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『ポリーナ、私を踊る』アンジュラン・プレルジョカージュ監督、ヴァレリー・ミュラー監督トークショー@フランス映画祭2017

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~バレエからコンテンポラリーダンスへ、

自分だけの踊りを探求したダンサーが辿り着いた表現とは?~

 
祖国ロシアで、両親の望みであるボリショイバレエ団を目指していた天才バレエ少女が、コンテンポラリーダンスとの出会いをきっかけに、自らの進む道を自分で切り開こうと葛藤する。フランスのエクス・アン・プロヴァンス、ベルギーのアントワープと、街並みも異なれば、踊りも異なる場所を舞台に、ヒロイン・ポリーナの成長を描いたダンス映画、『ポリーナ、私を踊る』が、フランス映画祭2017で上映された。
 
ドキュメンタリーや劇映画を手掛けているヴァレリー・ミュラー監督と共に本作の監督を務めたのは、自身もバレエダンサーでコンテンポラリーダンスの振付師でもあるアンジュラン・プレルジョカージュ。オーディションで選ばれた映画初出演のアナスタシア・シェフツォワが踊りだけでなく、その目力で貪欲に自らの踊りを追求するヒロイン、ポリーナを強烈に印象づける。ポリーナの才能を見い出した恩師ボジンスキー役には、ポーランドの名優、レクセイ・グシュコフ。エクス・アン・プロヴァンスのコンテンポラリーダンスカンパニーでポリーナを指導する振付師役、ジュリエット・ビノシュも劇中で伸びやかなダンスを披露。さらにパリ・オペラ座のエトワール、ジェレミー・ベランガールも、本作ならではのダンスで圧倒的な存在感をみせる。EDM (エレクトリック・ダンス・ミュージック)のリズムに乗りながら、挫折から立ち上がったポリーナが初めてのコンテンポラリーダンスの創作に取り組む一連のシーンは、クライマックスにも負けない高揚感を与えてくれるだろう。
 
躍動感溢れる本作の上映後に行われたアンジュラン・プレルジョカージュ監督、ヴァレリー・ミュラー監督を招いてのトークショーをご紹介したい。
 

DSCN5826.JPG―――『ポリーナ、私を踊る』を映画化したきっかけは?
ヴァレリー:原作は、バスティアン・ヴィヴェスのバンド・デシネ(コミック)です。この作品を選んだのは、作家自身をよく知っていますし、彼の仕事ぶりをとても評価しているからです。原作の「ポリーナ」は現代の若い女性の強さを描いています。普通のバレエ物語のような固定観念がないところにも惹かれました。この物語や主人公ポリーヌを通して、だんだん成長し、自分自身を見出だしていく様を語ることができると思い、本作を作りました。ダンスという仕事を通して成長が見えてくるが、小説みたいな冒険を語ることと、ダンスをあまり知らない人にダンスを踊るということがどういうことかを伝えるきっかけになりました。
 
―――共同監督した経緯は?
アンジュラン:バレエの映像は何度も撮っていましたが、ヴァレリーはとても優れた監督でありシナリオライターですから、ダンスを題材にフィクションを作ったら面白いのではないかと思いました。バスティアン・ヴィヴェスのバンド・デシネはとても優れた作品でしたから、プロデューサーが提案してくれた時は、私もすぐにやる気になったのです。
 

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―――ダンサーの起用はどのように行ったのですか?
ヴァレリー:アンジュランと決めたことは例えば頭は俳優だけど、下半身は別というような特写ではなく、本人に踊ってもらうようにしました。オーディションではダンサーで演じられる人か、俳優で踊れる人を選びました。映画とダンスがこういう形で一致して、一緒に歩むことができるようにしたかったし、ダンサーと俳優がお互いにノウハウを分かち合うようにもしたかったのです。ポリーナ役のアナスタシア・シェフツォワも元々バレリーナで、映画は初出演です。また、ジェレミー・ベランガーはオベラ座のエトワールですし、ジュリエット・ビノシュはイギリスのダンサーと一緒に舞台でダンスも定期的に踊っています。ニールス・シュナイダーは撮影前にアンジュランと、彼のダンス舞台に出てもらって踊りを学んでもらいました。それぞれ6カ月の準備をかけて、撮影で踊ってもらっています。
 
アンジュラン:ヴァレリーと私は映画作りに関して特別な考え方を持っています。体で表現できる映画を作りたい、まさに身体が表すことを示したいのです。例えば、夜に灯りがないところを歩いていても、それが誰かは歩き方で分かります。身体の動かし方で人物像が映し出されますし、その人の意味を表していると思います。顔が表しているようなものを、身体全体が表している映画を作りたいと思いました。
 
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―――原作とは少し設定を変えているところは?本作は原作より両親との関係にフォーカスして、バレエ界の現実を描いているが?
ヴァレリー:映画化にあたり考えたのは、主人公を社会や家族の中に位置づけ、それぞれのつながりを描きたい。成長の物語と共に、自分のダンスの先生が望んでいること、両親が望んでいることを受け入れながら花開いていく設定にしたいと思いました。恵まれない家庭の出身で、ダンスを通じて社会を登りつめていく。ピナ・バウシュなどのように、恵まれない家庭に生まれながら、類まれな才能に恵まれて成功していく姿を重ねながら、映画作りを行いました。
アンジュラン:シナリオを書いている間に主人公ポリーナの周りが男性ばかりだったので、今の時代は女性も描くべきだと考え、女性が目標になるような人物ということで、ジュリエット・ビノシュの女性振付師役を設定しました。実際に振付師になった女性もいらっしゃいますから。少し人生が違っても人物像の本質は変わらないわけで、原作者は「人物像を戻してくれた」と喜んでくださいました。そこが原作から映画を作る時の醍醐味かもしれません。
 
―――主役のアナスタシアさんは非常に目力がありますが、ヒロイン役に選んだ理由は?
ヴァレリー:ダンサーの女性の方には、パリで200人以上、モスクワやサントペテルブルクで300人以上にオーディションでお会いしました。アナスタシアさんの良さはバレエがとても上手で、コンテンポラリーダンスも、とても強い眼差しを持っていたところ。カメラに向かって自分を出し切るように見せることができました。カメラの前に立ちたいという意欲もありましたし、目の輝きの中にはミステリアスな力があり、私たちの想像した主人公ポリーナに近かったのです。
(江口由美)
 

<作品情報>
『ポリーナ、私を踊る』“Polina, danser sa vie”
監督:アンジュラン・プレルジョカージュ、ヴァレリー・ミュラー
出演:アナスタシア・シェフツォワ、ニールス・シュナイダー、ジェレミー・ベランガール、ジュリエット・ビノシュ他
10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
© Carole Bethuel - Everybody on Deck
 
フランス映画祭2017