映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2014年7月アーカイブ

tomoyo-di-550.jpg友よ、さらばと言おう 』フレッド・カヴァイエ監督(46歳)トークショー

原題:Mea Culpa
監督・脚本:フレッド・カヴァイエ
出演:ヴァンサン・ランドン、ジル・ルルーシュ、ナディーン・ラバキー、
2014/フランス/90分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ

2014年8月1日(金)~新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ 他全国ロードショー

公式サイト⇒ http://www.tomoyo-saraba.com/
© Thomas Brémond © copyright Gaumont - LGM Cinéma 


 

~「愛する者を救うためにすべてを投げ打つ男」シリーズ第3弾・刑事篇~

 

 息もつかせぬサスペンス・アクションと極限の愛で観客の心を釘付けにする、ニュー・フレンチ・ノワールの旗手、フレッド・カヴァイエ監督。長編映画デビュー作『すべて彼女のために』(‘08)で、平凡な教師が突然殺人犯として逮捕された妻のために法を犯してでも救おうとするその必死さが感動を呼び、ハリウッドでもラッセル・クロウ主演でリメイクされた。続く2作目の『この愛のために撃て』(‘10)では、身重の妻を人質に取られた看護師が警察からも犯罪組織からも追われる悪夢のような状況を激写。

tomoyo-550.jpg そんなフレッド・カヴァイエ監督の最新作が『友よ、さらばと言おう』だ。今回は『すべては君のために』の主役(ヴァンサン・ランドン)と、『この愛のために撃て』の主役(ジル・ルルーシュ)をダブル主演させるという最強タッグを組んできた。元刑事の父親が、殺人事件を目撃してしまった息子を犯罪組織から守るため、友人の刑事と共に命懸けで激走する。過去の罪を背負い続けた二人の男の友情と、家族を失って初めて気付く思いの強さに哀愁をにじませ、人間を深く見つめたヒューマンドラマとなっている。

 「愛する者を救うため~」という極限の愛を基盤に、ハイテンションで疾走する追跡劇の進化は、今回フランスの新幹線TGV車中での銃撃戦でクライマックスを迎える。いや~見ているだけ冷や汗をかいてしまう程だ。過去2作を凌駕するような緊迫感に圧倒されることだろう。

 今年の《フランス映画祭2014》のため来日したフレッド・カヴァイエ監督のティーチ・インが、2014年6月28日(土)TOHOシネマズ有楽町にて開催された。


tomoyo-di-3.jpg ――― 原題「Mea Culpa」の意味は?
ラテン語ですが、「自分自身の罪、過ちを認める」ということです。
主人公のシモンは事故を起こしたことで人生を台無しにしてしまい、その罪を贖おうという気持ちを抱えて生きてきました。それに対し、実はフランクの方がもっと強い罪の意識を抱えていたのです。全く違う一面が見えてくるようなタイトルにしました。邦題も「友情」という意味を引き出してくれるいいタイトルだと思います。
 

――― マフィア側の男たちが使っている言語は?
悪役はすぐに分かるように誇張した作りにしたかったので、ロシア語やセルビア語のような東欧系を思わせる言葉です。要は国籍は関係なく、主人公たちがその言葉が解らないようにしたかったのです。
 

tomoyo-3.jpg――― 監督の作品にもうジル・ルルーシュはもう登場しない?
彼はまだ生きているので、ご安心を。またいつか一緒に仕事ができると思います。ジルはとても共感できる風貌で、前作の『この愛のために撃て』でも善良な人物として描かれました。でも、今回は善良に見える人物が実は裏に違う顔を持っているという二面性を持たせることで、白黒をはっきりつけずに「グレーゾーン」という存在にしたのです。
 

tomoyo-2.jpg――― ヴァンサン・ランドンとジル・ルルーシュとのコンビについては?
監督第1作目の『すべては君のために』の主役(ランドン)と、2作目『この愛のために撃て』の主役(ルルーシュ)をダブル主演させるなど、かなり信頼できる俳優だからそうしたんです。今回はハードなアクションが多く、彼等も生傷が絶えなかったのですが、それがより一層迫真の演技につながったようです。
 

――― 音楽は?
前作はクラウス・タベルト(長くハンス・ジンマーと一緒にやっていた人)でしたが、今回は、レッド・ホット・ペッパーのドラマーだったクリス・マルティネスに依頼しました。S・ソダーバーグや『ドライヴ』のニコラス・ウィンデング・レフンの作品を担当していた人です。本作の雰囲気を盛り上げるのにとても効果的な音楽を創ってくれました。、彼のスタイルに本作はよく合っていたし、彼にとっても新しい発見があったと思います。
 

tomoyo-di-2.jpg――― キレのあるアクション、サスペンスだったが、そういうセンスはどこから生まれているのか?また、ハリウッドでのリメイクについて?
このような映画を撮れる監督は他にもいると思います。本映画祭に出品される多様性のある作品と同様、予算がつかない分、演出で小気味良さを出したり、カーアクションのシーンでは新鮮さを出そうと知恵を絞ったり、いろいろと工夫して撮っているのです。
今まで見た映画すべてに影響を受けています。自分で製作しながら学ぶことも多いです。1作目より本作の方が上手にできていると思います。
リメイクされたことは、私だけでなくキャストやスタッフのとっても誇らしいことです。物語自体、「普遍的な愛」を謳っているので、世界中の人が見ても感動できると思います。
 

tomoyo-4.jpg――― 銃撃シーンや追跡シーンなどシモンの息子役のテオ君はよく走らされていましたが、相当怖かったのでは?子役の心理的ケアはしているのか?
すごくスピーディで暴力的に見えているかもしれませんが、実際の撮影ではカット毎にストップして撮っているので、そんなに恐怖を感じることはありません。テオ君と悪役の俳優が一緒に楽しく食事していました。追い駆けっこをしているような感じですね(笑)。
 

――― サスペンスなのにユーモアの要素も多かったようだが?
このようなずっと緊張感が続く映画はホッとできる場面も必要なんです。その方がより面白く感じられますから。例えば、ルルーシュがトマトスープをこぼすシーンとかね。
 

――― 最後に。
こんな遅い時間までお付き合い下さり、本当にありがとうございました。心から感謝いたします。また、招待して下さったユニフランスや、日本での滞在を有意義なものにしてくれた配給会社にも感謝します。さらに、一緒に付き合ってくれた友人にも感謝します。(日本語で)「どうもありがとう!」
 


  ごく普通の生活を送っている男が、愛する者を守るため決死の行動に出る。それは国籍や民族や宗教など関係なく普遍的テーマだ。その超法規的ボーダーラインを超える時の男の表情が、何とも哀愁を感じさせて惹き付けられる。かつての日本の任侠映画に共通するところもあるが、フレッド・カヴァイエ監督は、義理人情ではなく、あくまで普通の人間が極限状態に追い詰められた時の変化をドラマチックに捉えている。そこに現代を反映したニュー・フレンチ・ノワールと言われる所以でもあり、本作の真価とも言えるだろう。

(河田 真喜子)

2-automnes-3-hivers-main.jpg『2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers

監督:セバスチャン・ベベデール
出演: ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィラー、バスティアン・ブイヨン、オドレイ・バスティアン
2013/フランス/90分/スタンダード/5.1ch

 


 
2-automnes-3-hivers-sub2.jpg 33歳、美術学校卒、独身。定職につけずに暮らすアルマン。ジョギング中に知り合ったアメリと親しくなりたいが、なかなか思いは届かない。そんなとき、思わぬ事件が起こり、2人は恋人同士に……映画は、2組のカップルの恋物語とその周辺の人々の、さまざまな日常が描かれる。登場人物の独白(モノローグ)や、50章ほどのチャプターに分かれて展開される。主演のひとりがヴァンサン・マケーニュ。昨年のフランス映画祭2013の『遭難者』『女っ気なし』で好演した注目の若手男優だ。

2-automnes-3-hivers-d1.png 監督は、セバスチャン・ベベデール。撮影に、16ミリとデジタルといった複数の種類のカメラを使用したり、物語を2-3分ほどの短いエピソードに分けていくという実験的な手法を本作で取り入れている。013年トリノ国際映画祭では審査員特別賞を、同年の”Cinessonne”(エソンヌ県ヨーロッパ映画祭)では観客賞を受賞。その斬新な試みはヨーロッパの観客のみならず、日本の観客をも夢中にさせたようだ。フランス映画祭2014の初日、午後9時という遅い時刻の開演でありながら、客席は多くの映画ファンでにぎわった。上映終了後の、ベベデール監督とのQ&Aを楽しみにしていた人も少なくなかったに違いない。


上映の翌日、ベベデール監督に、本作への思い、少年時代の思い出などについて話を伺った。


 
――― 短いエピソードを積み重ねて創り上げるという、実験的な手法がおもしろいですね?
全部で50章あります。始めから50章にしようと意識したわけではありません。各章は2分から3分ぐらいでしょうか。何かを伝えようとした場合に必要な時間を考え、この2−3分という長さがちょうどよかったのです。

――― 少年時代の思い出について?
出身は南フランス、ピレネー山脈の(Les Pyrénées)あたりです。17歳ぐらいまで暮らしていました。小さい頃はよく森で遊んでいたのを覚えています。小屋を建てたりとか……

――― 2つの秋、3つの冬では山のシーンが出てきますが、とても自然に美しく撮れていましたね?
映画の中に、山を訪れるシーンがどうしても必要だと思い、撮影しました。アメリが突然泣き出すシーンがありますが、彼女が泣くことができたのは、目の前に山があったからです。

 ――― 心が素直になれた、ということでしょうか?
はい。都会ではないあのような景色に触れることで、普段はおさえている本当の感情が表に出やすくなると思うのです。

2-automnes-3-hivers-d2.jpg――― 映画で描かれる「山」の存在は、あなたのこども時代とつながっているのですね?もし、あなたが「海」を描いたら、そこには違う展開があるのかもしれません。
実は、今書き終わったばかりの脚本では、海に囲まれる島が出てきます。登場人物の生き方に海は不可欠で、彼らを山に連れていくことはできなかったので…。

――― 次回作は?
『2つの秋、3つの冬』同様、コメディとメランコリックなトーンがほどよく混ざり合った作品。でも、今回のように細かくチャプター(章)が分かれているわけではありませんが、現段階の脚本では大きく3章に分かれています。

――― 本作では、低予算の中、尽力したと聞いています。50章という短いエピソードを重ねたのは、低予算ゆえ用いた手法だったのでしょうか?
この手法は、予算とは関係ありません。ただ、低予算だったというのは本当です。出資額が多いと、その分、多くの意見を取り入れなければならなくなります。私は、自由に映画を撮りたかったので、あえて低予算という選択を取りました。

2-automnes-3-hivers-d3.jpg――― カメラ目線のモノローグ(独白)といった試みもなされていますが、小津安二郎監督のことを思い出しました。
そう言っていただけるととても嬉しいです!影響を受けたかどうかはわからないのですが、私は小津映画が大好きで、よく観ていましたから。

こどもの頃、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』に感動した少年セバスチャンは、いつしか映画監督をめざすようになり、はかり知れない数の映画を観るようになる。自国フランスの映画はもちろん、小津安二郎監督の『東京物語』等も、彼の栄養となった。

――― Bonsai(盆栽)やNinja(忍者)という言葉が出てきますね。また、日本出身の女性も登場しますが?
今から6−7年前に、『日本の映画監督がフランスで撮影をする』という作品を撮ったことがあります。そのとき、日本の俳優さんから、日本についていろいろなことを教えてもらいました。

 ――― ベベデール監督が、若者たちに伝えたいことは何でしょうか?
”希望”です。今は決して楽しい時代ではないかもしれません。それでも、私たちは、“生活”という現実を通して幸せになれるし、楽しいという気持ちを持ちながら、理不尽な社会と闘うことができるのではないでしょうか。


 フランスに住む30代の人々の揺れ動く気持ちを描くため、ベベデール監督は撮影手法そのものに変化をつけた。16ミリカメラとデジタルカメラの併用、細かい章立て、クローズアップの多用、カメラ目線でのモノローグ、ストーリーの脱線(脇道にそれる展開)etc.…… そこには、今の世の中に挑もうとする「小さなレジスタンス」の精神がしっかりと刻まれていた。

(田中 明花)

Gerominimo-b550.jpg『ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム』 (Geronimo)

監督:トニー・ガトリフ
出演:セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア
2014/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch

© Film du Losange
2014年 カンヌ国際映画祭 特別招待作品


  

~音・リズム・ダンス、ほとばしる激情が疾走する!~

 

Gerominimo-1.jpg 南フランスのとある町。美しい花嫁姿の少女が式から逃げ出し、恋人の元へと走る。彼女の名前はニル、トルコ系の少女だ。ニルは、両親がすすめる結婚を拒み、対立するロマ(ジプシー)系のラッキーと駆け落ちする道を選ぶが……妹の不名誉に怒り狂う兄や親族たち。怒りは連鎖し、地区全体を巻き込む抗争へと発展しつつあった。そんな中、少年少女の指導にあたる教育者・ジェロニモ(セリーヌ・サレット)が、事態の収拾のため立ち上がろうとするが……


  2014年カンヌ国際映画祭の特別招待作品として上映された『ジェロニモ― 愛と灼熱のリズム』。今回は、本国フランス公開に先駆けて、映画祭で上映された。
 ダイナミックで情熱的な映画の余韻が残る中、《フランス映画祭2014》の団長であり、本作の監督であるトニー・ガトリフ監督と、プロデューサー・音楽担当のデルフィーヌ・マントゥレさんが登壇し、拍手喝采で迎えられる。ユニフランス・フィルムズ東京の手束紀子さんの司会により、Q&Aがすすめられた。

Gerominimo-b2.jpg この作品をつくった理由について、ガトリフ監督は熱い口調で「私は若者が大好きです」と語る。「いまフランスだけでなく世界中が厳しい状況にあり、恵まれない家庭に生まれた若者たちは、心理的にも社会的にも不安定です。映画で物事は解決できません。しかし、この映画を観ることによって、登場人物の若者たちに共感をもってほしいと思ったのです」押しつぶされそうな伝統にがんじがらめになり、家の名誉のために妹さえも殺そうとする若者が、この映画では克明に描かれる。
「今の時代、若者には安心できる未来がない。大学に入学しても仕事がない。そうすると、社会的に病んでしまいます。名誉のためなら妹さえも殺してしまうという行為は、フランスだけのことではないのです。残念ながら、世間は彼らを批判の目でしか見ない」理不尽な世に憤るガトリフ監督はこう続ける。「でも、私たちはこのような若者を裁いてはいけないのです。彼らは病気なのです。どうか、寛大な心で見守ってあげてほしい」。
 

Gerominimo-b3.jpg  プロデューサーであり、本作の音楽を担当しているデルフィーヌ・マントゥレさんは、『愛より強い旅』(2004年)から、ガトリフ監督作品の音楽を担当している。「ガトリフ監督は、暴力を映像にせず、音や音楽で表現する方法を取っています。私は、ナイフや電柱などを叩くなどして音をつくっていきました。撮影中に、役者はそのリズムを聞きながら演技をしていきます」。映画で描かれる対立は、トルコ系移民とロマ系(ジプシー系)移民。闘うシーンは、トルコ系の音楽とフラメンコなどのロマ系の音楽がテンポよく組み合わされ、登場人物のほとばしる激情を表していた。

 

 本編同様、情熱的に語るガトリフ監督とマントゥレさん。会場からも質問が相次いだ。

 

――― 今回も、バトルシーンに歌や踊りが使われていますが、監督にとって「踊り」はどういう意味を持っているのでしょうか?
ガトリフ監督:「私は、対立や抗争の場面で、暴力をそのまま表現したくはありませんでした。といって、無視することもできません。そんなとき、音楽と踊りは、映像に代わって暴力を表現してくれる手段となります。特に、体からわき上がるような憤りを表現するのに踊り(ダンス)は効果的でした」


――― ラッキー役の俳優さんは、ロマン・デュリスに似ていましたね?(ガトリフ監督作品に何度か出演していた、ロマン・デュリス)。
ガトリフ監督:「残念ながら、デュリスは40歳になってしまって、今回この役を演じてもらうことはできませんでした(笑)。だからデュリスを若返らせたような、常軌を逸したような感じの若者を起用したのです。私は、いつもデュリスのような人を探していますから」。


――― 映画紹介では『ロミオとジュリエット』や『ウエスト•サイド•ストーリー』が引き合いに出されていたが、実際の印象は少し違っていたが?
Gerominimo-b4.jpgガトリフ監督:「許されない恋愛を描こうとすると、どうしてもシェークスピアの『ロミオとジュリエット』は避けて通れない部分がありますね。しかしこの作品が違う印象を与えるのは、ジェロニモという1人の女性が主人公となっているからです。彼女は教育者として、非暴力という方法で異民族間の対立を終わらせようとしています。勇気があり、暴力に対し毅然として大胆に立ち向かっていきます。ジェロニモはこの世界の模範となる人物として描きました。そしてその人物が『女性である』ということ、それがより大切だと思っています」


――― なぜ、主人公をジェロニモという名前にしたのですか?
ガトリフ監督:「この脚本は、もともと男性のために書きました。そのとき既に主人公は『ジェロニモ』という名前だったのです。資金を集め終わり、さあ撮影を始めようというときに、なぜか、『男性の主人公で撮りたくない』という気持ちが芽生えてしまって……さあ困ったというとき、違う役のために会ったセリーヌ・サレットにたちまち惹かれて、彼女をジェロニモ役に起用しようと思った。彼女のまなざし、表情、そしてその精神の素晴らしさに気づき、カメラに収めたい!という思いがわき上がってきたのです」

 『ジェロニモ』といえば、伝説にもなったアパッチ族の戦士。家族を虐殺されるという悲しい運命を背負い、果敢に戦った伝説の勇者の名前をそのまま残し、セリーヌ・サレット演じる女主人公に名付けたという。


――― ジェロニモは、どこの出身でしょうか?
ガトリフ監督:「カタルーニャです。ジプシー・キングスが住むペリピニャンに近い地域です」。


最後に寄せられた「憎しみの連鎖を解く鍵は何だと思われますか?」という観客からの問いに対し、ガトリフ監督はこう結ぶ。「それは、私であり、あなたたちです。まず、私とあなたが止めようと動けば、何かが始まります。そんな人たちが何千人にもなればいいのです」今は、暴力が連鎖的に拡大し、インターネットがそれを助長していると嘆くガトリフ監督。「インターネットが暴力を普通にしてしまったのです。そしてその犠牲者は女性です」。世の乱れに憤るガトリフ監督が弱者に向けるまなざしは、優しくそしてあたたかい。

(田中 明花)

 

 

 

jan-550.jpg『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

監督:ジャン=ポール・サロメ
出演:フランソワ・ダミアン、ジェラルディン・ナカシュ、リュシアン・ジャン=バティスト
2013/フランス、ベルギー/105分/ビスタ/5.1ch

© Diaphana Films
 


 

ほのぼの感覚が新鮮な、コメディタッチのミステリー~
 

jan-3.jpg ジャン・ルノー(フランソワ・ダミアン)は、かつてセザール賞の新人賞を受賞したものの、よくジャン・レノと間違えられる売れない俳優。演技にこだわるあまり監督と衝突しては役を下ろされ、今は生活費もままならない。妻には去られ、こどもたちにもあきれた目で見られるありさまだ。そんなとき、職業安定所で紹介されたのは、殺人事件の現場検証で「死体」を演じるという仕事だった。

 ロケ地は、冬はスキー客でにぎわうアルプズのムジェーブ。女性の予審判事ノエミ(ジェラルディン・ナカシュ)の指示に従い、徹底的に役を演じようとするジャン。しかし、現場検証をしていくうちにいくつかの矛盾に気づき……2013年11月のローマ国際映画祭でのワールド・プレミア上映後、12月に本国フランスで劇場公開された。

jan-4.jpg「真犯人は誰か?」。サスペンスとコメディの絶妙なバランスは、フランソワ・ダミアンとジェラルディン・ナカシュの掛け合いがあってこそ。フランソワ・ダミアンのスマートなコメディセンスはもちろん、実際に女性の予審判事に会って役作りを行ったジュラルディン・ナカシュの演技にも注目を。


 
 


 

『ルーヴルの怪人』、『ルパン』などを手がけたジャン=ポール・サロメ監督の、初の挑戦となるコメディ。上映中、舞台裏で観客の笑い声を聞きながら、ほっと胸をなでおろしたそうだ。
サロメ監督は上映終了後に登壇、東京国際映画祭プログラミングディレクター・矢田部吉彦さんの司会で、Q&Aが行われた。

jan-1.jpg「俳優が殺人事件の現場検証に立ち会うというアイデアはどこから?」という矢田部さんの質問に、「新聞記事から」と答えるサロメ監督。実際に現場検証に立ち会った俳優のインタビューが、フランスの新聞『リベラシオン』に掲載されていたそうだ。「実際の犯罪現場で、本当の殺人犯と対峙する被害者の役というのは、つらい体験だったようです。同時に、映画にするには面白い設定だと感じました」

死体を演じる俳優という「キツい」状況の主人公を演じるのは、ベルギー出身の俳優、フランソワ・ダミアンさん。パリのバーで初めて会ったとき、彼に脚本の感想を尋ねると「妻が大変気に入っていたよ」との返事だったとか。そしてダミアンさんからこう質問されたという。「シャブリの白ワインは好きですか?」「好き」と答えたサロメ監督に「それなら気が合うはずだ」とダミアンさん。二つ返事で出演快諾の返事をもらったそうだ。
場内に笑いが溢れると、挙手にためらいがちだった観客席から次々と質問が。


jan-d1.jpg――— ダミアンさんの演技はアドリブ(即興)ですか? 
「僕はこの脚本を書くのに1年半かかった。だから君に台詞を勝手に変えてほしくはないなと答えました。この手の映画には入念に準備された脚本がどうしても必要ですから」。

ダミアンさんの役作りには、彼なりの方法があった。サロメ監督はそれを初日で把握することができたという。
「彼は、アドリブ感覚が必要な役者でした」。最初は脚本とまったく違った台詞で演じるダミアンさんだが、何度も演技をするうちに、最後には脚本に書いてある台詞に戻るのだそうだ。

「そしてこう言うんです。どう、ぼくがアドリブで考えた台詞?とね」
会場は、まるでダミアンさんがその場にいるかのような陽気な雰囲気に包まれた。


――— 俳優のための職業安定所が映画に登場しますが、本当に存在するのですか?
「はい、本当です。役者だけでなく、サーカスやオーケストラなど、舞台に関わるすべての人たちのための職業安定所があります。ただ、最近はアーティストたちが優遇されているこの制度を見直す動きもあって、それに対するデモも行われています」


――― 映画では、7号室の向かいに13号室があったような気がするのですが…?
「そのとおりです!7号室の向かいが13号室というのは、現実にはあり得ないですよね?美術担当とも議論になりました。でもこれは映画です。コメディですから」
不吉な「13」という数と縁起のよい「7」を対称的に配置したところが、サロメ監督らしくオシャレ。「7は幸福の数字です。7人の小人、7人のサムライ……だから13の向かいにしたかったのです」


jan-2.jpg――— 映画では、扱いづらい俳優が登場していましたが、サロメ監督の実体験が反映されているのでしょうか?
「そのとおりです! 感じの悪い役者に会うこともあって、そのときは思わず殴ってやりたくなりますね(笑)。殴る代わりにこの映画をつくりました。とはいえ、役者というのは、扉を開けるだけの役であってもものすごい緊張を強いられますから、どんな役なのか、なぜ扉を開けるのか、どうやって開けるのかといった細かいことを知りたくなってしまうものなのでしょうね」

サロメ監督は、女優のソフィー・マルソーと仕事をしたときの経験をこう振り返る。
「ソフィー・マルソーと初めて一緒に仕事をしたのが『ルーヴルの怪人』で、そのときは撮影に苦労しました。しかし、その次の『レディー・エージェント』では、ぐっと楽になった。それは、彼女が映画監督の経験をしているからだと思います」
『俳優探偵ジャン』では、監督経験のある俳優が多かったからか、撮影は順調に進んだそうだ。「これからは監督経験のある役者たちとしか、仕事をしたくありません(笑)」

『俳優探偵ジャン』の撮影にあたり、サロメ監督は予審判事に会い、現場検証についての聞き取りを行ったという。そこで知ったのは、予審判事の仕事は映画監督の仕事とよく似ているということ。「雨の夜、森で犯罪があれば、実際に夜の森に行き、消防車に頼んで雨を降らせなければならない。映画のようでしょう?」。


――― 映画に出てくるCMは創作ですか?(筆者注:主人公が演じる坐薬のCM)
「10年程前に、実際にフランスで放送されていたCMです。インターネットでみつけました」。サロメ監督は許諾を得た後、映画用に、ダミアンさん版をリメイクした。
「僕って想像力に乏しいですね!映画の設定も新聞記事から得たアイデアですし、CMも過去に使われたもののコピー……」茶目っ気たっぷりに「よそで言わないでくださいね」と結ぶサロメ監督。ウィットに富んだ語りに、フランスパンのような香ばしさを感じた。

(田中 明花)

 

 

french2014-pos.jpg『フランス映画祭2014』を見終えて(7/1現在の感想)*随時追加予定


  今年のフランス映画祭は、新作11本、フランソワ・トリュフォー監督作『暗くなるまでこの恋を』の旧作1本、計12本が上映された。記者会見でゲスト監督たちが述べたように、性描写や暴力描写が間接的な表現に止まっていることが大きな特徴といえる。それまで必ずといってもいいくらい性描写があったのが影を潜めている。それより、フランス特有のウィットに富んだ脚本で、夫婦や親子や恋人など、身近な人間関係を優しく描いた作品が多く、とても楽しく過ごせた映画祭だった。そんな中特筆すべきは、ドキュメンタリー映画『バベルの学校』。多民族国家フランスならではの社会状況を凝縮したような学校で、多くの事情を抱えて生きる外国からきた生徒を、気長に優しく受け入れ、彼らの言葉に耳を傾ける先生の寛大さに感動する。
自由・平等・友愛の国フランスならではのヒューマンドラマの数々を、是非関西でもお楽しみ下さい。
(河田 真喜子)

★シネ・リーブル梅田(7/2(水)~7/6(日))⇒ こちら

★京都シネマ(7/5(土)~11(金))&同志社大学寒梅館(7/3(木))⇒ こちら


【新作だけの感想】(勝手にオススメ順!)


 ★《観客賞受賞作》
『バツイチは恋のはじまり』Fly Me to the Moon
*(2014年9月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開) 

 いや~涙が出る程笑った!ダニー・ブーンがコメディアン本領発揮!クール・ビューティも破顔、こんなダイアン・クルーガー見たことない!

batuichi-1.jpg 家系的に必ず1度目の結婚に失敗するというジンクスを抱えたイザベルが、10年も同棲している恋人との結婚を成功させるため、誰でもいいから虚偽結婚してバツイチになろうと選んだ相手がツアーガイドのジャン=イヴだった。ところが、中々離婚できずに悪戦苦闘するという物語。お話に無理があるだろうと思ってと見たら、とんでもない!パリからデンマークへ、さらにケニアやモスクワとワールドワイドのロケも成功。

 特に、ケニアでのライオンのシーンや歯科診療室でのシーン、脱毛のシーンは傑作!行く先々で繰り広げられる二人の珍道中を見ているうちに、いつしか自分にとっての本当の幸せとは何かを考えさせられる。イザベルのどんな嫌がらせにも寛大に応えるジャン=イヴの一途さがいい。何と言っても、「気持ち良く心の底から笑えるのが一番」というダニー・ブーンの品のいいコメディセンスが最大限に活かされた傑作コメディ!


 
間奏曲はパリで』La Ritournelle

*(フランスでも6月に公開されたばかりの新作。こんなに面白い作品なので、来年くらい公開されるのでは?)


 またもやクール・ビューティの登場。とても還暦を迎えているとは思えないイザベル・ユペール。現在公開中の『ヴィオレッタ』でも、スリムでゴージャスなヴィンテージファッションを着こなし猛母を怪演。今回は彼女にしては珍しく、ノルマンディーで夫と酪農を営んでいる田舎のおばさん役を演じている。主人公のブリジットは、パリから遊びに来た若者に「綺麗だ」と言われ、ついその気になり、夫に嘘をついてアヴァンチュールを求めてひとりパリへ行く。そこでイザベル主演作『ボヴァリー夫人』(‘91)を思い出したが、本作ではヒロインは破滅へとは向かわない。

kannsoukyoku-1.jpg ちょっと皮肉屋の夫グザヴィエを演じたジャン=ピエール・ダルッサンがまたいい!『キリマンジャロに降る雪』や『ル・アーブルの靴みがき』などでもそうだったが、飄々としながらも滋味深い包容力を感じさせる。妻を追ってパリへ行き、妻が男と一緒だと知って、パリの学校でトランポリンを学ぶ息子を訪ねる。酪農を継がず軽業師のようなことをする息子をバカにしていたグザヴィエだったが、初めて見る息子のパフォーマンスに心を射抜かれる。階段から落ちては起き上がるというトランポリンを使ったステージだったが、そのアーティスティックで美しいパフォーマンスに、グザヴィエ同様、見ているこちらもハッとするほどの感動を覚える。その時のグザヴィエの表情がいい!

 夫婦をはじめ息子やパリで出会う人物など、それぞれの関係性をウィットに富んだ会話で綴られていく物語に感服!そのよく練られた脚本を書いたマルク・フィトゥシ監督の才能に感謝したくなるほど、幸せな気分になれる作品だ。


 
グレートデイズ! -夢に挑んだ父と子

ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム 』Geronimo

友よ、さらばと言おう 』Mea Culpa 

イヴ・サンローラン 』Yves Saint Laurent

『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers  

バベルの学校 』La Cour de Babel

『素顔のルル』Lulu, femme nue

スザンヌ 』Suzanne
 

 


 

Fly Me to the Moon(英題) 』『邦題「バツイチは恋のはじまり」』Un plan parfait

監督:パスカル・ショメイユ
出演:ダイアン・クルーガー、ダニー・ブーン、アリス・ポル、ロベール・プラニョル
2012/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch
配給:ファントム・フィルム
*2014年9月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて公開
©2012 SPLENDIDO QUAD CINEMA / TF1 FILMS PRODUCTION / SCOPE PICTURES / LES PRODUCTIONS DU CH'TIMI / CHAOCRP DISTRIBUTION / YEARDAWN

間奏曲はパリで』La Ritournelle

監督:マルク・フィトゥシ
出演:イザベル・ユペール、ジャン=ピエール・ダルッサン、ピオ・マルマイ
2013/フランス/99分/ビスタ/5.1ch
© DR

バベルの学校 』La Cour de Babel

監督:ジュリー・ベルトゥチェリ
出演:ブリジット・セルヴォー二
2013/フランス/89分/ビスタ/5.1ch
配給:ユナイテッド・ピープル
*2014年末から2015年年始公開
© Pyramide Films
ある教師の人生最後のクラスに集まったのは国籍がバラバラの学生たち...
出会い、そして別れ。国境を超えた仲間愛が凝縮した感動のドキュメンタリー。

 

グレートデイズ! -夢に挑んだ父と子

監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン、アレクサンドラ・ラミー、ファビアン・エロー
2014/フランス/90分/ビスタ/5.1ch
配給:ギャガ
提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ
※2014年8月29日(金)より、TOHOシネマズ 日本橋、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
© 2014 NORD-OUEST FILMS - PATHÉ PRODUCTION - RHÔNE-ALPES CINÉMA

『最強のふたり』の感動再び!失業中の父と、車いすの息子。
凸凹親子が挑むのは、最も過酷なトライアスロン最高峰"アイアンマンレース"!

 

イヴ・サンローラン 』Yves Saint Laurent

監督:ジャリル・レスペール
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルボン、ローラ・スメット
2014/フランス/106分/シネマスコープ/5.1ch
配給:KADOKAWA
*2014年9月6日(土)より、角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他 全国ロードショー
© WY productions - SND - Cinéfrance 1888 - Herodiade - Umedia
<受賞歴>
2014年ベルリン国際映画祭 パノラマ部門オープニング作品

今年、創刊25周年を迎えるインターナショナルな女性誌「ELLE JAPON」は、"モード界の帝王"の「光と影」に迫るファッショナブルな話題作をお届けします。
時代を変えた、伝説のファッションデザイナー、イヴ・サンローラン。
華麗なるキャリアを築いた人生の喝采と孤独を描いた感動作

 

ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム 』Geronimo

監督:トニー・ガトリフ
出演:セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア
2014/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch
© Film du Losange
<受賞歴>
2014年 カンヌ国際映画祭 特別招待作品

トニー・ガトリフ流『ロミオとジュリエット』『ウエスト•サイド•ストーリー』!
エネルギーあふれる恋愛劇をフランス公開にさきがけて上映!

 

友よ、さらばと言おう 』Mea Culpa

監督:フレッド・カヴァイエ
出演:ヴァンサン・ランドン、ジル・ルルーシュ
2014/フランス/90分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ
*2014年8月1日(金)より、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショー
© Thomas Brémond © copyright Gaumont - LGM Cinéma

『すべて彼女のために』『この愛のために撃て』のフレッド・カヴァイエ最新作。
二人の刑事が過去と向き合いながら、家族を守るために激走する。

 

 『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

監督:ジャン=ポール・サロメ
出演:フランソワ・ダミアン、ジェラルディン・ナカシュ、リュシアン・ジャン=バティスト
2013/フランス、ベルギー/105分/ビスタ/5.1ch
© Diaphana Films

フランソワ・ダミアン(『タンゴ・リブレ』)とジェラルディン・ナカシュ(『プレイヤー』)の絶妙なかけあいでおくる、ジャン=ポール・サロメ監督初のコメディ!

  

2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers

監督: セバスチャン・ベベデール
出演: ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィラー、バスティアン・ブイヨン、オドレイ・バスティアン
2013/フランス/90分/スタンダード/5.1ch

<受賞歴>
2013年 トリノ国際映画祭 審査員特別賞
2013年 Cinessonne(エソンヌ県ヨーロッパ映画祭) 観客賞

フレンチ・ニュー・ウェーヴの傑作!
注目度NO.1の若手俳優V・マケーニュ(『女っ気なし』)が期待通りの好演!

『素顔のルル』Lulu, femme nue

監督:ソルヴェイグ・アンスパック
出演:カリン・ヴィアール、ブリ・ラネール、クロード・ジャンサック
2013/フランス/87分/シネマスコープ/5.1ch
<受賞歴>
2013年サルラ映画祭(フランス) 女優賞
 © Isabelle Razavet - Arturo Mio

スザンヌ 』Suzanne

監督:カテル・キレヴェレ
出演:サラ・フォレスティエ、フランソワ・ダミアン、アデル・エネル
2013/フランス/94分/ビスタ/5.1ch
『アデル、ブルーは熱い色』のアブデラティフ・ケシシュ監督が『身をかわして』で見出した若き才能、サラ・フォレスティエの演技が見るものを魅了する