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『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)シージ・レデスマ監督インタビュー@OAFF2014

shift2.JPG『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)シージ・レデスマ監督インタビュー
『シフト』(劇場公開用タイトル『SHIFT~恋よりも強いミカタ』)“Shift“
2013年/フィリピン/80分
監督:シージ・レデスマ
出演:イェング・カーンスタンティーノー、フェーリックス・ローコー

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第9回大阪アジアン映画祭で見事グランプリ(最優秀賞)を受賞したフィリピン映画『シフト』。都会で生きる等身大の若者たちの仕事、恋、自分探しを鮮やかな映像と印象的な音楽で綴る、パンチの効いた青春物語だ。

<ストーリー>
主人公エステラは、シンガーソングライターを目指しながらテレフォンオペレーターとして働くロックな少女。女子高あがりのエステラは、大学で初めて男友達ができるものの、ボーイッシュすぎて恋人に見てもらえない。そんなエステラは職場で自分の指導員となったトレバーと親しくなる。乙女な雰囲気のあるトレバーは、ゲイであることを家族に知られたものの、正式にカミングアウトできないでいる。男のような女と、女のような男の2人は、互いに過去を共有しあい、エステラは友達以上の気持ちを抱えるようになるが、トレバーは複雑な表情を見せるのだった・・・。

Web上のチャット画面を映像に重ね、夜中に複数の男性と同時進行でチャットをしたり、Webを通じてジョブハンティングをされたりと、イマドキの若者のつながり具合をリアルに表現。ゲイに間違われようが、女の子らしくすることを拒み、自分らしさを貫き通すヒロイン、エステラの見た目の強さと奥に潜む弱さを映画初主演のイェング・カーンスタンティーノーが鮮やかに演じている。往年のラブストーリーのように、挿入歌を効果的に取り入れながら、二人のデートエピソードをスタイリッシュに見せる一方、職場では事務所閉鎖、リストラといったシビアな日常の一面も映し出している。エステラとトレバーの主人公二人の魅力に引っ張られ、それぞれが恋も含めて自分らしく生きる道を模索する青春物語は、ジェンダー問題を扱いながらも爽やかな後味を残す作品だ。
本作が初監督作となったシージ・レデスマ監督に話を聞いた。

 


shift1.JPG―――監督は社会人を経て映画監督を目指していますが、志したきっかけや、本作制作の経緯を教えてください。
ずっと芸術に興味があり、特に映画は好きでした。ちょっとメインストリームからはずれるような映画をレンタルビデオやDVDで観ていましたが、映画関係者が家族にいるわけでもなく、普通の家庭で育ちました。映画を作るのにはコストがかかるし、映画監督で生計をたてていくのは難しいと思ったのです。ただデジタル時代が到来し、カメラも私が働いていたコールセンターの給料で買えるぐらいのものが出てきたので、撮ることをはじめてみようと思ったのがきっかけです。

―――主人公エステラの存在がとても個性的です。チェ・ゲバラに心酔する激しい一面を持ちながらも、すごくナイーブな内面の持ち主ですが、このキャラクターをどう作り上げていったのですか?
実は、自分自身を投影しています。

―――エステラ役のイェング・カーンスタンティーノーさんが見事な存在感で、歌も素晴らしかったです。
イェングはフィリピンで非常に人気があるポップシンガーで、とても忙しい人なのでスケジュールをあわせるのが大変でした。また、彼女にとって演じることは初めてで、私も映画を作るのが初めてだったので、最初は不安がありました。

―――監督がイェングさんに出演依頼したのですか?
エステラ以外の配役は簡単に決まったのですが、エステラだけはカリスマ性などを備えていなければならず、私の要求度が高かったのでなかなか決まりませんでした。エグゼクティブプロデューサーと相談しながら何人もオーディションを重ねたのですが、誰もピンとこなかったのです。私の中でイェングさんがいいのではという気持ちがあったので、彼女は歌手ですが脚本を送ってみました。するとイェングさんが脚本をすごく気に入ってくれ、出演してくださることになったのです。

―――作中イェングさんが歌った歌が非常に印象的でしたが、もともと彼女の歌だったのですか?
私の周りにあまり曲を書ける人がいなかったし、あのシーンの心情に合う歌詞にしたかったので、私が自分で曲を作りました。

―――映画の色使いが非常に鮮やかで、暉峻プログラミング・ディレクター曰く「フィリピン版『恋する惑星』」と表現していましたが、映像に関するこだわりや参考にした作品は?
実際に私はウォン・カーウァイ監督の大ファンですし、撮影監督には『恋する惑星』を見せて、こんな感じにしてと指示も出しました。イェングさんはポップシンガーなので、もともと赤い髪だったんです。 

―――乙女心のある隠れゲイのトレバーはどこから着想を得て作られたキャラクターですか。 
トレバー役のような男子は、私がコールセンターで働いていた頃同僚でよくいた典型的なゲイのタイプです。フィリピンでは”ストレートアクティングゲイ”と呼ぶのですが、オネエではなく見た目は男だけれど、少し女っぽい面がみえるような人ですね。

shift3.jpg―――エステラやトレバーの会話にはジェンダーに関することや政治的思想に関する話題が登場しますが、監督は意図的に挿入しているのでしょうか。それともフィリピンの若者は日常よくこのような会話をするのでしょうか。
意図的に挿入しました。この映画ではジェンダー問題に関する自分なりのメッセージを込めたかったのです。またエステラがゲイの男性に惹かれる様子を、そういう考え方や性的哲学を入れることで浮かび上がらせています。

―――仮装パーティーのあと、ボーイッシュスタイルのエステラとドレッシーなトレバーが二人で静かに肩を寄せ合うシーンが、届かない思いを表現して記憶に残りました。
あのシーンは脚本を書いている割と最初の頃から構想にありました。パーティーのシーンは私がコールセンターでモチベーションアップのために開催されたパーティーを参考にしています。私の上司がゲイだったので、実際に男女逆転のコスチュームを着て仮装パーティーをやりました。二人が肩を寄せ合うシーンは、二人の関係を如実に表しているものにしたかったのです。自分は相手に恋をしているけれど、相手はどう思っているのか不安なやるせない感じを込めました。

―――最後はエステラが恋叶わず、夢に向かいながらも道半ばで、新しい仕事を探すところで終わります。このラストで示したかったことは?
最初のシーンと最後のシーンは重なるイメージで、エステラは最初も最後も自分の居場所を探し続けています。『シフト』というタイトルと非常に絡み合ってくるのですが、キャリアを変えたいと思っているけれど、なかなか前に踏み出せないでいる。エステラは見た目攻撃的な性格に見えますが、自分が強い人間だと思いたいからそうしているだけです。内面的には非常に壊れやすいタイプの女性で、だからなかなかキャリアを変えられないでいます。そこにトレバーという男性が突然現れることで、ちょっと宿り木のように寄り添っていきます。叶わぬ恋の相手ですが、トレバーといることで居心地がよくなり、自分の居場所探しに必死にならずに済んでいたわけです。自分探しからトレバーにシフトしたのが、この映画で起こった出来事です。最後に、それが終わってまた自分探しにシフトしていく。本質に戻っていったわけですね。 

―――本作は職場のシーンがリアルでしたが、今のフィリピンの若者たちが置かれている環境について教えてください。 
コールセンターの仕事だけが一番ブームで盛り上がっていますが、雇われるのは20~30歳の大卒がほとんどです。外資系の企業がコールセンターとしてアウトソーシングしており、仕事は非常に退屈ですが、パーティーを開くなどコールセンターの仕事をオシャレに見せ、働き手のモチベーションを上げています。それ以外の仕事は本当に雇用が厳しく、非常にプロフェッショナルな仕事、たとえば教師や、私も大学で臨床心理学を学びましたが、高学歴な人たちもコールセンターの方が給料がいいと、人材流出しています。私自身も大学卒業後進路が決まらなかったので、それならばとコールセンターで働き始めました。一般的にかなり厳しい状況です。

―――監督第一作を作り上げて、大変でしたか?それともまた作りたいと思いましたか?
また作りたいと思っています。私が映画を作る原動力になるのは、自分を投影できたり、感情移入できたり、自分のことを語っているように見えたときです。とても安らぎますし、気持ちがよくなります。私の作品をみた観客が、「一人じゃないんだ」と思える作品を作りたいし、それらが映画を作る大きな原動力になっていくのでしょう。
(江口由美)