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『俳優探偵ジャン』ジャン=ポール・サロメ監督トーク(フランス映画祭2014)

jan-550.jpg『俳優探偵ジャン』Je fais le mort

監督:ジャン=ポール・サロメ
出演:フランソワ・ダミアン、ジェラルディン・ナカシュ、リュシアン・ジャン=バティスト
2013/フランス、ベルギー/105分/ビスタ/5.1ch

© Diaphana Films
 


 

ほのぼの感覚が新鮮な、コメディタッチのミステリー~
 

jan-3.jpg ジャン・ルノー(フランソワ・ダミアン)は、かつてセザール賞の新人賞を受賞したものの、よくジャン・レノと間違えられる売れない俳優。演技にこだわるあまり監督と衝突しては役を下ろされ、今は生活費もままならない。妻には去られ、こどもたちにもあきれた目で見られるありさまだ。そんなとき、職業安定所で紹介されたのは、殺人事件の現場検証で「死体」を演じるという仕事だった。

 ロケ地は、冬はスキー客でにぎわうアルプズのムジェーブ。女性の予審判事ノエミ(ジェラルディン・ナカシュ)の指示に従い、徹底的に役を演じようとするジャン。しかし、現場検証をしていくうちにいくつかの矛盾に気づき……2013年11月のローマ国際映画祭でのワールド・プレミア上映後、12月に本国フランスで劇場公開された。

jan-4.jpg「真犯人は誰か?」。サスペンスとコメディの絶妙なバランスは、フランソワ・ダミアンとジェラルディン・ナカシュの掛け合いがあってこそ。フランソワ・ダミアンのスマートなコメディセンスはもちろん、実際に女性の予審判事に会って役作りを行ったジュラルディン・ナカシュの演技にも注目を。


 
 


 

『ルーヴルの怪人』、『ルパン』などを手がけたジャン=ポール・サロメ監督の、初の挑戦となるコメディ。上映中、舞台裏で観客の笑い声を聞きながら、ほっと胸をなでおろしたそうだ。
サロメ監督は上映終了後に登壇、東京国際映画祭プログラミングディレクター・矢田部吉彦さんの司会で、Q&Aが行われた。

jan-1.jpg「俳優が殺人事件の現場検証に立ち会うというアイデアはどこから?」という矢田部さんの質問に、「新聞記事から」と答えるサロメ監督。実際に現場検証に立ち会った俳優のインタビューが、フランスの新聞『リベラシオン』に掲載されていたそうだ。「実際の犯罪現場で、本当の殺人犯と対峙する被害者の役というのは、つらい体験だったようです。同時に、映画にするには面白い設定だと感じました」

死体を演じる俳優という「キツい」状況の主人公を演じるのは、ベルギー出身の俳優、フランソワ・ダミアンさん。パリのバーで初めて会ったとき、彼に脚本の感想を尋ねると「妻が大変気に入っていたよ」との返事だったとか。そしてダミアンさんからこう質問されたという。「シャブリの白ワインは好きですか?」「好き」と答えたサロメ監督に「それなら気が合うはずだ」とダミアンさん。二つ返事で出演快諾の返事をもらったそうだ。
場内に笑いが溢れると、挙手にためらいがちだった観客席から次々と質問が。


jan-d1.jpg――— ダミアンさんの演技はアドリブ(即興)ですか? 
「僕はこの脚本を書くのに1年半かかった。だから君に台詞を勝手に変えてほしくはないなと答えました。この手の映画には入念に準備された脚本がどうしても必要ですから」。

ダミアンさんの役作りには、彼なりの方法があった。サロメ監督はそれを初日で把握することができたという。
「彼は、アドリブ感覚が必要な役者でした」。最初は脚本とまったく違った台詞で演じるダミアンさんだが、何度も演技をするうちに、最後には脚本に書いてある台詞に戻るのだそうだ。

「そしてこう言うんです。どう、ぼくがアドリブで考えた台詞?とね」
会場は、まるでダミアンさんがその場にいるかのような陽気な雰囲気に包まれた。


――— 俳優のための職業安定所が映画に登場しますが、本当に存在するのですか?
「はい、本当です。役者だけでなく、サーカスやオーケストラなど、舞台に関わるすべての人たちのための職業安定所があります。ただ、最近はアーティストたちが優遇されているこの制度を見直す動きもあって、それに対するデモも行われています」


――― 映画では、7号室の向かいに13号室があったような気がするのですが…?
「そのとおりです!7号室の向かいが13号室というのは、現実にはあり得ないですよね?美術担当とも議論になりました。でもこれは映画です。コメディですから」
不吉な「13」という数と縁起のよい「7」を対称的に配置したところが、サロメ監督らしくオシャレ。「7は幸福の数字です。7人の小人、7人のサムライ……だから13の向かいにしたかったのです」


jan-2.jpg――— 映画では、扱いづらい俳優が登場していましたが、サロメ監督の実体験が反映されているのでしょうか?
「そのとおりです! 感じの悪い役者に会うこともあって、そのときは思わず殴ってやりたくなりますね(笑)。殴る代わりにこの映画をつくりました。とはいえ、役者というのは、扉を開けるだけの役であってもものすごい緊張を強いられますから、どんな役なのか、なぜ扉を開けるのか、どうやって開けるのかといった細かいことを知りたくなってしまうものなのでしょうね」

サロメ監督は、女優のソフィー・マルソーと仕事をしたときの経験をこう振り返る。
「ソフィー・マルソーと初めて一緒に仕事をしたのが『ルーヴルの怪人』で、そのときは撮影に苦労しました。しかし、その次の『レディー・エージェント』では、ぐっと楽になった。それは、彼女が映画監督の経験をしているからだと思います」
『俳優探偵ジャン』では、監督経験のある俳優が多かったからか、撮影は順調に進んだそうだ。「これからは監督経験のある役者たちとしか、仕事をしたくありません(笑)」

『俳優探偵ジャン』の撮影にあたり、サロメ監督は予審判事に会い、現場検証についての聞き取りを行ったという。そこで知ったのは、予審判事の仕事は映画監督の仕事とよく似ているということ。「雨の夜、森で犯罪があれば、実際に夜の森に行き、消防車に頼んで雨を降らせなければならない。映画のようでしょう?」。


――― 映画に出てくるCMは創作ですか?(筆者注:主人公が演じる坐薬のCM)
「10年程前に、実際にフランスで放送されていたCMです。インターネットでみつけました」。サロメ監督は許諾を得た後、映画用に、ダミアンさん版をリメイクした。
「僕って想像力に乏しいですね!映画の設定も新聞記事から得たアイデアですし、CMも過去に使われたもののコピー……」茶目っ気たっぷりに「よそで言わないでくださいね」と結ぶサロメ監督。ウィットに富んだ語りに、フランスパンのような香ばしさを感じた。

(田中 明花)