映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2014年3月アーカイブ

KANO-all.JPGKANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』ウェイ・ダーションプロデューサー、マー・ジーシアン監督、永瀬正敏、坂井真紀インタビュー

KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜 “KANO”

(2014年 台湾 3時間5分)
監督:マー・ジーシアン
製作総指揮:ウェイ・ダーション
出演:永瀬正敏、坂井真紀、大沢たかお、ツァオ・ヨウニン、チャン・ホンイー、シエ・ジュンション、シエ・ジュンジエ、チェン・ジンホン、大倉裕真、山室光太朗、飯田のえる、チェン・ビンホン、ツァイ・ユーファン、ウェイ・チーアン
©果子電影有限公司

※第9回大阪アジアン映画祭観客賞受賞

第9回大阪アジアン映画祭オープニング作品『KANO』作品紹介はコチラ

第9回大阪アジアン映画祭のオープニング作品として上映され、前代未聞のスタンディングオベーションで、台湾に続き大阪にも旋風を巻き起こしたウェイ・ダーション製作総指揮、マー・ジーアン監督初長編作品の『KANO〜1931 海の向こうの甲子園〜』。『セデック・バレ』(OAFF2012)に続き、見事2作連続観客賞を受賞し、日本での公開(2015年1月24日公開)が心待ちされている感動作だ。

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本作は、日本統治下の台湾で、松山商業出身の近藤兵太郎が一勝もできなかった弱小嘉義農林高校(嘉農)野球部を育て上げ、1931年台湾代表として甲子園で準優勝を果たした実話を映画化。当時台湾の強豪は日本人ばかりのチームであった中、近藤は守備に長ける日本人、打撃に長ける漢人、足の速い先住民という三民族の長所を活かし、周囲の偏見の目にも屈せず最強の混成チームを作り上げた。地区予選から甲子園での決勝戦まで、非常にリアルで忠実に描かれた野球シーンだけでなく、近藤や部員たちの葛藤、近藤を支える妻の愛、そして同時代に烏山頭ダム作りへ尽力した八田與一技師も描き、懐の深い人間ドラマになっている。近藤を演じた永瀬正敏の昭和男の気概を思わせる熱演や、台湾、日本の混成キャストによる野球部の素晴らしいプレイ。特に台詞がほとんど日本語という難役にチャレンジした若き台湾キャストの頑張りぶりを体感できるだろう。3時間5分、たっぷりと1930年代の甲子園に向けて頑張る嘉農野球部のドラマを観終わると、こちらも感動と興奮で体がアツくなっていた。

3月7日、映画祭のオープニングゲストとして来阪したウェイ・ダーションプロデューサー、マー・ジーシアン監督、永瀬正敏さん、坂井真紀さんへの合同インタビューの内容をご紹介したい。


■脚本に書かれている監督と野球部員たちがとても素敵。そこが全てと思って演じた。(坂井)

―――台湾が日本統治下にあった時代で非常にデリケートな題材だが、どういう考えで本作を描いたのか。また描くに当たって留意したことは?
KANO-weiP&maD.JPGウェイ・ダーションプロデューサー(以下ウェイP):『セデック・バレ』を撮ったときから、この時代についてはいろいろな資料を集め、時代背景を十分理解しました。ですから、日本の植民地時代の歴史については理解した上で、その時代環境を遠ざけて人物を配置するというスタンスで本作を撮ろうと思いました。脚本を書いたり、俳優に演じてもらうときも、あまり時代背景に焦点を当てないで、その中に生きた人間として少し遠くのところから見る感じで臨みました。
マー・ジーシアン監督(以下マーD):歴史的な時代考証に関しては多方面に渡り、かなり詳しく行いました。できるだけ1930年代の台湾の雰囲気(建物や風景)をしっかり再現しようと試み、その中に人物を配置していく。その時代の人たちはどのように生きていたのかをしっかり捉えていくようにしました。
永瀬正敏さん(以下永瀬):僕も色々調べましたが、何よりもこの作品をやらせていただこうと思ったのは、近藤監督や監督の周りにいた野球部員たちの素晴らしさを、台湾や日本をはじめ他の国のみなさんに観ていただきたいという想いが一番強かったからです。演者としては、素晴らしい脚本があれば、自分なりにどれだけ心を込めて演じ、それをみなさんに観ていただけるかということの方が重要ですから。
KANO-sakai.JPGのサムネイル画像坂井真紀さん(以下坂井):この役をやらせていただくにあたり、時代背景はとても大切なので勉強しました。一つのことに対してもポジティブやネガティブに思われていることが同時に存在しているので、複雑な時代背景であったことは胸に置きました。脚本に書かれている監督と野球部員たちがとても素敵で、そこは描かれるべきですし、そこが全てだと思って演じました。

―――大半が日本語の台詞ですが、演出などで難しかったことは?
マーD:日本のとても優秀なスタッフや俳優さんと映画を作ることができ、映画にかける情熱は皆同じだと思いました。最初はうまくいかないこともありましたが、後半になるとやり方に慣れてきてスムーズに進みました。言葉が通じないということは、全力で相手を理解しようとするので、相手に対する情熱が違いましたね。
永瀬:僕たちが演じたのは、僕たちが生まれる前の世代の物語で、今みたいな「超イケテル」という言葉を使えません。その時代どうだったかということはお互いに考えながら台詞を言ったと思います。映画を作っていくということではどこの国も変わりません。映画という共通言語を持っているので、それが真ん中にあれば皆仲間になれます。

―――日本映画と台湾映画の違いを感じるエピソードは?
永瀬:規模はすごかったですね。オープンセットで、パッと見れば町ができている。また見ると船ができている。パッと見たら甲子園ができていて、それには驚きました。それだけ本気度が演者には伝わってきました。
坂井:スタッフの人数も多いですし、とても大きな映画でした。球児たちも休まず練習して、そういう見た目だけではない裏の部分の努力も本気だなと思いました。

―――半分以上を占める野球のシーンが、弱小チームから甲子園で準優勝するまで非常に丁寧に描かれているが、野球シーンへのこだわりや、キャスティング秘話は?
KANO-maD.JPGマーD:キャスティングが非常に大きな問題で、最初の譲れないハードルは「絶対に野球の経験がある」ことで、選考を行いました。甲子園に出場するからには観客が「この人はそれなりに野球ができる」と思えるような説得力を持たせなければ嘘に見えてしまいます。最初はプロの俳優に声をかけ、実際にプレイしてもらったこともありましたが、投げるのも守るのも下手で、甲子園に出られるようなプレイはできなかったのです。結局、俳優としては素人でも野球としての部分を重視したわけです。高校、大学などほとんど台湾全土の野球チームがあるところに観に行き、最終的には15名を選んでトレーニングを行いました。3種類のトレーニングの中で難しかったのは日本語習得と演技です。演技といっても表情を作るといった小さなテクニックではなく、どうすれば自分を解放できるか。その部分を重視しました。また30年代の青年なので、その時代の雰囲気を持った人材を選びました。野球のトレーニングは撮影に入ってもずっと続けて行いました。

 

■『KANO』をいい映画にしてくれたのは永瀬さんのおかげ。(マー・ジーシアン監督)
■ここで、もう一つ現代のKANOができた気がする。(永瀬) 

―――マーDと永瀬さんは俳優であり、撮る側でもありますが、それぞれの立場で意識することに違いはあるか? 
マーD:永瀬さんは私から言えば映画界の大先輩ですから、役柄に対する理解も非常に深かったです。監督という立場と演じる立場とでは人物に対する理解も最初は色々と違っていたと思いますが、何度もじっくりとお話をさせていただき、永瀬さんの方からも近藤に対する意見を出していただき、現場に入ってからもお互いの意見交換を行っていきました。もちろん2人の目標は1つで、近藤兵太郎という人物をどのように2人が望んでいる人物に作り上げていくかということでしたから、お互いの意見が一致したら早かったです。永瀬さんは私が期待した以上の演技にしてくれました。永瀬さんは役者として優秀なだけではなく、非常にクリエイティブです。近藤の役柄を読み込んでいただき、近藤のディテールへの意見を言ってくれ、それを取り入れていきました。ウェイPが「脚本のところに永瀬さんの名前を書かなければいけないのでは」と言ったぐらいです。『KANO』をいい映画にしてくれたのは、永瀬さんのおかげだと思っています。
KANO-nagase.JPG永瀬:映画というものは、ドキュメンタリー以外は「嘘」ですね。その「嘘」をいかに一生懸命演じて、リアリティーを持って観ていただけるか。そこの映画が作る「嘘」にもう1つ嘘を重ねてしまうと、それは作品をご覧になる観客に嘘がバレてしまいます。(近藤兵太郎が)実在の人物であるということは、その体温が脈々とお孫さんたちにもつながっており、そこに嘘は絶対つけない。当時の日本人の背景も嘘はつけない。台湾の嘉農というチームで闘ったことも嘘がつけない。それらについてはいっぱい話をさせていただきました。何がありがたかったかと言えば、脚本に書いていることをやれと一言も言われなかったことです。「これはどう思っているのか」という問いかけから始まり、撮影が終わった後も、ウェイPやマーDと話をさせていただくという経験は、一緒に映画を作らせていただいている仲間として、とてもありがたいです。上からやれと言われたら演じなければならない職業ですが、そこをもっと深くと聞いていただける懐の広さは本当に感謝しています。
僕らは『KANO』という映画を人種が違うみんなで一生懸命作りました。だからいまだに僕の生徒役を演じた子どもたちのことが大好きだし、ウェイPやマーDのことも大好きだし、みんなのことが好きです。ここでもう一つ現代のKANOができた気がします。

 

■高校球児たちの精神と観る人たちの気持ちは今も昔も変わらない。(マー・ジーシアン監督)

■一度しかない闘いに全力を注ぐことを映画にそのまま反映させたかった。(ウェイ・ダーションプロデューサー)

―――甲子園を舞台にされた映画を作る上で特に大切にされたことは?
マーD:私は小学校の時野球選手でしたから、甲子園が日本の高校野球の聖地であることはよく知っていました。ただ今回は1930年代の甲子園なので、それを映画に再現することは非常に大変でした。でも甲子園の精神は何なのかを考えると、自分たちの栄誉のために闘うわけで、高校球児たちが持っている野球の精神は決して変わることはないだろうと思いました。実は本作を撮っていた2012年に甲子園へ試合を見に行きました。私は、観客がどういう反応をするか。二つのチームが栄誉のために闘っているときに、闘っている球児たちはどんな気持ちなのか、それを見ている観客はどうなのか、取材をしている記者たちはどうなのかをじっくりと観察しました。セットそのものは作ればいい話ですが、その中にいる人間の気持ちを描くことは非常に難しいです。でも野球の精神と観る人たちの気持ちは今も昔も変わらないと思いました。
KANO-weiP.JPGウェイP:甲子園の試合が毎年物語を作り続けていくのはどういうことだろうかと考えたとき、予選から始まって毎回勝たなければ決勝に辿りつけません。そこに毎回涙を飲んで負けるチームが存在するわけです。ですから甲子園の決勝の背景には多くのチームの涙が背景にあります。一度しかない闘いに全力を注ぐということを映画にそのまま反映させたかったのです。

 

―――最後に、日本公開に向けてメッセージをお願いします。
永瀬:映画というのは作っただけではまだ完結していなくて、お客さんに見ていただいて初めて完成し、そこから深化していくものなので、日本の皆さんにも1人でも多く、何回でも見に来ていただきたいなと思いますし、ほかの国でも見ていただきたいと思います。ぼくがすごく感謝しているのは、よくある海外の人が撮った日本像ではなくて、当時を忠実に再現して作っていただき、生徒たちも一生懸命日本語を勉強して、日本語でやらせていただきました。日本の方に観ていただいても、その想いは通じると思うので、ぜひ劇場に観に来ていただきたいです。
坂井:本当にこの想いは絶対に伝わると思っています。今日が『KANO』の日本でのスタートだと思っています。

 


KANO-event1.JPGKANO-event3.JPGインタビュー後、JR大阪駅、大阪ステーションシティ5Fで開催された「アジアンスターフェスティバル」では、大阪アジアン映画祭ゲストがレッドカーペットに登場。映画『KANO』の顧問を務めた王貞治氏もレッドカーペットに登場し、 「昭和10年代大変台湾の野球熱が盛んになり、実際に甲子園大会に出場するという野球にとって素晴らしい時代がありました。今はなかなか野球熱はそのときほどではありませんが、映画に出演している部員たちは皆現役の選手です。その若い人たちが一生懸命作った映画なので、本物の野球映画だと思います。3時間を越える長編ですがあっと言う間に終わってしまうほど内容のある映画なので、是非観ていただいて、台湾の若い人たちや日本の若い人たちに『やはり野球はおもしろい。観るよりプレイする方が楽しいんだな』ということを感じてもらい、野球がもっと盛んになって、日台両国の交流がより盛んになればいいなと思っています。是非みなさん、自分の足を劇場に運んで観ていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。」と挨拶。寒い中詰めかけた観客より大きな拍手が沸き起こった。

 

KANO-event2.JPGのサムネイル画像引き続き、『KANO』のスタッフ、キャストがレッドカーペット上に登場。 「今回のレッドカーペットは今までの中で一番うれしいです。台湾から仲間がいっぱい駆けつけてくれました。みんなに拍手をお願いします。」(永瀬) 「私もこの映画を早く日本のみなさんに見せたいなと思っております。ウェイP、マーD、そしてみんなと一緒にここに立てていることが本当にうれしいです。」(坂井) 「みなさんこんにちは、マー・ジーシアンです。台湾から参りました。(レッドカーペット)右側でKANO旗をあげてくださり、ご声援ありがとうございます。」(マーD) 「今回で3度目の大阪ですが、こんなに多くの方が駆けつけてくださり、みなさんにお目にかかれたことをうれしく思います。KANOの映画に出てくる熱血のスピリッツを感じ取っていただければと思います。」(ウェイP)と笑顔で声援に応え、KANO熱は最高潮に。

 

KANO-event4.JPG永瀬正敏に促され、ピッチャー演じるシャオ・ヨウニンが、「気をつけ!礼!(球児役の登壇者が全員礼)まいど、私はシャオ・ヨウニンです。どうぞよろしくお願いします。」と端正な日本語で挨拶し、拍手喝采浴びるなど会場全体がまさに一体となった。
最後に、マーDが「野球魂だけでなく、何か自信をなくしかけていた人も自信を取り戻そうという力が『KANO』にはあるのではないかと思います。そしてそれが台湾の人や日本の人との共通の記憶になっていくのだと思います。ぜひ台湾に『KANO』を観にきていただきたいですし、台湾の人の人情、温かさにふれていただきたいし、ロケ地の嘉義市にもきていただきたい。」と締めくくり、大阪アジアン映画祭初のレッドカーペットイベントは大盛況のうちに幕を閉じた。

(江口由美)

instantmommy1.JPG『インスタント・マミー』レオ・アバヤ監督、主演ユージン・ドミンゴさんインタビュー
『インスタント・マミー』“Instant Mommy”
2013年/フィリピン/102分
監督:レオ・アバヤ
出演:ユージン・ドミンゴ、松崎悠希、シャメイン・ブエンカミノ

特別招待作品部門『インスタント・マミー』作品紹介はコチラ

昨年の『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』(OAFF2013)で来阪時に、相手役の日本人俳優募集を呼びかけたユージン・ドミンゴ主演作が今年の大阪アジアン映画祭で凱旋日本初上映された。ユージン・ドミンゴが日本の恋人とスカイプで遠距離恋愛する様子の悲喜こもごもをコミカルに描いたフィリピン映画『インスタント・マミー』。恋人カオル(松崎悠希)の子を身ごもったCM衣装係見習いのベチャイ(ユージン・ドミンゴ)は、流産してから連絡が途絶えたカオルを懲らしめるべく疑似妊娠大作戦を決行する。一方、なかなか離婚調停が進まないカオルもなんだか隠し事がありそうな雰囲気がプンプン。スカイプだけで一見穏便に関係を育んできた二人が、リアルの出会いを果たした時、どんな展開が起こるのか。結婚や出産を前に揺れる女心を等身大で演じるユージン・ドミンゴが魅力的な国境を越えたラブコメディーだ。

昨年に続き、大阪アジアン映画祭では3度目の来阪で、今回は国際審査員も務める主演のユージン・ドミンゴさんと、本作が初監督作となるレオ・アバヤ監督に、本作やフィリピン映画界についてインタビューを行った。上映後のQ&Aと合わせて紹介したい。

 


<上映後のQ&A>
―――脚本はオリジナルですか?
レオ・アバヤ監督(以下監督):何年も前にクリス・マルティネス監督とジェフリー・トレア監督が作り、長い間棚上げされていた原案を今回映画にしました。私がよく知っている広告映像の世界とこれまで会ってきた人たちをアイデアとして加え、元々のストーリーに私なりのひねりをいれながら新しい作品として映画にしました。

―――今回日本人俳優の松崎悠希さんが出演されていますね。
監督:前回の大阪アジアン映画祭でユージン・ドミンゴさんとクリス・マルティネス監督が来日した際に、映画祭関係者や取材に来られたジャーナリストの方々に呼びかけして、日本人俳優でユージン・ドミンゴの相手役となる重要なキャストを探しているとお願いをしました。その呼びかけを大阪でさせてもらったおかげで、最終選考に14人残り、その中から松崎さんを選ぶことができて本当にうれしく思っています。台北やシンガポールからも応募があり、結局ロサンジェルスから応募された松崎さんに決まった訳ですが、松崎さんには日本語の台詞を訂正してもらったり、ユージン・ドミンゴさんの日本語の台詞もずいぶんコーチしてもらいました。

instantmommy4.JPG―――ユージンさんの話す日本語がとてもキュートでしたが、松崎さんとの共演はいかがでしたか?
ユージン・ドミンゴさん(以下ユージン):本当に?日本語の台詞はほとんど忘れてしまいましたが、「ありがとう」「愛してます」は印象に残っています。この言葉はどの言語でもとても重要な言葉ですから。松崎さんは現場でも手伝ってくださり、私の台詞ももっと自然に聞こえるように指導してくれ、気持ちいい人柄の方なので、今回一緒に来れなかったのが残念です。
私たちの作品はインディーズ作品なので、普段松崎さんが慣れている仕事のやり方とずいぶん違ったと思います。入国早々セットに入ってもらい、パソコンを通じてやりとりする部分をすぐに撮影しました。隣の部屋に入って撮影していたのですが、初日に私が胸を見せたりして、たった5日間で全てのシーンを撮影したので大変だったと思います。

instantmommy5.JPG―――フィリピンで日本人男性はどう思われているのか?
監督:日本人男性について、ステレオタイプのようには描いていません。色々なことに対して反応するカオルの姿は、人生そのものではないかと思います。
カオルという人物像については、日本に長期滞在経験のある友人のフィリピン大学女性教授は、カオルは一人の男性として悩んでいる、率直にべチャイを愛していて、紳士的すぎたために夫婦のヨリを戻したことを言い出せないでいる一人の男性の弱さが現れていると語っていました。
ユージン:映画の中では一つの状況を作り上げて、そこに日本人の男性とフィリピン人の女性の出会いを作りだし、物語が展開していくという部分では、ある意味日本人男性のステレオタイプの部分もあるし、フィリピン人女性のステレオタイプの部分を映画で提示しているといえます。でも実際の話のエッセンスの部分は愛と失望。それは現実的なものであり、世界中どこにでもある普遍的なテーマだと思います。ステレオタイプの人物像であったとしても、本質的なものは普遍的だと思います。

 


<単独インタビュー>
―――東京国際映画祭で最優秀女優賞受賞(『ある理髪師の物語』)、おめでとうございます。受賞後、何か変化はありましたか?
ユージン:もちろん!急に審査員に選ばれましたし(笑)

―――審査員としてどういう視点で作品をご覧になるのでしょうか?
ユージン:映画祭にはテーマが必要だと思っています。大阪アジアン映画祭はインディーズ映画でも特定の人を対象とするのではなく、モダンでもう少し多くの観客を対象としていると思います。審査員だという上から目線ではなく、一人の観客として感動させてくれる作品に出会いたいです。技術的なものは後からついてくると思います。

instantmommy3.JPG―――『インスタント・マミー』は、一度棚上げされた企画を復活したということですが、なぜその企画を手がけようと思ったのですか?
監督:クリス・マルティネス監督と『ベッドコレクター』のジェフリー・ドリアン監督が実在の話をもとにしたストーリーラインを作っていました。まだ脚本にもなっていない状態でしたが、たまたま私のところに話がきたんですね(笑)。実はプロデューサーから別の話がきていたのですが、私はこちらの方が気に入ったので二人の監督に了解を得て原案を膨らませていきました。

―――クリス・マルティネス監督とはどのようなつながりがあるのですか?
監督:クリス・マルティネス監督が制作したTVコマーシャルの美術のプロダクションデザイナーを行いました。映画で一緒に仕事をするのは初めてですが、共通の友人は多いです。

―――スカイプを使って遠距離恋愛を行うアイデアは監督が出されたものでしょうか?
監督:そうです。原案の頃はまだスカイプはなく、写真を送りあっていました。インターネットやスカイプというツールを私が加えたわけですが、インターネットは色々な情報を瞬時に提供してくれる素晴らしいツールである一方、瞬時に私たちを欺いているものでもあります。

―――ユージンさんは、実際は隣の部屋にいながらもかおる役の松崎さんとパソコンの画面を通して演技をしたわけですが、どうでしたか?
ユージン:監督のアイデアで、25平方メートルの部屋でお互いに画面を観ながらリアルタイムで演じることをしたのですが、自発的に私たちが反応することが狙いだったのです。 

instantmommy6.jpg―――スカイプで会話するシーンはかなりアドリブが入っているのでしょうか? 
ユージン:私の方は現場のアドリブや、目新しいことを仕掛けるのですが、松崎さんは最初それほどでもありませんでした。ただ、レストランのシーンで、カオルが「お尻」とか「おっぱい」とフィリピン語で次々に話しかけるシーンは、突然日本人の彼にそんなことを言われたので本当にびっくりしてひっくり返りそうになりました。
監督:時間がなかったので、具体的な台詞はあまり決めず、シチュエーションや流れを決めておくという形で撮影を行いました。リハーサルもあまり多くはしていません。二人ともいい俳優ですし、それに加えて二人が会ったときに化学反応が起きる人たちだったので、映画にとってもラッキーでした。

instantmommy2.JPG―――ベチャイは40歳前後の独身女性が結婚や出産という問題に向き合い、さらに流産してしまうなどシリアスな状況に置かれますが、時にはコミカルさも交えて等身大で表現されていて、胸にひびきました。演じてみた感想は?
ユージン:実際に舞台を始めたとき、私は本当に衣装アシスタントをしていて、女優ではありませんでした。ベチャイの仕事の内容はよく分かっていましたし、私も弟や妹のいる姉としての立場です。ベチャイを演じてみて、私も日本人の恋人が欲しくなりました。やはり外見もアシスタントらしくしなければいけないし、お腹のダミー型も2ヶ月用から3か用…8ヶ月用と細かく作っていきました。そこは物語でも重要な部分でしたから。また映画に出演しているシャンプーCMの髪がきれいな女性の一人が日本在住経験のある人で、私に日本語のレッスンをしてくれました。直接フィリピン語から日本語に翻訳できるので助かりました。

―――ベチャイが下町を訪ねるシーンは、それまで都会的なシチュエーションであったところに土着的暮らしぶりが垣間見え、「これ食べて」とおやつ(スパニッシュブレッド)をもらったりして、私は好きです。監督があえて本筋とは関係ないシーンをいれた意図は?
ユージン:あのシーンがいいの?もっと重要なシーンがあるのに(笑)ああいう雰囲気が好きなのね。
監督:典型的なフィリピンの光景で、不法占拠している人もいる場所です。マニラの多様性を見せたかったんです。

―――では、お2人の好きなシーンは?
ユージン:下町でスパニッシュブレッドを食べているシーンかしら(笑)実はあの場所はレオ・アバヤ監督が美術監督をしていた『ベッドコレクター』のロケ撮影していた場所なんです。きっとレオ監督にとっても思い出の場所だと思うわ。
監督:本当に思い出の場所ですね。

―――暉峻プログラミング・ディレクターは今回5本のフィリピン映画をセレクトした理由として世界的にもフィリピン映画が評価され、力のある作品を作る若手作家が増えてきたことを挙げていました。実際にフィリピン映画界の中にいらっしゃるお二人は、昨今の映画界の状況をどうお感じになっていますか?
ユージン:昨年はシネマラヤ映画祭に加えて、2、3のインディペンデント系映画祭が開催されました。新人監督だけではなく、ベテラン監督が作ったインディペンデントではない作品もありました。そのおかげで面白い映画が登場し、俳優にもいい機会が与えられ、世界中の映画祭から興味を持たれる作品もたくさん生まれたわけです。今回、大阪アジアン映画祭でたくさんのフィリピン映画が選ばれたことをとてもうれしく思います。
監督:海外の映画祭でフィリピン映画を上映したいと思ってもらえたことを、フィリピン映画人の一人として誇りに思います。一つの作品だけだと全体のインパクトしては弱いですが、5作品を選んでいただいたことでフィリピン映画全体に対してのインパクトが生まれます。インディペンデント映画はフィリピンでたくさん作られていますが、上映できる場所がまだ少ないのがとても残念ですし、物足りなく感じています。こういったインディペンデント映画が海外の映画祭で高く評価されることは、フィリピンの観客にとっても改めて関心を持ってもらうきっかけになると思うので、意味のあることですね。

(江口由美)

 

shift2.JPG『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)シージ・レデスマ監督インタビュー
『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)“Shift“
2013年/フィリピン/80分
監督:シージ・レデスマ
出演:イェング・カーンスタンティーノー、フェーリックス・ローコー

コンペティション部門『シフト』作品紹介はコチラ

第9回大阪アジアン映画祭で見事グランプリ(最優秀賞)を受賞したフィリピン映画『シフト』。都会で生きる等身大の若者たちの仕事、恋、自分探しを鮮やかな映像と印象的な音楽で綴る、パンチの効いた青春物語だ。

<ストーリー>
主人公エステラは、シンガーソングライターを目指しながらテレフォンオペレーターとして働くロックな少女。女子高あがりのエステラは、大学で初めて男友達ができるものの、ボーイッシュすぎて恋人に見てもらえない。そんなエステラは職場で自分の指導員となったトレバーと親しくなる。乙女な雰囲気のあるトレバーは、ゲイであることを家族に知られたものの、正式にカミングアウトできないでいる。男のような女と、女のような男の2人は、互いに過去を共有しあい、エステラは友達以上の気持ちを抱えるようになるが、トレバーは複雑な表情を見せるのだった・・・。

Web上のチャット画面を映像に重ね、夜中に複数の男性と同時進行でチャットをしたり、Webを通じてジョブハンティングをされたりと、イマドキの若者のつながり具合をリアルに表現。ゲイに間違われようが、女の子らしくすることを拒み、自分らしさを貫き通すヒロイン、エステラの見た目の強さと奥に潜む弱さを映画初主演のイェング・カーンスタンティーノーが鮮やかに演じている。往年のラブストーリーのように、挿入歌を効果的に取り入れながら、二人のデートエピソードをスタイリッシュに見せる一方、職場では事務所閉鎖、リストラといったシビアな日常の一面も映し出している。エステラとトレバーの主人公二人の魅力に引っ張られ、それぞれが恋も含めて自分らしく生きる道を模索する青春物語は、ジェンダー問題を扱いながらも爽やかな後味を残す作品だ。
本作が初監督作となったシージ・レデスマ監督に話を聞いた。

 


shift1.JPG―――監督は社会人を経て映画監督を目指していますが、志したきっかけや、本作制作の経緯を教えてください。
ずっと芸術に興味があり、特に映画は好きでした。ちょっとメインストリームからはずれるような映画をレンタルビデオやDVDで観ていましたが、映画関係者が家族にいるわけでもなく、普通の家庭で育ちました。映画を作るのにはコストがかかるし、映画監督で生計をたてていくのは難しいと思ったのです。ただデジタル時代が到来し、カメラも私が働いていたコールセンターの給料で買えるぐらいのものが出てきたので、撮ることをはじめてみようと思ったのがきっかけです。

―――主人公エステラの存在がとても個性的です。チェ・ゲバラに心酔する激しい一面を持ちながらも、すごくナイーブな内面の持ち主ですが、このキャラクターをどう作り上げていったのですか?
実は、自分自身を投影しています。

―――エステラ役のイェング・カーンスタンティーノーさんが見事な存在感で、歌も素晴らしかったです。
イェングはフィリピンで非常に人気があるポップシンガーで、とても忙しい人なのでスケジュールをあわせるのが大変でした。また、彼女にとって演じることは初めてで、私も映画を作るのが初めてだったので、最初は不安がありました。

―――監督がイェングさんに出演依頼したのですか?
エステラ以外の配役は簡単に決まったのですが、エステラだけはカリスマ性などを備えていなければならず、私の要求度が高かったのでなかなか決まりませんでした。エグゼクティブプロデューサーと相談しながら何人もオーディションを重ねたのですが、誰もピンとこなかったのです。私の中でイェングさんがいいのではという気持ちがあったので、彼女は歌手ですが脚本を送ってみました。するとイェングさんが脚本をすごく気に入ってくれ、出演してくださることになったのです。

―――作中イェングさんが歌った歌が非常に印象的でしたが、もともと彼女の歌だったのですか?
私の周りにあまり曲を書ける人がいなかったし、あのシーンの心情に合う歌詞にしたかったので、私が自分で曲を作りました。

―――映画の色使いが非常に鮮やかで、暉峻プログラミング・ディレクター曰く「フィリピン版『恋する惑星』」と表現していましたが、映像に関するこだわりや参考にした作品は?
実際に私はウォン・カーウァイ監督の大ファンですし、撮影監督には『恋する惑星』を見せて、こんな感じにしてと指示も出しました。イェングさんはポップシンガーなので、もともと赤い髪だったんです。 

―――乙女心のある隠れゲイのトレバーはどこから着想を得て作られたキャラクターですか。 
トレバー役のような男子は、私がコールセンターで働いていた頃同僚でよくいた典型的なゲイのタイプです。フィリピンでは”ストレートアクティングゲイ”と呼ぶのですが、オネエではなく見た目は男だけれど、少し女っぽい面がみえるような人ですね。

shift3.jpg―――エステラやトレバーの会話にはジェンダーに関することや政治的思想に関する話題が登場しますが、監督は意図的に挿入しているのでしょうか。それともフィリピンの若者は日常よくこのような会話をするのでしょうか。
意図的に挿入しました。この映画ではジェンダー問題に関する自分なりのメッセージを込めたかったのです。またエステラがゲイの男性に惹かれる様子を、そういう考え方や性的哲学を入れることで浮かび上がらせています。

―――仮装パーティーのあと、ボーイッシュスタイルのエステラとドレッシーなトレバーが二人で静かに肩を寄せ合うシーンが、届かない思いを表現して記憶に残りました。
あのシーンは脚本を書いている割と最初の頃から構想にありました。パーティーのシーンは私がコールセンターでモチベーションアップのために開催されたパーティーを参考にしています。私の上司がゲイだったので、実際に男女逆転のコスチュームを着て仮装パーティーをやりました。二人が肩を寄せ合うシーンは、二人の関係を如実に表しているものにしたかったのです。自分は相手に恋をしているけれど、相手はどう思っているのか不安なやるせない感じを込めました。

―――最後はエステラが恋叶わず、夢に向かいながらも道半ばで、新しい仕事を探すところで終わります。このラストで示したかったことは?
最初のシーンと最後のシーンは重なるイメージで、エステラは最初も最後も自分の居場所を探し続けています。『シフト』というタイトルと非常に絡み合ってくるのですが、キャリアを変えたいと思っているけれど、なかなか前に踏み出せないでいる。エステラは見た目攻撃的な性格に見えますが、自分が強い人間だと思いたいからそうしているだけです。内面的には非常に壊れやすいタイプの女性で、だからなかなかキャリアを変えられないでいます。そこにトレバーという男性が突然現れることで、ちょっと宿り木のように寄り添っていきます。叶わぬ恋の相手ですが、トレバーといることで居心地がよくなり、自分の居場所探しに必死にならずに済んでいたわけです。自分探しからトレバーにシフトしたのが、この映画で起こった出来事です。最後に、それが終わってまた自分探しにシフトしていく。本質に戻っていったわけですね。 

―――本作は職場のシーンがリアルでしたが、今のフィリピンの若者たちが置かれている環境について教えてください。 
コールセンターの仕事だけが一番ブームで盛り上がっていますが、雇われるのは20~30歳の大卒がほとんどです。外資系の企業がコールセンターとしてアウトソーシングしており、仕事は非常に退屈ですが、パーティーを開くなどコールセンターの仕事をオシャレに見せ、働き手のモチベーションを上げています。それ以外の仕事は本当に雇用が厳しく、非常にプロフェッショナルな仕事、たとえば教師や、私も大学で臨床心理学を学びましたが、高学歴な人たちもコールセンターの方が給料がいいと、人材流出しています。私自身も大学卒業後進路が決まらなかったので、それならばとコールセンターで働き始めました。一般的にかなり厳しい状況です。

―――監督第一作を作り上げて、大変でしたか?それともまた作りたいと思いましたか?
また作りたいと思っています。私が映画を作る原動力になるのは、自分を投影できたり、感情移入できたり、自分のことを語っているように見えたときです。とても安らぎますし、気持ちがよくなります。私の作品をみた観客が、「一人じゃないんだ」と思える作品を作りたいし、それらが映画を作る大きな原動力になっていくのでしょう。
(江口由美)

 

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3月16日に閉幕した第9回大阪アジアン映画祭は、クロージングセレモニーで受賞結果の発表が行われ、グランプリはシージ・レデスマ監督の『シフト』(フィリピン)、観客賞はマー・ジーシアン監督の『KANO』(台湾)に決定した。今年のフィリピン映画旋風をまさに証明するかのような受賞結果に、賞状を手渡したフィリピンの名女優で国際審査委員ユージン・ドミンゴさんとシージ監督が抱き合って喜ぶ場面もあった。また、審査員によるコメントを読み上げる際に「これはトム・リン監督が書いたスピーチです」とユージンさんが大爆笑を誘う一幕もあり、まさに涙と笑いと感動を呼ぶ授賞式となった。
以下、受賞結果と審査員スピーチをご紹介したい。

clossing shift.JPG★ グランプリ(最優秀作品賞)
『シフト』 (Shift) フィリピン/監督:シージ・レデスマ (Siege LEDESMA)

『シフト』シージ・レデスマ監督インタビュー@OAFF2014はコチラ

★ 来るべき才能賞
ハ・ジョンウ(HA Jung-woo)
韓国/『ローラーコースター』(Fasten Your Seatbelt)監督

★ 最優秀女優賞
カリーナ・ラウ(Carina LAU)(劉嘉玲)
香港/『越境』(Bends)(過界)主演女優

★ スペシャル・メンション
『アニタのラスト・チャチャ』(Anita's Last Cha-Cha)
フィリピン/監督:シーグリッド・アーンドレア P・ベルナード(Sigrid Andrea P. BERNARDO)

★ ABC 賞 『おばあちゃんの夢中恋人』(Forever Love)(阿嬤的夢中情人)
台湾/監督:北村豊晴(KITAMURA Toyoharu)、シャオ・リーショウ(SHIAO Li-shiou)(蕭力修)

★ 観客賞 『KANO』
台湾/監督:マー・ジーシアン(Umin Boya)(馬志翔)

<審査委員を代表してユージン・ドミンゴ(Eugene DOMINGO)さんからコメント>
clossing euzine.JPG皆様、こんばんは。2014年の第9回大阪アジアン映画祭の審査委員を務めさせていただき、大変光栄でした。短期間に多くの作品を審査するのは大変な作業です。今回の映画祭について、審査委員全員の一致した意見は、韓国映画とフィリピン映画の印象が最も強かったということです。しかし、どの作品も本当に力の入った素晴らしいものであり、審査委員としての苦労もずいぶん軽減してもらいました。今回、私たちが選んだのは、シンプルで、率直で、真摯にさまざまな境界を乗り越えて制作された作品です。どうぞ、参加作品の関係者全員に、大きな拍手をお願いいたします。私たちがここに集うきっかけをつくってくれた大阪アジアン映画祭に感謝するとともに、観客の皆さん、映画祭のサポーターの皆さんにお礼申し上げます。大阪アジアン映画祭は、大阪が世界へとつながるゲートウェイとなる、意義ある文化事業となりました。おおきに!

guests_openingceremony_r1_c1.jpgオープニング上映『KANO』舞台挨拶で、3年連続来阪のウェイ・ダーションさんをはじめ、マー・ジーシアン監督、永瀬正敏さん、坂井真紀さん他豪華ゲストが勢揃い!

 3月7日19時から大阪市北区の梅田ブルク7 で、大阪アジアン映画祭オープニング・セレモニーおよびオープニング作品『KANO』の海外初上映が行われた。チケット発売後30分で完売と、ここ数年で一番の注目度の高さを伺わせた今年のオープニング上映。上映に先立ち行われたオープニング・セレモニーでは、上倉庸敬実行委員長の挨拶に続き、今回、特別協賛の台北駐日經濟文化代表處・沈斯淳代表がスピーチを行った。作品ゲストとしては、コンペティション部門のタイ映画『すご〜い快感』の世界初上映にタンワーリン・スカピシット監督、出演者の越中睦士さん、スパナート・チッタリーラーさん、セータポン・ピヤンポーさんが登壇。続いて台湾映画『甘い殺意』のリエン・イーチー監督が登壇し、『KANO』からは、マー・ジーシアン監督、製作総指揮のウェイ・ダーションさん、出演者の永瀬正敏さん、坂井真紀さんをはじめ、作品中で感動を呼ぶ高校野球球児を演じた台湾や日本の若きキャスト、そして映画監督・林海象さんが登壇。ゲストを代表して『すご〜い快感』に実名でタイ映画初出演を果たした越中睦士さんが一言「アジアを盛り上げよう!」と力強く挨拶。会場からは大きな拍手が巻き起こった。

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引き続き行われたオープニング上映『KANO』の舞台挨拶では、まずはマー・ジーシアン監督「まいど、はじめまして。私はマーです。よろしくお願いします」と流ちょうな日本語で挨拶し、会場を沸かせると、今年で3年連続の来阪となる製作総指揮のウェイ・ダーションさん「大阪に感謝したい。いつも満席で、我々の映画を観に来ていただきありがとうございます」とにこやかに挨拶。主演・近藤兵太郎監督役の永瀬正敏さんはオープニング作品に選ばれたことへの感謝と喜びを述べたあと「僕の誇りがここに立っています。どうぞ最後まで見守ってやってください」と舞台に勢ぞろいした高校野球部員役の12人に惜しみない賛辞を送った。また、客席にいる近藤監督のお孫さん3人がサプライズで紹介されると場内からは盛大な拍手が。次に近藤監督の妻を演じ、しっとりした和服姿で登場の坂井真紀さん「先日台湾で観ましたが、自分が出演しているのに大ファンになりました。早く観ていただきたい」と作品の手応えを語った。その後、永瀬正敏さんに促され選手を代表して投手役のシャオ・ヨウニンさんが突然挨拶に呼び出されるハプニングも。そこは映画で見せた落ち着きのあるマウンドさばき同様に、見事な日本語で自己紹介を行い大きな拍手が沸き起こった。永瀬正敏さんや坂井真紀さんと親交があり、ウェイ・ダーションさんとも旧知の仲という映画監督の林海象さんは『KANO』の日本語部分の脚本リライトを担当。 「本作がヒットしたら、ウェイ・ダーションさんに私の次回作のプロデューサーをしてもらう約束でした。台湾で大ヒットしたので大丈夫ですね」と『KANO』の裏エピソードを冗談まじりに披露。最後に、ウェイ・ダーションさん「3時間5分と長いですが、トイレに行かせないよう飽きさせない工夫を一生懸命しています」と見所の多さをアピールし、豪華ゲストによる舞台挨拶を締めくくった。

上映後は、スタンディングオベーションが続く中、ゲストが再び登場し、感動は最高潮に。まさに観客と映画スタッフ・キャストとが一体となったオープニング上映は、ゲストによるお見送りまで行われ、台湾に続き大阪で大きな『KANO』旋風を巻き起こした。


また、同日16時からJR大阪駅・大阪ステーションシティ5F「時空(とき)の広場」で、大阪とアジアの映像文化交流を図るレッドカーペットイベント「アジアン スター フェスティバル」が大阪観光局主催で開催され、上記ゲストのほか『KANO』栄誉顧問の王貞治さんなど多数のゲストが登壇し、多くの観客で賑わった。

 第9 回大阪アジアン映画祭は3 月16 日まで梅田ブルク7(梅田)、ABC ホール(福島)、テイジンホール(堺筋本町)、シネ・リーブル梅田(梅田)、シネ・ヌーヴォ(九条)、大阪ステーションシティシネマ(梅田)、プラネット・スタジオ・プラスワン(中崎町)で13の国と地域から世界初上映8 本を含む全43作を上映する。クロージング作品は呉美保監督最新作、綾野剛さん主演の『そこのみにて光輝く』。佐藤泰志さん原作の映画化プロジェクト第2 弾で大阪出身の池脇千鶴さんの熱演も見どころだ。
また、<台湾:電影ルネッサンス2014>と題して1960 年代の台湾語映画『温泉郷のギター』や、台湾最新注目映画を特集上映する。<Special Focus on Hong Kong 2014>では、次代の香港映画界を担う新たな才能を紹介するほか、今年1月に106 歳で亡くなった香港映画黄金期を築いたショウ・ブラザーズ創始者、ランラン・ショウの追悼特集を開催。また、東日本大震災からちょうど3 年が経つ3 月11日には、震災・復興やクリーンエネルギーを考える作品の上映やトークセッションを盛り込んだ<東日本大震災から3年「メモリアル3.11」>を開催する。
常設のコンペティション部門ではアジア映画の若き息吹を感じる全11 作品が並ぶ。
さらに、インディ・フォーラム部門では、第10回CO2助成作品2 作を世界初上映する。
チケットはチケットぴあでの前売り終了後は、各劇場にて順次販売。


詳細は大阪アジアン映画祭ホームページ参照。

http://www.oaff.jp/2014/ja/index.html