映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

『エル ELLE』ポール・ヴァーホーヴェン監督、主演イザベル・ユペールトークショー@フランス映画祭2017

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「見るのが大変なシーンは多いが、私にとって大変なシーンはない」

イザベル・ユペール、唯一無二のヒロインの内面を語る。

 

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『氷の微笑』ポール・ヴァーホーヴェン監督が、イザベル・ユペールを主演に迎え、フィリップ・ディジャン(『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』)原作をオールフランス人キャストで撮りあげた『エル ELLE』。自宅で覆面男に襲われたゲーム会社社長のミシェルが復讐を企てるうちに、自らの知られざる本性が明らかになっていく様をサスペンス調に描いている。イザベル・ユペール演じるミシェルの予測不可の行動は、時にセンセーショナルで、時に滑稽さも滲む。犯人捜しをしているつもりが、いつの間にかミシェルの内面を覗き見たいという衝動に駆られることだろう。
 
フランス映画祭2017での上映後、ポール・ヴァーホーヴェン監督と、主演イザベル・ユペールさんが登壇し、観客から大きな拍手が送られた。2年連続の映画祭来場に観客からは「名誉団長として毎年来場してほしい」とユペールさんにラブコールが起こるなど、熱気あふれる会場で行われたトークショーの模様をご紹介したい。
 

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―――父が連続殺人鬼であることが主人公ミシェルの本性に大きな影響を与えているように感じるが、ミシェルの本当の性格をどう思うか?
ユペール:自分自身を滅ぼしてしまう部分はあるかもしれませんが、この出来事を通じてミシェルはある種の再構築するのではないかと考えています。もしかしたら父が連続殺人鬼なのが、もしかしたらその説明になるかもしれないが、映画ではそのことが必ずしもリンクしているのではなく、それは一つの情報として提供されています。そこは観客の皆さんが自由に解釈していただく部分です。
 
ミシェルはレイプされるという暴力的な出来事を、ポジティブとは言わないまでも、何か自分の頭の中で、自分は誰かということと関連づけていきます。非常に男性的な暴力はどこからくるのか、自分自身が直面することで知りたいと思っているのかもしれません。冷酷さがミシェルの原動力になっている訳ではありません。
 

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―――監督はユペールさんとミシェルのキャラクターについて話し合いをしたのか?
監督:一切していません。どういう風に撮るのかのプランや、レイプのシーンで危険な事故が起こらないような話し合いはしましたが、キャラクターの動機は一切ディスカッションしていません。それはするべきではないと考えていました。フロイト的な分析にしかならず、映画を作る助けにはならないのです。ユペールさんを信用していたので、我々は見ているだけでした。
 
―――ミシェルは幼い頃父親が犯した連続殺人により、トラウマ的体験をしているが、ミシェルのレイプ事件とそれぞれモデルになるような事件はあったのか?
監督:ミシェルが10才のときに経験したことが、その後の彼女にどう影響したのか。レイプ犯とサドマゾ的関係になることと結果的につながるのかは全く小説では描かれていませんし、この映画でもそうです。ミシェルというキャラクターを生み出し、実際に事件を経験した少女が数十年後にどうなるかを筆者は掘り下げて書いていったのだと思います。
父親についてはノルウェーで70名ぐらいの殺人を犯した事件があり、そのキャラクターをベースにしているそうです。
 
―――撮影で一番大変だったシーンは?
ユペール:見るのは大変なシーンはあると思いますが(笑)、私にとって大変なシーンはありません。私にとって一番大変なのは鳥が死ぬシーンです。この映画のテーマは命ですし、こんな小さな命をもミシェルは救おうとする訳で、いかに命が大切かにつながっていきます。
(江口由美)
 

<作品情報>
『エル ELLE』“ELLE”
(2016 フランス=ドイツ=ベルギー 2時間11分)
<監督>ポール・ヴァーホーヴェン
<出演>イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ他
2017年8月25日(土)~TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー
(C) 2015 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS- TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION - FRANCE 2 CINEMA - ENTRE CHIEN ET LOUP
 
フランス映画祭2017は、6月22日(木)~25日(日)有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇(東京会場)にて開催。