映画祭シネルフレ独自取材による映画祭レポートをお届けします。

2017年10月アーカイブ

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ジャン=マルク・バール「変革が求められていることを語りたい」。ディストピアを描いた『グレイン』記者会見@TIFF2017
登壇者:セミフ・カプランオール(監督/脚本/編集/プロデューサー)、ジャン=マルク・バール(俳優)、ベッティーナ・ブロケンパー(プロデューサー) 
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているセミフ・カプランオール監督(『蜂蜜』)の最新作『グレイン』。ディストピアの近未来を舞台に、荒廃した大地がモノクロの映像で映し出される。大地の中で、人間の存在は実に些細なものだ。そんな人間が遺伝子組み換えにより生態系を狂わせ、人間が生きるのに大事な穀物が枯れてしまう事態に陥る。ジャン=マルク・バール(『グラン・ブルー』)が演じる主人公、エリン教授は、遺伝子不全を予言していた研究者、アクマンを探す旅にでるが、その旅こそ、生死をかける壮絶な旅になるのだった。
 
 
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© KAPLAN FILM / HEIMATFILM / SOPHIE DULAC PRODUCTIONS / THE CHIMNEY POT / GALATA FILM / TRT / ZDF / ARTE FRANCE CINEMA 2017
 
私たちが日ごろ当たり前にあると思っている土や種が汚染され、穀物が取れなくなってしまったら、まさしく人類存続の危機だ。核戦争やテロなどの国同士の争いによるディストピアではなく、人間のエゴによる環境破壊が徐々に地球を蝕んだ結果のディストピアを描いているところに、ユスフ三部作のカプランオール監督が一貫して描いている大地や生態系への敬意が読み取れる。試練を乗り越え、大事に守られていた汚染されていない土を手にしたエリンが、顔や身体を清めるかのように土をこすりつけるシーンは、命の泉で身を清めるのと同じような神々しさがあった。
 

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7年ぶりの新作を携えて来日したセミフ・カプランオール監督は、脚本に5年をかけた本作を着想した時のことを振り返り、「近い将来こういうことが起こるかもしれないと思い書き始めました。トルコには300万人近い難民が訪れ、戦争の影響も様々起こっています。農業や水の問題も問われるようになり、自分が想定していたことが、現実になっていくのを今は見ている感じがします」と実際にディストピアへの道を歩みかねない現状への危機感を露わにした。
 
コンペティション部門作品を鑑賞し、「非常にレベルが高い」と称賛したジャン=マルク・バールさん。荒野での撮影を振り返り、「とても美しく、スピリチュアルな体験をしました。トルコのアナトリアでも撮影しましたが、精神的、肉体的な訓練をしているような撮影で、体力的にも大変でした。ラース・フォン・トリア監督作でもドイツ人、ロシア人と様々な人たちと共に英語で撮っていますが、本作も日本人も含め様々な国の人と英語で撮影し、大変ですがとても良い体験になりました」と、国際的なスタッフ、キャストでの撮影を楽しんだ様子。また、ユスフ三部作から携わっているプロデューサーのベッティーナ・ブロケンパーさんは、「私にとっては政治的、精神的な映画。我々が人生を変えないと地球がどうなるか分からない。この映画の一部になれたことをとてもうれしく思います」と作品の意義を語った。
 
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最後に、世界的食糧危機が強く描かれている作品で、主人公の教授を演じた気持ちについて「世の中の映画は娯楽性が高いものが多いですが、カプランオール監督作品は世界中で意識を変えていると思っています。問題を精神的かつ知的に考えていく定義をしています。300年ぐらい営んできた人間の生活を、今変えなければいけない時期にきている。映画がそういうメッセージを出せることが非常に大事です。エリン教授は、最初何をしたらいいか分からなかったけれど、問題解決をしたいと願い、意識の変化を遂げている人物。変革が求められていることを語りたい物語なのです」と、映画を通じて、まさに今、私たちが意識を変える必要性を強調した。
(江口由美)
 

『グレイン』
(2017年 トルコ/ドイツ/フランス/スウェーデン/カタール  127分)
監督:セミフ・カプランオール 
出演:ジャン=マルク・バール、エルミン・ブラヴォ、グリゴリー・ドブリギン 
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
第30回東京国際映画祭公式サイトはコチラ
 
 

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「一番苦労したのは、自然の美しさをそのまま伝えること」沈黙の中、圧倒的な映像美を体感するジョージア映画『泉の少女ナーメ』@TIFF2017
登壇ゲスト:ザザ・ハルヴァシ(監督/脚本)、マリスカ・ディアサミゼ(女優)、スルハン・トゥルマニゼ(プロデューサー)
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でコンペティション部門作品として出品されているジョージア、リトアニア合作の『泉の少女ナーメ』。ジョージアに伝わる神話を基にした静謐な作品は、まさに息を呑む美しさを放ち、オープニングの川の流れが岩にあたって弾けるような水の音から、映画の幻想的な世界に誘われる。この大自然の中、どんな言葉もいらないと思えるほどの映像美と、そこで語られる癒しの泉を守ってきた一家の物語は、これぞ映画だという静かな感動を呼ぶのだ。
 
29日行われたワールドプレミア上映後、ザザ・ハルヴァシ監督、主演ナーメを演じたマリスカ・ディアサミゼさん、スルハン・トゥルマニゼプロデューサーが登壇してのQ&Aが行われた。
 
 
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会場で一緒にワールドプレミア上映を観た後、感動の面持ちでマイクを持ったハルヴァシ監督は、「私の映画をご覧になっていただきありがとうございました。私の映画は楽しめる類の映画ではありませんが、最後まで我慢していただきありがとうございます。ストーリーを静けさの中でお伝えしたかった。私が強調したかったのは、映画の中の細かいニュアンスなので、沈黙の中で集中してもらうことが必要でした。これだけ集中して聞いて下さる観客は滅多にいません」と観客に感謝の意を表しながら、セリフや音楽を極限まで排除した本作の狙いについて明かした。その少ない台詞は聖書によるものだとし、「シンプルな聖書の哲学、つまり“昼であり、夜がある”というシンプルな台詞を使いました」。
ヒロインのナーメを演じたディアサミゼさんは、「東京の映画祭に参加することができ、とても光栄。子どもの頃からの夢が叶いました」と喜びを表現。同じく、トゥルマニゼプロデューサーもプログラミングディレクターに感謝の言葉を添えた。
 
泉を守る家族のファンタジーのような物語である本作。その発想の源には、ジョージアのように黒海沿いに住んでいる人の間で語り継がれてきた神話があったとし、「大昔、水で人々の傷や心を癒す少女がいたが、彼女は普通の人間になりたかった。そこで自発的に自分の力を拒否し、癒す力の根源となる魚を開放し、魚も自然に戻り、少女も人間に戻るという神話をモチーフに、フィクションの部分を加えた」と自然の中で育まれる静かなストーリーの原点を明かした。
 
「スクリプトより映像で意味を伝えるのが好き」と語るハルヴァシ監督。「映画は私にとって映像の芸術であり、言葉の芸術ではありません。今回は映像で伝えるのが少し難しい場面では、『母が亡くなったので、ナーメが癒し手の後を継ぐ』という台詞を父親に語らせ、母親の不在を明らかにしています。また、ロケーションとなった南ジョージアのアジャラ地方は、そこだけがイスラム教とキリスト教が共存する場所なのです。作品中でもナーメの兄たち、イスラム教、キリスト教、無宗教の三兄弟が祖国に乾杯をします。宗教が違うにも関わらず皆がこの国の人間であることを示しています」と映画の中での設定や台詞についての質問に答えた。
 
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台詞がほとんどない中、佇まいや視線、表情、顔の傾きなどで、父の後を継ぎ、泉の水を使って人々を治癒する“癒し手”の跡継ぎをするナーメを演じたディアサミゼさんは、撮影の様子を振り返り、「行動の裏にどんなモチーフがあるか理解しようとしました。理解をした後は、監督と相談し、自分のキャラクターがどういう風に感情を伝えるか、全てのシーンを撮る前に必ず相談した上で演じていました」と、常に監督と議論しながらナーゼ像を作り上げたそうだ。
 
自然の美しさを見事に捉えるための思わぬ苦労にも話が及んだ。霞が多い場所で撮影していたにもかかわらず、撮影時には霞が消えてしまい、首都からスタッフを呼び寄せて人工的な霞を発生させることもあったという。ハルヴァシ監督は続けて「自然の美しさをそのまま伝えるのが一番苦労したところです。ナーメが霞の中で消えていくラストは、自然の霞の中で生まれたシーンで、とても美しく撮れました。現実が詩を作ったといってもいいのではないかと思います」と観客も魅了した名シーンのエピソードを披露。一方、寒さが大変だったというディアサミゼさんも、「自然を見て、自分の肌で感じたので、自然の中で生きているナーメを演じることが、逆に簡単になりました」。最後に、リトアニアの映画センターからの支援が映画作りに大きく貢献したことを付け加えてQ&Aを終了した。
 
 
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台詞や音楽で物語を伝える映画とは対極にあるグルジア=リトアニア合作映画。大自然で起きる様々な出来事の前に、観ている私たちも静かに、いい緊張感を持ちながら、映画の力を堪能できる必見作だ。(江口由美)
 

<作品情報>
『泉の少女ナーメ』(2017年 91分 ジョージア/リトアニア)
監督:ザザ・ハルヴァシ
出演:マリスカ・ディアサミゼ、アレコ・アバシゼ、エドナル・ボルクヴァゼ、ラマズ・ボルクヴァゼ、ロイン・スルマニゼ
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
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「世界を思いやる見方を持っている」エドモンド・ヨウ監督が描くロヒンギャ移民とマレーシア人との未来『アケラット-ロヒンギャの祈り』(マレーシア)@TIFF2017
登壇者:エドモンド・ヨウ(監督/脚本)、ダフネ・ロー(女優)
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭で、コンペティション部門作品のコンエドモンド・ヨウ監督(タイ)最新作『アケラット-ロヒンギャの祈り』がワールドプレミア上映された。迫害され、マレーシアに希望を見い出して渡るロヒンギャ移民に訪れる苦難と、マレーシアから脱出するお金を稼ぐためロヒンギャ移民の人身売買に手を染めてしまうヒロインを対比させながら、困難な現実を詩情豊かに描き、ささやかに未来への希望の灯をともしている。エドモンド・ヨウ監督は、行定勲監督『鳩 Pigeon』(『アジア三面鏡2016:リフレクション』の1編)のメイキング撮影から故ヤスミン・アハマド監督の記憶をたどるドキュメンタリー映画『ヤスミンさん』もCROSSCUT ASIA部門に出品されており、マレーシアの今だけでなく、マレーシアが日本を含むアジアとどんな繋がりを見せているかを、改めて映画で示してくれている。TIFF2015『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのコンペティション部門出品作は、社会問題に根差しながら、マレーシアの文化面での多様性をも感じる仕上がりになっている。
 
 
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ワールドプレミア上映の後に行われたQ&Aでは、エドモンド・ヨウ監督と、主演のダフネ・ローさんが登壇。ロヒンギャ移民のことを映画化した理由について、エドモンド・ヨウ監督は、「2年前北マレーシアで、200人以上のロヒンギャ移民の死体が埋められていたことが見つかり、人身売買していたマレーシア人によるものであることが明らかになりました。マレーシアによりよい生活を求めてきた人たちに、色々なことが起こったという事実があります。マレーシアはここ数十年でインドネシア、カンボジア、ミヤンマーなど多くの移民が来ていますが、日頃私たちは彼らにどういうことがあったのか意識していませんでした。でも、このニュースを見て、子どもから女性たちまで色々な人が巻き込まれていることがわかり、また同時に誰がこんなことをしているのか探ってみたいと思ったのです」とその理由を明かしました。また、「マレーシアに来たいと思っている人だけでなく、マレーシアから出たい人もいる。その両者は並行しているかもしれないと思い、この物語を書きました」と、ヒロインが台湾に出ようとしている設定に活かした理由を語りました。
 
『破裂するドリアンの河の記憶』に続いてのヨウ監督作出演となるダフネ・ローさんは、そんなヨウ監督の脚本を読み、「さすが、エドモンド・ヨウ監督だと思いました。彼には世界を思いやる見方を持っています。それを作品で伝えるにあたり、(私が)媒体になれることを嬉しく思いました」と、新作に取り組んだ時の気持ちを明かした。
 
家庭の中でも、広東語、英語と多言語、多文化だというヨウ監督。本作でもマレー語を始め、広東語、タイ語と様々な言葉が語られているところが、マレーシアの特徴を表しているが、「(舞台となっている)タイとの国境はマレー語ですが、首都とは違うアクセントであったり、北京語を話していてもタイ語が混じっていたりと、全く違う国に来たようで、とてもユニークなものを感じました」と、撮影時の印象を語りました。また幻想的な物語の詩情を掻き立てる人形劇のシーンは、「人形劇も実在の最後のマスターに出演していただき、永い間忘れ去られていた、死にゆく芸術でした。この映画でその、“忘れられしもの”をまた描くことができればと思ったのです」と、土地の伝統芸能を映画で映しとっていたことを語った。
 
 
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自身の映画作りについて「脚本には細かい台詞はなく、その場で即興的にコラボレーションをしています。本当にクリエイティブな協力体制にしています」と語ったヨウ監督。ダフネさん演じるヒロインが、お金のために人身売買をしなければならない役としてどう感じたいかと尋ね、「木をナイフで切り刻む」という行為で表現したシーンがある。ヒロインの怒りがストレートに伝わるシーンについて、ダフネさんは「自分に仕事をやらせているボスだと思って切りつけていました。自分は人身売買をしたくないけれど、そういうことになってしまったという怒り。イヤだと言いながら振り返った時にみつけた人質を追いかけなければいけないという対比が、あのシーンにあったのです」と、自分自身の葛藤も込めたシーンであることを明かした。
 
ロヒンギャ語で“来世”という意味の“アケラット”をタイトルにしたヨウ監督。 台詞を減らし、内に秘めた演技で表現した主人公、フイリンが人身売買に手を染めながらも、現実から逃げ出す先に“来るべき世”はあるのか?そして、ロビンギャ移民がマレーシアで、来世として次のものを見い出すことができるのか。詩のような世界観を持つ本作に込められた思いは、とても深く、そして不条理な現実をしっかり見つめ、その未来を探っている。
(江口由美)

 
『アケラット-ロヒンギャの祈り』
(2017年 マレーシア 1時間33分)
監督:コンデート・ジャトゥランラッサミー
出演:トーニー・ラークケーン、ワラントーン・パオニン、ティシャー・ウォンティプカノン
 
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
 
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「自分が信じる映画ぐらいは自由に映画を作らせてほしい」大林作品の精神を語る。『花筐/HANAGATAMI』Q&A@TIFF2017
登壇者:大林宣彦監督、窪塚俊介、長塚圭史、矢作穂香、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩、岡本太陽  
 
10月25日より開催中の第30回東京国際映画祭でJapan Now部門作品として出品されている大林宣彦監督の『花筐/HANAGATAMI』。壇一雄の『花筐』を原作とした脚本をデビュー以前に書き上げていたという大林監督が、40年の時を経て、佐賀県唐津市を舞台に満を持して映画化した。太平洋戦争勃発前後を生きる若者たちの凄まじい青春群像劇は、戦争を体験した大林監督から戦争を知らない若者たちへの情熱に満ちたメッセージにも映る。
 
28日に行われた上映後のQ&Aでは、大林監督をはじめ、窪塚俊介、長塚圭史、矢作穂香、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩、岡本太陽らキャストが登壇し、満席の会場が大きな拍手に包まれた。40年経った今、映画化した理由について語り始めた大林監督は、「40年前はこういう映画を撮っても、誰も興味を持ってくれませんでした。日本中、高度経済成長期が訪れ、物とカネが豊かになればそれでいいと思っていました。戦争などなかったことになって、日本人は皆、平和難民になっていた。僕達昭和15年生まれ、寺山修司からミッキー・カーチスの時代は軍国少年だったものですから、戦争が終わって殺してくれるものだと思っていたら、誰も殺してくれない。大人たちはみんな『平和だ!』と言って、ヤミ米を担いで騒ぎ出し、敗戦後の日本の大人が一番信じられなかった敗戦孤児の時代なのです。しかし、私たちは最初に日本の平和を作らなければいけないと、皆、今まで誰もやらなかったことをやりながら生きてきた。
映画においてもそうで、大先輩たちは商業用の35ミリでお撮りになるわけです。私は戦争中一番弱者だった庶民、映画でいえばアマチュアの8ミリで妻や、妹や、戦争に行った叔父を撮ったキャメラで始めました。山田洋次さんは黒澤監督や小津監督と同じく松竹でプロフェッショナルな映画をお作りになっています。私は一生アマチュアとして、弱者の立場から、自分の個人史や日記のような映画を作ってきました。映画監督ではなく映画作家という名目でいさせていただくのが私の正体です。ここに集まっていただいているのは、プロでありながら、プロのアマチュアごっこを自由な精神で楽しもうと面白がってくださる俳優さんたちです」
と一気に思いを明かした後、会場に駆け付けた映画をサポートしてくれた唐津市の皆さんやエグゼクティブプロデューサーの恭子さんらを紹介し、客席から大きな拍手が送られた。
 
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前作の『野のなななのか』に続いての出演で、昨今の大林映画のマドンナと紹介された常盤貴子は、「原作は短編なのに、大林監督の脳内フィルターを通すと、純文学でここまで広がるんだ。純文学って幅広いなと思いました。完成した作品を観ると、なんてやんちゃな監督なんだと思って。こんなに自由に広げる監督なんて世界にいたのかなと思うぐらい。自由でやんちゃで好き放題なのに感激しました。映画の可能性を広げていただきました」と驚きの表情を見せた。
 
物語の語り部の役目を果たし、戦争で最後まで生き残った俊彦を演じた窪塚俊介は、「俊彦は16歳ですが、僕は35歳ですから、キャスティングにも自由度がこんなにもあるのかと。最初お話をいただいた時には戸惑いましたが、長塚圭史さんも同級生で参加して下さるということで、勇気が湧きました」と話をふると、長塚が「40歳を過ぎて、あんな(高校生の)役をできるとは思わなかった」と苦笑いする一幕も。「全シーン通して、緊張感がこれだけ漂うというのは、この時代大林監督を通じて表現される時代を知らないし、正直今後、こんな緊張感の中で生きていきたくないと改めて思いました」と窪塚が映画の感想をしみじみと語った。それを受けて、大林監督は、「(戦前は)戦争ごっこが一番楽しい遊び。平和ごっこをしたら犯罪人でした。でもどこかこの遊びは不自由だな。やって褒められることと怒られることがあると思っていました。自由に遊ぶのが子どもの証ですから、戦争が終わった後、自分が平和に役立つのなら、自分が信じる映画ぐらいは自由に映画を作らせてほしい。そう思って映画を作らせていただきました。その結果ぶれずに、敗戦後の少年を描いてきましたが、どうもそういう映画がまた作れなくなるのではないかと怯えております。3年後にこの映画を作れるだろうか。今こそ自由の尊さを表現したのが、この作品です」と自由が失われる風潮に警鐘を鳴らした。
 
本作が大林監督作初出演となる新星、矢作穂香は、死に至る病を患った美那を演じている。撮影前に監督から役作りとして5キロの減量を指示されたエピソードを披露。「初めて見た時は何がなんだかよく分からなくて、理解するのに時間がかかりました。3、4回目となって色々な魅力が出てきたので、何度見ても色々な楽しみ方ができる映画だと思います」と感想を明かした。美那が仲良くなる女子高生を演じた山崎紘菜は、「戦争に巻き込まれていく女の子ですが、この映画に参加させていただき、若者の青春はこんなに眩しく美しく儚いものであることを学びました。今青春を謳歌している若い人にこそ見ていただき、次の世代に伝えてほしい」と観客にアピール。加えて、大林監督は山崎が演じた役について「戦争で生き残ったけれど忘れ去られた。(日本人は)平和難民になってしまったから戦争の事を忘れさせられている。こういう人があなたのおじいちゃん、おばあちゃんなんだよという気持ちでした。戦争を知らない若い人に向けて作った映画で、あなた(山崎紘菜)が一生懸命考えてくれたことが一番いいこと。自分で何をやったかは忘れているけれど、実感としてあることを描いています。音楽と同じように感じられる、みなさんが実感を持って観て下されば、私としてはとてもうれしい」と若いキャスト二人の素直な感想が大林監督の胸に響いた様子だった。
 
独特の感性と世捨て人のような雰囲気を持つ高校生、吉良を演じた長塚圭史は、「10代の若者を演じているけれど、どこか40歳を過ぎている自分が、彼より幼い気がして申し訳ない気持ちで立ち向かっていました。吉良を演じる時には、炎のようなスイッチを押さなければならない。『決着をつける』という吉良に乗っかる。押されるように『こうやって戦争が起こるのか』という台詞に出てくる状態でした」と、作品の鍵になる台詞を言った心境を語った。大林監督がさらに「現場ではほとんどテストをせず、俳優さん任せで演じていただきます。吉良がベッドで立ち上がった時に、『戦争ってこうやって起きるんだ』と、ふと浮かんだので、すぐに長塚さんに台詞を言ってもらいました。吉良の役に憧れたのが、素人の三島由紀夫さんで、『花筐』の吉良に憧れて、僕も小説家になると決意をしたのです」と三島由紀夫のエピソードまで披露した。
 
出征していく山内教授を演じた村田雄浩は、「本当にうれしかったのは、映画の中で撮られながら坊主になる感覚を味わったこと。服だけでなく、皮膚も脱ぐような気分。こういう歴史になっていってはいけないという象徴でいさせてくれたことに、とても感謝しています。忘れられないワンシーン。あれ一つで凄いことを表現したのではないか」と、自分のシーンを振り返った。大林監督にとっても思い入れのある役だったそうで、「村田さんの役が演出をしていて一番面白かった。最初は学生たちから嫌われる敵役のような先生。原作でもそう描かれており、ややそちらに傾きかけていたけれど、出来上がってみたら一番かわいそうな人になっていました。『生きていたら、また会おうね』という表情は、思いもよらないものになっていました」と想定した以上に豊かになった役をしみじみと振り返った。
最後に常盤演じる未亡人の戦死した夫を演じた岡本太陽は、「唐津出身なので、唐津でこの映画を撮れたことが、とても光栄だと思います。チェロが僕のセリフでした」と演技未体験ながら抜擢された気持ちを明かした。
 
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最後に私はアマチュアですから他の人がやらないことをと前置きをして、観客の写真撮影を解禁した大林監督。「世界的に、俳優さんに年齢を聞くと『私は18歳から80歳です』と、自分が演じられる年齢を答えます。これが本来の姿なのです。日本はお母さん役を一度やると、二度と娘役はイヤだということになりますが、十何歳でおばあちゃん役をすれば、もっと上でもバージンの役もできるというのが演技の世界です。『花筐』もかつて青春を経験したことのあるベテランの青年たちですから、痛みや悲しみが十分に表現できた。いい演技をしてくれました。窪塚君は、16歳を演じながら、心の中は35歳の青年の思考を持ってほしいと難しい注文を出しました。多分観客の皆さんは、窪塚君の役を見ながら、二通りの役を見てくださったと思います。私にとっては最高の俳優陣でした」と語り、締めの言葉を常盤に託した。
常盤は「『野のなななのか』を最近観ると、最初分からなかった部分でも時間が経つことで、涙が出てしまうシーンになりました。この映画も5年後、10年後とどんどん変わってくると思うので、その都度皆さんの人生の中で見ていただけたらと思います」と挨拶し、永遠に生き続け、自由の尊さを訴える映画になる手ごたえを見せた。12月16日(土)より有楽町スバル座他にて全国順次公開される大林宣彦監督最新作。あっと驚かせるような自由で、強度のある映像と、そこに込められた強い思い。そして、生の力強さをスクリーンいっぱいに体現する唐津くんち。大林監督がぶれずに訴え続けてきた魂をつかみ取ってほしい。
(江口由美)

『花筐/HANAGATAMI』
(2017年 日本 169分)
監督:大林宣彦
出演:窪塚俊介、長塚圭史、満島真之介、柄本時生、矢作穂香、門脇麦、山崎紘菜、常盤貴子、村田雄浩
2017年12月16日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
配給:新日本映画社
(C) 唐津映画製作委員会/PSC 2017
第30回東京国際映画祭は11月3日(金)までTOHOシネマズ六本木ヒルズ、EXシアター六本木他で開催中。
 
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《京都国際映画祭2017》

~映画もアートもその他もぜんぶ~

NON STYLE登壇!井上がノーベル賞詩人の逃亡劇に共感⁉
 

 『NO』『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』を手掛けたチリ出身のパブロ・ラライン監督が祖国の英雄、パブロ・ネルーダの半生を描いた『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』が、11月11日(土)より新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国ロードショーとなります。

この度、10月12日より開催中の京都国際映画祭2017にて特別招待作品として上映、NON STYLEのお二人が登壇するトークイベントが開催されました。


<イベント概要>

日時:10月13日(金) 10:00~場所:TOHOシネマズ二条
登壇者:NON STYLE 石田明、井上裕介  
司会:ロバータ


只今開催中の「京都国際映画祭2107」、2日目となる13日(金)に特別招待作品『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』が上映、上映前にNONSTYLE 石田明、井上裕介登壇のトークイベントが行われた。

MCロバータの呼び込みで盛大な拍手とともにNONSTYLEの石田明、井上裕介の二人が元気に登場!本作を見てお二人は詩が素敵、見ていて勉強になるので授業的な感じでも見られる、と映画を絶賛。

そして本イベントの登壇に抜擢された理由に関して、石田は、「司会のロバータさんはネルーダと名前が似てるからだよね。私、石田は大いなる愛、そして井上さんは逃亡者キャスティングですね。」と井上の昨年の井上の自動車事故に関して触れ、場を沸かせた。

また、本作の主人公ネルーダが政治家であり、ノーベル賞をも受賞した詩人であったことから、「日本でいうなら小泉純一郎や浜田幸一」とネルーダの多才さを讃えた。

SNSなどで愛の詩を投稿していた井上は、詩を学生時代から女性に送っていたそうだが、石田が「君は僕の単三電池です。だっけ?」と聞いたところ、井上は「バッテリーあんまり持たへんやんけ!」とNON STYLEお得意の井上イジリが炸裂。

喜劇もこなす主演のルイス・ニェッコをチリのビートたけしと多才さを例え、一方、執筆業もこなす石田に対して、自分の作品に主演してほしい人が誰か聞くと、真っ先に出た名前が、画になる男であるという理由で井上だった。それを聞いて井上は「ありがとうございます。吉本興業のキムタクです」とおどける。

サブタイトルの「大いなる愛の逃亡者」であることから、逃亡されたことはあるか、と井上に聞くと、電光石火の如く「なんやその質問!?」と昨年の事故のイジリに対して突っ込みを入れ、石田はネルーダにかけて「ニゲータ(逃げた)さん」と井上に対して愛称で呼び、会場は爆笑の渦に包まれた。井上は最後に事故のことを「気付かなかっただけなんです」と付け足して、イベントが終了となった。


neruda-main-550.jpg『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』

<STORY>
1948年、冷戦の影響はチリにも及び、上院議員で共産党員のパブロ・ネルーダ(ルイス・ニェッコ)の元にも共産党が非合法の扱いを受けるとの報告がきた。ネルーダは上院議会で政府を非難し、ビデラ大統領から弾劾されてしまう。大統領は警察官ペルショノー(ガエル・ガルシア・ベルナル)にネルーダの逮捕を命じ、ネルーダの危険な逃亡劇が始まる―。


監督:パブロ・ラライン『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』  
脚本:ギレルモ・カルデロン 
出演:ルイス・ニェッコ、メルセデス・モラーン、ガエル・ガルシア・ベルナル 他
原題:NERUDA
2016/チリ・アルゼンチン・フランス・スペイン/スペイン語/108分/カラー/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:石井美智子/字幕監修:野谷文昭 
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
 ⒸFabula, FunnyBalloons, AZ Films, Setembro Cine, WilliesMovies, A.I.E. Santiago de Chile, 2016  

公式サイト⇒ http://neruda-movie.jp/


2017年11月11日(土)~新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA 、
12月9日(土)~シネ・リーブル梅田、以降京都シネマにて順次ロードショー!


(オフィシャル・レポートより)

historica-pos.jpghistrica-9.27.jpg今年も魅せます!『第9回 京都ヒストリカ国際映画祭』


時代劇ファン待望の、世界で唯一の“歴史映画の祭典!”

 

今年も時代劇ファンのための《京都ヒストリカ国際映画祭》(京都文化博物館にて)の季節がやってきました。関西で開催される国際映画祭の中でも最も充実したラインナップを誇り、日本の名作を発信するとともに、世界中から集められた日本初上映の新作も紹介されます。

また、連携企画の人材育成プログラム〈京都フィルムメーカーズラボ〉も今年で9年目となり、世界各国から選抜された若手が京都の松竹や東映の撮影所で学んだ成果をこの映画祭で発表する〈カムバックサーモン・プロジェクト〉もあります。映画創成期から多くの時代劇が作られてきた映画の聖地・京都から羽ばたいた若手映画人の成長を目にすることができます。

 
historica-近松物語.jpg今年の目玉は、巨匠・溝口健二監督代表作『近松物語』の4Kデジタル復元版の日本初上映と、19世末にリュミエール社が世界中で撮影したフィルムの4Kデジタル復元版をドキュメンタリーとしてまとめた『リュミエール!』の関西初上映でしょう。

『近松物語』では、女優・香川京子氏をゲストに迎えてのトークショーが開催されます。また、『リュミエール!』では、その復元を行ったカンヌ国際映画祭総代表ティエリー・フレモー氏のスペシャルトークショーも予定されています。

 
個人的に嬉しいのは、今年も西部劇『レフティ・ブラウンのバラード』や、ハンガリー映画『キンチェム 奇跡の競走馬』ブルガリア映画『エネミーズ』などの日本初上映作品が観られることです。現段階では一般公開が未定の作品を観られる貴重な機会です。お見逃しなきように!!!

 


★公式サイト⇒ http://historica-kyoto.com/

★上映作品紹介⇒ http://historica-kyoto.com/films/

★スケジュール⇒ http://historica-kyoto.com/schedule/

★チケット⇒ http://historica-kyoto.com/ticket/



【ヒストリカ・スペシャル】

historica-リュミエール!.jpg鮮烈な再デビュー、世界のミゾグチと映画のはじまり!

日本映画=京都映画120年記念プログラム。
4Kデジタル技術で蘇った映像美に圧倒されながら、近松物語の革命的再構築の手腕に驚き、そして、仏・リュミエール兄弟の120年前の作品に、その後の映像表現がすでに内包していることに驚く、貴重なプログラム。


【ヒストリカ・ワールド】

歴史を舞台に作られた新作を世界から厳選!

世界の新作歴史映画から国境や文化を超えた物語パワーを持った映画を厳選。
民族・文化を謳うもの、現在では語れないメッセージを歴史に託したもの、モダンに語り直された伝統の物語。いずれも極上の歴史エンタメです。


【ヒストリカ・フォーカス】

ディスカバー加藤泰。世界映画史に憤怒と慈愛を刻む巨眼の人・加藤泰を再発見!

際立ったスタイルと原初の映画のような歓びに満ちたカッティング。
世界が再発見すべき加藤泰だけが持つ引力を様々な視点を持つゲストと提示します。
封建・任侠の中での愛を描いた傑作を全作英字幕付きで。


【ヒストリカ・ネクスト】

2017年の話題作!気鋭の監督たちの"新しい時代劇"への挑戦!

海外の映画祭で高い評価を受け、逆輸入で日本公開された異色の時代劇と、
時代劇専門チャンネル・日本映画専門チャンネルが三宅監督とタッグを組んで製作した意欲作を上映。
気鋭の監督たちが今までの時代劇にとらわれない制作スタイルで生み出した"新しい時代劇"を感じてください。


【特別招待作品】

historica-silk-500.jpg上海の映画シーンを代表するベテラン監督と、名作映画の原作を手がけるイタリア現代文学の重鎮をお招きします。
歴史映画の現在を感じていただける豪華なプログラムをお楽しみください。

『シルク』 SILK
『海の上のピアニスト』原作者小説を映画化仏と幕末日本で織りなされる愛の物語
http://historica-kyoto.com/films/s_screening/silk/

『上海キング』 Lord of Shanghai
上海王よ、永遠に 魔都・上海が憎しみの炎で燃え上がる。
http://historica-kyoto.com/films/s_screening/lord-of-shanghai/



★【『シルク』の原作者アレッサンドロ・バリッコ氏のスペシャルトーク開催】
 
 (
開催日:11月1日(水)14:30~映画『シルク』上映後、京都文化博物館にて)


『海の上のピアニスト』の原作者でもあるバリッコ氏は、音楽学者でもあり、小説家、脚本家、監督というマルチな才能を発揮するイタリアの著名な芸術家です。映画化へのプロセスや映画『シルク』についてお話を伺える大変貴重な機会となることでしょう。多くの方のご来場をお待ちしております。


〈アレッサンドロ・バリッコ〉
historica-baricco-240.jpg1958年トリノ生まれ。トリノ大学哲学科およびトリノ音楽院ピアノ科を卒業。音楽評論研究に従事し、1988年に2つの評論エッセイを発表。1991年、処女小説『怒りの城』を発表、カンピエッロ・セレツィオーネ賞(伊)とメディシス賞(仏)を受賞。1993年出版の『洋・海』はベストセラーとなり、27ヶ国語に翻訳された。

1994年、トリノにストーリーテリングとパフォーマンスアートの学校「スクオラ・ホールデン」を共同設立。同年、独演脚本『ノヴェチェント』を出版。同作品はG.ヴァチスにより舞台化、G.トルナトーレにより『海の上のピアニスト』として映画化された。また、1996年発表の小説『絹』は、F. ジラールにより『シルク』として映画化された。2008年、映画『レクチャー21』では脚本および監督を務めた。


(河田 真喜子)