映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2017年6月アーカイブ

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今年で25回目を迎えたフランス映画祭が、6月22日(木)〜 25日(日)まで有楽町にて開催された。 映画祭団長であるカトリーヌ・ドヌーヴほか、イザベル・ ユペール、ルー・ドゥ・ラージュ、トラン・アン・ユン監督、 ポール・ヴァーホーヴェン監督など、そうそうたる顔ぶれが来日、 全12作品中7作品が完売になる盛況ぶりで、 フランス映画ファンにとって充実の4日間となった。


お客様の声をもっと聞きたいという理由から2016年より始まっ た企画として、新作映画11本の中から豪華プレゼントの当たるエールフランス観客賞には、アンヌ・フォンティーヌ監督が新星ルー・ドゥ・ラージュを主演に迎え、第二次世界大戦後ポーランドで起きた衝撃の実話と、その窮地を救ったフランス人女医を描いたヒューマンストーリー『夜明けの祈り』が選ばれた(ルー・ドゥ・ラージュさんインタビューを後日掲載予定)。

『夜明けの祈り』は8月5日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、 新宿武蔵野館ほか全国公開。


『夜明けの祈り』
1945年12月のポーランド。 赤十字で医療活動を行う若きフランス人医師マチルドのもとに、 悲痛な面持ちで助けを求めるシスターがやってくる。 修道院を訪れたマチルドが目の当たりにしたのは、 ソ連兵の蛮行によって身ごもり、 信仰と現実の狭間で苦しむ7人の修道女だった。 そこにある命を救う使命感に駆られたマチルドは、 幾多の困難に直面しながらも激務の合間を縫って修道院に通い、 孤立した彼女たちの唯一の希望となっていく……。

監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・ クレシャ、ヴァンサン・マケ―ニュ
2016年/フランス、ポーランド/フランス語、ポーランド語、 ロシア語/115分/DCP/1.85/ドルビーSR
配給:ロングライド
© 2015 MANDARIN CINÉMA AEROPLAN FILM / ANNA WLOCH

「フランス映画祭2017」

開催日程:2017年6月22日(木)〜25日(日)  
会場:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇  
主催:ユニフランス
公式サイト:www.unifrance.jp/festival

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~バレエからコンテンポラリーダンスへ、

自分だけの踊りを探求したダンサーが辿り着いた表現とは?~

 
祖国ロシアで、両親の望みであるボリショイバレエ団を目指していた天才バレエ少女が、コンテンポラリーダンスとの出会いをきっかけに、自らの進む道を自分で切り開こうと葛藤する。フランスのエクス・アン・プロヴァンス、ベルギーのアントワープと、街並みも異なれば、踊りも異なる場所を舞台に、ヒロイン・ポリーナの成長を描いたダンス映画、『ポリーナ、私を踊る』が、フランス映画祭2017で上映された。
 
ドキュメンタリーや劇映画を手掛けているヴァレリー・ミュラー監督と共に本作の監督を務めたのは、自身もバレエダンサーでコンテンポラリーダンスの振付師でもあるアンジュラン・プレルジョカージュ。オーディションで選ばれた映画初出演のアナスタシア・シェフツォワが踊りだけでなく、その目力で貪欲に自らの踊りを追求するヒロイン、ポリーナを強烈に印象づける。ポリーナの才能を見い出した恩師ボジンスキー役には、ポーランドの名優、レクセイ・グシュコフ。エクス・アン・プロヴァンスのコンテンポラリーダンスカンパニーでポリーナを指導する振付師役、ジュリエット・ビノシュも劇中で伸びやかなダンスを披露。さらにパリ・オペラ座のエトワール、ジェレミー・ベランガールも、本作ならではのダンスで圧倒的な存在感をみせる。EDM (エレクトリック・ダンス・ミュージック)のリズムに乗りながら、挫折から立ち上がったポリーナが初めてのコンテンポラリーダンスの創作に取り組む一連のシーンは、クライマックスにも負けない高揚感を与えてくれるだろう。
 
躍動感溢れる本作の上映後に行われたアンジュラン・プレルジョカージュ監督、ヴァレリー・ミュラー監督を招いてのトークショーをご紹介したい。
 

DSCN5826.JPG―――『ポリーナ、私を踊る』を映画化したきっかけは?
ヴァレリー:原作は、バスティアン・ヴィヴェスのバンド・デシネ(コミック)です。この作品を選んだのは、作家自身をよく知っていますし、彼の仕事ぶりをとても評価しているからです。原作の「ポリーナ」は現代の若い女性の強さを描いています。普通のバレエ物語のような固定観念がないところにも惹かれました。この物語や主人公ポリーヌを通して、だんだん成長し、自分自身を見出だしていく様を語ることができると思い、本作を作りました。ダンスという仕事を通して成長が見えてくるが、小説みたいな冒険を語ることと、ダンスをあまり知らない人にダンスを踊るということがどういうことかを伝えるきっかけになりました。
 
―――共同監督した経緯は?
アンジュラン:バレエの映像は何度も撮っていましたが、ヴァレリーはとても優れた監督でありシナリオライターですから、ダンスを題材にフィクションを作ったら面白いのではないかと思いました。バスティアン・ヴィヴェスのバンド・デシネはとても優れた作品でしたから、プロデューサーが提案してくれた時は、私もすぐにやる気になったのです。
 

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―――ダンサーの起用はどのように行ったのですか?
ヴァレリー:アンジュランと決めたことは例えば頭は俳優だけど、下半身は別というような特写ではなく、本人に踊ってもらうようにしました。オーディションではダンサーで演じられる人か、俳優で踊れる人を選びました。映画とダンスがこういう形で一致して、一緒に歩むことができるようにしたかったし、ダンサーと俳優がお互いにノウハウを分かち合うようにもしたかったのです。ポリーナ役のアナスタシア・シェフツォワも元々バレリーナで、映画は初出演です。また、ジェレミー・ベランガーはオベラ座のエトワールですし、ジュリエット・ビノシュはイギリスのダンサーと一緒に舞台でダンスも定期的に踊っています。ニールス・シュナイダーは撮影前にアンジュランと、彼のダンス舞台に出てもらって踊りを学んでもらいました。それぞれ6カ月の準備をかけて、撮影で踊ってもらっています。
 
アンジュラン:ヴァレリーと私は映画作りに関して特別な考え方を持っています。体で表現できる映画を作りたい、まさに身体が表すことを示したいのです。例えば、夜に灯りがないところを歩いていても、それが誰かは歩き方で分かります。身体の動かし方で人物像が映し出されますし、その人の意味を表していると思います。顔が表しているようなものを、身体全体が表している映画を作りたいと思いました。
 
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―――原作とは少し設定を変えているところは?本作は原作より両親との関係にフォーカスして、バレエ界の現実を描いているが?
ヴァレリー:映画化にあたり考えたのは、主人公を社会や家族の中に位置づけ、それぞれのつながりを描きたい。成長の物語と共に、自分のダンスの先生が望んでいること、両親が望んでいることを受け入れながら花開いていく設定にしたいと思いました。恵まれない家庭の出身で、ダンスを通じて社会を登りつめていく。ピナ・バウシュなどのように、恵まれない家庭に生まれながら、類まれな才能に恵まれて成功していく姿を重ねながら、映画作りを行いました。
アンジュラン:シナリオを書いている間に主人公ポリーナの周りが男性ばかりだったので、今の時代は女性も描くべきだと考え、女性が目標になるような人物ということで、ジュリエット・ビノシュの女性振付師役を設定しました。実際に振付師になった女性もいらっしゃいますから。少し人生が違っても人物像の本質は変わらないわけで、原作者は「人物像を戻してくれた」と喜んでくださいました。そこが原作から映画を作る時の醍醐味かもしれません。
 
―――主役のアナスタシアさんは非常に目力がありますが、ヒロイン役に選んだ理由は?
ヴァレリー:ダンサーの女性の方には、パリで200人以上、モスクワやサントペテルブルクで300人以上にオーディションでお会いしました。アナスタシアさんの良さはバレエがとても上手で、コンテンポラリーダンスも、とても強い眼差しを持っていたところ。カメラに向かって自分を出し切るように見せることができました。カメラの前に立ちたいという意欲もありましたし、目の輝きの中にはミステリアスな力があり、私たちの想像した主人公ポリーナに近かったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ポリーナ、私を踊る』“Polina, danser sa vie”
監督:アンジュラン・プレルジョカージュ、ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジェレミー・ベランガール、ジュリエット・ビノシュ他
10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
© Carole Bethuel - Everybody on Deck
 
フランス映画祭2017
 
 
 

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『ノルウェーの森』(10)から6年ぶりとなるトラン・アン・ユン監督の最新作『エタニティ 永遠の花たちへ』が、フランス映画祭2017で上映された。
 
19世紀末、上流階級の家に生まれたヴァランティーヌ(オドレイ・トトゥ)、ヴァランティーヌの息子、アンリの幼馴染で妻となるマチルド(メラニー・ロラン)、マチルドと従姉妹で家族ぐるみで親交を続けているガブリエル(ペレニス・ペジョ)の世代の違う3人の女性を核に、ある家族の100年に渡る歴史を美しい映像で映し出す。自然豊かで、陽光が降り注ぐお屋敷で、次々と生まれてくる子どもたちの成長もきめ細やかに映し出す一方、繰り返される死に、家族の歴史の中で自分の存在の意味を問いたくなる。ピアノやアコースティックギターのシンプルながら上質な音色が、家族の生と死を時に激しく、時に優しく包み込む。映画の流れに身を任せ、映画から与えられるあらゆる美しさ、そして生の輝きを体感できる、とてもエレガンスな作品だ。
 
上映後に大きな拍手で迎えられたトラン・アン・ユン監督は、歓声に笑顔で応え、観客からも美しく、スケールの大きい本作について様々な質問が寄せられた。その模様をご紹介したい。
 

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―――『ノルウェーの森』(10)から久しぶりとなる作品ですが、どこから着想を得たのですか?
実は『ノルウェーの森』を作り終えてから一年後には、『エタニティ 永遠の花たちへ』のシナリオが出来ていたのですが、資金集めに大変時間がかかりました。(このキャストを見れば、容易にお金が集まるのではという問いに)俳優はいつもより低いギャラで受けてくれました。通常平均の10分の1ぐらいのギャラだったのではないでしょうか。
 
―――主演3人の起用について教えてください。
キャスティングは非常にシンプルに進行しました。まず撮影期間にスケジュールが空いていることが第一ですし、その他に重要視したのは、その人たちの顔から人間性が感じられることでした。今回は顔を見せる映画にしたい。つまり、その人生や人間性がその人の顔から感じられる作品にしたいと思ったのです。本作はストーリーらしいストーリー、シーンらしいシーンはありませんし、心理描写を排しています。だからこそ、俳優が現れた時にそこに人間性が現れるようにしたかった。原作を読んだ時に私が感じたエモーションを伝えたいと思いました。リスキーで大胆な方法ですが、あの感情を映画で伝える唯一の方法だと思ったのです。私が感動したのは、時の流れの偉大さでしたから。
 
―――ペレニス・ペショさんとの仕事はいかがでしたか?
唯一私に対してイラついていた女優でした。撮影の最初から、「率直に言って、私は何をしているか分からない」と言っていました。撮影前に役者たちを集めてミーティングをしたのですが、その時点で私がどのように映画を撮ろうか、どのような映画になるのか分かっていませんでした。そこで私が彼らに言ったのは「おそらく撮影期間中、途方にくれたりフラストレーションを覚えたりするだろうが、完成すれば今想像している以上に豊かな表現になっているから」と。私自身も確信はありませんでしたが、撮影はしなければならないので、俳優たちを安心させようとそのように伝えたのです。
 
夜、部屋で袖のボタンをはずすシーンがあったのですが、ペショさんにとってそれが難しかったので、私が例を示しました。すると、できないことに苛立ち、「私はあなたの操り人形じゃないのよ。そんなことをするなんて、私を見下していように感じるわ」と怒るので、思わず謝りました。でも、その後は仲良くなれたのです。
 
―――花のある暮らしがこんなにもステキで幸せであることが、映画から伝わりました。全体的に女性の感覚が盛り込まれているが、あえて女性的視点で撮ったのですか?
原作に感動したので、原作の世界をいかに映画的言語に置き換えるか、洗練された映画表現に移し替えるかを念頭に置きました。『青いパパイヤの香り』がカンヌ国際映画祭で紹介されたときは、私の名前が現地では女性の名前のように見えるらしく、私が檀上に立つと男であることに驚かれました。それからときどき私は冗談で「カンヌで性転換した」と言っていましたね。
 
―――姉妹のしっとりした関係描写は『青いパパイヤの香り』でも描かれていましたね。
私の作品には常に家族というものが登場します。私の家族はベトナム戦争のせいで両親と弟しかいません。私はそれをとても脆いと感じていたのです。ですから原作本の大家族に非常に感銘を受けました。映画では最後に二つの家族が合体し、16人の子どもたちが一緒になって食事をとるシーンがありますが、私がとても感動するシーンなのです。
 

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―――人と風景が調和された映像、映像の美しさだけでなく人間が自然の一部ということに気付かされます。大家族の大きな流れの中で、理不尽な死も含まれるものの、生と死の循環を感じますが、監督自身の持っている世界観は?
映画作家としては人生に対するビジョンを見せる。スクリーンを通して人生を表現することを目指しています。その点で自然は私にとって一つの手段です。人間が感じる感情を視覚的に表すとき、自然が重要な役割を果たしています。みなさんお気づきでしょうが、この映画は永遠から見た視点で語られます。人生のディテールが消え、戦争や家族の詳細が消え、出産、婚約、結婚がどんどん流れていく。こういう方法が時の流れを描く唯一の方法だと思って取り組みました。長い時の流れからみれば、残るものは思い出だけなのです。
 
―――セリフは少ないながらも、音楽がこれからくる死を予感させました。監督はシーンを撮っている時から使用する音楽をきめていたのか?
今回の音楽の使い方は、これまでの私の映画にはないものです。この映画では映像がナレーション的なつなぎ方をしていないので、音楽に物語を語らせることを試みています。音楽が話を語ると言うより、観客が自分で話を紡ぐ助けを音楽がしている訳です。まるで観客が作家になったような気持ちで、映画を観ながら話を紡ぐような仕立てになっています。音楽が観客の持つ美意識を刺激することで、話が生まれてくると思います。
 
今回は、私がいつも聞いている音楽から選んでいます。4分あるような長い曲、例えばフランツ・リストのピアノ曲は映画編集において絵に合わせるのが難しいですが、今回は驚くほど編集した映像に音楽が合いました。あまりにもの一致さに編集担当者が「私があまりにも(映画に合う)曲を知っているので、撮影している時も、その音楽が導いていたのだろう」と仮説を立てていました(笑)。
 
―――人が死んだ後、時の流れに抗う感じで回想シーンがありましたが、その意図は?
この作品は、思い出についての映画です。死の後に見えてくる映像は、生きている人の死者に対する思い出の映像です。私は美こそが残るものだと思います。それは映画においてもそうで、映画が美しいと感じる時は、使われ方が正しいときなのです。どんなに美しい映像を撮ってもそれを使う意義がなければ、人々はインパクトを感じません。私は常に美を心に残して映画館を去ってもらいたいなと思って作品作りをしています。観客が常に持っている美意識のポテンシャルを呼び覚ます作品づくりを心掛けているのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『エタニティ 永遠の花たちへ』“Éternité”
(2016年 フランス=ベルギー 1時間55分)
監督:トラン・アン・ユン
出演:オドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ペレニス・ペジョ 
配給:コムストック・グループ 
今秋~シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
 
フランス映画祭2017
 

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「見るのが大変なシーンは多いが、私にとって大変なシーンはない」

イザベル・ユペール、唯一無二のヒロインの内面を語る。

 

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『氷の微笑』ポール・ヴァーホーヴェン監督が、イザベル・ユペールを主演に迎え、フィリップ・ディジャン(『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』)原作をオールフランス人キャストで撮りあげた『エル ELLE』。自宅で覆面男に襲われたゲーム会社社長のミシェルが復讐を企てるうちに、自らの知られざる本性が明らかになっていく様をサスペンス調に描いている。イザベル・ユペール演じるミシェルの予測不可の行動は、時にセンセーショナルで、時に滑稽さも滲む。犯人捜しをしているつもりが、いつの間にかミシェルの内面を覗き見たいという衝動に駆られることだろう。
 
フランス映画祭2017での上映後、ポール・ヴァーホーヴェン監督と、主演イザベル・ユペールさんが登壇し、観客から大きな拍手が送られた。2年連続の映画祭来場に観客からは「名誉団長として毎年来場してほしい」とユペールさんにラブコールが起こるなど、熱気あふれる会場で行われたトークショーの模様をご紹介したい。
 

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―――父が連続殺人鬼であることが主人公ミシェルの本性に大きな影響を与えているように感じるが、ミシェルの本当の性格をどう思うか?
ユペール:自分自身を滅ぼしてしまう部分はあるかもしれませんが、この出来事を通じてミシェルはある種の再構築するのではないかと考えています。もしかしたら父が連続殺人鬼なのが、もしかしたらその説明になるかもしれないが、映画ではそのことが必ずしもリンクしているのではなく、それは一つの情報として提供されています。そこは観客の皆さんが自由に解釈していただく部分です。
 
ミシェルはレイプされるという暴力的な出来事を、ポジティブとは言わないまでも、何か自分の頭の中で、自分は誰かということと関連づけていきます。非常に男性的な暴力はどこからくるのか、自分自身が直面することで知りたいと思っているのかもしれません。冷酷さがミシェルの原動力になっている訳ではありません。
 

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―――監督はユペールさんとミシェルのキャラクターについて話し合いをしたのか?
監督:一切していません。どういう風に撮るのかのプランや、レイプのシーンで危険な事故が起こらないような話し合いはしましたが、キャラクターの動機は一切ディスカッションしていません。それはするべきではないと考えていました。フロイト的な分析にしかならず、映画を作る助けにはならないのです。ユペールさんを信用していたので、我々は見ているだけでした。
 
―――ミシェルは幼い頃父親が犯した連続殺人により、トラウマ的体験をしているが、ミシェルのレイプ事件とそれぞれモデルになるような事件はあったのか?
監督:ミシェルが10才のときに経験したことが、その後の彼女にどう影響したのか。レイプ犯とサドマゾ的関係になることと結果的につながるのかは全く小説では描かれていませんし、この映画でもそうです。ミシェルというキャラクターを生み出し、実際に事件を経験した少女が数十年後にどうなるかを筆者は掘り下げて書いていったのだと思います。
父親についてはノルウェーで70名ぐらいの殺人を犯した事件があり、そのキャラクターをベースにしているそうです。
 
―――撮影で一番大変だったシーンは?
ユペール:見るのは大変なシーンはあると思いますが(笑)、私にとって大変なシーンはありません。私にとって一番大変なのは鳥が死ぬシーンです。この映画のテーマは命ですし、こんな小さな命をもミシェルは救おうとする訳で、いかに命が大切かにつながっていきます。
(江口由美)
 

<作品情報>
『エル ELLE』“ELLE”
(2016 フランス=ドイツ=ベルギー 2時間11分)
<監督>ポール・ヴァーホーヴェン
<出演>イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ他
2017年8月25日(土)~TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー
(C) 2015 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS- TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION - FRANCE 2 CINEMA - ENTRE CHIEN ET LOUP
 
フランス映画祭2017は、6月22日(木)~25日(日)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催。
 
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今年で第25回の節目を迎えるフランス映画祭のオープニングセレモニーが6月22日(木)19時30分よりTOHOシネマズ日劇にて開催された。満席の観客を前に、カトリーヌ・ドヌーヴ団長他豪華ゲストに加え、スペシャルゲストとしてフランス映画祭2017親善大使を務める北野武監督も登壇。短い時間ながらフランス映画祭に向けての熱いメッセージが寄せられた。
 

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最初に登壇したユニフランスのジャン=ポール・サロメ会長は「25年間多くの方に来ていただきありがとうございます。今年も多くの方に来ていただけますように。良い映画祭をお過ごしください」と挨拶。同イザベル・ジョルダーノ代表もスポンサーへの感謝の言葉を述べ、カトリーヌ・ドヌーヴの出演作をダイジェスト編集した7分間のトリビュートフィルムが上映された。ブラボーというかけ声の中、新作の『The Midwife(英題)/ルージュの手紙(邦題)』主演女優でもある、フランス映画祭2017団長のカトリーヌ・ドヌーヴが登壇し、ひと際大きな拍手が送られた。サロメ会長から贈呈された花束を手に、「25回目の団長を務めることができ、大変うれしいです。今回11作品が選ばれていますが、そのうち4作品は女性監督のもので、大変重い意味を持っています。新しいことであり、私はこのチョイスに賛同いたします。多くの映画を観ていただきたいです。今日はお越しいただき、ありがとうございます」と挨拶したドヌ―ヴ団長は、笑顔で客席からの歓声に応えた。
 
 
引き続き、来日ゲストが紹介され、ポール・ヴァーホーヴェン監督(『ELLEエル』)、イザベル・ユペール(『ELLEエル』主演女優)、カテル・キレヴェレ監督(『あさがくるまえに』)、ダニエル・トンプソン監督(『セザンヌと過ごした時間』)、アンヌ・フォンティーヌ監督(『夜明けの祈り』)、ルー・ドゥ・ラージュ(『夜明けの祈り』主演)、エドゥアール・ベール監督(『パリは今夜も開催中』)、トライ・アン・ユン監督(『エタニティ 永遠の花たちへ』)、マルタン・プロヴォ監督(『The Midwife(英題)/ルージュの手紙(邦題)』)ら総勢9名の来日ゲストが揃い、檀上は一気に華やかさに包まれた。
 
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ここで、フランス映画祭2017親善大使の北野武監督が登壇。イザベル・ジョルダーノ代表に「独特のユーモアやポエジーのセンスにインスピレーションを得ている」と紹介された北野監督は、ドヌ―ヴ団長と昨年の団長で今年もゲストとして来場したイザベル・ユペールの大女優に囲まれながら、「どうも遅れましてすいません。安倍晋三です」と得意のシュールな政治ネタを繰り広げ、客席を笑いの渦に巻きこんだ。改めて「25回目ということですが、僕にとってフランス映画はジャン・ギャバンから始まり、セルジュ・ゲンズブールとジェーン・バーキンの『ガラスの墓標』をはじめ、イザベル・ユペールさんやカトリーヌ・ドヌーヴさんの影響を本当に受けています。最近の(日本の)映画事情として親子で楽しめる映画はいいけれど、映画は恋人や友人とそれを観ながら語り合い、お互いの教養を深める役目もあります。フランス映画は一番語りやすく、そして難しい映画です。こうやって大女優と大監督が揃い、25回目を迎えたことは本当におめでたいし、そこに呼んでいただけたのは光栄です」と自身のフランス映画への愛を交えてのスピーチが行われた。
 
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写真左よりイザベル・ユペール、ポール・ヴァーホーヴェン監督(『ELLEエル』)、ジャン=ポール・サロメ会長、アンヌ・フォンティーヌ監督、ルー・ドゥ・ラージュ(『夜明けの祈り』)
 
フォトセッションに引き続き行われたオープニング上映作品『The Midwife(英題)/ルージュの手紙(邦題)』の舞台挨拶では、「この映画の中では自由な女性と、自分の家に閉じこもってしまう女性を描いています。私がドヌ―ヴを発見したようにだんだんお互いを見い出す作品です。ドヌ―ヴと一緒にこの場に来ることができ、嬉しく思います。良い映画を!」(マルタン・プロヴォ監督)
「みなさんを感動させ、また笑わせてくれる映画です。人生とは何か、死とは何かをいつもとは違う切り口で伝えている映画です。どうぞお楽しみください」(カトリーヌ・ドヌーヴ)
とメッセージを寄せ、観客から改めて大きな拍手が寄せられた。
 
(江口由美)
 

フランス映画祭2017は、6月22日(木)~25日(日)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催。