作家が、その国なりのオムニバスを作る動きも見られており、さらに国際的な広がりを見せているプロジェクトとなっている。タイ版は、アーティット・アッサラット監督が、写真展が表現の自由が制限される様子を描いた「Sunset」、ウィシット・サーサナティアン監督が、猫人間に支配された社会を描いた「Catopia」、美術家のチュラヤーンノン・シリポンが、女性の独裁者が君臨する世界を描いた「Planetarium」、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督が銅像の立つ工事中の公園と、そこで休息し語り合う人々を描いた「Song of the City」の4本からなるオムニバスだ。
 
 
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インディーズ映画のプロデューサーとして働いていたパオシーチャルーンさん。本プロジェクトは、タイで政治的な問題が勃発し、芸術の表現の自由に疑問を感じた人たちと共に「フィルムズ フォー フリー」プロジェクトを始めたことがきっかけだったという。「その後、香港映画の『十年』が上映され、それも政治的な状況を反映していたので、ぜひ『十年』タイ版を作りたいということで、同プロジェクトを発展させる形でスタートしました」とその経緯を説明。香港、日本共に若手監督が起用されているが、タイ版は名匠、アピチャッポン・ウィーラセタクンも統括兼監督として加わっていることについては、「タイのインディーズ映画の価値観をもっと高めたいということで始めたプロジェクトなので、4人の監督は様々な年代、多様な個性を持った方に依頼したいと思い、この4人に選びました」と、独自の事情があることを明かした。
 
現在タイでは12月公開予定だそうだが、タイのマスコミからも本当に予定通りに公開できるのか興味を持って見られている状態だという。パオシーチャルーンさんは、「この作品はタイでは絶対上映させなければいけないと思っています。私たちの『十年 Ten Years Thailand』はとてもチャレンジングな企画ですが、制作の過程ではタイの憲法に照らし合わせながら、検閲が入るギリギリのところに触れないように配慮しました。上映できないということは考えていません。日本の皆さんもタイで上映できるように応援してください」と日本の観客に呼びかけた。
 
 
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アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品では、公園に元タイ首相のソリット・タナラット氏の銅像が置かれ、ずっと銅像が映されるのが印象的だが、「アビチャッポン監督からみなさんに伝えて欲しいと言われたのは、あの銅像は意図的に使っているということです。未来は現在、過去から繋がっているので、その繋がりを過去に建てられたもの(銅像)を使って示しました」とその真意が語られた。最後に、「タイでは、映画はメディアであり、社会に影響を与えるものとみなされています。タイのメジャー系映画館のマネージャーから電話をいただき、ぜひ上映して欲しいと言われています。来年、選挙を控えているので、社会的な問題も捉えていきたいという狙いがあるのだと思います」と、タイ国内での公開に向けての良い動きがあることを付け加え、国内公開に向けての強い決意を新たにした。
 

『十年 Ten Years Thailand』は11月2日(金)15:50から2回目の上映が予定されている(残席あり)。上映後にはプロデューサーのカッタリーヤー・パオシーチャルーンさんのQ&Aも開催予定だ。
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 

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「シンプルな歌、詩を通して、変革するインドネシアの悲劇を描く」
ガリン・ヌグロホ監督、出演アニサ・ヘルタミさん『めくるめく愛の詩』を語る@TIFF2018
 
1970年代から90年代までの激変を遂げたインドネシアを舞台に幼馴染の男女の一筋縄ではいかない恋と、彼らの家族の苦難を描いた『めくるめく愛の詩』が、現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第31回東京国際映画祭で10月27日に上映され、ガリン・ヌグロホ監督と、ヒロイン、ユリアの母親を演じたアニサ・ヘルタミさんが登壇した。
 
スハルト独裁政権下の90年代から精力的な映画制作を行い、東京国際映画祭で長編デビュー作『一切れのパンの愛』(91)、07年には同映画祭の国際審査員を務めたガリン・ヌグロホ監督。カトリックを扱った『スギヤ』(12)、イスラム原理主義を扱った『目隠し』(11)ではインドネシアが直面している問題に鋭く切り込み、まさにインドネシアの巨匠と呼ばれる存在だ。「国際交流基金アジアセンター presents CROSSCUT ASIA #05 ラララ♪東南アジア」部門作品として上映された本作は、一転してミュージカル的要素を取り入れながら、経済的成長を遂げつつある時代に生まれ育った若者たちの姿を描いている。
 
 
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『めくるめく愛の詩』には自身の実体験や生い立ちをかなり反映したというヌグロホ監督は「今回描いた時代は、音楽、ファッションも美しく、ユニークなものがあるとても美しい時代でした。(ユリアと幼馴染の破天荒な)ルーミーのキャラクターも100%ではないけれど、僕自身の要素が入っていますし、映画の中の詩も自分で書いています」と自らの青春時代を回想するような物語でもあることを示唆。大学生になったルーミーが反政府行動を疑われ、連行されるくだりも「私が高校の頃、兄は大学に入りスハルト政権に反発していたので、大学から出られなかったのです。私が大学に食べ物を差し入れた経験があります。当時は裕福な学生は政権に反発させないように、いい大学に入れたり、政府が助成金を出してわざわざ海外留学させていました」。
一方、ヘルタミさんは、この脚本を読んで「音楽も詩も美しいし、監督はなんてロマンチストなのだろうと思いました」と印象を語ると、自身が演じた母親役については、「ただ美しいだけではありません。当時のインドネシアの女性は大変苦労をされています。映画でも腐って木から落ちたフルーツを一生懸命拾い、刻んだものを水に浸して、(ドリンクにして)市場で配ることで生計を立てるシーンがありますが、演じていても悲しかったですし、女性にとって大変な時代であったと実感しました」と当時のインドネシアの女性たちに思いを馳せた。
 
根底には時代の変化をどう感じて生きて行くかがテーマでもある本作。ヌグロホ監督は「時代の変化を象徴するために、様々なディテールを盛り込みました。テレビが普及することによるラジオ(ユリアの父の仕事)の衰退や、それぞれの時代の雑誌の変遷だけでなく、ルーミーの家族のレモネード工場閉鎖という経済的な困難を物語に取り入れています。60年代から90年代は、時代の変化が如実に人々の生活に影響してきたと思います。日常的な時代の変化を盛り込みながら、国全体の変化 政治の変化を加えながら、時代の変化を描いたつもりです。それと同時に、シンプルな歌、詩を通してその時代の悲劇や、時代の変化を乗り越えて生きていかなければならかった悲劇を描いています」と作品に込めた意図を明かした。ヘルタミさんも「この映画は決して恋人同士のラブストーリーだけではないと捉えています。物語の中で、インドネシアの変化を垣間見ることができる作品です。私の世代はアナログからデジタルに変換する時代や、97年にスハルト大統領による革命で民主主義政権に変わったことを体験しています。とても混沌とした時代を経て、私自身が育ったわけで、この映画でもそのようなインドネシアの変化を垣間見ることができると思います」と自身の体験を踏まえながら、映画で描かれているインドネシアの変化について語った。
 
 
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音楽映画的な見どころも大いにある本作。描かれた時代は70年代で映画ポスターや雑誌などは当時のものが使われている一方、音楽は50年代のものが中心となっているが、「50年代はインドネシアが独立した時代で、彼らの親御さんは50年代に生きた人たち。主人公たちは若いけれど、両親が好きな音楽が家でもかかっていました。それがある種の母親の視点であったり、ルーミーとユリアの視点にもなり、音楽で一つになるという風に、あえて両親の世代に当たる50年代の音楽を使いました。ちなみに映画の中で、ユリアの家を訪れ、様々な男性が彼女にアプローチをするシーンがありますが、ギターを弾いて愛を伝える男のくだりは私の父が母に対して実際に弾き語りをしたエピソードが元になっています」と、ここでもヌグロホ監督の個人的な体験が盛り込まれていることを明かした。
 
最後にイスラム圏でもあるインドネシアで、同時代の女性の進出について聞かれたヌグロホ監督は「9.11以降、インドネシアでもラジカリズムという言葉が使われるようになりました」と指摘。「それまではカバヤという民族衣装をつけ、伝統的な髪型をした女性が多かったのですが、テロということが人々の意識の中に入り、考え方が変わっていきました。『目隠し』という映画では若者がテロの団体に入って行く物語を描きましたが、なぜそういうことが起きたのか、私自身は映画を通して答えを見出し、提示したいと思っています」と、9.11以降の流れを含めながら、自身の映画制作の姿勢を熱弁。遅い時間のQ&Aだったが、観客から熱い拍手が送られた。
 
第31回東京国際映画祭は11月3日(土)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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(江口由美)
 

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「歴史映画で”今”を見つめ、未来を築く。」

歴史映画ファン必見の映画祭、京都歴史博物館にて開催

 

世界で唯一「歴史」をテーマにした映画祭、≪京都ヒストリカ国際映画祭2018≫が10月27日(土)に開幕した。今年は前日祭として、昨年と今年公開され大ヒットしたインド映画『バーフバリ 伝説誕生 <完全版>』『バーフバリ 王の凱旋 <完全版>』が26日(金)に上映され、リピーターファンでにぎわった。


histrica-恋や恋なすな恋-500.jpgオープニングには、19世紀のハンガリー大平原を舞台にブタペスト目指して旅を続ける芸人一座を描いた『旅芸人』(2017)と、今年9月のベネチア国際映画祭でプレミア上映され世界を驚かせた『恋や恋なすな恋』(1962)4Kデジタルリマスター版が上映された。内田吐夢監督が、歌舞伎の様式美と芝居を融合させ、さらにアニメーションや義太夫や清元など当時の名人たちを贅沢に配置した、極彩色豊かな平安絵巻に改めて圧倒される。

 

上映後、当映画祭ナビゲーターの飯星景子さんの司会によるオープニングセレモニーが開催された。当映画祭委員長の阿部勉氏によると、「世界では、歴史を題材にした映画が新しい人材や技術によって次々と作られ、選定に困るほど」だったとか。さらに、ベルリン国際映画祭ディレクターのピーター・コスビック氏の「映画祭は、世界が抱える問題を見過ごすことはできない」というコメントを紹介し、今年で10周年を迎えた京都ヒストリカ国際映画祭の意義深さを語った。


histrica18-open-500-1.jpg今年のスペシャルゲストである『恋や恋なすな恋』のトークゲストの中村扇雀さんをはじめ、『欲望にさそわれて』のクレマン・シュナイダー監督や、『乙女たちの秘めごと』のマリーヌ・フランセン監督『Beautiful things』のジョルジョ・フェレロ監督などが登壇。11月4日(日)まで、歴史をテーマにした新作や名作の上映会や、新人クリエイター発掘・育成のための〈京都フィルムメーカーズラボ〉の連携企画の上映会も予定されている。

★詳細は、公式サイトをご覧ください。⇒ http://historica-kyoto.com/
 


(河田 真喜子)
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2018年10月26日(金)から11月4日(日)まで京都文化博物館(3Fフィルムシアター/別館)で開催される世界で唯一の「歴史」をテーマにした映画祭、京都ヒストリカ国際映画祭の30本29プログラムに及ぶ全ラインナップが発表された。
 
第10回を迎える今年は、「日本に時代劇を新しい視点で世界に問う」(高橋剣プログラムディレクター)ことを念頭に、10周年ならではの特別企画も多数用意されたラインナップとなっている。
 
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オープニングを飾るヒストリカスペシャルには、今回初となる前夜祭は、『バーフバリ<完全版>連続上映』を絶叫応援チームが来場しての京都初となる絶叫上映を開催。バーフバリを日本で初めて紹介したヒストリカの10周年を華々しく飾る。
 
 
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そして、オープニング作品は、今年のヴェネチア国際映画祭でワールドプレミア上映され、絶賛された内田吐夢監督の人間浄瑠璃を題材にした人気作『恋よ恋なすな恋』4Kデジタル修復版を日本初上映する。ゲストには、歌舞伎俳優の中村扇雀氏を迎えてのトークが開催される予定だ。ヒストリカ・ナビゲーターの飯星景子さんも「主演大川橋蔵さんは歌舞伎役者なので、踊りの美しさは本当に見とれてしまうほど。黄色いすすきの穂や、平安時代ならではの色鮮やかさも見事」と絶賛の平安絵巻だ。
 
世界の最新歴史映画を紹介するヒストリカワールドは、ヨーロッパ映画5本がラインナップされている。飯星さんのコメントと共に紹介したい。
 
『欲望にさそわれて』(18フランス)※来日ゲストあり
フランス革命時、プロヴァンスの修道院にいた若き修道士が革命軍と出会うことで、やがて新しい思想に目覚め、革命軍に参加するまでを描いた作品。
飯星:パティ・スミスの曲を使い、クラッシックな香りの中にエッジが利いたフランスらしい作品です。
 
『乙女たちの秘めごと』(17フランス=ベルギー)※来日ゲストあり
1850年代のフランスの田舎。ナポレオン政権下、レジスタンス活動を疑われて男たちは逮捕され、女ばかりになった村に一人の男が現れる・・・。
飯星:一人の男を女性たちが共有する様を描いた作品。女性監督ならではの眼差しが生きています。
 
『旅芸人』(17ハンガリー)
小さな旅芸人一座に、ある事情で軍に戻れない兵士が加わり旅が続くロードムービー。
飯星:今年のヒストリカワールドではベテラン監督の作品、気持ち良いカメラワークで、四季折々の映像も楽しめます。登場人物それぞれの個性がきめ細かく描かれているのはさすが。
 
『アイスマン』(17ドイツ=イタリア=オーストリア)
ヒストリカワールドの中で一番古い時代を舞台に描いた作品。1990年代にイタリアとオーストリアの国境の氷河で男性のミーラが発見されたことに発想を得た作品は、劇中に古代語が登場する。普遍的な人間の感情、愛情を体感できる野心作。
飯星:過酷なロケがうかがえる、新石器時代のロマン溢れる一作。
 
『ノベンバー』(17エストニア=オランダ=ポーランド)
19世紀のエストニアを舞台にしたベストセラー作品の映画化。モノクロ映像がスタイリッシュで幻想的なファンタジー。
飯星:出てくる俳優さん皆、味わい深い顔つき。主演のレア・レストの瞳が印象に残る作品です。
 
他にも、<ヒストリカ・フォーカス>では、東映時代劇の両極端「軽さの沢島忠、重さの内田吐夢」を並べるという試みで、ヒストリカでは初となる沢島忠監督の作品を英語字幕付きで上映する。昭和の歌姫、美空ひばり出演のミュージカルコメディー、『ひばり・チエミの弥次喜多道中』『白馬城の花嫁』『殿さま弥次喜多』の3本と、内田吐夢監督からは、戦後復帰作『血槍富士』、歌舞伎を題材とした『妖刀物語 花の吉原百人斬り』の2本をラインナップ。ゲストに『孤狼の血』の白石和彌監督、『引っ越し大名!』が公開予定の犬童一心監督、西尾孔志監督、ミルクマン斉藤さんを迎え、それぞれの作品の魅力を、現代の目線から再検証するトークも予定されている。それぞれの上映&トークには、同時開催されるフィルムメーカーズラボ(京都の撮影所で、ベテランスタッフと共に時代劇を撮るワークショップ)に参加する世界の40人の若手たちも観客席に加わり、国際色豊かなトークセッションになること間違いなし!
 
10周年記念プログラムでは、【京都映画巨匠生誕120年記念上映~内田吐夢・溝口健二・伊藤大輔~】と銘打ち、京都映画の土台を作った3巨匠の20〜30代に作られたサイレント作品から、現存する貴重なものを選りすぐって全7本上映する。ピアノ伴奏によるカツベン上映が行われるのは重要文化財となっている別館。日本映画の最高峰と言われる伊藤大輔の『忠次旅日記』、現存する溝口健二最古の作品『ふるさとの歌』、内田吐夢の昭和初期ホームコメディ代表作『汗』など、貴重な作品をお見逃しなく。また、18歳の山田五十鈴が主演し、女性を描く溝口健二のスタート地点の一作と呼ばれる『折鶴お千』も、連携企画<明治150年事業・京都府デジタルリマスター人材育成事業>で上映される。
 
<ヒストリカ・ディケイド>(過去10年で紹介した作品から選りすぐりの作品を紹介)、今年からスタートしたヴェネチア国際映画祭連携企画(『Beautiful things』、無料上映のVR短編『Chromatica』)、京都フィルムメーカーズラボスクリーニング(『十年 Ten Years Japan』)などさらにパワーアップしたラインナップとなっている。
 
10月6日(土)から<チケットぴあ>にてチケット発売開始。
詳細は公式サイトまで http://www.historica-kyoto.com/