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パン・ホーチョンの愛弟子、ジョディ・ロック監督が描く、妊娠期夫婦あるあるコメディー『ある妊婦の秘密の日記』(香港)が世界初上映@第32回東京国際映画祭

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パン・ホーチョンの愛弟子、ジョディ・ロック監督が描く、妊娠期夫婦あるあるコメディー『ある妊婦の秘密の日記』が世界初上映@第32回東京国際映画祭
 
 現在TOHOシネマズ六本木他で開催中の第32回東京国際映画祭で、アジアの未来部門作品の香港映画『ある妊婦の秘密の日記』が世界初上映され、ジョディ・ロック監督と主演のダダ・チャンさん、ケヴィン・チューさんが上映後のQ&Aに登壇した。
 
 
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 広告代理店に勤める仕事人間のカーメン(ダダ・チャン)と、バスケットボール選手として国内トップクラスの夫、オスカー(ケヴィン・チュー)。カーメンはベトナム赴任のチャンスを手にするが、オスカーや初孫を期待する義母には言えない悩みがあった…。妊娠をすることで全てが思うようにならなくなる不安や焦りを夫にぶつけてしまうカーメン。そんなカーメンの不安を受け止めながら、定職につき、生まれてくる娘のために頑張ろうとするものの、うまくいかないオスカー。夫婦のすれ違いや、義母が送り込んだスーパー保育アドバイザー(ルイス・チョン)によるコミカルかつリアルな出産準備、カーメンの同級生友達の育児の悩みやママ女子会を折り込み、香港らしい妊娠期あるあるコメディーに仕上がっている。
 
 監督は、パン・ホーチョンに師事し、ミリアム・ヨン、ショーン・ユー主演の大ヒットラブコメ『恋の紫煙2』(12)の脚本、ダダ・チャン主演『低俗喜劇』(12)の共同脚本を経て、初長編監督作『レイジー・ヘイジー・クレイジー』(15)が東京国際映画祭で紹介されたジョディ・ロック。4年のブランクを経て、ダダ・チャンと監督としては初タッグとなる本作では、キャリアと出産、子育ての狭間で悩む同世代女子の本音を赤裸々かつコミカルに綴るだけでなく、初めて親になる夫側の苦悩や奮闘、迷走ぶりもたっぷりと描写。一見怪しげなパパの会の個性的なメンバーや、思いっきりストレス発散をするオスカーの姿も見逃せない。さらに、名女優で歌手としても人気を博したキャンディス・ユーが、ちょっと押しが強いけれど憎めないカーメンの義母役を好演している。
 
 上映後の舞台挨拶では、ジョディ・ロック監督と主演のダダ・チャンさん、ケヴィン・チューさんが登壇。ダダさんとケヴィンさんは、日本語で自己紹介と感謝の言葉を伝え、観客から大きな拍手が送られた。質問をした人には、劇中で登場するパパクラブのマスコット人形ビニール版が、俳優陣から直接手渡されるという粋な趣向もあり、大いに盛り上がった。
 
 
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 前作の『レイジー・ヘイジー・クレイジー』は、学生時代から就職するまでの若い時代を描いたというジョディ・ロック監督。「私の映画では女性の成長期を描いています。今回は前作の次として、結婚して子どもを産むまでの次の成長期を取り上げました」と本作の狙いを明かした。今回も自身が脚本を担当しているが、「私も年齢を重ね、様々な経験をしてきました。実際に脚本を書く時も自分の経験を重ねているので、作品ごとにスタイルが違うのは当然です、今回は生活のリズムが速い、大都市の中での夫婦を描いています」。さらに「妊婦が仕事に影響があるのはよくあることで、海外に行くにしても簡単に行けませんし、工事現場で働くなら妊婦で働くことはできません。それは仕方がないことですが、香港の女性は非常に生命力が強いので、産む2週間前まで仕事をし、産んで2ヶ月後から働き始めます」と、子育てとキャリアを両立させる香港女性について語った。
 
 

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 妊婦役を熱演したダダ・チャンさんは「非常に大変な役でしたが、カーマンには自分を愛してくれるいい夫がいたことが大事でした」と、夫の愛情を役としてしっかりと受け止めることが演じる上での助けになったことを明かした。また妊娠経験がないダダさんは、妊婦の役作りとしてネットや本で妊婦の状態を調べたり、自分の周りで妊娠したことがある人に話を聞いて研究したそうだが、「人によって違うことが分かったので、カーマンに入り込んで自分なりの妊婦を演じたつもりです」とその演技に自信を滲ませた。

 
 
 

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 夫婦役を演じた夫、オスカー役のケヴィン・チューさんは「ダダさんとは、気心の知れた仲で、撮影中も常にどう芝居しようかという話を現場で積み重ねました。演技というより、お互いに相手を信頼することが大事だったと思います」とダダさんへの信頼感の厚さを語った。今回はバスケットボールのスター選手という役柄にチャレンジしているが、「撮影チームがプロの選手を呼んでくれたので、撮影に入るまでにプロと一緒に練習しました」。
 
 
 
 
 幼い頃母親の愛情を受けることが少なかったカーメンは、妊娠中何度もお腹の赤ちゃんに毒づくが、本作の原題も『Baby復仇記』とドキリとするようなタイトルになっている。その意味について問われたジョディ・ロック監督は「仏教でいう輪廻で、女性が妊娠し、子どもを産むと、女性は全てを子どもに注ぐことになります。子どもが生まれるというのは、前世の時に母親に色々あったからで、それを、その人の子どもとして生まれた時に復讐するというアイデアから来ています」と真意を明かした。
 
 
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プロデューサーをはじめとするジョディ・ロック組が集結!
 
 助産師をしている観客から「夫婦共に心の変化があるのはとても共感しました。多くの新米の夫婦に見てもらいたい」と絶賛コメントを受けた本作。妊娠期の夫婦に焦点を当てた本音満載コメディーは実に新鮮で、香港映画らしいユーモアも家族愛もたっぷりだ。
『ある妊婦の秘密の日記』は、11/3(日)12:00より上映。
 
第32回東京国際映画祭は11月5日(火)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第32回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
(江口由美)