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『ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム』 トニー・ガトリフ監督トーク(フランス映画祭2014)

Gerominimo-b550.jpg『ジェロニモ ― 愛と灼熱のリズム』 (Geronimo)

監督:トニー・ガトリフ
出演:セリーヌ・サレット、ラシッド・ユセフ、ダヴィッド・ミュルジア
2014/フランス/104分/シネマスコープ/5.1ch

© Film du Losange
2014年 カンヌ国際映画祭 特別招待作品


  

~音・リズム・ダンス、ほとばしる激情が疾走する!~

 

Gerominimo-1.jpg 南フランスのとある町。美しい花嫁姿の少女が式から逃げ出し、恋人の元へと走る。彼女の名前はニル、トルコ系の少女だ。ニルは、両親がすすめる結婚を拒み、対立するロマ(ジプシー)系のラッキーと駆け落ちする道を選ぶが……妹の不名誉に怒り狂う兄や親族たち。怒りは連鎖し、地区全体を巻き込む抗争へと発展しつつあった。そんな中、少年少女の指導にあたる教育者・ジェロニモ(セリーヌ・サレット)が、事態の収拾のため立ち上がろうとするが……


  2014年カンヌ国際映画祭の特別招待作品として上映された『ジェロニモ― 愛と灼熱のリズム』。今回は、本国フランス公開に先駆けて、映画祭で上映された。
 ダイナミックで情熱的な映画の余韻が残る中、《フランス映画祭2014》の団長であり、本作の監督であるトニー・ガトリフ監督と、プロデューサー・音楽担当のデルフィーヌ・マントゥレさんが登壇し、拍手喝采で迎えられる。ユニフランス・フィルムズ東京の手束紀子さんの司会により、Q&Aがすすめられた。

Gerominimo-b2.jpg この作品をつくった理由について、ガトリフ監督は熱い口調で「私は若者が大好きです」と語る。「いまフランスだけでなく世界中が厳しい状況にあり、恵まれない家庭に生まれた若者たちは、心理的にも社会的にも不安定です。映画で物事は解決できません。しかし、この映画を観ることによって、登場人物の若者たちに共感をもってほしいと思ったのです」押しつぶされそうな伝統にがんじがらめになり、家の名誉のために妹さえも殺そうとする若者が、この映画では克明に描かれる。
「今の時代、若者には安心できる未来がない。大学に入学しても仕事がない。そうすると、社会的に病んでしまいます。名誉のためなら妹さえも殺してしまうという行為は、フランスだけのことではないのです。残念ながら、世間は彼らを批判の目でしか見ない」理不尽な世に憤るガトリフ監督はこう続ける。「でも、私たちはこのような若者を裁いてはいけないのです。彼らは病気なのです。どうか、寛大な心で見守ってあげてほしい」。
 

Gerominimo-b3.jpg  プロデューサーであり、本作の音楽を担当しているデルフィーヌ・マントゥレさんは、『愛より強い旅』(2004年)から、ガトリフ監督作品の音楽を担当している。「ガトリフ監督は、暴力を映像にせず、音や音楽で表現する方法を取っています。私は、ナイフや電柱などを叩くなどして音をつくっていきました。撮影中に、役者はそのリズムを聞きながら演技をしていきます」。映画で描かれる対立は、トルコ系移民とロマ系(ジプシー系)移民。闘うシーンは、トルコ系の音楽とフラメンコなどのロマ系の音楽がテンポよく組み合わされ、登場人物のほとばしる激情を表していた。

 

 本編同様、情熱的に語るガトリフ監督とマントゥレさん。会場からも質問が相次いだ。

 

――― 今回も、バトルシーンに歌や踊りが使われていますが、監督にとって「踊り」はどういう意味を持っているのでしょうか?
ガトリフ監督:「私は、対立や抗争の場面で、暴力をそのまま表現したくはありませんでした。といって、無視することもできません。そんなとき、音楽と踊りは、映像に代わって暴力を表現してくれる手段となります。特に、体からわき上がるような憤りを表現するのに踊り(ダンス)は効果的でした」


――― ラッキー役の俳優さんは、ロマン・デュリスに似ていましたね?(ガトリフ監督作品に何度か出演していた、ロマン・デュリス)。
ガトリフ監督:「残念ながら、デュリスは40歳になってしまって、今回この役を演じてもらうことはできませんでした(笑)。だからデュリスを若返らせたような、常軌を逸したような感じの若者を起用したのです。私は、いつもデュリスのような人を探していますから」。


――― 映画紹介では『ロミオとジュリエット』や『ウエスト•サイド•ストーリー』が引き合いに出されていたが、実際の印象は少し違っていたが?
Gerominimo-b4.jpgガトリフ監督:「許されない恋愛を描こうとすると、どうしてもシェークスピアの『ロミオとジュリエット』は避けて通れない部分がありますね。しかしこの作品が違う印象を与えるのは、ジェロニモという1人の女性が主人公となっているからです。彼女は教育者として、非暴力という方法で異民族間の対立を終わらせようとしています。勇気があり、暴力に対し毅然として大胆に立ち向かっていきます。ジェロニモはこの世界の模範となる人物として描きました。そしてその人物が『女性である』ということ、それがより大切だと思っています」


――― なぜ、主人公をジェロニモという名前にしたのですか?
ガトリフ監督:「この脚本は、もともと男性のために書きました。そのとき既に主人公は『ジェロニモ』という名前だったのです。資金を集め終わり、さあ撮影を始めようというときに、なぜか、『男性の主人公で撮りたくない』という気持ちが芽生えてしまって……さあ困ったというとき、違う役のために会ったセリーヌ・サレットにたちまち惹かれて、彼女をジェロニモ役に起用しようと思った。彼女のまなざし、表情、そしてその精神の素晴らしさに気づき、カメラに収めたい!という思いがわき上がってきたのです」

 『ジェロニモ』といえば、伝説にもなったアパッチ族の戦士。家族を虐殺されるという悲しい運命を背負い、果敢に戦った伝説の勇者の名前をそのまま残し、セリーヌ・サレット演じる女主人公に名付けたという。


――― ジェロニモは、どこの出身でしょうか?
ガトリフ監督:「カタルーニャです。ジプシー・キングスが住むペリピニャンに近い地域です」。


最後に寄せられた「憎しみの連鎖を解く鍵は何だと思われますか?」という観客からの問いに対し、ガトリフ監督はこう結ぶ。「それは、私であり、あなたたちです。まず、私とあなたが止めようと動けば、何かが始まります。そんな人たちが何千人にもなればいいのです」今は、暴力が連鎖的に拡大し、インターネットがそれを助長していると嘆くガトリフ監督。「インターネットが暴力を普通にしてしまったのです。そしてその犠牲者は女性です」。世の乱れに憤るガトリフ監督が弱者に向けるまなざしは、優しくそしてあたたかい。

(田中 明花)