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『2つの秋、3つの冬』セバスチャン・ベベデール監督インタビュー(フランス映画祭2014)

2-automnes-3-hivers-main.jpg『2つの秋、3つの冬 』2 automnes, 3 hivers

監督:セバスチャン・ベベデール
出演: ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィラー、バスティアン・ブイヨン、オドレイ・バスティアン
2013/フランス/90分/スタンダード/5.1ch

 


 
2-automnes-3-hivers-sub2.jpg 33歳、美術学校卒、独身。定職につけずに暮らすアルマン。ジョギング中に知り合ったアメリと親しくなりたいが、なかなか思いは届かない。そんなとき、思わぬ事件が起こり、2人は恋人同士に……映画は、2組のカップルの恋物語とその周辺の人々の、さまざまな日常が描かれる。登場人物の独白(モノローグ)や、50章ほどのチャプターに分かれて展開される。主演のひとりがヴァンサン・マケーニュ。昨年のフランス映画祭2013の『遭難者』『女っ気なし』で好演した注目の若手男優だ。

2-automnes-3-hivers-d1.png 監督は、セバスチャン・ベベデール。撮影に、16ミリとデジタルといった複数の種類のカメラを使用したり、物語を2-3分ほどの短いエピソードに分けていくという実験的な手法を本作で取り入れている。013年トリノ国際映画祭では審査員特別賞を、同年の”Cinessonne”(エソンヌ県ヨーロッパ映画祭)では観客賞を受賞。その斬新な試みはヨーロッパの観客のみならず、日本の観客をも夢中にさせたようだ。フランス映画祭2014の初日、午後9時という遅い時刻の開演でありながら、客席は多くの映画ファンでにぎわった。上映終了後の、ベベデール監督とのQ&Aを楽しみにしていた人も少なくなかったに違いない。


上映の翌日、ベベデール監督に、本作への思い、少年時代の思い出などについて話を伺った。


 
――― 短いエピソードを積み重ねて創り上げるという、実験的な手法がおもしろいですね?
全部で50章あります。始めから50章にしようと意識したわけではありません。各章は2分から3分ぐらいでしょうか。何かを伝えようとした場合に必要な時間を考え、この2−3分という長さがちょうどよかったのです。

――― 少年時代の思い出について?
出身は南フランス、ピレネー山脈の(Les Pyrénées)あたりです。17歳ぐらいまで暮らしていました。小さい頃はよく森で遊んでいたのを覚えています。小屋を建てたりとか……

――― 2つの秋、3つの冬では山のシーンが出てきますが、とても自然に美しく撮れていましたね?
映画の中に、山を訪れるシーンがどうしても必要だと思い、撮影しました。アメリが突然泣き出すシーンがありますが、彼女が泣くことができたのは、目の前に山があったからです。

 ――― 心が素直になれた、ということでしょうか?
はい。都会ではないあのような景色に触れることで、普段はおさえている本当の感情が表に出やすくなると思うのです。

2-automnes-3-hivers-d2.jpg――― 映画で描かれる「山」の存在は、あなたのこども時代とつながっているのですね?もし、あなたが「海」を描いたら、そこには違う展開があるのかもしれません。
実は、今書き終わったばかりの脚本では、海に囲まれる島が出てきます。登場人物の生き方に海は不可欠で、彼らを山に連れていくことはできなかったので…。

――― 次回作は?
『2つの秋、3つの冬』同様、コメディとメランコリックなトーンがほどよく混ざり合った作品。でも、今回のように細かくチャプター(章)が分かれているわけではありませんが、現段階の脚本では大きく3章に分かれています。

――― 本作では、低予算の中、尽力したと聞いています。50章という短いエピソードを重ねたのは、低予算ゆえ用いた手法だったのでしょうか?
この手法は、予算とは関係ありません。ただ、低予算だったというのは本当です。出資額が多いと、その分、多くの意見を取り入れなければならなくなります。私は、自由に映画を撮りたかったので、あえて低予算という選択を取りました。

2-automnes-3-hivers-d3.jpg――― カメラ目線のモノローグ(独白)といった試みもなされていますが、小津安二郎監督のことを思い出しました。
そう言っていただけるととても嬉しいです!影響を受けたかどうかはわからないのですが、私は小津映画が大好きで、よく観ていましたから。

こどもの頃、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』に感動した少年セバスチャンは、いつしか映画監督をめざすようになり、はかり知れない数の映画を観るようになる。自国フランスの映画はもちろん、小津安二郎監督の『東京物語』等も、彼の栄養となった。

――― Bonsai(盆栽)やNinja(忍者)という言葉が出てきますね。また、日本出身の女性も登場しますが?
今から6−7年前に、『日本の映画監督がフランスで撮影をする』という作品を撮ったことがあります。そのとき、日本の俳優さんから、日本についていろいろなことを教えてもらいました。

 ――― ベベデール監督が、若者たちに伝えたいことは何でしょうか?
”希望”です。今は決して楽しい時代ではないかもしれません。それでも、私たちは、“生活”という現実を通して幸せになれるし、楽しいという気持ちを持ちながら、理不尽な社会と闘うことができるのではないでしょうか。


 フランスに住む30代の人々の揺れ動く気持ちを描くため、ベベデール監督は撮影手法そのものに変化をつけた。16ミリカメラとデジタルカメラの併用、細かい章立て、クローズアップの多用、カメラ目線でのモノローグ、ストーリーの脱線(脇道にそれる展開)etc.…… そこには、今の世の中に挑もうとする「小さなレジスタンス」の精神がしっかりと刻まれていた。

(田中 明花)