映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

『友よ、さらばと言おう 』フレッド・カヴァイエ監督(46歳)トーク(フランス映画祭2014)

tomoyo-di-550.jpg友よ、さらばと言おう 』フレッド・カヴァイエ監督(46歳)トークショー

原題:Mea Culpa
監督・脚本:フレッド・カヴァイエ
出演:ヴァンサン・ランドン、ジル・ルルーシュ、ナディーン・ラバキー、
2014/フランス/90分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:ブロードメディア・スタジオ

2014年8月1日(金)~新宿武蔵野館、大阪ステーションシティシネマ 他全国ロードショー

公式サイト⇒ http://www.tomoyo-saraba.com/
© Thomas Brémond © copyright Gaumont - LGM Cinéma 


 

~「愛する者を救うためにすべてを投げ打つ男」シリーズ第3弾・刑事篇~

 

 息もつかせぬサスペンス・アクションと極限の愛で観客の心を釘付けにする、ニュー・フレンチ・ノワールの旗手、フレッド・カヴァイエ監督。長編映画デビュー作『すべて彼女のために』(‘08)で、平凡な教師が突然殺人犯として逮捕された妻のために法を犯してでも救おうとするその必死さが感動を呼び、ハリウッドでもラッセル・クロウ主演でリメイクされた。続く2作目の『この愛のために撃て』(‘10)では、身重の妻を人質に取られた看護師が警察からも犯罪組織からも追われる悪夢のような状況を激写。

tomoyo-550.jpg そんなフレッド・カヴァイエ監督の最新作が『友よ、さらばと言おう』だ。今回は『すべては君のために』の主役(ヴァンサン・ランドン)と、『この愛のために撃て』の主役(ジル・ルルーシュ)をダブル主演させるという最強タッグを組んできた。元刑事の父親が、殺人事件を目撃してしまった息子を犯罪組織から守るため、友人の刑事と共に命懸けで激走する。過去の罪を背負い続けた二人の男の友情と、家族を失って初めて気付く思いの強さに哀愁をにじませ、人間を深く見つめたヒューマンドラマとなっている。

 「愛する者を救うため~」という極限の愛を基盤に、ハイテンションで疾走する追跡劇の進化は、今回フランスの新幹線TGV車中での銃撃戦でクライマックスを迎える。いや~見ているだけ冷や汗をかいてしまう程だ。過去2作を凌駕するような緊迫感に圧倒されることだろう。

 今年の《フランス映画祭2014》のため来日したフレッド・カヴァイエ監督のティーチ・インが、2014年6月28日(土)TOHOシネマズ有楽町にて開催された。


tomoyo-di-3.jpg ――― 原題「Mea Culpa」の意味は?
ラテン語ですが、「自分自身の罪、過ちを認める」ということです。
主人公のシモンは事故を起こしたことで人生を台無しにしてしまい、その罪を贖おうという気持ちを抱えて生きてきました。それに対し、実はフランクの方がもっと強い罪の意識を抱えていたのです。全く違う一面が見えてくるようなタイトルにしました。邦題も「友情」という意味を引き出してくれるいいタイトルだと思います。
 

――― マフィア側の男たちが使っている言語は?
悪役はすぐに分かるように誇張した作りにしたかったので、ロシア語やセルビア語のような東欧系を思わせる言葉です。要は国籍は関係なく、主人公たちがその言葉が解らないようにしたかったのです。
 

tomoyo-3.jpg――― 監督の作品にもうジル・ルルーシュはもう登場しない?
彼はまだ生きているので、ご安心を。またいつか一緒に仕事ができると思います。ジルはとても共感できる風貌で、前作の『この愛のために撃て』でも善良な人物として描かれました。でも、今回は善良に見える人物が実は裏に違う顔を持っているという二面性を持たせることで、白黒をはっきりつけずに「グレーゾーン」という存在にしたのです。
 

tomoyo-2.jpg――― ヴァンサン・ランドンとジル・ルルーシュとのコンビについては?
監督第1作目の『すべては君のために』の主役(ランドン)と、2作目『この愛のために撃て』の主役(ルルーシュ)をダブル主演させるなど、かなり信頼できる俳優だからそうしたんです。今回はハードなアクションが多く、彼等も生傷が絶えなかったのですが、それがより一層迫真の演技につながったようです。
 

――― 音楽は?
前作はクラウス・タベルト(長くハンス・ジンマーと一緒にやっていた人)でしたが、今回は、レッド・ホット・ペッパーのドラマーだったクリス・マルティネスに依頼しました。S・ソダーバーグや『ドライヴ』のニコラス・ウィンデング・レフンの作品を担当していた人です。本作の雰囲気を盛り上げるのにとても効果的な音楽を創ってくれました。、彼のスタイルに本作はよく合っていたし、彼にとっても新しい発見があったと思います。
 

tomoyo-di-2.jpg――― キレのあるアクション、サスペンスだったが、そういうセンスはどこから生まれているのか?また、ハリウッドでのリメイクについて?
このような映画を撮れる監督は他にもいると思います。本映画祭に出品される多様性のある作品と同様、予算がつかない分、演出で小気味良さを出したり、カーアクションのシーンでは新鮮さを出そうと知恵を絞ったり、いろいろと工夫して撮っているのです。
今まで見た映画すべてに影響を受けています。自分で製作しながら学ぶことも多いです。1作目より本作の方が上手にできていると思います。
リメイクされたことは、私だけでなくキャストやスタッフのとっても誇らしいことです。物語自体、「普遍的な愛」を謳っているので、世界中の人が見ても感動できると思います。
 

tomoyo-4.jpg――― 銃撃シーンや追跡シーンなどシモンの息子役のテオ君はよく走らされていましたが、相当怖かったのでは?子役の心理的ケアはしているのか?
すごくスピーディで暴力的に見えているかもしれませんが、実際の撮影ではカット毎にストップして撮っているので、そんなに恐怖を感じることはありません。テオ君と悪役の俳優が一緒に楽しく食事していました。追い駆けっこをしているような感じですね(笑)。
 

――― サスペンスなのにユーモアの要素も多かったようだが?
このようなずっと緊張感が続く映画はホッとできる場面も必要なんです。その方がより面白く感じられますから。例えば、ルルーシュがトマトスープをこぼすシーンとかね。
 

――― 最後に。
こんな遅い時間までお付き合い下さり、本当にありがとうございました。心から感謝いたします。また、招待して下さったユニフランスや、日本での滞在を有意義なものにしてくれた配給会社にも感謝します。さらに、一緒に付き合ってくれた友人にも感謝します。(日本語で)「どうもありがとう!」
 


  ごく普通の生活を送っている男が、愛する者を守るため決死の行動に出る。それは国籍や民族や宗教など関係なく普遍的テーマだ。その超法規的ボーダーラインを超える時の男の表情が、何とも哀愁を感じさせて惹き付けられる。かつての日本の任侠映画に共通するところもあるが、フレッド・カヴァイエ監督は、義理人情ではなく、あくまで普通の人間が極限状態に追い詰められた時の変化をドラマチックに捉えている。そこに現代を反映したニュー・フレンチ・ノワールと言われる所以でもあり、本作の真価とも言えるだろう。

(河田 真喜子)